大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)22号 判決 2000年2月23日
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告A税務署長が平成八年五月七日付けで原告Bの平成五年分の贈与税についてした更正のうち、課税価格四二二万一〇〇〇円、納付すべき税額七九万一三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。
二 被告A税務署長が平成八年五月七日付けで原告Cの平成五年分の贈与税についてした更正のうち、課税価格六三二万九〇〇〇円、納付すべき税額一五三万一六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。
三 被告D税務署長が平成八年五月七日付けで原告Eの平成五年分の贈与税についてした更正のうち、課税価格四五八万八〇〇〇円、納付すべき税額九〇万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。
四 被告A税務署長が平成八年五月七日付けで原告Fの平成五年分の贈与税についてした贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告らが訴外Gから訴外フォーエスキャピタル株式会社(平成四年一〇月一日に「スリーエスキャピタル株式会社」から商号変更。なお、平成九年一一月四日に「明星キャピタル株式会社」に商号変更。以下「本件会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)の贈与を受けたことから、原告B、原告C及び原告Eが平成五年分の贈与税の申告をしたところ、原告B及び同C分については被告A税務署長が、原告E分については被告D税務署長が、右各申告に係る課税価格の計算において本件株式の価額が過小に評価されていることを理由として、原告B、同C及び同Eに対して、いずれも平成八年五月七日付けで更正及びこれに対する過少申告加算税賦課決定を行い、原告Fが本件株式の贈与を受けたものの基礎控除額に満たなかったとして平成五年分の贈与税の申告をしなかったところ、被告A税務署長が原告Fに対して前同日付けで贈与税の決定及び無申告加算税賦課決定を行ったのに対し、原告らがそれぞれ前記第一記載のとおり右各処分の取消し(原告B、同C及び同Eについては申告額を超える部分について)を求める事案である。
なお、以下右各処分をあわせて「本件各処分」という。
一 関係法令等の定め
1 相続税法(以下「法」という。)二二条によれば、贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている。
2 右の価額の評価に関しては、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七(平成六年二月一五日付け課評二―二ほかによる改正前のもの)。以下「評価基本通達」という。)が定められている。
評価基本通達において、「時価」とは、相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価基本通達の定によって評価した価額によるとされているが(評価基本通達一(2))、評価基本通達の定によって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するとされている(評価基本通達六)。
また、評価基本通達において、株式の価額は、銘柄の異なるごとに一株ごとに評価することとされ(評価基本通達一六八)、取引相場のない株式(上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいう。以下同じ。)の価額は、原則として、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を事業規模に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達一七八)、それぞれの区分に応じて、評価するものとされている(評価基本通達一七九)。
もっとも、同族株主のいる会社の株主のうち、同族株主以外の株主の取得した株式については、「配当還元方式」(株価構成要素のうち配当金だけに着目して、配当金を収益還元することによりその元本である株式の価額を算出する方法)により評価することとされている(評価基本通達一八八、一八八―二)。右の場合における同族株主とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者(法人税法施行令四条に規定する特殊の関係のある個人または法人)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の三〇パーセント(その評価会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の五〇パーセント以上である会社にあっては、五〇パーセント)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう(評価基本通達一八八(1))。
二 前提事実(争いのない事実及び証拠により認められる事実)
1 当事者等(乙二ないし二二、二三の2)
(一) 原告Bは、訴外Gの長男であり、原告C、同E、同Fは、それぞれ、原告Bの長男、二男、長女であり、訴外Gの孫である。
(二) 本件会社は、株式、債権等の有価証券並びに出資金に対する投資業務、企業経営に関するコンサルティング等を目的とする株式会社であり、平成三年八月二六日以降税理士のHが代表取締役に就任している。
株式会社ヤムヤーゼ(以下「ヤムヤーゼ」という。)は、有価証券の保有、運用、投資等を目的とする株式会社であり、同社は、本件会社の発行済株式数の半数以上を保有し、本件会社に出資した株主がその株式を売却する際に同株式の買取りを行っていた。Hはヤムヤーゼの代表取締役であり、かつ、筆頭株主である。
本件会社は、Hが代表取締役を務める日本スリーエス株式会社(以下「日本スリーエス」という。)を中心とするスリーエスグループに属しており、日本事業承継コンサルタント協会の事業を援助する賛助会員となっている。
2 本件会社の事業活動(乙二三の1)
(一) 本件会社は、劣後株式を発行し、これを本件会社の関連会社であるヤムヤーゼにすべて引き受けさせて、常に、ヤムヤーゼが本件会社の発行済株式総数の五〇パーセント以上の株式を保有している状態を維持し、普通株式を所有する出資者が常に本件株式を配当還元方式で評価することができるように株式数を調整していた。
(二) 本件会社への出資者は、Hが本件会社への出資について説明を行った日本事業承継コンサルタント協会の会員である税理士等の紹介によっていた。
(三) 出資の希望があった場合には、まず、出資希望者に対し出資の趣旨説明がなされたが、その際には、①本件株式が将来公開された場合にキャピタルゲインが得られること、②ヤムヤーゼが常に本件会社の株式を五〇パーセント以上所有しているので、出資者は必ず少数株主になることから、相続税及び贈与税の課税価格計算上、本件株式は、配当還元方式により評価できるので、購入価格に比して、評価額が低くなり、節税対策になると説明された。
また、出資者が本件株式の売却を希望したときには、まず、その株式の購入希望者を探し、購入希望者がみつからない場合は、ヤムヤーゼをはじめとする日本スリーエスグループ関連会社で買い取ることとし、関連会社で買い取ることができない場合は、本件会社の減資により対応する旨説明された。
