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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)2668号 判決 2000年1月21日

原告

長濱義光

被告

和田修

主文

一  被告は、原告に対し、金四四五万六二〇七円及びこれに対する平成七年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二三三五万三四三九円及びこれに対する平成七年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成七年九月一六日午後五時四〇分ころ

(二)  場所 兵庫県西宮市上田中町五番二九号先路上

(三)  事故車両 被告運転の普通貨物自動車(大阪四七ね七三五二)

(四)  態様 事故車両は道路の側壁に激突し、同乗していた原告が負傷した。

2(責任)

本件事故は、被告の前方不注視、速度の出しすぎ等被告の過失により発生したものであり、民法七〇九条基づく賠償責任がある。

3(傷害、治療経過、後遺障害)

(一)  傷害

頭部挫滅創、右中指裂傷、左下肢挫傷

(二)  治療経過

(1) 医療法人高明会西宮渡辺病院

平成七年九月一六日から同月一八日まで入院三日間

(2) 社会福祉法人恩賜財団済生会済生会野江病院

平成八年六月五日から同月一三日まで入院九日間

平成八年六月二四日から同年九月二七日まで入院

平成七年九月一九日から平成九年九月三〇日まで通院(実通院日数二四日)

(三)  後遺障害

原告は、平成九年九月三〇日症状固定し、後遺障害等級一〇級と認定された。

4(損害)

(一)  治療費 一五万六一三一円

(1) 聖友病院 四万〇〇〇一円

(2) 済生会野江病院 一一万六一三〇円

(二)  入院雑費 一四万〇四〇〇円

一日一三〇〇円の割合で一〇八日分

(三)  メガネ代 六万六〇〇〇円

(四)  交通費 一二万〇六八〇円

(1) 渡辺病院 三六四〇円

(2) 済生会野江病院 一一万七〇四〇円

バス代 一一万二一八〇円

タクシー代 四八六〇円

(五)  付添看護費 六四万八〇〇〇円

入院期間一〇八日間について家族の付添看護を要した。一日六〇〇〇円の割合で一〇八日分

(六)  入通院慰謝料 二五〇万円

(七)  休業損害 一二〇六万五三〇六円

原告は、本件事故当時、日給月給で関西電力の下請けの河野電気に勤務しており、分電盤の設置、変電所のトランスの据え付け、配管、配線、ケーブルの敷設等の作業をし、一か月四八万五二〇〇円を下らない収入があったところ、平成七年九月一六日から平成九年九月三〇日までの七四六日間休業を余儀なくされた。

したがって、原告の休業損害は、次の計算式のとおり、一二〇六万五三〇六円となる。

(48万5200円/30日)×746日=1206万5306円

(八)  後遺障害慰謝料 四六一万円

(九)  逸失利益 一四四八万六四二二円

原告の後遺障害等級は一〇級であり、その労働能力喪失率は二七パーセント、症状固定から就労可能な六七歳まで一二年間就労が制限されると考えられる。

したがって、原告の逸失利益は、次の計算式のとおり、一四四八万六四二二円となる。

48万5200円×12か月×0.27×9.215=1448万6422円

(一〇)  弁護費用 一〇〇万円

よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として、金二三三五万三四三九円及びこれに対する本件事故の日である平成七年九月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3(一)、(二)は知らない。

(一) 原告は、平成七年九月一六日、西宮渡辺病院に搬送され、入院治療を受けた。

原告のその時点での症状は、頭部右側挫滅創、左中指裂傷、左下肢挫傷であったが、頭部CT、X-P上は骨折もなく、原告は全身懈怠感、頭痛を訴えている状態であった。

(二) 原告は、平成七年九月二〇日から聖友病院で通院治療を受けるようになった。

原告は、当初の一週間程度は、左下肢の傷のため歩くのに支障があったが、その後は左手のしびれや頭痛が継続していた。

しかし、上腕二頭筋反射・橈骨筋反射・上腕三頭筋反射・ホフマン反射・フルテンベルグ反射・膝蓋腱反射・アキレス鍵反射・バビンスキー反射はいずれも正常であった。

(三) MRI・X―P検査も異常はなかったが、原告には加齢的な変化により椎間板の変形が生じていた。

(四) 原告は、平成八年五月ころまで聖友病院に通院したが、頭痛や手のしびれの継続はあったが、症状の改善がないため、聖友病院の医師は、症状固定と判断していた。

この時点の原告の症状は、頭痛・項部痛・手のしびれ程度であり、頑固な神経症状が残存しているだけであった。

(五) 原告は、右頭痛などが残存していることに納得できず、平成八年五月一六日、済生会野江病院で治療を受けることにした。

(六) 原告は、済生会野江病院で第五、第六頸椎椎間板ヘルニアと判断され、前方固定術を受けた。

右手術は、第五、第六頸椎椎間板の後縦靭帯を露出するまで切除し、そこに腸骨の一部の骨移植を行うというものであった。

(七) 原告は、前方固定術を行い、その結果頭痛は治ったが、手のしびれは残存し、その後に反射性交感神経性ジストロフィーの症状が認められ、左臀部痛が生じ、跛行するようになった。

