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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)4202号 判決 2000年1月18日

原告 A

右訴訟代理人弁護士 石井義人

右復代理人弁護士 小山優子

右補佐人弁理士 B

同 C

被告 大東電材株式会社

右代表者代表取締役 D

右訴訟代理人弁護士 村林隆一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙物件目録記載の物品を製造、販売してはならない。

二  被告は、その本店及び営業所内に存する別紙物件目録記載の物品を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年五月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)

1  原告の実用新案権

原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。

(一) 考案の名称

支索の保護具

(二) 出願日

平成元年七月七日(実願平一ー八〇六一一号)

(三) 出願公告日

平成七年一月三〇日(実公平七ー二八八九号)

(四) 登録番号

第二〇九一一一四号

(五) 実用新案登録請求の範囲

本件実用新案権の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである(以下、同実用新案登録請求の範囲記載の考案を「本件考案」という。)。

2  本件考案の構成要件の分説

本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

(1) 地面から延びて構築物を支える支索の中途部に取付けられる支索の保護具であって、

(2) 遮光性を有する不透明の合成樹脂で保護具本体を形成し、

(3) 該保護具本体は中空の二重壁構造で且つ長手方向に半割の円筒の分割体とし、

(4) 該分割体同士は一端部が薄肉のヒンジ部で連結された状態で一体に成形され、

(5) 分割体の内面部分は支索を挟持する構成とし、

(6) 分割体の遊端部同士を連結手段で筒状に固定した時に、円筒状の両端部が遮光状態に支索に当接するように構成した

(7) ことを特徴とする支索の保護具

3  被告の行為

被告は、別紙物件目録記載の物品(以下「イ号物件」という。)を製造、販売している。

イ号物件は、本件考案の構成要件(1)(2)(4)(7)を充足する。

二  原告の請求

本件は、原告が、被告に対し、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するから、その製造・販売は本件実用新案権を侵害するとして、<1>本件実用新案権に基づき、それらの製造・販売の差止め等、及び<2>平成九年春ころから平成一〇年四月二七日(本件訴訟提起日)までのイ号物件の製造・販売に係る本件実用新案権の侵害に基づく損害賠償を請求した事案である。

三  争点

1  イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか。

(1) イ号物件は本件考案の構成要件(3)を充足するか。

(2) イ号物件は本件考案の構成要件(5)を充足するか。

(3) イ号物件は本件考案の構成要件(6)を充足し又は均等の範囲に属するか。

2  被告が原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき損害額。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(1)(構成要件(3))について

【原告の主張】

イ号物件は、接合部<17>において外壁と内壁とが一体化している部分(本体外部表面積のわずか五%)以外は中空の二重壁構造となっているのであり、このように一部に内壁と外壁が接する部分があっても、保護具本体の二重構造性が否定されることはない。したがって、イ号物件は、構成要件(3)の「二重壁構造」との要件を充足する。

【被告の主張】

イ号物件は、接合部<17>において外壁と内壁とが一体化しているので、「二重壁構造」との要件を充足しない。

二  争点1(2)(構成要件(5))について

【原告の主張】

本件考案においては、保護具本体への支索の固定方法について、分割体の内部において挟持するとして特定しており、この要件を充足するものはすべて本構成要件を充足するところ、イ号物件もこの構成を備えている。

被告は、具体的な挟持方法が特定されていないと主張するが、この点について多数の公知技術が存するのであれば、ことさらそれを特定する必要はない。

【被告の主張】

構成要件(5)の「支索を挟持する構成」については、公知技術においても種々のものが存しているにもかかわらず、具体的にどのような構造のものであるかは明らかではない。したがって、その構成は、本件明細書において開示された特定の挟持方法に限定して解釈される必要があるところ、イ号物件においては、挿通溝12bの両側に配置したエチレン・プロピレンゴム製の挟持片1a、1bの間に支線を入れて挟持しており、これは本件明細書に開示された挟持片による挾持とは構成が異なる。よってイ号物件は構成要件(5)を充足しない。

