大阪地方裁判所 平成10年(ワ)4187号 判決 2001年2月14日
原告 橋本健
他4名
右五名訴訟代理人弁護士 菊池逸雄
同 菅充行
同 浦功
被告 日和油業株式会社
右代表者代表取締役 瀧川利喜男
他2名
右三名訴訟代理人弁護士 中川秀三
同 勝井映子
主文
一 被告らは連帯して、原告橋本健及び原告橋本良子各自に対しそれぞれ金五八四三万〇〇九五円及び内金五三一三万〇〇九五円に対する平成九年七月一三日から、原告尾林久惠に対し金八七六九万五一四三円及び内金七九六九万五一四三円に対する平成九年七月一三日から、原告尾林建に対し金二九一六万五〇四七円及び内金二六五六万五〇四七円に対する平成九年七月一三日から、原告橋本裕平に対し金一八四二万二九九二円及び内金一六八二万二九九二円に対する平成九年七月一三日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その七を被告らの、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告橋本健及び原告橋本良子各自に対し連帯して金七七五四万二〇九七円及び内金七〇五四万二〇九七円に対する平成九年七月一三日から、原告尾林久惠に対し連帯して金一億一六三一万三一四五円及び内金一億〇五八一万三一四五円に対する平成九年七月一三日から、原告尾林建に対し連帯して金三八七七万一〇四八円及び内金三五二七万一〇四八円に対する平成九年七月一三日から、原告橋本裕平に対し連帯して金二七五一万七〇六七円及び内金二五五一万七〇六七円に対する平成九年七月一三日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、平成九年七月一三日早朝、兵庫県宝塚市花屋敷つつじが丘の通称「釣鐘山」において発生した土砂崩れにより、自宅で就寝中、生き埋めとなって死亡した橋本昌平(以下「亡昌平」という。)一家四名の相続人である原告らが、右土砂崩れを起こした土地の所有者で、かつ、亡昌平に対して右土地に隣接する土地・建物を売却した被告日和油業株式会社(以下「被告会社」という。)並びに同被告の代表者である被告瀧川利喜男(以下「被告利喜男」という。)及び被告瀧川真宏(以下「被告真宏」という。)に対して不法行為に基づき、また、被告会社に対して工作物責任又は瑕疵担保責任に基づき、損害賠償を請求(弁護士費用を除いた部分についての遅延損害金の請求を含む。)している事案である。
一 争いのない事実等
1 平成九年七月一三日早朝、兵庫県宝塚市花屋敷つつじが丘の通称「釣鐘山」が、高さ約四〇メートル幅約三〇メートルにわたって土砂崩れを起こし(以下「本件事故」という。)、その際、土砂が亡昌平宅の室内に押し寄せ、室内で就寝していた亡昌平、その妻橋本陽子(以下「亡陽子」という。)並びにその子橋本華奈(以下「亡華奈」という。)及び橋本彩華(以下「亡彩華」という。)が土砂の下敷となって窒息死した。亡昌平は同日午前一一時五分に、亡陽子は午前一一時四一分に、亡華奈は同日午前一一時四七分に、亡彩華は同日午前一一時五〇分に死亡した。右死亡当時、亡昌平は満二九歳(昭和四二年一二月二九日生)、亡陽子は満二八歳(昭和四三年一〇月二四日生)、亡華奈は満四歳(平成五年二月二三日生)、亡彩華は満二歳(平成七年一月二八日生)であった。
2 当事者等
(一) 亡昌平は、原告橋本健及び原告橋本良子の子であり、亡陽子は、原告尾林利一及び尾林久惠の子である。原告橋本裕平は、亡昌平の前妻である橋本淑子との間の子である。原告尾林建は、尾林利一の子である。
亡昌平の死亡により、亡陽子が二分の一、原告橋本裕平、亡華奈及び亡彩華が各六分の一の割合で亡昌平を相続し、その後、亡陽子、亡華奈及び亡彩華が順次死亡し、さらに、尾林利一が平成一一年一二月二〇日死亡したことにより、順次相続の結果、亡昌平の相続については、原告橋本裕平が六分の一、原告橋本健及び原告橋本良子が各二四分の五、原告尾林久惠が一六分の五、原告尾林建が四八分の五の割合で相続した。
亡陽子の死亡により、亡華奈及び亡彩華は、各二分の一の割合で亡陽子を相続し、その後、亡華奈、亡陽子及び尾林利一が順次死亡したことによる相続の結果、亡陽子の相続については、原告橋本健、原告橋本良子が各四分の一、原告尾林久惠が八分の三、原告尾林建が八分の一の割合で相続した。
亡華奈の相続については、その後亡彩華、尾林利一が順次死亡したことによる相続の結果、原告橋本健、原告橋本良子が各四分の一、尾林久惠が八分の三、原告尾林建が八分の一の割合で相続した。
亡彩華の相続については、その後尾林利一が死亡したことによる相続の結果、原告橋本健、原告橋本良子が各四分の一、原告尾林久惠が八分の三、原告尾林建が八分の一の割合で相続した。