そして、本件会社は、株主の投資額の八〇パーセント以上は事実上元本回収が確実な定期預金や国債等に投資していた(乙二三の1、4、二六の1、弁論の全趣旨)。
なお、説明にあたって使用されたパンフレット等には、「また、財政基盤が安定するまで、投資額の八〇パーセント以上は事実上元本の回収が確実な投資に限定いたします。」(乙二三の4、二六の1)、「株主の皆様が株式の売却を希望された時に購入希望者がいない場合にもこの財産の処分でご希望に応じる事ができるものと考えております。」(乙二三の5、二七)、「キャピタル株の過半数はスリーエスグループが所有している為、資産家のみなさまは少数株主になりますので、評価額は低くなります。」(乙二七)との記載がある。
(四) そして、本件会社は、出資希望者の資産状況に応じて、出資金額及び出資株数を決定し、それに基づき、増資による本件株式の割当てを行っていた。なお、右割当てによる方法以外に、出資者がヤムヤーゼから本件株式を購入する方法が採られることもあった。
本件会社が出資者に対して増資により本件株式の割当てを行う際の引受価額(又は出資者がヤムヤーゼから本件株式を購入する際の一株当たりの購入価額)は、引受日(又は購入日)の属する月の前月末現在における一株当たりの時価純資産価額とされていた。
右一株当たりの時価純資産価額は、具体的には、各月末時における本件会社の純資産(資産から負債を控除したもの)の金額から、劣後株式の発行済株式数に額面金額五〇円を乗じて算出した金額を控除し、その差額を普通株式の発行済株式数で除して算出されたものである。
(五) 出資者が、本件株式の売却を希望する場合には、出資者が売却する場合における一株当たりの価額も、同様に、原則として、売却する日の属する月の前月末現在における一株当たりの時価純資産価額によることとされていた。
ヤムヤーゼは、本件会社の劣後株式を取得する場合には自己資金により取得資金を調達していたが、普通株式を取得する場合には本件会社等の関連法人からの借入金により取得資金を調達していた。そして、ヤムヤーゼが取得した右普通株式については、本件会社が減資してヤムヤーゼに減資払戻金を取得させ、ヤムヤーゼが右借入金を返済することができる仕組みが採られていた。なお、ヤムヤーゼは、右普通株式を出資者に購入させる場合もあった。
3 訴外Gの本件株式の取得から本件各処分に至るまでの経緯
(一) 訴外Gは、平成四年当時、八〇歳を越える年齢であったが、その所有する不動産の評価額が四〇億円程度になり相続税も二〇億円以上かかると見込まれたことから原告Bが中心となり相続税対策を検討する必要に迫られていたところ、訴外Iの紹介で、税理士J(平成四年一〇月一日から平成七年六月二三日までは本件会社の取締役でもあった。)が代表取締役である株式会社財産活用クリニックの紹介により本件株式を購入することとなった(甲三、乙一一、一七)。
(二) 訴外Gは、平成四年六月三〇日、シティバンク・エヌ・エイ東京支店(以下「シティバンク」という。)から二〇億円の融資を受け(以下、右融資による訴外Gの借入金を「本件借入金」という。)、これを平成四年七月三日に設立した有限会社江口興産(設立時の資本金の総額は二〇〇〇万円(出資一口の金額五万円)、事業の目的は有価証券の保有・運用・投資及び不動産賃貸業等であり、訴外Gが代表取締役に就任した。以下「江口興産」という。)の資本金二〇〇〇万円及び資本準備金一九億八〇〇〇万円の払込みに当てた(乙三〇、三二ないし三四)。
(三) 訴外Gは、平成四年七月三日、ヤムヤーゼから同社の保有する本件株式二三五六株を代金三九九九万七八一二円(一株当たり一万六九七七円)で取得し、右代金は、平成四年七月一〇日、シティバンクの同人の当座貸越金からヤムヤーゼの銀行口座に送金された(以下「本件当座貸越金」という。)(乙三五、三六)。
(四) 本件会社と訴外Gは、平成四年七月二七日付け合意書(乙四一)により、現物出資による本件株式の引受けについて合意し、その場合の本件株式の評価は現物出資の日の前月末の財産の時価から負債を控除した額とする旨合意された。
そして、訴外Gは、平成四年七月二八日、その所有する江口興産の出資口数四〇〇口のうちの二六七口を本件会社に現物出資して、本件会社の増資に際して新たに発行された本件株式の引受けにより、本件株式七万六三九九株を取得した(乙三七ないし四〇)。右増資に当たり、本件会社は、前同日、資本金を一四九九万一二五〇円から一九九九万一二五〇円にする増資を行った(乙七)。なお、平成四年六月末の一株当たりの時価純資産価額は一万六九七七円であった(乙二八)。
さらに、訴外Gは、平成四年八月一四日、その所有する江口興産の出資口数一三三口すべてを本件会社に現物出資して、本件会社の増資に際して新たに発行された本件株式の引受けにより、本件株式三万八〇四四株を取得した(乙四二の1、2、四三、四四)。右増資に当たり、本件会社は、前同日、資本金を一九九九万一二五〇円から二一八九万三四五〇円にする増資を行った(乙七)。なお、平成四年七月末の一株当たりの時価純資産価額は一万六九七八円であった(乙二八)。
訴外Gが右引受けにより取得した本件株式に右一株あたりの時価純資産価額を乗じた金額を合算すると、一九億四二九三万六八五五円となる(七万六三九九株×一万六九七七円+三万八〇四四株×一万六九七八円)。
(五) 訴外Gは、平成五年三月二三日、所有していた本件株式一一万六七九九株全てを原告らに贈与した。すなわち、本件株式二万三〇〇〇株を原告Bに、同五万二五〇〇株を原告Cに、同三万株を原告Eに、同一万一二九九株を原告Fにそれぞれ贈与し、原告らはこれを取得した(以下この贈与を「本件贈与」という。)(乙四五ないし五二)。
(六) 原告らは、いずれも本件贈与により取得した本件株式を評価基本通達一八八、一八八―二に定められた配当還元方式により一株当たり三八円と評価し、原告B、同C及び同Eは右評価に基づき、平成六年三月一五日、平成五年分の贈与税の申告を行い、原告Fは贈与税の基礎控除額(六〇万円)に満たないとして同年分の贈与税の申告を行わなかった。
(七) 平成六年五月二日、本件会社は、江口興産を含む六社との間において、合併契約を締結し、平成六年八月一日、江口興産は、右合併契約に基づき本件会社に吸収合併された(乙二〇、五三)。
同年一〇月二五日、原告Bは、新たに株式会社江口興産(以下「新江口興産」という。)を設立した。
(八) 平成六年一〇月三一日、原告Bは本件株式二万一〇〇〇株を代金三億六九五七万九〇〇〇円で、原告Cは本件株式五万二二〇〇株を代金九億一八六六万七八〇〇円で、原告Eは本件株式三万株を代金五億二七九七万円で、原告Fは本件株式一万一二四三株を代金一億九七八六万五五五七円で、それぞれヤムヤーゼに売却した(乙五四ないし五七)。なお、これらにより売却された本件株式は合計一一万四二四三株であり、右各売却に当たっての一株当たりの代金はいずれも一万七五九九円であった。
同日、ヤムヤーゼは、右売却代金のうち、原告Bについては二億六九五七万九〇〇〇円(一億円が未払い)、原告C、同E及び同Fについては全額を支払った(乙五八ないし六一)。
そして、原告らは、同日、ヤムヤーゼから支払われた右代金のうち、原告Bについては二億六六〇〇万円、原告Cについては九億一〇〇〇万円、原告Eについては五億二〇〇〇万円、原告Fについては一億九四〇〇万円(原告ら合計一八億九〇〇〇万円)を新江口興産に支払って同社の社債を引き受けた(乙六二ないし六五)。
さらに、新江口興産は、同日、原告らからの右入金額の合計一八億九〇〇〇万円を、訴外Gに貸し付け、訴外Gは、これにより本件借入金二〇億円中一八億九〇〇〇万円を返済した(乙六六、六七)。
