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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8677号・平10年(ワ)9278号・平7年(ワ)11994号・平8年(ワ)4676号・平9年(ワ)1939号 判決

甲、乙事件原告

西村一朗

右訴訟代理人弁護士

吉武伸剛

飯田秀人

椎名麻紗枝

鈴木利治

甲、乙事件原告

亀田信男

右訴訟代理人弁護士

吉武伸剛

甲、乙事件参加人

初瀬和敏

右訴訟代理人弁護士

吉武伸剛

飯田秀人

椎名麻紗枝

鈴木利治

甲、乙事件被告

安部川澄夫

外一四名

甲事件被告

團野精一

甲、乙事件被告

近藤宏

甲事件被告

木村維夫

外七名

甲、乙事件被告

寺田一彦

甲、乙事件被告

宗宮英韶

甲事件被告

肥後馨

外七名

乙事件被告

木村勇雄

外一一名

右四七名訴訟代理人弁護士

河本一郎

手塚一男

大江忠

三浦州夫

乙事件被告

大西正文

右訴訟代理人弁護士

小木曽良忠

廣本文晴

甲、乙事件被告

平岩新吾

右訴訟代理人弁護士

牛場国雄

主文

一  被告宗宮英韶に対する本件訴えのうち取締役としての責任を追及する部分を却下する。

二  被告安井健二は、株式会社大和銀行(本店の所在地・大阪市中央区備後町<番地略>)に対し、五億三〇〇〇万ドル及びこれに対する平成八年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  次の被告らは、各自、株式会社大和銀行に対し、次の金員を支払え。

1  被告安部川澄夫は一億〇五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員

2  被告藤田彬は一億〇五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員

3  被告安井健二は二億四五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員

4  被告海保孝は一億〇五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員

5  被告源氏田重義は七〇〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員

6  被告川上敏朗は一億〇五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員

7  被告砂原和彌は一億〇五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員

8  被告山路弘行は二億四五〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員

9  被告勝田泰久は七〇〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員

10  被告乙山次郎は一億五七五〇万ドル及びこれに対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員

11  被告黒石輯は七〇〇〇万ドル及びこれに対する平成八年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員

四  被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎、同宗宮英韶及び同黒石輯に対するその余の原告らの請求及び参加人の参加請求をいずれも棄却する。

五  被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎、同宗宮英韶及び同黒石輯を除くその余の被告らに対する原告らの請求及び参加人の参加請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、原告ら及び参加人と被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎及び同黒石輯との間においては、原告ら及び参加人に生じた費用の二分の一を右被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告ら及び参加人とその余の被告らとの間においては、全部原告ら及び参加人の負担とする。

七  この判決は、二項及び三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求及び参加請求

一  甲事件

甲事件被告らは、株式会社大和銀行(以下「大和銀行」という。)に対し、連帯して、一一億ドル及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告らは、大和銀行に対し、連帯して、三億五〇〇〇万ドル及びこれに対する平成八年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

甲事件は、大和銀行の株主である原告ら及び参加人が、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)所在の大和銀行ニューヨーク支店(以下「ニューヨーク支店」という。)において、同行の行員甲野太郎(以下「甲野」という。)が、昭和五九年から平成七年までの間、同行に無断かつ簿外で米国財務省証券(以下「財務省証券」という。)の取引(以下「本件無断取引」という。)を行って約一一億ドルの損失を出し、右損失を隠ぺいするために顧客、大和銀行所有の財務省証券を無断かつ簿外で売却して(以下「本件無断売却」という。)、大和銀行に約一一億ドルの損害を与えたことにつき、右は、当時、代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役が、行員による不正行為を防止するとともに、損失の拡大を最小限にとどめるための管理体制(以下「内部統制システム」という。)を構築すべき善管注意義務及び忠実義務があったのにこれを怠り、その余の取締役及び監査役は、右代表取締役らが内部統制システムを構築しているか監視する善管注意義務又は忠実義務があったのにこれを怠ったため、本件無断取引及び無断売却を防止できなかったものであるとして、大和銀行が被った右損害金一一億ドル、そして、甲野の平成七年七月一三日付けの頭取宛ての書簡により損害の発生が明らかになったとして、同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、同行に賠償するよう求めた株主代表訴訟である。

また、乙事件は、大和銀行が、ニューヨーク支店において、本件無断取引等により約一一億ドルの損害が発生したことを米国当局に隠匿していたなどとして、米国において、別紙「訴因概要一覧」記載の二四の訴因について、刑事訴追を受け、そのうち一六の訴因(本件訴因1ないし7、14ないし20、23及び24、以下「本件有罪答弁訴因」という。)について有罪の答弁を行って、罰金三億四〇〇〇万ドルを支払ったが、本件有罪答弁訴因のうち本件訴因14ないし20に関しては、右各訴因に係る事実の当時、代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役は、内部統制システムを構築すべき善管注意義務及び忠実義務があったのにこれを怠り、その余の取締役及び監査役は、右代表取締役らが内部統制システムを構築しているか監視する善管注意義務又は忠実義務があったのにこれを怠ったため、甲野が本件訴因14ないし20を構成する虚偽記載等を行うことを防止できなかったものであるとして、また、本件有罪答弁訴因のうち本件訴因1ないし7、23及び24に関しては、右各訴因に係る事実の当時、代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役が、米国において営業する際に、同国の法令を遵守せず行ったものであり、これらが善管注意義務及び忠実義務に違反するものであるとともに、その余の取締役及び監査役は、右代表取締役らが米国の法令を遵守しているか監視する善管注意義務又は忠実義務があったのにこれを怠ったため、代表取締役らの右行為を防止することができなかったものであるとして、大和銀行が支払った右罰金三億四〇〇〇万ドル及び右刑事事件に関し支払った弁護士報酬一〇〇〇万ドルの合計三億五〇〇〇万ドル並びにこれに対する右罰金を完納した日である平成八年二月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、同行に賠償するよう求めた株主代表訴訟である。

一  当事者間に争いのない事実、掲記の証拠(以下、掲記の証拠番号は乙事件の証拠番号であり、枝番号を含む。以下同様。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

1  当事者等

(一) 大和銀行は、銀行業務、信託業務等を目的とする、我が国有数の普通銀行(都市銀行)であり、平成七年七月二七日現在の発行済株式の総数は一五億七〇五八万五一二七株(普通株式一五億二〇五八万五一二七株・優先株式五〇〇〇万株)(額面株式一株の金額五〇円)、資本の額は二〇七〇億七五六六万七三九五円である(弁論の全趣旨)。

(二) 原告らは、平成七年一〇月二三日の六か月以上前から引き続き大和銀行の株式一〇〇〇株以上を保有する株主の地位にある。

(三) 参加人は、大和銀行の株式一〇〇〇株を保有する株主の地位にある。

(四) 被告らは、大和銀行の取締役又は監査役の地位にあった者であり、その在任期間及び役職は、別紙「被告の大和銀行役員就退任時期及び役職の推移」記載のとおりである。

(五) 甲野は、昭和五一年一月ころ、ダウンタウン(米国ニューヨーク州ニューヨーク市ブロードウェイ<番地略>)にあったニューヨーク支店に採用されて、証券係に配属され、カストディ業務(証券保管業務)及び有価証券の投資業務を担当した。

2  本件無断取引及び無断売却

(一) 大和銀行は、昭和五九年二月、ニューヨーク支店に対し、三〇〇万ドルの取引限度枠で財務省証券の取引を認可した。甲野は、証券係で、カストディ業務を担当する傍ら、トレーダーとして財務省証券の取引も担当することとなった。

(二) 甲野は、当初は認可された三〇〇万ドルの取引限度枠内で財務省証券(トレジャリー・ボンド、償還期限まで一〇年超の利付国債)の取引を行い、少額ながら着実に利益を挙げていたが、同年六月末ころ、一回の取引で約二〇万ドルの含み損を抱え、これを計上すれば取引停止となると考え、右損失を取り戻そうと、無断かつ簿外で、財務省証券の取引を行い、かえって、損失を拡大させた。そして、甲野は、損失が五〇万ドルを超えたころには、認可された三〇〇万ドルの取引限度枠を超えてポジションを保持するようになり、損失を増大させた。右の取引限度枠は、三〇〇万ドルから五〇〇〇万ドルまで拡大されたが、甲野は、昭和六〇年三月ころには約一億ドル、昭和六二年二月末には約一〇億ドル、平成元年五月から七月にかけては約二〇億ドル、平成五年には約一五億ドルと、認可された取引限度枠を超えて、ポジションを保持し、本件無断取引を行い、損失は、昭和六〇年三月ころには約三五〇〇万ドル、昭和六一年には五〇〇〇万ドルから六〇〇〇万ドル、平成元年七月ころには約五億七〇〇〇万ドルなどと増加した。

(三) 甲野は、本件無断取引により生じた損失を隠ぺいするために、証券係(平成二年一月以降は、カストディ係)で保管していた顧客、大和銀行(本部年金信託部及び信託部又はニューヨーク支店勘定)所有の財務省証券を無断かつ簿外で売却し、さらに、右事実を隠ぺいするため、右財務省証券の再保管銀行であるバンカーズ・トラスト・カンパニー(以下「バンカーズ・トラスト」という。)から大和銀行に郵送されてくる保管残高明細書を作り替えていた。

(四) 甲野は、被告藤田彬宛てに、本件無断取引により約一一億ドルの売買損を出したこと、右売買損を補てんするために顧客等が所有する財務省証券を無断売却したこと、右無断売却の事実を隠ぺいするためにバンカーズ・トラストの保管残高明細書を作り替えていたことなどを内容とする平成七年七月一三日付けの書簡(乙A一九、以下「本件書簡」という。)を同月一八日午後六時四一分(現地時間)に発送し、同被告は、同月二四日、大和ビジネスサービス及び本部秘書室経由で、本件書簡を受領した(乙A二〇、弁論の全趣旨)。

(五) 本件無断取引及び無断売却による損失金額は、平成七年七月一三日当時で約一一億ドルであった。

3  大和銀行の刑事訴追

(一) 大和銀行は、米国において、平成七年一一月二日、別紙「訴因概要一覧」記載の二四の訴因について、刑事訴追を受け、右事件はニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に係属した。

(二) 大和銀行は、平成八年二月二七日、取締役である被告海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同勝田昱宏、同勝田泰久、同木村勇雄、同出澤克久、同黒石輯、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同辻征二及び同岩尾崇、並びに監査役である被告寺田一彦及び同平岩新吾出席の上、取締役会を開催し、取締役全員一致の承認を得た上、同日(現地時間)、米国司法省との間で、司法取引に関する合意を書面(乙A一)により行った(甲四、乙A九)。合意の概要は次のとおりである。すなわち、

①ニューヨーク南部地区連邦検察官事務所は、大和銀行による本件有罪答弁訴因についての有罪答弁を受諾する。

②大和銀行は、有罪答弁において、右合意書添付の「株式会社大和銀行の事実陳述」(乙A一)のとおり、事実陳述を行う。

③両者は、本件における適正な罰金額について三億四〇〇〇万ドルと取り決める。

④大和銀行は、判決宣告日に三億四〇〇〇万ドルを右連邦検察官事務所の指図に従い電信送信によって支払い(右罰金額の全額が刑事罰であり、大和銀行はいかなる場合でもその返還を求めることができない。)、また、大和銀行は、一訴因ごとに二〇〇ドルの特別課徴金を支払う。

⑤右連邦検察官事務所は、右有罪答弁を考慮し、大和銀行が本合意に完全に従う場合には、大和銀行、同行の子会社ダイワ・バンク・トラスト(以下「大和トラスト」という。)、その子会社及び関連会社に対して、本件無断取引及び無断売却、並びに、大和トラストにおける昭和五九年から昭和六二年までの間のトレーダーによる無断かつ簿外の財務省証券取引等について、刑事訴追を行わず、また、本件訴因8ないし13、21及び22をいずれも取り下げる。

⑥両者とも、本合意に基づいて科された右罰金に対して、控訴をしない。

(三) 大和銀行は、平成八年二月二八日(現地時間)、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所において、米国司法省との前記合意に従った事実陳述を行った上、本件有罪答弁訴因について有罪の答弁を行い、連邦検察官は、本件訴因8ないし13、21及び22を取り下げた。そして、同裁判所は、右有罪答弁を受理し、大和銀行に対し、罰金三億四〇〇〇万ドル及び特別課徴金三二〇〇ドルの判決を言い渡した。大和銀行は、同月二九日、右罰金を完納した(甲三、乙A一三)。

(四) 大和銀行は、右刑事事件について、デベボイス・アンド・プリンプトン法律事務所及びモービロ・アブラモウィッツ・グランド・イアソン・アンド・シルバーバーグ法律事務所等に対し、一〇〇〇万ドルの弁護士報酬を支払った。

4  米国内における銀行業務の停止命令

(一) 大和銀行は、取締役会決議に基づき、平成七年一一月一日、FRB、ニューヨーク州、カリフォルニア州、イリノイ州、マサチューセッツ州、フロリダ州及びジョージア州の各銀行局との間で、米国内における銀行業務を停止するとの同意命令を受けることにつき同意し、FRB及びニューヨークその他各州の銀行局より、右同意命令を受けた。同意命令の概要は、次のとおりである(甲一、乙A一一)。すなわち、

①大和銀行は、できるだけ速やかに、遅くとも平成八年二月二日までに、米国内において、その支店、出張所及び駐在員事務所を通じて行っている一切の銀行業務を完全に停止する。

②大和銀行は、業務停止の際に、支店、出張所及び駐在員事務所の免許状をニューヨーク州その他各州の銀行局に返還する。

③大和銀行は、この命令の日から三年間、FRB及びニューヨーク州その他各州の銀行局に対する三〇日前の書面による通知なしに、米国内において、事務所や子会社を直接又は間接に設置又は買収してはならず、FRB、ニューヨーク州その他各州の銀行局は、右三〇日の期間に、右設置及び買収に書面で反対することができ、その場合には、大和銀行は、右設置及び買収をしてはならない。

(二) 大和銀行は、右命令に従い、平成八年二月、ニューヨーク支店を含め、米国内における支店等一七か店を廃止し、米国内における銀行業務を停止した(甲一八)。

5  損失の処理

大和銀行は、第一三九期事業年度(平成七年四月一日から平成八年三月三一日まで)において、本件無断取引及び無断売却による損失一一三二億八六〇〇万円、前記罰金三五八億三六〇〇万円、合計一四九一億二二〇〇万円を、特別損失として処理した(甲一八)。

6  甲野及び被告乙山次郎の有罪判決

(一) 甲野は、平成七年九月二三日、米国連邦捜査局(FBI)に逮捕され、同年一〇月起訴されたが、米国司法省との間で司法取引を行い、有罪の答弁をした上、平成八年一二月一六日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所において、禁錮四年、罰金二〇〇万ドルの判決の言渡しを受けた(弁論の全趣旨)。

(二) 被告乙山次郎は、平成七年一一月起訴されたが、米国司法省との間で司法取引を行い、有罪の答弁をした上、平成八年一〇月二五日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所において、禁錮二か月、罰金一〇万ドルの判決の言渡しを受けた(弁論の全趣旨)。

7  提訴請求

(一) 甲事件

(1) 原告らは、大和銀行(監査役被告宗宮英韶)に対し、平成七年一〇月二三日、被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同西山金良、同川上敏朗、同砂原和彌、同勝田昱宏、同國定浩一、同山路弘行、同長岡壽男、同勝田泰久、同松田良一、同乙山次郎、同團野精一、同近藤宏、同木村維夫、同野々山浩、同糸島司郎、同太田﨣、同遠藤義一、同村尾啓一、同亀川暢夫、同清柳由朗、同寺田一彦、同宗宮英韶、同肥後馨、同岩成達也、同中野貴志男及び同永田博万の取締役としての責任を追及する訴えを提起するよう請求した。

(2) 原告らは、大和銀行(代表取締役被告海保孝)に対し、平成七年一〇月二三日、被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同岩成達也、同奥貫雄、同和田啓志、同平岩新吾、同山岸信廣及び同北村一雄の監査役としての責任を追及する訴えを提起するよう請求した。

(二) 乙事件

(1) 原告らは、大和銀行(監査役被告宗宮英韶)に対し、平成八年三月一七日、被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同西山金良、同川上敏朗、同砂原和彌、同勝田昱宏、同國定浩一、同山路弘行、同長岡壽男、同勝田泰久、同松田良一、同乙山次郎、同近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同木村勇雄、同鈴木剛夫、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同黒石輯、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇の取締役としての責任を追及する訴えを提起するよう請求した。

(2) 原告らは、大和銀行(代表取締役被告海保孝)に対し、平成八年三月一七日、被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同大西正文及び同平岩新吾の監査役としての責任を追及する訴えを提起するよう請求した。

二  争点

1  被告らに、内部統制システムの構築に関し、任務懈怠行為があったか(甲事件、乙事件・本件訴因14ないし20)

2  被告らに、米国法令違反に関し、任務懈怠行為があったか(乙事件・本件訴因1ないし7、23及び24)

3  被告らが賠償すべき損害の有無、範囲

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(原告ら及び参加人の主張)

(一) 内部統制システムの構築

証券取引業務は、取引量の増大に伴い巨額の損失が発生する危険があるとともに、その担当者が権限を濫用し、あるいは損失の隠ぺいを図るなどの不正行為を行う可能性があるから、代表取締役又はニューヨーク支店長の地位にあった取締役は、財務省証券取引業務を行うに当たっては、同業務の危険性に配慮し、担当者の不正行為を防止するとともに、損失の拡大を最小限にとどめるため、①証券売買部門と資金決済・事務管理部門(証券取引の確認、代金の決済、預り証券の残高照合等)を完全に分離すること、②カストディ係が保管している財務省証券の残高確認を会計年度末にだけでなく抜き打ち的にも行うとともに、右残高確認においては、バンカーズ・トラストの在庫を実際に検査すること、③担当者に送られてくる郵便物等の管理をすること、④担当者に四日ないし五日の休暇を強制的にとらせること、などを内容とする内部統制システムを構築する必要がある。

(二) 内部統制システムの不備

しかしながら、大和銀行においては、次のとおり、内部統制システムに不備があったため、本件無断取引及び無断売却、又は甲野の米国連邦法典違反の行為(本件訴因14ないし20)を発見、防止することができなかった。

(1) 証券売買部門と資金決済・事務管理部門の分離

ア 大和銀行は、平成三年一月ころまで、ニューヨーク支店における財務省証券取引について、バック・オフィスを整備しておらず、甲野が取引から、起票、記帳、送金及び決済のすべてを一人で行う体制を採っていた。

イ 大和銀行は、ニューヨーク支店において、甲野にカストディ業務と財務省証券取引の双方を担当させていた。

(2) 財務省証券の残高確認

ア 大和銀行は、カストディ係が保管していた財務省証券の残高確認において、抜き打ち検査を行わず、また、バンカーズ・トラストの在庫を実際に検査していなかった。

イ 大和銀行は、検査部による臨店検査について、昭和六三年九月六日に実施した検査より、事前予告方式に変え、甲野がバンカーズ・トラストの保管残高明細書を作り替えることを容易にした。

(3) 郵便物等の管理

大和銀行は、ダウンタウンのカストディ業務出張所における郵便物等の管理を怠っていた。

甲野は、本件無断取引について、取引の相手方(証券会社)から送付されてくるコンファメーション(売買確認書)を、本来送付されるべきバック・オフィス係のあるミッドタウンの支店ではなく、自分のいるダウンタウンのカストディ業務出張所に送付させていたが、当時、米国においては、銀行業と証券業の兼営が厳しく禁止されていたので、差出人が証券会社であれば中身は財務省証券取引のコンファメーションであり、差出人が信託会社であれば中身は保管残高明細書であることは容易にわかったのであって、ダウンタウンのカストディ業務出張所において、郵便物等の管理をしていれば、甲野のところに本件無断取引に係るコンファメーションが送付されていたことがわかり、本件無断取引を容易に発見できたはずである。

(4) 強制休暇取得制度

大和銀行は、平成六年まで、証券取引の担当者に四日ないし五日の休暇を強制的にとらせる制度を採用していなかった。そして、大和銀行は、同年になってようやく、従業員に休暇を二週間連続して取得させる制度を採用したが、甲野は当時すでに副支店長格であったため、右制度の対象とならなかった。

(5) その他

ア 大和銀行は、昭和六一年九月実施した検査部による臨店検査において、財務省証券の取引についての検査をしなかった。

イ 大和銀行は、昭和六一年九月、ニューヨーク支店をダウンタウンからミッドタウンに移転するに当たり、カストディ業務だけはダウンタウンにカストディ業務出張所を設けて残したが、その際、ダウンタウンで財務省証券の取引業務を行う旨大蔵省に届け出ていなかったにもかかわらず、ダウンタウンで甲野に引き続き財務省証券の取引業務を行わせた。

ウ 大和銀行は、昭和六一年九月にニューヨーク支店をダウンタウンからミッドタウンに移転した際、カストディ業務出張所にカストディ係専用の送金係及びコルレス銀行の預け金口座を設け、この口座を使って送金を行わせることとしたため、甲野は、売買決済の送金をミッドタウンの送金係に依頼する必要がなくなり、伝票の作成すら不要になるなどダウンタウンのカストディ業務出張所が事実上独立した支店になり、ニューヨーク支店の管理が及ばなくなった。

エ 甲野は、平成元年六月、最も多額のポジションを持ち越した上、本件無断売却が遅れたため、ニューヨーク支店の資金が約一億ドルも不足したのに、大和銀行では誰も右事実に気付かなかった。

オ 大和銀行は、昭和六三年一二月、国際資金証券部が大蔵省のヒアリングにおいて、「大和銀行の財務省証券の取引額が異常に多い」と指摘され、「取引額を減らすように」と注意されたにもかかわらず、この注意を無視して何らの対策もとらなかった。

カ 平成四年一一月、ニューヨーク連邦準備銀行(以下「FED」という。)による検査が実施された際、ニューヨーク支店では、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことについて大蔵省への届出を出していなかったので、右事実を隠すため、トレーダーをミッドタウンの支店へ移動させており、同支店は、違法行為を組織ぐるみで隠ぺいするような杜撰な管理体制にあった。

キ ニューヨーク支店長被告山路弘行は、平成五年八月ころ、甲野を副支店長と同格の待遇とした。

ク 被告山路弘行は、平成五年一〇月、米州企画室より、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことは違法である旨指摘を受けたにもかかわらず、ニューヨーク支店における財務省証券の取引業務の管理体制を抜本的に見直すよう取締役会に報告する等適切な処置をとらなかった。また、同被告は、そのころ行われていた業務検査において、検査官から、同一人物がカストディ業務と財務省証券取引の責任者を兼ねることは問題であるから即刻分離するよう指摘されたにもかかわらず、甲野を信用して右検査に対応させた。しかも、同被告は、組織図上は甲野を財務省証券取引業務の担当から外したものの、甲野が電話で右業務をコントロールすることを容認した。

(三) 甲事件被告らの責任原因

(1) 甲事件被告らのうち、本件無断取引及び無断売却の当時、代表取締役の地位にあった者(被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同西山金良、同川上敏朗、同砂原和彌、同勝田昱宏、同國定浩一、同山路弘行、同團野精一、同近藤宏、同太田﨣、同遠藤義一、同村尾啓一、同宗宮英韶、同肥後馨、同中野貴志男及び同永田博万)並びに取締役在任中にニューヨーク支店長の地位にあった者(被告安井健二、同山路弘行及び同乙山次郎)(担当取締役)は、大和銀行がニューヨーク支店において財務省証券取引業務を行うに当たり、前記のとおり、内部統制システムを構築すべき善管注意義務及び忠実義務があったのにもかかわらず、これを怠ったため、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかったものである。

(2) 甲事件被告らのうち、本件無断取引及び無断売却の当時、取締役の地位にあった者(ただし、担当取締役を除く。)(被告長岡壽男、同勝田泰久、同松田良一、同木村維夫、同野々山浩、同糸島司郎、同亀川暢夫、同清柳由朗、同寺田一彦及び同岩成達也)は、担当取締役が内部統制システムを構築しているかどうかを、自ら又は担当取締役を介して、情報収集に努め、これを適切に点検し監視する善管注意義務及び忠実義務があったのにもかかわらず、これを怠り、担当取締役の前記義務違反を漫然と放置したため、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかったものである(なお、第九回準備的口頭弁論調書添付の争点整理案には、原告ら及び参加人が、被告和田啓志に対しても、取締役としての責任を追及しているかのような記載があるが、甲事件訴状及び原告ら及び参加人の平成一二年一月二〇日付け第一八準備書面によれば、同被告に対しては、監査役としての責任のみを追及していることが明らかであり、右争点整理案の記載は誤記である。)。

(3) 甲事件被告らのうち、本件無断取引及び無断売却の当時、監査役の地位にあった者(被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同岩成達也、同奥貫雄、同和田啓志、同平岩新吾、同山岸信廣及び同北村一雄)は、担当取締役が内部統制システムを構築しているかどうかを、自ら又は担当取締役を介して、情報収集に努め、これを適切に監視する善管注意義務があったのにもかかわらず、これを怠り、担当取締役の前記義務違反を漫然と放置したため、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかったものである。