(二) 被告会社は、石油油脂製品の販売等を業とする株式会社で、ガソリンスタンドを経営している。被告利喜男及び被告真宏はいずれも被告会社の代表者である。
3 被告会社の本件土地、建物の取得
(一) 被告会社は、昭和四八年一二月三一日、神吉武一から宝塚市花屋敷つつじが丘二九九番三の土地を買い、昭和五〇年二月五日、右土地につき所有権移転登記をした。なお、右土地は、宅地化するために、昭和三六年ころから三七年ころにかけて、自然の斜面から土取りが行われ、その形状が、人工的に変化されていた。
昭和四九年九月二五日、右土地の平坦部に建物(以下「本件建物」という。)が建築され、昭和四九年一二月九日被告会社を所有者とする表示登記が経由された。なお、本件建物につき建築確認はなされていない。
昭和五七年一一月四日、右二九九番三の土地のうち、本件建物の敷地部分が二九九番四の土地として分筆された(以下、右分筆後の二九九番三の土地を「本件斜面地」、二九九番四の土地を「本件土地」という。)。本件土地は、平成九年三月一一日、宅地に地目変更された。なお、本件土地については宅造許可はない。
(二) 宅地造成等規制法等の法令上、宅地造成をする場合に、人工崖の傾斜角度が三〇度を超える場合には、原則として、崖を擁壁で覆うか、崖の傾斜地を三〇度以下の斜面にしなければならないとされている。
(三) 被告会社は、本件建物を社宅として利用していたが、平成六年ころから空家となり、その後、被告会社は本件土地・建物を売却しようとしたが亡昌平が平成九年一月に購入するまで買い手がつかなかった。
4 亡昌平の本件土地・建物の取得
亡昌平は、平成九年一月二五日、東商株式会社の仲介により、被告会社から本件土地・建物を、代金二六〇〇万円で買った(以下「本件売買契約」という。)。亡昌平は、平成九年四月四日、右売買契約につき代金の決済をし、被告会社は、同日付で亡昌平に対して所有権移転登記をした。
5 平成五年七月ころ、本件斜面地が崩落したことがあり(なお、この際の土砂の流出の範囲については争いがある。)、また、右事故と同じころ、本件斜面地の南側に隣接する上杉工務店所有の土地の斜面の法面が崩落し、土砂が北沢二郎宅の前(東側)の道路に流出した事故がある(なお、この事故が右崩落事故と同一時期のものであるかどうか、流出した土砂が本件土地からのものも含まれるかは不明である。また、土砂の流出範囲については争いがある。)。
6 兵庫県民局は、平成六年六月六日、被告会社に対し、本件土地の防災に関し、本件斜面地の崖面の保護措置を勧告した。
7 被告会社は、朝日線材を施工業者として、平成六年五月ころから一一月ころにかけて、本件斜面地につき法面保護工事を施行し、本件斜面地に高さ二〇メートル、幅一五メートルにわたって金属製ネットを張り、土留めをおいた(以下「本件防災工事」という。)。
二 争点
1 被告らの不法行為の成否―被告会社が亡昌平に対し本件土地・建物を売却した際、十分な防災措置をとらなかったことにつき過失があるか。
2 被告会社の工作物責任の成否―本件斜面地は土地の工作物か、工作物とすれば設置又は保存に瑕疵があったか。
3 被告会社の瑕疵担保責任の成否―本件土地に隠れたる瑕疵があったか。
4 損害額
5 過失相殺
三 当事者の主張
1 争点1(被告らの不法行為の成否―被告会社が亡昌平に対し本件土地・建物を売却した際、十分な防災措置をとらなかったことにつき過失があるか。)について
(原告らの主張)
本件土地又はその近辺において、前記一5のような崩落事故があり、これを受けて、兵庫県西宮市土木事務所の宅造(安全)パトロールによって、被告らに対し、危険防止のための保全措置を講ずるように勧告がなされた。被告らは、右勧告によって、本件土地の崖崩れの危険を認識しながら十分な防災措置をとらずに本件土地・建物を売却したものであるから、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
被告会社は、平成六年二月ころから、本件斜面地の防災対策について、阪神県民局、県土木事務所等と協議を行ったところ、平成六年三月七日、県土木事務所管理第二課から、同月一四日、宝塚市水政課から、いずれも要旨、公共事業として行うには地元の嘆願が必要である旨の回答を得たが、隣地所有者の同意を得られなかったため、公共事業としての防災工事は施工できず、被告会社が単独で防災工事を行わざるを得なくなった。このような状況下で、被告会社としては、単独でなしうる最大限度の防災工事を行った上で亡昌平に対して本件土地を売却したものであって、本件事故は、人力では防ぎようのなかった不可抗力によるものである。
