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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)1400号 判決 1999年2月08日

原告

小山清美

右訴訟代理人弁護士

真砂泰三

岩倉良宣

真砂泰三訴訟復代理人弁護士

中川由章

被告

住友生命保険相互会社

右代表者代表取締役

吉田紘一

右訴訟代理人弁護士

川木一正

松村和宜

長野元貞

被告

セゾン生命保険株式会社

右代表者代表取締役

竹内敏雄

右訴訟代理人弁護士

谷口茂昭

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  被告住友生命保険相互会社は、原告に対し、三〇〇〇万円及びこれに対する平成六年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告セゾン生命保険株式会社は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事案の概要

本件は、被告らと保険契約を締結した原告が、両側大腿骨頭壊死症を発病し、人工骨頭置換術を受けた結果、高度障害状態になったとして、被告らに対し、右保険契約所定の高度障害保険金を請求した事案である。

二  争いのない事実

1  被告住友生命保険相互会社(以下「被告住友生命」という。)は、生命保険を業とする相互会社であり、被告セゾン生命保険株式会社(以下「被告セゾン生命」という。)は、生命保険を業とする株式会社である。

2  原告は、平成二年七月一七日に被告セゾン生命との間で、原告を被保険者とする利益配当付ライフサイクル終身保険契約(保険証券番号三〇〇―一五四一―一五四、以下「本件保険契約一」という。)を締結した。右契約では、被保険者が高度障害状態になった場合、保険金一〇〇〇万円が支払われることになっており、右契約に適用される普通保険約款には、「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」が高度障害状態として定められている。

3  原告は、平成四年九月一日に被告住友生命との間で、原告を被保険者とする定期保険特約付終身保険契約(特別保障更新型)ニューベストセレクトエース(以下「本件保険契約二」という。)を締結した。右契約では、被保険者が高度障害状態になった場合、保険金合計三〇〇〇万円(主契約二〇〇万円及び定期保険特約二八〇〇万円)が支払われることになっており、右契約に適用される普通保険約款には、「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用をまったく永久に失ったもの」が高度障害状態として定められている。

4  原告は、平成六年五月ころ、両側大腿骨頭壊死症を発病し、同年六月二三日に左人工骨頭置換術、同年八月一八日に右人工骨頭置換術を受け(以下「本件疾病」という。)、同年一〇月一九日に退院した。

三  争点

1  原告の状態は、普通保険約款の定める高度障害状態に当たるか。

(一) 原告

本件保険契約一及び二(以下、これらを合わせて「本件各契約」という。)に適用される普通保険約款において高度障害状態と定められている「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」の「その」とは、両下肢ではなく足関節を指すものであるから、両下肢に人工骨頭を挿入置換した原告の状態は、「両下肢とも関節の用を全く永久に失ったもの」であり、高度障害状態に当たる。

また、原告の両下肢の筋力は、著しく低下して麻痺しているから、「その用を全く永久に失ったもの」であり、高度障害状態に当たる。

(二) 被告ら

本件各契約が高度障害状態として定める「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」とは、①両下肢とも足関節以上で失った場合、又は、②両下肢ともその用を全く永久に失った場合のいずれかの場合をいうところ、原告の症状は、いずれにも該当しない。

本件各契約に適用される普通保険約款には、人工骨頭を挿入置換した場合は、「関節の用を全く永久に失ったもの」に該当する旨定められているが、両下肢の関節の用を全く永久に失ったとしても、高度障害状態には当たらない。

2  保険金請求の有無

(一) 原告

原告は、平成六年一一月末ころ、被告セゾン生命に対し、本件保険契約一に基づく保険金一〇〇〇万円、被告住友生命に対し、本件保険契約二に基づく保険金三〇〇〇万円をそれぞれ請求した。

(二) 被告セゾン生命

原告は、平成六年一一月末ころ、被告セゾン生命に対し、保険金の支払を受けられるかどうかを照会したものの、保険金の請求はなかった。

(三) 被告住友生命

原告は、被告住友生命に対し、本件疾病が高度障害状態に該当するかどうかを照会したものの、普通保険約款所定の書類を提出して保険金を請求することはなかったから、保険金の請求はなかった。

