大阪地方裁判所 平成10年(ワ)2533号 判決 2000年5月08日
原告
豊田英良
右訴訟代理人弁護士
安由美
金井塚康弘
被告
株式会社マルマン
右代表者代表取締役
片山龍太郎
右訴訟代理人弁護士
佐藤敦史
主文
一 原告の訴えのうち、本判決確定後に支払期日の到来する賃金の支払を求める部分を却下する。
二 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
三 被告は、原告に対し、平成九年六月以降本判決確定に至るまで、毎月二五日限り、五四万五一〇〇円及び右各金員に対するその各支払月の二六日からその支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
六 本判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成九年六月以降毎月二五日限り、七〇万二八九一二(ママ)円及び右各金員に対するその各該当月の二六日からその支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成九年以降毎年六月末日及び一二月末日限り、各七〇万二八九三円並びに右各金員に対する七月一日及び一二月一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告から整理解雇された原告が、右解雇の効力を争い、被告に対し、労働契約上の地位の確認と将来分も含めて未払い賃金等の支払を求める事案である。
二 前提事実(当事者間に争いのない事実等)
1 当事者
被告は、エレクトロニクス商品・時計バンド・時計・喫煙具・健康食品等の商品の販売を目的とする株式会社である。
原告は、昭和四二年三月、関西大学経済学部経済学科を卒業し、同月、被告に入社した。原告は、被告大阪支店を振り出しに営業職に就き、以後、大阪支店ビック支店長(ビック支店とは、東京、大阪及び名古屋各支店内に設置された支店の名称である。)、名古屋支店ビック支店長、東京支店ビック支店課長、千葉支店支店長、大阪中央支店支店長、大阪支店南部営業部部長等を歴任してきた。
2 配置転換、降格処分
原告は、平成八年四月に、大阪支店第一営業部から本社総務部付となった(以下「本件配転命令」という。)。
また、原告は、平成九年四月一日付で、評価期間中の業績評価が全社平均を大きく下回っていること、現行資格の在籍が七年以上となったこと及び被告の再建(「新たな創業」)に向けての協調性が著しく欠如していることを理由に、資格等級が三級から四級に降格となった(以下「本件降格処分」という。)。
3 解雇
被告は、平成九年五月九日付けで、就業規則二八条に基き三〇日後に原告を解雇する旨の意志(ママ)表示を文書で行った。
原告が、同月一五日に被告本社総務部の鈴木博総務部長代行(以下「鈴木」という。)に確認したところ、同人は、就業規則二八条五項「天災地変、経済界の変動、その他やむを得ない事由により会社が事業の縮小、又は閉鎖のやむなきにいたったとき」に該当すると回答した(<証拠略>。以下、右事由による解雇を「本件整理解雇」という。)。
4 被告の給与体系
被告の賃金は分配と称され、<1>基本分配、<2>職能分配、<3>利益分配、<4>等級分配、<5>役職分配、<6>通勤費、<7>超過勤務手当、<8>寒冷地・都市手当により構成されている。このうち、基本分配、職能分配、等級分配及び役職分配は従業員の社内における資格、等級に応じて固定された金額であるが、利益分配は、月の会社の目標達成率に応じて加算される変動給であり、各従業員の資格等級及び配属支店、職制上の役職に応じた細かな計算根拠が定められており、各従業員の配属された支店、職制上の役職により金額が異なる。
三 争点
1 本件整理解雇の有効性
(一) 解雇権濫用法理の適用の有無(<1>人員削減の必要性の有無、<2>人選の合理性の有無、<3>解雇回避努力の有無、<4>労働者との十分な協議の有無)
(二) 不当労働行為性の有無(原告の組合加入、団交申し入れを原因とするものか否か。)
2 普通解雇の有効性
3 未払い賃金の額(本件配転命令及び降格処分の有効性等)
第三当事者の主張
一 争点1(本件整理解雇の有効性)について
1 被告の主張
(一) 被告における人員削減の必要性
(1) 平成二、三年頃のバブル経済崩壊後、被告の業績は悪化し、平成三年度(年度は、当年四月一日から翌年三月三一日まで。以下、同じ。)五七二億円であった売上高は、平成六年度には三〇九億円となり約四六パーセントの減少となった。その後も売上高は減少し、平成七年度は二二八億円、平成八年度は一一五億円であった。また被告の資産状況は、別紙1のとおりであり、この数値をみれば被告が危機的状態であることは一目瞭然である。
このような状況下で平成七年に被告が再建施策を実行すべく金融機関に返済猶予を申し入れると、それまで二一行あった取引銀行のうち、第一勧業銀行、東海銀行以外の銀行からの更なる融資は打ち切られた。そして、右二行からの融資も退職金や事業撤退のための精算経費、その他当座の会社運営に必要な資金についての融資のみであって、その後の融資はなく、被告は自力での再建を実行していかなければならなくなった。つまり被告は「再建計画」を必ず実行することを前提に必要資金を得、その後は計画を実行しなければその存続すら危ぶまれる状況となった。