また、被告ら及び東商株式会社は、本件売買契約締結の際、亡昌平に対し、兵庫県作成の災害危険地域図(《証拠省略》)を示して、本件土地が兵庫県から「がけ崩れ危険地域」に指定されていることに加え、本件防災工事の時期及び内容並びに被告会社が長尾台で施行した防災工事の内容について資料を示して十分説明した。亡昌平は、建築土木関係の現場責任者の職にあった者であって、被告らによる右説明により、本件防災工事の内容及び本件土地の環境を十分理解し、納得した上で本件土地・建物を購入したものである。
従って、被告らが亡昌平に対し本件土地・建物を売却したことにつき、不法行為は成立しない。
2 争点2(被告会社の工作物責任の成否―本件斜面地は土地の工作物か、工作物とすれば設置又は保存に瑕疵があったか。)について
(原告らの主張)
(一) 本件斜面地は、前記一3(一)のとおり、自然の斜面から土取りを行って、その形状が人工的に変化されたものであり、また、前記一7のとおり、本件防災工事が施されているのであるから、民法七一七条による土地の工作物に当たる。
(二) そして、本件土地には、事故防止のための十分な防災措置がとられていないのであるから、設置又は保存に瑕疵がある。
(被告らの主張)
(一) 本件土地は、山地が切り開かれただけの傾斜地で、山地とその裾部を切り取った崖部分からなる土地にすぎず、工作物に該当しない(大阪地裁昭和六三年一一月二五日判決参照)。
(二) また、被告会社は右1(被告の主張)のとおり、被告会社がなし得る最大限の防災措置を講じており、設置又は管理に瑕疵があったとはいえない。
3 争点3(被告会社の瑕疵担保責任の成否―本件土地に隠れたる瑕疵があったか。)について
(原告らの主張)
本件土地・建物は、ほぼ七〇度に切り立った崖である本件斜面地に隣接しており、住居用の土地としては、生命・身体に危険のある瑕疵を有しており、瑕疵担保責任(民法五七〇条)を負う。
(被告らの主張)
本件土地が崖地を含む本件斜面地に隣接していることは一見して明らかであり、亡昌平は、本件防災工事の内容を十分認識した上で、本件土地・建物を購入している。よって本件土地・建物が本件斜面地に隣接していたことは「隠れたる」瑕疵に該当せず、瑕疵担保責任は成立しない。
4 争点4(損害)について
(原告らの主張)
(一) 亡昌平について生じた損害 一億二一一七万〇八一〇円
(1) 逸失利益 九一六七万〇八一〇円
亡昌平の死亡前年度の年収は、六二四万五〇三一円であるところ、ホフマン計数二〇・九七〇、生活費控除三割で計算すべきである。
(2) 慰謝料 二八〇〇万円
(3) 葬祭費 一五〇万円
(4) 本件土地・建物についての損害 三一九三万一五九三円
本件土地・建物は、本件事故により無価値となった。したがって、本件土地・建物の購入価額二六〇〇万円並びに亡昌平が生前本件建物につき費やした改修費二九三万〇二一七円及び取得諸経費三〇〇万一三七六円の合計三一九三万一五九三円が本件土地・建物についての損害である。
(二) 亡陽子について生じた損害 六七六七万七三九二円
(1) 逸失利益 四四一七万七三九二円
亡陽子は、死亡当時二八才の専業主婦であったから、二五才から二九才女子の平均賃金を採用し、生活費控除を四割として計算すべきである。
(2) 慰謝料 二二〇〇万円
(3) 葬祭費 一五〇万円
(三) 亡華奈について生じた損害 四三八六万六五五九円
(1) 逸失利益 二二三六万六五五九円
亡華奈は、死亡当時四才の女子であったから、一八才から一九才女子の平均賃金を採用し、生活費控除を四割として計算すべきである。
(2) 慰謝料 二〇〇〇万円
(3) 葬祭費 一五〇万円
(四) 亡彩華について生じた損害 四三〇三万九一〇五円
(1) 逸失利益 二一五三万九一〇五円
亡彩華は、死亡当時二才の女子であったから、一八才から一九才女子の平均賃金を採用し、生活費控除を四割として計算すべきである。
(2) 慰謝料 二〇〇〇万円
(3) 葬祭費 一五〇万円
(五) 亡昌平、亡陽子、亡華奈及び亡彩華の右損害賠償債権につき、原告橋本健及び原告橋本良子はそれぞれ合計七〇五四万二〇九七円、原告橋本裕平は合計二五五一万七〇六七円、原告尾林久惠は合計一億〇五八一万三一四五円、原告尾林建は合計三五二七万一〇四八円相続した。また、弁護士費用相当の損害賠償金としては、原告橋本健及び原告橋本良子につき七〇〇万円、原告橋本裕平につき二〇〇万円、原告尾林久惠につき一〇五〇万円、原告尾林建につき三五〇万円が相当である。
5 争点5(過失相殺)について
(被告らの主張)