三  争点1(3)(構成要件(6))について

【原告の主張】

1 イ号物件の上端部は遮光状態に支索に当接する構造となっているが、下端部は開放構造となっている。

(一) しかし、円筒状の保護具の両端部が遮光状態に支索に当接することの意味は、蔦性植物が円筒の外周を通ることなく内方の支索に直接巻き付いて上ってしまい、保護具を貫通して上部に達することを防止するためのものであるから、上端部が遮光構造であれば、必ずしも下端部が遮光構造である必要はない。イ号物件のように下部の遮光部を円筒の内部に若干移動させても、蔦性植物の円筒内部への進行はそこで阻止されるので、作用効果として何の差異もなく、設計上の微差に属する。

(二) 仮にそうでないとしても、イ号物件は、次のとおり本件考案の均等の範囲に属する。

(1) 本件考案の目的は、支索に簡単に取り付けることができ、蔦性植物の巻き付きを確実に防止することができるとともに、耐久性にすぐれた支索の保護具を提供することにあり、これよりすれば、本件考案の本質的部分は、保護具本体を構成する分割体の内面部分を中空の二重壁構造にすること(構成要件(3))及び分割体同士を一端部が薄肉のヒンジ部で連結された状態で一体に成形すること(構成要件(4))にある。したがって、本構成要件は、本件考案の本質的部分ではない。

(2) (一)のとおり、イ号物件は、構成要件(6)と同一の作用効果を奏するから、置換可能である。

(3) イ号物件は、本件考案における、保護具下端部を単に開放構造に置換したにすぎないが、公知技術として下端部を開放構造にする保護具は多数存していたから、右置換は、本件考案の出願時点においてすら、置換容易であった。

(4) そして、イ号物件は本件考案の出願当時の公知技術から容易に推考し得たものではなく、また本件考案の出願経過においてイ号物件の構造を意識的に除外した事情は存しない。

2 被告は、イ号物件では挿通孔と支索との間に径差があると主張するが、イ号物件程度の径差(直径五mmの支索を挿通させたときの間隙は七・五mm、直径八mmの支索を挿通させたときの間隙は一mm)であれば、なお「遮光状態に支索に当接する」というべきである。

【被告の主張】

1 イ号物件の下端部は大きく開口しているから、「両端部が遮光状態で支索に当接する」との要件を充足しない。

原告は設計上の微差又は均等の主張をする。しかし、本件考案が両端部を遮光状態で当接するという構成を採用したのは、円筒下部から蔦性植物が侵入することを防止するためであるから、構成要件(6)も、同(3)(4)と並んで本件考案の本質的部分に属する。そしてまた、イ号物件の下端部は大きく開口しており、そこから保護具内部に蔦性植物が侵入することから、イ号物件は構成要件(6)の作用効果を奏せず、置換可能性もない。

なお、均等に関する消極的要件(原告の主張(二)(4))を充足することは認める。

2 また、イ号物件の挿通孔の内径は、挿通させる支線(六ないし一五mm径)が十分に挿通できるように直径二〇mmとしているので、保護具が「遮光状態に支索に当接する」するとの要件を充足しない。

四  争点2(損害)について

【原告の主張】

被告は、平成九年春頃から平成一〇年四月二七日(本件訴訟提起時)までのイ号物件の製造・販売によって、少なくとも一〇〇〇万円の利益を得た。したがって、この額が原告が受けた損害の額と推定される。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(3)(構成要件(6))について

1  別紙物件目録及び検甲1によれば、イ号物件の半割円筒体<2><3>の遊端部同士を係止片<14>と係止凹部<15>によって筒状に固定したときの状態は、(ア)上端部は、上端面中心部に形成した挿通溝11b、12bによって支線の挿通孔(内径は直径二〇mm)が形成され、(イ)下端部は、下端<6>から内部<7>(下端<6>から五〇〇mmの位置)まで、断面形状が外壁<8>と同心円をなす円弧状の内壁<9>を形成しており、開口状態になっているものと認められる。