続けて、平成六年一一月四日、ヤムヤーゼから原告Bに対し、未払金一億円が支払われ、原告Bは、同日、右一億円を新江口興産に支払って同社の社債を引き受け、同日、新江口興産が訴外Gに右一億円と一〇〇〇万円を貸し付け、訴外Gは、これにより、同日、本件借入金残額を返済した(乙六七ないし七一)。
(九) 原告らの本件贈与に係る贈与税の課税の経緯は、別紙課税の経緯のとおりであるが、原告B及び原告Cに対しては被告A税務署長が、原告Eに対しては被告D税務署長が、いずれも平成八年五月七日付けで更正及びこれに対する過少申告加算税賦課決定を行い、原告Fに対しては被告A税務署長が前同日付けで贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定を行った(本件各処分)。
これに対し、原告らは、本件各処分を不服として、平成八年七月五日、大阪国税局長に対し異議申立てをしたが、同局長は、同年一〇月二八日付けでいずれも棄却の異議決定をした。
さらに、原告らは、右決定を不服として、同年一一月二五日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年一月二六日付けで棄却の裁決をし、同裁決書謄本はそのころ原告らに送達された。
4 被告らが行った本件各処分の根拠
被告らが主張する本件相続に係る本件各処分の根拠は別表のとおりであるが、その内訳は以下のとおりである。なお、本件各処分の根拠の中、争いがあるのは、本件株式の評価額の点のみであり、その余の点については当事者間に争いがない。
(一) 原告らに対する各更正の根拠
(1) 原告らに対する課税価格
原告らが本件贈与により取得した財産の価額は、原告ら各自につき本件株式について別表の①、その他の財産については同②、その合計額すなわち課税価格は同③記載のとおり、原告Bにつき三億九六一四万三六九四円、原告Cにつき九億〇〇一六万四六二八円、原告Eにつき五億一五六〇万八五三七円、原告Fにつき一億九二六七万〇五四八円とした。
そして、原告ら各自につき基礎控除額六〇万円を控除し(法二一条の五)、国税通則法(以下「通則法」という。一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数金額を切り捨てると、同表の⑤のとおり基礎控除後の課税価格は、原告Bにつき三億九五五四万三〇〇〇円、原告Cにつき八億九九五六万四〇〇〇円、原告Eにつき五億一五〇〇万八〇〇〇円、原告Fにつき一億九二〇七万〇〇〇〇円となる。
(2) 納付すべき贈与税額
原告らの納付すべき贈与税額は、右基礎控除後の課税価格に所定の税率を乗じて計算したものであり(法二一条の七)、通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数金額を切り捨てると、その額は別表の⑥のとおり、原告Bにつき二億六五九八万〇一〇〇円、原告Cにつき六億一八七九万四八〇〇円、原告Eにつき三億四九六〇万五六〇〇円、原告Fにつき一億二三五四万九〇〇〇円となる。
(二) 本件各賦課決定処分の根拠
(1) 原告Bにつき三九五五万七五〇〇円
右金額は、通則法六五条一項の規定により、原告Bが本件更正によって新たに納付すべきこととなった贈与税額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である二億六三九八万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額二六三九万八〇〇〇円及び通則法六五条二項の規定により、原告が本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった相続税額のうち七九万一三〇〇円を超える部分に相当する金額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である二億六三一九万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一三一五万九五〇〇円とを合計した金額である。
(2) 原告Cにつき九二〇九万八五〇〇円
右金額は、通則法六五条一項の規定により、原告Cが本件更正によって新たに納付すべきこととなった相続税額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である六億一四五〇万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額六一四五万〇〇〇〇円及び通則法六五条二項の規定により、原告が本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった相続税額のうち一五三万一六〇〇円を超える部分に相当する金額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である六億一二九七万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額三〇六四万八五〇〇円とを合計した金額である。
(3) 原告Eにつき五二〇二万二五〇〇円
右金額は、通則法六五条一項の規定により、原告Eが本件更正によって新たに納付すべきこととなった贈与税額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である三億四七一二万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額三四七一万二〇〇〇円及び通則法六五条二項の規定により、原告が本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった相続税額のうち九〇万五八〇〇円を超える部分に相当する金額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である三億四六二一万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一七三一万〇五〇〇円とを合計した金額である。
(4) 原告Fにつき一八四四万二五〇〇円
右金額は、通則法六六条一項の規定により、原告Fが贈与税の決定によって納付すべきこととなった贈与税額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て。)である一億二二九五万円に一〇〇分の一五の割合を乗じて算出した金額である。
三 争点及び当事者の主張
本件の争点は、①本件株式の価格を評価基本通達一八八―二に定める配当還元方式によらないで、時価純資産価額方式により評価することの適否、②本件各処分の合憲性、③本件贈与の錯誤無効の主張の可否である。
1 本件株式の価格を評価基本通達一八八―二に定める配当還元方式によらないで、時価純資産価額方式により評価することの適否
(一) 被告らの主張
(1) 法二二条にいう「時価」とは、財産取得時における当該財産の客観的な交換価値であるとされるが、相続税及び贈与税の対象となる財産は多種多様であり、全ての財産の客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないから、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から、国税庁では、相続税及び贈与税における財産の価額について評価基本通達により各財産の評価方法を具体的に定めている。