(2) 被告の売上高の約五〇パーセント・売上総利益額の約四〇パーセントを占めていた家電品が経済環境の変化のためにその事業からの撤退を余儀なくされ、それに替わるべき商品が被告の現在の取扱品の中には無くむしろ全体的に低迷する傾向にある商品が多いことから、被告の危機的状況を回避するためには、現行商品の売上低下を最小限に抑えると共に、唯一市場が拡大傾向にある健康食品の売上拡大に努力すること及び大手メーカーに伍して新技術やデザイン等で売上の拡大が見込めるウォッチの企画販売に尽力すること、更なる経費の削減に努力することが必要となった。
経費については、会社の売上規模の減少に伴ってそれに見合う額まで削減しなければならないが、その経費削減の速度が遅いために業績の回復が進まなかった。特に販売費及び管理費の中で大きなウェイトを占める人件費の削減が遅れている点が、被告の存続にとって大きな問題であった。このため被告は、別紙2のとおり二一八名を一一〇名に削減する人員削減を計画した。
(二) 解雇回避努力
(1) 被告は、広告宣伝費、販促費、福利厚生費、交際費、アフターサービスの削減につとめた。また地代家賃の削減のため、一七支店を七支店に統合し、本社を東京都港区虎ノ門から品川区西五反田に移転した。さらに倉庫設備の統廃合も行った。
(2) 次に人件費削減としては以下のことを行った。
<1> 役員数の削減
平成七年一〇月時点で一三名いた有給役員を、翌平成八年三月までに六名と三(ママ)分の一以下に削減した。
<2> 役員の給与、賞与のカット
役員については、平成七年の上期、下期の賞与をゼロにするとともに、以降の賞与についても一般会社の賞与が年間で月額給与の五、六ヶ月分であることから見ると、その五分の一以下にまで削減した。また、平成七年一〇月から社長一〇〇パーセント・常務三〇パーセント・取締役二五パーセントとして実施した。
<3> 社員の給与・賞与のカット等
社員についても、この危機的事態を乗り越えるため、賞与カット・給与カット・昇給ゼロを実施した。賞与カットは、役員と同様一般会社の賞与の五分の一以下にした。また、昇給についても全社員とも平成八年四月がゼロ・翌平成九年四月が〇・九パーセントと極力抑えることで、人件費を削減した。
<4> パート社員の削減
物流センターの出荷時の商品ピッキング業務や営業活動に伴う専用伝票の起票・プライス付け等の単純業務及び店頭販売業務のための準社員やパート社員について、平成七年九月二〇六名いたものを、翌平成八年四月に一七三名と三三名の削減を図った。但し、それまで各支店で行っていた売掛金のチェックと請求書の発送業務を事務センターに業務の集中移管し、それをパート社員に担当させるようにしたため業務の効率化を考えれば、実質更に二〇人の人員削減効果があったと考えられる。
<5> 新規採用の中止
社員の自然減や組織強化に対応するため新しい人材の採用は、いかなる企業にとっても常に必要な活動である。しかし、会社の状況が危機的状況にあることを鑑みるに経費をかけての採用活動を行うことはその時点では無理だとの判断から、平成五年度下期からの募集採用活動は中断した。
<6> 希望退職者の募集
販売費及び一般管理費の削減は、前述した削減策を実行しても約一三億円程度であり、平成六年度(第五〇期)の販売費・管理費六三億円を計画の二六億円にするにはほど遠いものであり、人員の削減を実行せざる得(ママ)ないと判断したものである。その希望退職の募集計画人数は、当時の社員数二一八名の約半数の一〇八名を平成八年九月までに達成するべく計画した。この計画が実行できれば、役員・社員数は一一〇名となり、約一〇億円人(ママ)件費削減に繋がることとなる。そこで、被告は、平成七年一一月に本社・物流部門の全社員に会社の窮状と希望退職者を募集せざるを得ない状況であること及びその内容について説明し、翌平成八年一月から三月にかけて支店ごとに同様の説明をした。これは、労働組合の存在していない会社としては説明を社員に納得してもらうには、全社員が公平に情報を得ることにより、自分なりの判断ができるようにとの配慮からであった。
(三) 人選の合理性
(1) 選定基準
被告では、以上の状況を踏まえ退職勧奨を実施実施(ママ)することとなったが、その対象者選定基準として、以下の七項目を設定することとした。
<1> 職務遂行についての知識保有状況
現行職務についてのみならず、本人が希望する職務があればその職務や会社が担当して欲しいと考える職務があればその職務についての知識や技能の保有状況の程度を評価した。但し、被告のどの部門を担当するにしても今後必要と思えるコンピユーターについての初歩的基礎知識(ワープロやパソコンの操作に必要な初心者としての基礎知識)については追記項目で評価した。
<2> 職務に対して取り組む姿勢や意欲