これによれば、イ号物件の半割円筒体<2><3>を閉じたときは、上端部はわずか直径二〇mmの挿通孔が開いているのみであり、しかもその中に支線(弁論の全趣旨によれば直径六ないし一五mmと認められる。)が挿通されるのであるから、上端面部分においては完全な遮光状態とはいえないものの、上端面の挿通孔から差し込んだ光がイ号物件の内部に届く範囲は極めてわずかであると考えられる。したがって、イ号物件の上端部は、実質的に見れば、「遮光状態に支索に当接する」構造を有するというべきである。

他方、下端部は、下端から五〇〇mmの内部<7>の位置まで大きく開口していることが認められるところ、イ号物件の本体長手方向の長さは一三〇〇mmであるから、開口部分は全体の四割近くにわたっていることになり、実質的に見ても、下端部が「遮光状態に支索に当接する」構造を有しているとはいえない。なおこの点、イ号物件の下端は内部<7>の位置であり、それから下の部分は付加的なものにすぎないとの見方をすることについては、検甲1によれば、イ号物件の半割円筒体は全体が一体的に形成されていると認められるから(なお構成要件(4)参照)、構造上、その一部が付加的なものにすぎないということはできず、右のような見方をとることはできない。

したがって、イ号物件は、「両端部が遮光状態に当接する」との要件を充足しない。

2  そこで、原告の均等の主張について検討する。

(一) 甲1によれば、本件考案は、構築物、主として電柱を支える支索に装着されて使用される保護具に関する考案であるところ、このような支索の保護具が必要とされる理由としては、「地上から電柱の上方近くにまで斜めに支索を張り渡して道端に植立した電柱を支えるようにしてあるが、特に郊外の道端に植立した電柱の支索には地上に生えている蔦性の植物が上方にまで次第に巻きついてしまう。こうして蔦性植物が電柱の上部近傍にまで支索を伝って巻きつくと、この蔦性植物を伝って蛇や蜥蜴等が上り、電線に触れてショートさせ、これが為に停電を引き起こす原因になっていた。」(本件公報2欄3ないし10行目)ので、右のような問題を防止するために保護具が必要とされるものであることが認められる。

(二) 後掲各証拠によれば、本件考案の出願前に、支索の保護具に関する公知技術には、次のものがあったことが認められる。

(1) 乙4(昭五七ー一二九八六四号公開実用新案公報)及び乙6(昭六一ー二〇二〇二号実用新案公報)

ここでは、いわゆる逆碗形の蔦返し具(考案の名称は「電柱用支線における蔓草及び小動物等のよじ登り防止具」)が開示されており、下端部に広口の開口を備え、上方に向かって漸次すぼまる逆碗形の形状となっており、上端の外方に突設された筒部の内径は先端に向かって次第に細径に形成されている。そして、この蔦返し具を支線に取り付けた場合、上端部は閉塞又はそれに近い状態になるものと推認される。

(2) 乙2(昭五二ー五六四三六号公開実用新案公報)

ここでは、いわゆる円筒とその内方に支持具で支持された補助筒を設けた構成の支索の保護具(考案の名称は「電柱支線かずら登り防止装置」)が開示されており、その下端は中央を開放したラッパ型蓋を挿入して開口状態とし、上端は中央に支線大の孔を穿設した蓋を接着剤で包着し、支線孔には支線緊締口を設けて閉塞に近い状態とする構造が示されている。

(3) 乙1(昭四七ー三四一九六号実用新案公報)

ここでは、いわゆる円筒を半割にし、その内部で支索を連結具で締付固定する構造の「支線又は電線用安全カバー」が開示されており、その上端及び下端は開口されている構造が示されている。

(4) 乙5(昭五九ー七二三六一号公開特許公報)

