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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)3342号 判決 1998年11月10日

原告

野岸正治

被告

河久商事株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、六六万八七五八円及びこれに対する平成五年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担の、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、五〇〇一万八一七七円及びこれに対する平成五年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告の運転する原動機付自転車と被告が所有し、松本裕之(以下「松本」という。)が運転する自動車との衝突事故に関し、原告が被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1ないし8(一)は当事者間に争いがない。8(二)は原告において明らかに争わないので自白したものと見なされる。

1  松本は、平成五年四月九日午前八時三〇分ころ、普通乗用自動車(大阪五四ほ二七七八、以下「被告車両」という。)を運転して、大阪府寝屋川市日新町三蕃九号先路上(国道一七〇号線、以下「本件道路」という。)より右折し株式会社くろがね工作所(以下「くろがね工作所」という。)に入ろうとした時、対向方向から直進してきた原告運転の原動機付自転車(枚方市ほ五二八二、以下「原告車両」という。)に被告車両を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、松本の過失によって発生した。

3  本件事故当時、被告は、被告車両を所有して自己のために運行の用に供していた。

4  原告は、本件事故により、右大腿骨(骨幹部)骨折・両膝関接挫傷・頭部打撲・胸部打撲の傷害を負った。

5  原告は、本件事故により、前記の傷害を受け、次のように入通院治療を受けた。

(一) 入院 合計日数五二二日

内訳

寝屋川ひかり病院 平成五年四月九日から同年九月二日まで一四七日間

高井病院 平成五年九月三日から同年一二月二五日までの一一四日間

平成六年九月一一日から平成七年三月一一日までの一八二日間

平成七年三月二七日から同年六月四日までの七〇日間

平成七年一〇月一一日から同月一九日までの九日間

(二) 通院

高井病院 平成五年一二月二六日から平成八年一二月一九日までの期間

(実治療日数三四九日間)

6  原告は、本件事故により、次の内容の後遺障害を負った。

(一) 後遺障害の内容

(1) 傷病名 右大腿骨骨折

(2) 自覚症状 右膝屈曲制限のため、正座不能、和式トイレ困難、股関節の屈外転制限のためあぐらも困難。

(3) 他覚症状 右大腿に筋萎縮を認める。右股膝筋力がMMT4。

明らかな脚長差を認める(右下肢長八一センチメートル、左下肢長八五・五センチメートルで四・五センチの差)。脚長差のため歩行困難につき補高をしている。

(4) 関節機能障害

屈曲については、他動は左が一四〇度なのに対し右が一一〇度、自動は左が一三〇度なのに対し右が一〇〇度。

外転については、他動は左が七〇度なのに対し右が六〇度、自動は左が六〇度なのに対し右が五〇度。

内旋については、他動は左が五〇度なのに対し右が三〇度、自動は左が四〇度なのに対し右が二〇度。

外旋については、他動は左が六〇度なのに対し右が四〇度、自動は左が五〇度なのに対し右が三〇度。

伸展については、他動は左が二〇度なのに対し右が〇度、自動は左が一〇度なのに対し右が〇度。

伸展については、左右、他自動問わず〇度。

屈曲については、他動は左が一六〇度なのに対し右が一三〇度、自動は左が一五〇度なのに対し右が一二〇度。

(二) 後遺障害の憎悪・緩解についての見通し。

主治医は、今後、内固定材料(骨折部位の大腿骨の真ん中に約四〇センチメートルのチタン棒を入れている。)の抜去の必要性があること、脚長差による腰部、股膝関節への影響の可能性を指摘している。

(三) 後遺障害の認定

平成八年一二月一九日症状が固定し、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)九級(併合)が認定された。併合の内訳は、一下肢を三センチメートル以上短縮したものとして等級表一〇級八号、骨盤骨に著しい奇形が残ったものとして(腸骨移植による)等級表一二級五号及び一下肢の三大関節中の一関節に機能障害を残すものとして一二級七号とし、これらを併合して等級表九級と認定された。

なお、後遺障害診断書の主治医の予後の所見は、今後、内固定材料の抜去の必要性(いまだチタンによって骨移植部分を固定されたままである。)、また、脚長差による腰部、股膝関節への影響の可能性があるというものであった。

7  原告は、本件事故により次の損害を受けた。

(一) 入院雑費 六七万八六〇〇円

(二) 後遺障害慰藉料 五五〇万円

8(一)  原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から六一六万円の支払を受けた

(二)  原告は、被告から治療費等として八七万〇六〇九円の支払を受けた。

二  (争点)

1  本件事故態様(過失相殺)

被告は、少なくとも原告に二〇パーセントの過失があったと主張する。

原告は、被告車両は原告車両と鋭角に衝突しているので、原告は気づきようがないし、本件道路のくろがね工作所出入口前門には右折禁止看板もあったので、原告に過失はないと主張する。

2  原告の損害

前記争いのない損害以外の損害(付添看護費、入通院慰藉料、特に、逸失利益について、被告は原告には本件事故後減収がないので損害がないと主張する。)

第三争点に対する判断

一  事故態様、過失相殺について

1  前記第二の一の事実、証拠(甲一、二、七、乙五ないし八、証人松本、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右証拠中、右事実に反する部分は採用できない。

(一) 本件道路は、南北に通ずる片側二車線の道路で最高速度は、時速五〇キロメートルと規制されていた。本件道路の本件事故現場付近には道路東側にくろがね工作所の出入口があった。平成八年一二月二〇日時点では、右出入口の門にくろがね工作所が設置した「右折入門禁止」の立て看板があった。

