大阪地方裁判所 平成10年(ワ)2731号 判決 1999年7月26日
第二七三一号事件原告
坪本運送株式会社
被告
西播通運株式会社
ほか五名
第八一〇九号事件原告
西播通運株式会社
ほか一名
被告
坪本運送株式会社
ほか一名
主文
一 平成一〇年(ワ)第二七三一号事件被告らは、同事件原告に対し、連帯して金三九二万二〇七三円及びこれに対する平成三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 同事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 平成一〇年(ワ)第八一〇九号事件被告らは、同事件原告西播通運株式会社に対し、連帯して金三四五万〇三〇三円及びこれに対する平成三年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 同事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を平成一〇年(ワ)第二七三一号事件原告坪本運送株式会社の負担とし、その一を同事件被告西播通運株式会社及び被告渋田正勝の負担とし、その三を同事件被告伊勢豊浜運送有限会社及び被告大江規行の負担とし、その三を同事件被告丸喜運輸株式会社及び被告岩城央の負担とする。
六 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 平成一〇年(ワ)第二七三一号事件
平成一〇年(ワ)第二七三一号事件被告らは、同事件原告に対し、連帯して金四七三万九五一二円及びこれに対する平成三年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 平成一〇年(ワ)第八一〇九号事件
(一) 平成一〇年(ワ)第八一〇九号事件被告らは、同事件原告西播通運株式会社に対し、連帯して金五八九万〇四〇五円及びこれに対する平成三年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 同事件原告らは、同事件被告坪本運送株式会社に対し、平成三年八月二〇日に発生した交通事故に基づく損害賠償債務を負わないことを確認する。
第二事案の概要
一 訴訟の対象
両事件とも、個人に対しては民法七〇九条(交通事故、物損、多重追突事故)、会社に対しては民法七一五条
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
(一) 交通事故の発生(甲一)
<1> 平成三年八月二〇日(火曜日)午前〇時五〇分ころ(雨)
<2> 三重県鈴鹿郡関町大字加太中在家地内名阪上り一一・〇キロポスト
<3> 平成一〇年(ワ)第二七三一号事件被告大江規行(以下、大江という。)は、普通貨物自動車(三一一あ一一七〇)(以下、伊勢豊浜車両という。)を運転中
大江は、同事件被告伊勢豊浜運送有限会社(以下、伊勢豊浜運送という。)の従業員であり、業務中
伊勢豊浜運送は、伊勢豊浜車両を所有
<4> 同事件被告渋田正勝(以下、渋田という。)は、普通貨物自動車(姫路一一き八三九二)(以下、西播車両という。)を運転中
渋田は、同事件被告西播通運株式会社(以下、西播通運という。)の従業員であり、業務中
西播通運は、西播車両を所有
<5> 同事件被告岩城央(以下、岩城という。)は、普通貨物自動車(大阪一三き八二六一)(以下、丸喜車両という。)を運転中
岩城は、同事件被告丸喜運輸株式会社(以下、丸喜運輸という。)の従業員であり、業務中
丸喜運輸は、丸喜車両を所有
<6> 山本司(以下、山本という。)は、大型貨物自動車(奈良一一き二二〇)(以下、坪本車両という。)を運転中
山本は、同事件原告坪本運送株式会社(以下、坪本運送という。)の従業員であり、業務中
坪本運送は、坪本車両を所有
<7> 雨の中の多重追突事故
三 坪本運送の主張
伊勢豊浜車両は、スピードの出しすぎなどの過失がある。西播通運、丸喜運輸、坪本運送は、十分な車間距離を保たなかったなどの過失がある。
坪本運送は、本件事故により、車両損害(全損) 五〇〇万円、クレーンによる車両引き上げ移動代二一万九三九〇円、積み荷積み替えの損害一五万五〇〇〇円の損害を被った。
損害の合計は五三七万四三九〇円であるが、このうち坪本運送の過失二割相当分を除き、八〇パーセント相当額である四二九万九五一二円を請求する。
弁護士費用は、四四万円が相当である。
四 西播通運、渋田の主張
伊勢豊浜車両は、スピードの出しすぎなどの過失がある。丸喜運輸、坪本運送は、十分な車間距離を保たなかったなどの過失がある。西播通運には過失がない。
西播通運は、本件事故により、修理費四一八万〇〇二〇円、レッカー代二七万〇八九〇円、荷台積載物の損傷に伴う損害一一五万九〇〇〇円(株式会社西播テナント工業関係分一二万六〇〇〇円、姫路日野自動車工業株式会社関係分一〇三万三〇〇〇円)、消費税二八万〇四九五円の合計五八九万〇四〇五円の損害を被った。
また、西播通運、渋田は、坪本運送に対して責任を負わないから、債務がないことの確認を求める。
五 伊勢豊浜運送、大江の主張
本件事故から三年以上経過しており、損害賠償請求権は時効消滅した。
仮に、伊勢豊浜車両に過失があったとしても、先行車両が蛇行運転を始めたため、やむを得ず急ブレーキをかけたから、その過失は二〇パーセントを越えない。
