大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)45号 判決 2002年7月19日
原告
松浦米子(X1)
(ほか10名)
原告ら11名訴訟代理人弁護士
畠田健治
(ほか10名)
被告
(前大阪府知事) 横山ノックこと
山田勇(Y1)
(ほか27名)
被告ら28名訴訟代理人弁護士
宇佐美貴史
同
檜垣誠次
主文
1 原告らの訴えのうち、平成9年6月分高校教育課のタクシー借上料にかかる請求を棄却する。
2 原告らのその余の訴えをいずれも却下する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第3 争点に対する判断
1 地方自治法242条2項「正当な理由」の存否
(1) はじめに
本件監査請求のうち、平成9年度の統計課の会議接待費(5万5387円)、平成9年度の議員野球大会に係る職員3人の旅費(7750円)、平成9年度の高校教育課のタクシー借上料についての請求を除く請求は、監査請求がなされた時点で各公金が支出された日から1年を経過しているところ、原告は、監査請求期間を徒過したことについて地方自治法(以下単に「法」という。)242条2項但書の「正当な理由」がある旨主張するので、監査請求期間を徒過したことについて「正当な理由」があると認められるかどうかについて検討する。
(2) 「正当の理由」の存否の判断基準
法242条2項本文は、普通地方公共団体の執行機関、職員の財務会計上の行為は、たとえそれが違法・不当なものであったとしても、いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして、監査請求の期間を定める一方、当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ、1年を経過してからはじめて明らかになった場合等にもかかる趣旨を貫くことが相当でないことから、同項但書は、「正当な理由」があるときは、例外として、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっても、普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるとしたのである。したがって、当該行為が秘密裡にされた場合、同項但書にいう「正当な理由」の有無は、特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものといわなければならない(最高裁昭和63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参照)。
そして、当該行為自体は公然と行われた場合であっても、当該行為が違法であることを基礎づける事実が隠蔽されている場合、普通地方公共団体の住民が当該行為について監査請求を行うことが期待できないのは、当該行為自体が秘密裡になされた場合と同様であるから、このような場合も、住民の監査請求が同条2項本文所定の期間を徒過してなされても、直ちにこれを不適法ということはできず、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為が違法であることを基礎づける事実を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求がなされていれば、同条2項所定の「正当な理由」があるときに該当し適法なものと解すべきである。
(3) 当該行為あるいは当該行為が違法であることを基礎づける事実が隠蔽されているか
原告らは、本件各支出には、2類型の支出があり、1つは、支出関係書類に記載された反対給付である飲食接待、物品の購入などの実体がなく裏金をプールするためになされた支出、又は同書類に記載された内容とは異なる支出であり、もう1つは、支出関係書類記載どおりの反対給付がなされているが、その支出自体が行政事務の執行上必要性が認められない支出であると主張する。
仮に原告らが主張するとおり裏金をプールするために支出された、又は名目と異なる目的のために使用されたのであれば、当該行為自体は公然となされ、隠蔽されていないものの、当該行為が違法であることを基礎づける事実は隠蔽されていた場合に該当する。
これに対し、名目どおりの目的で支出されたものではあるが、単に行政事務の執行上必要性が認められない支出であれば、支出行為自体は公然となされており、また、かかる支出が行政執行上必要であったかどうかも支出自体及び情報公開請求をすることによって入手することができる資料に基づいて判断することができるのであるから、違法性を基礎づける事由が隠蔽されていたという場合には該当せず、監査請求期間を徒過したことについて「正当な理由」がないものとして却下されるべきである。
そして、原告らは、本件各支出につき、いずれの支出についても主位的には裏金をプールするために支出されたと主張しているので、以下、仮に本件各支出が裏金であったことを前提として監査請求期間を徒過したことについて「正当な理由」が認められるかどうかを検討する。
(4) 当該行為が違法であることを基礎づける事実を知り得た時期
ア 判断基準
当該行為の違法性を基礎づける事実が隠蔽されている場合に、住民が相当の注意力をもって調査したときに当該行為が違法であることを基礎づける事実を知ることができたのはいつの時点かについては、当該行為の違法性を基礎づける事実が隠蔽されている場合には、住民が監査請求をすることがおよそ期待できないということを理由に、監査期間を徒過したことについて「正当な理由」があるとされるのであるから、住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて住民監査請求をすることが期待できる程度に当該行為の違法性を基礎づける事実を認識することができたのはいつかという観点から検討されるべきである。
