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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)11674号 判決

原告 有限会社川原商店

右代表者代表取締役 川原茂

右訴訟代理人弁護士 薄木昌信

右補佐人弁理士 倉内義朗

被告 有限会社大西化成商事

右代表者代表取締役 米田登志美

右訴訟代理人弁護士 本渡諒一

同 木島喜一

右補佐人弁理士 清水久義

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙被告製品目録記載の包装用かごを製造、販売してはならない。

二  被告は、前項記載の包装用かご及びその半製品を廃棄し、その製造用金型を除去せよ。

三  被告は、原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。なお、以下、書証の掲記は甲1などと略称し、枝番号のすべてを含む場合はその記載を省略する。)

1  原告の意匠権

(一) 原告は、次の意匠権を有している(以下、この意匠権を「本件意匠権」、この意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠」という。)。

出願日     平成二年五月一四日(意願平二-一六一九〇)

登録日     平成六年八月二五日

登録番号    第九一三〇八六号

意匠に係る物品 包装用かご

登録意匠の内容 別添意匠公報のとおり

(二) 本件登録意匠の構成は、別紙「本件登録意匠の構成」記載のとおりである。

2  被告製品の製造、販売

被告は、別紙被告製品目録記載の包装用かごを製造、販売している(以下、右製品を「被告製品」といい、被告製品に係る意匠を「被告意匠」という。その現物が検甲1である。)。

3  本件登録意匠と被告意匠の異同点

本件登録意匠と被告意匠とを比較すると、別紙「本件登録意匠と被告意匠の構成の対照」の「被告意匠の構成」欄に「同左」とある構成において共通しており、その余の構成において相違している。

二  原告の請求

本件は、被告意匠は本件登録意匠に類似するから、被告製品を製造、販売することは本件意匠権を侵害するとして、原告が被告に対し、<1>意匠法三七条一項に基づき右行為の差止め、<2>同条二項に基づき被告製品等の廃棄、<3>意匠権侵害に基づく損害賠償を請求した事案である(なお、実用新案権侵害を理由とする請求に係る訴えは、取下げで終了した。)。

三  争点

1  被告意匠は本件登録意匠に類似するか。

2  被告は先使用による通常実施権を有するか。

3  損害額及び時効

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(本件登録意匠と被告意匠の類似性)について

【原告の主張】

1 本件登録意匠の包装用かごは、鍔部などの外周形状が直線的でシャープな印象を与える四個の単位かごを、全体形状がすっきりと軽く田字形に連結している。このように、四個の単位かごを連結した包装用かごのすっきり感、軽量感が、被告が指摘する公知意匠と異なる本件登録意匠の特徴である。そして、被告意匠も本件登録意匠のこの特徴を具備している。

2 他方、本件登録意匠と被告意匠との相違点はわずかなものにすぎない。

(一) 構成B(2) とb(2) の底板の網目の形状の相違については、共に底板に四角形状の小孔を多数形成したもので、網目としては同じ形状である。

(二) 構成E(5) とe(5) の補強リブ41等が形成されている位置(底面の裏面のみか表面もか)の相違については、本件登録意匠においても、正面図と背面図のいずれからでもこの補強リブ41等は見えているから、この相違点は全体の美感に影響を及ぼすものではない。

(三) 構成Fとfの包装用かご中央部のリブの形状の相違については、この部分は包装用かご全体から見れば小さな部分で、しかも、被告意匠においても、四方に放射するリブの長さがすべて同じであることから円状に配設されているような印象を与える。したがって、この相違点は全体の美感に影響を及ぼすものではない。

(四) 構成Jとjの連結部の形状の相違については、被告意匠における連結部は正面や背面からはほとんど見えない部位であり、単位かご間の空隙も小さい隙間であってほとんど視認することはできない。両意匠間における連結部を切断する手段が異なるのは被告主張のとおりであるとしても、連結部の形状が物品の形状の中に埋没して見えない状態であるから、この相違点は全体の美感に影響を及ぼすものではない。