亡昌平は、本件売買契約締結に際して、本件斜面地が崖崩れ指定地域であること及び本件防災工事の内容につき、被告利喜男らから説明を受け、その危険性を十分認識した上で、本件建物に居住していたのであるから、本件結果の発生につき亡昌平にも相応の過失があるというべきである。また、亡昌平は、本件土地・建物の購入後、宅地造成等規制法上の許可及び建築確認申請を得ずに、本件売買契約締結時に一台分であった本件建物附属のガレージを、更に本件斜面の東側崖の方向に一台分掘り進めて増設し、この工事により、崩落崖面を含む地表面のバランスが崩れ、本件事故の一因となったものであるから、本件事故の発生につき亡昌平にも過失がある。さらに、亡昌平らは、本件事故当時は折からの大雨により、本件土地に何らかの災害が発生する可能性があることを予測できたはずであり、本件建物内の本件斜面地と反対側の一階の部屋又は二階の部屋で就寝するべきであったのに、本件斜面地側の部屋で就寝していたもので、この点からも本件の結果の発生につき亡昌平らにも過失があったというべきである。
したがって、原告らの損害賠償請求に対しては相応の過失相殺がなされるべきである。
第三当裁判所の判断
一 前提事実について
前記争いのない事実及び《証拠省略》によれば、次の各事実が認められる。
1 本件斜面地は、中生代に形成された丹波層群箕面コンプレックスの分布域であり、岩石は頁石が主体をなしている。右地層は古い時代の地層であり、現在までに受けた多くの地殼変動のため、断層・褶曲が発達し、節理も密に発達しており、崖部では、地表にさらされた部分が風化により相当程度劣化している。また、本件斜面地は、右風化現象に加え、切土工によって新たに土や岩が露出し、応力が解放されたことにより、土層にゆるみが生じ、時間の経過に伴って劣化が進行し強度が低下している。
2 本件斜面地及び本件土地は、昭和三七年六月六日、宅地造成等規制法(昭和三六年法律第一九一号)三条に基づく宅地造成工事規制区域に指定され、また、砂防法(明治三〇年法律第二九号)二条に基づく砂防指定地域として指定されている。
3 本件防災工事施工時及び本件事故当時、本件斜面地及びその周辺の勾配は、概ね五〇度ないし六〇度の急傾斜地となっており、一部では七〇度を超える部分もあった。また、本件土地の平坦部から本件斜面の上部までの高さは約二三・五メートルであり、本件建物と右崖面との距離は約五メートルであった。
4 昭和五八年ころ、大雨のため、本件斜面地のうち本件土地の北側の崖面が土砂崩れを起こし、右土砂によって本件土地の北側擁壁の一部が崩壊するという事故があった。
5 被告会社が本件土地を購入後、本件防災工事を施工するまでの間、毎年冬季終盤ころから春季初旬ころにかけて、断続的に本件斜面地から本件土地上に砂等が落下し、右落下した砂が本件土地の側溝に堆積し、掃除を必要とする状況であった。
6 前記第二の一5のとおり、平成五年七月ころ、梅雨の際の大雨により、本件斜面地で土砂崩れが起こり、その際の土砂が本件土地の東側擁壁を超えて本件土地内部に流入し、本件土地付近で高さ四〇ないし五〇センチメートル、広さ約一〇〇平方メートル程度に堆積するという事故があった。
7 被告会社は、平成六年初旬、右6の崩落事故の際、本件土地に堆積した土砂を撤去した上、本件土地内にボックスガレージを設置することを計画し、その際の建築確認等の工事申請手続やこれに伴う公共団体との交渉を株式会社矢野工務設計事務所(以下「矢野設計」という。)に依頼した。右依頼を受け、当時矢野設計の従業員であった渡邊清(以下「渡邊」という。)が、同年三月一日ころ、宝塚市建築指導課に赴き、ボックスガレージの設置についての建築確認の取得の可否等について相談したところ、同課の担当者は、本件建物の周囲の状況が十分に安全とはいえないため、現状のままではボックスガレージの増築の建築確認はできない旨回答した。また、渡邊は、同月七日ころ、阪神県民局建築第二課に赴き、右同様、ボックスガレージ設置の建築確認について相談したところ、同課の担当者から、本件斜面地の防災工事を行わない限り、本件土地内における建物の新築・増築は認められないとの回答を得るとともに、右防災工事を私費で行うことが困難であれば、公共事業として施工する方法もあるとの示唆を受けた。そこで、同日、渡邊が県土木事務所出張所管理第二課に赴き、公共事業による防災工事の施工の可否・方法等について相談したところ、同課の担当者は、公共事業による施工の実現のためには、当該土地の近隣の住民が宝塚市に対して防災工事施工を嘆願すること及び当該土地の所有者が宝塚市に対して永久借地権等を設定することが必要である旨回答した。
渡邊から右公共団体との折衝の結果につき報告を受けた被告利喜男は、同月二三日ころ、渡邊と共に、再度本件斜面地の防災工事について相談するために阪神県民局に赴いたところ、同局の担当者は、本件斜面地に防災工事を施さない限りボックスガレージの設置は認められないが、被告会社の私費による本件土地上の堆積土砂の撤去工事及び本件斜面地の防災工事は当該土地の管理行為として許可申請なく行うことができる旨回答した。被告会社側は、一旦は公共事業による防災工事の可能性を検討したが結局断念し、私費で防災工事を行うこととした。なお、兵庫県民局は、同年六月六日、被告会社に対し、本件土地の防災に関し本件斜面地の崖面の保護措置を勧告している。