六 丸喜運輸、岩城の主張
本件事故の原因は、伊勢豊浜車両のスピードの出しすぎである。
七 中心的な争点
過失、消滅時効
第三過失に対する判断
一 証拠(甲二、三)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場の状況
本件事故は、ほぼ直線の通称名阪国道で発生した。名阪国道は、最高速度が時速六〇キロメートルに規制されている。前方の見通しはよい。片側二車線の道路であり、一車線の幅員は三・五メートルである。対向車線との間には、中央分離帯がある。本件事故当時は、激しく雨が降っていた。
(二) 大江の説明
大江は、伊勢豊浜車両を運転して、本件事故現場にさしかかった。第二車線を時速約八〇キロメートルで走行していた。
前方約五〇メートルを走行していたワンボックスカーが、突然車両後部を振り出し、蛇行運転を始めたのを見つけ、危険を感じ、ハザードランプを点灯させ、同時に急ブレーキを踏んだ。
ところが、雨が激しく、路面に轍があり、スピンをして、瞬時に車体が斜めになった。その数秒後に、後続の車両に衝突され、約六メートル押されて停止した。
この後、後続車両が接近してきたので、危険を感じて、車外に出た。車外に出てからの衝突状況はよくわからない。
(三) 渋田の説明
渋田は、西播車両を運転して、本件事故現場にさしかかった。第一車線を時速約八〇ないし九〇キロメートルで走行していた。
伊勢豊浜車両が第二車線を走行して西播車両を追い抜いたが、前方四〇ないし五〇メートル先で横になって車線を塞いでいるのを見て、急ブレーキをかけた。
ところが、西播車両が伊勢豊浜車両に衝突したかどうかわからないうちに、後続の丸喜車両に追突され、道路左側の側壁に衝突しながら停止した。後続車に追突されたときは、停止していたのではなく、スリップ状態であったと思う。
そして、数秒後、さらに後部に大きな衝撃を受け、坪本車両にも衝突された。
(四) 岩城の説明
岩城は、丸喜車両を運転して、本件事故現場にさしかかった。第一車線を時速約七〇キロメートルで走行していた。衝突の五ないし一〇秒くらい前に、大江車両が第二車線を時速一〇〇キロメートル以上の速度で追い抜いていった。
その直後、丸喜車両の前方四〇ないし五〇メートル先を走行していた西播車両のブレーキランプを見つけ、急ブレーキを踏んだ。西播車両の横には、伊勢豊浜車両が二車線を塞ぐ状態で横向きになっていた。
結局、西播車両に追突した。その五ないし一〇秒後に、後続の坪本車両が、自車の右後部に衝突し、右側を擦過して、伊勢豊浜車両と西播車両に追突し、五メートル以上押し広げて停止した。
西播車両と伊勢豊浜車両が接触したかどうかはわからないが自車が追突時、西播車両は停止していたと思う。
(五) 山本の説明
山本は、坪本車両を運転して、本件事故現場にさしかかった。第二車線を時速約八〇ないし九〇キロメートルで走行していた。
前方に斜め状態になって車線を塞いでいるトラックを見つけ、急ブレーキを踏んだ。衝突は避けられないと直感し、キャビンを衝突させることだけは避けようと考え、トラックと中央分離帯との間にはスペースがほとんどなかったので、咄嗟に左にハンドルを切ったが、伊勢豊浜車両の右側面を擦過して、西播車両の右後部角に衝突した。
二 これらの事実によれば、正確な事故態様や各衝突による損傷状況はわからないが、伊勢豊浜車両が急ブレーキをかけてスリップしたところに、後続の西播車両がやはり急ブレーキをかけてスリップし、その後続の丸喜車両と坪本車両が追突したものであると認められる。
三 したがって、伊勢豊浜車両は、雨の中、安全な速度で走行しなかった過失がある。
西播車両は、やはり、雨の中、安全な速度で走行しなかった過失がある。西播通運は過失がないと主張するが、後続車両の追突をまねいた急停止(急減速)があり、さらにスピードを出しすぎていたといわざるを得ない。
丸喜車両は、雨の中、安全な速度で走行せず、十分な車間距離を保たなかった過失がある。
坪本車両は、雨の中、安全な速度で走行せず、十分な車間距離を保たなかった過失がある。
四 これらの過失を比べると、先行車両が急停止することもあり得るから、後続車両は、安全な速度で、車間距離を保って走行すべきであるにもかかわらず、丸喜車両と坪本車両は、制限速度をオーバーし、車間距離を保っていないから、過失は小さいとはいえない。
しかし、本件では、先行車両である伊勢豊浜車両は、激しい雨にもかかわらず、制限速度をはるかにオーバーして、走行車線の後続車両を追い抜き、急ブレーキをかけたため、スリップして、車線を塞いでしまった。そうすると、このような伊勢豊浜車両の危険な走行が本件事故を起こしたといえるから、その過失は小さいとはいえない。
なお、西播車両は、伊勢豊浜車両が急ブレーキをかけたため、やむを得ず急ブルーキをかけたにすぎないから、その過失は小さい。
したがって、本件事故をひとつの事故と考えたうえ、過失割合は、伊勢豊浜運送三〇、西播通運一〇、丸喜運輸三〇、坪本運送三〇とすることが相当である。
第四消滅時効に対する判断
一 証拠(乙一ないし一九)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 平成三年八月二〇日、本件事故が発生した。