(五) その他の相違点も、いずれも全体観察の中では些細なものであり、全体の美感に影響を及ぼすものではない。

3 したがって、被告意匠は本件登録意匠と類似する。

【被告の主張】

1 意匠の類否は、全体観察を前提とするが、全体は個々の要素からなり、その個々の要素が公知の部分意匠と同一であれば、全体意匠としても同一の意匠となる。そして、新しい意匠というものは、公知の意匠を基礎とし、その上に何らかの新規な創作を加えたものであり、この新規な創作部分が従前の意匠と区別させる。この意味において、新規な創作部分があることによって意匠登録をされたときは、この新規な創作部分は当該意匠の要部となり、他との類否を判断するときの基準となると解すべきである。

本件登録意匠の出願前の公知意匠としては、乙1(登録第三五一二一三号の意匠公報)、乙2(登録第四〇七五七八号の意匠公報)、乙3(登録第四〇七五七八号の類似1の意匠公報)、乙4(実開昭五八-一三六四二八号公開実用新案公報)、乙5の1(登録第六四七三四四号の意匠公報)、乙6の1(登録第六九四三七七号の意匠公報)が存在した。これらと比較して本件登録意匠を検討すると、本件登録意匠の構成はすべて公知の意匠に存在し、そこには何らの創作性もないが、本件意匠が登録されていることを尊重して、何らかの新規な創作部分を探すと、包装用かご1の中央部が、前記四個のコーナーリブ21が略円形を形成するようになっている点(構成F)がそれに当たり、これが本件登録意匠の要部となると解すべきである。

2 被告意匠と本件登録意匠を比較すると、次のような相違点が存する。

(一) 構成B(2) とb(2) の底板の網目の形状の相違については、容器の底部を、湯通しをよくするために網目形状にすることは慣用のことであるが、この網目形状をどのように形成するかは、湯通しの効率という機能的側面から重要であり、またそれゆえに機能美を異にするというべきであり、本件登録意匠の底板形状と被告製品の底板形状は全く異なっている。

(二) 構成E(5) とe(5) の補強リブ41等が形成されている位置(底面の裏面のみか表面もか)の相違については、補強リブ41等は底板の強さを補強するために設けられるが、本件登録意匠では裏面だけに補強リブが設けられているのに対して、被告意匠では表面と裏面の二面に補強リブが設けられているので両者の美感は異なる。

(三) 構成Fとfの包装用かご中央部のリブの形状の相違については、単位容器におけるコーナーリブは、単位容器を重ねるときに、上の容器が下の容器にすっぽりと嵌まりこまないようにするために設けるものであるから、コーナーリブの審美性は機能的審美性であるというべきところ、本件登録意匠と被告意匠とは、単位かごを田字形に連結した包装用かごの中央部の形状が円形状リブを配設したか、放射状リブを配設したかの構成において全く異なる形状を有しており、これらの形状はそれぞれ創作性が必要とされ、意匠の要部というべきであるから、本件登録意匠と被告意匠とでは意匠の要部において大きな相違がある。

(四) 構成Jとjの連結部の形状の相違については、当業者にとって、連結部は各単位かごを分離するにつき重要な部分である。すなわち、本件登録意匠では各単位かごの分離にハサミやナイフを用いるが、被告製品ではハサミやナイフは不要で手で簡単に分離できる。したがって、その形状は需要者が最も関心をもつ部分であり、商品の異同を見分ける部分でもあるところ、本件登録意匠における単位かご同士の連結は、鍔部の全長にわたり横方向の薄板によって連結されていて、単位かご同士の間には空隙がないのに対し、被告意匠における単位かご同士の連結は、両単位容器の連結側鍔部裏面で単位容器の側壁外側に、括れ部と割り口を有する板体を縦方向に(上下方向に)連続させて、側壁同士が複数のリブで連接している外観を与えており、本件登録意匠と被告意匠とは全く異なっている。

(五) 構成KとkのL字状脚の有無については、全体形状としての異同を区分する要素の一つでもある。

(六) 構成1の位置ずれ防止リブの有無については、位置ずれ防止リブはその機能的審美性を現すものであるから、位置ずれ防止リブの有無は、本件登録意匠と被告意匠が異なるとするところの一つの要素である。

3 以上述べたとおり、本件登録意匠と被告意匠は重要な部分において大きな相違があるので、被告意匠は本件登録意匠と類似しない。

二  争点2(先使用)について

【被告の主張】

1 いかなごを茹で、かつそれを搬送し、陳列する容器としてプラスチック製の容器(包装用かご)が市場に出回るようになったのは、昭和五〇年以前からであるが、昭和五七年以前は、一枚の単位かごから構成されているもの(一枚物)が主流であった。