ここでは、上端を閉塞し、下端を開放した円筒形の支線の保護具(発明の名称は「電柱支線用かずら巻き防止方法」)が開示されており、「ガード(円筒体)の下端は開放されているので支線に巻きつき上昇するかずらはガード(円筒体)内に進入することになり、且つ上部の支線通し用孔12からの僅かな明かりを目指して更に奥に進むがその進入する光が弱いために活力が衰えて伸びが弱まり、たとえガード(円筒体)の下端部でだんごのようになってもガードに巻きつくことは不能であるからガード上方の支線を経て送電線に達することを完全に防止できるという効果がある。なお図示のようにガード(円筒体)の下端をラッパ上に拡開しておくことによりガード内へのかずらの進入を容易にし且つガードへの巻きつきも一層不能となすことができる。」との記載がある。

(5) 乙3(昭五六ー四六六一六号公開特許公報)

ここでは、一定以上の大きさ(外周直径と鉛直面への投影長さを一定以上とする)を有する円筒形の支索の保護具(発明の名称は「支線への蔦の巻上り防止具」)が開示されており、右のように保護具を一定以上の大きさにすることにより蔦が外側を巻き上がることを不可能にするとともに、その上端及び下端は蓋部分で塞がれている構造が示されている。そして、特許請求の範囲には「蔦が内部に侵入するのを防止した構造を有する」ことが要件とされ、その効果として、「蔦が内部に侵入するのを防止した構造を有するので、蔦が本件巻上り防止具内で支線を巻上ることは不可能である。」と記載されている。

(三) 甲1によれば、本件明細書において、支索保護具に関する従来技術として、逆碗形の蔦返し具や筒状の支索保護具、乙1、乙2の各公報記載のものが存在したことを指摘した上で、従来の保護具の問題点として、<1>逆碗状の蔦返し具では肉厚が薄いために蔦性植物が蔦返し具を簡単に乗り越えるという問題があったこと、<2>筒状の保護具のほとんどのものが、支索に取り付ける作業に手間がかかり、作業能率が悪い上に、直径及び長さが不十分なため蔦性植物が保護具の外周に巻付きながらよじ登るという問題がったこと、<3>上下両端が開放された保護具(乙1のようなもの)では、蔦性植物は円筒内の支索に巻付いて登ってしまう問題があったこと、<4>円筒状の保護具は、四季の温度差等によって円筒部が簡単に変形して継ぎ目部分が口を開き、この開口から蔦性植物が円筒内部に入り込んだり、内部に入り込んでいる蔦性植物がここから外部に出て上方へ登りやすくなるし、継ぎ目部分が口を開いた状態になって遮光性が損なわれるため、円筒内で蔦性植物が成長して支索を登ってしまうという問題があったこと、<4>円筒とその内部に補助筒を設けたもの(乙2)では、円筒内に補助筒を固定する作業を要するだけでなく、円筒下端部が開放されているため、この開放部分から蔦性植物が侵入するとともに、光も入ることから、円筒内で蔦性植物が成長し、上方の隙間から支索を登ってしまうという問題があったことなどを指摘している(本件公報3欄5ないし49行目)ことが認められる。

(四) 本件考案は、本件明細書の記載によれば、前記のような従来技術の問題点に鑑み考案されたもので、「支索に簡単に取付けることが出来、蔦性植物の巻付きを確実に防止することが出来るとともに、耐久性にすぐれた支索の保護具を提供できるようにすることを目的とする」ものである(本件公報3欄50行目ないし4欄4行目)。そして、本件考案は、実用新案登録請求の範囲記載のような構成を採用したことにより、支索への取付作業の能率を向上させたことに加え、保護具を形成する「各分割体はその内部を中空の二重壁を一体に形成した構造となっており、各分割体は二重壁が互いに補強しあうので、四季の温度変化等にも変形し難く、分割体を合わせて形成された円筒状の支索の保護具は永年に亘って変形を防止でき、従来のような接合部の開きも無く、蔦性植物の攀じ登りを永年に亙って確実に防止することが出来る。・・・また、(各分割体の)中空部分が断熱作用をし、恰も魔法瓶のように周囲の熱が内方の筒壁に伝わるのが防止され、内方の筒壁を確実に防止して保護具の変形を防止してその耐久性を大幅に向上させることができると言う利点もある。」(本件公報6欄44行目ないし7欄9行目)という効果を奏するものであると認められる(甲1)。