8 被告会社は、朝日線材株式会社(以下「朝日線材」という。)に対し、本件斜面地に対する防災工事を依頼した。朝日線材は、金網の製造会社であったが、主に金網を用いた土木工事業も行っており、本件防災工事以前、被告会社は、長尾台所在の被告会社の所有地に対する防災工事を朝日線材に発注したことがあった。朝日線材は、本件斜面地の表面の土壌が岩状となっており、直接的な植物の植付けが困難であったことから、麻製の袋状マット内に肥料、土壌、保水材などと共に種子を混入させた植生マットを斜面形状に沿って敷き詰め、その上面を直径二ミリメートルの線材で作成された金網で覆い、その後、右植生マットと金網を斜面に固定するためにアンカーピンを打設するという工法を採用し、さらに、植生マットの前面に落石防止金網を張り巡らせるという防災工事を行った。
9 東商ハウス株式会社(旧商号「東商株式会社」)は、亡昌平に対する本件土地・建物の売却の仲介を行った。右業務を担当した同社の従業員安藤昭二郎(以下「安藤」という)は、本件売買契約締結の際、亡昌平に対して災害危険地域図を示した上、本件土地の近隣の土地が崖崩れ危険地域に指定されているが、本件土地や本件傾斜地は指定されておらず、本件建物の再築は建築基準法上全く問題がない旨の説明をし、本件斜面地付近で発生した前記一4、6認定の事故については全く説明しなかった。被告利喜男は、本件売買契約締結の際、亡昌平に対し、右災害危険地域図を示すと共に、本件防災工事の概要につき写真を示して説明した。
10 本件土地付近の地域は、平成九年七月一〇日ころから断続的に降雨が続き、一三日までの総雨量は二〇〇ミリを超え、同日午前六時ころには一時間六〇ミリを超える豪雨であったが、本件事故当時、本件土地付近の住民に対して避難勧告等は出されていなかった。本件事故は、右のような長期にわたる梅雨末期の停滞前線による降雨により水を含んだ土砂が、集中豪雨により堆積土砂を部分的に削り取り、土砂の安定を崩し一気に大量の水を含んだ土砂流として崖に沿って流出し、崖法尻付近の堆積土砂を巻き込んで本件建物を直撃したものである。
二 争点1(被告らの不法行為の成否―被告会社が亡昌平に対し本件土地・建物を売却した際、十分な防災措置をとらなかったことにつき過失があるか。)について
1 前記一認定のとおり、本件斜面地は、切土され人工的に形状が変化された五〇度を超える急斜面で、災害危険地域図では崖崩れ危険地域に指定され、本件建物と崖面の距離はわずか五メートル程度であったこと、本件斜面地において、少なくとも昭和五八年及び平成五年に土砂崩れが起こり、殊に平成五年七月の崩落事故は、本件土地付近まで土砂が押し寄せ、高さ四〇センチメートル、広さ一〇〇平方メートルにわたり堆積するという規模の大きなものであったこと、平成六年六月には被告会社が兵庫県民局から本件斜面地の防災工事に関する勧告を受けたことからすれば、本件防災工事施工当時、被告会社の代表者であった被告利喜男及び被告真宏において、本件斜面地が崖崩れの危険の大きい箇所であることを認識し、崖崩れが発生した場合には、本件建物のみならず、本件建物に居住する住民の生命、身体、財産等が損害を被ることにつき、予見することは十分可能であったものと認められる。したがって、被告会社が本件土地・建物を他人に住居として売却するに当たっては、他人の生命、身体、財産等に被害を与えないよう、可能な限り本件斜面地の安全性について調査、研究を尽くした上、十分な防災工事を行うなどして安全性を確保するための措置を講じるべき義務があるので、被告利喜男及び被告真宏は、被告会社の代表者の職務として、被告会社に右の安全性を確保するための措置を講じさせ、もって事故の発生を防止すべき注意義務があり、右義務に違反して他人の生命、身体等に損害を被らせたときは、被告らはいずれも不法行為に基づく損害賠償義務を負うと解するのが相当である(民法七〇九条、七一九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項)。