被告は、従前から一枚物の包装用かごを製造、販売していたが、昭和六二年に三枚物と四枚物の製造、販売を企画し、金型製造業者である株式会社とおる化成に三枚物及び四枚物製造用の金型を製造させた上、別紙被告旧製品目録記載の四枚物の包装用かご(以下「被告旧製品」といい、これに係る意匠を「被告旧意匠」という。)については、岡田製作所及び三進化学工業株式会社に製造させて、昭和六三年一月ころから、被告の商品として淡路島を初めとする各地の業者に販売した。その後、被告は、岡田製作所及び三進化学工業株式会社との製造下請契約を解消し、平成元年一〇月からは、旧商品のすべてを自ら製造することになった。

ところで、被告の取締役である米田武雄は、平成三年一一月二九日、原告から、当時被告が製造、販売していた三枚物の包装用かごを右米田が製造、販売しているとの前提の下に、その行為が原告の有する実用新案権(登録第一七九一〇三六号)を侵害するとして、その差止めを求める訴訟を提起された。被告は、右訴訟における原告の主張が理由のないものであることは十分に分かっていたが、原告が被告の得意先に対して、被告が実用新案権を侵害している旨を吹聴すれば、営業に差支えると考えて、平成四年ころに三枚物及び四枚物(被告旧製品)の連結部の薄膜を左右二か所に部分的に設けるように改造した(検乙3)。

さらに平成五年に、右の米田武雄らが実用新案登録第二五七七八六五号の考案(甲3の5)を創作したことから、被告は、被告旧製品(連結部を一部改良したもの)の連結部を、現在の被告製品の形状に変更するとともに、また、被告旧製品にあったL字状脚を取り除いた。これが現在の被告製品である。そして、被告は、現在の被告製品を、平成六年から本格的に販売した。

2 このように被告は、本件登録意匠の出願前から、被告旧製品及びその一部改造品を製造、販売していたのであり、現在の被告製品は、それらの商品につき被告が本件意匠権に対して有していた先使用権の範囲の中で変更した商品であるので、被告は、被告製品に関しても、本件意匠権に対して先使用権を有している。

【原告の主張】

1 被告主張の事実は不知。むしろ、被告の米田武雄らが平成五年五月一七日に実用新案登録出願した考案(後に第二五七七八六五号として登録された。)の願書に添付した明細書に記載された実施例の図面においては、四枚物のコーナーリブは三角状になっており、その中央部分のリブは四角状になっている。一般に、重要な技術の出願を行うときには、不都合のあることがわかっている図面や実施もしない図面を記載したりしないから、右からすれば、被告は、右出願の時点において、四枚物容器の中央部に放射状の縦リブを有する容器を製造、販売していなかったというべきである。

2 現在の被告製品は、被告が主張する被告旧製品及びその一部改造品とは、特にその連結部において使用形態と機能及び目的性が異なっているから、仮に被告が、被告旧製品を本件登録意匠の出願前に製造、販売していたとしても、それによる先使用権の効力は、現在の被告製品には及ばない。

3 したがって、被告の先使用の主張は失当である。

三  争点3(損害及び時効)について

【原告の主張】

1 被告は、本件意匠権の登録日である平成六年八月二五日から平成一〇年度のシーズンまでの間に、被告製品を少なくとも年間一五〇万枚製造、販売し、それにより少なくとも合計三〇〇〇万円の利益を受けたから、これが原告が被った損害の額と推定される。

2 被告の時効の主張は争う。

【被告の主張】

1 原告の損害額の主張は争う。

2 原告は、平成七年一月の時点では、被告が被告製品を製造、販売していることを知っていたから、本訴提起よりも三年以上前である平成七年一月一日から同年四月一七日までの被告製品の製造、販売による原告の損害については消滅時効が完成しており、原告はそれを援用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(本件登録意匠と被告意匠の類似性)について

1  本件登録意匠と被告意匠の異同について

前記のとおり、本件登録意匠と被告意匠の構成とは、別紙「本件登録意匠及び被告意匠の構成の対照」において「同左」と記した部分において共通し、その余の部分において相違していると認められる。