ところで、通達は法規としての性格を有しないが、評価基本通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、租税平等主義という観点から、特定の納税者あるいは特定の相続財産又は贈与財産についてのみ、評価基本通達に定める評価方法以外の方法によって評価を行うことは許されない。
しかし、評価基本通達に定められた評価方式によるべきとの趣旨が右のようなものであることからすれば、評価基本通達に定める評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別な事情がある場合には、別の評価方式によることが許される。
(2) 配当還元方式は、取引相場のない株式のうち同族株主以外の株主等が取得した株式について、株式が上場されるか否か及び会社経営等について少数株主又は零細株主の意向がほとんど考慮されないこと、会社の経営内容、事業等の状況が少数株主又は零細株主の所有する株式の価額に反映されないこと等から、右株式を所有することによる経済的実益が配当金の取得にある点を考慮して認められた特例的評価方式である。
(3) しかるところ、以下のとおり、訴外Gが本件株式を取得し原告らに贈与したのは、経済的合理性のない不自然な取引によってであり、本件株式を配当還元方式で評価することによって原告らの負担する贈与税及び将来発生する相続税を軽減することを意図したものであると認められ、評価基本通達を形式的に適用すると、そのような方法を採らなかった者との間で実質的な平等を欠き、評価基本通達によるべきでない特別な事情が存在する。
ア 本件株式に関するスキームの目的及び経済的不合理性
以下の事情からすると、本件株式に関するスキームは、もっぱら、出資者の相続税及び贈与税の負担の回避のみを目的としたものであり、そのほかに何ら経済的合理性を有しないものであることは明らかである。
① 本件株式に関するスキームは、本件会社がヤムヤーゼに劣後株式を発行することにより、出資者の有する株式を常に配当還元方式で評価することができるよう株式数が調整されていたこと、これにより相続税及び贈与税の節税対策になるメリットがある旨出資者に説明されていたこと、パンフレットにより、本件株式の評価額が低くなること及び本件株式の売却希望者には、減資をしてでも必ず応じることが宣伝されていたこと、本件株式の売却には、取得の時と同様に、時価純資産価額をもって応じることが出資者に説明されていたことから、出資者の所有する本件株式が常に配当還元方式により低く評価される状態を作り出すことにより出資者の相続税及び贈与税の負担を軽減し、その後に、必ず、本件株式の取得に当てられた金員を出資者が回収できるという仕組みであった。
② 本件会社では、借入金により本件株式を購入しようとする出資者が担保を必要とする場合には、同社の財産の中、短期に現金化をすることが可能な財産の一部を右担保に提供していたこと、本件株式の売却希望者には減資をしてでも必ず応じるとしていたため、株主の投資額の八〇パーセント以上を事実上元本の回収が確実な定期預金や国債等に投資していたことから、同社は、新株を発行して調達した資金をその事業活動の為に使用できないという状態にあった。
③ 本件株式については、本件以外にも同種の事案が多数存在し、本件会社が、本件株式の取得により相続税又は贈与税の負担が軽減されるというスキームを宣伝することにより、同社への出資を広く呼びかけていたものであると考えられる。
イ 訴外G及び原告らの行為の目的及び経済的不合理性
以下の事情からすると、訴外Gが本件株式を取得し、原告らに贈与したのは、原告らの負担する贈与税及び将来発生する相続税の負担が軽減されることを期待したからに他ならない。
① 原告らは、本件株式の取得にはキャピタルゲインを得るという「投資」目的もあると主張するが、本件株式の贈与を受けた原告らは、キャピタルゲインを得ないまま、右株式の約九八パーセントを右贈与を受けた後約一年七か月という短期間で売却している。
② 訴外Gが、本件株式を購入するためにシティバンクから借り入れた金員に対する支払利息は年間一億二九〇〇万円と多額である一方、本件株式に係る配当金は、平成四年九月一日から平成五年三月三一日までの事業年度の事業報告書によると一株当たり三〇円であり、訴外Gの配当収入金は、年間に換算したとしても二八〇万三一七六円(配当金額三五〇万三九七〇円から配当金額に係る源泉徴収税額を控除した額)にすぎない。
③ 原告らは、本件株式の評価に配当還元方式を用いることにより、本件株式合計一一万六九七七株を三二二万八七〇〇円と評価しているが、これにより本件株式の取得資金である本件借入金及び本件当座貸越金と同額の金銭等を本件贈与者から贈与により取得した場合に比べて、原告らの贈与税の負担額は、あわせて一三億円も軽減されたことになる。
④ 原告らはその平成一〇年六月二四日付け準備
書面(第一)で本件贈与が来るべき相続の節税対策として行われたものであることを明言し、本件贈与に節税効果があるということが、本件贈与の唯一の動機であったと自認している上、Hも陳述書(甲七の1)において「資産家は相続税の見通しが付かない過重な負担の軽減を図る必要性がございました。このため節税を行う事は十分な経済的合理性があったと考えます」と述べている。
ウ 本件株式の時価との乖離
訴外Gは、本件株式を一株当たり一万六九七七円及び一万六九七八円で取得しており、原告らは、その後その大部分を一株当たり一万七五九九円で売却しているにもかかわらず、配当還元方式により一株当たり三八円と評価している。しかし、この間に本件株式が急落し急騰した事情もなく、原告らが主張する配当還元方式による本件株式の評価額が法二二条の「時価」を反映するものではないことは明らかである。
(4) 本件株式の「時価」
以下述べるとおり、本件株式の「時価」については、本件株式の性格、本件会社の本件株式発行の趣旨、訴外G及び原告らの本件株式取得から売却に至る一連の行為等を総合的にかんがみると、本件贈与の直近の時価純資産価額が本件株式の「時価」を正しく反映したものということができる。そして、本件贈与の日である平成五年三月二三日の直近の一株当たりの時価純資産価額すなわち平成五年二月末現在の一株当たりの時価純資産価額は、一万七〇五二円であり、同価額は、本件株式の「時価」を正しく反映したものということができる。
ア 本件会社が出資者に対して増資により本件株式の割当てを行う際の一株当たりの購入価額並びに出資者が本件株式を売却する際における一株当たりの価額は、いずれも、直近の一株当たりの時価純資産額とされていた。
イ 本件についても、まず、平成四年七月一〇日に訴外Gがヤムヤーゼから本件株式を購入しているが、その際の同株式の一株当たりの価額は、平成四年六月末現在の一株当たりの時価純資産価額一万六九七七円であり、続いて同年七月二八日及び八月一四日に訴外Gが現物出資により取得した本件株式についても同株式の一株当たりの価額は現物出資の日の前月末の時価純資産価額による旨合意されており、それぞれ、平成四年六月末現在の一株当たりの時価純資産価額一万六九七七円及び平成四年七月末現在の一株当たりの時価純資産価額一万六九七八円であった。
なお、平成六年一〇月三一日に、原告らが本件株式をヤムヤーゼに売却した際の同株式の一株当たりの価額は、平成六年九月末現在の一株当たりの時価純資産価額一万七二〇一円を上回る金額であった。
ウ 本件会社が右アにつき出資者に説明していたこと及び同社が時価純資産価額を毎月出資者に報告していたことから、本件会社も出資者も、共に、本件株式の時価純資産価額をその取引価額と認識していたものと推認できる。
また、本件会社は、公募等により同社への出資を広く呼びかけていたと考えられることから、本件株式の時価純資産価額は、特定の出資者に対してだけ成立するものではなく、同社に出資しようとする者すべてに適用される一般的な価額である。