イ その前提として、住民が住民監査請求を行うには対象となる当該行為等を特定しなければならないところ、住民監査請求においては、対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、また、当該行為等が複数である場合には、当該行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきである(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁、参照)。しかし、本件では、本件各支出の特定という点については、本件各支出自体は何ら秘密裡に行われたものではなく公然と行われていたのであるから、支出の名目、個々の支出の金額、日時、支出先等により本件各支出を特定することについて客観的な障害があったということはできない。
ウ ところで、住民監査請求においては、事実を証する書面を添えて請求することが要件とされている(地方自治法242条1項)ところ、法が証する書面の添付を求める趣旨は、監査事務の遂行をその本来の目的に則してより有効適切に行いうるよう請求内容を特定しようとする行政上の便宜であると同時に、事実に基づかない単なる憶測や主観だけで監査を請求することの弊害を防止することにあると解されるところ、監査請求を行った住民の主張する事実が本当かどうかということは、監査委員の監査の結果によって初めて結果が明らかになってくるのであるから、監査を開始するかどうかという判断の段階において添付すべき「証する書面」としては、監査を求める行為等に該当すべき事実及び違法性を基礎づける事実を具体的に指摘しているものであれば足り、特別の形式は不要であり、かつ、それが事実及び違法であることの証明にどの程度役立つかどうかの吟味も不要であって、監査請求者作成の文書でも足りると解すべきである。そうであるとするならば、住民が監査請求を行うためには、当該行為について一応の疑いを生ぜしめる程度に違法性を基礎づける事実を記載して「証する書面」として提出すれば足りるから、当該行為について一応の疑いを生ぜしめる程度に違法性を基礎づける事実を知ることができたときから相当期間内に監査請求がなされたかどうかを検討すべきことになる。
エ これを本件各支出行為の違法性の点について検討すると、前述のとおり、平成8年12月、知事局の大半が、臨時残業の夜食などに使うため公金の一部を出入りの業者に預けて約1億5,000万円を裏金を作っていたことが判明し、続いて平成9年5月、財団法人国際見本協会が経営するホテルヘの約9000万円の裏金のプールが発覚していたこと、平成9年6月24日の新聞各紙で、大阪府が預け金など不適正な処理が行われていなかったかどうかを全庁的に調査することを決めたことが報道されていたこと、また、〔証拠略〕によれば、平成9年6月23日付の新聞報道において、平成8年12月及び平成9年5月に発覚した裏金問題の原因につき、予算を年度ごとに使い切る「単年度主義」が預け金の背景にあり、また、臨時の必要経費を捻出するための煩雑な手続や、一度決められた予算を執行段階で柔軟に変更することの困難さが不正流用につながったと指摘されていたことが認められる。
そうすると、平成9年6月24日の新聞報道の時点においては、本件訴訟の対象となっていない公金支出について不正が判明していただけであったものの、プールされていた裏金が極めて高額であり、はたして各部、各課だけの処理でこれだけの不正な支出が可能であったか大いに疑問が残ること、かかる問題が生じた原因が大阪府の会計処理方法の問題であることが指摘されていたことからすると、上記新聞報道がなされた時点で、大阪府の住民としては、すでに判明している裏金問題の他にも不適正な公金の支出があったのではないかという疑問を抱いてしかるべきであったといわざるを得ない。そして、かかる疑問は決して不合理ではなく、かつ、前述のとおり、住民監査請求を受ける段階においては、当該行為について一応の疑いを生ぜしめる程度の「証する書面」を添付すれば足り、強度な証明力を有する事実までは記載する必要がないことからすると、大阪府の住民としては、平成9年6月24日ころの時点において住民監査請求をなし得る程度に当該行為の違法性を認識することは可能であったということができる。
また、一歩譲って、仮にかかる程度の事実を記載した書面を「証する書面」として添付しただけでは不適法な監査請求であるとしても、他の公金支出についても不適正な支出がなされていたのではないかという疑問が生じうる状況であったのであるから、相当の注意力をもってすれば、住民がこの時点で情報公開請求をするなどして資料を収集し、一定期間後には、監査請求をなし得る程度に本件支出の違法性を基礎づける事実を知ることができたものと解される。本件でも、原告らは平成10年1月5日に情報公開請求をして、約3か月後の平成10年3月30日には、資料の全部を入手しているのであるから、推進本部設置の報道から遅くとも3か月経過した時点では、本件で原告らが主張している程度の違法性を基礎づける事実を知ることが可能であったということができる。