2  本件登録意匠の要部について

(一) 甲1の2によれば、本件登録意匠の意匠登録出願の願書には、説明として、「本物品は、小魚を入れる合成樹脂材製の包装用かごに関する。正面図において横寸法約三七〇mm、たて寸法二三〇mm、深さ三〇mmである。」との記載があることが認められ、右事実と弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠に係る包装用かごは、いかなご等の小魚を各単位かごに入れて、そのまま茹で、輸送し、陳列するための容器として使用されるものであり、店頭での陳列に際しては連結した単位かごを分離して使用するものであると認められる。

このような包装用かごの使用方法と大きさに照らすと、需要者たる小魚取扱業者は、本件登録意匠に係る包装用かごを観察する場合、通常、斜め上方から全体が視野に収まる程度の距離をおいて観察することになると考えられる。そして、そのように観察した場合に外観上目立つ部分は、第一にその基本形状、すなわち、包装用かご1は、4枚の単位かご2を上から見て横長の田字形に連結したものであり(構成A)、各単位かご2は、多数の小さな通水孔3を網目状に形成した底板4を有し、この底板4の周囲に立ち上げた側壁5を設けた上面開口の容器であって(構成B(1) )、単位かご2を上、下から見ると、いずれも隅丸長方形であり(構成C)、単位かご2は開口部から底部にかけて漸次下すぼまりになっており(構成D)、単位かご2の上端には、外方向に折り返した鍔部24が形成されている(構成I)点にあると認められる。また、前記のような角度と距離から本件登録意匠を観察した場合、単位かご2の四隅には、その上端からやや下がった位置にほぼ四分の一円形状のコーナーリブ21が設けられており、包装用かご1の中央部は、前記コーナーリブ21の四個が略円形状を形成するようになっている点(構成F)も、その幾何学的な模様が外観上目立つものと認められる。

この点について原告は、右構成Fは包装用かご全体から見れば小さな部分であると主張する。確かに右部分は決して大きい部位であるとはいえないが、正面図を見ると、右部分は、網目模様の底部を有する略長方形の同形の単位かごが四個連結されている中で形態上のアクセントとなって強い印象を与えるものと認められるから、原告の右主張は採用できない。

(二) 次に、本件登録意匠の出願前に公知であった包装用かごの意匠について検討する。

(1)  乙(1) ないし6(これらはいずれも本件登録意匠の出願前に日本国内で頒布された刊行物であることが明らかである。)に示された公知意匠について

ア 乙4は「樹脂製連結容器」の考案に係る公開実用新案公報(実開昭五八-一三六四二八号)であるが、そこには、多数の小さな通水孔を網目状に形成した底板を有し、この底板の周囲に立ち上げた側壁を設けた上面開口の隅丸長方形状の各単位かごを四個田字形に連結した包装用かごが開示されているが、各単位かご2の側壁は、開口部から底部にかけて下すぼまりにならずに垂直に下ろされ、単位かご2の上端には外方向に折り返した鍔部が形成されていない上、各単位かごのコーナーリブも、四個を連結した状態で端の角を構成する部分にのみ内側に向けた縦板状リブが合計四枚設けられているにすぎない。

イ 乙5の1は「運搬用かご」に係る意匠(登録番号第六四七三四四号)についての意匠公報であり、乙5の2は右意匠権についての出願書類であるが、そこでは、多数の小さな通水孔を網目状に形成した底板を有し、この底板の周囲に立ち上げた側壁を設けた上面開口の隅丸長方形状の各単位かごを四個田字形に連結した包装用かごが開示されており、しかも各単位かごは、開口部から底部にかけて漸次した下すぼまりになり、単位かご2の上端には外方向に折り返した鍔様の部位が形成されている。しかし、右鍔様の部位は、四個の単位かごを連結したときに田字の外縁を構成する部分にしか設けられておらず、そのために、田字の外縁の口状部分のみが内部に比べて一段高くなっている。また、各単位かごのコーナー部には、リブが設けられていない。

