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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)840号 判決 1998年10月13日

原告

斎藤悦子

被告

中角政宏

主文

一  被告は、原告に対し、金二二二万五五五三円及びこれに対する平成一〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七二〇万〇〇五七円及びこれに対する平成一〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用自動車が原告運転の足踏式自転車に衝突して原告が負傷した事故につき、原告が被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年二月四日午前一一時三〇分頃

場所 大阪府堺市北清水町二丁四番一号先路上(以下「本件事故現場」という。)

加害車両 普通乗用自動車(和泉五〇ぬ三二五三)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

被害車両 足踏式自転車(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

事故態様 本件事故現場付近の交差点(以下「本件交差点」という。)において被告車両が原告車両に衝突した。

2  損害の填補

原告は、本件事故に関し、五六万三三三二円の支払をうけた。

二  争点

1  本件事故の態様(被告の過失、原告の過失)

(原告の主張)

本件事故の原因は、被告が一時停止を怠り、左右の安全を確認しないで本件交差点に進入したことにある。

本件交差点において、原告は一時停止すべき注意義務を負うものではなく、原告に過失相殺されるべき事情はない。

(被告の主張)

本件事故は、被告車両が信号機の設置されていない本件交差点において、南から北に向けいったん停止して左右の安全を確認した後徐行にて進入したところ、突如原告車両が一時停止せず、また衝突直前まで左方の注視を全くすることなく東から西に向け被告車両前方に飛び出してきたため、被告において直ちに急制動等事故回避措置をなしたが直近にて避けようもなく被告車両前部と原告車両とが接触するに至ったものである。

よって、本件事故については、原告にも過失があり、十分な過失相殺をすることを求める。

2  原告の損害額

(原告の主張)

(一) 治療費 二九万六〇九〇円

(二) 通院交通費 二万三六五〇円

(三) 通院雑費 五万円

(四) 休業損害 二二九万三二八〇円

原告は、和菓子と喫茶の店「遠州屋」を経営していたが、本件事故の結果、休業を余儀なくされた。平成五年度の収入は五九一万七八六四円であり、平成六年度の収入は四五四万四九四二円である。そこで、両年の収入を合計し二で除すると平均年収は、五二三万一四〇三円となる。これを一日あたりに換算すると、一万四三三三円である。本件事故発生日(平成七年二月四日)から症状固定日(平成七年七月一三日)までの休業期間は一六〇日である。よって、休業損害は次の計算式のとおりである。

(計算式) 14,333×160=2,293,280

(五) 後遺障害逸失利益 二四一万〇三六九円

原告の後遺障害は一四級一〇号に該当し、労働能力喪失率は〇・〇五であり、稼働期間を一二年間として後遺障害逸失利益を算定すると、次の計算式のとおりである。

(計算式) 5,231,403×0.05×9.215=2,410,369

(六) 通院慰謝料 八四万円

(七) 後遺障害慰藉料 八五万円

(八) 弁護士費用 一〇〇万円

よって、原告は、被告に対し、右損害金合計額七七六万三三八九円から填補額五六万三三三二円を控除した七二〇万〇〇五七円に対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年二月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

否認する。

原告の傷病名は「頸部捻挫、左手擦過傷、腰部打撲、左側頭部挫傷」であり、本件事故と原告長期加療との間の相当因果関係につき問題がある。また、原告の収入については確たる証明もない。

原告の症状は他覚所見の伴わない自覚症状のみに基づくものであるし、自算会調査事務所における事前認定の結果、原告の後遺障害は等級非該当と判断されたのであり、原告の後遺障害の主張は失当である。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙三1ないし4、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府堺市北清水町二丁四番一号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ垂直に交わる信号機による交通整理の行われていない交差点である。南北道路は、車道の幅員二・七メートルの北行一方通行路であり、本件交差点手前には、一時停止線が引かれ、一時停止標識が設置されており、制限速度は時速二〇キロメートルに規制されている。東西道路は、幅員五・二メートルの道路である。