職務遂行に際してのデータや資料、あるいは後輩や部下の指導管理能力、ひいては今までと全く異なる事態に直面している被告の職務変革に適応できる能力について評価した。
<3> 就業態度
勤怠や全社員一丸となって会社再建に取り組もうとする協調性や責任感があるかどうかを評価した。
<4> 将来性や適応性
現職務や会社が期待している職務に就いて、将来的に適応していけるかどうかを評価した。
<5> 業績の評価
今までの職務についての業績や貢献度合いについて、数値に表れている面について評価した。
<6> 過去の懲罰の該当有無
入社以来懲罰の適用を受けたか、あるいはそれに類似した人事処遇がなかったかについて評価した。
<7> 保有・潜在能力による配置転換の困難性の有無
保有・潜在能力が他の職務や勤務地での業務遂行を阻害する要因があるか否かの評価をした。
以上の七項目について、「特別考課表」及び過去の実績資料に基づいて当時の直属の上長である支店営業部長、総括支店長、本社営業部長、総務部長、担当常務、社長で審査し、退職勧奨対象者を選定した。
(2) 退職勧奨対象者の選考は、希望退職募集と並行して行った。これは、希望退職の応募人員が計画に満たない場合の用意と、事業部制の廃止に伴う新たな組織での会社再建を新年度の平成八年四月から本格的に開始しなければならず、支店も含めた全社員に希望退職の説明をし希望退職の応募を締め切った平成八年三月の結果を待って対象者選考をしていたのでは間に合わないためであった。先ず、本社・支店を含めて全社員について前述した「特別考課表」を提出してもらった。その他に平成五年、六年の業績・人事測定研究所の行うSPI(職務適応性)テスト・幹部試験評点の三項目の総合考課、及び平成七年度の業務成果内容をまとめ、「特別考課表」を含めた三つの考課の総合評価で全社員をAからEの五段階に分類し、Dランク及びEランクの社員を退職勧奨の対象者とした。
その結果、原告は、「特別考課表」の評価がDランク・三項目の総合考課評価がCランク・平成七年度の業務成果評価がDランクということで総合的にDランクとして評価づけられ退職勧奨の対象者に選定されたものである。
原告に対する評価の内容は次のとおりである。
<1> 「特別考課表」の評価は、直属の上司である大阪第一営業部長の評価がBとCの中間ランク、同支店長の評価がCとDの中間ランクであったのでその平均から支店報告の評価はCランクと表づけた。その後本社の営業部長・総務部長・担当役員・社長の全国の支店報告評価のバランス(支店長間の評価基準のバラツキについての微調整)調整と評価を行ってDランク評価とした。
<2> 平成五年度、平成六年度の業績及び幹部試験等の能力評価から、業績的には平均的であるものの、会社の経営理念や経済常識の知識レベルや能力伸長に取組む姿勢が無いとの判断からCランク評価とした。
<3> 平成七年度の実績評価では、原告の売上達成率等の数値評価と併せて健康品事業部に所属する専任販売員としての業務成果についての妥当性を評価したが、売上金額の伸長が見られないこと、専任者として販売すべき健康食品の売上ウエ(ママ)イトが他の健康品事業部に所属する専任販売員や他の事業部(家電・時計・喫煙具・宝飾)の専任販売員の売上ウェイトと比較して非常に悪く、その点について当時の健康品事業部長から指摘を受けたにも拘わらず新しい得意先の開拓や担当した既存の得意先への販売努力を怠り、安易な販売姿勢で販売目綴標の辻棲を合わせていたに過ぎないとの判断からDランクと評価した。
<4> 原告には過去に懲罰が存在する。原告は、昭和五七年に名古屋デパート支店からマルマンゴルフ株式会社(以下「マルマンゴルフ」という。)配送センター所員に異動となったが、これは、原告が昭和五四年に大阪ビック支店支店長として異動となった際に前任支店長及びその部下が発生させた得意先との売掛金誤差を厳しく糾弾し、担当役員(営業担当副社長)に上申して同支店長やその部下を懲罰措置に陥れながら、後年、原告自身も同様の売掛金誤差を発生させ、しかもこれを報告せず、かえって隠蔽しようとしたため、懲罰として異動(左遷)されたものであり、昭和五九年東京支店に配転となるまでの約一年半勤務していたものである。これは、当時の営業職者しかも支店長の異動としては極めて特異なものであり、その懲罰の重さが図り知れる。
<5> 毎年度の初めに提出される「自己申告書」において、転勤の不可の申告が繰り返しされていることは、事前の配転の拒否であり評価を悪くするものではないにしても、会社の再建に向けて殆どの社員が転勤してでも会社再建に尽力したいとの意欲・姿勢とは全ぐ(ママ)意を異にするものであり、新たな組織を編成しようとしていた会社にとっては問題となるものであった。
<6> 以上の評価を総合的に判断して、会社が今後再建をして行かなければならない際の社員としては、販売能力的な問題はないものの自己の考えに固執したり押しつける余り、他の社員からの信頼感や協調性が無くあるいは再建に取り組もうとする意欲などの面からDランクと評価せざるを得なかった。