ウ 乙6の1は「運搬用かご」に係る意匠(登録番号第六九四三七七号)についての意匠公報であり、乙6の2は右意匠権についての出願書類であるところ、そこでは、前記本件登録意匠の単位かごの基本形状(前記構成B(1) 、C、D及びI)を具備した単位かごを二枚連結した包装用かご(運搬用かご)の意匠が開示されているが、各単位かごにはコーナーリブは設けられていない。

エ 右の乙4及び乙5の1に示された包装用かごの公知意匠を見ると、前記本件登録意匠の外観上目立つ部分の一つである基本形状のうち、鍔部を除いては既にこれらの意匠に示されていたものと認められる。そして、鍔部を含めた本件登録意匠における各単位かごの基本形状をすべて備えた単位かごは既に乙6の1に開示されていたことを併せ考えると、乙6の1と本件登録意匠とでは、単位かごの連結個数が異なるものの、本件登録意匠の前記基本形状に公知意匠と異なる特徴があるということはできない。したがって、この点に本件登録意匠の特徴があるとする原告の主張は採用できない。

他方、前記本件登録意匠の外観上目立つ部分である単位かごのコーナーリブの形状については、単位かごを四個連結させた乙4及び5の1はもとより、乙1ないし3及び6のいずれにおいても具備するものがない。

(2)  被告旧製品について

ア 被告は、現在の被告製品と連結部及びL字状脚の形状のみが異なる被告旧製品を昭和六三年ころから製造、販売したと主張するので、この点について検討する。

イ 証拠(後掲各書証、証人米田武雄)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア) 被告は、昭和六二年ころは二枚物及び三枚物のいかなご用容器(包装用かご)を販売していたが(乙17、22、32、43、44)、昭和六二年八月ころに四枚物の金型を株式会社とおる化成に製造させた上(乙11)、同年一一月ころ以降、少なくとも三進化学工業株式会社に商品を製造させて(乙13)、昭和六三年一月ころから販売するようになった(乙17ないし47)。(なお、乙12及び49には、四枚物の金型と三枚物の金型を株式会社とおる化成が製造したのは同じ時期であるかのような記載があるが、前記証拠に照らせば、三枚物の製造、発売の方が時期が早いと認められる。)

(イ) 原告外一名は、平成三年一一月二九日、神戸地方裁判所に対し、大西化成こと米田武雄外四名に対して、原告らが有する実用新案権(登録番号第一七九一〇三六号)に基づいて、右米田らが製造、販売するとする小魚用容器の製造、販売等の差止め等を求める訴えを提起したが、その訴状の中で、原告は、右米田は昭和六一年ころから右訴状添付の物件目録(二)記載の三枚物の容器(包装用かご)を販売していると主張した(乙9)。右訴状添付の物件目録に記載された包装用かごは、コーナーリブが四分の一円状である点を含めて現在の被告製品とほぼ同様の単位かご(ただしL字状脚があるなど若干の点で異なる。)を三個、本件登録意匠と同様に薄板で連結したものである。そして、これに対して右米田は、右事件の答弁書において、右米田は個人としては右物件を製造、販売したことはないと答弁した(乙51)。

ウ 右イで認定した事実からすれば、原告らが同(イ)の訴訟において差止めの対象とした三枚物の包装用かごは、右米田個人ではなく被告が製造、販売していたものであり、同(ア)において被告が昭和六二年ころに販売していたものと同一物であると推認するのが合理的である。そして、そのような三枚物の包装用かごを製造、販売していた被告が、新たに四枚物の包装用かごを開発するに当たっては、特段の不都合がない限り、三枚物の包装用かごにおいて使用したのと同様の形状の単位かごを採用して連結するのが自然であると考えられる。

そして、この点について被告の取締役である証人米田武雄は、四枚物の包装用かごを開発するに当たっては、包装用かごの中央部のコーナーリブのみを現在の被告製品のように放射状の縦板状リブとしたとし、その理由として、先に販売していた三枚物の包装用かごに対して、需要者から、他の容器からいかなご等の小魚を移す際に特に中央の単位かごの四分の一円状のコーナーリブの部分に小魚が入って、包装用かごを積み重ねた際に小魚が潰れて汚くなるので、四枚物を作るときにはその問題点を是正するよう求められていたことから、最も小魚が入りやすく、かつ強度上の問題の少ない中央部分のみを放射状の縦板状リブに変更したと証言しており、この証言は具体的かつ合理的であって、信用することができる。