(二) 原告らの主張
(1) 本件株式は、取引相場が無く、評価基本通達一八八、一八八―二に定める配当還元方式によって評価される株式に該当する。したがって、右配当還元方式に基づき本件株式は一株当たり三八円と評価されるため、原告らは、原告らの取得した本件株式の評価額に基づき別紙課税の経緯の申告の欄記載のとおり申告を行ったものである。
ところが、被告は、本件株式の価額を訴外Gの取得価額と同額であると評価して本件更正を行ったものであり、右更正は評価基本通達に違反した違法な処分である。
(2) 本件会社の設立趣旨、事業活動の経済的合理性
本件会社は、ベンチャー企業の持つ優良な技術等そのものを引当てとして積極的に融資してその株式等を取得し、その企業が上場することによるキャピタルゲインによる利得を期待するという、ハイリスク・ハイリターン方式の会社経営を行い、それに出資を募るという基本的なスキームを持つものである。訴外G及び原告らは、そのような説明を納得し、ベンチャー企業育成の社会的意義を基礎として、キャピタルゲインを得るという「投資」と共に「相続税節税効果」のある方法として本件株式を取得したものであり、経済的合理性を有する取引である。
本件会社において株主の投資額の八〇パーセント以上が定期預金等であったのは、本件会社が設立して間もない会社であり、投資額全部についてその安全かつ確実な投資対象が選別・選定し得なかったことによるものであって、大半を流動資産としておくとの方針ではなかった。
また、新株発行は事業活動に必要な資金を調達する目的で行われたものであり、現に投資対象企業への投資もされている。
(3) 本件株式の売却希望者への対応
本件株式の売却希望者への対応は、原則的には第三者への買取りの斡旋を行い、売却実現による回収方法であり、例外的に減資による回収が行われたにすぎない。
また、時価純資産価額による買取りが確実であるとの説明はなく、変動による危険があるとの説明があった。
さらに、本件株式が常に配当還元方式により出資額と比較して低額に評価されることは確実ではなく、右状態が確実であるとの説明はなかった。
加えて、必ず回収できるとの説明はなく、リスクの説明がされていた。現に原告らは一部回収できていない。
(4) 本件株式の「時価」
原告らとヤムヤーゼとの間の本件株式の売買は、従来からの縁故に基づいてなされたものであり、一般的な市場性を反映したものではなく、時価(実勢価格)を算定するための取引事例として評価されるものではない。なぜなら、この売買価格は、解散価格(つまりPBR)を基礎としたものであって、相続税の株式評価の視点から比較しても、約四〇パーセント増しの高額な価格であるから、この売買価格をもって「時価」と見なすことはできないからである。
2 本件各処分の合憲性について
(一) 原告らの主張
(1) 訴外G及び原告らは、優良な投資対象としてのキャピタルゲインと相続税節税効果を期待して本件株式を取得したものであり、これは自由で合法的な資産形成活動に他ならない。しかるに、本件各処分は、原告らの右資産形成活動を脱税とみなし、本件株式を実質的には預け金その他の単なる金銭債権と同視し他の同様の会社の株式の評価基準と区別するものであり、租税法律主義を定めた憲法三〇条、適正手続を保障した同法一三条及び三一条、並びに、法令の制定及び適用の平等を定めた同法一四条に反する。
(2) 現行の相続税制度は、二、三回相続がなされれば、高額の遺産はほとんど消滅してしまうほどの極度の累進課税制度であり、これは、贈与税についても同様であり、実質的には財産所有及び相続ないしは贈与自体を否定し、特に高額相続及び高額贈与を悪とする共産主義思想の発現である。
贈与権及び受贈権は、財産権の態様の一つであって、贈与される財産が高額であるか低額であるかに関係なく、平等に保護されなければならない。ところが、累進課税制度を採用している現行の相続税法は、高額贈与を低額贈与と差別し、高額贈与に極度の税額を賦課するものであり、これは、明らかに憲法一三条、財産権の保障を定めた同法二九条及び法の下の平等を定めた同法一四条に違反している。
このような、違憲である相続税法の累進課税税率を前提とする本件各処分も違法である。
(3) 土地の所有者は、土地を所有しているという理由で、「資産税」として固定資産税及び土地保有税等を負担しているのであって、相続が包括承継であることから土地を相続したことあるいはそれに準ずる贈与を受けたことを理由として相続税を課すことは二重課税である。
(4) 法が贈与税につき、自己が扶養義務等を負担する子孫への贈与も、扶養義務を負担しない他人への贈与も同様に取り扱っているのは不公平である。また、公的な団体に寄付したり政治献金を行うなどの場合、寄付金控除等を受けられるのに対し、自己の子孫への贈与について同様の控除がなされないのは、全く不合理な差別である。さらに、基礎控除額が贈与額の一定割合ではなく、贈与額とは無関係に一律の定額であるうえ、高額の贈与については、著しく高い税率で賦課することは、二重三重の意味で、遺産の多寡によって行われる不合理な差別である。
(二) 被告らの主張
(1) 評価基本通達に定める評価方式を画一的に適用するという形式的平等を貫くことによってかえって実質的な租税負担の衡平を著しく害することが明らかである等の特別な事情がある場合は、別の評価方式によることが許されると解されるところ、本件株式については、右特別な事情が存在する。
そして、本件株式は、公募等により同社への出資を広く呼びかけ、同社に出資しようとする者すべてに適用される価額として、同社も出資者も、共に、本件株式の時価純資産価額をその取引価額として認識していたのである。また、実際にも時価純資産価額を元に取得・売却していることを合わせ考えると、本件株式の客観的交換価値としての「時価」は、時価純資産価額であるというべきでる。
(2) 納税者の担税力を直接の基準として課される租税については通常累進税率が用いられ、我が国においては担税力に応じた税負担の配分の要請にもっともよく適合するとされている超過累進税率(課税標準を多数の段階に区分し、上の段階に進むに従って、逓次に高率を適用するもの)を用いており、何ら憲法に違反するものではない。
(3) 原告らは、土地に対する課税につき、相続税及び贈与税と固定資産税及び土地保有税等が二重課税であるとの主張をかかげるが、相続税は、人の死亡によって財産が移転するのを機会に、また、贈与税は、贈与によって財産が移転するのを機会に課される租税であり、右財産の取得が取得者の担税力を増加させることから課されるものである一方、固定資産税は、所有者の所有する土地家屋等の資産価値に着目して課税される税、すなわち土地家屋等の固定資産の所有という事実に担税力を認めて課されるものであり、課税の原因が異なっているのであるから、二重課税という問題は生じない。同様に、特別土地保有税についても、相続税及び贈与税との二重課税というような問題が生じないのは明らかである。
(4) 原告らは、自己の子孫への贈与を他の贈与と同様に扱い、一方、公的団体への寄付にみられるような寄付金控除等が認められないことが著しく不合理な差別であると主張する。
しかし、贈与税の課税の趣旨は、贈与により財産を取得した者の担税力に着目して課されるものであり、民法上の扶養義務は、贈与を受けた者であるか否かと関係なく、一定の範囲の親族であるが故に課される義務であり、したがって、贈与税が扶養義務を負うか否かに関係なく、受贈者の担税力に応じて課されるのは、扶養義務制度になんら反するものではなく、原告らの「不公平である」との主張は失当である。