被告は、平成七年二月四日午前一一時三〇分頃、被告車両を運転し、南北道路を南から北に向けて走行し、本件交差点手前で一時停止標識を認め、別紙図面<1>地点で一時停止した後、左方を見ながら発進したところ、同図面<2>地点で右方から原告車両が同図面<ア>地点まで進行しているのを発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、同図面<×>地点で原告車両に衝突した(右衝突時における被告車両の位置は、同図面<3>地点、原告車両の位置は、同図面<イ>地点である。)。被告車両は同図面<4>地点に停止し、原告車両は同図面<ウ>地点に転倒した。右衝突により、被告車両は、右前バンパー擦過、右前フェンダー擦過の損傷を被り、原告車両も左スタンド擦過の損傷を被った。なお、原告は、衝突直前まで右方は見ていたが、左方の注視はしていなかった。

以上のとおり認められる。原告は、被告車両が一時停止していなかったと主張するが、原告は衝突する直前まで被告車両が進行してくる方向は見ていなかったこと、本件事故によって原告が跳ね上げられてはいないこと、被告車両及び原告車両の損傷が前記の程度にとどまることに照らすと、原告の右主張を採用することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、主として、被告が、右方の安全確認が不十分なまま本件交差点に進入した過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、原告としても、衝突直前まで左方の注視をすることなく本件交差点に進入するという不注意な点が認められるから、原告に生じた損害の全てを被告の負担とするのは公平に失するといわざるをえない。

よって、本件においては、右認定にかかる一切の事情を斟酌し、二割五分の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(原告の損害額)

1  証拠(甲二ないし四、乙一、二、四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告(昭和一四年三月二八日生、本件事故当時五五歳)は、本件事故当時、和菓子と喫茶の店「遠州屋」を経営し、和菓子の製造を担当していた。

原告は、本件事故当日である平成七年二月四日から同年七月一三日まで、清恵会病院に頸部捻挫、左手擦過傷、腰部打撲、左側頭部挫傷の傷病名で通院し、肩こり、頭痛、腰痛、右上肢痛・しびれを訴え、リハビリを施行され、保存的治療を受けた。清恵会病院の山崎医師は、平成七年二月一六日付の就労可否証明書において、原告は平成七年二月四日から同年三月三一日まで就労不可の見込みであると判断し、その理由として両上肢に痛みを伴うしびれが強く両手の筋力低下が強い中心性脊髄損傷に近い症状があるからとしている。原告の清恵会病院への通院日数は、平成七年二月が一〇日、同年三月が二日、同年四月が一日、同年五月が二日、同年六月が一日、同年七月が一日であった。清恵会病院の山崎医師は、原告の就業が全く不可能な期間、平常の生活に支障があると思われる期間につき、どちらも平成七年二月四日ないし同年五月二五日までと判断した。原告は、清恵会病院が自宅から遠かったため、山崎医師の了解を得て近所のハタ整骨院でリハビリを受けることにした。

山崎医師は、平成七年七月一三日をもって原告の症状が固定した旨の後遺障害診断書(診断日平成七年七月一三日、診断書発行日同月二〇日)を作成したが、同診断書によれば、左手小指、右手中指・環指・小指にしびれと知覚低下があり、握力右一五・五、左二〇・五であった。

また、原告は、平成七年七月二八日の一回、浅井整形外科の診療を受け、後遺障害診断書を得た。右診断書によれば、傷病名として、右頸腕症候群が掲げられ、自覚症状として、右上肢のしびれ感、他覚症状及び検査結果として、右頸神経、腕神経叢及び大後頭神経の圧痛、X線検査にて頸椎第四、五、六に変形及び椎間の狭小化が認められたとされている。