なお、この時点で府が推進本部を設けたことから、住民が独自に監査請求を行うことは期待できなかったのではないかという点が問題となるが、推進本部を設けたからといって住民監査請求を行うことができなくなるわけではなく、住民は独自に住民監査請求をすることができるのであり、また推進本部による調査は、内部の調査にすぎないことから当初からその実効性に限界があることは予想できるところであるから、府が推進本部を設けて調査を行うことを発表したことから監査請求をすることが不可能であったということはできない。
(5) 当該行為を知ることができたときから相当な期間内に監査請求がなされたか。
監査請求をするにあたって、「証すべき書面」としては、監査を求める行為等に該当すべき事実を具体的に指摘しているものであれば足り、特別の形式は不要であり、かつ、それが事実の証明にどの程度役立つかどうかの吟味も不要であると解されること、違法かどうかは監査の中で調査することであって、違法であることを立証するために十分な証拠を提出することは住民監査請求をするにあたって必要となるわけではないことからすると、「相当な期間」とは、当該行為の適法性につき合理的な疑いが生じたときから、監査請求のための書面等を作成するのに必要な相当な期間を意味するものと解される。そして、本件においては、前記(4)で述べたとおり、遅くとも推進本部設置の報道から3か月後の平成9年9月末の時点において本件各支出の違法性を基礎づける事実を知り得たものであり、原告らが住民監査請求をした、平成10年5月14日の時点では、当該行為の違法性を知ることができた時点から7か月以上経過していることからすると、原告らにおいて相当な期間内に監査請求をしたということができないことは明らかである。
(6) 小括
以上によれば、本件監査請求のうち、平成9年度の統計課の会議接待費及び平成9年度の高校教育課のタクシー借上料についての請求を除く部分については、監査請求期間経過後に監査請求がなされており、かつ、監査請求期間を徒過したことについて、法242条2項但書の「正当な理由」があると認めることはできないから、監査請求期間を徒過した不適法な請求である。
2 監査請求の対象の特定
(1) 大阪府監査委員は、本件監査請求のうち、平成9年度6月分の高校教育課のタクシー借上料及び平成9年度の統計課の会議接待費についてはそれらが違法・不当である理由が個別具体的に明記されていないとして、原告らの住民監査請求を却下しているところ、原告らはいずれについての監査請求の対象が特定されており、かつ、それらが違法・不当である理由が具体的に明記されていると主張するので、検討する。
(2) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件監査請求書には、請求の趣旨として「各部課、各部署で別紙で示すような3632万6712円の違法不正な支出があった」と記載されている。
イ 本件監査請求書の別紙には、飲食(会議接待費)については、「6課9件について2222万2354円が違法不当な支出である。適正・不適正の基準が不明。具体的な会議目的が示されず、会議の必要性が不明。私的飲食、高額飲食、宴会。請求書・内訳書の改竄。ホテルでの早朝食事、高額会場費など目的外支出。(会議接待費:会議用、式日用及び来客接待用の弁当をいう―大阪府の説明)出席者不明のため公務かどうか明らかでない。」と記載されている。
また、本件監査請求書の別紙には、タクシー借上料について、「全額について適不適が不明。目的地、チケット番号、確認印などがなく、いつ、誰が、何の用事で誰とどこまで乗っていくらかかったか、が全く不明。公的な使用かどうかも不明。従って、全てが不正使用。適正と判断した分について調査を行い、その総額を返還させる必要がある。」と記載されている。
ウ 本件監査請求書には、「公開請求資料の支出整理表」及び「公開請求した支出書類の一部写し」が添付されており、「公開請求資料の支出整理表」には、統計課会議接待費平成9年度として、別紙5のとおり記載されている。
エ 本件監査請求書に添付されている「公開請求した支出書類の一部の写し」として、平成9年度6月分のタクシー利用簿が添付されている。
(3) 住民監査請求を申し立てるにあたっては、対象とする当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、また、当該行為等が複数である場合には、当該行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきであり、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合しても、監査請求の対象が右の程度に具体的に適示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であり、監査委員は上記請求について監査をする義務を負わないものといわなければならない(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁)ところ、会議接待費及びタクシー借上料については個々の支出毎に支出が行われる事情が異なるのであるから、会議接待費あるいはタクシー借上料全体を一体とみてその違法又は不当性を判断することは相当ではなく、個々の支出毎にその違法又は不当性を判断すべきである。
そして、平成9年度統計課会議接待費については、本件監査請求書に添付された公開請求資料の支出整理表において、個々の支出が飲食日、金額、請求日などによって個別的、具体的に適示されているから、監査請求の対象となる支出は特定されているというべきである。また、平成9年6月分のタクシー借上料についても、上記タクシー利用簿には個々の支出が行き先、請求金額が個別的、具体的に記載されているのであるから、監査請求の対象となる支出は特定されているというべきである。
