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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)250号 判決 1999年4月13日

原告

西條由実

被告

西村章

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金五九万四八一二円及びこれに対する平成六年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金一六万五一七四円及びこれに対する平成六年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件乙事件を通じ、これを一〇分し、その九を甲事件原告兼乙事件被告の負担とし、その余を甲事件被告兼乙事件原告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金八六五万九二三〇円及び内金八一五万九二三〇円に対する平成六年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金二七万五二九〇円及びこれに対する平成六年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲事件原告兼乙事件被告運転の普通乗用自動車と乙事件原告兼甲事件被告運転の普通乗用自動車とが衝突した事故に関し、甲事件原告が甲事件被告に対し、民法七〇九条・自賠法三条に基づき、損害賠償を請求し、乙事件原告が乙事件被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成六年七月二八日午後五時五分頃

場所 奈良市法華寺町一二一五番地の四先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(奈良五九ち三八六八)(以下「西村車両」という。)

右運転者 甲事件被告兼乙事件原告(以下「西村」という。)

右所有者 西村

事故車両二 普通乗用自動車(大阪五三な八二七三)(以下「西條車両」という。)

右運転者 甲事件原告兼乙事件被告(以下「西條」という。)

右所有者 西條

態様 西條車両を追い越そうとした西村車両と右折しようとした西條車両とが衝突した。

2  損害の填補

西村は、西條に対し、本件事故に関して六八万四五七九円を支払った。

二  争点

1  本件事故の態様(西村の過失、西條の過失)

(西條の主張)

西條は、時速二〇キロメートル程度で南進中、本件事故現場西側駐車場に対向車線を通って右折していくため右方向指示器を点灯し後方確認をした上で、さらに速度を落とし駐車場入口に進入しようと右にハンドルを切った直後、西村車両に衝突された。

西村は西村車両を運転し中央線を越えて追い越すに際しては、先行車の動静に対し十分注意をし、また路外に出て右折しようとする車両を認めた場合には追い越しを差し控えるべき運転上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と加速し、中央線を越えて追い越しをかけ、西條車両と衝突したものであり、西村には前方及び先行車に対する動静不注視の過失がある。

(西村の主張)

西條車両の速度は時速約一〇キロメートルであり、西村は右後方の安全を確認し、方向指示器を出して西條車両を追い越し始めた。西村車両の前部が西條車両のすぐ右斜後方に至った時、西條車両は急に右に動き出すとともに右折の合図を出した。西村は西條車両の動きを察知しすぐに停止措置を講じたものの両車両が衝突するに至ったものである。

西條には、右折するに際し、右後方に対する注視を怠った過失がある。

過失割合については、本件事故の態様が右折車両と同方向に進行してきた追い越し直進車との衝突事故であることに加え、西條車両は西村車両がすぐ右斜後ろに接近している段階で右折を開始したものであり、しかも西條は右折の開始とほぼ同時に右折合図をしているにすぎないこと、さらに西條車両が右折を開始したのは路外に出るためであったことに照らし、西條には少なくとも七割の過失があるというべきである。

2  西條の損害(一部争いのないものも含む)

(西條の主張)

(一) 治療費

(1) 平成八年五月以降の分 八万円

(2) 西村支払分 六八万四五七九円

(二) 休業損害 六九一万五四六〇円

平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・全年齢女子労働者の年額三二四万四四〇〇円を基礎とし、本件事故日である平成六年七月二八日から症状固定日である平成八年九月一二日までの七七八日間分の休業損害を求める。

(三) 傷害慰謝料 一〇〇万円

(四) 物損 一六万三七七〇円

(五) 弁護士費用 五〇万円

(西村の主張)

物損については認めるが、その余は争う。

本件事故と相当因果関係にある治療期間はせいぜい一か月程度である。

西條は本件事故当時就業していなかったし、具体的な就業予定はなかったのであるから、休業損害は発生しない。

3  西村の損害

(西村の主張)

物損 二七万五二九〇円

(西條の主張)

不知。

4  寄与度減額(西條の人損に対して)

(西村の主張)

西條は、本件事故以前から糖尿病の治療を受けており、西條の訴える症状には糖尿病や心因的傾向の影響するところが大きく、民法七二二条二項の類推適用による相当適度の寄与度減額がなされるべきである。

(西條の主張)

争う。

第三争点等に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲二ないし四、西條本人、西村本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、奈良市法華寺町一二一五番地の四先路上である。本件事故の起きた道路(以下「本件道路」という。)は、片側一車線であり、各車線の幅員は二・八メートルである。本件道路の路面は、アスファルト舖装の平坦路であり、本件事故当時は乾燥していた。本件道路の最高速度は時速四〇キロメートルに規制されており、交通は閑散としている。

西村は、西村車両を運転し、平成六年七月二八日午後五時五分頃、本件道路の南行車線を南に向かって走行していたが、前方をゆっくり走行している西條車両を認め、対向車線にはみ出して時速四〇キロメートル程度に加速して追い越そうとしたところ、前方四メートル弱の位置を走行していた西條車両が右折指示器を点灯して路外の駐車場に入ろうと右折してきたため、急ブレーキをかけて衝突を避けようとしたが間に合わず、西條車両に衝突した。

以上のとおり認められる。西條は、本人尋問において、右折開始の五秒前に右折指示器を点灯させていると供述しているが、本人尋問の供述内容が一貫していないこと、甲第四号証(被害者供述調書)の記載内容に照らし、直ちに措信しがたい。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、西條には、後方確認不十分のまま合図が遅れて右折を開始した過失があり、他方、西村には、本件道路の交通が閑散としているにもかかわらず西條車両がゆっくりと走行しており、路外右には駐車場があることからすると、西村は、西條車両が右折することも予想できたにもかかわらず、西條車両の動静に注意することなく対向車線にはみ出して追い越しを始めた過失が認められ、両者の過失を比較対照すると、西條と西村の過失は六対四の関係にあると認められる。