また、所得税法七八条に規定する寄付金控除は、公共事業に対する寄付の奨励措置として設けられ、また租税特別措置法七〇条に規定する国等に贈与した場合等の相続税非課税も、我が国においては、民間事業による科学、教育の振興、社会福祉の向上等が重要であるため、所得税法において寄付金控除が認められていることにかんがみておかれている規定であり、贈与税の課税の趣旨となんら関連性がなく、自己の子孫への贈与につき同様の規定を設けていないからといってなんら不合理ということはない。
3 本件贈与の錯誤無効の主張の可否
(一) 原告らの主張
本件贈与の当事者である原告らは、あくまでも将来における相続税の節税効果を期待し、本件贈与に十分な節税効果があるとする税理士その他の専門家の説明を信じて本件贈与に合意したのであって、これを信じたことに過失はない。
したがって、本件各処分が合憲かつ適法であるとすれば、本件贈与の要素ないしは少なくとも表示された動機としての「十分な節税効果の実現」の有無の認識に錯誤があったことになり、本件贈与は民法九五条により無効である。
そうであれば、本件各処分は、無効の贈与に対してなされたものであって、その前提を欠く無効の処分であり、取消しを免れない。
なお、本件は、納税義務の存否について錯誤がある事案ではなく、税額評価について、評価基本通達を含む法令のとおり評価したにもかかわらず、税務当局がこれと異なる評価を行ったものである点が考慮されるべきである。
(二) 被告らの主張
(1) 納税義務者は、納税義務の発生の原因となる私法上の法律行為を行った場合、右法律行為の際に予定していなかった納税義務が生じたり、右法律行為の際に予定していたものよりも重い納税義務が生じることが判明した結果、この課税負担の錯誤は当該法律行為の動機の錯誤であるとして、右法律行為が無効であることを、租税行政庁に対し、法定申告期間を経過した時点で主張することはできないと解される。なぜなら、我が国は、申告税法式を採用し、申告義務の違反や脱税に対しては加算税等を課している結果、安易に右のような課税負担の錯誤を認め、その法律行為が無効であるとして納税義務を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては申告納税方式の破壊につながるからである。
(2) これを本件についてみると、原告らは本件贈与に節税効果があるということが本件贈与をなすに当たっての動機であることを自認していること及び本件贈与にかかる贈与税の法定申告期限が既に経過していることから、原告らは、本訴において、錯誤を理由に本件贈与が無効であることを主張することはできない。
(3) さらに、本件においては、本件贈与による経済的成果が失われていない。すなわち、原告らは、本件贈与により取得した本件株式を本件贈与者に返還していないばかりか、その大部分をヤムヤーゼに売却することにより収益を得ており、原告らが本訴において本件贈与の無効を主張する余地はない。
第三当裁判所の判断
一 本件株式の価格を評価基本通達一八八―二に定める配当還元方式によらないで評価することの適否及び本件株式の「時価」
1 配当還元方式によらない評価の適否
(一) 贈与税は、相続税の補完税として、贈与により無償で取得した財産の価額を対象として課される税であるが、贈与により取得した財産の価額は、特別の定があるものを除き、当該財産の取得のときにおける時価により評価される(法二二条)。
右「時価」とは、贈与により財産を取得した日における当該財産の客観的な交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格をいうと解すべきである。
もっとも、全ての財産の客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないから、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地に立って、合理性を有する評価方法により画一的に贈与財産を評価することも、当該評価による価額が法二二条に規定する時価を超えない限り適法なものということができる。その反面、いったん画一的に適用すべき評価方法を定めた場合は、納税者間の公平及び納税者の信頼保護の見地から、評価基本通達に定める方法が合理性を有する場合には、評価基本通達によらないことが正当として是認され得るような特別な事情がある場合を除き、評価基本通達に基づき評価することが相当である。
しかしながら、評価基本通達に定められた評価方法によるべきとする趣旨が右のようなものであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方式を形式的に適用するとかえって実質的な租税負担の公平を著しく害するなど、右評価方式によらないことが正当と是認される特別の事情がある場合には、他の合理的な方式により評価することが許されると解される。
(二) 本件株式のように取引相場のない株式の時価を評価するに当たっては、自由な取引を前提とする客観的な価格を直接に把握することが困難であるから、当該株式が化体する純資産価額、同種の株式の価額あるいは当該株式を保有することによって得ることができる経済的利益等の価格形成要素を勘案して、当該株式を処分した場合に実現されることが確実と見込まれる金額、すなわち、仮に自由な取引市場があった場合に実現されるであろう価額を合理的方法により算出すべきものと解される。
ところで、同族会社における「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、当該同族株主以外の株主の持株割合が低い場合には、会社経営等について同族株主以外の株主の意向はほとんど反映されず、会社の経営内容、業績等の状況が同族株主以外の株主の有する株式の価額に反映されないことからして、この場合には、配当を受けることが株主の保有する権利の主たる要素となるということができる。したがって、これらの株主が株式を所有する経済的実益は、通常、配当金の取得にあることに着目して、そのような株式の時価を評価するための例外的な評価方式として評価基本通達が配当還元方式を用いることは合理性を有するものである。
(三) 本件の検討
(1) 前記第二、二前提事実を前提にさらに検討すると本件においては以下の事情が認められる。
ア 前記認定の本件株式に関するスキームは、本件会社がヤムヤーゼに劣後株式を発行することにより、出資者の有する株式を常に配当還元方式で評価することができるよう株式数が調整されていたこと、これにより相続税及び贈与税の節税対策になるメリットがある旨出資者に説明されていたこと、パンフレット等により本件株式の評価額が低くなること及び本件株式の売却希望者には、減資をしてでも必ず応じることが宣伝されていたこと、本件株式の売却には、取得の時と同様に、時価純資産価額をもって応じることが出資者に説明されていたことからすると、出資者の所有する本件株式が常に配当還元方式により低く評価される状態を作り出すことにより出資者の相続税及び贈与税の負担を軽減し、その後に、必ず、本件株式の取得に当てられた資金を出資者が回収できるという仕組みであった。