(五) そこで、本件考案の構成要件(5)にいう「円筒状の両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成の技術的意義について検討すると、支索の保護具の存在目的は、前記のとおり、蔦性植物が支索を上って電線に達するのを防止することにあるが、そのためには、保護具において確実に蔦性植物の巻き上がりを阻止することが重要であると考えられる。しかるところ、蔦性植物が保護具よりも上方に巻き上がる場合には、保護具の外面を伝って巻き上がる場合と、保護具の内部を通って巻き上がる場合の双方があり、支索の保護具はこの双方とも阻止する構造を有している必要があるが、前記の本件明細書の記載からすれば、「両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成は、これらのうち、蔦性植物が保護具の内部を通って巻き上がることを防止する趣旨に出るもので、万一保護具内部に侵入した蔦性植物があったとしても、(保護具本体を遮光性を有する不透明の合成樹脂で形成した構成〔構成要件(2)〕と相まって)蔦性植物が内部で成長することのないように保護具内部全体を暗室のように遮光性を完全に保持することを目的としているものであることが明らかである。そして、本件考案は、右構成とその余の構成(保護具を中空二重壁構造で一体に形成すること等)とを有機的に結合することによって、前記のように本件考案の出願時に公知の支索保護具が有した問題点を解決しようとしたものであり、かつ、保護具本体の円筒状の両端部を遮光状態に支索に当接するようにした構成自体、従来の公知技術にも見られなかったものである(乙3の保護具は、上下両端を蓋で閉塞しているが、遮光状態にするかどうかは問題にしていない。)。

右のような「両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成の技術的意義と、先にみた本件考案が解決しようとした課題、解決のために本件考案が採用した構成及びその効果を併せ考えれば、右「両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された構成のうち、本件考案特有の課題解決手段を基礎付け、その特有の効果を生じさせるための特徴的な部分に属するというべきである。このことは、本件明細書の考案の詳細な説明中の「課題を解決するための手段」の項で、本件考案の構成上の特徴として「分割体の遊端同士を連結手段で筒状に固定した時に、円筒状の両端部が遮光状態に支索に当接するように構成したこと」も挙げていること(甲1)からも明らかである。さらに、乙7ないし9によれば、本件考案の出願当初の明細書の実用新案登録請求の範囲には「両端部が遮光状態に支索に当接する」との記載はなかったが、特許庁審査官から、乙1ないし3の公報を引用文献として進歩性を欠くとの拒絶理由通知を受け、出願人は、実用新案登録請求の範囲を本件公報記載のように補正するとともに、審査官に提出した意見書において「両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成も本件考案の特徴であると述べたことが認められ、右出願経過に照らして、本件考案の出願人においても前記構成が本件考案の特徴的部分であると捉えていたと認められることからも、このことが裏付けられる。

右事実によれば、本件考案の構成要件(6)の「両端部が遮光状態に支索に当接する」との構成は、本件考案の本質的部分に当たるというべきである。

イ号物件が本件考案の構成と均等なものとして本件考案の技術的範囲に属するというためには、原告も主張するとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された構成中のイ号物件と異なる部分が本件考案の本質的部分でないことが要件として必要である(最高裁平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)ところ、イ号物件が本件考案と異なる構成要件(6)の「両端部が遮光状態に支索に当接する」との部分は、本件考案の本質的部分であるから、イ号物件が本件考案と均等であると認めることはできない。

(六) さらに、下端部が五〇〇mmにわたって開口状態となっているイ号物件においては、蔦性植物が保護具の内部に侵入することを防止し、かつ保護具内部の遮光性を保持するという本件考案の作用効果を奏するものでもないから、均等が成立するための要件のうち、置換可能性の要件も欠くというべきであり、均等は成立しないと同時に、設計上の微差ともいえない。

二  したがって、その余の構成要件との対比を判断するまでもなく、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するものとは認められない。

第五結論

以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(平成一一年一一月九日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)

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