(四) 乙事件被告らの責任原因

(1) 乙事件被告らのうち、本件訴因14ないし20に係る事実の当時、代表取締役の地位にあった者(被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同西山金良、同川上敏朗、同砂原和彌、同勝田昱宏、同國定浩一、同山路弘行、同近藤宏及び同宗宮英韶)並びに取締役在任中にニューヨーク支店長の地位にあった者(被告安井健二、同山路弘行及び同乙山次郎)(担当取締役)は、大和銀行がニューヨーク支店において財務省証券取引業務を行うに当たり、前記のとおり、内部統制システムを構築すべき善管注意義務及び忠実義務があったのにもかかわらず、これを怠ったため、甲野の米国連邦法典違反の行為(本件訴因14ないし20)を発見、防止することができなかったものである。

(2) 乙事件被告らのうち、本件訴因14ないし20に係る事実の当時、取締役の地位にあった者(ただし、担当取締役を除く。)(被告長岡壽男、同勝田泰久、同松田良一、同寺田一彦、同木村勇雄、同鈴木剛夫、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同黒石輯、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇)は、担当取締役が前記のとおり内部統制システムを構築しているかどうかを、自ら又は担当取締役を介して、情報収集に努め、これを適切に点検し監視する善管注意義務及び忠実義務があったのにもかかわらず、これを怠り、担当取締役の前記義務違反を漫然と放置したため、甲野の前記米国連邦法典違反の行為を発見、防止することができなかったものである。

(3) 乙事件被告らのうち、本件訴因14ないし20に係る事実の当時、監査役の地位にあった者(被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同大西正文及び同平岩新吾)は、担当取締役が前記のとおり内部統制システムを構築しているかどうかを、自ら又は担当取締役を介して、情報収集に努め、これを適切に監視する善管注意義務があったのにもかかわらず、これを怠り、担当取締役の前記義務違反を漫然と放置したため、甲野の前記米国連邦法典違反の行為を発見、防止することができなかったものである。

(被告らの主張)

全部争う。大和銀行は、ニューヨーク支店において、財務省証券の取引業務の担当者による不正行為を防止すべく、次のとおり、適切かつ十分な内部統制システムを構築していた。

(一) ニューヨーク支店におけるフロント・オフィス(市場部門)とバック・オフィス(事務管理部門)との分離

(1) ニューヨーク支店では、昭和五五年から昭和六〇年までの間は、少額でかつ一日に数件程度の限られた財務省証券取引が為替・資金担当やカストディ担当の派遣邦人マネージャーの横で細々と行われていた程度であり、係をフロント・オフィスとバック・オフィスとに完全に分離することを必要とするような状況にはなかった。ただし、店内各係が起票した取引伝票のコンピューターへの入力(勘定更新)については、遅くとも昭和五三年九月には、バック・オフィスの計算係で処理する体制となっていた。

(2) 昭和五九年一月以降、甲野の直接の上席者として、証券業務専担の副長(派遣邦人)を甲野の隣席に配置し、コンファメーションの照合を行わせるなどにより財務省証券取引業務を管理していた。

(3) 昭和六一年秋ころまでには、フロント・オフィスとバック・オフィスとの分離がされ、財務省証券取引のコンファメーションも、取引相手の証券会社からバック・オフィスへ送られてきて、照合できる体制となった。

(4) 平成元年秋ころまでに、右分離の強化が行われ、照合事務がバック・オフィスに集中されるとともに、収益や決済に関する資料もバック・オフィスで作成されるようになった。

(5) 平成六年夏ころには、フロント・オフィスとバック・オフィスとの分離が更に進められ、邦銀としては極めて早い時期に、為替、資金及び証券のすべての取引を一元的に管理するミドル・オフィス(リスク管理部門)をも設置し、リスク管理体制を強化した。

(二) 内部監査担当者(インターナル・オーディター)の任命

ニューヨーク支店は、昭和六三年、業務内容の自由化・国際化に伴うリスク管理強化の観点から、二名の米国人の内部監査担当者を採用した。うち一名は、MBA(経営学修士)の資格を有し、現地外銀勤務一五年の経験を有するベテランで、かつ、監査人としての経験も豊富な人物であった。内部監査担当者は、財務省証券取引業務の監査も重要な任務の一つとして与えられ、右任務の遂行に当たり、しばしばニューヨーク中の証券会社から直接ステートメント(月末現在の未決済残高を記載したもの)を取り寄せるという手法を使うなどして、同支店全体の財務省証券取引のポジションの確認を絶えず行っていた。

(三) 財務省証券の残高確認

(1) 保管残高明細書によって保管有価証券を照合する方法は当時の検査方式として他の銀行においても通常行われていたものである。当時の監査法人の監査においても、同様の方式(監査法人は、再保管先から直接、保管残高明細書を取り寄せない。)をとっていた。再保管先であるバンカーズ・トラストに出向き現物証券に当たって照合することは、現在でも必ずしも行われているわけではない。

(2) 大和銀行は限られた時間でより多くの項目を効率よく検査するため、平成元年四月以降事前予告方式による検査を採用し、平成二年六月から実施している。

(四) 金融当局による指導と検査

(1) 銀行法に基づき設立された銀行は、銀行法、銀行法施行令などの各種法令を遵守するのみならず、信用秩序と金融システムを担う公共的性格を有する銀行業という特殊性に鑑み、時々に変化する金融・社会情勢に即応して出される大蔵省の通達や事務連絡に基づき、右法令の実施細目や運営方針が細かく定められている。また、銀行は、監督官庁である大蔵省及び中央銀行である日本銀行から、文書や口頭で、業務運営、資産内容、収益状況、内部管理体制、リスク管理体制等あらゆる分野にわたり、事細かな監督、指導及び助言を受けており、これらは、実質的に強い拘束力を有しているところ、このことは、邦銀の海外支店についても同様である。さらに、銀行は、銀行法等に基づく金融当局や中央銀行の厳しい検査を受けるところ、その結果次第で、銀行法等に基づき業務改善命令や業務停止命令が発動される可能性があるだけに、その結果を厳粛に受け止め、必要に応じてその対応策が協議され、実行に移される。また、これらの検査は、様々な銀行の種々の業務におけるあらゆる失敗例を踏まえて実施されるものでもあることから、これらの検査を通過するということは、少なくとも金融当局が期待する管理体制の水準に当該銀行が達していることを意味している。

(2) 大和銀行は、昭和五八年から平成六年までの間に、大蔵省による検査、日本銀行による考査をそれぞれ四回受けるとともに、米国当局の検査については、ニューヨーク州銀行局による検査を五回、FEDによる検査を一回それぞれ受けたほか、ニューヨーク州銀行局とFEDによる合同検査を二回受けて通過してきていることから、その管理体制は、ニューヨーク支店の財務省証券取引業務に対する管理を含め、当時の他の都市銀行と比較して見劣りのするものではなかった。

(五) 以上のとおり、ニューヨーク支店においては、業務の発展段階に応じて、各業務担当者の不正行為を未然に防止するための適切かつ十分な内部統制システムが整備されてきており、邦銀他行と比較して見劣りのするものではなかったところ、甲野は、取引通念上実施されるべき内部統制システムをも無に帰せしめ、犯罪を構成するような必死の努力によって、その不正取引を隠し続けてきたものであるから、異常に巧妙な隠ぺい工作にまで耐え得るような内部統制システムを構築することは、法が要求する取締役及び監査役としての善管注意義務の範囲を超える。

(被告大西正文の主張)

被告大西正文が大和銀行の監査役に就任したのは、平成六年六月二七日であるところ、本件訴因14及び15は、就任前の事実に関するものであるから、右各訴因について、同被告が責任を負う余地はない。

(被告平岩新吾の主張)

(一) 大和銀行の監査役の職務分担は、平成六年度(同年四月から平成七年三月まで)及び平成七年度(同年四月から平成八年三月まで)につき、それぞれ監査役会において全員一致の決議をもって決められ、同被告のような常勤でない社外監査役については、原則として取締役会に出席するとともに、随時取締役からの報告、監査役会における報告などに基づいて監査することとされたところ、この職務分担の定めは、相当と認められるべきものであるから、取締役の違法行為を容易に知ることができたなどの特段の事情がない限り、右定めに従って職務を遂行すれば免責されると考えられる。

また、大和銀行のように国内外に二百数十の営業拠点を有し、複雑多岐にわたる業務を多くの取締役が分担する一方、取締役会も定例的にきちんと開催されている大企業の場合、取締役会に付議された以外の事項について監査役の業務監査義務違反の責任を追及するためには、取締役の業務活動の内容を知り、又は容易に知ることができたのに看過したなどの特段の事情が必要であると解される。

(二) そして、被告平岩新吾は、次のとおり、本件無断取引及び無断売却の発生について、全く知り得なかったのであり、前記特段の事情はないから、こうした点について任務懈怠の責任を負うことはない。

(1) 被告平岩新吾は、大和銀行の監査役に就任して以来平成七年九月二六日までの間、同年一月二七日開催の取締役会を除き、すべての取締役会及び監査役会に出席したが、本件無断取引及び無断売却が議題となったり、報告されたりしたことはない。

(2) 大和銀行においては、従来、会計監査人、監査役とも、三年毎に、米州、アジア、ヨーロッパの順に海外往査に行っていたところ、被告平岩新吾が大和銀行の監査役に就任して以来平成七年九月二六日までの間、会計監査人及び監査役は、アジア地区に往査しているが、米州には往査に行っていない。

(3) 会計監査人の監査対象には内部統制システムの状況も含まれるところ、大和銀行の会計監査人である太田昭和監査法人は、平成五年八月から九月にかけて米国の拠点監査を行ったが、内部統制システムについて何の指摘もしなかった。また、監査役であった被告奥貫雄も平成五年八月から九月にかけて米国の拠点監査に往査しているが、ニューヨーク支店の内部統制システムについては何の指摘報告もしていない。

(4) 大和銀行の常勤監査役は、平成六年度において、それぞれ分担して、経営会議(原則として毎月)、大阪役員会(原則として月曜日)、東京役員会(原則として木曜日)、東西合同役員会(原則として月曜日)、所管役員会(原則として毎月)、融資会議(原則として毎月)、全国支店長会議(年二回)、本店地区支店長会議(年二回)、東京地区支店長会議(年二回)及び海外拠点長会議(年二回)に出席しているほか、取締役などから営業報告を、各部から現況・事故・トラブル報告を、検査部から臨店システム監査結果の報告を、融資部及び審査一、二部から業績悪化状況の報告などを、国際部門から業績状況の報告をそれぞれ受けるとともに、重要決裁書類の閲覧、重要回付書類の一覧、営業店の往査、子会社からの営業報告の聴取などを行って監査を実施しているところ、本件無断取引及び無断売却を知ることができなかったことから、被告平岩新吾も常勤監査役から本件無断取引及び無断売却について何らの情報にも接することができなかった。このことは、平成七年九月に至るまでの同年度についても同様である。

(三) 原告ら及び参加人は、担当取締役が内部統制システムを構築し、又は監査役が監視義務を尽くしていれば本件無断取引を防止することができた旨主張するが、次のとおり、理由がない。

(1) 内部統制システムの監督責任の主体は、商法二六〇条一項の規定により、取締役会であり、内部統制システムに対する監査は、内部監査担当者(大和銀行の場合、ニューヨーク支店内部監査担当者や検査部など)や会計監査人を通じても行われる。

(2) 太田昭和監査法人が大和銀行と初めて契約を締結した当時実施されていた監査実施準則(昭和三一年二月二五日大蔵省企業会計審議会)の第一総論四は、「内部統制組織が著しく不備であるため、監査実施の基礎条件が成熟していないと認められる場合には、監査契約の締結を見合わせるか又は一定期間を限り内部統制組織改善のための指導を行うことが望ましい。」としており、内部統制システムが整備され、かつ、有効に機能していることが、会計監査人が会社と契約をする前提となっていたところ、同監査法人は、右監査実施準則の下で大和銀行と契約を締結したのであるから、大和銀行の内部統制システムに不備がないことを既に確認していたこととなる。

(3) 大和銀行の監査役は、内部統制システムの不備について、取締役からの報告、情報、端緒や、検査部その他の部署からの報告、指摘を受けたことがなく、また、太田昭和監査法人からも指摘を受けたことがない。さらに、大和銀行は、大蔵省国際金融局による検査、日本銀行による考査、FED及びニューヨーク州銀行局による検査など厳密な検査手続を受け、これらの検査等は、内部統制システムについても対象としていたところ、何ら報告や指摘を受けたことはない。監査役がこれらの検査等によって判明しないことを探知することは、不可能である。

(4) 被告平岩新吾は、取締役の職務の執行の監査に最善の注意を尽くしていたが、業務担当取締役すら発見することができなかった本件無断取引及び無断売却を発見することは不可能であり、何ら情報、端緒のないものを発見することはできない。したがって、同被告が大和銀行の内部統制システムに問題がないと信頼していたことに何ら責任はない。

(四) 被告平岩新吾が大和銀行の監査役に就任したのは、平成六年六月二九日であるところ、それ以前の甲野の本件無断取引及び無断売却について、同被告が責任を負う余地はない。また、本件訴因14及び15も、就任前の事実に関するものであるから、右各訴因について、同被告が責任を負う余地はない。

(五) 大和銀行は、平成四年一一月ころ、FEDによる検査期間中に、ニューヨーク支店において、財務省証券取引のトレーダーをダウンタウンのカストディ業務出張所からミッドタウンの支店へ移転させて検査を妨害したという問題については、平成五年になって、ダウンタウンのカストディ業務出張所では財務省証券取引業務を行わないとの大蔵省への届出に反する不適切な行為があったとして、米国当局や大蔵省、日本銀行に報告した。そして、歴代の支店長、副支店長の懲戒処分を行うとともに、財務省証券取引業務はミッドタウンの支店で行い、甲野を財務省証券取引業務の指揮系統から外すという処置をとった。

したがって、被告平岩新吾が、監査役に就任する以前に、大和銀行では、すでに内部統制システムが構築されていたのであって、仮に、その後も甲野がダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引業務に関与していたとしても、それはニューヨーク支店の現場の問題であって、同被告が責任を負うべき問題ではない。

2  争点2について

(原告ら及び参加人の主張)

(一) 大和銀行による違法行為

(1) 被告藤田彬は、甲野の本件書簡によって、平成七年七月二一日ころ、本件無断取引及び無断売却が発生した事実を知ったにもかかわらず、これを直ちにFRB、ニューヨーク州銀行局、カリフォルニア州銀行局、イリノイ州銀行信託局、マサチューセッツ州銀行局、フロリダ州財務局及びジョージア州銀行金融部に報告しなかった。

(2)ア 被告藤田彬は、被告海保孝及び同源氏田重義(又は被告安井健二、同西山金良、同川上敏朗若しくは同砂原和彌)と談合の上、国際資金証券部長本橋隆をして、甲野に対して「この問題からニューヨーク支店を逃れさせることが重要であり、大和銀行は、甲野の助けを必要としている。」旨述べさせる一方、被告海保孝は、甲野に対し、大和銀行が損失を隠し続けることができる方法を提案するよう求めたところ、甲野は、平成七年七月二五日付け同被告宛て書簡で、約一一億ドルの損失を隠ぺいする方法を提案するとともに、「この問題が米国の司法権の管轄に入ることを避けるため、ニューヨーク支店の帳簿がいじくられてはならない。」旨述べた。

イ 被告源氏田重義(又は被告安井健二、同西山金良、同川上敏朗若しくは同砂原和彌)は、平成七年七月二八日、ニューヨーク支店長被告乙山次郎及び大和トラストの社長木寅文雄とともに、甲野と会い、甲野に対し、「損失の発生は同年一一月下旬に何らかの形で公表するが、それまで秘密であることが絶対に必要である。」と警告するとともに、必要な利息支払いのために有価証券を従前どおり売却し続けることその他損失を隠ぺいするのに必要な処置をとり続けることを命じた。

ウ 被告源氏田重義(又は被告安井健二、同西山金良、同川上敏朗若しくは同砂原和彌)は、平成七年七月二九日ころ、大和トラストの社長木寅文雄とともに、甲野と会い、甲野から、「ニューヨーク支店の帳簿及び記録に虚偽の記載をするとともに、顧客から預かり保管している財務省証券を売却することによって証券取引による損失を隠ぺいしてきた。」との説明を文書で受けた。

甲野は、右文書の中で、「バンカーズ・トラストの虚偽の保管残高明細書を用意することによって顧客の有価証券の無断売却を隠ぺいした」方法を明らかにし、「最も明確に有価証券の不足を示す記録は、バンカーズ・トラストの保管残高明細書であるところ、昭和六三年ころ、検査局が再寄託の収支の調和を要求する指示をしてきたことから、収支報告書を変造することを決意し、ワード・プロセッサーを使用して、変化によって影響された部分だけを訂正した。」旨説明するとともに、平成七年六月の偽造したバンカーズ・トラストの保管残高明細書及び真正なバンカーズ・トラストの保管残高明細書の写しを持参した。右各明細書を比較すると、バンカーズ・トラスト勘定から失われた約一一億ドルの財務省証券のうち、約五億九九〇〇万ドルがニューヨーク支店所有に係るもの、約一億三四〇〇万ドルが大和銀行本部所有に係るもの、約三億七七〇〇万ドルが顧客のために保管しているものであることがそれぞれ判明した。

被告源氏田重義(又は被告安井健二、同西山金良、同川上敏朗若しくは同砂原和彌)は、バンカーズ・トラスト勘定から失われた約一一億ドルの財務省証券と甲野が本件書簡で無断売却を告白した約一一億ドルの財務省証券とが合致することを確認すると、甲野に対し、告白の書簡を作成したコンピューター・ディスクを破棄するよう命じた。

エ 被告乙山次郎は、甲野に対し、平成七年八月四日ころ、日付のない告白の書簡を別に用意するよう命じ、その際、無断取引とこれから生じた損失のみを検討するよう指示した。甲野は、右指示どおりに書簡を作成した。

(3)ア ニューヨーク支店は、FRBに対し、平成七年七月三一日ころ、FRBの規則に基づき、四半期(同年六月三〇日まで)の「外国銀行の米国支店及び営業所の資産及び負債の報告書」(コール・レポート)を提出したところ、右報告書には、甲野が損失を隠ぺいするために売却した約六億ドルの財務省証券の数量が偽って記載されていた。

大和銀行の経営陣は、約一一億ドルの損失について、FRBの規則に基づきニューヨーク支店の帳簿等に正確に記録するのではなく、米国当局が右損失を発見しないようにする目的で、同年八月四日ころから同年九月七日ころまでの間に、違法な会計上の処理をしたところ、米国当局を欺くためには、①バンカーズ・トラスト勘定から失われた顧客の財務省証券約三億七七〇〇万ドル分の代わりを見つけること、②ニューヨーク支店がその帳簿等に記録されている財務省証券のうち約六億ドル分を所有していない事実を隠ぺいすること、③約一一億ドルの損失がニューヨーク支店の帳簿等に記録されていないことを確実にすることが必要であった。

イ そこで、大和銀行の経営陣は、ニューヨーク支店(支店長被告乙山次郎)と国際資金証券部(常務取締役国際部長被告山路弘行)との間で隠ぺい作業を行うこととし、顧客から預かり保管中の財務省証券約三億七七〇〇万ドル分の無断売却の事実を隠ぺいすることとして、平成七年八月下旬ころ、国際資金証券部に右無断売却に係る財務省証券とほぼ同量の財務省証券を買い戻させる一方、同月一七日ころから同月二一日ころまでの間に、大和銀行においてバンカーズ・トラスト勘定から失われていた顧客の財務省証券の総量を購入した上、これをバンカーズ・トラスト勘定に引き渡し、国際資金証券部の名でこれを所有しているかのように装って財務省証券の領収書をニューヨーク支店の帳簿等に記録した。

ウ その後、大和銀行の経営陣は、ニューヨーク支店において失われた約六億ドルの財務省証券について虚構の売却をすることとし、平成七年八月下旬ころ、甲野によって売却された財務省証券の全部を国際資金証券部に虚構の付け替えをするよう指示して、同月三一日ころ、ニューヨーク支店の帳簿等に、バンカーズ・トラスト勘定から大和銀行の支配の及ぶ勘定に約六億ドルの財務省証券の虚構の付け替えを記録させるとともに、現金約六億ドルが国際資金証券部から入金したかのように見せかけるために領収書にその旨記録させる一方、右会計処理が見せかけであることを隠ぺいし、現金のやり取りがないことを説明するため、ニューヨーク支店が国際資金証券部に対して同額の現金を貸し付けたことにさせた。この結果、ニューヨーク支店の帳簿等には、存在しない約六億ドルの財務省証券の代わりに、大和銀行に対する同額の貸付金が記録されることとなった。

そして、被告山路弘行は、右虚構の付け替えの目的を隠ぺいするため、被告乙山次郎に対し、同年九月七日ころ、ファクシミリを利用して、「大和銀行は、流動性の維持のために、ニューヨーク支店から六億ドルの財務省証券を購入した。」旨の偽りの事実を述べた。

(4)ア 甲野は、被告藤田彬及び同山路弘行の承認を得て、無断売却した財務省証券の所有者に対する利払いのため、平成七年七月三一日ころ、同年八月一五日ころ及び同月三一日ころの三回にわたり、バンカーズ・トラスト勘定から追加の財務省証券を売却するとともに、あたかも米国財務省から利息を受け取って利払いに充てたかのように見せかけるため、ニューヨーク支店の帳簿等を変造した。

イ 被告源氏田重義(又は被告安井健二、同西山金良、同川上敏朗若しくは同砂原和彌)は、大和銀行の従業員が約一一億ドルの損失に気づくことを防止するため、甲野に対し、平成七年八月一五日ころ、バンカーズ・トラスト勘定からの本件無断取引及び無断売却の記録を全部同被告方に持参するよう指示するとともに、甲野及び大和銀行の従業員に対し、一か月で証券取引による損失の記録を復元するよう命じた。

(5)ア 大和銀行は、平成四年一一月ころ、FRBによる検査期間中に証券取引業務の担当者を移動させるとともに、平成五年一一月ころ、FRBに対し、ニューヨーク支店における財務省証券取引業務とカストディ業務の分離について、不完全で誤解を招きやすい開示を行った。

イ 大和銀行は、平成四年一一月ころ、検査期間中に、財務省証券取引のトレーダーをダウンタウンのカストディ業務出張所からミッドタウンの支店へ移動させ、FRBの検査官による検査を妨害した。

(二) 乙事件被告らの責任原因

(1) 乙事件被告らのうち、本件訴因1ないし7、23及び24に係る事実の当時、代表取締役の地位にあった者(被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同西山金良、同川上敏朗、同砂原和彌、同勝田昱宏、同國定浩一、同山路弘行、同近藤宏及び同宗宮英韶)及びニューヨーク支店長の地位にあった者(被告山路弘行及び同乙山次郎)(担当取締役)は、大和銀行が米国において営業をする際、同国の法令を遵守すべきであるのに、米国連邦法典違反の行為(本件訴因1ないし7、23及び24)に及んだのであるから、取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反したことは明らかである。

(2) 乙事件被告らのうち、本件訴因1ないし7、23及び24に係る事実の当時、取締役の地位にあった者(ただし、担当取締役を除く。)(被告長岡壽男、同勝田泰久、同松田良一、同寺田一彦、同木村勇雄、同鈴木剛夫、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同黒石輯、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇)は、大和銀行が米国において営業をする際、担当取締役が同国の法令を遵守しているかどうかを監視する義務があったのに、これを怠り、担当取締役の前記米国連邦法典違反の行為を漫然と放置したのであるから、取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反したことは明らかである。

(3) 乙事件被告らのうち、本件訴因1ないし7、23及び24に係る事実の当時、監査役の地位にあった者(被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同大西正文及び同平岩新吾)は、大和銀行が米国において営業をする際、担当取締役が同国の法令を遵守しているかどうかを監視する義務があったのに、これを怠り、担当取締役の前記米国連邦法典違反の行為を漫然と放置したのであるから、監査役としての善管注意義務に違反したことは明らかである。

(乙事件被告らの主張)

全部争う。

(一) 商法二六六条一項五号にいう「法令」は、我が国の法令であり、他国の法令に違反することにより、会社に生じた損害については、専ら取締役の善管注意義務又は忠実義務違反の有無の問題と考えるべきである。

(二)(1) 本件訴因3ないし5は、大和銀行が甲野の書簡を受けて事実調査に入り、その数額及び手続を確定し得ない間に帳簿上の数値を従前通り記載したものにすぎず、大和銀行には検査官を欺罔する意思はなかった。

(2) 本件訴因6、7の移管は、情報管理及び日米間の税制の違いによる管理の煩雑さの回避という観点から、本部における損失の一括管理がより望ましく、かつ効率的であったため、正規の処理として大和銀行の移管処理手続に基づいて適法かつ適正に行われたものである。また、雑損処理も正規の手続を経て実行されている。

(三)(1) 乙事件被告らのうち、本件書簡が送付された日(平成七年七月二四日)と近接した時期に本件無断取引及び無断売却の発生を知った者(被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎及び同黒石輯。以下「第一次報告受領役員」という。)について

ア 第一次報告受領役員は、次の諸事情を勘案し、調査未了の段階で直ちに本件無断取引及び無断売却の事実を開示するのではなく、正確な事実関係を把握するまでは厳格な情報管制を敷き、約二か月以内に本件無断取引及び無断売却の実態を把握した上で、平成七年一〇月初旬ころに米国当局に報告する意思を固めていた。