これらの点に関し、原告らは、本件株式の売却希望者への対応は、原則的には第三者への買取りの斡旋を行い、売却実現による回収方法であり、例外的に減資による回収が行われたにすぎないこと、時価純資産価額による買取りが確実であるとの説明はなく、変動による危険があるとの説明があったこと、本件株式が常に配当還元方式により出資額と比較して低額に評価されることは確実ではなく、右状態が確実であるとの説明はなかったこと、必ず回収できるとの説明はなく、リスクの説明がされていたこと、現に原告らは一部回収できていないことを主張する。確かに、原告らは、本件株式の一部につき買取りにより資金を回収していないが、その割合は本件株式全体の二パーセント程度にすぎず、またその理由もヤムヤーゼ等の資金繰が苦しいためであり(甲五、六、乙二三の1)、また、その余の主張事実についてはH作成の陳述書(甲七の1)及びJの証人尋問調書(甲五、六)中には原告らの主張に沿う記載部分が存するが、右各記載部分は前記認定の事情に照らして容易に措信しがたく、他に原告らの主張事実を認めるに足る証拠はないから、この点に関する原告らの主張は採用できない。
イ 訴外Gが、本件株式を購入するためにシティバンクから借り入れた金員に対する支払利息は年間一億二九〇〇万円と多額である一方、本件株式に係る配当金による収入は、訴外Gの場合、年間に換算したとしても二八〇万三一七六円(配当金額三五〇万三九七〇円から配当金額に係る源泉徴収税額を控除した額)にすぎない(争いのない事実)。
ウ 原告らは、本件株式の取得にはキャピタルゲインを得るという「投資」目的もあると主張するが、本件贈与により本件株式を取得した原告らは、キャピタルゲインを得ないまま、右株式の約九八パーセントを本件贈与から約一年七か月という短期間で売却している。
エ 本件会社では、借入金により本件株式を購入しようとする出資者が担保を必要とする場合には、同社の財産の中、短期に現金化をすることが可能な財産の一部を右担保に提供していたこと、本件株式の売却希望者には減資をしてでも必ず応じるとしていたため、株主の投資額の八〇パーセント以上を事実上元本の回収が確実な定期預金や国債等に投資していたことからすると、同社は、新株を発行して調達した資金をその事業活動の為に使用できないという状態にあった(乙二三の1)。
(2) これらの事情を総合考慮すると、本件株式については、同族株主以外の株主がその売却を希望する場合には、時価による価額の実現が極めて高い蓋然性で保障されており、本件株式に対する配当の額と比較して本件株式を売却する場合に保障される売却代金が著しく高額であることからすると、本件株式を保有する経済的実益は、配当金の取得にあるのではなく、将来純資産価額相当額の売却金を取得する点に主眼があると認められる。そうすると、同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用する評価基本通達の趣旨は、本件株式には当てはまらないというべきである。なお、甲八号証ないし四九号証には、本件会社がいわゆるベンチャーキャピタルとして活動している事実を裏付ける部分がみられるが、仮に同事実が認められるとしても、なんら前記認定の妨げとなるものではない。
また、本件株式を配当還元方式で評価した場合の本件贈与に係る贈与税は約三二〇万円にすぎず、原告らが本件株式の取得資金である本件借入金及び本件当座貸越金と同額の金銭等を本件贈与者から贈与により取得した場合(仮に原告ら各自に五億円贈与した場合、原告ら各自の贈与税額は約三億四〇〇〇万円となり、贈与税の合計金額は約一三億六〇〇〇万円となる。)と比較して、原告らの贈与税の負担額は、あわせて約一三億円も軽減されたことになることからすれば、形式的に評価基本通達を適用することによって、かえって実質的な公平を著しく欠く結果になると認められる。
したがって、本件株式の評価に当たり、評価基本通達に従った配当還元方式を用いないことは適法である。
2 本件株式の「時価」
前記のとおり、本件株式については、同族株主以外の株主がその売却を希望する場合には、純資産価額による価額での買取りが高い蓋然性で保障されており、現に、原告らも平成六年一〇月三一日には、その所有していた本件株式の約九八パーセントにつき、かかる価額が実現されていたのであるから、本件贈与の日である平成五年三月二三日において、本件株式を処分した場合に実現されることが確実と見込まれる金額は、同年前月末現在における本件株式につき純資産価額方式により計算された金額である一株当たり一万七〇五二円(乙二八)であり、仮に自由な取引市場があった場合には右価額が実現されるであろうことが認められる。
この点につき、原告らは、原告らとヤムヤーゼとの間の本件株式の売買は、従来からの縁故に基づいてなされたものであり、一般的な市場性を反映したものではなく、時価(実勢価格)を算定するための取引事例として評価されるものではないと主張するが、本件における原告らとヤムヤーゼの関係と同様の関係は、前記第二、二2での認定によれば、事業承継コンサルタント協会の税理士等から紹介を受けた出資希望者に対して一般的に成立し得たものであり、原告の主張は理由がない。また、原告らは、この売買価格は、解散価格を基礎としたものであって、相続税の株式評価の視点から比較しても、約四〇パーセント増しの高額な価格であるから、この売買価格をもって「時価」と見なすことはできないとも主張するが、そもそも株式は、一般に、会社資産に対する割合的持分としての性質を有し、会社の所有する総資産価値の割合的支配権を表彰したものであり、株主は、株式を保有することによって会社財産を間接的に保有するものであって、当該株式の理論的・客観的な価値は、会社資産の価額を発行済株式数で除したものと考えられることからすると、純資産価額をもって株式の評価額をとする方法は、基本的に合理性を有する評価方法であると解されること、原告らは現実に右価額をその所有していた本件株式の大部分につき実現していることからして右原告らの主張は採用できない。
二 本件各処分の合憲性
1 租税法律主義、平等原則違反について
原告らは、本件各処分が租税法律主義を定めた憲法三〇条、法令の制定及び適用の平等を定めた同法一四条に反すると主張するが、憲法あるいは税法の要求する平等原則も、合理的な理由があるときに法律の許容する範囲内で課税上異なった取扱いをすることまでを一切禁止したものとは解されず、本件においては、本件株式の評価を評価基本通達の定める方法によらず、純資産価額方式によったことについて、前記のとおり、他の納税者との間での実質的な税負担の公平を図るという合理的な理由が存在しており、しかも、その評価方法も前記のとおり法二二条に反するものとは解されないところであるから、このような取扱いは、租税法律主義、平等原則の観点からしても是認されるものである。
したがって、この点に関する原告らの主張は採用できない。
2 適正手続違反について
原告らは、評価基本通達によらない本件各処分が憲法一三条及び三一条の適正手続の要請に反すると主張するが、憲法三一条に定める法定手続の保障の法意が本件各処分の手続に及ぶとしても、評価基本通達自体においてもその六で評価基本通達に従わずに評価される場合があることを明らかにしており、評価基本通達によらないための要件として前記のとおり、評価基本通達によらないことが正当として是認され得るような特別な事情を要求すると解する以上、その後の不服審査制度の存在をも合わせ考えると、憲法三一条の法意に反するとはいえない。また、同様に憲法一三条に反するともいえないことは明らかである。
3 累進課税制度について
