大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13883号 判決 1999年2月25日
大阪府和泉市太町四七-一一
原告
井上博之
金沢市玉川町一番五号
被告
三谷産業株式会社
右代表者代表取締役
三谷充
右訴訟代理人弁護士
中山博之
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金五〇万円を支払え。
第二 事案の概要等
一 事案の概要
本件は、要旨「地球環境の保護のために名刺等の余白部分や裏面、インターネット上のホームページに地球環境の保護に関する文言を入れる」ことについて記述した言語の著作物について著作権を有すると主張する原告が、インターネット上のホームページ・アドレスを記載した名刺をデザインした新聞広告を掲載した被告に対し、損害賠償を請求している事案である。
二 事実関係(証拠が掲記されているもの以外は争いがない。)
1 原告の著作物(甲7、甲8、甲13及び弁論の全趣旨)
(一) 原告は、以下の論文ないし言語の著作物について著作者として、その第一公表年月日について文化庁に登録している。
(1) 著作物の題号 裏広告、広告付き製品名、製品名広告及び美観を損なう事のない広告
表示番号 第一五四九五号の一
(2) 著作物の題号 環境広告、封筒広告、地球封筒、環境封筒、寄付対象名封筒
表示番号 第一五五一七号の一
(3) 著作物の題号 環境広告、地球名刺、地球伝票、地球封筒、地球葉書(2)
表示番号 第一五五二六号の一
(二) 右各論文ないし言語の著作物の内容の要旨は、地球環境の保護のために、名刺、封筒等にインターネット上のホームページ・アドレス等を掲載する場合には、その余白部分や裏面に「地球の図形」や「地球を守ろう」「地球の温暖化を防ごう」などの文言を記載し、資源は有限であることや、紙のリサイクルを促進することについて意識付けをしようとの提唱であり、その記載内容やホームページの内容に応じて段階を設け、著作権使用料及び地球環境保護基金を徴収するという趣旨のものである。
2 被告は、平成一〇年七月二六日付日本経済新聞に、インターネット上のホームページ・アドレスが記載された名刺三枚を拡大したデザインの広告を掲載した。
二 当事者の主張
1 原告の主張の要旨
原告は、被告が右一2のとおり、広告の名刺部分にインターネット上のホームページ・アドレスを掲載し、余白部分に何らの地球環境を保護する文言を記載しなかったことにより、原告の有する右一1記載の各著作物の著作権が侵害された。
被告の右行為により原告の各著作権の信頼がなくなり、フランチャイズ店募集が中止となったため、金一〇〇万円の損害を被った。
よって、原告は、被告に対し、原告が被った損害のうち金五〇万円の損害賠償を求める。
2 被告の主張
名刺とは、その使用者が自己の身分等を明らかにするために関係者に無料に配布するものであって、「思想又は感情を創作的に表現」するものとは認められないから、原告主張の「地球名刺」なるものはそもそも著作物に該当しない。また、「www」とは、一般のホームページのWebアドレスに冠せられる記号であって、万人にその使用が認められる性質のものであるから、著作権の対象とならない。
被告の新聞広告により、原告が損害を被ったとの主張は争う。
第三 当裁判所の判断
一 原告の主張は、被告が新聞広告に掲載した名刺のデザイン部分にインターネット上のホームページ・アドレスが記載され、かつ、その名刺の余白部分に何ら地球の環境を保護するための文言が記載されていないことをもって、前記第二1(一)に記載した各著作物についての原告の著作権を侵害したとするものであると解される。
そこで検討するに、甲第一号証によれば、被告が新聞広告に記載した表記は、「URL:http://www.mitani.co.jp/」であると認められるところ、右表記は、インターネットのWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)サーバー上で情報を発信するために開設したホームページを、閲覧用ソフトであるWWWブラウザーを使って閲覧するために必要な画面の識別標識であるホームページ・アドレスを示したものであることは、その記載の態様から明らかであり、右表記のうち、「URL:http://www.」及び「co.jp/」の各部分は、右ホームページ・アドレスを表記する際に用いられる共通の符号の一つであることは公知の事実である。また、右表記のうち、識別標識としての機能を果たす「mitani.」の部分が、被告の社名の一部をローマ字表記したものであることは、記載上明らかである。
そうすると、右の各表記が一体となった「URL:http://www.mitani.co.jp/」との記載は、共通の符号に識別標識たる社名のローマ字表記を付加したものであって、著作物の要件である創作性が認められる余地はなく、また、右のホームページ・アドレスを表記するためには他の表現手段が無いことは明らかであるから、右の表記が他人の著作権を侵害することはあり得ない。
二 なお、付言すれば、言語の著作物については、著作者は、著作者人格権を有するほか、著作権として複製権、上演権、公衆送信権、口述権、貸与権、翻訳権、翻案権などを専有するが、他人の行為が当該言語の著作物に記載されている趣旨、主張等を実践していないことのみをもって、当該著作権を侵害するものということができないのはいうまでもない。
三 よって、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないから、
主文のとおり判決する。
(平成一一年一月二八日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)