3  高度障害保険金の請求権者(本件保険契約二について)

(一) 被告住友生命

本件保険契約二に基づく高度障害保険金の受取人は、原告の妻である小山真佐子(以下「真佐子」という。)であるから、原告には右保険金請求権はない。

(二) 原告

原告は、真佐子が被告住友生命に対して有する高度障害保険金請求権を真佐子から債権譲渡を受けたもので、同人は、被告住友生命に対し、平成一〇年八月一〇日に右債権譲渡の通知をした。

4  解約(本件保険契約二について)

(一) 被告住友生命

原告は、平成六年一二月一二日に本件保険契約二の解約を請求したため、被告住友生命は、同月一五日に解約処理をし、同月一九日に解約返戻金六万一八〇〇円及び配当金二万五一二一円を原告指定口座に振り込んだ。

(二) 原告

原告が本件保険契約二を解約したのは、平成六年一二月一九日である。

第三  当裁判所の判断

一  事実関係

前記争いのない事実、証拠<省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和五八年二月一五日及び同年五月四日に郵政省簡易保険局長との間で、死亡保険金を各五〇〇万円とする全期間払込二〇年満期第三種特別養老保険(簡易保険)契約を締結した。右契約に適用される簡易生命保険約款には、両下肢を足関節以上で失った場合又は両下肢の用を全く廃した場合には、右死亡保険金と同額の高度障害保険金の給付を受けられる旨定められている。

2  原告が代表者を務める株式会社堺営繕は、平成二年七月一七日に被告セゾン生命との間で、本件保険契約一を締結した。右契約に適用される利益配当付ライフサイクル終身保険普通保険約款には、被保険者が責任開始期以後に発生した障害又は疾病により別表3に定める高度障害状態になった場合には、死亡保険金と同額の高度障害保険金の給付が受けられる旨定められている。そして、別表3は、対象となる高度障害状態を列挙しているが、その(6)には、「両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」が定められている。右約款の別表4は、対象となる身体障害の状態を列挙しているが、その(4)には、「一下肢を足関節以上で失ったか、または一下肢の用もしくは一下肢の二関節以上の用を全く永久に失ったもの」が定められている。そして、右別表3ないし5について説明する備考7(1)には「上・下肢の用を全く永久に失ったもの」とは、完全にその運動機能を失ったものをいい、上・下肢の完全運動麻ひ、又は上・下肢においてそれぞれ三大関節(上肢においては肩関節、肘関節及び手関節、下肢においては股関節、膝関節及び足関節)の完全強直で回復の見込みのない場合をいうこと、同(2)には、「関節の用をまったく永久に失ったもの」とは、関節の完全強直で、回復の見込みのない場合又は人工骨頭若しくは人工関節を挿入置換した場合をいう旨の規定がある。

原告とセゾン生命は、平成三年一〇月七日に、本件保険契約一の契約者を、株式会社堺営繕から原告に変更する旨合意した。

3  原告は、平成四年九月一日に被告住友生命との間で、次の内容の保険契約(本件保険契約二)を締結した。

証券番号 (チ三)第九二一六六一二一〇八二号

保険の名称 定期保険特約付終身保険 住友の終身・新種終身保険(特別保障更新型)ニューベストセレクトエース

契約者兼被保険者 原告

死亡・約款所定の高度障害保険金受取人 真佐子

死亡保険金 二〇〇万円

定期保険特約 二八〇〇万円

右契約に適用される終身保険普通保険約款には、被保険者が責任開始期以後に発生した原因により所定の高度障害状態になった場合には、右死亡保険金及び定期保険特約に定められた金額と同額の高度障害保険金の給付を受けられる旨定められている。そして、同約款の別表1は、対象となる高度障害状態を列挙しているが、その4には、「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用をまったく永久に失ったもの」が定められている。また、同約款の別表2は、対象となる障害状態を列挙しているが、その5には、「一下肢を足関節以上で失ったもの」、同7には、「一下肢の用または一下肢の三大関節中の二関節の用をまったく永久に失ったもの」が定められている。右約款は、これらの記載の後に、「備考」を設け、約款の文言について説明を行っているが、同3aには、「上・下肢の用をまったく永久に失ったもの」とは、完全にその運動機能を失った場合をいい、上・下肢の完全運動麻痺又は上・下肢においてそれぞれ三大関節(上肢においては肩関節、肘関節及び手関節、下肢においては股関節、膝関節及び足関節)の完全強直で回復の見込みのない場合をいうこと、同3bには、「関節の用をまったく永久に失ったもの」とは、関節の完全強直で回復の見込みのない場合、又は人工骨頭若しくは人工関節を挿入置換した場合をいう旨定められている。