(3) 原告以外にもDあるいはEランクの評価で退職勧奨の対象となった社員は存在した。大阪支店でも原告を含め六名の対象者がいたが、その内三人は希望退職に応募し、二名は退職勧奨に応じ平成八年度途中で退職したものである。大阪支店においては、平成八年一月の希望退職を説明した時点で二七名の販売員がいたが、その後希望退職や退職勧奨による退職及び異動等により一年後の平成九年二月においては一七名となり、その後異動や退職により四名が減少したが、マルマンゴルフからの二名の異動により同年九月に計画通りの一五名となったものである。また、DあるいはEランクの評価であっても、他の職務や勤務地での職務遂行能力に期待がもてる場合は、必ずしも退職勧奨せずに異動という形で欠員部署の補充や強化として対応した社員もいた。つまり、何がなんでも退職を強要するというものではなく、極力社員の生活や希望を配慮した対象者の選定を行ったのである。
(四) 労働者との協議
平成九年四月二四日に鈴木は原告と面談し、今までの原告の業務成果から考えて原告が所属する「市場情報室」を閉鎖せざるを得ず、それに伴ってこれ以上の雇用継続が会社として不可能であることを説明した。原告は、その措置を不服として役員又は社長の説明を強く求めたので、そのための準備としても何を説明の内容として求めるのか把握しておく必要から、その内容を書面で提出して欲しい旨要請した。そして、同月二四日の面談の内容の確認のため普通解雇と同様の手続として「解雇予告通知」を五月九日付けで原告宛通知したものである。管理職ユニオンを通じての団体交渉の申し入れに被告が応じたのは、原告が解雇に対する質問を書面ではなく場を変えて申し入れてきたものと理解し、承諾したものである。平成九年六月三日付けの「求問状(糾問状)」の内容は大きく四項目あり、被告は正当に説明をした。原告との協議は、被告の窮状を理解しようとせず、退職勧奨の理由を説明しようとする担当者を無視し、一方的に役員や社長による説明を要求する原告の態度は、協議の場を拒否しようとするものに他ならない。
2 原告の主張
(一) 人員削減の必要性
(1) 被告は、平成七年九月に会社再建計画に基いて当時二一八名いた社員を一一〇名までに削減する人員整理に着手したと主張するが、そもそも被告が主張する削減人員算定の根拠となる目標売上高の設定数値、販売員一人当たりの年間売上高の根拠、人件費の計画金額及び一人当たりの人件費につき重大な疑義があり、従業員数を一一〇名にしなければならない必要性があったとは到底考えられない。
(2) 本件整理解雇は、被告において人員削減をある程度実現した平成八年三月末日時点を基準にするとその一年後に原告一名のみを解雇したというものであるから、そもそも人員削減の必要性を欠いている。すなわち、被告の主張を前提にしても、被告大阪支店においては、平成八年一〇月に大阪支店で二名が異動し、五名が退職したうえ、原告が解雇になる直前の平成九年三月にマルマンゴルフより川原博幸(以下「川原」という。)を入社させ、さらに同年四月には石井幹宏(以下「石井」という。)をも入社させている。しかも、原告を解雇した後も二名が退職し、三名が異動のため大阪支店を去っている。しかも、平成一〇年九月には新たに内藤某が入社している。要するに、平成八年三月以降、大阪支店には三名が新たに入社しているのであり、この点だけをみても、原告を解雇する必要性がなかったことは明らかである。
(3) マルマンゴルフから石井が入社した平成九年四月の時点において、大阪支店では販売活動維持のための人員が最低限度を割り込むような状態にあったのであり、しかも、その後も五名が退職している。被告が主張する基準時の平成九年二月からすれば、七名が異動・退職しており、被告の見込みよりもさらに二名減員しているという状況である。このような状況において、原告を解雇する必要性があったとは到底考えられない。
(二) 解雇回避努力について
整理解雇は経営者が自らの経営判断の誤りを従業員に転嫁するものであるから、経営者としては、その社会的責任上解雇という事態を避けるべくできる限りの手段をとらなければならない。
被告は、原告を他に配置する可能性がなかった旨主張しているが、原告本人は、平成九年度の希望進路について、営業職の他に、法務、新規開発、職場管理、人材育成などの部門を希望しており、被告において、十分にこの点を検討する余地はあったはずである。また、そるそも、前述したとおり、大阪支店の営業部門の人員が不足気味の状態であったのであるから、大阪支店営業部に配置することが十分に可能であったのである。それにもかかわらず、被告は、一切、この点を検討していない。さらに、被告はマルマンゴルフほか数社とグループ会社を形成し、これらグループ内で相互に人事交流が行われてきた。原告自身マルマンゴルフ配送センターに出向したことがあるし、本件整理解雇の直前にはマルマンゴルフから被告大阪支店に人員が補充されている。したがって被告は、これらグループ会社への出向、移籍をも含めて方策を考えるべきであったが、何らその努力をせず、また原告にその意向を打診もしていない。
(三) 人選の合理性について
(1) 原告のみを解雇の対象と選定した基準の不明確性
