大阪地方裁判所 平成10年(ワ)10951号 判決 1999年10月06日
原告
水本勝三
被告
瀧林泰範
主文
一 被告は、原告に対し、金六四四万一〇六二円及びこれに対する平成八年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二三〇〇万円及びこれに対する平成八年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、次の交通事故により損害を被った原告が、相手方運転手である被告に対し民法七〇九条に基づき損害賠償(内金請求)を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 (本件事故)
(一) 日時 平成八年五月二九日午後一〇時ころ
(二) 場所 大阪市住之江区西加賀屋一丁目一番五四号先路上
(三) 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(なにわ四五ち一五八六)
(四) 態様 道路を横断歩行中の原告に加害車両が衝突した。
2 (後遺障害)
原告には、自賠責保険の事前認定において、後遺障害等級一一級と認定された後遺障害が残った。
3 (損害填補)
自賠責保険金 一四四七万九八五三円
二 争点
1 責任・過失相殺
(原告)
被告は、本件事故につき、酒気帯び運転、交差点で赤信号を無視し、また、前方注視を怠り、安全を確認せず、漫然と加害車両を運転して原告に衝突したという過失があり、民法七〇九条に基づく責任がある。
(被告)
本件事故は、午後一〇時すぎ(雨天)、片側三車線の広い幹線道路(以下「本件道路」という。)上で生じた。
加害車両進行の本件道路(東西方向)の中央分離帯は、街路樹が植栽され、歩車道の区別がある。
原告は、道路沿いにあるパチンコ店から出て、被告の左手にある交差点の信号が南北方向赤であることを無視し、停車車両のある本件道路の横断を漫然と開始し、本件事故が生じた。
本件道路は横断禁止規制がなされている。
被告の酒気帯び運転を考慮しても、原告の過失は六五パーセントを下らない。
2 傷害
(一) 傷病名 第三ないし第九肋骨骨折、肺挫傷、血気胸、肝損傷、腹腔内出血、右腓骨骨折、半月板損傷
(二) 入通院状況
(1) 大阪府立病院
平成八年五月二九日から同年七月三〇日まで入院六三日間
(2) 医療法人景岳会南大阪病院
平成八年七月三一日から同年九月六日まで入院三八日間
平成八年九月七日から同年一一月四日まで通院(実通院日数三四日)
(3) 大阪府立病院
平成八年一一月五日から同月一四日まで入院一〇日間
(4) 南大阪病院
平成八年一一月一五日から平成九年五月六日まで通院(実通院日数一〇二日)
平成九年五月七日から同月二一日まで入院二一日間
平成九年五月二二日から同年八月一日(症状固定)まで通院(実通院日数三三日)
3 損害
(一) 人身損害 四二三九万三五四八円
(1) 治療費 三四六万四三四一円
(2) 入院雑費 一六万三八〇〇円
1300円×126日=16万3800円
(3) 通院交通費 七万五六一〇円
(4) 休業損害 九五七万〇四五三円
原告は、本件事故当時四七歳で、株式会社水本工作所に勤務しており、平成七年度の所得は八三一万七一八〇円であった。
本件事故による受傷の結果、勤務できなくなり、本件事故日から症状固定日までの四二〇日間全日欠勤し、その間会社からの給料は全く支払われていない。
831万7180円×420日/365日=957万0453円
(5) 傷害慰謝料 二八七万円
(6) 後遺障害慰謝料 三六〇万円
(7) 逸失利益 二二六四万九三四四円
831万7180円×0.2×13.616=2264万9344円
(二) 物損 一九万二〇〇〇円
(1) 時計 一二万円
(2) ブレザー 二万五〇〇〇円
(3) スラックス 一万八〇〇〇円
(4) ベルト 九〇〇〇円
(5) ポロシャツ 五〇〇〇円
(6) 靴 一万五〇〇〇円
(三) 弁護士費用 四〇〇万円
4 寄与度減額
本件における原告の入院は血圧コントロール目的である。
第三判断
一 争点1(責任・過失相殺)
証拠(甲三、四、一九、乙一ないし四、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