2 ところで、被告会社が本件斜面地の防災工事として行った本件防災工事の内容は、前記一8認定のとおりであるところ、新田稔作成の技術意見書及び補充書(以下、併せて「原告意見書」という。)によれば、本件斜面地の崖面の形状は、日本道路協会の編纂による「のり面工・斜面安定工指針」記載の「切土のり面の崩壊および斜面崩壊の分類」における「file_3.jpg浸食、崩壊」の解説①ないし③に該当し、同指針には、右分類による斜面に対する防災工事として、崖面の性状により、ネット張工と植生工又はプレキャスト枠工と植生工の組み合せによる工事、切直しと植生工の組み合せによる工事、モルタル吹付工(浮石除去)と補強土工の組み合せによる工事等の選択が検討対象として挙げられているところ、本件防災工事において採用された法面緑化工事は本件斜面のように五〇度を超える急斜面では土砂崩落を抑止する効果は極めて小さく、また、強化ネット工は落石に対する防止効果は期待できるが、水分の含有率の大きい土砂の流出に対しては防護効果が少ないことが認められ、右事実に照らせば、本件斜面地に対する恒久的な防災工事としては、勾配の異なる切土、吹付枠工、補強土工、植生工及びモルタル吹付工を組み合せた防災工事が相当であり、少なくとも当面において、本件斜面地の隣接地を住居として使用するための最小限の防災工事としては、別紙図面のような、本件事故と同程度の土砂崩れに相当程度耐えうるだけの容量を擁壁背面に持った岩石・土砂防護擁壁の設置工事が必要であると認められる。したがって、本件防災工事は、最低限の安全性を確保するための工事としても不十分であったといわざるをえず、被告会社は、前記判示の安全性を確保すべき義務を果たしておらず、被告利喜男及び被告真宏は、被告会社に右安全性確保措置を講じさせ、事故の発生を防止すべき注意義務を怠った過失があると認められるから、被告らはいずれも不法行為責任に基づき、右により亡昌平らが被った損害を賠償すべき義務を負う。
3(一) なお、これに対して、被告らは、本件斜面地に最適な工事を施工しようとすれば、一億円以上の費用と二年以上の長期間の調査が必要となるところ、かかる工事は本件土地の価値等に照らした経済的観点からして、事実上不可能であり、本件防災工事が被告として行いうる最大限の措置であったのだから、被告らは不法行為責任を負わない旨主張し、これに副うものとして川崎巌作成の技術意見書(以下「被告意見書」という。)を援用する。しかしながら、前記1、2に判示したとおり、本件売買契約締結当時、本件斜面地に崖崩れが発生することが具体的に予見可能であり、その場合には本件土地・建物に居住する住民の生命・身体等に損害が及ぶ大きな危険性が存することが客観的に認識可能であったのであるから、本件土地・建物を一般私人に住居として売却する以上は、経済的観点を理由として、安全性確保措置を講じる義務がないとは到底いえないことは明らかである。また、原告意見書は、前記のとおり、日本道路協会の編纂による「のり面工・斜面安定工指針」等の客観的な資料に基づき、本件防災工事が不十分なものであった旨指摘するところ、被告意見書記載の工事費用、調査期間及び本件防災工事の適否についての右記載内容については客観的資料による裏付けはなく、かえって、被告会社は、本件防災工事に際して、防災工事の工法につき、兵庫県民局など急傾斜地に対する豊富な施工実績を有する専門家・専門機関に相談し、指導を受ける機会があったにもかかわらず、これを怠り、金網を用いた法面に対する防災工事の経験は有するものの、傾斜地への防災工事一般についての専門知識を必ずしも十分に有していない朝日線材に依頼して、本件防災工事を行ったものであることからして、原告意見書と対比して被告意見書を採用することはできない。したがって、被告らは不法行為責任を負わないとの被告らの前記主張は採用できない。
(二) また、被告らは、本件売買契約に関する業務を担当したのは被告利喜男であり、被告真宏は、本件売買契約に関与していないから、被告真宏が本件につき不法行為責任を負うことはない旨主張する。しかし、仮に右のように代表者相互間で内部的に事務の分担がなされていたとしても、そのことから直ちに前記1判示の代表者としての注意義務を免れるものではなく、殊に、被告真宏は、本件斜面地において、前記一4、6認定の崩落事故の存在とその内容及び被告会社が本件土地を亡昌平に対して売却することにつき十分認識していたというのであって、本件結果の発生につき十分予見可能であったというべきであるから、自ら本件防災工事の内容について調査・研究を尽くして安全性を確保するための措置を講ずるか又は被告利喜男をしてこれを講じさせる注意義務があるといわざるをえず、単に本件売買契約の手続に関与していないことをもって被告真宏の不法行為責任を否定する旨の被告の右主張は採用できない。
三 争点4(損害)について
(一) 亡昌平について生じた損害 一億〇〇九三万七九五三円
(1) 逸失利益 七三七三万七九五三円
《証拠省略》によれば、本件事故の前年度である平成八年度の昌平の年収は六二四万五〇三一円と認められるところ、昌平は死亡当時二九歳であり、六七歳に達するまでの間、少なくとも右年収相当の収入を得ることができたと推認されるから、右金額を基礎として生活費として三割を控除し、ライプニッツ方式(係数一六・八六七八)によって中間利息を控除して、昌平の逸失利益を算定すると、七三七三万七九五三円となる(円未満切捨て。以下同様)。