すなわち、同年二月に英国の名門マーチャントバンクであるベアリングス証券会社が海外(シンガポール)におけるトレーダーの不正な取引により事実上倒産したことに伴い我が国を含む国際的な規模で金融不安が発生するとともに、平成六年暮れに東京協和信用組合及び安全信用組合が、平成七年夏にコスモ信用組合、木津信用組合などの金融機関がそれぞれ破たんし、我が国の金融システムに対する信頼が揺らいでいた状況下において、本件無断取引及び無断売却による損害額の確定、損害額と従業員の違法行為との関連、従業員の違法行為の態様等を明確にすることなく調査未了の状態で本件無断取引及び無断売却の事実が明るみに出ると、情報が不正確であるために、実際の損害額は公表された損害額よりも多額ではないかなどの懸念が金融市場に生じ、大和銀行の存立に重大な危機を招くばかりか、金融市場に大混乱をもたらし、我が国内外の金融システムに重大な影響が生じることが容易に予想された。

また、本件無断取引及び無断売却による損害額の確定、損害額と従業員の違法行為との関連、従業員の違法行為の態様等に関する調査は、その行為態様が複雑で長期間にわたることから、少なくとも数か月を要するとみられたところ、本件無断取引及び無断売却による大和銀行の信用、業務に対する影響を最小限とするためには、右調査を同年九月末までに完了させた後、同月末時点の中間決算期において本件無断取引及び無断売却による損失を一括償却するのが望ましく、また、そのような一括償却が大和銀行の財務状態に照らして十分可能であるとともに、既に右損失が生じてしまった状況下においては、そのような処理を行うことが金融システムや金融市場に及ぼす悪影響を最小限にする措置であると判断された。

さらに、大和銀行が大蔵省に対して同年八月八日に①大和銀行が本件書簡を受領したこと並びに②大和銀行の内部で損害額及び行為態様を含む本件無断取引及び無断売却の実態を調査中であることを報告した際、同省から、情報管理を徹底しつつ実態解明を急ぐようにとの要望を受けるとともに、我が国の金融情勢等を勘案すると同年九月は本件無断取引及び無断売却の事実を開示するのに最悪の時期である旨の示唆を受けたところ、金融機関と大蔵省との密接な関係を考慮すると、大蔵省の要望、示唆に反して直ちに本件無断取引及び無断売却の事実を開示する期待可能性がなかった。

イ 第一次報告受領役員は、本件書簡を受領した後、直ちに実態解明のための調査を開始する一方、平成七年八月上旬から、関連法規の調査、検討も行っていたところ、同月下旬、匿名ベースで米国の法律事務所に照会した結果、当該問題の開示を含め適切な弁護士の助言を速やかに求めるべきであるとの結論に達したことから、同年九月五日から七日にかけて、従前から米国法に関して助言を受けていた米国のサリバン・アンド・クロムウェル法律事務所に相談し、法的助言を受けた。そして、第一次報告受領役員は、当初念頭に置いていた同年一〇月初旬よりもできる限り早く、現地当局に対して報告した方がよいと判断し、そうすることを決定した。

ウ 第一次報告受領役員は、米国法に関する法的助言を受けた後は、本件無断取引及び無断売却の事実の公表による金融市場の混乱が及ぼす我が国の金融・経済システムに対する影響を考慮し、サリバン・アンド・クロムウェル法律事務所との間で、FRBに対する報告の手順、FRB及び米国検事局による秘密保持の可能性、正確な情報を公表する方法などについて協議した上、平成七年九月一四日、米国当局とのアポイントメントをとり、同月一八日、本件無断取引及び無断売却を正式に報告するに至った。

エ 以上のとおり、第一次報告受領役員は、本件無断取引及び無断売却の発生を知った後これを公表するまでの間、実態の解明、大和銀行の信用及び業務並びに金融市場・株式市場に対する影響、大蔵省との関係、問題の処理の具体的な方針等を含む高度に複雑な経営判断の連続であったところ、このようなまれにみる困難な経営判断を誠実に行っており、経営上の判断として裁量の範囲を逸脱した義務違反があったとはいえない。

また、第一次報告受領役員の前記対応は、結果的には米国の銀行規制法規違反の容疑を受けることとなったものの、法的助言を受けて法的規制の詳細を知った後における処置は、大和銀行が当時置かれていた状況の下では、法的規制を遵守するための最善の措置というべきものであるから、米国の関連法規違反を理由として善管注意義務違反又は忠実義務違反を問うことはできない。

(2) 乙事件被告らのうち、平成七年九月七日に開催された代表取締役の会議において本件無断取引及び無断売却の発生を知った者(被告西山金良、同勝田昱宏及び同國定浩一。以下「第二次報告受領役員」という。)について

ア 第二次報告受領役員は、平成七年九月七日に開催された代表取締役の会議において本件無断取引及び無断売却の発生を初めて知ったところ、同会議においては、我が国及び米国の法規制の調査を更に進めることが確認されたほか、迅速な事実調査、早期報告・早期開示の方針、中間決算による一括処理の方針等が再確認された。

イ 第二次報告受領役員が本件無断取引及び無断売却の発生を初めて知った平成七年九月七日の時点では、既に米国の法律事務所から助言を受けて米国当局に早期報告を行うことが決定されていたのであり、また、同日までの間、第二次報告受領役員に対しても厳格な情報管制が敷かれていたのであって、第一次報告受領役員に係る(1)の実質的理由をも併せ考えると、本件無断取引及び無断売却の米国当局に対する報告の遅延、その他の本件無断取引及び無断売却の発覚後における第二次報告受領役員の善管注意義務違反又は忠実義務違反を問うことは、明らかに酷を強いるものである。

(3) 乙事件被告らのうち、平成七年九月二五日開催の役員(取締役)連絡会において本件無断取引及び無断売却の発生を知った者(被告長岡壽男、同松田良一、同木村勇雄、同鈴木剛夫、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇)及び同月二六日の記者発表当日に本件無断取引及び無断売却の発生を知った者(被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同大西正文及び同平岩新吾)(以下「第三次報告受領役員」と総称する。)について

第三次報告受領役員は、平成七年九月二五日開催の役員(取締役)連絡会又は同月二六日の記者発表当日に初めて本件無断取引及び無断売却の発生を知ったところ、米国当局に対する本件無断取引及び無断売却の報告がされた後にこれを知ったこととなり、第一次報告受領役員に係る(1)の実質的理由や同日までの間第三次報告受領役員に対して厳格な情報管制が敷かれていたことからすると、本件無断取引及び無断売却の米国当局に対する報告の遅延その他の本件無断取引及び無断売却の発覚後における第三次報告受領役員の善管注意義務違反又は忠実義務違反を問うことは、不可能を強いるものであって許されない。

(被告大西正文の主張)

被告大西正文が大和銀行の監査役に就任したのは、平成六年六月二七日であるところ、本件訴因23及び24は、就任前の事実に関するものであるから、右各訴因について、同被告が責任を負う余地はない。

(被告平岩新吾の主張)

(一) 争点1についての同被告の主張(一)のとおり

(二) そして、被告平岩新吾は、次のとおり、本件無断取引及び無断売却の発生並びに米国当局に対する報告の遅延及び帳簿等の虚偽の記載について、全く知り得なかったのであり、前記特段の事情はないから、こうした点について任務懈怠の責任を負うことはない。

(1) 争点1についての同被告の主張(二)(1)のとおり

(2) 同(2)のとおり

(3) 同(4)のとおり

(4) 被告平岩新吾は、できる限り常勤監査役及び取締役に接し、銀行情報の入手に努めたが、本件無断取引及び無断売却については、常勤監査役から情報に接することができなかっただけでなく、本件無断取引の発生を知った役員の間で厳しい情報管制が敷かれ、米国当局に報告がされるまでの間、取締役会で何らの報告もされず、取締役会以外に取締役と接触する機会でも情報に接することができなかった。

(三) 被告平岩新吾が大和銀行の監査役に就任したのは、平成六年六月二九日であるところ、本件訴因23及び24は、就任前の事実に関するものであるから、右各訴因について、同被告が責任を負う余地はない。

(四) 大和銀行は、平成七年一〇月三〇日、同年一一月一日及び平成八年二月二七日の三回にわたって開催された臨時取締役会において、専門家の弁護士も出席の上、刑事事件の結果の見通し、費用、株主、取引先、従業員などに対する配慮等の下に、司法取引に応じる旨の決議をしたのであり、経営判断の原則に十分かなうものであって、大和銀行の以後の経営の安全についてとるべき最善にして合理的な措置であった。

3  争点3について

(原告ら及び参加人の主張)

(一) 甲事件

大和銀行は、本件無断取引及び無断売却により、約一一億ドルの損害を被った。甲事件被告らは、その任務懈怠行為によって、本件無断取引及び無断売却が行われたものであるから、いずれも、前記損害約一一億ドル及びこれに対する損害の発生が明らかになった日である平成七年七月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、大和銀行に賠償する義務を負っている。

(二) 乙事件

大和銀行は、米国において刑事訴追され、司法取引を行った上、罰金三億四〇〇〇万ドルの判決の言渡しを受けて右罰金を完納し、また、右刑事事件について法律事務所に一〇〇〇万ドルの弁護士報酬を支払ったことにより、右合計額三億五〇〇〇万ドルと同額の損害を被った。乙事件被告らは、その任務懈怠行為によって、罰金刑の言渡しを受けるに至り、また、弁護士報酬を支払うに至ったものであるから、いずれも、前記損害三億五〇〇〇万ドル及びこれに対する右罰金を完納した日である平成八年二月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、大和銀行に賠償する義務を負っている。

(被告らの主張)

全部争う。

(乙事件被告らの主張)

本件訴因14ないし20について、大和銀行は、英米法上の代位責任の法理に基づき、法人自らの行為とはいえない事実について刑事訴追がされたと考えられるところ、当該従業員の行為が法人の方針に反するものであり、法人としてはそのような違反行為がされないように適切な予防措置を講じたとする「相当な注意の抗弁」は、代位責任の法理に基づく責任を免れる根拠とはならない。そうすると、仮に大和銀行が米国の刑事手続において内部統制システムを構築し従業員の不正行為を防止すべく監視体制を整えていたと主張し、その立証に成功したとしても、代位責任の法理に基づき、刑事責任の追及を免れることはできなかったといえる。そして、大和銀行が代位責任を負う本件訴因14ないし20の法定刑だけで本件司法取引による罰金額を上回ることから、事実に反する司法取引に応じたものである。

したがって、乙事件被告らが内部統制システムの構築を怠ったとの原告ら及び参加人の主張事実は、法人である大和銀行が罰金の支払を行ったという結果との間に因果関係を有しない。

第三  当裁判所の判断

一  被告宗宮英韶に対する本件訴えのうち取締役としての責任を追及する部分の適法性

1 株主は、取締役に対して株主代表訴訟を提起するに当たり、事前に会社に対し取締役の責任を追及する訴えを提起するよう請求しなければならないものとされている(商法二六七条一項、二項)。その趣旨は、本来、取締役の責任を追及する訴えを提起する権利を有するのは会社であるから、まずは会社に右訴えを提起することの要否及び当否を検討する機会を与えるべきであり、それにもかかわらず会社が訴えを提起しない場合に初めて、株主に右訴えを提起する資格を与えるのが相当であるからである。

そして、会社に対して事前の提訴請求を行う際、会社と取締役との間の利益衝突を防止する趣旨から、取締役の責任を追及する訴えについて、会社を代表してこれを受けるのは、商法特例法二四条の適用を受ける会社を除き、監査役である(商法二七五条ノ四後段)。

2 ところで、前記認定のとおり、被告宗宮英韶は、昭和六二年六月取締役に就任し、平成五年六月には取締役を退任して監査役に就任しているところ、原告らは、大和銀行に対し、同被告の取締役としての責任を追及する訴えを提起するよう請求するに当たり、同被告が監査役として大和銀行を代表するものとして同被告に対して、右事前の提訴請求をしている。

取締役の責任を追及する訴えについて、監査役に対して事前の提訴請求を行っており、形式的には前記法条の要件を具備しているけれども、実質的には、被告宗宮英韶に対する提訴の要否及び当否を同被告自身に判断させることとなり、商法が会社に対する事前の提訴請求を要求する趣旨に照らし、原告らが事前の提訴請求を行ったものと評価することはできない。すなわち、右提訴請求における手続上の瑕疵は重大であり、加えて、訴訟要件を具備するか否かの判断は明確であることが要請されるから、提訴請求を受けた同被告が他の監査役に提訴請求書を見せ、監査役会で提訴しない旨決議したこと、大和銀行が、同被告の取締役としての責任を追及する本件訴えが提起された事実を知りながら、訴えを提起したり共同訴訟参加したりしなかったこと等の事情を勘案しても、同被告に対する本件訴えのうち取締役としての責任を追及する部分については不適法であり、却下を免れないものと解するのが相当である。

二  当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲一ないし四、一五、一八、乙A一、七ないし一三、一九、二〇、二三、二五ないし二七、三〇、三二ないし三四、乙C一ないし三、被告宗宮英韶、同藤田彬、同山路弘行、同安井健二)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  大和銀行における管理体制

(一) 組織等

(1) 大和銀行は、平成七年七月二七日現在、発行済株式の総数が一五億七〇五八万五一二七株(普通株式一五億二〇五八万五一二七株、優先株式五〇〇〇万株)(額面株式一株の金額五〇円)、資本の額が二〇七〇億七五六六万七三九五円である、我が国有数の普通銀行(都市銀行)であり、昭和五九年当時の店舗数は一八七か店(うち海外は六か店)、従業員数は約九九〇〇名であり、平成七年三月末当時の店舗数は二四三か店(うち海外は三六か店)、従業員数は約九六〇〇名であった。大和銀行は、取締役会の下、企画部、人事部、検査部、国際業務部、国際資金証券部等数十の組織からなる本部のほか、本支店、出張所等数多くの店舗によって構成されていた。そして、大和銀行は、右の組織機構及び各部店の役割、権限、責任分担等については、取締役会の承認を得て作成される事務分掌規程によって明確にしていた(もっとも、事務分掌規程が当法廷に証拠として提出されていないため、その詳細は不明である。)。

(2) 大和銀行では、前頭取である取締役会長が取締役会の招集権者であり、また、代表取締役頭取が同行の業務全体を統括し、これを補佐する二、三名(定款上は「若干名」)の代表取締役副頭取が大阪(本店所在地)及び東京に駐在していた。このうち、東京駐在の副頭取が国際部門を統括していた。そして、頭取、副頭取の下に、六名前後の代表取締役、二〇名以上の取締役が選任されており、その多くは、取締役会において特定の業務の担当が委嘱されていた。そして、本部各部の所管事務を処理遂行するに当たっての決裁権限を明確にするため、頭取決裁を経て、決裁権限規程が作成されており、頭取決裁から担当次長決裁までの段階が定められていた(もっとも、事務分掌規程及び決裁権限規程が当法廷に証拠として提出されていないため、被告らが取締役として担当した部門の具体名は、別紙「被告の大和銀行役員就退任時期及び役職の推移」に記載されている肩書で窺い知ることができるだけであり、その詳細は不明である。)。

(3) 大和銀行では、商法上規定されている取締役会が通常月一回開催されていたほか、経営会議(全代表取締役が出席して通常月二回開催され、経営の最重要案件の討議、協議、決議等が行われる。)、定例役員会(全取締役が出席して毎週月曜日開催され、その週の経営上の案件の討議、報告等が行われる。)、全国支店長会議(全取締役、全支店長が出席して年二回、四月及び一〇月に開催され、頭取による経営方針の示達、担当役員による業務運営上重要な事項の示達、支店長による経営報告等が行われる。)、海外拠点長会議(全代表取締役、国際部門担当取締役、全拠点長が出席して年二回、四月及び一〇月に開催され、頭取による経営方針の示達、担当取締役による経営上の諸問題の示達、拠点長による経営上の問題及び状況の報告等が行われる。)、海外拠点管理会議(海外拠点長会議と同時期に開催される。)、業務推進会議等の経営諸会議が開催されていた。

(二) 海外支店等の管理

(1) 大和銀行では、昭和五八年、総合部制導入に伴い、新たに国際総合部を国際部門統括部門として新設し、その部内部として国際企画部を設け、同部内に海外拠点担当を置き、ニューヨーク支店を含む海外拠点の管理等を行うこととした。そして、昭和六三年六月には、右海外拠点担当を発展独立させた拠点係を国際企画部内に設け、海外拠点の管理強化の方針を明確にした。拠点係は、海外拠点長会議や運営方針懇談会を主催し、また、業務上の指示を発するなど支店に対する管理、業務推進の窓口として機能していた。その後、平成四年四月に国際総合部を、平成五年一月には国際企画部を順次廃止し、同月、国際部を新設して海外拠点の管理を行っていた。

(2) 大和銀行では、平成二年三月、ロイズ銀行から買収した米国内における拠点一五か所(一四支店、一現地法人)を統括するため、国際総合部の部内部として、ロイズ銀行の米州本部機構をほぼそのまま米州業務部として残し、また、大和銀行本部との連絡窓口として米州企画室を新設し、国際総合部の部内部とした。そして、平成五年八月、米州企画室の所轄事項を、米州業務部の所轄業務からニューヨーク支店を含む米州地区全体に拡充し、同支店の内部監査担当者二名を米州企画室に移籍させた。米州企画室は、平成六年九月一九日から二週間、ニューヨーク支店のカストディ業務の検査を実施した。

(三) 検査体制

(1) 検査部による検査

大和銀行では、内部監査部門として検査部を設置しており、同部は部長、次長、検査係、システム監査室から構成され、検査係が各部店の事務の検査等を担当していた。そして、検査部が実施する検査には、検査部が臨店する臨店検査、検査部統括の下に営業店や本部各部が実施する部店内部検査及びシステム監査室によるシステム監査があった。いずれの検査も、検査部が担当取締役の決裁を経て作成した詳細な検査要領に基づいて実施されていた。

臨店検査には、一般検査、特別部分検査及び特別検査があった。

一般検査は、六名ないし一三名の検査部員が四、五日間臨店して事務及び管理運営状況を検査し、検査対象は、国内・海外営業店、本部、国内関連会社、海外現地法人で、国内店については一年に一回、それ以外については原則として二年に一回実施されていた。一般検査は、事務総合検査と管理総合検査に分けられ、事務総合検査は融資、外国為替、預金・信託・証券、為替、保管等を検査対象とし、事務部又は当該業務の主管部が担当取締役の決裁を経て作成した事務取扱手続に沿った処理がなされているか検査し、管理総合検査は店舗、人事、文書、店内検査等の管理運営状況を検査していた。そして、臨店検査は、まず、現金及び現物を帳簿と照合して確認することから行われ、カストディ係が保管している財務省証券の保管残高の確認も行い、財務省証券取引業務については、証券会社以外から財務省証券を購入するなどの法令違反行為がないか、ポジション枠や損切りルールが守られているかなどを検査していた。

特別部分検査は一般検査において不振であった科目を検査し、特別検査は特定事項を検査するもので、いずれも適宜実施されていた。

臨店検査の結果は、まず速報ベースで検査部の担当役員に報告され、その後、正式な検査報告書が、頭取、副頭取、常勤監査役に提出された。

ニューヨーク支店に対する臨店検査(一般検査)は、海外店用の検査要領に基づき、昭和六一年九月、昭和六三年九月、平成二年六月、平成四年五月、平成六年一〇月にそれぞれ実施された。

(2) 部店内部検査

部店内部検査は、部店内部検査規程に基づき、検査部の統括の下に実施されていた。部店内部検査には、店内検査実施要領に基づき毎月実施される店内検査と、検査部長の通告に基づき実施される特別店内検査及び店内検査に準じて行われる部内検査があった。店内検査の結果は、各支店が「店内検査実施報告」として、毎月検査部に報告されていた。

(3) 監査役による監査

監査役は、常勤監査役三名、非常勤監査役二名(社外監査役、ただし、平成六年六月以降)である。

監査の方法については、監査役会で常勤監査役と非常勤監査役の職務分担を決めており(商法特例法一八条の二第二項)、常勤監査役は、①取締役会、経営会議、定例役員会、全国支店長会議、海外拠点長会議、海外拠点管理会議、業務推進会議等への出席(海外拠点長会議に出席する全拠点長に対するヒアリングも実施した。)、②重要な決裁書類、資料等の閲覧、③取締役等からの職務の執行に関する報告の聴取、④営業店への往査、⑤会計監査人からの報告聴取及び監査立会い、⑥諸検査の結果報告の聴取などを行い、期中監査及び期末監査を行っていた。これに対し、非常勤監査役は、原則として、①取締役会への出席、②随時取締役からの報告の聴取、③監査役会で常勤監査役あるいは取締役からの報告の聴取などを行っていた。

なお、海外拠点(営業店)への往査については、全拠点を米州、欧州、アジアの三地区に分け、各三年に一回を目途に実施していた。監査期間は通常一店当たり半日ないし二日であり、主として支店長、副支店長等の拠点幹部との面談を通じて、業務推進状況、リスク管理状況、内部管理状況、資産管理状況等を監査していた。ニューヨーク支店に対する監査役による往査は、昭和五九年から平成七年までの間に四回実施され、そのうち、平成五年八月三一日から同年九月一三日までの間は、被告奥貫雄が、米州地区の海外拠点八か所の往査の一環として実施した。

また、諸検査の結果報告の聴取方法は、検査部による検査結果について検査報告書を閲覧した上、検査部長より報告を聴取し、外部機関による検査結果についても担当取締役より報告を聴取していた。

(4) 会計監査人による監査

大和銀行は、昭和四九年の商法改正により会計監査人制度が設けられて以来、太田昭和監査法人を会計監査人に選任し、会計監査を委託していた。

会計監査人は、銀行の収益に関与している本部及び主要な営業店を中心として監査を実施していたが、海外拠点についても、昭和五四年から往査を実施し、昭和五九年からは三年毎に、北米、アジア、欧州の順に往査を実施していた(ニューヨーク支店に対する往査は、昭和五四年九月、昭和五九年一一月、昭和六二年九月、平成二年九月、平成五年九月にそれぞれ実施した。)。

海外拠点の往査に当たっては、前もって、拠点より資料を徴求・分析し、国際部で現状等を聴取していた。往査時には、金融機関との取引残高の照合等も実施しており、ニューヨーク支店については、カストディ係が保管している財務省証券の保管残高の確認等も行っていた。

監査の結果は、会計監査人より大和銀行宛ての監査項目別総括表が提出され、総務部より取締役及び監査役に回付され、担当部署へは写しが送付されていた。また、上半期、年度の決算時には、報告会を開催し、会計監査人より、取締役及び監査役に対して、監査結果の報告がなされていた。

(四) 外部機関による監督

(1) 大蔵省検査・日本銀行考査

大蔵省銀行局及び国際金融局(検査)、並びに日本銀行(考査)は、大和銀行本店に対する定例検査を実施しており、その際、海外営業店についても、膨大な資料を提出させ、帰国した支店長と面接して検査を行い、さらに、検査官を海外営業店に派遣して実調検査を実施していた。検査の後、検査官より代表取締役及び監査役に対する講評があり、検査結果が定例役員会又は取締役会において報告された。

ニューヨーク支店に対する実調検査は、平成元年から平成六年までの間、大蔵省による検査が二回、日本銀行による考査が二回、それぞれ実施され、財務省証券取引の取引状況、損益状況、ポジションの状況、有価証券の保有状況等について調査された。

(2) ニューヨーク州銀行局及びFEDによる検査

ニューヨーク支店は、ニューヨーク州法に基づき設置されたため、ニューヨーク州銀行局の監督に服していた。また、平成三年、外国銀行監督強化法が制定され、FRBに外国銀行の支店等に対する完全な検査権限が認められ、各支店等は一年に少なくとも一回検査を受けなければならなくなった。

ニューヨーク支店に対するニューヨーク州銀行局による検査は、昭和五九年三月、昭和六〇年五月、昭和六一年六月、昭和六三年四月、平成元年八月及び平成三年八月にそれぞれ実施された。また、平成四年一一月、外国銀行監督強化法により、FEDによるニューヨーク支店に対する検査が実施され、平成五年一一月及び平成六年一一月には、ニューヨーク州銀行局及びFEDによる合同検査が実施された。

右検査は、事務、管理及び業務運営の内容について全般的に実施されたが、その具体的な検査項目については法律又は通達で開示が禁止されているため、明らかではない。

2  ニューヨーク支店における管理体制

(一) ニューヨーク支店の組織

大和銀行は、ニューヨーク支店の組織、機構について、取締役会の決議を経た事務分掌規程で定めており、ニューヨーク支店長の権限は、頭取決裁を経て作成された決裁権限規程で定めていた。

ニューヨーク支店には、貸付け、シンジケート・ローン等を担当する相談係、資金為替関係を統括する資金・為替係、証券係、輸入係、輸出係、送金係、メール係、日本の機関投資家や大和銀行本部所有の財務省証券等の保管業務を担当するカストディ係(平成二年一月新設)、日々の取引の勘定入力等を担当するバック・オフィス係(平成元年四月新設)、入出金の照合等を担当するリコンサイル係(平成元年四月新設)があった。

支店長は、支店の毎期の運営方針の設定及び期中の進捗状況管理、折々の貸出金の申請、決裁、人事事項の決定(現地職員の採用、邦人職員を含む全職員の支店内での配置等)を行っていた。各係の係員は現地採用のローカル職員(現地職員)であり、係長に相当するマネージャーには原則として邦人職員を配置し、いくつかの係を副長に相当する邦人の上級職員が管理し、その上位の副支店長が支店長を補佐し、支店長が支店全体を統括するという体制であった。