(二) 松本は、本件事故当時、被告車両を運転して本件道路を南から北へ進行し、仕事のためくろがね工作所に入ろうと方向指示器による右折の合図を出して中央線に寄り一時停止したが、対向車線であった北向車線は二車線とも渋滞していたので、右停止地点ですこし待っていると、対向車が空けてくれたので、右折を開始したが、左右が見えなかったので、ゆっくり前に進んでいた時、本件道路南向車線路側帯を南進してきた原告車両フード部分に被告車両左前方角付近を衝突させ、原告を原告車両とも転倒させた。松本は衝突まで原告車両に気づかなかった。

(三) 原告は、本件事故当時、原告車両に乗って本件道路南向車線路側帯を時速約二、三〇キロメートルで南進していたところ、本件事故に遭った。原告は衝突まで被告車両に気づかなかった。また、被告車両の右折のため被告対向車両(南進車両)が被告車両が通れるくらい間を空けていたことも分からなかった。

2  原告は、原告車両と被告車両とが鋭角に衝突したと主張し、また、本件道路のくろがね工作所出入口前門には右折禁止看板もあったと主張するが、原告本人の供述もあいまいで、他にこれを認めるに足りる的確な証拠がないので、原告の右主張は採用できない。

右によると、松本は、渋滞中の車両の間から単車が飛び出してくる危険があったのに、衝突するまで気づかなかったというのであるから、左右確認不十分な過失があったといえるが、反面原告にも、被告対向車両(南進車両)が被告車両が通れるくらい間を空けていたことも気づかず、衝突するまで被告車両にも気づかなかったので、前方不注視の過失があったと言わざるを得ないので、右原告の過失割合は二割を下らないというべきである。

二  原告の損害(争いのある部分)

1  付添看護費 〇円(原告の主張 七万二〇〇〇円)

第二の一の事実、乙一の一、二及び弁論の全趣旨によれば、寝屋川ひかり病院入院中の平成五年四月一〇日から同年六月一〇日までの六二日間付添看護を要するという診断で、職業付添婦がついたが、これ以外について、本件事故によって原告が入院付き添いを要したことの医師の診断書、証明書等はなく、他に右の必要性を認める証拠もないから、右主張は採用できない。

2  逸失利益 〇円(原告の主張 四〇八二万七五七七円)

(一) 第二の一の事実、証拠(甲一、六1、2、八、一〇ないし一二、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右証拠中、右認定事実に反する部分は採用できない。

(1) 原告は、本件事故当時、枚方寝屋川消防組合予防課危険物係に所属していた消防士長で、四五歳だった。

(2) 原告は、本件事故により第二の一4の傷害を負い、そのために第二の一6の後遺障害が残り、そのため、現在の予防課査察係に所属して、その仕事のための検査のため階段の昇降をしているが、右足だけ靴底を上げた靴を履いているためかなり疲れるし、日常生活でも和式トイレでの使用がなかなかできないことや正座もできず、あぐらも長い間できないという生活上の不便も生じている。

(3) 原告は、昭和四四年一〇月から昭和五八年三月まで消防隊員をしていたが、昭和五八年四月一日、上の命令で指令室に配置換えとなり、昭和五八年一〇月一日から平成元年九月三〇日まで再び消防隊員に戻ったが、平成元年一〇月一日、上の命令でまた指令室指令課に配置換えとなり、平成三年四月一日、危険物係主任となって、平成九年には予防課予防査察係となった。原告は、消防隊員にあこがれて入隊したこともあってずっと消防隊希望であったが、前記のとおり平成三年四月一日以降は消防隊員の仕事はさせてもらえなかった。

(4) 原告は、昭和六二年度から平成五年度まで、枚方寝屋川消防組合の昇任試験を受験していたが、平成元年までは第一次試験は合格したが、第二次試験は不合格となり、平成二年度は、第一次試験で不合格となり、平成三年度は、第一次試験は免除されたが、第二次試験は不合格となり、平成四年度は、第一次試験は合格したが、第二次試験は不合格となり、平成五年度は、第一次試験は合格したが、第二次試験は辞退した。右第一次試験は筆記試験で、第二次試験は実技と面接だが、平成五年度下期から第三次試験が実技であった。この昇任試験に合格すると隊員となる場合もあるが、そうでない課に配属される場合もあり、必ずしも消防隊員の指令補となるものではなかった。

(5) 原告は、本件事故前後で減収はなく、むしろ増収していた。枚方寝屋川消防組合の定年は満六〇歳の誕生日までであった。

(二) 以上によれば、原告には本件事故後減収がないばかりか増収していること、ずっと消防隊員を希望しながら、平成三年四月以降、消防隊員の仕事はしていないのであるから、本件事故がなくてもまた消防隊員に復帰できる可能性は少なかったこと、昇任試験受験経歴からすると、本件事故がなければ右試験に合格できたと認めるに十分な事情も窺われないことなどから、結局、右認定事実から原告には逸失利益の損害を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はないので、原告の逸失利益の損害の主張は採用できない。

3  入通院慰藉料 二五〇万円(原告の主張 四〇〇万円)

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた入通院慰藉料分の精神的苦痛を慰藉するためには、二五〇万円をもってするのが相当である。

三  結論

以上によると、原告の損害は八六七万八六〇〇円となるところ、被告が原告に対し治療費等として支払った八七万〇六〇九円をこれに加算すると、九五四万九二〇九円となり、右過失相殺として二割を控除すると、七六三万九三六七円となり、さらにこれより自賠責保険及び被告が支払った金員の合計七〇三万〇六〇九円を控除すると、残額は六〇万八七五八円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は六万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、六六万八七五八円及びこれに対する本件事故の日である平成五年四月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎敏郎)

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