(計算式) 6,245,031×(1-0.3)×16.8678=73,737,953
(2) 慰謝料 二六〇〇万円
昌平は一家の支柱であったこと、本件事故の態様その他本件に顕れた一切の諸事情を考慮すると、亡昌平の慰謝料としては、二六〇〇万円をもって相当と判断する。
(3) 葬儀費用 一二〇万円
前記判示の各事情に加え、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件と相当因果関係がある葬儀費用としては、一二〇万円をもって相当と判断する。
(4) 本件土地・建物について生じた損害
原告らは、本件事故により本件土地・建物が無価値となった旨主張する。しかし、本件土地については、本件事故によってその価値が低下したことを裏付ける客観的な証拠はなく、本件建物については、本件事故の態様からすると、本件建物が一定の損傷を受けたことは推認されるものの、本件売買契約書上、本件建物の価格は〇円とされており、その他、本件建物の受けた損害の内容及びその数額につき主張立証がなされていないことからすれば、本件土地・建物の損害についての原告らの右主張は採用できない。
(二) 亡陽子について生じた損害 五六六三万七五六二円
(1) 逸失利益 三五四三万七五六二円
亡陽子は、本件事故当時二八歳で、本件事故により死亡しなければ六七歳までの間家事労働に従事できたものであり、この間、少なくとも平成九年度賃金センサスの「産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計二八歳」の年収額である三四七万〇八〇〇円の収入を得られたと認められるから、右年収を基礎にして、生活費として四割を控除し、ライプニッツ方式(係数一七・〇一七)によって中間利息を控除して、亡陽子の逸失利益を算定すると、三五四三万七五六二円となる。
(計算式) 3,470,800×(1-0.4)×17.017=35,437,562
(2) 慰謝料 二〇〇〇万円
亡陽子は死亡当時二八歳の専業主婦であったこと、本件事故の態様その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、亡陽子の慰謝料としては、二〇〇〇万円をもって相当と判断する。
(3) 葬儀費用 一二〇万円
前記判示の各事情に加え、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件と相当因果関係がある葬儀費用としては、一二〇万円をもって相当と判断する。
(三) 亡華奈について生じた損害 三六六〇万九五一五円
(1) 逸失利益 一五六〇万九五一五円
亡華奈は、本件事故当時四歳であり、本件事故により死亡しなければ高校を卒業した満一八歳から満六七歳になるまでの四九年間稼働可能であり、この間、少なくとも平成九年度賃金センサスの「産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計」の全年齢平均賃金の年収額である三四〇万二一〇〇円の収入を得られたと認められるから、右年収を基礎にして、生活費として五割を控除し、ライプニッツ方式(係数九・一七六四)によって中間利息を控除して、亡華奈の逸失利益を算定すると、一五六〇万九五一五円となる。
(計算式) 3,402,100×(1-0.5)×9.1764=15,609,515
(2) 慰謝料 二〇〇〇万円
亡華奈は死亡当時四歳の幼児であったこと、本件事故の態様その他本件において顕れた一切の事情を考慮すると、亡華奈の慰謝料としては、二〇〇〇万円をもって相当と判断する。
(3) 葬儀費用 一〇〇万円
前記判示の各事情に加え、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件と相当因果関係がある葬儀費用としては、一〇〇万円をもって相当と判断する。
(四) 亡彩華について生じた損害 三五一五万八三四九円
(1) 逸失利益 一四一五万八三四九円
亡彩華は、本件事故当時二歳であるところ、右(三)(1)で亡華奈の逸失利益について判示したのと同様の計算により亡彩華の逸失利益を算定すると(但しライプニッツ係数は八・三二三三とする。)、一四一五万八三四九円となる。
(計算式) 3,402,100×(1-0.5)×8.3233=14,158,349
(2) 慰謝料 二〇〇〇万円
亡彩華は死亡当時二歳の幼児であったこと、本件事故の態様その他本件において顕れた一切の事情を考慮すると、亡彩華の慰謝料としては、二〇〇〇万円をもって相当と判断する。
(3) 葬儀費用 一〇〇万円