そして、ニューヨーク支店の各種事務の運営、管理及び処理方法は、ニューヨーク支店の担当取締役である支店長の決裁を経て作成された事務取扱手続に具体的に定められていた。

歴代のニューヨーク支店長は、次のとおりである。

①上場孝継(昭和五七年から昭和五九年まで)

②二宮(昭和六〇年から昭和六二年一〇月まで)

③被告安井健二(昭和六二年一〇月から平成元年二月まで)

④池田汎(平成元年二月から平成三年一月まで)

⑤被告山路弘行(平成三年一月から平成五年七月まで)

⑥新田寛(平成五年七月から平成七年三月まで)

⑦被告山路弘行(平成七年三月から同年五月まで)

⑧被告乙山次郎(平成七年五月から同年一〇月まで)

(二) ニューヨーク支店内における検査体制

(1) 店内検査

検査部の統括の下に、毎月、店内検査を実施し、その結果を、検査部長に報告していた。店内検査では、財務省証券取引について、損益の状況、ポジションの状況及び取引条件の遵守状況等を検査し、また、カストディ係で保管していた財務省証券の残高確認も行っていた。

(2) 内部監査担当者

ニューヨーク支店は、昭和六三年二月ころ、内部監査担当者制度を採用した。内部監査担当者は、財務省証券取引業務については、コンファメーションによる照合を行ったり、ニューヨークにある証券会社から直接ステートメントを取り寄せてポジション(月末現在の未決済残高)の確認を行った。また、カストディ係で保管している財務省証券の保管残高確認も行った。そして、監査報告を、直接支店長に対して行い、後には、検査部長に対しても行うようになった。

(3) 休暇制度

ニューヨーク支店では、昭和四七年ころから、行員の福利厚生のため、連続一週間の休暇取得制度を設けていたが、強制的に休暇を取得させる制度は採用していなかった。

(三) 財務省証券取引業務及びその管理

(1) ニューヨーク支店における財務省証券取引の基本的な仕組みは、次のとおりである。すなわち、

まず、トレーダーが相手方(証券会社)との間で、財務省証券の売買契約を締結し、取引伝票(トレード・チケット)を起票する(当初は、これに加え、アシスタントが売買明細書を作成していた。)。そして、右取引について、取引伝票をもとに勘定入力され、また、取引の相手方から送られてくるコンファメーション(売買確認書)との照合作業が行われる。そして、資金関係については、財務省証券の購入であれば、相手方指定のコルレス銀行に資金カバー指図がなされて資金が送金され、財務省証券の売却であれば、相手方の取引銀行からバンカーズ・トラストの預け金口座に入金がされる。また、証券の受渡しについては、カストディ係を通じてバンカーズ・トラストに対する指図がなされ、バンカーズ・トラストにて、証券の受渡しが行われる。

(2) 大和銀行では、本部(国際企画部)において、財務省証券取引に関し、その取引量を規制するために、いわゆる「売り持ち」、「買い持ち」を一定限度額に押さえるポジション枠の認可を行っており、評価損が一定限度を超えるとその取引を決済して、それ以上損失が拡大しないようにする損切りルールを実施していた。昭和六三年六月、国際資金証券部が国際総合部の部内部として新設されると、国際企画部に代わって国際資金証券部において、海外店の為替、資金、証券のポジション枠及び損切りルール等を管理するようになった(後には、国際資金証券部にALM会議が設けられた。)。

ニューヨーク支店では、バック・オフィス係(ミドル・オフィス係設置後は同係)が、財務省証券取引に関するポジション枠及び損切りルールが遵守されているか監視するため、日々の取引及びポジションの状況を管理しており、日次で管理資料を作成して支店長及び財務省証券取引担当の副支店長に提出するとともに、日次、月次及び期次で、国際資金証券部に報告していた。

大和銀行は、平成五年四月、海外店用の新オンライン・システム「ウインド」をニューヨーク支店にも導入した。右システムには、海外店での取引明細を、いつでも国際資金証券部で監視できる「ミラー機能」が備わっていた。

(四) カストディ業務の概要

(1) カストディ業務には、顧客との折衝、証券の受渡し、証券の保管、送金、保管中の証券を売却する際の所有者の売却指示書と証券会社からのコンファメーションとの照合等の事務があった。カストディ業務は、当初、証券係が担当していたが、平成元年四月、証券係が、財務省証券取引業務担当とカストディ業務担当に分離され、平成二年一月には、カストディ係が新設された。

(2) カストディ係(カストディ業務担当者)には、毎月末、バンカーズ・トラストから、月末現在の財務省証券の保管残高明細書が郵送されてくるので、同係内の照合担当者が、右明細書と同係の帳簿とを照合していた。

(3) カストディ係で保管している財務省証券の保管残高については、検査部による臨店検査及び会計監査人による監査の際に確認され、また、ニューヨーク支店の店内検査及び内部監査担当者による監査においても、その確認を行っていた。

(五) 郵便物等の管理

ニューヨーク支店は、郵便物等を集中管理するためのメール係を設置しており、同係は、書留便について、発信簿及び受信簿に、日付、発信者、受信者及び内容等を記載していた。そして、店内検査や内部監査担当者による監査の際に、右記載が適切になされているか確認していた。

(六) 組織図の作成

ニューヨーク支店では、大和銀行の事務指針に従って、毎月、職員の実名入りの組織図を作成して、人事部人事係に提出していた。

3  本件無断取引及び無断売却

(一)(1) 甲野は、昭和五一年一月ころ、ニューヨーク支店に採用されて、証券係に配属され、カストディ業務(証券保管業務)及び有価証券の投資業務を担当した。

(2) 昭和五九年二月、甲野(アシスタント・バイス・プレジデント)は、証券係のマネージャーであり、証券係の指揮系統(ライン)は、上場支店長・副支店長・邦人の上級管理職・甲野・現地職員の順となっていた(乙A三三の一)。

(二)(1) 甲野は、同月、ニューヨーク支店が本部(国際企画部)から三〇〇万ドルの取引限度枠で財務省証券取引を行うことを認可されると、証券係の責任者(マネージャー)としてカストディ業務を含む同係の全業務を管理する一方、唯一のトレーダーとして財務省証券取引も担当することとなった。

(2) 甲野は、当初は認可された三〇〇万ドルの取引限度枠内で財務省証券取引を行い、少額ながら着実に利益を挙げていたが、同年六月末ころ、一回の取引で約二〇万ドルの含み損を抱え、これを計上すれば取引停止となると考え、右損失を取り戻そうと、無断かつ簿外で、財務省証券の取引を行い、かえって、損失を拡大させた。そして、甲野は、損失が五〇万ドルを超えたころには、認可された三〇〇万ドルの取引限度枠を超えてポジションを保持するようになり、損失を増大させた。甲野は、取引限度を超えてポジションを保持し、財務省証券取引を行うに当たって、レポ取引(買戻条件付売却)を利用したり、財務省証券を例えば一週間先の決済日ベースで買い付け、同決済日ベースで売却し、決済日にその差額で決済する方法をとった。

(3) このように、甲野が無断かつ簿外で財務省証券取引を行うことができたのは、甲野が取引から、起票、勘定入力、資金カバー及び証券受渡しの指図まで全てを一人で行っていたからである。

すなわち、当時、甲野は、唯一のトレーダーとして、邦人の上級管理職員の管理の下、相手方(証券会社)との間で、財務省証券の売買契約を締結して、取引伝票を起票した上勘定入力し、右上級管理職員が、取引の相手方から送付されるコンファメーションを取引伝票と照合することになっていた(なお、昭和六〇年までは、ニューヨーク支店では、財務省証券取引の決済が終わると、コンファメーションを破棄していた。)。そして、資金関係については、財務省証券の購入であれば、甲野は、相手方指定のコルレス銀行に資金カバー指図をして、資金が送金され、財務省証券の売却であれば、相手方の取引銀行からバンカーズ・トラストの預け金口座に入金がされた。また、証券の受渡しについては、甲野は、カストディ業務も担当していたので、バンカーズ・トラストに対して、直接、証券受渡しの指図をして、バンカーズ・トラストにて、証券の受渡しが行われた。したがって、甲野は、本件無断取引を行うに当たって、証券会社との間で、財務省証券取引の売買契約を締結するも、右取引について、起票、勘定入力をせずに、自ら資金カバー及び証券受渡しの指図を行うことができたのであり、コンファメーションも、甲野の所属する証券係に送付されてくるのであるから、容易に隠匿でき、上級管理職員による照合を免れることができたのである。

(4) 甲野は、本件無断取引により生じた損失を隠ぺいするために、証券係のカストディ業務で保管していた顧客又は大和銀行(本部年金信託部及び信託部勘定)所有の財務省証券を、無断で、同支店の帳簿には記載せずに売却していた。

ところで、前記認定のとおり、カストディ業務では、保管している財務省証券を売却する際に、照合担当者が、所有者の売却指示書とコンファメーションの照合を行っていたが、右照合によって本件無断売却は発覚しなかった(その理由は定かでないが、当時、甲野が証券係のマネージャーであったことから、現地職員が、甲野の指示に疑問を抱くことなく従っていたとも考えられる。)。

(5) 甲野は、毎月末、バンカーズ・トラストから郵送されてくる、月末現在の財務省証券の保管残高明細書を本件無断売却の事実がないように作り替えていた。そして、ニューヨーク支店は、毎月店内検査を実施しており、カストディ業務で保管していた財務省証券の残高確認もしていたが、その方法が、バンカーズ・トラストから郵送されてきた保管残高明細書と同支店の帳簿を照合するというものであったため、本件無断売却を発見することができなかった。

(6) 同年一一月、会計監査人(太田昭和監査法人)は、ニューヨーク支店に対する監査を実施し、財務省証券の保管残高確認も行ったが、本件無断売却を発見することができなかった。その理由は、会計監査人が、監査の基準日を設定し、監査対象であるニューヨーク支店に対し、バンカーズ・トラストから基準日現在の財務省証券の保管残高明細書を入手しておくようにと予め通知し、ニューヨーク支店が取り寄せた保管残高明細書と同支店の帳簿とを照合するという方法で確認したため、甲野は、保管残高明細書を本件無断売却の事実がないように作り替えることができたからである。

(三)(1) 甲野は、その後も、損失を取り返そうとして本件無断取引を繰り返しているうちに、かえって損失額を増大させてしまい、昭和六〇年三月ころには、三〇〇万ドルの取引限度枠を超えてポジションを一億ドル以上にまで拡大させた。同年ころ、本件無断取引及び無断売却による損失は約三五〇〇万ドルであった。

(2) 同年五月、ニューヨーク支店に対し、ニューヨーク州銀行局による検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(四)(1) 昭和六一年ころ、甲野の本件無断取引及び無断売却による損失は約五〇〇〇万ドルから約六〇〇〇万ドルの間で推移していた。

(2) 同年六月、ニューヨーク支店に対し、ニューヨーク州銀行局による検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(3) 同年九月、ニューヨーク支店はミッドタウン(米国ニューヨーク州ニューヨーク市ロックフェラー・プラザ<番地略>所在)へ移転したが、カストディ業務については、ダウンタウン地区のウォール街にある証券会社との間で証券現物の受け渡しをする必要があり、ミッドタウンでは不都合であったことから、ダウンタウンにカストディ業務出張所を設けて残した。その際、カストディ業務専用の送金係及びコルレス銀行の預け金口座を設けた。そして、甲野は、カストディ業務の責任者(証券係のマネージャー)として、ダウンタウンのカストディ業務出張所に勤務することになったが、引き続き、財務省証券取引を担当することとなった(財務省証券取引をダウンタウンのカストディ業務出張所で行うために必要な大蔵省への届出は行わなかった。)。

(4) 同年一〇月、甲野(バイス・プレジデント)は、証券係のマネージャーを務める邦人職員(主事補)の上位者となっており、証券係の指揮系統は、二宮支店長・副支店長・邦人の上級職員(増田副参事)・甲野・邦人職員(主事補)・現地職員の順となっていた(乙A三三の二)。

(5) 同月、ニューヨーク支店における財務省証券取引業務について、初めて、フロント・オフィスとバック・オフィスの分離が計られ、証券係とは別に、資金管理・計算係及びEDP係(主計係)で、取引の勘定入力、コンファメーションによる照合及び入出金の照合等を行うようになった。そして、ニューヨーク支店における財務省証券取引業務は、以下のとおり、管理されるようになった。

すなわち、トレーダーは相手方(証券会社)との間で、財務省証券の売買契約を締結すると、証券担当のバック・オフィス業務を担当する資金管理・計算係又はEDP係(平成元年四月バック・オフィス係設置後は、同係[証券担当])に対し、取引伝票を送付して売買連絡を行った。右係では、右売買について取引伝票をもとに、勘定入力をするとともに、資金が必要であれば、資金為替担当のバック・オフィス係に対し、資金カバーの指図をし、また、取引の相手方から送付されてきたコンファメーションとトレーダーからの売買連絡とを照合し、一致すれば売買が正式に確定する。そして、資金関係については、財務省証券の購入であれば、資金カバー指図を受けた資金為替担当のバック・オフィス係が、証券会社指定のコルレス銀行に資金カバー指図をして資金が送金され、財務省証券の売却であれば、証券会社の取引銀行からバンカーズ・トラストの預け金口座に入金された。そして、各コルレス銀行及びバンカーズ・トラストから入出金明細書が、日次又は月次で、バック・オフィス業務を担当する資金管理・計算係又はEDP係に送付されてくるので、その入出金明細書をリコンサイル業務を担当する資金管理・計算係又はEDP係(平成元年四月リコンサイル係設置後は、同係)が確認する。

(6) しかし、甲野は、以下の手口で、本件無断取引を行っていた。

すなわち、甲野は、証券会社との間で、財務省証券の売買契約を締結しても、資金管理・計算係又はEDP係(バック・オフィス係)に対して売買連絡を行わず、したがって、右係で右売買が勘定入力されることはなかった。また、甲野は、特定の証券会社との間でのみ本件無断取引を行っており、右証券会社の担当者に依頼して、コンファメーションを資金管理・計算係又はEDP係(バック・オフィス係)にではなく、自分のところに送付させていた。そのため、右係におけるコンファメーションと売買連絡との照合により、本件無断取引が発覚することもなかった。

そして、甲野は、前記認定のとおり、レポ取引により資金を調達して、本件無断取引を行っており、決済日に差金決済をして、利益が出た場合には、バンカーズ・トラストの口座に益金が入金となり、逆に、損失が出た場合には、甲野は、カストディ業務も兼任していたことから、専用の送金係を利用して、バンカーズ・トラストの口座から証券会社指定のコルレス銀行に送金させ、損失が一定額以上になると、カストディ業務が保管している顧客又は大和銀行所有の財務省証券を無断で売却し、右売却代金と損失とを相殺していた。

なお、前記認定のとおり、各コルレス銀行及びバンカーズ・トラストから入出金明細書が、日次又は月次で、資金管理・計算係又はEDP係(バック・オフィス係)に送付され、右係(リコンサイル係)が右明細書を確認していた。ただ、それにもかかわらず、本件無断取引が発覚しなかった理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引による損失が発生すると本件無断売却をし、出金と入金を同額にしていたため、右係(リコンサイル係)がそれ以上追及しなかったこと、あるいは、カストディ業務で保管している財務省証券の売買として処理していたことが考えられる。

(7) 昭和六一年九月、検査部は、ニューヨーク支店に対する臨店検査を実施し、財務省証券の保管残高の確認も行ったが、本件無断売却を発見することはできなかった。その理由は、検査部が、基準日を設定し、同日現在の財務省証券の保管残高明細書を、検査対象であるニューヨーク支店がバンカーズ・トラストから取り寄せ、これと同支店の帳簿とを照合するという方法で確認したため、甲野は、保管残高明細書を本件無断売却の事実がないように作り替えることができたからである(なお、原告ら及び参加人は、検査部が右臨店検査で財務省証券取引業務についての検査を行わなかった旨主張し、本件書簡[乙A一九]にも、右主張に沿う記載がある。しかしながら、財務省証券取引業務の検査が検査項目に含まれていたものと推認されるから、本件書簡の記載のみを根拠に検査部が一切財務省証券取引業務の検査を行わなかったとまで認定することはできない。)。

(五)(1) 甲野は、本件無断取引を繰り返し、昭和六二年二月末には約一〇億ドルのポジションを持ち越し、同年三月から五月の暴落で約一億ドルの損失を出した。

(2) 同年九月、会計監査人(太田昭和監査法人)は、ニューヨーク支店に対する監査を実施したが、前回の監査と同じ理由で、本件無断売却を発見することができなかった。

(3) 同年一〇月、被告安井健二がニューヨーク支店長に就任した。

そのころ、ニューヨーク支店の主な業務は、貸出(日系企業に対する貸出及び非日系企業に対するシンジケート・ローン)及び貸出の原資となるドル資金の調達であり、ほかに、為替のディーリング及び証券業務(中長期的な投資、財務省証券取引及びカストディ)を行っていた。

同被告は、大和トラストで取引担当者が財務省証券の不正取引を行っていたことが発覚したこともあり、支店長着任直後に、ダウンタウンのカストディ業務出張所の責任者である増田副長(副参事)との間にホットラインを引き、それまでに行われてきた通常の支店長への報告に加え、毎日夕刻に財務省証券取引の取引状況や損益状況等を報告させ、ポジション枠や損切りルールの徹底を図った。

(4) 同年一一月ころ、被告安井健二は、財務省証券取引の管理強化策として、本部(経理証券部)で証券取引を行った経験のある梅田(主事)を、六か月間ミッドタウンの支店からダウンタウンのカストディ業務出張所へ移籍させ、財務省証券取引について、コンファメーションを全て確認させたが、梅田は、本件無断取引を発見することができなかった(その理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引について、コンファメーションを、本来送付されるべき資金管理・計算係又はEDP係ではなく、自分のところに送付させていたためと考えられる。)(乙A三三の三・四)。

(六)(1) 被告安井健二は、昭和六三年二月、検査体制の充実を図るため、内部監査担当者(インターナル・オーディター)制度を採用し、内部監査担当者としてジョン・カシス外一名を雇用した。

内部監査担当者はダウンタウンのカストディ業務出張所にも駐在し、財務省証券取引について、コンファメーションによって取引を照合し、証券会社から直接ステートメントを取り寄せてポジションを確認するなどしたが、本件無断取引を発見できなかった(その理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引に係る、コンファメーションを、本来送付されるべき資金管理・計算係又はEDP係ではなく、自分のところに送付させていたため、あるいは、甲野が、本件無断取引の相手方である証券会社の担当者に依頼し、虚偽のステートメントを発行してもらっていたためと考えられる。)。

また、内部監査担当者は、財務省証券の保管残高確認を行ったが、本件無断売却を発見することができなかった。その理由は、内部監査担当者が、監査対象である証券係が保管していたバンカーズ・トラストの保管残高明細書と同支店の帳簿を照合するという方法を採ったため、甲野が保管残高明細書を作り替えることができたためである。

(2) 同年三月、被告安井健二は、財務省証券取引のトレーダー間の相互牽制作用を働かせるため、甲野に加え、従前カストディ業務を担当していた荒木(副参事)を同取引専任のトレーダーに任命し、同取引の複数体制を採用した。その時点における証券係の指揮系統は、安井支店長・増田副支店長・甲野(バイス・プレジデント)・梅田主事・荒木副主事(証券係のマネージャー)・現地職員の順となっていた(乙A三三の五)。

(3) 同年四月、ニューヨーク支店に対し、ニューヨーク州銀行局による検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

なお、ニューヨーク支店では、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことについて大蔵省への届出を出していなかったので、右検査に際して、トレーダーをミッドタウンの支店へ移動させた(なお、被告安井健二は、トレーダーの移動は行っていなかった旨述べているが、当時、ダウンタウンのカストディ業務出張所では、大蔵省への届出なしに財務省証券取引を行っており、被告山路弘行が、前任のニューヨーク支店長に確かめたところ、右トレーダーの移動を行っていたことがわかった旨述べていることからすると、被告安井健二の右供述を採用することはできない。)。

(4) 同年五月、被告安井健二は、本部(経理証券部)でチーフ・トレーダーをしていた八木をトレーダーに任命した。その結果、甲野(バイス・プレジデント)とその下位者である八木(主事)及び荒木(主事)の三名が、財務省証券取引を行う体制となった。

(5) 同年六月、被告安井健二は、本部(国際資金証券部)で財務省証券のバック・オフィス担当の次長をしていた屋内がニューヨーク支店の副支店長として赴任してきたので、同人に対し、ダウンタウンのカストディ業務出張所における財務省証券取引業務及びカストディ業務の特別検査を命じた。屋内副支店長は、英語が堪能であり、コンファメーションによって取引を照合したほか、ステートメントを取り寄せたり、直接電話をしたりしてポジションを確認するなどしたが、本件無断取引を発見することはできなかった(その理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引のコンファメーションを自分のところに送付させ、あるいは、相手方である証券会社の担当者に依頼し、虚偽のステートメントを発行してもらったり、虚偽の回答をしてもらったりしていたためと考えられる。)。

(6) 同年八月ころ、ニューヨーク支店に対し、国税局による調査及び日本銀行による考査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(7) 同年九月六日から同月一六日までの間、検査部は、ニューヨーク支店に対する臨店検査を実施し、財務省証券の保管残高の確認も行ったが、前回の検査と同じ理由で、本件無断売却を発見することができなかった。

(8) 同年一〇月、甲野は、被告安井健二の指示により、海外拠点長会議に出席するとともにカストディ業務の顧客(取引先)を訪問するため、日本に出張し、一週間、ニューヨーク支店を離れたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(9) 同年一一月、ニューヨーク支店に対し、国税局による調査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(七)(1) 平成元年二月、池田汎がニューヨーク支店長に就任した。

(2) 同月、ニューヨーク支店に対し、大蔵省国際金融局による抜き打ち検査が、為替ディーリング及び財務省証券取引について実施されたが、本件無断取引は発覚しなかった。

(3) 同年四月、甲野は、池田汎の指示により、海外拠点長会議に出席するため日本に出張し、一週間、ニューヨーク支店を離れたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(4) 同月、池田汎は、財務省証券取引業務に関するフロント・オフィスとバック・オフィスの分離を強化するため、資金管理係(マネーコントロール係)及びEDP係が担当していた右事務を、ミッドタウンの支店に移転し、取引の勘定入力やコンファメーションによる照合等を行うバック・オフィス係を新設して、資金、為替ディーリングのバック・オフィス係に統合し、また、入出金の照合等を行うリコンサイル係を新設した。また、甲野がカストディ業務の担当者としてダウンタウンを離れる訳にいかないと移転に反対したことから、フロント・オフィスはダウンタウンに残したが、証券係を財務省証券取引業務担当とカストディ業務担当とに分離した。その結果、証券係の指揮系統は、財務省証券取引業務については、池田支店長・増田副支店長・甲野(バイス・プレジデント)・八木・荒木各主事の順となり、カストディ業務については、池田支店長・増田副支店長・甲野・邦人の副主事(マネージャー)・現地職員の順となった(乙A三三の六)。

(5) 当時、ニューヨーク支店では、財務省証券取引に関するポジション枠及び損切りルールが遵守されているか監視するため、バック・オフィス係が日々の取引及びポジションの状況を管理し、その管理資料を支店長、担当副支店長、さらには、国際資金証券部に提出していたが、本件無断取引を発見することはできなかった。その理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引について、そもそも売買連絡を行わず、右売買が勘定入力されることがなかったためと考えられる。

(6) 同年五月から七月にかけて、甲野は、無断で約二〇億ドルのポジションを持ち越し、約二億七〇〇〇万ドルの損失を出した。当時、本件無断売却により埋め合わせていた損失の累計額は、約五億七〇〇〇万ドルに達していた(なお、原告ら及び参加人は、同年六月、甲野が、最も多額のポジションを持ち越した上、本件無断売却が遅れたため、ニューヨーク支店の資金が約一億ドルも不足した旨主張し、本件書簡[乙A一九]にも、右主張に沿う記載があるが、他に的確な証拠がなく、本件書簡の記載のみを根拠に右事実を認定することはできない。)。

(7) 同年八月、ニューヨーク支店に対し、ニューヨーク州銀行局による検査が実施され、FEDの検査官も立ち会ったが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

なお、ニューヨーク支店では、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことについて大蔵省への届出を出していなかったので、右検査に際して、トレーダーをミッドタウンの支店へ移動させた。

(8) 同年九月、本部(国際資金証券部)は、大蔵省国際金融局より、ニューヨーク支店における財務省証券の取引量が多いことを指摘された。被告安井健二(国際総合部長)は、池田汎支店長に照会するように国際資金証券部長に指示したが、短期売買が多いためであるとの回答を得て満足し、それ以上の調査を行わなかった。

(八)(1) ニューヨーク支店は、平成二年一月、副支店長を二名とし、一名は、相談係、資金・為替ディーリング係、証券ディーリング係といった業務推進的な営業部門を統括し、他の一名は、輸入係、輸出係、預金・送金係、メール係、バック・オフィス係、リコンサイル係、カストディ係等といった業務管理的な内部事務部門を統括することとした(乙A三三の七)。