原告らは、累進課税制度が憲法二九条、一四条に反すると主張するが、まず、憲法二九条は、財産権を基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至ったため、立法府に公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができるとしているもので、財産権に対して加えられる規制が憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考慮して決すべきものであると解されるところ、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、憲法二九条二項に違背するものとしてその効力を否定することができるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、租税は、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加えて、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、相続税における累進課税も納税者の担税力を考慮して右租税の機能を有効に果たすことを目的とすると解され、その立法目的はむしろ公共の福祉に合致していることが明らかであるし、また、我が国においては、課税標準を多数の段階に区分し、上の段階に進むに従って、逓次に高率を適用する方式が用いられており、右方式は担税力に応じた税負担の配分の要請によく適合すると解されるから、右累進課税の目的を達成するための手段としても必要かつ合理的なものということができる。
したがって、かかる租税立法に関し、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとは認められない以上、累進課税が憲法二九条に違反するとの原告らの主張は採用できない。
また、上記の累進課税制度の目的及び手段に鑑みれば、贈与財産の価額により税率に差が出る累進課税制度は合理的なものというべきであり、それ自体が憲法一四条の平等原則に違反するといえない。
4 原告らのその他の主張について
原告らは、土地に対する課税につき、相続税及び贈与税と固定資産税及び土地保有税等が二重課税であるとも主張するが、担税力の根拠及び課税の原因が異なっているのであるから、二重課税という問題は生じないというべきである。
また、原告らは、自己の子孫への贈与を他の贈与と同様に扱い、一方、公的団体への寄付にみられるような寄付金控除等が認められないことが著しく不合理な差別であると主張するが、贈与税は、贈与により財産を取得した者の担税力に着目して課されるものであり、右課税の趣旨は扶養義務とは別個のものであり、また、寄付金に関する控除等は、租税に期待される政策実現の機能から個別的な趣旨に基づいて制定されているものであり、自己の子孫への贈与につき特別の控除制度が設けられていないことをもって不合理な差別であるとは解されない。さらに、原告らは、基礎控除額が贈与額とは無関係に一律の定額であるうえ、高額の贈与については、著しく高い税率で賦課することが不合理な差別であると主張するが、贈与税が相続税の補完税としての機能を有し、生前贈与が相続財産の分割に用いられ相続税を回避することを防止するために高い税率を定めており、一定の金額については右の趣旨から贈与税を課す必要がないとして設けられたのが基礎控除であると解されることからすると、右基礎控除額が贈与額にかかわらず一定額であることは何ら不合理なものではなく、また、高額の贈与に高い税率を課すことについては、贈与税が無償で財産を取得した者の担税力に着目した税であることからすると、贈与額が高額になるに応じて高い税率を課すことも何ら不合理なものではない。
5 以上のとおり、本件各処分は、憲法に違反するものではない。
三 錯誤無効の主張
1 原告らは、あくまでも将来における相続税の節税効果を期待し、本件贈与に十分な節税効果があるとする税理士その他の専門家の説明を信じて本件贈与に合意したのであって、これを信じたことに過失はなく、本件贈与が民法九五条により無効であり、それを前提とする本件各処分も無効の処分であり、取消しを免れないと主張し、確かに、前記第二、二の事実からは、訴外G及び原告らにとって節税効果があがることが本件贈与の重要な動機となっており、右動機は表示されていたと認められる。
2 しかし、我が国は、申告税法式を採用し、申告義務の違反や脱税に対しては加算税等を課している結果、安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を認めて納税義務を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては申告納税方式の破壊につながるのであるから、納税義務者は、納税義務の発生の原因となる私法上の法律行為を行った場合、右法律行為の際に予定していなかった納税義務が生じたり、右法律行為の際に予定していたものよりも重い納税義務が生じることが判明した結果、この課税負担の錯誤が当該法律行為の動機の錯誤であるとして、右法律行為が無効であることを法定申告期間を経過した時点で主張することはできないと解するのが相当である。
3 これを本件についてみると、原告らは本件贈与に節税効果があるということを本件贈与の合意をなすに当たっての重要な動機としていること、原告Bは訴外Gが本件株式を取得するに当たり課税当局から配当還元方式の評価が否認される可能性を危倶していたことに照らすと、原告らは、原告らの本件贈与に係る本件株式の評価に問題があることを認識していたことが認められ、さらに、本件贈与にかかる贈与税の法定申告期限が既に経過していること、原告らが本件贈与により取得した本件株式を本件贈与者に返還しておらず、むしろ、その大部分をヤムヤーゼに売却することにより収益を得ていることも合わせ考えると、原告らに本件贈与が無効であるとして納税義務を免れさせることは、納税者間の公平を害し、租税法律関係を不安定ならしめ、ひいては申告納税方式の破壊を招来するものといわざるを得ない。
したがって、原告らが本件贈与の錯誤無効を主張することは許されないというべきであり、原告らの主張は採用できない。
なお、原告らは、原告らの錯誤が納税義務の存否自体ではなく税額評価の方法にあり、原告らは評価基本通達に従った評価を行っていたことを考慮すべきであると主張するが、本件各処分の前提となった被告らの本件株式の評価方法は、前記のとおり、法令の規定に従ったものであると解されるのであるから、右原告らの主張する事情は、前示の判断に影響するものではない。
四 本件各処分の適法性について
1 本件各更正及び本件贈与税の決定について
以上のとおり、本件株式の時価を時価純資産価額方式によって評価した価額とすることは相当というべきところ、本件課税時期における右評価は、課税時期の前月の末日現在における時価純資産価額方式により計算された本件株式一株当たり価額一万七〇五二五円であると認められ、本件株式の時価も同額と認められる。
右により計算すると、原告らの課税価格及び納付すべき贈与税額は、前記第二、二4(一)のとおりとなり、本件各更正及び本件贈与税の決定にかかる課税価格及び納付すべき税額は右の範囲内であるから適法である。
2 本件各過少申告加算税及び無申告加算税の賦課決定について
原告B、同C及び同Eは、本件贈与に係る贈与税の申告の際、課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由は認められない。また、原告Fは、本件贈与に係る贈与税を申告しなかったものであり、申告しなかったことについて通則法六六条一項ただし書きに規定する正当な理由は認められない。
したがって、原告B、同C及び同Eに対しては、通則法六五条により過少申告加算税が賦課され、原告Fには通則法六六条により無申告加算税が賦課されるところ、その税額は、前記第二、二4(二)のとおりとなり、本件各賦課決定は、これと同額であるから、適法である。
第四結論
以上のとおり、本件各処分は適法であり、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三浦潤 裁判官 林俊之 裁判官 栗原三緒)