原告をただ一人指名解雇の対象とした被告の人選の基準はまことに暖(ママ)昧であり、不合理である。一家の大黒柱であった原告は、本件整理解雇通知を受けた当時五二歳であり他に転職することが非常に困難であったことは経験則上明らかなうえ、高校生と中学生の子がおり、失職することにより被る痛手は若年の社員らと比較にならないほど大きいものであることは明らかである。
(2) 原告の評価
被告は、人選の基準として、営業の業績、特別考課表、幹部試験の三点をもって各社員を評価し、これが本件整理解雇の資料となっているとするが、右評価のランクが原告よりも低い者はいたし、原告の成績が極端に悪かったというわけではなく平均的なレベルであった。原告は自己申告書において、担当業務以外の希望業務についても候補をあげるなど業務に対する意欲を書いており、また、被告が問題とする健康食品の販売実績も原告が健康品事業部に配転される前と比較すれば飛躍的に伸びているのであって、一部の販売員との比較のみを協(ママ)調する被告の主張は失当である。
また、被告は、原告が昭和五七年に名古屋デパート支店長からマルマンゴルフ配送センターへ異動になったのは懲罰として左遷されたものであると主張するが、これは当時被告において副支店を減らす等の事業所の統廃合がありそれに伴う人事異動であり、このとき原告は前橋支店への異動を打診されたが、家庭の事情からこれを断ったため千葉県松戸市のマルマンゴルフ配送センターに所長代理として赴任したのである。
さらに、原告は、平成九年五月時点で資格等級は四級であり、解雇予告通知を受けた時点で原告が受け取っていた給料の金額は手取で四〇万円を切っていたのであるから、原告の給料額が特段に高かったというわけではない。
要するに、被告が設定した人選の基準において、原告一人が解雇の対象として選ばれる要素はまったくなかったということにほかならならず、原告が解雇の対象として選定されたのは、まったく恣意的な理由によるというほかない。結局、被告においては、何が何でも原告を営業職から排除するという目的がはじめにあったということしか窺われず、なぜ原告を排除するのかの理由、基準はまったく不明であって、平成九年五月時点で原告のみを解雇した人選の合理性はまったくないというべきである。
(四) 労働者との十分な協議
被告は、平成九年五月に原告を解雇するにあたって、原告とまったく協議をしていない。すなわち、同年四月二四日に、大阪支店で、鈴木が、原告に対して、市場情報室の廃止と「そろそろ足を洗ってくれませんか。」と言ったきりで、原告に対して、なぜ、原告のみを解雇するのか、いつ原告を解雇するのか、解雇回避の方策として原告を他に配属する可能性がないのかなど、まったく原告と検討すらしていない。被告は、原告から団交申入書が届いた後、組合と団交したことをもって労働者との協議は尽くしたと主張しているが、ここで問われなければならないのは、解雇するまでにどれだけ協議したのか、ということである。しかるに、被告がしたのは、原告に対する退職勧奨のみである。
(五) 不当労働行為
原告は、平成九年三月三一日、本件降格処分を受けたが、これを不満とし、同年四月、労働組合に加入して、同月二八日、被告に対し、本件降格処分の撤回を求め、組合加入を通知するとともに、団体交渉を申し入れた。しかるところ、被告は、同年五月九日、本件整理解雇の予告通知をしたものであって、その時間的な経過をみれば、本件整理解雇が原告の労働組合加入を嫌悪してされたものであることは明白である。
二 争点2(普通解雇の有効性)について
1 被告の主張
原告には、次のような懲戒解雇事由に相当する事由があるので、普通解雇として有効である。
原告の市場情報室での執務状態は、<1>日常業務のための通信・交通のための経費を使っているにも関わらず、また長期の営業経験を有しているにも関わらず、何等成果を上げず、上げようとする意欲が全く感じられなば(ママ)かりか、成果を上げるようにとの業務指示を無視し続け、<2>職務としての支店営業活動への支援を命令されながら、拒否したもので、これらは業務命令違反として就業規則の「職務上の指示命令に不当に反抗し、事業場の秩序を乱したとき」に該当するものである。
2 原告の主張
被告は、原告に対し、解雇事由は就業規則二八条五項による旨告げていたもので、右以外の解雇事由を主張するのは不当である。
また、市場情報室で成果を上げていないという点については、その人員が原告一人では、十分な成果を上げることができないことを被告自身承知していたものであり、これをもって業務命令違反とするのは不当である。
三 争点3(未払い賃金の額)について
1 原告の主張
(一) 原告に支給されるべき賃金の金額
本件配置転換命令は、原告が、鈴木からの退職勧奨を拒絶した直後になされており、しかも、まず原告を仕事をさせない状態に置いた後、本人からの抗議を受けて、とってつけたように市場情報室を設置したものであり、市場情報室設置の合理的な理由、必要性はまったくなく、ただ原告を大阪支店内で孤立させることのみを目的としてなされたことが明らかである。このような恣意的な配置転換はそれ自体無効である。
また、本件降格処分について被告が主張する七年間の在職要件は、就業規則に規定がなく、またかかる規定を設けたとの会社からの通知もなかったものであるから、本件降格処分は根拠を欠く不当なものである。