4  原告は、平成六年五月ころ、大腿骨頭壊死症及び両側変形膝関節症を発病し、同年六月六日に、大阪府和泉市内の府中病院に受診して即日入院し、同月二三日に左人工骨頭置換術、同年八月一八日に右人工骨頭置換術を受け、同年一〇月一九日退院した。

右病院小西英樹医師(以下「小西医師」という。)作成の平成六年一〇月二〇日付け障害診断書(甲五)には、原告の傷病名として両側特発性大腿骨頭壊死症、四肢関節の運動障害は、左右とも股関節伸展度・屈曲度が〇度から九〇度、内転度・外転度が一〇度から三〇度、内旋度・外旋度が一〇度から三〇度と記載されている。

5  原告は、平成六年一一月末ころ、被告らに対し、高度障害保険金の給付を受けられるかどうか照会した。

原告は、被告住友生命から支払ができないとの回答を受けたため、平成六年一二月一二日に同被告に対し、本件保険契約二の解約を請求したところ、同被告は、同月一五日に解約処理をし、同月一九日に解約返戻金六万一八〇〇円、配当金二万五一二一円を原告の指定する口座に振り込んだ。

6  原告は、平成九年二月、関節の運動範囲が左右とも股関節における自動可動域及び能動可動域がそれぞれ屈曲で六〇度及び九〇度、伸展でいずれも〇度、内転で〇度及び一〇度、外転で二〇度及び三〇度、また、膝関節においても同様に屈曲で九五度及び一三五度、伸展でいずれも〇度であり、両下肢・体幹の著しい筋力低下のため、車椅子が必要で就労不可能と判断されるなどと記載された小西医師作成の年金診断書(肢体障害用、乙四)を受領して堺市に提出したが、同年六月ころ、前記1の簡易生命保険では重度障害保険金が給付されると聞き、同年九月ころ、真砂泰三弁護士及び岩倉良宣弁護士に依頼して、被告らと交渉することにし、同弁護士らは、原告の代理人として、同年一〇月三日に被告住友生命に対し、内容証明郵便により、高度障害保険金の支払を請求した。

7  原告は、平成一〇年一月八日に郵政省に対し、排便後の処理、ズボンの着脱については要介助、立ち上がるのに杖、手すりが必要、正座は不能、現時点では杖を使用しても数メートルしか歩行できない、屋外の移動は車椅子必要、股関節は屈曲が左右とも九〇度、伸展が左右とも〇度などと記載された小西医師作成の平成九年一二月二五日付け簡易保険障害診断書兼入院証明書(甲九)を添付して、前記1の簡易生命保険契約に基づく重度障害保険金の支払を請求したところ、平成一〇年四月一四日に、京都簡易保険事務センターから、原告に対し、右保険金合計一〇〇〇万円等が支払われた。

8  真佐子は、平成一〇年八月一〇日に被告住友生命に対し、真佐子の被告住友生命に対する高度障害保険金請求債権三〇〇〇万円を同月三日に原告に譲渡したとの通知をした。

9  原告は、「両下肢に著しい機能障害を有するもの(両側大腿骨頭壊死症による)、両下肢筋力は著しく低下しており、著しい機能障害を有する」などと記載された小西医師作成の平成一〇年四月三日付け診断書を添付して、重症患者認定を申請した(甲一〇)ところ、身体障害者福祉法施行規則に基づく身体障害者障害程度等級表における二級(両下肢機能障害)の認定を受けた。なお、右身体障害者障害程度等級表の一級1には、両下肢の機能を全廃したもの、同2には、両下肢を大腿の二分の一以上で欠くもの、二級1には、両下肢の機能の著しい障害、同2には、両下肢を下腿の二分の一以上で欠くものとの規定がある。