(2) 同月、甲野(シニア・バイス・プレジデント)は、営業部門の証券ディーリング係と内部事務部門のカストディ係の両方を担当することとなった。そして、証券ディーリング係の指揮系統は、池田支店長・営業部門を統括する副支店長・実参事補・甲野・八木・荒木各主事(マネージャー)・現地職員の順となり、カストディ係の指揮系統は、池田支店長・内部事務部門を統括する副支店長・実参事補・甲野・邦人の主事(マネージャー)・現地職員の順となった(乙A三三の七)。

(3) 同年六月四日から同月一五日までの間、検査部は、ニューヨーク支店に対する臨店検査を実施し、財務省証券の保管残高の確認も行ったが、前回の検査と同じ理由で本件無断売却を発見することができなかった(なお、右臨店検査から、検査部が、臨店検査の実施日の一週間前に、検査対象であるニューヨーク支店に対して、検査の実施及び検査の基準日を通知し、同支店があらかじめバンカーズ・トラストから基準日現在の保管残高明細書を取り寄せておく方法に変更された。)。

(4) 同年九月、ニューヨーク支店に対し、国税局による調査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(5) 同月、会計監査人(太田昭和監査法人)は、ニューヨーク支店に対する監査を実施したが、前回の監査と同じ理由で、本件無断売却を発見することができなかった。

(6) そのころ、野村證券株式会社がカストディ業務を始めるため、ニューヨーク支店が保管していた同社所有の財務省証券を同社に移管することとなった。甲野が無断売却していた財務省証券は同社所有のものが多かったことから、甲野は、損失を隠ぺいし続けるためには、新たに財務省証券を確保する必要に迫られた。そこで、甲野は、本部を説得し、五〇〇〇万ドルで財務省証券(トレジャリー・ノート、償還期限まで一年超一〇年以内の利付国債)の取引を開始し、この財務省証券を無断売却して野村證券株式会社が所有していたのと同じ銘柄の財務省証券を買い戻した。

(九)(1) 平成三年一月、被告山路弘行が、ニューヨーク支店長に就任した。

(2) 同年二月末ころ、甲野(シニア・バイス・プレジデント)は、営業部門の証券係と内部事務部門のカストディ係の両方を担当しており、証券係の指揮系統は、山路支店長・営業部門を統括する副支店長・実参事補・甲野・八木・荒木各参事補(マネージャー)・現地職員の順となり、カストディ係の指揮系統は、山路支店長・内部事務部門を統括する副支店長・実参事補・甲野・邦人の主事補(マネージャー)・現地職員の順となった(乙A三三の八)。

(3) 同年八月、ニューヨーク支店に対し、ニューヨーク州銀行局による検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

なお、ニューヨーク支店では、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことについて大蔵省への届出を出していなかったので、右事実を隠すため、右検査に際して、トレーダーをミッドタウンの支店へ移動させた。

(4) 同年九月、証券係が支店長の直轄となり、甲野(シニア・バイス・プレジデント)は、証券係とカストディ係の両方を担当したが、カストディ係担当としては、邦人の上級職員(実副参事)と同格になり、内部事務部門を統括する副支店長を補佐し、証券係担当としては邦人の上級職員(実副参事)と同格になり、支店長を直接補佐することとなった(乙A三三の九)。

(一〇)(1) 平成四年一月の相場暴落で、ニューヨーク支店の財務省証券取引が一〇〇万ドルの損切り基準近くになったため、甲野は、財務省証券取引そのものが廃止されるのではないかとの懸念を抱き、利益のあがった無断取引を同支店の取引として計上した。

(2) 同年五月四日から同月一五日までの間、検査部は、ニューヨーク支店に対する臨店検査を実施し、財務省証券の保管残高の確認も行ったが、前回の検査と同じ理由で、本件無断売却を発見することができなかった。

(3) 同年七月、被告山路弘行は、ダウンタウンのカストディ業務出張所を同じダウンタウン地区内で移転した。

(4) 同月、甲野(シニア・バイス・プレジデント)は、証券係とカストディ係の両方を担当し、証券係担当として支店長を直接補佐するとともに、カストディ係担当として内部事務部門を統括する実副支店長を補佐し、ダウンタウンのカストディ業務出張所における最上席者となった(乙A三三の一〇)。

(5) 同年一一月、ニューヨーク支店に対し、FEDによる検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

なお、ニューヨーク支店では、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことについて大蔵省への届出を出していなかったので、右事実を隠すため、右検査に際して、五名のトレーダーのうち四名を、ダウンタウンのカストディ業務出張所からミッドタウンの支店へ移動させた(本件訴因24)。

(一一)(1) 平成五年四月、内部監査担当者は、ニューヨーク支店の財務省証券取引に対する監査を実施したが、前回の監査と同じ理由で、本件無断取引を発見することはできなかった。

(2) 同月、大和銀行は、海外店用の新オンライン・システム「ウインド」を導入した。右システムには、海外店での取引明細を、いつでも国際資金証券部で監視できる「ミラー機能」が備わっていたが、本件無断取引を発見することはできなかった。その理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引について、そもそも売買連絡を行わず、右売買が勘定入力されることがなかったためと考えられる。

(3) 同年七月、新田寛が、ニューヨーク支店長に就任した。

(4) 同月ころ、甲野は、無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽のバンカーズ・トラストの同年六月分保管残高明細書を作成した(本件訴因14)。

(5) 同年九月、会計監査人(太田昭和監査法人)は、ニューヨーク支店に対する監査を実施し、財務省証券の保管残高確認も行ったが、前回の監査と同様の理由で、本件無断売却を発見することができなかった。

同月、監査役被告奥貫雄は、ニューヨーク支店に対する往査を実施し、支店長、副支店長等の拠点幹部との面談を通じて資産管理状況等を監査したが(なお、会計監査人による監査にも立ち会ったものと思われる。)、本件無断取引及び無断売却を発見することはできなかった。

(6) 同年一一月ころ、米州駐在常務取締役であった被告山路弘行は、米州企画室から、外部検査の間トレーダーをダウンタウンのカストディ業務出張所からミッドタウンの支店へ移動させることは検査当局を欺く行為になる旨の指摘がされたことを受け、米州企画室に対し、右移動が米国の規制に抵触しないか調査するよう指示した。米州企画室は、デイビス・ポルク法律事務所の意見も踏まえ、ダウンタウンのカストディ業務出張所において財務省証券取引を行うことは米国では違法であり、刑事罰の対象ともなり得るとの調査結果を出した。そこで、被告山路弘行は、右調査結果を被告安井健二に報告し、同被告の指示により、ニューヨーク支店の法律顧問でもあるサリバン・アンド・クロムウェル法律事務所の意見を徴した上、FEDに申告することとした。

新田寛支店長は、当時、ニューヨーク支店に対し、FED及びニューヨーク州銀行局による合同検査が実施されていたため、FEDの検査官に対し、財務省証券取引をダウンタウンのカストディ業務出張所で行うには大蔵省への届出が必要だが、右届出を出していなかったことから、前年のFEDによる検査の際、トレーダーをダウンタウンのカストディ業務出張所からミッドタウンの支店へ移動させた旨説明した。

(7) 右合同検査の際、検査官より、甲野が財務省証券取引業務とカストディ業務を兼任するのは問題であるから、即刻分離するよう指摘された。

これを受け、ニューヨーク支店は、同年一一月、組織を変更し、従来甲野(シニア・バイス・プレジデント)がカストディ係の邦人の主事(マネージャー)と証券係の邦人の主事(マネージャー)の両者の上位者として、カストディ業務と証券業務の両者を管理していた体制(乙A三三の一二)を改め、甲野を、カストディ係の邦人の主事(マネージャー)の上位者として新田支店長を直接補佐するポストに当てる一方、鳥海副支店長を、証券係の邦人の主事(マネージャー)の上位者とする体制とし、甲野を財務省証券の取引業務の担当から外した(乙A三三の一三)。そして、新田支店長は、その旨を書面でFRBに報告した。

しかし、甲野は、その後も本件無断取引を行い続け、また、他のトレーダーは、財務省証券取引に熟達した甲野に対し、時折助言を求めていた(なお、甲野が、どのような手段を使って本件無断取引を行い続けたかについては、証拠上、確定することができない。また、原告ら及び参加人は、甲野が、組織上、財務省証券の取引業務の担当を外れた後も、実際には、他のトレーダーを指揮命令下に置いて正規の財務省証券取引をコントロールしており、被告山路弘行及び新田寛各支店長もこれを容認していた旨主張し、本件書簡[乙A一九]にも、右主張に沿う記載があり、米国司法省もその旨主張し[本件訴因23][甲二、三、乙A一二、一三]、大和銀行も米国の刑事手続でこれを認めている[甲三、乙A一、一三]。しかしながら、大和銀行が米国の刑事手続で認めたのは司法取引の結果であり、本件書簡のみでは右事実を認めるのに十分とは言えず、他に認めるに足りる的確な証拠が当法廷に提出されていないから、右事実を認定することはできない。)。

(一二)(1) 平成六年一月ころ、甲野は、無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽のバンカーズ・トラストの平成五年一二月分保管残高明細書を作成した(本件訴因15)。

(2) 平成六年一月一二日、FED及びニューヨーク州銀行局による合同検査の講評が行われ、FEDの検査の際にトレーダーを移動させ、FEDの検査官に虚偽の申告をしたことは連邦犯罪法に抵触する、処分についてはFRBで審議される旨の説明がされ、また、大蔵省へ報告するようにと勧告された。そこで、新田寛は、被告安井健二の指示により、大蔵省ニューヨーク事務所に出頭して報告し、また、大和銀行の本部では、被告安井健二が大蔵省国際金融局及び銀行局並びに日本銀行国際局に対し報告をした。

(3) 同年二月、大和銀行は、右問題につき、歴代のニューヨーク支店長三名(被告安井健二、同山路弘行及び新田寛)、同副支店長六名及び甲野を賞与減額及び譴責処分にした上、右処分につき、FRB及び大蔵省に対し報告をした。

(4) 同年五月二五日、ニューヨーク支店に対し、大蔵省による実調検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(5) 同年七月ころ、甲野は、無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽のバンカーズ・トラストの同年六月分保管残高明細書を作成した(本件訴因16)。

(6) 同年九月一九日から二週間、米州企画室は、ニューヨーク支店のカストディ業務に対する検査を実施したが、本件無断売却を発見することはできなかった。

(7) 同月ころ、ニューヨーク支店(新田支店長)は、ミドル・オフィスとして、為替、資金及び証券の全ての取引業務を一元的に管理するミドル・オフィス係を設置した(乙A三三の一四)。ミドル・オフィス係は、財務省証券取引について、それに関する経営の管理資料を作成するとともに、日常的に、フロント・オフィスである証券係のトレーダーがポジション枠や損切りルール等を遵守しているか監視するとともに、バック・オフィスであるバック・オフィス係、リコンサイル係がその事務を適切に行っているか監視することになったが、本件無断取引を発見することはできなかった(その理由は定かでないが、甲野が、本件無断取引について、そもそも売買連絡を行わず、右売買が勘定入力されることがなかったためと考えられる。)。

(8) 同年一〇月、検査部は、ニューヨーク支店に対する臨店検査を実施し、財務省証券の保管残高の確認も行ったが、前回の検査と同じ理由で、本件無断売却を発見することができなかった。

(9) 同年一一月、ニューヨーク支店に対し、ニューヨーク州銀行局及びFEDによる合同検査が実施されたが、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかった。

(一三)(1) 平成七年一月、甲野は、エグゼクティブ・バイス・プレジデント(副支店長格)となった。

(2) 同月ころ、甲野は、無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽のバンカーズ・トラストの平成六年一二月分保管残高明細書を作成した(本件訴因17)。

(3) 平成七年三月、被告山路弘行が、また、同年五月には、同被告に代わり被告乙山次郎が、それぞれニューヨーク支店長に就任した。

(4) 同年七月ころ、甲野は、無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽のバンカーズ・トラストの同年六月分保管残高明細書を作成した(本件訴因18)。

(5) 同年七月一日ころ、甲野は、ニューヨーク支店が保管していた顧客所有の財務省証券約三億七七〇〇万ドル分を既に無断で売却していたにもかかわらず、年金信託部に対し、右証券が現存するかのような虚偽の保管残高明細書をファクシミリを利用して送信した(本件訴因19)。

(6) 同日ころ、甲野は、ニューヨーク支店が保管していた顧客所有の財務省証券約三億七七〇〇万ドル分を既に無断で売却していたにもかかわらず、信託部に対し、右証券が現存するかのような虚偽の保管残高明細書をファクシミリを利用して送信した(本件訴因20)。

(7) 同月一八日午後六時四一分(現地時間)、甲野は、被告藤田彬宛てに、本件書簡(乙A一九)をフェデックス(FEDEX)で発送し、同月二一日、大和銀行からメール業務の委託を受けていた大和ビジネスサービスに到達した。本件書簡は、本件無断取引及び無断売却を告白するものであり、その内容は概ね次のとおりであった。すなわち、

①財務省証券取引で約一一億ドルの売買損を出している。

②売買損は、ニューヨーク支店の投資有価証券をはじめ顧客よりカストディアンとして預かっている財務省証券を無断売却して埋め合わせてある。無断売却により埋め合わせてある金額は、財務省証券取引による売買損に、無断売却した証券の顧客に対して支払った利子相当額を加えた金額である。

③本件無断売却を隠すため、バンカーズ・トラストの保管残高明細書を作り替えていた。

④本件が米国当局に知れれば、大和銀行の事務管理及び内部検査機能の不徹底さが表面化し、FEDに対する報告に反して甲野を財務省証券取引の責任者として担当させていたことで大和銀行経営陣のモラルが問われ、法的にも米国での営業が厳しくなる。また、本件が公になれば、年金信託財産の一部を売却して損失を埋め合わせていたこと、並びに、運用財産の保管管理担当者に財務省証券取引を兼務させていたことが、信託併営銀行としての大和銀行の信用を根底より揺るがすことになりかねない。大和銀行が適切な事後処理をするまでは、大和銀行の外部はもとより内部の人間にも漏れないよう機密を守ることが第一である。

⑤本件が現時点でニューヨーク支店内で発覚し得るのは、バンカーズ・トラストからの保管残高明細書とニューヨーク支店システム上の保管残高とを照合した場合のみである。

⑥無断売却により不足している証券を顧客が売却すると、残高不足で未決済となる。また、不足している証券の利払日が到来すると利金が入らない。そのため、利払日が到来する前に不足している証券を買い戻す必要がある。

⑦昭和五九年、六〇年度分以降のコンファメーションを保管しているから、過去の財務省証券取引の九五ないし九八パーセントはコンファメーションで確認できる。

(8) 本件無断取引及び無断売却による損失金額は、平成七年七月一三日当時で約一一億ドルであった。

4  本件無断取引及び無断売却発覚後の経緯等

(一)(1) 大和銀行頭取の被告藤田彬は、平成七年七月二四日、本部秘書室経由で本件書簡を受け取り、東京駐在で副頭取(国際部門統括)の被告安井健二及び大阪駐在で副頭取の被告海保孝に本件書簡を見せ、同月二五日には、会長で前頭取の被告安部川澄夫に本件書簡を見せて口頭で報告するとともに、被告安井健二を通じ、総務人事担当の被告川上敏朗及び元ニューヨーク支店長で国際部長の被告山路弘行に本件書簡を見せ、同月二六日には、企画部(全体の決算)及び経理証券(資金)担当の被告砂原和彌に本件書簡を見せた。

(2) 被告藤田彬は、被告安井健二を責任者とし、被告山路弘行、国際資金証券部長の本橋隆、並びに、ニューヨーク支店長の被告乙山次郎を担当者として、本件問題の処理に当たらせることとし、そのための具体的な手段・方法の細目については被告安井健二らに任せることとした。また、被告藤田彬は、同月二六日、被告安井健二及び同山路弘行と打ち合わせを行い、甲野に協力させて極秘で事実調査をすることとし、被告山路弘行をニューヨークに出張させることとした。これを受けて、被告安井健二は、ニューヨークの甲野に電話をして、事実調査に協力するよう求め、また、被告山路弘行は、同月二八日から同月三〇日までの間、ニューヨークに出張した。

(3) 大和銀行は、同月二七日、優先株式五〇〇〇万株を発行した(同年八月一一日登記)。

(二)(1) 被告山路弘行は、同年七月二八日及び二九日、ニューヨークにおいて、被告乙山次郎及び大和トラストの社長木寅文雄と共に、甲野と会った。被告山路弘行は、甲野から、本件無断取引による損失を隠ぺいするために顧客所有の財務省証券等を無断で売却していたこと、右無断売却に係る顧客所有の財務省証券の大部分については所有者に利息を支払わなければならないこと、右無断売却の事実を隠ぺいするために、バンカーズ・トラストから毎月末送付される保管残高明細書を作り替えていたことなどの説明を受け、本件書簡の内容が真実であるとの心証を抱いた。

(2) 被告山路弘行は、被告乙山次郎に対し、ニューヨーク支店で事実調査を行うこと、甲野を日常業務から外し、右調査の協力に専念させること、本件については、関係者だけの秘密とすることなどを指示し、甲野に対しては、本件書簡の写し等があれば破棄することなどを指示した。

(三)(1) 被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)は、同月三一日ころ、FRBに対し、FRBの規則等に基づき、四半期(同年六月三〇日まで)のコール・レポートを提出したが、その際、右コール・レポートに、甲野が本件無断取引による損失を隠ぺいするために無断売却したニューヨーク支店所有の財務省証券約六億ドル分が、ニューヨーク支店の資産として存在するかのような虚偽の記載をした(本件訴因1)。

(2) 被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)は、同月三一日ころ、検査官を欺罔する意思で、大和銀行所有の財務省証券を売却して、甲野が無断売却した財務省証券の利息相当額を、右財務省証券の所有者であった顧客に対し、米国財務省から受け取った利息であると称して支払った上、ニューヨーク支店の帳簿と記録に、米国財務省から利息を受け取って利払いに充てたという虚偽の記載をした(本件訴因1、2)(なお、被告山路弘行は、これを事前に指示又は了解しており、被告藤田彬及び同安井健二は、少なくとも事後に了解している。)。

ところで、乙事件被告らは、右虚偽記載について、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張し、被告山路弘行も、右利払いについて、甲野が無断売却したのであるから、当然大和銀行が負担せざるを得ず、何ら不自然なものではない旨述べているけれども、被告乙山次郎が行ったのは、従業員が無断で売却してしまった財務省証券の利息相当額を賠償したのではなく、財務省証券が無断売却されて存在しないことを所有者に通知せず、あたかも存在するかのように装い、米国財務省から受け取った利息として支払い、その旨ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をしたのであるから、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(3) 被告乙山次郎は、同年八月一日ころ、検査官を欺罔する意思で、甲野が無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽の内容の、年金信託部(本件訴因3)及び信託部勘定(本件訴因4)に係る月次の保管残高明細書を作成した。

ところで、乙事件被告らは、右各行為について、甲野の告白内容の事実調査中であり、本件無断取引及び無断売却の数額、手口等を確定するまでの間、帳簿上の数値を従前どおり記載したもので、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張するけれども、前記認定のとおり、被告山路弘行は、甲野との面談の結果、本件書簡の内容が真実であるとの心証を抱いたのであり、甲野が所持していた昭和五九年、六〇年度分以降の膨大なコンファメーションによって無断取引の全貌を明らかにするためには時間を要するとしても、少なくとも、年金信託部及び信託部勘定に係る保管残高明細書の従前の記載が虚偽であることのみならず、本件無断売却によって存在しない証券の特定及び合計額の算定は、同年七月末にバンカーズ・トラストから送付されてきた真正な保管残高明細書によって把握したものと推認されるから、被告乙山次郎は、あえて内容虚偽の右各明細書を作成したもめであり、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(四)(1) ニューヨークから帰国した被告山路弘行は、同年八月二日、被告藤田彬に対し、本件書簡の内容が事実であると思われること、本件無断取引による売買損の正確な金額、甲野の手口等未解明な事項について引き続き被告乙山次郎に調査させていることなどを報告した。報告には、被告海保孝、同砂原和彌及び同川上敏朗が同席していた。被告藤田彬は、右報告を踏まえ、甲野に協力させて本件無断取引及び無断売却の全貌を把握すること、事実調査の間情報管理を徹底して、情報が漏れないようにすること、本件無断取引及び無断売却により大和銀行に生じた損失を同年九月中間決算で一括処理できないか検討することなどを決め、さらに、大蔵省に速やかに報告するため面会の約束を取り付けるよう指示した(米国当局に報告することは、被告藤田彬らの念頭になかった。)。これを受けて、大蔵省OBの被告源氏田重義は、大蔵省銀行局長と同月八日に会う約束を取り付けた。

(2) 同月七日、被告藤田彬は、同安井健二、同海保孝、同砂原和彌、同川上敏朗及び同山路弘行のほか、被告源氏田重義及び東京企画部担当(大蔵担当)の被告勝田泰久と、大蔵省への報告事項について協議し、同省に対して、それまでに確認された事実、損失を同年九月中間決算で一括償却して処理する方針等を報告するとともに、事件を何らかの形で公表することが必要であるとすればいつが適当であるかに関する大蔵省の意向を探ることを決めた(被告藤田彬は、同年九月中間決算で一括償却した上で翌一〇月初旬に公表するのが適当であると考えていた。)。

(3) 被告藤田彬は、同年八月八日、大和銀行白金寮において、大蔵省の西村吉正銀行局長及び村木利雄銀行課長と面談をした。面談には、被告安井健二、同源氏田重義、同山路弘行及び同勝田泰久が同席した。被告藤田彬は、席上、本件無断取引及び無断売却の事実の概要、今後の処理方針等について報告するとともに、事件を公表する時期に関する意向を打診し、また、大蔵省国際金融局及び日本銀行に対する報告の要否について尋ねた。これに対し、西村銀行局長が、日本の金融情勢等を勘案すると事件を公表する時期として同年九月は最悪である、大蔵省国際金融局及び日本銀行に対する報告は不要であり、必要があれば銀行局から連絡する、できる限り早く実態解明を行うとともに、情報管理を徹底して、情報が漏れないようにして欲しいなどと述べたことから、被告藤田彬は、事件の公表時期を同年一〇月初旬とすること、並びに、それまでの期間を事実調査、善後策の検討及び実施のために当てることについて大蔵省の了解を得ることができたものと理解した。

(4) 同年八月九日、被告藤田彬は、被告砂原和彌を通じて、企画部長の被告黒石輯に対し、同年九月中間決算での一括処理、事件の公表等について具体的に検討するよう指示した。

(五)(1) 被告乙山次郎は、同月一四日一旦帰国し、同月一五日、被告藤田彬に対し、本件無断取引及び無断売却により発生した損失の正確な金額が確定できたこと、無断売却された約一一億ドルの財務省証券のうち、約三億七七〇〇万ドル分が顧客所有、残りが大和銀行所有で、うち約六億ドル分はニューヨーク支店勘定、その余が大和銀行本部(年金信託部及び信託部)勘定であることが判明したこと、甲野が保管していた本件無断取引に係るコンファメーションが約三万枚もあるため、本件無断取引の全容解明にはなお相当な時間がかかり、かつ、ニューヨーク支店だけでは人手が足りず、本部の専門家の応援が必要なことなどの事実調査の経過報告をした。報告には、被告安井健二、同源氏田重義、同川上敏朗及び同山路弘行が同席した。そして、被告藤田彬は、調査を急ぐよう指示し、国際資金証券部の鳥海次長をニューヨークに派遣することを決めた。

(2) 被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)は、同月一五日ころ、検査官を欺罔する意思で、大和銀行所有の財務省証券を売却して、甲野が無断売却した財務省証券の利息相当額を、右財務省証券の所有者であった顧客に対し、米国財務省から受け取った利息であると称して支払った上、ニューヨーク支店の帳簿と記録に、米国財務省から利息を受け取って利払いに充てたという虚偽の記載をした(本件訴因1・2)(被告藤田彬、同安井健二及び同山路弘行は、事前にこれを了解していた。)。

なお、乙事件被告らは、右虚偽記載について、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張しているけれども、前判示のとおり、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(3) 被告乙山次郎は、同年八月一五日ころ、検査官を欺罔する意思で、甲野が無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽の内容の同年七月分の保管残高明細書をあたかもバンカーズ・トラストが作成したかのように装って作成した(本件訴因1・2・5)。

ところで、乙事件被告らは、右行為について、甲野の告白内容の事実調査中であり、本件無断取引及び無断売却の数額、手口等を確定するまでの間、帳簿上の数値を従前どおり記載したもので、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張するけれども、前記認定のとおり、事実調査の結果、本件無断取引及び無断売却により発生した損失の正確な金額が確定し、無断売却された財務省証券の内訳も判明していたにもかかわらず、被告乙山次郎は、あえて内容虚偽の保管残高明細書を偽造したものであり、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(六)(1) 被告藤田彬は、同月下旬、米州企画室から、被告乙山次郎及び同安井健二を通じて、米国では規制が厳しいので早めに事件をFEDに報告した方がよいのではないかという意見が寄せられたことから、同月二五日、米国法の規制内容について、匿名で、日本の法律事務所を通じ、米国のデベボイス・アンド・プリンプトン法律事務所に照会した。