(二) 同年一〇月、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人は、西播通運、坪本運送、丸喜運輸に対し、本件事故について、示談交渉の代理人となる旨の通知をした。
(三) 平成四年二月、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人は、坪本運送、丸喜運輸などに対し、過失割合についての考え方を示したうえ、返答がほしい旨の連絡をした。
(四) 同じころ、坪本運送と山本の本件訴訟代理人は、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人に対し、本件事故について委任を受けた旨の通知をした。
(五) その後、平成四年七月までの間、ファックスなどで、意見交換をした。
(六) さらに、平成四年八月、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人は、西播通運、坪本運送、丸喜運輸に対し、過失割合について、西播通運が〇、その他が三分の一ずつという内容の和解案を提示した。
(七) これに対し、平成四年九月、丸喜運輸の保険会社の代理人は、伊勢豊浜運送提示の和解案には承諾できない旨の回答をした。
(八) 平成五年一月、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人は、坪本運送、丸喜運輸に対し、前記回答以降、和解が進展しないので、新たな和解案を提示してほしい旨の連絡をした。
同じころ、丸喜運輸の保険会社の代理人は、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人に対し、話し合いによる解決は難しいので、西播通運から訴えを提起するように打診したらどうかという内容の連絡をし、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人は、西播通運に対し、その旨を伝えた。
(九) 平成六年一月、坪本運送の本件訴訟代理人は、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人に対し、訴訟提起することができない旨の連絡をした。
(一〇) 平成七年四月、坪本運送の本件訴訟代理人は、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人に対し、提示があった和解案について、過失割合は承諾するが、損害について上乗せしてほしいという連絡をした。
(一一) 同月、伊勢豊浜運送の本件訴訟代理人は、坪本運送の本件訴訟代理人に対し、これまでの経過から考えて、損害を増額する内容の話し合いは困難である旨の回答をした。
(一二) 平成九年一〇月、坪本運送は、伊勢豊浜運送、西播通運、丸喜運輸を相手に調停を申し立てたが、平成一〇年三月、不成立となった。
(一三) 平成一〇年三月、西播通運と渋田は、伊勢豊浜と坪本運送を被告として本件訴えを提起した(平成一〇年(ワ)第八一〇九号)。
また、同月、坪本運送は、大江、伊勢豊浜運送、渋田、西播通運、岩城、丸喜運輸を被告として、本件訴えを提起した(平成一〇年(ワ)第二七三一号)。
二 これらの事実によれば、確かに、西播通運と坪本運送は、本件事故後三年を経過してから本件訴えを提起している。
しかし、前記認定のとおり、伊勢豊浜運送、西播通運、丸喜運輸、坪本運送らは、本件事故後、話し合いによる解決のため連絡を取り合っていたこと、具体的な和解案の提示をしていたこと、最終的には、話し合いが困難で、訴えを提起せざるを得ないと意見交換していたこと、意見交換は平成七年四月まで続いたこと、坪本運送は平成九年一〇月調停を申し立てたことなどが認められる。
そうすると、伊勢豊浜運送が話し合いによる解決のための努力をしていたとしても、西播通運や坪本運送が本件事故後三年のうちに訴えを提起しなかったことはやむを得ないというべきである。したがって、伊勢豊浜運送の消滅時効の抗弁は信義則に反し許されないということが相当である。
第五損害
一 坪本運送分
坪本運送の損害は、車両損害(全損)四八〇万〇〇〇〇円(乙二一、弁論の全趣旨)、クレーンによる車両引き上げ移動代二一万九三九〇円(甲六)、積み荷積み替えの損害一五万五〇〇〇円(甲七)の合計五一七万四三九〇円と認められる。
したがって、伊勢豊浜運送、西播通運、丸喜運輸らは、連帯して、坪本運送に対し、損害額の七割相当額である三六二万二〇七三円及び弁護士費用三〇万円の合計三九二万二〇七三円を支払う義務がある。
二 西播通運分
西播通運の損害は、車両損害(全損)二四〇万〇〇〇〇円(乙二二)、レッカー代二七万〇八九〇円、荷台積載物の損傷に伴う損害一一六万二七八〇円(株式会社西播テナント工業関係分一二万九七八〇円、姫路日野自動車工業株式会社関係分一〇三万三〇〇〇円)(甲三、四)の合計三八三万三六七〇円と認められる。
したがって、伊勢豊浜運送、坪本運送は、連帯して、西播通運に対し、損害額の九割相当額である三四五万〇三〇三円を支払う義務がある。
なお、西播通運と渋田は、坪本運送に対し、債務がないことの確認を求めるが、坪本運送の西播通運と渋田に対する請求の確定判決により争いが解決するから、確認の利益がない。
(裁判官 齋藤清文)