1 本件事故現場は、片側三車線で中央分離帯が設置され、歩車道の区別のある東西方向の道路(本件道路)(幹線道路)に南北方向の道路が交差する交差点(交差点の東西には横断歩道が設置されている。)の本件道路の交差点の西側約三二・五メートル付近であり、制限速度は時速五〇キロメートル、歩行者の横断は禁止されている。
2 本件事故当時、本件道路の南側歩道寄りには交差点付近から駐車車両が連なっていた。
3 被告は、加害車両を運転して、本件道路を東から西に向かい時速約五〇キロメートルで第二車線を走行し、交差点を通過した直後、前方約三二・三メートルの地点を南から北に横断歩行している原告を発見し、クラクションを鳴らし、それにより原告が立ち止まってくれたものと軽信し、速度を落とすことなくそのまま進行したところ、約二〇メートル進行した地点で前方約一一・七メートルに更に進行してきた原告をあらためて認識し、急制動の措置を講じたが間に合わず、原告に衝突した。
被告は、本件事故当時酒気帯び運転の状態(呼気一リットルにつきアルコール〇・三五ミリグラムを保有)であった。以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告には、本件事故につき、酒気帯び運転、前方注視義務違反の過失があるというべきであるから、民法七〇九条に基づく責任がある。
前記認定の事実によれば、原告にも横断歩道の付近において歩行者の横断が禁止されている本件道路を車両の動静に注意することなく横断した過失があるというべきであるから、前記諸事情を併せ考えると、原告の損害額からその五割を過失相殺するのが相当である。
二 争点2(傷害)
証拠(甲二、五ないし八、一一の1ないし5、一二の1ないし12、一三の1ないし15、乙七)により認められる。
三 争点3(損害)
1 人身損害
(一) 治療費 三四六万四三四一円
弁論の全趣旨により認められる。
(二) 入院雑費 一六万三八〇〇円
1300円×126日=16万3800円
(三) 通院交通費 七万五六一〇円
弁論の全趣旨により認められる。
(四) 休業損害 九五七万〇四五三円
証拠(甲一〇、一五、一七、一八、原告本人)によれば、原告(昭和二三年九月四日生)は、本件事故当時四七歳で、株式会社水本工務店に勤務しており、平成七年度の所得は八三一万七一八〇円であったこと、本件受傷の結果、本件事故日の翌日(平成八年五月三〇日)から症状固定日(平成九年八月一日)までの四二〇日間欠勤し、全く給与を得ていないことが認められる。
右によれば、原告の休業損害は、次のとおり九五七万〇四五三円となる。
831万7180円×420日/365日=957万0453円
(五) 傷害慰謝料 二〇〇万円
原告の傷害の部位、程度及び入通院状況からすれば、傷害慰謝料は二〇〇万円と認めるのが相当である。
(六) 後遺障害慰謝料 三六〇万円
原告の後遺障害の程度からすれば、後遺障害慰謝料は三六〇万円と認めるのが相当である。
(七) 逸失利益 二一八一万七六二六円
原告は、症状固定当時満四八歳であるから、就労可能年数一九年、労働能力喪失率二〇パーセントとして、ホフマン式計算法により、逸失利益を算定すると、次の計算式のとおり二一八一万七六二六円となる。
831万7180円×0.2×13.116=2181万7626円
2 以上合計四〇六九万一八三〇円
3 右について五割の過失相殺をすると、二〇三四万五九一五円となり、これから支払済みの自賠責保険金一四四七万九八五三円を控除すると、五八六万六〇六二円となる。
4 物損 二万五〇〇〇円
本件事故による物損については、これを的確に証明する証拠はないが、原告の着衣等からして、その損害額は五万円と認めるのが相当である。
右について五割の過失相殺をすると、二万五〇〇〇円となる。
5 以上合計五八九万一〇六二円
6 弁護士費用 五五万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は五五万円と認めるのが相当である。
7 以上合計六四四万一〇六二円
四 争点4(寄与度減額)
原告には、狭心症、高血圧、肝機能障害の既往症が認められるところではあるが、これにより、本件事故による受傷、治療に影響を及ぼしたことを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は採用しない。
(裁判官 吉波佳希)