(2) 被告藤田彬は、同年九月一日、デベボイス・アンド・プリンプトン法律事務所から、問題の開示を含め適切な弁護士の助言を速やかに求めるべきであるとの回答を得たことから、サリバン・アンド・クロムウェル法律事務所に相談するため、同月五日から七日まで、被告山路弘行をニューヨークに出張させた。

(七)(1) 国際資金証券部長の本橋隆は、被告藤田彬、同安井健二及び同山路弘行の指示又は了解の下、同年八月下旬ころ、甲野が無断売却した顧客所有の財務省証券約三億七七〇〇万ドル分と同一銘柄の財務省証券を市場で購入し、バンカーズ・トラスト勘定に引き渡した。

(2) 被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)と本橋隆(国際資金証券部長)は、同月三一日ころ、検査官を欺罔する意思で、甲野によって無断売却され実際には存在しない財務省証券約六億ドル分があたかも存在し、これを実際に大和銀行本店に移管するかのような、虚偽の内容の移管指示書を作成した(本件訴因1・2・6)上、ニューヨーク支店から国際資金証券部に移管した形を取った。被告藤田彬、同安井健二及び同山路弘行は、これを事前に指示あるいは了解していたものと認められる(被告藤田彬は、財務省証券の移管につき事前には知らなかった旨供述しているけれども、米国当局に報告しないまま中間決算で一括処理する方針を立てていたのであり、ニューヨーク支店勘定のまま処理することができないことは明らかであるから、右供述の真意は、具体的な手段・方法は被告安井健二らに任せており細目までは知らなかったというものであると思われる。)。

ところで、乙事件被告らは、大和銀行本部で雑損償却するため、正規の手続で移管したのであり、移管指示書の内容は虚偽ではなく、検査官を欺罔する意思もなかった旨主張する。しかしながら、無断売却されて存在しない財務省証券は、どのような方法をとったとしても本部に移管することはできないのであり、いわゆる不良債権を移管するのとは異なり、移管指示書が虚偽であるのはもとより、本部に移管した形を取って雑損処理するという手続も適正な会計処理ではない。右被告らに検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(3) 被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)は、同月三一日ころ、検査官を欺罔する意思で、大和銀行所有の財務省証券を売却して、甲野が無断売却した財務省証券の利息相当額を、右財務省証券の所有者であった顧客に対し、米国財務省から受け取った利息であると称して支払った上、ニューヨーク支店の帳簿と記録に、米国財務省から利息を受け取って利払いに充てたという虚偽の記載をした(本件訴因1・2)(なお、被告藤田彬、同安井健二及び同山路弘行は、事前にこれを指示あるいは了解していた。)。

なお、乙事件被告らは、右虚偽記載について、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張しているけれども、前判示のとおり、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(4) 被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)と本橋隆(国際資金証券部長)は、同年九月七日ころ、検査官を欺罔する意思で、「大和銀行は、流動性の維持のために、ニューヨーク支店から六億ドルの財務省証券を購入した。」旨の虚偽の書簡を作成し(本件訴因1・2・7)、本橋隆から被告乙山次郎宛て、ファクシミリで送付した。被告藤田彬、同安井健二及び同山路弘行は、これを事前に指示あるいは了解していたものと認められる(被告藤田彬は、右書簡の具体的な文言を事前には知らなかった旨供述しているけれども、米国当局に報告しないまま中間決算で一括処理する方針を立てていたのであり、ニューヨーク支店勘定のまま処理することができないことは明らかであって、同被告も、無断売却され存在しない財務省証券をあたかも存在するかのように装って本部に移管し中間決算で一括処理すること自体は承知していたものと認められ、ニューヨーク支店の現地職員らに知られないまま移管するためには、同支店に対し、存在しない財務省証券を本部に移管することを指示するという内容虚偽の書簡が必要となることもまた明らかであるから、同被告の供述の真意は、具体的な手段・方法は被告安井健二らに任せており、どのような虚偽の理由を記載するかという細目までは知らなかったというものであると思われる。)。

ところで、乙事件被告らは、右書簡について虚偽ではなく、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張するが、甲野によって無断売却され実際には存在しない財務省証券約六億ドル分があたかも存在し、これを実際に購入するかのような記載であり、明らかに虚偽である上、流動性の維持のためとの部分も虚偽であるから、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(八)(1) 同年九月七日、大和銀行は、全代表取締役が出席する経営会議を開催し、被告安井健二が、本件無断取引及び無断売却の概要、現在事実調査中であること、米国の法規制について調査中であること等を報告し、本件無断取引及び無断売却による損失を同年九月中間決算で一括処理すること、情報管理を徹底すること等を確認した。

(2) 被告西山金良、同勝田昱宏及び同國定浩一は、右経営会議で初めて本件無断取引及び無断売却の概要等を知った。

(九)(1) 被告山路弘行は、同年九月九日、帰国し、被告藤田彬に対し、サリバン・アンド・クロムウェル法律事務所での相談結果について、大和銀行がFED及びニューヨーク州銀行局に本件無断取引及び無断売却について報告する法律上の義務を負っていること、FEDへの報告は早ければ早いほどよいが同月一二日から一四日くらいに報告すれば大したことにはならないと思われること等を報告した。報告には、被告安井健二、同源氏田重義、同砂原和彌及び同勝田泰久が同席した。

(2) 被告藤田彬は、被告山路弘行の報告を聞き、同月中旬にはFEDに報告する必要があると考え、同月一二日、被告勝田泰久に指示して、大蔵省銀行局銀行課長に右方針を報告させ、また、被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)に指示して、サリバン・アンド・クロムウェル法律事務所と、FEDへの報告の手順、FED及び連邦検察官による秘密保持の可能性、一般公表等について詰めの協議を始めさせた。

(3) 被告乙山次郎は、同月一三日ころ、検査官を欺罔する意思で、甲野が無断売却した財務省証券が存在するかのような虚偽の内容の同年八月分の保管残高明細書をあたかもバンカーズ・トラストが作成したかのように装って作成した(本件訴因1・2)。

ところで、乙事件被告らは、右各行為について、甲野の告白内容の事実調査中であり、本件無断取引及び無断売却の数額、手口等を確定するまでの間、帳簿上の数値を従前どおり記載したもので、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張するけれども、前判示のとおり、被告乙山次郎は、内容虚偽の保管残高明細書を偽造したものであり、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ない。

(一〇)(1) 被告安井健二及び同源氏田重義は、同月一四日、日本銀行副総裁と会い、本件無断取引及び無断売却の概要等についての報告を行った。そして、同月一七日には、被告藤田彬が日本銀行総裁と会い、同様に、報告を行った。

(2) 被告安井健二は、同月一四日、サリバン・アンド・クロムウェル法律事務所に対し、FED及びニューヨーク州銀行局との面会の約束を取るように要請し、同月一八日に被告安井健二がパトリキスFED副総裁と面談することになった。そして、その旨を大蔵省及び日本銀行に連絡したところ、被告安井健二がFEDに報告するころに、大蔵省及び日本銀行からもFEDに対して電話を入れることとなった。

(3) 被告藤田彬は、同月一七日、被告安井健二をニューヨークに出張させ、同被告は、同月一八日、被告乙山次郎及びサリバン・アンド・クロムウェル法律事務所の弁護士とともに、パトリキスFED副総裁と会い、本件無断取引及び無断売却の事実を報告した。被告安井健二は、ニューヨーク州銀行局長に対しても同様の報告をした。

(一一)(1) 被告藤田彬は、連邦検察官が本件無断取引及び無断売却を米国連邦捜査局(FBI)に報告した後、ニューヨーク支店に対する資料請求や、捜査員の張込みがされるような動きが出てきたことから、マスコミに発覚する危険が大きくなったものと考え、本件無断取引及び無断売却の事実の公表を同月二六日に行うことに決断し、大蔵省及び日本銀行に対してもその旨連絡した。

(2) 被告藤田彬は、同月二五日、役員連絡会において、本件無断取引及び無断売却の発生について説明を行った。被告長岡壽男、同松田良一、同木村勇雄、同鈴木剛夫、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇は、役員連絡会の説明で初めて本件無断取引及び無断売却を知った。

(3) 被告藤田彬は、同月二六日、自らあるいは被告安井健二又は同海保孝を通じ、監査役ら、すなわち、常任監査役である被告近藤宏、同寺田一彦及び同宗宮英韶、非常勤監査役(社外監査役)である被告大西正文及び同平岩新吾、並びに会計監査人(太田昭和監査法人)に対しても本件無断取引及び無断売却の発生を説明した。

(4) 被告藤田彬は、同月二六日午後、記者会見を開き、本件無断取引及び無断売却の事実を公表した。

三  争点1(内部統制システムの構築に関する任務懈怠行為の有無[甲事件、乙事件・本件訴因14ないし20])

1  リスク管理

健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスク、例えば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法二六〇条二項)、会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。この意味において、取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと言うべきである。監査役は、商法特例法二二条一項の適用を受ける小会社を除き、業務監査の職責を担っているから、取締役がリスク管理体制の整備を行っているか否かを監査すべき職務を負うのであり、これもまた、監査役としての善管注意義務の内容をなすものと言うべきである。

もっとも、整備すべきリスク管理体制の内容は、リスクが現実化して惹起する様々な事件事故の経験の蓄積とリスク管理に関する研究の進展により、充実していくものである。したがって、様々な金融不祥事を踏まえ、金融機関が、その業務の健全かつ適切な運営を確保するとの観点から、現時点で求められているリスク管理体制の水準をもって、本件の判断基準とすることは相当でないと言うべきである。また、どのような内容のリスク管理体制を整備すべきかは経営判断の問題であり、会社経営の専門家である取締役に、広い裁量が与えられていることに留意しなければならない。

2  ニューヨーク支店におけるリスク管理

争点1で問われているのは、主として、被告らのうち、大和銀行の代表取締役の地位にあった者及び取締役在任中にニューヨーク支店長の地位にあった者が、同支店における財務省証券取引及びカストディ業務に内在する、価格変動リスク等の市場リスク及び事務リスクのうち、特に事務リスクを適切に管理する仕組み、すなわちリスク管理体制を整備していたか否か、また、その余の被告らに、取締役又は監査役としての監視義務違反又は監査義務違反が認められるか否かである。

ところで、取締役は、自ら法令を遵守するだけでは十分でなく、従業員が会社の業務を遂行する際に違法な行為に及ぶことを未然に防止し、会社全体として法令遵守経営を実現しなければならない。しかるに、事業規模が大きく、従業員も多数である会社においては、効率的な経営を行うため、組織を多数の部門、部署等に分化し、権限を部門、部署等の長、さらにはその部下へ委譲せざるを得ず、取締役が直接全ての従業員を指導・監督することは、不適当であるだけでなく、不可能である。そこで、取締役は、従業員が職務を遂行する際違法な行為に及ぶことを未然に防止するための法令遵守体制を確立するべき義務があり、これもまた、取締役の善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと言うべきである。この意味において、事務リスクの管理体制の整備は、同時に法令遵守体制の整備を意味することになる。

財務省証券取引には、取引担当者が自己又は第三者の利益を図るため、その権限を濫用する誘惑に陥る危険性があるとともに、価格変動リスク(市場リスク)が現実化して損失が生じた場合に、その隠ぺいを図ったり、その後の取引で挽回をねらいかえって損失を拡大させる危険性(事務リスク)を抱えている。また、カストディ業務には、保管担当者が自己又は第三者の利益を図って保管物を無断で売却して代金を流用する等、権限を濫用する危険性(事務リスク)が内在している。このような不正行為を未然に防止し、損失の発生及び拡大を最小限に止めるためには、そのリスクの状況を正確に認識・評価し、これを制御するため、様々な仕組みを組み合せてより効果的なリスク管理体制(内部統制システム)を構築する必要がある。

原告ら及び参加人は、大和銀行が構築すべきリスク管理体制を構成する仕組みとして、①証券売買部門と資金決済、事務管理部門との分離(フロント・オフィスとバック・オフィスの分離、財務省証券取引業務とカストディ業務の分離)、②財務省証券の残高確認の方法、③郵便物等の管理、④強制休暇取得制度等を主張するので、順次検討した上、その組合せにより形作られていたリスク管理体制が、その時点において十分なものであったか否かについて判断する。

3  証券売買部門と資金決済、事務管理部門との分離

(一)(フロント・オフィスとバック・オフィスの分離)財務省証券取引の事務リスクを適切に管理するためには、取引担当者に対しポジション枠、損切りルール等の取引に関する制限を課した上、取引担当者がこの制限を遵守していることを確認するため、取引部門(フロント・オフィス)と、取引の相手方(証券会社)から会社宛て送付されるコンファメーション(売買確認書)を受領し、取引部門から送付される取引伝票(トレード・チケット)とを照合する事務管理部門(バック・オフィス)とを組織上分離して、右両部門が相互に牽制しあう体制を整備することが考えられる。加えて、右体制を実質的に機能させるため、人事配置に当たっては同一の従業員に両部門を兼任させないように配慮し、仮に兼任させざるを得ない場合には、これを補うための措置を講じることが考えられる。

(二) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、大和銀行では、本部においてポジション枠の認可を行い、損切りルールを実施していた。ニューヨーク支店におけるフロント・オフィスとバック・オフィスの分離については、甲野が本件無断取引を始めた昭和五九年六月末ころから昭和六一年一〇月までの間は、証券係が財務省証券の取引業務全般を取り扱っており、組織上は分離されていなかったが、取引は甲野が担当し、照合は甲野の上司である邦人の上級管理職員が担当する体制をとっていたのであるから、機能上は分離されていたものである(それにもかかわらず、本件無断取引を未然に防止することができなかったのは、甲野が上級管理職員による照合を免れ、取引から、起票、勘定入力、資金カバー及び証券受渡しの指図まで全てを一人で行っていたためである。)。そして、昭和六一年一〇月には、組織上もフロント・オフィスとバック・オフィスの分離が行われ、取引担当者がポジション枠、損切りルール等の取引に関する制限を遵守していることを確認する体制が整備された。すなわち、取引は証券係が行い、取引の勘定入力、コンファメーションによる照合、入出金の照合等は資金管理・計算係及びEDP係(主計係)が行うようになった(それにもかかわらず、本件無断取引を未然に防止することができなかったのは、甲野が、本件無断取引につき起票を行わず、バック・オフィスで勘定入力が行われなかった上、取引の相手方〔証券会社〕の協力を得て、コンファメーションをバック・オフィスではなく甲野の元へ送付させていて、バック・オフィスが取引の成立自体を把握することができなかったためである。また、各コルレス銀行及びバンカーズ・トラストからバック・オフィスに対し送付される入出金明細書を確認することによっても本件無断取引が発覚しなかった理由については、前判示のとおり、証拠上明らかではなく、フロント・オフィスとバック・オフィスとの分離が不十分であったものと断定することはできない。)。したがって、財務省証券取引の事務リスクを管理するための、ポジション枠、損切りルール等の取引に関する制限、並びに、取引担当者がこの制限を遵守していることを確認するためのフロント・オフィスとバック・オフィスの分離は、当法廷に提出された証拠上は、一応実施されていたものと評価される。

なお、原告ら及び参加人は、財務省証券取引についてフロント・オフィスとバック・オフィスを分離していなかったため、甲野の本件訴因14ないし20に該当する行為を発見、防止することができなかった旨主張している。しかしながら、前記認定のとおり、本件訴因14ないし20に係る事実は、甲野が虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書を作成したこと及び虚偽の保管残高明細書をファクシミリ送信したことを内容としており、フロント・オフィスとバック・オフィスとを分離したとしても、甲野の右行為を発見、防止することができたとは言えないから、原告ら及び参加人の右主張は採用できない。

(三)(財務省証券取引業務とカストディ業務の分離)財務省証券取引は、担当者が自己の取引の結果生じた損失の隠ぺいを図ったり、その後の取引で挽回をねらいかえって損失を拡大させる危険性(事務リスク)を抱えている。また、カストディ業務には、担当者が自己又は第三者の利益を図り、保管物を無断で売却して代金を流用する等、権限を濫用する危険性(事務リスク)が内在している。そして、財務省証券取引業務の担当者が、カストディ業務の担当者を兼ねる場合には、無権限で行った財務省証券取引の損失を、カストディ業務で保管中の財務省証券の無断売却により隠ぺいし、さらに、無権限での財務省証券取引を繰り返して、銀行に巨額の損失を与えるおそれがあり、銀行が抱える危険性は飛躍的に増大するということができる。したがって、担当者による不正行為を未然に防止し、損失の発生及び拡大を最小限に止めるためには、財務省証券取引を担当する部門とカストディ業務を担当する部門について、それぞれリスクを適切に管理する仕組みを整備するほか、両部門を組織上分離して、両部門が相互に牽制しあう体制を整備することが考えられる。加えて、右体制を実質的に機能させるため、人事配置に当たっては同一の従業員に両部門を兼任させないように配慮し、仮に兼任させざるを得ない場合には、これを補うための措置を講じることが考えられる。

(四) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、ニューヨーク支店では、平成元年四月、財務省証券取引業務を担当する財務省証券取引業務担当とカストディ業務を担当するカストディ業務担当が証券係内に設けられたことにより、初めて、財務省証券取引業務を担当する部門とカストディ業務を担当する部門とが組織上分離され(それまでは、両部門は、組織上分離されていなかった。)、平成二年一月には、証券ディーリング係が財務省証券取引を担当し、カストディ係がカストディ業務を担当することとなり、より一層明確に両部門が組織上分離された。もっとも、平成元年四月以降も平成五年一一月までの間は、財務省証券取引を担当する甲野が、カストディ部門のマネージャーの上位者として同部門を掌理しており、人事配置の面でみると、実質上両部門の分離は明確ではなく、組織上の分離の機能を減殺していたものと認められる。平成五年一一月に至り、鳥海副支店長を証券係のマネージャーの上位者とし、甲野を財務省証券の取引業務の担当から外し、財務省証券取引業務とカストディ業務の分離が人事配置の面でも実現した(なお、甲野が、組織上財務省証券の取引業務の担当を外れた後も、実際には他のトレーダーを指揮命令下に置いて正規の財務省証券取引をコントロールしていたものと認めるに足りる証拠は、当法廷に提出されていない。)。したがって、財務省証券取引及びカストディ業務の事務リスクを管理するための、財務省証券取引業務とカストディ業務の分離は、平成元年四月までは実施されておらず、その後も平成五年一一月までの間は人事配置の面で十全ではなかったものと評価される。

しかしながら、前判示のとおり、当法廷に提出された証拠上、甲野の本件無断取引及び無断売却の手口には未解明の部分が多々あり、また、本件訴因14ないし20に係る行為は、甲野が虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書を作成したこと及び虚偽の保管残高明細書をファクシミリ送信したことを内容としているから、財務省証券取引業務とカストディ業務とを分離したとしても、甲野の右行為を発見、防止することができたとは必ずしも言えない。

(五)(被告ら主張の仕組み)ニューヨーク支店は、このほか、財務省証券取引及びカストディ業務に内在する事務リスクを管理するため、前記認定のとおり、次の措置をとった。すなわち、

①昭和六二年一一月ころ、本部(経理証券部)で証券取引を行った経験のある梅田(主事)をダウンタウンのカストディ業務出張所に派遣して不正行為がないか検査を実施した。

②昭和六三年二月ころ、内部監査担当者制度を採用して随時監査を実施した。

③同年三月、荒木(副参事)を取引担当者として、財務省証券取引の担当者を複数とした。

④平成六年九月ころ、為替、資金及び証券の全ての取引業務を一元的に管理するミドル・オフィス係を設置した。

4  財務省証券の保管残高確認

(一) カストディ業務には、担当者が、自己又は第三者の利益を図り、保管中の証券を無断で売却する危険性(事務リスク)がある。この事務リスクを適切に管理するためには、預かり保管する証券の性質に応じた適切な方法によって保管残高を検査することが必要である。本件無断売却された財務省証券は証券が発行されない登録債であって証券の現物との突合を行うことはできず、かつ、ニューヨーク支店がバンカーズ・トラストにその保管を再委託していてバンカーズ・トラストに対する照会を行うほかに適切な方法がないから、保管残高を検査するには、カストディ業務の担当者を介さず、直接バンカーズ・トラストに対して保管残高の照会を行うことが考えられる。

(二) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、ニューヨーク支店は、検査部の統括の下、本部(検査部)が担当取締役の決裁を経て作成した検査要領に基づき、毎月店内検査(部店内部検査)を実施し、また、内部監査担当者による監査を随時実施しており、カストディ係で保管している財務省証券の保管残高を確認していた。本部(検査部)は、ニューヨーク支店に対し、右検査要領に基づく臨店検査を二年に一回実施し、カストディ係で保管している財務省証券の保管残高を確認していた。本部(米州企画室)は、平成六年九月、ニューヨーク支店のカストディ業務の検査を実施した。監査役及び会計監査人は、ニューヨーク支店に対する往査を三年に一回実施しており、会計監査人は、カストディ係で保管している財務省証券の保管残高を確認しており、監査役は、会計監査人の監査に立ち会っていた。しかしながら、店内検査、内部監査担当者による監査、検査部による臨店検査、米州企画室による検査、会計監査人による監査のいずれの場合においても、検査対象であるニューヨーク支店あるいはカストディ係にバンカーズ・トラストから財務省証券の保管残高明細書を入手させ、その保管残高明細書と同支店の帳簿とを照合するという確認方法を採用していたため、甲野が本件無断売却の事実がないように作り替えた保管残高明細書と、同支店の帳簿とを照合する結果となり、本件無断売却及び本件訴因14ないし20(虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書の作成及び虚偽の保管残高明細書のファクシミリ送信)に係る行為を発見、防止することができなかった。したがって、カストディ業務に内在する事務リスクを適切に管理するための、財務省証券の保管残高を確認する仕組みは、整備され、かつ実施されていたものの、その検査方法は、検査対象者に隠ぺいの機会を残すものであったと評価される。

(三) なお、原告ら及び参加人は、財務省証券の保管残高の確認方法について、抜き打ち検査を行わなかったこと、並びに、検査部の臨店検査を事前予告方式に代えたことも問題とするが、原告ら及び参加人が指摘する方法が、事務リスクを適切に管理するという観点から見て、当然に不適切な検査方法であるとまでは評価することができない。

5  その他

(一)(郵便物等の管理)原告ら及び参加人は、ニューヨーク支店における郵便物等の管理が不適切であったため、甲野の本件無断取引を発見することができなかった旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、ニューヨーク支店は、メール係を置いて郵便物を一括管理していた上、書留便については、発信簿及び受信簿に日付、発信者、受信者、内容等を記載し、店内検査、内部監査担当者による監査等においても、右記載が適切になされているか確認していたのであって、それ以上の郵便物の管理が当然に必要であるとは認め難い。加えて、前記認定のとおり、ダウンタウンのカストディ業務出張所には、カストディ係で保管している証券の売却に係るコンファメーションが送付されており、コンファメーションが送付されること自体は不自然ではなかったこと、甲野の無断取引の手口の詳細は、証拠上確定し難く、本件無断取引のコンファメーションがどの様な形で送付されていたかも不明であるから、郵便物等の管理によって直ちに本件無断取引を発見できたとは言えない。

(二)(強制休暇取得制度)原告ら及び参加人は、大和銀行が平成六年まで財務省証券取引の担当者に四日ないし五日の休暇を強制的にとらせる制度を採用していなかったため、甲野の本件無断取引を発見することができなかった旨主張する。

確かに、前記認定の事実関係によれば、大和銀行は、甲野について、人事ローテーションを実施せず、長期間にわたって財務省証券取引業務及びカストディ業務を担当させていた。他に代わるべき人材が得られない等の理由で、止むなく、特定の従業員を、長期間にわたり同一部署の同一業務に従事させる場合には、事務リスクを適切に管理するため、特段の措置を講じる必要が生じる。しかしながら、強制休暇取得制度がそのための唯一の方法ではないし、前記認定のとおり、甲野は、ニューヨーク支店長に命じられて、本部で開催された海外拠点長会議に出席するため、一週間連日、職場から離れたことがあるにもかかわらず、本件無断取引及び無断売却は発覚しなかったのであって、強制休暇取得制度を採用することによって直ちに甲野の本件無断取引を発見することができたとは言えない。

(三)(昭和六一年の臨店検査)原告ら及び参加人は、本部(検査部)が昭和六一年九月に臨店検査を実施した際、財務省証券取引について検査しなかった旨主張しているが、前判示のとおり、右事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)(大蔵省に対する届出の懈怠)原告ら及び参加人は、大和銀行が、昭和六一年九月、ニューヨーク支店をミッドタウンへ移転した後、大蔵省に対する届出をしないまま、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行わせるような杜撰な管理体制であったから、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかった旨主張するけれども、大蔵省に届出をすることによって甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができたとは言えない。

(五)(カストディ業務出張所に対する管理)原告ら及び参加人は、大和銀行が、昭和六一年九月、ニューヨーク支店をミッドタウンへ移転した際、ダウンタウンのカストディ業務出張所にカストディ係専用の送金係及びコレルス銀行の預け金口座を設けるなどした結果、右出張所が事実上独立した支店となり、ニューヨーク支店の管理が及ばなくなったから、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかった旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、ニューヨーク支店は、カストディ業務出張所における財務省証券取引業務及びカストディ業務を、支店長・副支店長・邦人の上級職員・甲野・邦人職員(マネージャー)・現地職員という指揮系統で管理していたから、右出張所についてニューヨーク支店の管理が及ばなくなったということはできない。