前記判示の各事情に加え、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件と相当因果関係がある葬儀費用としては、一〇〇万円をもって相当と判断する。
(五) 原告らは亡昌平、亡陽子、亡華奈及び亡彩華を、前記第二の一2(1)の割合でそれぞれ相続したから、原告橋本健及び原告橋本良子は、各五三一三万〇〇九五円、原告橋本裕平は一六八二万二九九二円、原告尾林久惠は七九六九万五一四三円、原告尾林建は二六五六万五〇四七円の被告らに対する損害賠償債権を有している。
そして、本件訴訟の事案の難易、訴訟物の価額、認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては、原告橋本健及び原告橋本良子について各五三〇万円、原告橋本裕平について一六〇万円、原告尾林久惠について八〇〇万円、原告尾林建について二六〇万円をもって相当と判断する。
四 争点5(過失相殺)について
1 被告らは、亡昌平が本件土地の南西部にある駐車場の拡張工事のため東側へ本件土地の一部を掘り進めたことが、本件斜面地の地表面のバランスを崩し、本件事故の発生の一因となった旨主張し、証人安藤及び被告利喜男本人も亡昌平が駐車場を拡張した旨供述する。しかし、右各供述を裏付ける客観的な証拠はなく、かえって、宝塚警察署が本件事故の捜査の際作成した現場略図では、右駐車場が一台分の形状として描写されていることからして、証人安藤及び被告利喜男本人の右供述はいずれも採用できないのみならず、本件事故の発生と被告ら主張の駐車場の拡張工事との間の因果関係を裏付ける証拠も全く存しない。被告らの右主張は理由がない。
2 また、被告らは、亡昌平が本件土地の危険性を十分認識した上で本件土地・建物を購入したのであるから、本件結果の発生につき亡昌平にも過失がある旨主張し、なるほど、前記一9認定のとおり、亡昌平は、本件売買契約締結の際、安藤ないし被告利喜男から本件土地の近隣の土地が崖崩れ指定地域であること及び本件防災工事の概要について一定の説明を受けている。
しかし、一般私人用の居宅として売りに出されている土地・建物を住居として購入しようとする者は、その具体的危険性の存在について特段の説明を受けない限り、住居として用いるに際し当該土地・建物が生命、身体等に対する最低限の安全性を備えているものと信頼するのが通常であるところ、本件土地・建物の重要事項説明書には本件土地・建物の危険性について、宅地造成等規制法及び砂防法に基づく制限があるということ以外の記載はなく、亡昌平は本件売買契約に際して仲介業者から、本件土地や本件斜面地は崖崩れ危険地域に指定されておらず、本件建物の再築は建築基準法上全く問題がない旨告知され(重要事項説明書にも記載)、安藤及び被告利喜男も本件土地・建物の具体的危険性及び前記一4、6に認定したとおり以前に発生した土砂崩れ事故の存在についても全く説明をせず、かえって、被告利喜男は、亡昌平に対して本件防災工事の概要等につき写真を示すなどして、本件土地の安全性を強調した説明をしていること、亡昌平は、建築関係の仕事に携わっていたとはいえ、格別の資格を有しておらず、主に建物建設現場の監督等の仕事を担当しており(原告橋本健本人)、斜面地等に対する防災工事について十分な知識を有していなかったことなどからすれば、亡昌平は、本件土地・建物を住居として使用するにつき生命、身体に対する最低限の安全性を備えていると信頼していたと認めるのが相当であって、その危険性を認識するのは困難であり、かつ、右信頼は保護に値するといわざるをえず、本件結果の発生につき亡昌平に過失があったと認めることはできない。したがって、被告らの右主張は採用できない。
3 さらに、被告らは、亡昌平らが本件建物のうち、本件斜面地に最も近い東側一階の部屋で就寝していたのであるから、本件結果発生につき亡昌平らにも過失がある旨主張する。しかし、本件事故当時、避難勧告等の警告措置はなされておらず、また、前記一10認定のとおり、本件事故は、亡昌平らが就寝中の早朝に集中豪雨が引き金となって発生した事故であり、亡昌平らにおいて、本件事故以前に降雨状況等を的確に把握することは困難であったことに加え、右2に判示のとおり、亡昌平は本件土地付近の安全性を信頼していたのであって、東側一階の部屋で就寝することにつき、その危険性を認識することは困難であったといわざるをえず、本件結果の発生につき亡昌平に過失があったと認めることはできない。したがって、被告らの右主張は採用できない。
五 以上のとおり、本件における原告の請求は、主文掲記の限度で理由があり、その余の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 増森珠美 加藤陽)
<以下省略>