また、住民監査請求が、違法又は不当な財務会計行為の是正等を求めるものであること、法242条1項は、事実に基づかない単なる憶測や主観だけで監査を請求することの弊害を防止するために監査請求の際に証する書面を添付することを求めていることからすると、監査請求にあたっては監査の対象となる財務会計行為が違法・不当であるとすべき事由が指摘され、かつ、違法性及び不当性を証する書面が添付されていることが必要であると解される。
会議接待費の支出が違法である理由については、会議接待費全体について包括的に公務のために必要な支出であるかどうか不明である旨が記載されているにすぎないところ、違法となる事由が共通していれば個別に記載する必要はなく、包括的に記載することで足りるというべきであるから、上記各支出が違法・不当である理由は記載されているものと認めるのが相当であり、その根拠として具体的な会議目的が記載されていない、会場費が高額であるなどと監査請求書に記載したうえで、各支出の金額、日時、使用された店、会合に参加した人数などを記載した書面を監査請求書に添付しているのであるから、監査請求書の記載及び証する書面の添付について欠けるところはなく、適法に監査請求がなされているというべきである。
タクシー借上料についても、原告らが情報公開請求により取得したタクシー利用簿が監査請求書に添付されており、監査請求書において、同書面には「目的地、チケット番号、確認印などがなく、いつ、誰が、何の用事で誰とどこまで乗っていったのか、全く不明。公的な使用かどうかも不明。」と記載されているのであるから、原告らは、平成9年6月分タクシー借上料は私的利用のために支出された疑いがあることを違法又は不当であることの理由として主張していることが明らかであり、かかる支出が違法又は不当であることを証する書面としてタクシー利用簿を添付しているのであるから、監査請求書の記載及び証する書面の添付について欠けるところはなく、適法に監査請求がなされているというべきである。
したがって、平成9年度統計課会議接待費及び平成9年6月分のタクシー借上料については、適法に監査請求がなされているのであり、これらの請求についての訴えは、適法な監査請求を経ていない不適法な訴えであるとの被告らの主張は採用することができない。
3 出訴期間の徒過
原告らは、平成13年12月28日、平成9年度統計課会議接待費5万5387円の支出が違法であるとして訴えを追加的に変更したが、かかる訴えは監査の結果が通知されてから30日を超えた後に提起されたものであるから、出訴期間を徒過した訴えであり、不適法である。
4 平成9年6月分タクシー借上料について
〔証拠略〕によれば、大阪府タクシー事業協同組合は、大阪府に対し、平成9年7月17日、高校教育課平成9年6月分タクシー借上料として12万8970円の支払を請求していること、大阪府は、平成9年7月31日、支出命令伺書を起票し、大阪府タクシー事業共同組合に対し12万8970円を支払ったこと、その後、誤払いが判明したため、大阪府タクシー事業共同組合に対し、平成12年12月19日、返納を求め、全額が返納され、平成12年12月22日、誤払いであった3610円の支出を除く12万5360円が改めて支出されたことが認められる。
原告らは、タクシーの利用日と請求日あるいは支払日が隔たっていることを根拠に、高校教育課の平成9年6月分タクシー借上料の支出は、架空の支出であると主張するが、大阪府タクシー事業協同組合が大阪府に対して平成9年6月分のタクシー借上料の支払を請求したのは平成9年7月17日であり、支払がなされたのは平成9年7月31日ころであるから、利用日と請求日あるいは支払日が不自然なほど隔たっているとは認められない。
また、原告らは、平成9年4月分及び平成9年5月分のタクシー借上料については平成9年12月まで請求がなされていないことから、本当にタクシーが利用されていたのか疑問が生じると主張するが、本件訴訟の対象となっているのは、平成9年6月分の支出であるか、平成9年4月分及び平成9年5月分の請求が遅れていたことと、平成9年6月分の支出が適法かどうかとは直接関係がないというべきである。
したがって、高校教育課平成9年6月分タクシー借上料の支出が、タクシーが利用されていないにもかかわらず支出された架空支出であるとの原告らの主張は採用することができない。
また、原告らは、高校教育課平成9年6月分タクシー借上料の支出が公務の為に支出されたかどうか疑わしいと主張するが、本件の全証拠を検討しても、これらの支出が私的利用のために支出されたことを認めるに足りる証拠はないから、原告らの上記主張は採用することができない。
したがって、高校教育課、平成9年6月分タクシー借上料にかかる支出についての原告らの請求は理由がない。
5 結論
以上のとおり、原告らの本件訴えのうち平成9年度統計課会議接待費及び平成9年6月分高校教育課タクシー借上料にかかる訴えを除くものは、適法な監査請求を経ていない不適法な訴えというべきであり、平成9年度統計課会議接待費5万5387円の支出にかかる訴えは、出訴期間を徒過した不適法な訴えというべきであるから、本案につき検討するまでもなく、却下することとし、平成9年6月分高校教育課タクシー借上料にかかる請求については理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三浦潤 裁判官 黒田豊 中島崇)