従って、本件配置転換及び本件降格処分が無効である以上、原告には、各処分以前の資格、職位、職場に応じた計算により給料を支給される権利、すなわち、本社総務部付になる前の大阪支店第一営業部に所属していたときに支給されていた給料の支払を受ける権利がある。原告が、大阪支店第一営業部所属だった平成七年一二月から平成八年三月までに被告から毎月支給されていた給料(名目)は、左記のとおりである。
平成七年一二月 六五万七三七二円
平成八年一月 六七万一八九二円
同年二月 六六万五一一六円
同年三月 八一万七一九二円
以上四ヶ月の平均金額は、七〇万二八九三円であった。
(二) 原告に支給されるべき賞与の額
被告では、右月給のほかに、毎年六月及び一二月に特別分配(いわゆるボーナス)が支給されることになっている。被告における平成八年度上期特別分配率は、〇・五ヶ月であり、平成八年度下期特別分配率は、上期より〇・二五ヶ月分上昇して、〇・七五ヶ月であった。かかる実績からすると平成九年度の特別分配率は、平成八年度下期より〇・二五ヶ月上昇した一ヶ月であると考えられる。よって、原告は、平成九年度以降、特別分配として、少なくとも一ヶ月分の給料に相当する金員の支払を受ける権利がある。
2 被告の主張
(一) 鈴木は、平成八年三月一九日に原告と個別に面談し、希望退職に応じるか否かの意思の確認をしたが、原告は、営業職としての職務を大阪支店で遂行することを希望した。しかしながら、原告を大阪支店の営業職として残すことは、同支店の人員計画から考えて無理であることから、営業職としての経験を活かし、大阪での勤務が可能な部署として市場調査室を設立したものである。被告において、「市場調査室」と同様の職務をもつ部署として以前に「マーケティング企画部新商品開発課」「新商品開発部」「開発情報部」が設置されたことがあり、実際にも新商品の企画を提案し、被告の利益につながったこともあった。このように、市場調査室への配転はなんら無効とされるべきものではない。原告は四月一日以降、市場調査室設置まで期間があったことを問題とするが、原告に与える職務の検討に時間を要したにすぎない。
また、本件降格処分についても、現行資格在籍七年以上との条件は従来から存在していたものであって、何ら問題となるものではない。
(二) 原告の平均給与の主張については、平成八年三月の金額から六ヶ月の定期代金支給額一一万六五〇〇円を差し引くべきである。賞与について、特別分配率の主張については認めるが、支払義務があるとの主張は争う。
第三(ママ)当裁判所の判断
一 訴えの利益について
原告は、被告に対し、従業員たる地位の確認を求めるとともに、既発生部分及び将来分の賃金を請求するところ、右将来分の賃金の請求のうち、本判決確定後に支払期が到来するものについては、少なくとも現段階において、原告の労務提供の程度等賃金支払の前提となる諸事情が確定していない。従って、右本判決確定後の賃金支払い請求部分については訴えの利益がない。
二 争点1(本件整理解雇の有効性)について
1 いわゆる整理解雇については、これが労働者の責に帰すべき事由がない経営上の理由により、特定の労働者を解雇するものであることからすれば、人員削減の必要性がない場合、使用者が解雇回避努力を尽くさない場合、被解雇者の人選に合理性がない場合、さらには労働者との協議を尽くさない場合の解雇については、社会通念上合理的な理由がなく解雇権の濫用として無効になるとするのが相当である。
2 そこで、本件整理解雇について検討するに、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(一) 被告では、バブル経済崩壊後、主力製品であった家電品が、韓国や台湾といった海外メーカーによる低価額家電品の市場参入等により業績が不振となり、他の喫煙具、時計バンド、クロックといった商品についても売り上げ拡大が見込めない中、平成六年度には、平成三年度の売上高から約四六パーセントも減少し、赤字決算の状態となり、取引銀行からの融資も断られ、自力で経営再建を図らねばならない状態となった。
(二) 被告は、不採算部門の撤退、不要資産の売却、事業所の統廃合など経費削減に努め、また、平成七年には、事業部制を採用するなど組織改革も行った。その結果、平成六年度には約六三億円であった販売費及び一般管理費を(ママ)平成八年度には約三〇億円となったものの、売上高の減少に比べ経費削減が不足したため当該利益の確保には至らず、債務超過状態が続いた。このため平成七年下期には課長職以上の者に対し、一五パーセントから二五パーセントの給与カットを行うとともに、人員整理に着手することになり二一八名の人員を一一〇名に削減する計画を立てた。そして、その実現のために新規雇用の中止のほか、希望退職者の募集を決定した。
被告は、平成七年一一月にまず本社部門で希望退職者募集の説明を行ったのをはじめとして、鈴木が全国の支店で説明会を行った。大阪支店でも、平成八年一月一七日、二月一日、二日と希望退職の募集についての説明を行い、これには原告も参加していた。