二  争点2及び4について(西條の損害、寄与度減額)

1  治療経過

証拠(甲五、一七、乙二ないし四一、四四、四六ないし四八)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

西條は、本件事故の翌日である平成六年七月二九日、頸部痛・背部痛を訴え、恵生会病院で診察を受け、頸椎捻挫と診断された。X線写真(頸椎・右肩甲骨)上明らかな異常は認められなかった。同年八月四日からは、寺中医院で治療を受け、ポリネック固定や投薬による治療を受けるとともに、同医院から鍼灸治療も併用するよう指示され、同日からダイマツ鍼灸院にて中国整体療法、漢方・皮内針治療等を受けた。平成七年一一月一三日からは中島医院でも診療を受けることとし、頸部から両上肢にかけて知覚異常、上肢・膝蓋鍵反射減弱、両上肢筋力軽度低下が認められ、同医院において平成八年九月一二日をもって症状固定と診断された。

大阪厚生年金病院の所見では、両手の知覚障害のみ認められるが、頸椎レベルの圧迫病変を強く示唆するものではなく、X線写真上も骨傷はないが、かなり長期にわたり症状が持続しているので、平成八年一〇月一八日、MRI検査を施行したところ、これも正常であった。糖尿病性神経症の疑いもあったが、NCV上異常なしとされ、その他諸検査を実施した結果、糖尿病性神経障害の存在はほぼ否定された。家庭内事情により精神状態が不安定であり、症状的には攻撃的な面も有しており、神経精神科からは境界型人格障害と診断された。後頸部痛、両手感覚鈍麻、両手指のひきつりを訴えているが、特定の病変で説明できる症状ではない(後頸部痛についてはバレ・リュー症候群で説明することができるが、これも積極的に証明することはできない。)という医師の所見が述べられている。

2  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費 七六万四五七九円

西條は、本件事故による治療費として、平成八年五月以降の分と西村支払分の合計七六万四五七九円を要したと認められる(前認定事実、弁論の全趣旨)。

(二) 休業損害 一八四万一三〇八円

西條(昭和四〇年七月五日生、本件事故当時二九歳)は、アメリカの大学に留学し、その後、アメリカで雑誌の原稿を書いたりしていたが、平成六年五月に日本に戻り、その約二か月後に本件事故に遭った。日本に戻ってからは、本件事故まで日が浅いため正式の職業に就いていなかったが、体調が良くなってきた平成一〇年一月一二日からは正式に勤務し、月額約二〇ないし二二万円の給与を受ける外、夏期・冬期のボーナスの支給も得ていた。

前認定事実及び右認定事実によれば、<1>西條は、本件事故の翌日である平成六年七月二九日から同年八月三一日までの三一日間は完全に就労が制限され、同年九月一月から平成七年三月三一日までの二一二日間は平均して六〇パーセント労働能力が低下し、同年四月一日から同年七月三一日までの一二二日間は平均して三〇パーセント労働能力が低下し、同年八月一日から症状固定日である平成八年九月一二日までの四〇九日間は平均して一五パーセント労働能力が低下した状態であったものと認められ(ただし、西條が日本に帰ってから本件事故まで職業に就いていなかったことにかんがみると、本件事故による西條の休業は、平成六年一〇月一日以降と認めるのが相当である。)、<2>西條の休業損害算定上の基礎収入は、西條主張のとおり平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・全年齢女子労働者の年額三二四万四四〇〇円とするのが相当である。

以上によれば、西條の休業損害は次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 3,244,400×0.6×182/365+3,244,400×0.3×122/365+3,244,400×0.15×409/365=1,841,308(一円未満切捨て)

(三) 傷害慰謝料 一〇〇万円

西條の被った傷害の内容・程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は一〇〇万円が相当である。

(四) 物損 一六万三七七〇円

標記物損については、当事者間に争いがない。

(五) 合計(弁護士費用加算前)

右(一)ないし(四)の合計は、三七六万九六五七円(人損部分三六〇万五八八七円)である。

3  損害額(寄与度減額後)

前認定事実によれば、西條の訴える症状には心因の影響するところが相当程度存するというべきであるから(糖尿病の影響を認めるに足りる証拠はない。)、前記損害のうち、人損については、民法七二二条二項の類推適用により二割の寄与度減額を行うのが相当である。したがって、寄与度減額後の損害額は三〇四万八四七九円(人損二八八万四七〇九円、物損一六万三七七〇円)となる(一円未満切捨て)。

4  損害額(過失相殺後)

前記の次第で寄与度減額後の損害額である三〇四万八四七九円から過失相殺として六割を控除すると、損害額は一二一万九三九一円となる(一円未満切捨て)。

5  損害額(損害の填補分を控除後)

西條は、本件事故に関し、被告から六八万四五七九円の支払を受けているから、これを前記過失相殺後の金額一二一万九三九一円から控除すると、残額は五三万四八一二円となる。

6  弁護士費用 六万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき西條の弁護士費用は六万円をもって相当と認める。

7  まとめ

損害額(損害の填補分を控除後)に弁護士費用を加算すると、五九万四八一二円となる。

三  争点3について(西村の損害)

1  損害額(過失相殺前)

西村は、本件事故により、物損二七万五二九〇円を被ったと認められる(乙五一)。

2  損害額(過失相殺後)

前記の次第で右損害額二七万五二九〇円から過失相殺として四割を控除すると、損害額は一六万五一七四円となる。

四  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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