(六)(約一億ドルの資金不足)原告ら及び参加人は、平成元年六月に、甲野が多額のポジションを持ち越したこと等によりニューヨーク支店の資金が約一億ドル不足したのに、誰も気付かないほど、同支店の管理体制は杜撰であったから、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかった旨主張するけれども、前記認定のとおり、平成元年六月に同支店の資金が約一億ドル不足していたことを認めるに足りる証拠はないから、原告ら及び参加人の主張は、その前提を欠く。

(七)(大蔵省の指摘)原告ら及び参加人は、大和銀行は、昭和六三年一二月、本部(国際資金証券部)が大蔵省のヒアリングにおいて、「大和銀行の財務省証券の取引額が異常に多い」と指摘され、「取引額を減らすように」と注意されたにもかかわらず、この注意を無視して何らの対策もとらなかったから、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかった旨主張する。

確かに、前記認定のとおり、平成元年九月、本部(国際資金証券部)が大蔵省国際金融局からニューヨーク支店における財務省証券の取引量が多いことを指摘された際、被告安井健二(国際総合部長)は、国際資金証券部長を通じ池田汎支店長に照会し、短期売買が多いためであるとの回答を得て満足し、それ以上の調査を行っていないけれども、原告ら及び参加人は、右以上の調査を要する状況にあったとの主張、立証を行わないから、原告ら及び参加人の主張は、その前提を欠く。

(八)(トレーダーの移動等)原告ら及び参加人は、平成四年一一月、FEDによる検査が実施された際、ニューヨーク支店が、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行っている事実を隠すため、トレーダーをミッドタウンの支店へ移動させるなど、同支店が違法行為を組織ぐるみで隠ぺいする杜撰な管理体制にあったから、また、平成五年八月ころ、被告山路弘行支店長が、甲野を副支店長と同格の待遇としたから、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかった旨主張するけれども、原告ら及び参加人指摘の事項と、甲野が本件無断取引及び無断売却を行ったこととの間に因果関係があるものとは認めがたい。

(九)(被告山路弘行の対応)原告ら及び参加人は、被告山路弘行が平成五年一一月米州企画室から、ダウンタウンのカストディ業務出張所で財務省証券取引を行うことは違法である旨指摘を受けた際、財務省証券取引業務の管理体制を抜本的に見直すよう取締役会に報告する等適切な処置をとらなかったから、また、甲野をそのころ実施された業務検査に対応させたから、さらに、組織図上は甲野を財務省証券取引の担当から外しながら、甲野が電話で右取引をコントロールすることを容認したから、甲野の本件無断取引及び無断売却を発見、防止することができなかった旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、平成五年一一月当時、米州駐在常務取締役であった被告山路弘行は、米州企画室から指摘を受け、被告安井健二の指示により米国の法律事務所の意見を徴した上FEDに事実を申告するとの方針を決定し、新田寛支店長がFEDの検査官に事実を申告し、検査官の指摘を踏まえて、組織を変更して甲野を財務省証券取引の担当から外したのであり、被告山路弘行が適切な処置をとらなかったとの事実を認めることはできない。また、従来カストディ業務と財務省証券取引業務を担当していた甲野にFED及びニューヨーク州銀行局の合同検査に対応させることは、何ら不自然ではない。さらに、前判示のとおり、被告山路弘行が、組織変更後も甲野が財務省証券取引を電話でコントロールすることを容認したことを認めるに足りる的確な証拠は当法廷に提出されていない。

(一〇) 以上の次第で、(一)から(九)までの原告ら及び参加人の主張はいずれも採用することができない。

6  リスク管理体制の状況(総括)

(一) 以上のとおり、ニューヨーク支店は、甲野が本件無断取引を始めた昭和五九年六月末ころには、財務省証券取引及びカストディ業務に内在する事務リスクを管理する仕組みのうち、ポジション枠、損切りルール等の取引に関する制限、並びに取引担当者と照合担当者を別人とするという限度ではあるが、フロント・オフィスとバック・オフィスの分離を実施していたのであり、その後、順次、様々な仕組みを追加し、整備してきた。加えて、当法廷に提出された証拠上、甲野の本件無断取引及び無断売却の手口には未解明の部分が多々あり、財務省証券の保管残高を確認する方法が著しく適切さを欠いていたことのほか、甲野が永年にわたり発覚を免れつつ本件無断取引及び無断売却を続けることができた原因となるべきリスク管理体制上の欠陥を特定することができない。したがって、ニューヨーク支店における財務省証券取引及びカストディ業務に関するリスク管理体制は、当法廷に提出された証拠上は、大綱のみならずその具体的な仕組みについても、整備されていなかったとまではいえないものと言うべきである。

(二) 右に述べたとおり、大和銀行本部(検査部)、ニューヨーク支店及び会計監査人が行っていた財務省証券の保管残高の確認は、その方法において、著しく適切さを欠いていたものと評価される。財務省証券の保管残高の確認は、カストディ業務に内在する事務リスクを適切に管理するため、最も基本的かつ効果的であり、欠くことのできない仕組みである。他にどのような仕組みを組み合せようとも、適切な残高確認を欠いたリスク管理体制は十全とは言い難い。そして、この仕組みを実質的に機能させるためには、前判示のとおり、残高確認を行うに当たって、預かり保管する証券の性質に応じた適切な方法を採り、いわば現物確認を行うことが必要である。証券が発行されているのであれば、現金の残高を確認する際実際に現金を数えて帳簿上の金額と照合するように、証券の現物と帳簿上の記載とを突合することが必要であり、証券が発行されない登録債であり、かつ、バンカーズ・トラストにその保管を再委託している場合には、カストディ業務の担当者を介さず、直接バンカーズ・トラストに対して保管残高の照会を行うことが必要となる。それにもかかわらず、ニューヨーク支店では、毎月の店内検査、随時実施されていた内部監査担当者による監査、二年に一回の臨店検査、米州企画室による検査、三年に一回の会計監査人による監査のいずれにおいても、検査対象であるニューヨーク支店あるいはカストディ係にバンカーズ・トラストから財務省証券の保管残高明細書を入手させ、その保管残高明細書と同支店の帳簿とを照合するという確認方法を採用していた。そのため、甲野に保管残高明細書を改ざんする機会を与える結果となり、本件無断売却及び本件訴因14ないし20(虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書の作成及び虚偽の保管残高明細書のファクシミリ送信)に係る行為を発見、防止することができなかったのであり、大和銀行のリスク管理体制は、この点で、実質的に機能していなかったものと言わなければならない。

(三) 被告らは、大和銀行が採用していた財務省証券の保管残高の確認方法は、当時の検査方法として他の銀行においても通常行われていたものであると主張するが、カストディ業務を行っている金融機関がかかる重大な不備のある検査方法を一般的に採用していたものとは考え難く、また、これを認めるに足りる的確な証拠は提出されていない。しかも、検査方法に重大な不備がある以上、仮に、他の金融機関で同じ方法が採られていたとしても、そのことから、大和銀行の検査方法が不適切でなかったものと評価される訳ではない。

また、被告らは、①大和銀行は、大蔵省による検査及び日本銀行による考査を受けており、財務省証券の保管残高の確認方法について不適切であるとの指摘を受けたことがないから、同行のリスク管理体制は、金融当局が期待する水準に達していた、②ニューヨーク支店は、ニューヨーク州銀行局及びFEDによる検査を受けており、財務省証券の保管残高の確認方法について不適切であるとの指摘を受けたことがないから、同支店のリスク管理体制は、当時の他の都市銀行と比較して見劣りのするものではなかった、③本件無断取引及び無断売却を発見、防止できなかったのは、甲野の異常に巧妙な隠ぺい工作によるものであって、そのような隠ぺい工作にも耐え得るようなリスク管理体制を整備することは、法が要求する取締役及び監査役としての善管注意義務の範囲を超えるなどと主張する。

しかしながら、大蔵省、日本銀行、ニューヨーク州銀行局及びFEDが、大和銀行が採用していた財務省証券の保管残高の確認方法について検査した上これを適切であると評価していたものと認めるに足りる証拠は当法廷に提出されていない。前判示のとおり、大和銀行は、顧客から預り保管していた財務省証券の残高確認を行うに当たり、証券の性質に応じた現物確認(検査担当者が登録債の保管残高明細書をバンカーズ・トラストから直接取り寄せて支店の帳簿と照合すること)という欠くべからざる方法を採らないという、正に重大な過誤を犯したために、本件無断売却を発見できなかったのであり、甲野が異常に巧妙な隠ぺい工作を採ったから本件無断売却を発見できなかった訳ではない。我が国及び米国の監督当局は、一行の経営破綻が金融システム全体に波及するおそれがあるという銀行の特殊性に鑑み、銀行の業務の健全性及び適切性を確保するために検査を行っているが、銀行の経営の健全性を確保する第一次的な責任を負っているのは、銀行自体である。銀行は、自己責任の観点から、自ら管理を行わなければならないのであって、自ら行うべき管理を監督当局の検査をもって代替しようとしてはならない。したがって、被告らの主張を採用することはできない。

7  被告らの任務懈怠の有無

(一)  前判示のとおり、店内検査は、検査部の統括の下、検査部が担当取締役の決裁を経て作成した検査要領に基づいて実施されていたのであり、臨店検査は、検査部が右検査要領に基づいて実施していたのであるから、検査部の担当取締役が業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役として、財務省証券の保管残高の確認方法が適切さを欠いていたことにつき、任務懈怠の責を負う。また、店内検査及び内部監査担当者による監査は、ニューヨーク支店長の指揮の下実施されるのであるから、取締役が支店長を務めている場合には、同支店長が業務担当取締役としてあるいは使用人兼務取締役として、財務省証券の保管残高の確認方法が適切さを欠いていたことにつき、任務懈怠の責を負う。さらに、米州企画室の担当取締役は、米州企画室が実施した財務省証券の保管残高の確認方法が適切さを欠いていたことにつき、任務懈怠の責を負う。

(二) 原告ら及び参加人が本件訴訟において担当取締役としての責任追及をしている被告らのうち、被告安井健二、同山路弘行及び同乙山次郎の三名は、ニューヨーク支店長を務めた取締役として任務懈怠の責を負う。すなわち、被告安井健二は、支店長として、同支店が実施した店内検査及び内部監査担当者による監査において、財務省証券の保管残高の確認を極めて不適切な方法で行い、また適切な方法に改めなかったため、甲野の本件無断売却を発見あるいは防止することができず、本件訴因14ないし20に係る行為を未然に防止することができなかったものである。また、被告山路弘行及び同乙山次郎は、同様に、支店長として、同支店が実施した店内検査及び内部監査担当者による監査において、財務省証券の保管残高の確認を極めて不適切な方法で行い、また適切な方法に改めなかったため、被告山路弘行は、本件訴因14ないし20に係る行為を未然に防止することができず、被告乙山次郎は、本件訴因18ないし20に係る行為を未然に防止することができなかったものである(本件訴因14ないし17に係る事実は、同被告が支店長に就任した平成七年五月以前の出来事であるから、同被告が責を負うものではない。)。

なお、被告藤田彬及び同中川眞一は、検査部担当の業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役であったが、いずれも任期が短く(被告藤田彬は昭和六一年一二月から昭和六二年一月までであり、被告中川眞一は平成六年六月から同年七月までである。)、その間にニューヨーク支店に対する臨店検査が実施されていないことを勘案すると、右被告らが右検査方法を是正しなかったことにつき直ちに任務懈怠の責を負うものとは断定し難い。

(三) ニューヨーク支店が保管している財務省証券の残高確認は検査業務であるから、その指揮系統は代表取締役頭取、代表取締役副頭取、検査部担当の業務担当取締役又は同支店担当の業務担当取締役の順序であるものと思われる。もっとも、検査部及びニューヨーク支店担当の各業務担当取締役の上位者として、両取締役を指揮監督すべき職務を担っていた代表取締役副頭取が誰であったかについては、主張、立証がない。また、大和銀行では、代表取締役頭取が、同行の業務全体を掌理するとともに、副頭取を指揮監督し、副頭取が、担当する各部門の業務担当取締役を指揮監督する体制を組織していたものと思われるが(事務分掌規程及び決裁権限規程は当法廷に提出されていない。)、大和銀行のような巨大な組織を有する大規模な企業においては、頭取あるいは副頭取が個々の業務についてつぶさに監督することは、効率的かつ合理的な経営という観点から適当でないのはもとより、可能でもない。財務省証券の保管残高の確認については、これを担当する検査部、ニューヨーク支店が設けられており、この両部門を担当する業務担当取締役がその責任において適切な業務執行を行うことを予定して組織が構成されているのであって、頭取あるいは副頭取は、各業務担当取締役にその担当業務の遂行を委ねることが許され、各業務担当取締役の業務執行の内容につき疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、監督義務懈怠の責を負うことはないものと解するのが相当である。そして、本件において、右特段の事情についての主張、立証はない。

(四) 検査部及びニューヨーク支店の指揮系統に属さない取締役(代表取締役を含む。)は、取締役会上程事項以外の事項についても、監視義務を負うのであり、リスク管理体制の構築についても、それが適正に行われているか監視する義務がある。しかしながら、前判示のとおり、ニューヨーク支店における財務省証券取引及びカストディ業務に関するリスク管理体制は、その大綱のみならず具体的な仕組みについても、整備がされていなかったとまではいえず、ただ、財務省証券の保管残高の確認方法が著しく適切さを欠いていたものであること、検査業務については、検査部という専門の部署が設けられていたこと、検査の専門の部署が、財務省証券の保管残高を確認するに当たり、バンカーズ・トラストから保管残高明細書を直接入手するという正に必要欠くべからざる手順をとらず、検査対象であるニューヨーク支店あるいはカストディ係にバンカーズ・トラストから財務省証券の保管残高明細書を入手させ、その保管残高明細書と同支店の帳簿とを照合するという、基本的な過誤を犯すことを想定することは困難であること等の諸事情によれば、ニューヨーク支店における財務省証券の保管残高の確認方法について疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、不適切な検査方法を採用したことについて、取締役としての監視義務違反を認めることはできないものと言うべきである。そして、本件において、右特段の事情についての主張、立証はない。

(五) 監査役は、取締役の職務の執行を監査する職務を負うのであり、検査部及びニューヨーク支店を担当する取締役が適切な検査方法をとっているかについても監査の対象であり、また、会計監査人が行う監査の方法及び結果が適正か否かを監査する職務も負っていた。

ところで、被告平岩新吾は、大和銀行では、同被告のような常勤でない社外監査役については、原則として取締役会に出席するとともに、随時取締役からの報告、監査役会における報告などに基づいて監査する旨の職務分担の定めが設けられていたから、取締役の違法行為を容易に知ることができたなどの特段の事情がない限り、右定めに従って職務を遂行すれば免責される旨主張する。しかしながら、社外監査役が、監査体制を強化するために選任され、より客観的、第三者的な立場で監査を行うことが期待されていること、監査役は独任制の機関であり、監査役会が監査役の職務の執行に関する事項を定めるに当たっても、監査役の権限の行使を妨げることができないこと(商法特例法一八条の二第二項)を考慮すると、社外監査役は、たとえ非常勤であったとしても、常に、取締役からの報告、監査役会における報告などに基づいて受働的に監査するだけで足りるものとは言えず、常勤監査役の監査が不十分である場合には、自ら、調査権(商法二七四条二項)を駆使するなどして積極的に情報収集を行い、能動的に監査を行うことが期待されているものと言うべきである。被告平岩新吾の主張を採用することはできない。

もっとも、前記認定の事実関係によれば、常勤監査役は、取締役会、経営会議、定例役員会及び海外拠点長会議等に出席するほか、海外拠点長会議の際はニューヨーク支店長に対するヒアリングを行い、また、検査部の臨店検査の検査報告書、会計監査人の監査結果報告書を閲覧し、さらには、会計監査人の監査結果の報告、大蔵省(検査)及び日本銀行(考査)による検査の講評及び報告を受けるなど十分な監査を行っていたにもかかわらず、財務省証券の保管残高の確認方法の問題点を発見することができなかったのであるから、ニューヨーク支店に往査し、会計監査人の監査に立ち会った監査役を除く他の監査役には、常勤非常勤を問わず、また社外であるか否かを問わず、同支店における財務省証券の保管残高の確認方法の問題点を知り得なかったものと認められ、財務省証券の保管残高の確認方法の不備につき責を負わないものというべきである。

そして、前記認定のとおり、被告奥貫雄が平成五年九月にニューヨーク支店に往査しており(他の時期に往査を担当した監査役が誰であるかについては、主張、立証がない。)、同被告は、会計監査人による財務省証券の保管残高の確認方法が不適切であることを知り得たものであり、これを是正しなかったため、本件訴因15ないし20に係る行為を未然に防止することができなかったものである(本件訴因14に係る事実は、同被告が往査する以前の出来事であるから、同被告は責を負わない。)(もっとも、同被告は、甲事件についてのみ責任追及を受けている。)。

四  争点2(米国法令違反に関する任務懈怠行為の有無[乙事件・本件訴因1ないし7、23及び24])

1  法令遵守経営

取締役は、会社経営を行うに当たり、株主利益の最大化を究極の目的としつつも、目的達成の過程では、須く、法令を遵守することが求められているのであり、法令遵守は、会社経営の基本である。商法二六六条一項五号は、取締役に対し、我が国の法令に遵うことを求めているだけでなく、外国に支店、駐在事務所等の拠点を設けるなどして、事業を海外に展開するに当たっては、その国の法令に遵うこともまた求めている。外国法令に遵うことは、商法二五四条三項において準用する民法六四四条が規定する受任者たる取締役の善管注意義務の内容をなすからである。争点2で問われているのは、大和銀行の取締役自身が法令遵守という観点に立った会社経営を行ったのか否か、すなわち、会社経営の専門家として適切な経営判断を行ったのか、それとも、逆に、許される経営判断の裁量の枠をはみ出したのか、また、他の取締役及び監査役に、監視義務違反又は監査義務違反が認められるか否かである。

2  本件有罪答弁訴因に係る事実の有無

(一) 本件無断取引及び無断売却発覚前の訴因(本件訴因23、24)

前判示のとおり、当法廷に提出された証拠によれば、被告山路弘行が、甲野を財務省証券の取引業務の担当から外した後、甲野が電話で財務省証券の取引をコントロールすることを容認していたものとは認められないから、大和銀行が同支店における財務省証券取引業務とカストディ業務の分離について、不完全で誤解を招きやすい開示を行ったことを内容とする本件訴因23に係る事実を認めることはできない。

前判示のとおり、本件訴因24に係る事実は認められる。

(二) 本件無断取引及び無断売却発覚後の訴因(本件訴因1ないし7)

前判示のとおり、本件訴因1ないし7に係る事実が認められる。すなわち、米国連邦規則法典一二編二〇八・二〇条及び二一一・二四条によると、FRBは、ニューヨーク支店に対し、従業員が罪を犯したことを疑うような状況にある場合には、犯罪届を連邦検察局に提出するとともに、当該被疑事実が緊急の措置を必要とする場合には、当該被疑事実を至急電話で通知して三〇日以内に当該問題についての報告書を提出することを義務づけていた。それにもかかわらず、大和銀行の代表取締役頭取であった被告藤田彬らは、FRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出し、ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をし、虚偽の内容の保管残高明細書をあたかもバンカーズ・トラストが作成したかのように装って作成し、虚偽の内容の年金信託部勘定及び信託部勘定に係る保管残高明細書を作成し、虚偽の内容の移管指示書及び書簡を作成するなどした上、平成七年七月二四日(被告藤田彬が甲野の本件書簡を受け取った日)から同年九月一八日(被告安井健二がFEDに甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を報告した日)までの間、甲野の犯罪行為により大和銀行の資産及び顧客から預かり保管していた資産が違法に処分され同行が約一一億ドルの損害を受けた事実を隠ぺいし、米国当局に知らせず、法が要求する期間内に犯罪届を提出しなかったものである。

なお、乙事件被告らは、米国の銀行に対する法規制の内容を知らなかったものであり、平成七年九月初旬米国の法律事務所の法的助言を受けて初めてその詳細を知り、その後は最善の措置をとった旨主張している。しかしながら、米国の監督機関であるFRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出すること、虚偽の内容の保管残高明細書をあたかもバンカーズ・トラストが作成したかのように装って作成すること等本件訴因1ないし7に係る具体的な行為が違法であることを知らなかったとは到底考えられない。加えて、大和銀行が、平成二年にロイズ銀行から米国内の拠点網を買収するなど米国で積極的な事業展開を行い、ロイズ銀行の米州本部機構をほぼそのまま米州業務部として残し、本部との連絡窓口として米州企画室を設けるなどしていたこと、平成三年に外国銀行監督強化法が制定され、FRBに外国銀行の支店等に対する完全な検査権限が認められ、ニューヨーク支店に対してもFEDによる検査が実施されていたこと等、前記認定の事実関係によれば、届出及び報告に関する米国の法規制についても、少なくともその概要は承知していたものと推認すべきである(前記認定のとおり、被告藤田彬らは、平成七年八月八日に大蔵省銀行局長に対しては報告を行っているのであり、手続の詳細はともかく、少なくとも、監督当局に対する報告の必要性自体を認識していたことは明らかである。)。

また、乙事件被告らは、検査官を欺罔する意思はなかった旨主張しているけれども、前判示のとおり、前記認定の事実関係によれば、検査官を欺罔する意思があったものと評価されても止むを得ないところである。

(三) 乙事件被告らは、会社が代位責任を負う訴因が規定する法定刑だけで、本件司法取引による罰金額を上回ることから、事実に反する司法取引に応じた旨主張するが、到底採用し難い。

3  各訴因に係る事実に関する被告らの任務懈怠の有無

(一) 本件訴因24

前判示のとおり、被告山路弘行(ニューヨーク支店長)は、本件訴因24に係る行為を行ったものである。そして、右行為は米国連邦法典違反の行為であり、取締役の善管注意義務に違反したものと認められる。

また、被告安井健二(米州業務部長)が、本件訴因24に係る行為を自ら行ったものではないが、同被告は、従前、ニューヨーク支店長を務めていた際、自らもニューヨーク州銀行局による検査の際、トレーダーを移動させていたのであるから、本件訴因24に係る行為を未然に防止することができたはずである。そして、右行為は米国連邦法典違反の行為であり、右行為を未然に防止しなかったことで、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したものと認められる。

なお、その他の乙事件被告らが、被告山路弘行が本件訴因24に係る行為を行うことを事前に知っていたと認めるに足りる証拠は提出されていないし、また、事前に知り得たことを窺わせる事情は、一切主張、立証されていない(しかも、被告乙山次郎、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同黒石輯、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇は、取締役に就任しておらず、被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同大西正文及び同平岩新吾は監査役に就任していなかった。)。

(二) 本件訴因1ないし7

(1) 前記認定の事実関係によれば、平成七年七月二四日に本件書簡を受け取った被告藤田彬(代表取締役頭取)は、前頭取で取締役会長を務める被告安部川澄夫に報告をする一方、①甲野に協力させて本件無断取引及び無断売却の全貌を把握する、②事実調査の間、情報管理を徹底して、情報が漏れないようにする、③本件無断取引及び無断売却により大和銀行に生じた損失を同年九月中間決算で一括処理する、④米国当局には報告せず大蔵省には速やかに報告するとの基本方針を決め、被告安井健二(代表取締役副頭取〔国際部門統括〕)を責任者、被告山路弘行(国際部長)、同乙山次郎(ニューヨーク支店長)及び本橋隆(国際資金証券部長)らを担当者として、必要最小限の人数で、本件問題の処理に当たらせることとし、そのための具体的な手段・方法の細目については、右責任者及び担当者らに任せることとしたこと、代表取締役である被告藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌及び同山路弘行、並びにニューヨーク支店長であった被告乙山次郎は、米国当局に対する届出を行わず、代表権のない取締役である被告安部川澄夫、同勝田泰久及び同黒石輯は、代表取締役らに対して右届出を行うように促さなかったこと(本件訴因1・2)、本件訴因3ないし7に係る個別の違法行為のうち、虚偽の年金信託部及び信託部勘定に係る月次の保管残高明細書の作成、並びに虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書の作成は被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)が、また、虚偽の移管指示書及び書簡の作成は同被告及び本橋隆(国際資金証券部長)が、被告藤田彬が立てた右基本方針を実行するためにそれぞれ行ったことが認められる。

(2)  被告安部川澄夫(平成七年六月に代表取締役を退任し、取締役会の招集権を有する会長であった。)は、被告藤田彬の報告で甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を知ったのであるから、米国当局に対する届出を行うよう代表取締役に働きかけるべきであった。また、被告安部川澄夫が、FRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出したり、ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をすること等について明示ないし黙示の指示又は了解を与えていたことを認定することはできないものの、少なくとも、本件訴因1ないし7に係る行為を未然に防止することはできたはずである。そして、右各行為は米国連邦法典違反の行為であり、右各行為を未然に防止しなかったことで、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したことになる。

(3)  被告藤田彬(代表取締役頭取)、同安井健二(代表取締役副頭取[国際部門統括])及び同山路弘行(代表取締役[国際部長])は、甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を知りながら、米国当局に対する届出を行わなかったものである。また、FRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出したり、ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をすること等についても、明示ないし黙示の指示又は了解を与えていたか、又は、少なくとも、未然に防止しなかったことにつき、指揮系統の上位者としての監督責任を負う。そして、本件訴因1ないし7に係る行為は米国連邦法典違反の行為であり、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したことになる。