同3(三)のうち、原告が自賠責保険で脊椎の変形障害で一一級七号、骨盤骨の変形障害で一二級五号、併合一〇級の認定を受けたことは認める。

(一) 原告は、本件事故により生じた傷害に対しては、治療を受け、平成八年五月ころには既に症状固定となっていた。

右時点での原告の残存する後遺障害は、頭痛・項部痛・手のしびれであり、頑固な神経症状といえるものであり、後遺障害等級一二級一二号程度のものでしかなかった。

(二) 原告の受けた頸椎前方固定術は、本件事故との因果関係はなく、頸椎椎間板が加齢現象による経年性変化でヘルニアが生じたものである。

(三) 原告の後遺障害は、前方固定術を行った結果、脊椎に変形を残すものとして一一級七号が認められ、右固定術のため腸骨から骨移植を行った結果、骨盤骨の変形により一二級五号が認定されたものである。

(四) 原告には右脊椎前方固定術までは不要であり、右後遺障害は本件事故と相当因果関係はない。

(五) 骨盤骨の変形については、労働能力の喪失を伴わないものと判断されている。

3  同4は争う。

原告は、加害車両に付保していた自動車保険の搭乗者傷害保険金三四五万五〇〇〇円を受け取っているから、慰謝料減額要素として斟酌すべきである。

三  抗弁

1(過失相殺)

原告は、本件事故により頭部挫滅創、左中指裂傷、左下腿挫傷の傷害を負ったが、原告がシートベルトをしていれば、頭部挫滅創の傷害を負うことはなく、その後の後遺障害の発生はなかったものであるから、シートベルト不装着につき一〇パーセントの過失相殺をすべきである。

2(寄与度減額)

原告の頸椎椎間板ヘルニアと本件事故との間に因果関係が認められるとしても、椎間板ヘルニアは明らかに原告の経年性変化に基づくものであり、本件事故の寄与度は五〇パーセントを超えることはない。

3(損害填補)

(一)  治療費 三八万四九〇九円

(1) 西宮渡辺病院治療費 四万九九二四円

(2) 聖友病院治療費 二八万八七八〇円

(3) 済生会野江病院 六三〇〇円

(4) 中谷義肢 三万九九〇五円

(二)  労災保険休業補償給付 五〇一万三五〇〇円

(三)  原告へ 七四二万六〇〇〇円

(四)  大東市へ 九万七〇八五円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1、2は争う。

2  同3は認める。

ただし、(一)治療費三八万四九〇九円、(四)大東市九万七〇八五円は本訴請求外である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(傷害、治療経過、後遺障害)

1  傷害(乙二の1、2)

頭部挫滅創、右中指裂傷、左下肢挫傷

2  治療経過(乙二の1、2、三の1、2、五、弁論の全趣旨)

(一)西宮渡辺病院

平成七年九月一六日から同月一八日まで入院三日間

(二)  聖友病院

平成七年九月二〇日から平成八年六月三日まで通院

(三)  済生会野江病院

平成八年六月五日から同月一三日まで入院九日間

平成八年六月二四日から同年九月二七日まで入院九六日間

平成八年六月二八日第五、第六頸椎椎間板ヘルニア摘出、前方固定術(第五、第六頸椎椎間板の後縦靭帯を露出するまで切除し、そこに腸骨の一部の骨移植をしたもの)施行

平成八年九月二八日から平成九年九月三〇日まで通院(実通院日数二四日)

(四)  後遺障害

原告は、平成九年九月三〇日症状固定し(甲三)、自賠責保険で脊椎の変形障害で一一級七号、骨盤骨の変形障害で一二級五号、併合一〇級の認定を受けた(争いがない。)ことが認められる。

なお、原告の頸椎椎間板ヘルニアとの診断は済生会野江病院において初めてされたものであり、本件事故後八か月余経過しているのであるが、それまでに原告は左手のしびれ感があるなどその症状が認められ、本件事故との因果関係を否定しなければならない事情は見出せない。