以上を踏まえると、被告が昭和六三年から販売をした四枚物の包装用かご(被告旧製品)の形状に関する乙12、15、48、49の記載及び証人米田武雄の証言はこれを信用することができ、被告旧製品の形状は、別紙被告旧製品目録記載の形状のものであったと認められる。

エ この点について原告は、被告の取締役である証人米田武雄らが平成五年五月一七日にした実用新案登録出願の願書に添付した明細書(その公開実用新案公報が甲3の1)の図8では、各単位かごのコーナーリブはすべてコーナーと合わせて三角形を形成するものが記載されているから、右時点での被告の製造、販売に係る四枚物の包装用かごのコーナーリブは三角形状であったはずであると主張する。

しかし、実用新案登録出願の願書に添付する明細書中の図面の記載は、実施例をよく説明するために記載されるものであるから、その記載から直ちに当時被告が実際に製造、販売していた製品の形状を特定することはできない。また、証人米田武雄の証言によれば、被告は昭和六二年ころから製造、販売していた三枚物の包装用かごはコーナーリブが四分の一円形状のものであったが、その形状のものは成型上、不良品ができやすいために、平成四年ころに新たに金型を製造する際にコーナーリブを三角形状に変更したというのであるから、四枚物の包装用かごにおいて、平成五年当時は三角形状であったコーナーリブを、その後に現在の被告製品のように四分の一円形状に変更するというのは考え難いところである。したがって、原告の右主張は採用できない。

オ 以上によれば、本件登録意匠の出願前に、被告旧製品の意匠が公然知られていたと認められるところ、本件登録意匠と被告旧製品の意匠とを対比すると、被告旧製品の意匠の基本形状は、前記本件登録意匠の基本形状と同一であり、また、各単位かごのコーナーリブ形状も、中央部が放射状の縦板状リブとなっている以外は同一である。

(3)  以上認定のような本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物(乙1ないし6)に記載された意匠及び公然知られた意匠(被告旧製品の意匠)を参酌すると、前記(一)で認定した本件登録意匠の外観上目立つ部分のうち、単位かごのコーナーリブの形状、特に各単位かごの四隅がすべて四分の一円形状に形成されており、単位かごを四枚連結した状態の中央部分が、各コーナーリブ四個によって略円形状を形成している点(構成F(2) )が、公知意匠とは異なる新規な形状であって、看者の注意を惹く意匠の要部に当たるものと認めるのが相当である。

3  本件登録意匠と被告意匠との類否について

(一) 以上を前提に本件登録意匠と被告意匠との類否を検討すると、両者はいずれも、全体形状が四枚の単位かご2を上から見て横長の田字形に連結した包装用かご1である点、(構成Aとa)、各単位かご2の基本形状が、<1>多数の小さな通水孔3を網目状に形成した底板4を有し、この底板4の周囲に立ち上げた側壁5を設けた上面開口の容器であり(構成B(1) とb(1) )、<2>上、下から見ると、いずれも隅丸長方形であり(構成Cとc)、<3>開口部から底部にかけて漸次下すぼまりになっており、包装用かご1及び単位かご2を積み重ねることができ(構成Dとd)、<4>単位かご2の上端には、外方向に折り返した鍔部24が形成されており、鍔部24の垂れ壁27は単位かご2の高さの約6ないし7分の1くらいで短い(構成Iとi)という基本形状の点で共通しているが、前記のとおり、これらの形状は、本件登録意匠固有の特徴部分ではないから、この点が類似しているからといって、本件登録意匠と被告意匠とが類似しているとはいえない。

また、本件登録意匠と被告意匠との間には、その他の共通点(E(1) ないし(3) とe(1) ないし(3) 、Gとg、Hとh)も存するが、いずれも乙5、乙6及び被告旧製品の単位かごに見られるものと大差のないありふれた形状であるから、この点が類似しているからといって、本件登録意匠と被告意匠とが類似しているとはいえない。