(4)  被告海保孝(代表取締役副頭取)、同源氏田重義(代表取締役)、同川上敏朗(代表取締役)及び同砂原和彌(代表取締役)は、甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を知りながら、米国当局に対する届出を行わなかったものである。また、証拠上、右被告らが、FRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出したり、ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をすること等について明示ないし黙示の指示又は了解を与えていたことを認定することはできないものの、少なくとも、右被告らのうち、被告海保孝、同川上敏朗及び同砂原和彌は、本件訴因1ないし7に係る行為について、被告源氏田重義は、本件訴因1、2及び5ないし7に係る行為について、これを未然に防止することができたはずである。そして、右各行為は米国連邦法典違反の行為であり、右各行為を行い、又は、未然に防止しなかったことで、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したことになる(被告源氏田重義が本件無断取引及び無断売却の事実を知ったのは早くても平成七年八月二日ころであり、本件訴因3、4に係る行為が行われたのは同月一日ころであるから、同被告は、本件訴因3、4については、責を負わない。)。

(5)  被告勝田泰久及び同黒石輯は、甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を知っていたのであるから、米国当局に対する届出を行うよう代表取締役に働きかけるべきであった。また、右被告らが、FRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出したり、ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をすること等について明示ないし黙示の指示又は了解を与えていたことを認定することはできないものの、少なくとも、本件訴因1、2及び5ないし7に係る行為を未然に防止することができたはずである。そして、右各行為は米国連邦法典違反の行為であり、右各行為を未然に防止しなかったことで、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したことになる(なお、本件無断取引及び無断売却の事実を知ったのは被告勝田泰久が平成七年八月七日ころであり、被告黒石輯が同月九日ころであり、本件訴因3、4に係る行為が行われたのは同月一日ころであるから、右被告らは、本件訴因3、4については責を負わない。)。

(6)  被告乙山次郎(ニューヨーク支店長)は、甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を知りながら、米国当局に対する届出を行わなかったものである。また、FRBに対し虚偽の内容のコール・レポートを提出したり、ニューヨーク支店の帳簿と記録に虚偽の記載をしたりしたものであり、本件訴因1ないし7に係る行為を自ら行ったものである。右各行為は米国連邦法典違反の行為であり、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したことになる。

(7) 被告西山金良、同勝田昱宏及び同國定浩一が、甲野による本件無断取引及び無断売却の事実を初めて知ったのは、平成七年九月七日に開催された経営会議の席上被告安井健二の報告を聞いた時点である。その時点では、本件訴因3ないし7に係る行為は既に行われていたのであり、右各訴因が行われることを事前に知り得たことを窺わせる事情は主張、立証されていない。また、本件訴因1及び2に係る行為については、右会議の席上、国際部門統括の副頭取である被告安井健二から米国の法規制について調査中であるとの説明がされていたのであるから、同被告らに事態の収拾を一応委ねたことは理解でき、被告藤田彬が本件書簡を受け取ってから以降同被告らが採った行動について異議を述べたり、直ちに米国当局に報告すべきである等の提言を行わなかったこと、並びに、同月一三日ころに行われた内容虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書の偽造を事前に察知してこれを阻止しなかったことについて、取締役の善管注意義務違反及び忠実義務違反の責を負うとまでは言えないものというべきである。よって、被告西山金良、同勝田昱宏及び同國定浩一は、本件訴因1ないし7について、善管注意義務違反及び忠実義務違反の責を負わないこととなる。

(8) 取締役であった被告長岡壽男、同松田良一、同木村勇雄、同鈴木剛夫、同井口靖久、同出澤克久、同中川眞一、同川合宣弘、同吉野正芳、同大山正弘、同河本直彦、同辻征二及び同岩尾崇が、甲野による本件無断取引及び無断売却の事実について報告を受けたのは、本件無断取引及び無断売却の事実を公表した日の前日である平成七年九月二五日に開催された役員連絡会においてであり、また、監査役であった被告近藤宏、同寺田一彦、同宗宮英韶、同大西正文及び同平岩新吾が甲野による本件無断取引及び無断売却の事実について報告を受けたのは右公表当日である同月二六日であって、右被告らが本件無断取引及び無断売却の事実を知ったときには、本件訴因1ないし7に係る行為は全て終了していた。また、本件無断取引及び無断売却の事実は、一部の代表取締役及び従業員にしか知らされず極秘扱いとされており、本件訴因1ないし7に係る行為が行われた当時、右被告らが右行為を知り得たことを窺わせる事情については、主張、立証がない。したがって、右被告らは、本件訴因1ないし7について、善管注意義務違反又は忠実義務違反の責を負わないこととなる。

4  経営判断の原則

(一) 乙事件被告らは、①第一次報告受領役員(被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎及び同黒石輯)は、厳格な情報管制を敷き、本件無断取引及び無断売却の正確な事実関係を把握した上、平成七年一〇月初旬ころ米国当局に報告する意思を固めていた、②当時は、ベアリングス証券会社が事実上倒産したことにより国際的な規模で金融不安が発生しており、東京協和信用組合、安全信用組合、コスモ信用組合、木津信用組合などの金融機関が相次いで破たんしたことにより我が国の金融システムに対する信頼が揺らいでいたから、本件無断取引及び無断売却の事実が、正確な事実関係の調査が未了の段階で明らかになると、実際の損害額は公表された損害額よりも多額ではないかなどの懸念が金融市場に生じ、大和銀行の存立に重大な危機を招くばかりか、内外の金融システムに重大な影響が生じることが容易に予想された、③本件無断取引及び無断売却による大和銀行の信用、業務に対する影響を最小限とするためには、同年九月末時点の中間決算期に本件無断取引及び無断売却による損失を一括償却するのが望ましく、また、そのような一括償却が大和銀行の財務状態に照らして十分可能であった、④大蔵省に対する報告は同年八月八日に行っており、その際、同省から、情報管理を徹底しつつ実態解明を急ぐようにとの要望を受けるとともに、我が国の金融情勢等を勘案すると同年九月は本件無断取引及び無断売却の事実を開示するのに最悪の時期である旨の示唆を受けたから、大蔵省の要望、示唆に反して直ちに本件無断取引及び無断売却の事実を開示する期待可能性はなかった、⑤本件書簡を受領した後、直ちに実態解明のための調査を開始する一方、米国の法規制の調査、検討を行い、同年九月一八日、米国当局に正式に報告した、⑥第一次報告受領役員は、実態の解明、大和銀行の信用及び業務並びに金融市場・株式市場に対する影響、大蔵省との関係、問題の処理の具体的な方針等を含む、高度に複雑でまれにみる困難な経営判断を誠実に行っており、裁量の範囲を逸脱した義務違反があったとはいえない。また、第一次報告受領役員の対応は、結果的には米国の銀行規制法規違反の容疑を受けることとなったものの、米国の法律事務所から法的助言を受けて米国の法規制の詳細を知った後における処置は、大和銀行が当時置かれていた状況の下では、法規制を遵守するための最善の措置というべきものであり、米国の関連法規違反(本件訴因1ないし7)を理由として善管注意義務違反又は忠実義務違反を問うことはできない、などと主張する。

(二)  取締役は、営利を目的とする会社の経営を委ねられた専門家として、長期的な視点に立って全株主にとって最も利益となるように職務を遂行すべき善管注意義務及び忠実義務を負っている(商法二五四条三項、民法六四四条、商法二五四条ノ三)。そして、事業を営み利益を上げるためには、会社の状況、会社を取り巻く市場及び業界の状況、国内・国外の情勢等、時々刻々変化するとともに相互に影響し合いかつ流動的な考慮要素を的確に把握して総合的に評価し、短期的・長期的な将来予測を行った上、時機を失することなく経営判断を積み重ねていかなければならないから、専門家である取締役には、その職務を遂行するに当たり、広い裁量が与えられているものと言わなければならない。したがって、取締役に対し、過去の経営上の措置が善管注意義務及び忠実義務に違背するとしてその責任を追及するためには、その経営上の措置を執った時点において、取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったか、あるいは、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであったことを要するものと解するのが相当である。もっとも、このように、取締役には広い裁量が与えられているが、前判示のとおり、取締役は、会社経営を行うに当たり、外国法令を含む法令を遵守することが求められているのであり、取締役に与えられた裁量も法令に違反しない限りにおいてのものであって、取締役に対し、外国法令を含む法令に遵うか否かの裁量が与えられているものではない。

(三) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、平成七年七月二四日に本件書簡を受け取った被告藤田彬(代表取締役頭取)は、被告山路弘行(国際部長)を同月二八日から同月三〇日までの間ニューヨークに出張させて事実調査を行わせ、遅くとも同年八月二日、同被告からの報告で、本件書簡の記載内容のうち、少なくとも、本件無断売却が事実であり、甲野が約一一億ドルの財務省証券を無断で売却したことにより大和銀行が約一一億ドルの損害を受けていることを確認した(甲野は、本件無断売却を隠ぺいするためバンカーズ・トラストの保管残高明細書を作り替えていたから、バンカーズ・トラストからの正規の保管残高明細書とニューヨーク支店の帳簿上の保管残高とを照合することにより、本件無断売却の事実を確認することができた。)。この時点で、被告藤田彬が決断しなければならなかったのは、直ちに、本件無断取引及び無断売却の事実を一般に公表するか否かではなく、FRBをはじめとする米国の監督当局及び大蔵省銀行局をはじめとする我が国の監督当局に対し報告するか否かであった(この意味において、本件無断取引及び無断売却の事実を、正確な事実関係の調査が未了の段階で一般に公表すると、実際の損害額は公表された損害額よりも多額ではないかなどの懸念が金融市場に生じ、大和銀行の存立に重大な危機を招くばかりか、内外の金融システムに重大な影響が生じるおそれがあった旨の乙事件被告らの主張は、当を得ないものである。)。そして、被告藤田彬(代表取締役頭取)は、大蔵省に対しては速やかに報告するものの、米国当局に対しては当面報告を行わず、本件無断取引及び無断売却の事実を隠ぺいするという方針を立て、同月八日、大蔵省西村銀行局長に対して、内々に、本件無断取引及び無断売却の事実を報告し、大蔵省から同年一〇月初旬まで時間の猶予を与えられたと考えて、同年九月一三日ころまでの間、ニューヨーク支店の帳簿と記録に繰り返し虚偽の記載を行い、内容虚偽のバンカーズ・トラストの保管残高明細書を作成するなど米国連邦法典に違反する行為を重ねる一方、米国当局に対する報告を同年九月一八日まで行わなかった。被告藤田彬から直接又は間接に本件無断取引及び無断売却の事実を聞いた取締役(被告安部川澄夫、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎及び同黒石輯)は、右方針に異議を唱えることなく、それぞれの役割を果たした。その後の経緯が示すとおり、そのような判断は大きな誤りであり、米国当局の厳しい処分を受ける事態を招いたのである(乙事件被告らは、本件無断取引及び無断売却の事実を同年一〇月初旬ころ米国当局に報告する意思を固めていたと主張するけれども、被告藤田彬は、大蔵省に対して報告することは考えたが、米国当局に対して報告することはその時点では考えなかった旨明確に述べていること、同年九月一八日にFEDに報告したのは、何らかの経緯で本件無断取引及び無断売却の事実を知った米州企画室から、同年八月下旬に意見具申を受けたことを契機としている上、同年九月七日ころになっても、「大和銀行は、流動性の維持のために、ニューヨーク支店から六億ドルの財務省証券を購入した。」旨の内容虚偽の書簡を作成し、同月一三日ころにも虚偽の内容の保管残高明細書をあたかもバンカーズ・トラストが作成したかのように装って作成していることを考え併せると、乙事件被告らの右主張を採用することはできない。なお、前記認定の事実関係によれば、被告藤田彬らが、本件無断取引及び無断売却の事実を一般に公表する意思を有していたかは不明であるというほかない。約一一億ドルもの多額の損害を処理するに当たっては何らかの公表が必要となることは明らかであるが、信託業併営の銀行としての信用を揺るがしかねない事実、すなわち、ニューヨーク支店の幹部行員が信託財産である多額の財務省証券を横領し、しかもこれを長期間把握できなかったことまで説明する意思があったかは疑わしく、しかも、正確な説明を行えば、甲野の氏名を公表せざるを得なくなり、甲野に対する刑事手続がとられることになるから、そのような想定の下で、甲野から、調査に対する協力を得られるとは考えにくいからである。)。

(四) 被告藤田彬及び同被告から直接又は間接に本件無断取引及び無断売却の事実を聞いた取締役が、大和銀行の存亡を賭けた重大な岐路に立ったのは、乙事件被告らが主張するとおり、国際的な規模で金融不安が発生するとともに、我が国の金融システムに対する信頼が揺らいでいた時期であるから、大和銀行の存続を図るため最も適切な措置を講じることは誠に困難であった。加えて、銀行経営者としては、一人大和銀行の存続のみを考慮するのではなく、内外の金融システムに与える影響をも考慮しなければならなかった。高度に複雑でまれにみる困難な経営判断を、しかも適時に行わなければならなかったのであり、時々刻々変化する経営環境の下、正に迅速な経営判断が求められていたのである。しかるに、被告藤田彬らは、米国で事業を展開していたにもかかわらず、米国当局の監督を受けていること、並びに、米国の外国銀行に対する法規制の峻厳さに対する正しい認識を欠き、米国当局に対する届出を行わず、米国法令違反行為を行うという選択を行ったものである。取締役に与えられた広い裁量も、外国法令を含む法令に違反しない限りにおいてのものであり、取締役に対し、外国法令を含む法令に違反するか否かの裁量が与えられているものではないから、前判示のとおり、被告藤田彬らは、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したものである。

(五) 乙事件被告らは、大蔵省の要望、示唆に反して本件無断取引及び無断売却の事実を米国当局に報告する期待可能性がなかったと主張する。しかしながら、大蔵省が、被告藤田彬らに対し、権限に基づき、米国当局に対する報告を行わないよう指示ないし命令を行ったことを認めるに足りる証拠は、当法廷に提出されていない。加えて、米国で銀行業を営む以上、米国の銀行に対する法規制に遵う義務を負うのであり、被告藤田彬らは、銀行の経営者として、自ら、適切な経営判断を行う職責を負っていたのである。被告藤田彬らは、我が国の経済が発展し、地球規模に拡大しているにもかかわらず、我が国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに固執し、大蔵省銀行局長の威信を頼りとして大和銀行の危機を克服しようとして、米国当局の厳しい処分を受ける事態を招いたものである。期待可能性がなかったという乙事件被告らの主張は、大蔵省の判断及び指示に依存して銀行経営を行い、自らの責任において判断を行わないことが許されることを意味するが、もとより、そのような主張を採用することはできない。

(六) なお、乙事件被告らは、米国の銀行に対する法規制の内容を知らなかった旨主張しているけれども、これを採用することができないことは既に判示したとおりである。仮に、乙事件被告らが、本件訴因1ないし7に係る行為の時点で、米国の法規制の詳細な内容を十分には把握していなかったとすれば、本件無断取引及び無断売却により約一一億ドルもの多額の損害を受けるという事件は、日常的に経験するものではなく、稀有で異常な事件であるから、米国において事業を展開する会社の経営者として、直ちに、この稀有で異常な事件に対する米国法制の調査及び検討を行うべきであった。ところが、甲野の本件書簡を受け取った被告藤田彬(頭取)のほか、同被告から直接又は間接に本件無断取引及び無断売却の事実を聞いた取締役は、これを怠り、平成七年八月下旬、何らかの経緯で本件無断取引及び無断売却の事実を知った米州企画室からの意見具申を受け、同月二五日になって初めて日本の法律事務所を通じて、米国の法律事務所に照会して調査を行ったものである。調査は、正に、遅きに失したものといわなければならない(乙事件被告らは、同月上旬から関連法規の調査、検討を行っていた旨主張しているけれども、これを認めるに足りる証拠はない。)。したがって、仮に、乙事件被告らが、本件訴因1ないし7に係る行為の時点で、各行為が米国連邦法典に違反することを知らなかったとすれば、米国で事業を展開する銀行の経営者として、過失があることは明らかであり、知らなかったことについて、やむを得ない事情は認められない。

(七) 以上によれば、被告藤田彬らは、大和銀行が当時置かれていた厳しい状況を考慮しても、企業経営者として著しく不合理かつ不適切な経営判断を行ったものであるから、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したものと言うべきである。

五  争点3(損害の有無、範囲)等

1  甲事件

(一) 被告安井健二

前判示のとおり、被告安井健二は、ニューヨーク支店担当の業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役として、財務省証券の保管残高の確認を極めて不適切な方法で行い、また適切な方法に改めなかった点において、任務懈怠の責を負うのであるから、ニューヨーク支店長に就任した時点で既に発生していた損害については賠償義務を負うものではない。そして、同被告がニューヨーク支店長に就任したのは昭和六二年一〇月であり、証拠上認定できる、本件無断取引及び無断売却による就任後の時点における損害は、平成元年当時の約五億七〇〇〇万ドルである。したがって、同被告は、控えめに見て、総損害額である約一一億ドルから約五億七〇〇〇万ドルを控除した五億三〇〇〇万ドル相当額の損害について賠償義務を負うものと認める。

(二) 被告山路弘行・同乙山次郎

前判示のとおり、右被告らは、いずれもニューヨーク支店担当の業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役として、財務省証券の保管残高の確認を極めて不適切な方法で行い、また適切な方法に改めなかった点で任務懈怠の責を負うのであるから、(一)と同様、ニューヨーク支店長に就任した時点で既に発生していた損害については賠償義務を負うものではない。そして、被告山路弘行がニューヨーク支店長に初めて就任したのは平成三年一月であり、被告乙山次郎が同支店長に就任したのは平成七年五月であるところ、証拠上、平成三年一月の時点で発生していた本件無断取引及び無断売却による損害額を確定することができず、したがって、右被告らが同支店長に就任した後に損害が生じたか不明であり、右被告らが任務を懈怠した結果損害が生じたとの事実については立証がない。

(三) 被告奥貫雄

前判示のとおり、被告奥貫雄は、検査方法の不備を看過した点で任務懈怠の責を負う。しかしながら、同被告が、ニューヨーク支店に対し往査を実施し、検査方法の不備を発見し得たにもかかわらず、これを発見しなかったのは平成五年九月のことであり、証拠上、平成五年九月の時点で発生していた本件無断取引及び無断売却による損害額を確定することができず、したがって、同被告が同支店に対する往査を実施した時点以降に損害が生じたか不明であり、同被告が任務を懈怠した結果損害が生じたとの事実については立証がない。

2  乙事件

(一) 罰金・弁護士報酬

前記認定のとおり、大和銀行は、米国司法省との間で司法取引を行い、本件有罪答弁訴因について有罪の答弁を行った上、罰金三億四〇〇〇万ドルを支払い、また、右刑事事件について、一〇〇〇万ドルの弁護士報酬を支払った。

罰金についてみると、後記一一名の被告らに本件有罪答弁訴因に係る事実について任務懈怠責任が認められる以上、司法取引が介在しているとしても、その司法取引の過程や結果が通常予測されうるところと著しく異なる等の特段の事情が認められない限り、任務懈怠行為と罰金を支払ったことによる損害との間の法律上の因果関係が否定されるものではないと解すべきところ、右特段の事情につき主張、立証がない。また、弁護士報酬についても、同様に、特段の事情が認められない限り、任務懈怠行為と弁護士報酬を支払ったことによる損害との間に法律上の因果関係が認められるところ、右特段の事情につき主張、立証がない。

(二) 代位責任

乙事件被告らは、本件訴因14ないし20について、大和銀行が、英米法上の代位責任の法理に基づき、法人自らの行為とはいえない事実について刑事訴追がされており、仮に大和銀行が米国の刑事手続において従業員の不正行為を防止すべくリスク管理体制を構築していたと主張し、その立証に成功したとしても、代位責任の法理に基づき、刑事責任の追及を免れることはできなかったのであるから、乙事件被告らがリスク管理体制の構築を怠ったとの原告ら及び参加人の主張事実は、法人である大和銀行が罰金の支払を行ったという結果との間に因果関係を有しない旨主張する。

確かに、本件訴因14ないし20は、甲野が行った行為であり、大和銀行は代位責任を追及されたものであるから、仮に、乙事件被告らの主張のとおり、大和銀行が米国の刑事手続において従業員の不正行為を防止すべくリスク管理体制を構築していたと主張し、その立証に成功したとしても、代位責任の法理に基づき、刑事責任の追及を免れることはできなかった。しかしながら、そもそも、ニューヨーク支店が保管していた財務省証券の保管残高を確認する適切な検査方法を採用していれば、甲野が本件訴因14ないし20に該当する行為を行うことを未然に防止できたのであり、そうであれば、大和銀行が右訴因につき罰金刑に処せられることもなかったのであるから、法律上の因果関係を認めることができる。乙事件被告らの主張は採用することができない。

(三) 被告安部川澄夫・同藤田彬・同海保孝・同川上敏朗・同砂原和彌

前判示のとおり、右被告らには、本件訴因1ないし7に係る事実について、善管注意義務及び忠実義務の違反が認められる。

ところで、罰金の対象となった本件有罪答弁訴因は一六個の訴因で構成されており、右被告らがそのうちの七個の訴因に係る事実についてのみ責を負うことを考慮すると、右被告らに対し、罰金及び弁護士費用の全額に相当する金額の賠償責任を問うのは相当でなく、寄与度に応じた因果関係の割合的認定を行うのが合理的である。

そして、本件有罪答弁訴因の法定刑が、平成八年二月二八日当時、本件訴因1・2・23・24は、いずれも、五〇万ドル又は犯罪に起因する金銭的な総利得の二倍若しくは被告人以外の人に対する金銭的な総損失の二倍のいずれか高い金額の罰金及び二〇〇ドルの特別課徴金、本件訴因3ないし7及び14ないし20は、いずれも、一〇〇万ドル又は犯罪に起因する金銭的な総利得の二倍若しくは被告人以外の人に対する金銭的な総損失の二倍のいずれか高い金額の罰金及び二〇〇ドルの特別課徴金であること(甲三、乙A一三)を斟酌した上、前記罰金及び弁護士費用相当額三億五〇〇〇万ドルのうち、最も控え目にみて三割に当たる一億〇五〇〇万ドルの限度で、各自、支払義務を負うものと認めるのが相当である。

(四) 被告安井健二・同山路弘行

前判示のとおり、右被告らは、本件訴因1ないし7、14ないし20及び24に係る事実についてのみ責を負うのであるから、(二)と同様に、前記罰金及び弁護士費用相当額三億五〇〇〇万ドルのうち、最も控え目にみて七割に当たる二億四五〇〇万ドルの限度で、各自、支払義務を負うものと認めるのが相当である。

(五) 被告源氏田重義・同勝田泰久・同黒石輯

前判示のとおり、右被告らは、本件訴因1、2及び5ないし7に係る事実についてのみ責を負うのであるから、(二)と同様に、前記罰金及び弁護士費用相当額三億五〇〇〇万ドルのうち、最も控え目にみて二割に当たる七〇〇〇万ドルの限度で、各自、支払義務を負うものと認めるのが相当である。

(六) 被告乙山次郎

前判示のとおり、同被告は、本件訴因1ないし7、18ないし20に係る事実についてのみ責を負うのであるから、(二)と同様に、前記罰金及び弁護士費用相当額三億五〇〇〇万ドルのうち、最も控え目にみて四割五分に当たる一億五七五〇万ドルの限度で支払義務を負うものと認めるのが相当である。

3  附帯請求その他

(一) 附帯請求

原告ら及び参加人は、甲事件では、一一億ドルについて損害の発生が明らかになったとする平成七年七月一三日から、また、乙事件では、三億五〇〇〇万ドルについて罰金を完納した平成八年二月二九日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めている。しかしながら、商法二六六条一項五号の債務は期限の定めのない債務であり、被告らは「履行ノ請求ヲ受ケタル時」より遅滞の責めを負うにすぎないから、本件においては、各被告に対する訴状送達の日の翌日(いずれも当裁判所に顕著な事実である。)、すなわち、甲事件では、被告安井健二については平成八年四月一〇日から、乙事件では、被告安部川澄夫、同藤田彬、同砂原和彌、同山路弘行及び同勝田泰久については同年六月一三日から、被告源氏田重義、同川上敏朗及び同黒石輯については同月一四日から、被告安井健二については同月一五日から、被告海保孝については同月一八日から、被告乙山次郎については同月二八日からそれぞれ遅延損害金の支払義務を負うこととなる。

(二) 連帯関係

甲事件では、被告安井健二のみが主文第二項のとおり損害賠償義務を負う。

乙事件では、被告安部川澄夫、同藤田彬、同安井健二、同海保孝、同源氏田重義、同川上敏朗、同砂原和彌、同山路弘行、同勝田泰久、同乙山次郎及び同黒石輯がそれぞれ主文第三項のとおり損害賠償義務を負うが、右各損害賠償義務は連帯債務である。

第四  結論

よって、原告ら及び参加人の被告宗宮英韶に対する本件訴えのうち取締役としての責任を追及する部分は不適法であるから、これを却下することとし、原告らの請求及び参加人の参加請求は、甲事件については主文第二項の、乙事件については主文第三項の限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余の請求及び参加請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判長裁判官池田光宏 裁判官桑原直子 裁判官松田道別)

別紙訴因概要一覧<省略>

別紙被告の大和銀行役員就退任時期及び役職の推移<省略>

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