三  請求原因4(損害)

1  治療費 五四万一〇四〇円

(一)  聖友病院 四万〇〇〇一円(甲一二ないし二六)

(二)  済生会野江病院一一万六一三〇円(甲二七ないし七一)

(三)  他に次の治療費三八万四九〇九円を要している(争いがない。)

(1) 西宮渡辺病院治療費 四万九九二四円

(2) 聖友病院治療費 二八万八七八〇円

(3) 済生会野江病院 六三〇〇円

(4) 中谷義肢 三万九九〇五円

2  入院雑費 一四万〇四〇〇円

入院雑費は一日一三〇〇円と認めるのが相当であるから、その一〇八日分で一四万〇四〇〇円となる。

3  メガネ代 六万六〇〇〇円(原告本人)

4  交通費 一二万〇六八〇円(甲八ないし一一)

5  付添看護費 五二万五〇〇〇円

証拠(甲二、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、済生会野江病院での入院期間(一〇五日間)中は付添看護を要し、家族の付添看護をしたことが認められ、付添看護費は一日五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、五二万五〇〇〇円となる。

6  入通院慰謝料 一九〇万円

原告の受傷の部位、入通院状況からすると、入通院慰謝料は一九〇万円と認めるのが相当である。

7  休業損害 七七六万円

証拠(甲五ないし七、七四、乙四の1ないし23、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告(昭和一五年一二月七日生、本件事故当時五四歳)は、本件事故当時、日給月給で関西電力の下請けの河野電気株式会社に勤務しており、分電盤の設置、変電所のトランスの据え付け、配管、配線、ケーブルの敷設等の作業をしており、月額四〇万円を下らない収入があったことが認められる。

また、前記認定の入通院状況及び後遺障害の程度からすると、本件事故日から症状固定までの二四・五か月間について、当初の一二・五か月は一〇〇パーセント、その後の三か月は八〇パーセント、その後の九か月は五〇パーセントの労働能力を喪失したものとして休業損害を算定するのが相当である。

すると、次の計算式のとおり七七六万円となる。

40万円×(12.5か月+0.8××3か月+0.5×9か月)=776万円

8  後遺障害慰謝料 一二〇万円

原告の後遺障害の部位、程度に原告が搭乗者傷害保険金三四五万五〇〇〇円を受領していることを考慮すると、後遺障害慰謝料は一二〇万円と認めるのが相当である。

9  逸失利益 八八四万六四〇〇円

原告(症状固定時五六歳)の後遺障害の部位、程度からすると、労働能力喪失率は二〇パーセント(骨盤骨の変形は、前方固定術の際に腸骨を採取した結果であるから、労働能力に影響するものとは認められない。)、就労可能年数一二年とするのが相当であるから、ホフマン式計算法により逸失利益を算定すると、次の計算式のとおり八八四万六四〇〇円となる。

40万円×12か月×0.2×9.215=884万6400円

10  以上、休業損害及び逸失利益の合計は一六六〇万六四〇〇円、その余の損害合計は四四九万三一二〇円となる。

四  抗弁1(過失相殺)、2(寄与度減額)

証拠(証人志田一郎、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故時シートベルトを装着しておらず、そのために頭部強打したこと、頸椎に経年性の骨棘形成が本件事故以前から存在したことが認められるから、原告の頸椎椎間板ヘルニア(本件事故による原告の症状の主たる原因である。)の発生については、右が影響していることは明らかであり、前記損害額から二〇パーセントを控除するのが相当である。

そこで前記損害額からその二〇パーセントを控除すると、次のとおりとなる。

(一)  休業損害及び逸失利益 一三二八万五一二〇円

(二)  その余の損害 三五九万四四九六円

五  抗弁3(損害填補)は当事者間に争いがない(ただし、大東市に対する支払は原告の損害ではない。)。

1  休業損害及び逸失利益一三二八万五一二〇円から労災保険休業補償給付五〇一万三五〇〇円を控除すると八二七万一六二〇円となる。

2  その余の損害三五九万四四九六円と右八二七万一六二〇円の合計一一八六万六一一六円から既払の治療費三八万四九〇九円及び原告への既払金七四二万六〇〇〇円を控除すると、四〇五万五二〇七円となる。

六  弁護士費用(請求原因4(一〇)) 四〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は四〇万円と認めるのが相当である。

七  よって、原告の請求は四四五万六二〇七円の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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