自算会調査事務所は、原告の後遺障害につき、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表に該当しないと判断した。原告はこれを不服として異議申立てを行ったが、自算会調査事務所は、X線写真及びMRI上外傷を起因とする異常は認められず、治療経過上も主として投薬により保存的に加療され特段の異常所見もなく後遺障害診断書上も有意な神経学的異常所見や外傷に起因する他覚的所見に乏しいところから自訴主体の愁訴と捉えられるとして、既認定のとおり、原告の後遺障害は等級非該当と判断した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 原告は、本件事故当時、特に支障なく和菓子の製造の仕事をしていたこと、X線検査上原告には第四ないし第六頸椎に変形があり、その間の狭小化が認められること(以上、前認定事実及び弁論の全趣旨)、一般に右部位には経年性の変形・狭小化が起こることが多いが、これがあっても必ずしも直ちに症状として発現するというわけではないこと、中心性脊髄損傷は一般の脊髄損傷と比較し、予後も良好であること(以上、当裁判所に顕著)、原告には頸椎の脱臼や骨折等はないこと(弁論の全趣旨)、原告がしびれを訴える部位が上肢であること等の認定事実を総合すると、本件事故によって一挙に頸椎第四、五、六の変形及びこれらの椎間の狭小化が生じたとみるのは合理的ではなく、原告には本件事故前から頸椎第四、五、六の変形及びこれらの椎間の狭小化があったところ、右脆弱な部位に本件事故による衝撃が加わったことにより、右部位付近の神経根に圧迫ないし刺激が加わったが、あるいは脊髄の中心部の神経繊維の過伸展損傷が起こり、このため、上肢のしびれ感を来たしたものと認めることができる。そして、原告の症状発生の原因について右のとおり説明できることに加え、原告の症状の程度及び治療経過を併せ考えると、原告の症状は、平成七年七月一三日に固定したものであり、その後遺障害は、一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当するものというべきである(なお、頸椎の変形・狭小化が年齢不相当に進行したものと認めるに足りる証拠はないところ、加齢に通常伴う程度の変性は個体差として当然にその存在が予定されているものであって、これを損害賠償の額を定めるにつき斟酌することは相当ではないから、本件においていわゆる素因減額を行うのは相当ではない。)。

2  損害額

(一) 治療費 二七万二三三二円

原告は、本件事故による治療費として二七万二三三二円を要したと認められる(弁論の全趣旨)

(二) 通院交通費 認められない。

これを認めるに足りる証拠はない。

(三) 通院雑費 認められない。

これを認めるに足りる証拠はない。

(四) 休業損害 一一六万九三八三円

前認定事実によれば、原告は、本件事故日である平成七年二月四日から同年五月二五日までの一一一日間は完全に休業を要する状態であり、同月二六日から症状固定日である同年七月一三日までの四九日間は平均して五〇パーセント労働能力が制限される状態であったと認められる。原告が右認定以上に休業を要する状態であったことを認めるに足りる証拠はない。

次に、原告の休業損害算定上の基礎収入について判断するに、証拠(甲五、六1、2、七1、2、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、和菓子と喫茶の店「遠州屋」を経営していたところ、「遠州屋」の本件事故前年度の収益は少なくとも四五〇万円の収益はあったこと(なお、原告は、税務申告しておらず、その書証として提出する帳面等記載の金額についての厳密な信用性には疑問の余地があるが、その記載の体裁等に照らし、その金額は真実の金額と大きな差異はないものと推認される。)、当時、喫茶は娘が担当し、和菓子の店についても原告が外出している間は娘にみてもらっていたこと、喫茶よりも和菓子の店からの収益の方が大きかったこと、喫茶でも原告製造の和菓子を出していたことが認められる。右認定事実によれば、原告の基礎収入としては、四五〇万円の七割に相当する三一五万円とみるのが相当である。

以上を前提として、原告の休業損害を算定すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 3,150,000×111/365+3,150,000×0.5×49/365=1,169,383(一円未満切捨て)

(五) 後遺障害逸失利益 四三万〇一三二円

前認定に係る原告の症状の内容にかんがみると、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当し、原告は、右後遺障害により、その労働能力の五パーセントを症状固定時から三年間喪失したものと認められる。

原告の逸失利益算定上の基礎収入(年収)は、前記のとおり三一五万円であるところ、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 3,150,000×0.05×2.731=430,132

(一円未満切捨て)

(六) 通院慰謝料 七三万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は七三万円が相当である。

(七) 後遺障害慰藉料 八五万円

前記のとおり、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表一四級に該当するものであり、原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、八五万円が相当である。

3  損害額(過失相殺後) 二五八万八八八五円

以上掲げた原告の損害額の合計は、三四五万一八四七円であるところ、前記の次第でその二割五分を控除すると、二五八万八八八五円(一円未満切捨て)となる。

4  損害額(損害の填補分を控除後) 二〇二万五五五三円

原告は、被告から本件事故に関し、五六万三三三二円の支払を受けているから、これらを前記過失相殺後の金額二五八万八八八五円から控除すると、残額は二〇二万五五五三円となる。

5  弁護士費用 二〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は二〇万円をもって相当と認める。

6  まとめ

よって、原告の損害賠償請求権の元本金額は二二二万五五五三円となる。

三  結論

以上の次第で、原告の被告に対する請求は、二二二万五五五三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年二月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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