(三) 被告は、平成八年四月に組織改編を行うことになり、兼任販売体制をとることになったが、その際、事業の撤退や縮小後の販売人数としては七〇名で足りると判断し、従前の販売員一一六名(家電二〇名、時計二〇名、喫煙具六名、健康品七名、宝飾五名、兼任五八名)から五八名を削減することとし、大阪支店における営業部門の人員は一五名とすることとなった。
(四) そして、被告は、希望退職者の募集に併せ、退職勧奨を行い、大阪支店においても、退職勧奨対象者の選定を行って勧奨するなどし、希望退職に応募したり、退職勧奨に応じ、また、配転等もあって、平成八年一月時点における二七名の人員は、平成九年二月には、一七名となり、そのうち五名の異動、退職予定者がいたため、販売市場の維持のため同年三月に一名、同年四月に一名をマルマンゴルフから移籍し、その後、同年七月に一五名となった(<証拠・人証略>)。また平成九年三月末日の被告の在籍者は、出向者七名を含め一二七名であり、人員計画案の削減予定人員を超えているのは販売員の数である(<証拠略>)。
(五) 被告においては、平成七年に、事業部制を採用するなど組織改革を行ったが、原告は、この事業部制の採用に伴い、原告は大阪南部営業所から、健康品事業部へ異動となった(<証拠略>)。この健康品事業部において、原告は、売上高全体としては、他の販売員と比較してもそれほど劣るわけではないものの、被告が主力商品とし、原告としてもその販売に重点をおくべきとされていた健康食品の売上げの比率が他の販売員と比較してその半分程度と劣っていた(<証拠略>)。また、健康食品の売上げを増やすようにとの上司の指示にも従わず、従来どおりの販売姿勢を変えることはなかった。更に、原告は、平成六年大阪中央支店の支店長時代に行われた能力試験である「幹部試験」では、模範解答が一ヶ月前に配付され、受験者全員の平均点が七八・六点であったにもかかわらず、原告は六四・五点であったが、受験者一六七名中七〇点未満の社員はわずか二〇名程度であった。
被告は、平成七年に、退職勧奨者選定の資料とするため、上司による「特別考課表」を提出させ、平成五年、六年の業績・人事測定研究所の行うSPI(職務適応性)テスト・幹部試験評点の三項目の総合考課、及び平成七年度の業務成果を総合評価して全社員をAからEの五段階に分類し、Dランク及びEランクの社員を退職勧奨の対象者としたが、原告は、「特別考課表」の評価がDランク、三項目の総合考課評価がCランク、平成七年度の業務成果評価がDランクということで総合的にDランクとして評価づけられた(<証拠・人証略>)。
原告は、平成八年四月の組織改編の際、右総合効果(ママ)の結果、また上司の指示に従わないといった点が協調性に欠けるとして、兼任販売担当制における兼任販売担当者とするのは不適当であると判断され、退職勧奨の対象者とされた。そして、原告は、平成八年三月一九日には、本社で鈴木と面談し、希望退職に応じる意思の確認を受けたが、これを拒否した。なお、この時期、原告と同様に退職勧奨の対象とされた者は外にも一〇数名おり、これらの者は、希望退職制度に応じたり、他の職種に転換したりしており、最終的に解雇となった者は原告一名のみであった(<人証略>)。
(六) 被告は、原告が退職勧奨に応じなかったことから、原告を配置するため、新たに市場情報室を設置し、フィールドマネージャーという肩書きを与えて配転した。原告は、同部署において、健康食品の消費者動向調査等のテーマを与えられ(<証拠略>)、取引先へ調査に赴くなどして、報告書を提出したが、その内容は主にマーケティングに関する書籍の内容のレポートといったものであった(<証拠略>)。
その間、平成八年の夏のボーナス時期及び年末の商戦時期に、相良忠征営業部長(以下「相良」という。)が、営業の補助を原告に依頼したところ、原告がこれを拒否したこともあった。
鈴木は、平成九年四月二四日、大阪支店で原告と面談した。鈴木は、原告に対し、この一年間の業務内容では市場調査室を継続することはできないこと、原告の能力からして、原告が希望する他の部署に配属することはできないこと、他の同僚から嫌われていることもわかるであろうから、被告を退職し新しい道に進んでほしいことを述べた。これに対し、原告は健康品事業部への異動の説明と市場調査室についての被告の考えを求めるとともに、退職を勧奨されることは納得できないと述べた。そして、役員又は社長による説明を求めた。なお、原告は、平成九年の自己申告書において、現勤務地以外の勤務は不可とするものの、営業職以外の職種についてもこれを希望する旨記載していた(<証拠略>)。
(七) 被告は、平成九年四月、市場調査室を、同年五月一五日付けで廃止することを決定した。そこで、市場調査室の要員は不必要となった。