二  争点1について

1  前記認定事実によれば、原告は、両大腿骨頭置換術による人工骨頭挿入を受け、さらに、その後医師の診断を受け、両下肢の機能の著しい障害があるとして、身体障害者認定を受けていることが認められる。

そこで、原告の右状態が、本件各契約に適用される普通保険約款が高度障害保険金を支払う場合として挙げている、「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」に当たるかどうかを検討するに、原告の両下肢が足関節以上で欠損していることを認めるに足りる証拠はないから、原告の状態が、「両下肢とも足関節以上で失ったもの」に当たらないことは、明らかである。

また、前記認定事実によれば、本件各契約に適用される普通保険約款に定める「上・下肢の用を全く永久に失ったもの」とは、完全に上・下肢の運動機能を失った場合をいい、上・下肢の完全運動麻痺又は上・下肢においてそれぞれ三大関節(上肢においては肩関節、肘関節及び手関節、下肢においては股関節、膝関節及び足関節)の完全強直で回復の見込みのない場合を指すものであると考えられるところ、本件全証拠によっても、原告の下肢の三大関節が完全硬直で回復の見込みのない状態であるとは認められないから、原告の状態が、「上・下肢の用を全く永久に失ったもの」に当たらないこともまた明らかである。

したがって、原告の右状態は、「両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」に当たるとは認められない。

2  原告は、右についてるる主張するので、以下判断する。

(一) 原告は、高度障害状態として定められた両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」の「その」とは、両下肢ではなく足関節を指すものであるところ、原告は、両下肢について人工骨頭を挿入置換したのであるから、右「両下肢とも関節の用を全く永久に失ったもの」に該当する旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、右普通保険約款には、高度障害保険金の支払対象となる高度障害状態を定める別表1又は3の後に、それとは別個に、別表2で対象となる障害状態表、別表4で対象となる身体障害の状態がそれぞれ定められているが、これらにおいては、「一下肢の用又は一下肢の三大関節中の二関節の用を全く永久に失ったもの」を指すことが明記されている上、さらに、備考として、「上下肢の用を全く永久に失ったもの」及び「関節の用を全く永久に失ったもの」の具体的内容が定められており、このような普通保険約款の規定の仕方に照らせば、右「その」が足関節を指すものと解することは、文理解釈上無理がある。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(二) また、原告は、両下肢の筋力が著しく低下して麻痺しているから、「両下肢の用を全く永久に失ったもの」に当たると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、本件保険契約に適用される普通保険約款は、いずれも右「上・下肢の用を全く永久に失ったもの」とは、完全にその運動機能を失ったものをいい、上・下肢の完全運動麻痺、又は上・下肢においてそれぞれ三大関節(上肢においては肩関節、肘関節及び手関節、下肢においては股関節、膝関節及び足関節)の完全強直で回復の見込みのない場合であると定めているところ、本件全証拠によっても、原告が両下肢の完全運動麻痺の状態にあるとは認められない。そうすると、原告の右主張は、この点において既に採用できない。

(三) さらに、原告は、前記1の簡易生命保険では、原告に対する重度障害保険金の給付が認められたから、簡易生命保険約款と同様の規定を設けた普通保険約款の適用を受ける本件各契約においても、原告に対する高度障害保険金の給付が認められるべきであると主張する。そして、原告が簡易生命保険において右給付を受けたことは、前記認定のとおりである。

しかしながら、右簡易生命保険契約は、本件各契約とは、その制度・趣旨を異にする別個の契約であるから、その内容もまた、それぞれの契約約款に従って個別に解釈されるべきであり、郵政省の認定があったからといって、これが本件各契約における高度障害状態の認定を左右するものとはなり得ないことは明らかである。そして、前述のとおり、原告の状態は、本件各契約が定める高度障害保険金が給付される場合に当たらないと解される以上、原告の右主張は採用できない。

三  よって、本件各契約に基づき、被告らに対し、高度障害保険金の支払を求める原告の請求は、その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田中敦 裁判官大藪和男 裁判官森岡礼子)

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