(二) 他方、本件登録意匠と被告意匠は、包装かご1の中央部のコーナーリブの形状を異にしており(F(2) とf(2) )、この点は前記のとおり、本件登録意匠の外観上目立つ部分であって、しかも公知意匠には見られない特徴的部分における相違であり、相違の程度も、本件登録意匠では中央部が全体として円形状を形成しているのに対し、被告意匠では中央部が全体として×状を形成しているというように大きく異なっているから、この相違が全体の美感の相違に与える影響は無視し得ないというべきである(なお本件登録意匠と被告意匠との間には他にも種々の相違点があるが、いずれも目立たない小さな部分であり、意匠全体の美感という観点から見た場合には、その相違による影響はわずかなものというべきである。)。

(三) これらの検討からすれば、本件登録意匠と被告意匠との間には、その基本的な形状を含めて共通点が多々存するものの、相違点の印象が共通点の印象を凌駕し、意匠全体としては視覚的印象を異にするというべきであるから、被告意匠は本件登録意匠と類似するとはいえない。

二  争点2(先使用)について

前記1で判示したところからすれば、原告の請求はその余の争点の判断に進むまでもなく、いずれも理由がないことに帰するが、念のために被告の先使用の主張についても判断することにする。

1  前記認定のとおり、被告は、昭和六三年ころから被告旧製品を製造、販売したと認められるが、証人米田武雄の証言によれば、被告は、前記神戸地裁の事件が提起された後に、被告旧製品の連結部の形状を、隣接する単位かごの接辺のほぼ全長にわたって薄板が設けられていたものから、右接辺の二か所のみを薄膜で連結する形状に変更した(その現物が検乙3である。)と認められ、さらに、その後、平成五年ころに、証人米田武雄らが出願した前記考案(甲3の5)を開発したことに対応して、連結部をそれに応じた形状のものに変更するとともに、L字状脚を、ラップを巻く際に引っかかって破れる等の苦情が需要者からなされたことから取り払う変更を行い、これによって現在の被告製品となったことが認められる。

2  このように被告が製造、販売していた四枚物の包装用かごは、本件登録意匠の出願前の被告旧製品から、出願後に連結部の改造がなされ、さらに現在の被告製品へと形状が変更されていることから、原告は、仮に被告旧製品の意匠については被告に先使用権が成立するとしても、被告旧製品と現在の被告製品とでは形状が変更されているから、現在の被告製品には先使用権の効力は及ばないと主張する。

そこで検討するに、意匠法二九条は、「意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、…意匠登録出願の際…現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者」は、「その実施…をしている意匠…の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」と規定するが、ここにいう「実施をしている意匠の範囲」とは、登録意匠の意匠登録出願の際に先使用権者が現に日本国内において実施をしていた具体的意匠に限定されるものではなく、その具体的意匠に類似する意匠も含むものであり、したがって、先使用権の効力は、意匠登録出願の際に先使用権者が現に実施をしていた具体的意匠だけではなく、それに類似する意匠にも及ぶと解するのが相当である。なぜなら、意匠の創作的価値は、当該具体的意匠のみならずそれと類似する意匠にも及び、意匠権者は登録意匠のみならずそれと類似する意匠も実施をする権利を専有する(意匠法二三条)という制度の下において、先使用権制度の趣旨が、主として意匠権者と先使用権者との公平を図ることにあることに照らせば、意匠登録出願の際に先使用権者が現に実施をしていた具体的意匠以外に変更することを一切認めないのは、先使用権者にとって酷であって、相当ではないからである。

ところで、被告が本件登録意匠の出願当時に実施していた被告旧製品と現在の被告製品の各意匠については、前記のとおり、連結部の形状とL字状脚の有無の二点において相違がある。このうちまず、連結部の形状の相違は、各連結容器を分離する機能の面からすれば、カッターが必要か否かという相違があるから、重要な構造であるとはいえるものの、意匠全体の美感という観点からすれば、包装用かごを手にとって斜め上方から観察した場合でも、ほとんど視界に入らないものであって、意匠全体の美感に影響を及ぼすものとはいえない(そしてこの点は、原告自身も、本件登録意匠と被告意匠との類否の争点において主張するところである。)。また、L字状脚も、包装用かごの底部の四隅に設けられた小さな突片にすぎないから、その有無が意匠全体の美感に影響を及ぼすものとはいえない。

したがって、現在の被告製品の意匠は、被告旧製品の意匠の類似範囲に属するというべきであるから、被告は、被告意匠について、先使用権を有するというべきである。

第五結論

以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)

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