3 以上に鑑みるに、被告において、平成八年初めころには、大幅な人員削減を行う必要があったことは認められるが、その人員は、平成九年には、被告全体としては、予定の人員規模を一〇名程度上回るまで減少し、大阪支店においても、平成九年二月には、予定人員を二名上回る一七名であったものの、そのうち五名の異動、退職予定者がおり、販売市場の維持のため二名を移籍しなければならない状況であった。削減予定人員を超えているのは販売員の数であるが、マルマンゴルフから営業要員として二名受け入れざるをえない状況であったことからすると、人員削減に未達成の部分はあるとしても、その必要性は相当程度減少していたということができる。市場情報室の要員については、その廃止によって不要となることは明らかであるが、廃止時に、その担当が原告であったというだけで、削減の対象者が原告に定まるものでもない。市場情報室の廃止は、同年四月に決定されていたところ、マルマンゴルフからの営業要員受入れは、これと時期を同じくするものであり、原告の成績は決して優良とはいえず、また、就業態度も他の部署からの応援要請を断るなど良好ではなかったことは窺われるが、営業成績自体は、被告の経営姿勢に沿わない部分があるとしても、平均的なレベルであったし(<人証略>)、原告を右営業要員とすることが困難であったという事情は認められない。
また、原告は、平成九年の自己申告書において、現勤務地以外の勤務は不可とするものの、過去には千葉、名古屋等大阪以外の勤務地で勤務したこともあり、被告において配転に従業員の承諾が要件となっているものでもなく、また、現実に他の地域への配転を提案して拒絶されたという事実もない。さらに、営業の以外の職種についてもこれを希望していたことからすると、原告の配置については、関連会社への出向をも含めて、検討の余地はあったということができる。
以上のとおり、人員削減の必要性が小さくなっており、他に、配転等の解雇回避措置を採りうる状況のもとでは、原告ただ一人を、整理解雇として指名解雇しなければならなかったというのは疑問である。退職勧奨の対象者の内で、これを拒否したのが、原告だけであるとしても、他の退職勧奨者との公平を害するとまでの事情もない。
これらの人員削減の必要性の程度、解雇回避の努力等の諸事情を総合して判断すると、原告に対する本件整理解雇は、未だ、社会通念上合理的な理由があるということはできず、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない。
二(ママ) 争点2(普通解雇の効力)について
被告は、普通解雇の理由として、原告の市場情報室での執務状態及び支店営業活動への支援についての業務命令違反をあげるが、市場情報室での成果が上がらなかったことは、これに十分な成果を期待するのであれば、原告に担当させたこと自体に問題があるし、態勢としても不十分であり、その責任を原告一人に負わせるのは酷というものである。支店営業活動への支援についても、それだけで解雇を合理的とするようなものではない。結局、原告に対する解雇は、整理解雇以外の普通解雇としても、これを社会通念上合理的とする事情はないから、解雇権の濫用として効力を認めることはできない。
三(ママ) 争点3(未払い賃金の額)について
1 本件配転命令の効力
本件配転命令が、原告が退職勧奨を拒否したことから、原告を配置するために新たに市場情報室を設置して行われたことは前述のとおりである。そして、配転命令後、市場情報室設置まで一ヶ月半を要し、その後、具体的な業務指示までさらに二ヶ月を要したこと、市場情報室の態勢も構成員は原告一人で、十分な成果を得るにははなはだ不十分なものであったことが認められるが(<証拠略>、原告本人)、資格等級に変化はなく、手当を除く賃金にも変化はないのであって、これを無効とするまでの事情は認められない。
2 本件降格処分の効力
本件降格処分は、役職を解くたぐいの降格ではなく、職能部分の賃金の減額をも伴うものであるが、右賃金の額は雇用契約の重要な部分であるから、従業員の同意を得るか、あるいは少なくとも就業規則上にその要件について明示すべきである。しかし、本件降格処分においては、原告がこれを承諾した事実はないし、就業規則に懲戒処分としての降格の規定はあるものの、原告に対する降格通知書(<証拠略>)をみても、その根拠規定は明らかでない。結局、本件降格処分の根拠及びその合理性については、未だ立証が尽くされているとは認められない。してみれば、本件降格処分の効力はこれを認めることができないというべきである。
3 原告に支給されるべき賃金額
以上によれば、原告の月額賃金請求の基礎とすべきは、平成九年一月から三月までの三ヶ月間であり、この間の原告の賃金月額の平均(名目)は、五四万五一〇〇円である(定期代は除く。)。
賞与については、被告の業績と連動するものであり、額が一定ではない(当事者間に争いがない事実)ことに鑑みれば、今後必ずしも原告請求の金額になるともいえず、また、平成九年度以降、口頭弁論終結時までの分配率については主張立証がないから、結局この点についての原告の主張は認められない。
四(ママ) よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 川畑公美 裁判官和田健は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松本哲泓)
別紙1 貸借対照表
<省略>
別紙2 人員計画及び人員推移
<省略>