大阪地方裁判所 平成10年(ワ)2528号 判決 1998年9月17日
主文
一 被告は、原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成九年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実など
1 原告は、昭和六〇年六月二六日、被告の経営するダイヤモンドカントリークラブゴルフに、入会し、預託金四〇〇万円を預けた。
2 原告は、被告に対し、平成九年四月、ダイヤモンドカントリークラブゴルフをを退会する旨の意思表示をし、預託金の返還を請求した。
3 原告は、被告に対し、平成九年一二月一〇日、預託金の返還を請求した。
二 争点(期限の到来の有無)
1 原告の主張
預託金は、一二年間据え置きの後返還する約束であり、平成九年六月二六日をもって右期間が経過した。
2 被告の主張
(一) 退会要件
預託金は、退会時に理事会の承認を得て、その返還を請求することができるという定めである。
会則には、「会員は、……クラブ退会を希望するときは、書面を以って届出、理事会及び会社取締役会の承認を得なければならない。」との規定が設けられている。これは、一二年以上経過すれば、経済状態、施設経営企業の経営内容は、入会時と大きく異なっている。そして、二三八四名の会員のうち、約半数が平成一〇年三月までに当初の据置期間(一二年)が経過しており、個々の会員の退会が累積すると、その施設経営企業に対する影響は、極めて重大なものがある。このような場合を想定して、会員の退会を理事会及び施設経営企業の承認にかからしめている。
このような退会承認制度を設けても、会員権の自由譲渡性を認めている以上、会員の基本的な権利を侵害することにはならない。
(二) 据え置き期間の延長
預託金は、施設経営企業により、施設建設資金として利用されることが予定されており、各会員もこれを十分に認識している。会員権は譲渡自由であり、会員は、これにより投下資本を回収しうる。今日のような未曾有の不況下で、多数の預託金返還請求が累積する事態は全く予定されていない。
会則には、天災地変、その他不可抗力の事態が生じた場合、理事会の承認を得て据え置き期間を延長することができるとの規定が設けられている。
したがって、二年の据置期間の延長が認められるべきである。
(三) 内在的制約
施設経営企業が、多数の預託金返還請求の全てに対して、速やかに応じていくと、その経営はたちまち破綻することになり、その結果、据え置き期間が経過していない多数の会員や、退会せずに継続してプレーすることを望む真のゴルフ会員の権利を侵害することになる。また、その優先的施設利用権を中核とする会員権については、本来、存続期間が定められておらず、半永久的に存続することが予定されている。
他の大多数の会員との関係で、自己の権利行使が制約されるのは、団体法的性格に内在するものであり、施設経営企業は、会員全体の利益を考慮し、会員相互の利益の矛盾衝突を調整するため、据え置き期間の延長を含む団体法的な措置を取る権限を有している。また、その一方当事者は、他方にとって不利な時期において、継続的な関係を一方的に破棄することはできないはずである。
第三
一 争点に対する判断
1 証拠(甲2、甲3、乙3)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告は、ダイヤモンドカントリークラブという名称のゴルフ場を経営する会社であり、預託金は、被告会社に預託される。
(二) ダイヤモンドカントリークラブの当初の会則では、理事長は、会社取締役会及び理事会とが協議して推薦委嘱し(一四条)、常務理事は、会社取締役会において委嘱し(一五条)、理事は、会員中より会社取締役会及び理事会と協議し委嘱し(一六条)、理事会は、所定事項を会社と協議決定し(一八条)、会員募集中は、会社取締役会が理事会の権限その他事務一切を代行(二四条)するものとされていた。(乙3)
昭和六三年四月一日から施行されたダイヤモンドカントリークラブの会則では、理事長は、会社の代表取締役社長が努め、キャプテン及び常務理事は理事長が理事の中より選任し、理事は、会員の中より理事会及び会社が協議推薦により委嘱するものとされ(一六条)ている。(甲2)
その後の会則(ただし、施行日に関する定めが記載されない。)では、理事長は、理事の互選により選任される(一六条)ものとされたが、理事の選任に関する規定がない。(甲3)
(三) 入会金は、会社に預託し、証券発行日より一二間据置とするが、天災地変、その他不可抗力の事態が生じた場合は、理事会の承認を得て据置期間を延長することができるものとされている(七条、八条)
(四) 退会については、書面を以って届出、理事会及び会社取締役会の承認を得なければならないものとされている(九条、一〇条)。
(五) 譲渡については、会社の定める手続きにしたがって(当初会則一一条)、又は文書を以て理事会に届出、その承認を得て(その後の会則一一条)譲渡することができるものとされている。
(六) なお、いずれの会則においても、ダイヤモンドカントリークラブへの収支は、全て会社に帰属するものとされている。(二〇条又は一八条)
2 そして、右事実によれば、ダイヤモンドカントリークラブ(本件ゴルフクラブ)は、いわゆる預託会員の組織であって、被告の意向にそって運営され、ゴルフ場を経営する被告と独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有しないことになるから、これを前提に以下検討する。
(一) 右会則を文字どおり読めば、退会が理事会及び会社取締役会の承認にかからされていることになる。
しかし、右会則の規定方法自体は、被告も自由であるとしている会員権の譲渡に関する規定と同様である。仮に、理事会及び会社取締役会が退会を承認するしないの決定権を有するとすると、退会及び預託金の返還を債務者である被告の自由意思にかからせるのと等しいことになる。しかし、預託金は、少額ではないし、会則上据置期間について具体的な定めがなされており、原告が、退会及び預託金の返還が被告の意思にかからされていることについて、被告から具体的に説明を受け、これを承認して本件契約を締結したとは到底考えられない。
これらの事実からすると、退会の承認に、会員が支払うべき年会費その他の利用料の未納の有無を確認し、退会の効力発生時点を明確にする意味はあっても、これを越えて、被告側の事情により、退会を拒み、あるいは、退会を保留する権限が与えられているものと解することはできない。
したがって、被告が原告の支払うべき年会費その他の利用料の未納の有無を主張するものでない以上、据置期間の経過及び原告の退会の意思表示(右原告の意思表示は、据置期間経過により退会する趣旨の意思表示と解しうる。)の到達によって、退会の効力は発生していることになり、承認にかからされていることを根拠とする被告の主張は採用しない。
(二) また、不況の継続を会則にいう天災地変、その他不可抗力の事態が生じた場合と同視することはできない。
そして、本件のような預託金会員組織のゴルフ場においては、会則は、これを承認して入会した会員と被告との契約上の権利義務の内容を構成するものであり、右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することに他ならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、前認定の本件ゴルフクラブの組織としての性格、理事会と被告との関係からすると、被告や理事会が、会員全体の利益を考慮し、会員相互の利益の矛盾衝突を調整するため、据え置き期間の延長を含む団体法的な措置を取る立場にないことは明らかである。したがって、個々の会員の承認を理事会の承認や被告の意思によって代用することはできず、個別的な承認を得ていない会員に対しては、据置期間の延長の効力を主張することはできず、そのような会員は、当然解除及び預託金の返還を求めうることになる。
二 結論
なお、原告が据置期間経過前にした請求は、遅滞に付する効力を有しない。
よって、原告の請求は、預託金四〇〇万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成九年一二月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し主文のとおり判決する。