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大阪地方裁判所 平成11年(わ)2653号 判決 2001年1月15日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、鹿児島県<以下省略>に本店を置き不動産の売買及び仲介等を営むa株式会社(以下「a社」という。)の代表取締役であるが、

第一  株式会社b機構(以下「b機構」という。)の根抵当権が設定されたa社所有の二物件を担保に株式会社c銀行(平成一〇年一〇月一日、合併により「株式会社c1銀行」となる。以下、併せて「c銀行」という。)から融資を受けることを約しながらこれを秘して、右融資金額よりも低い金額で第三者に右各物件を仮装譲渡し、b機構に対しては、右各物件の仮装譲渡価格の範囲で債務の返済を行うことにより各根抵当権を放棄させてその登記を抹消させようと企て、Aらと共謀の上、平成一〇年七月下旬ころ、大阪市<以下省略>所在のb機構第六事業部大阪支店において、a社に対する債権回収等の業務を担当していた右第六事業部大阪支店調査役B及び同人らを介し同支店長Cらに対し、真実は被告人が実質的に支配、経営する大阪市<以下省略>に本店を置く株式会社d(以下「d社」という。)(代表取締役D)とc銀行との間において、b機構がe株式会社(以下「e社」という。)から、債務者をa社、極度額を六億三六〇〇万円とする第一順位の根抵当権をa社に対する債権と共に譲り受けてその旨登記を了していたa社所有の鹿児島市○○町九番一五の宅地及び同宅地上の建物(以下、右登記を「本件根抵当権一の登記」と、右物件を「○○町九番物件」とそれぞれいう。)に、c銀行が第一順位の根抵当権を設定することを条件に九一〇〇万円を融資し、また、b機構が右e社から、債務者をa社、極度額を六億三六〇〇万円とする第一順位の根抵当権をa社に対する債権と共に譲り受けてその旨登記を了していたa社所有の鹿児島市△△f丁目五六番八及び同九の宅地及び同宅地上の建物(以下、右登記を「本件根抵当権二の登記」と、右物件を「△△物件」とそれぞれいう。)に、c銀行が第一順位の根抵当権を設定することを条件に二億五〇〇万円を融資することが約定されていたのに、これらの事実を秘して、右Aが○○町九番物件を四六〇〇万円、△△物件を一億三〇〇万円でそれぞれ購入する旨の同人作成名義のa社宛て内容虚偽の不動産購入申込書二通を交付して、○○町九番物件及び△△物件をいずれも右Aに右価格で譲渡する旨虚偽の事実を言って、右Bらをしてその旨誤信させた上、同人らをして、東京都千代田区<以下省略>所在のb機構第六事業部長E宛てに、a社が、○○町九番物件及び△△物件を、右Aに対し、それぞれ四六〇〇万円及び一億三〇〇万円で譲渡するので、それぞれの譲渡代金から、それぞれ仲介手数料等を差し引いた四三九八万八〇〇〇円及び九九一九万二五〇〇円の各返済を受けることにより根抵当権の放棄を原因として本件根抵当権一及び二の各登記を抹消したい旨上申させ、同年八月一二日ころ、右Eをして、右上申どおり承認決定させて、その登記手続書類を被告人に交付させ、よって、同年九月一〇日、鹿児島市<以下省略>所在の鹿児島地方法務局において、根抵当権の放棄を原因として本件根抵当権一の登記を抹消させ、次いで、同年九月一七日、同市<以下省略>所在の鹿児島地方法務局谷山出張所において、根抵当権の放棄を原因として本件根抵当権二の登記を抹消させ、もって、財産上の不法の利益を得た、

第二  b機構の抵当権等が設定されたa社所有の二物件を担保にc銀行から融資を受けることを約しながらこれを秘して、右融資金額よりも低い金額で第三者に右各物件を仮装譲渡し、b機構に対しては、右各物件の仮装譲渡価格の範囲で債務の返済を行うことにより各抵当権等を放棄させてその登記を抹消させようと企て、Fらと共謀の上、平成一〇年九月下旬ころから同年一〇月中旬ころにかけて、前記b機構第六事業部大阪支店等において、a社に対する債務回収等の業務を担当していた右第六事業部大阪支店調査役B、その後任調査役G及び同人らを介し同支店長Cらに対し、真実は被告人が実質的に支配、経営する前記d社(代表取締役D)とc銀行との間において、b機構がe社から、債務者をa社、債権額を合計一億円とする第一順位及び第二順位の各抵当権をa社に対する債権と共に譲り受けてその旨登記を了していたa社所有の鹿児島市□□町一番二四の宅地及び同宅地上の建物(以下、右登記を「本件各抵当権の登記」と、右物件を「□□町物件」とそれぞれいう。)に、c銀行が第一順位の根抵当権を設定することを条件に七三〇〇万円を融資し、また、b機構が右e社から、債務者をa社、極度額を六億三六〇〇万円とする第一順位の根抵当権をa社に対する債権と共に譲り受けてその旨登記を了していたa社所有の鹿児島市○○町一五番二の宅地及び同宅地上の建物(以下、右登記を「本件根抵当権三の登記」と、右物件を「○○町一五番物件」とそれぞれいう。)に、c銀行が第一順位の根抵当権を設定することを条件に一億四〇〇万円を融資することが約定されていたのに、これらの事実を秘して、右Fが□□町物件を三八〇〇万円、○○町一五番物件を四八〇〇万円でそれぞれ購入する旨の同人作成名義のa社宛て内容虚偽の不動産買付証明書二通を交付して、□□町物件及び○○町一五番物件をいずれも右Fに右価格で譲渡する旨虚偽の事実を言って、右B及び右Gらをしてその旨誤信させた上、同人らをして、東京都千代田区<以下省略>所在のb機構第六事業部長E宛てに、a社が、□□町物件及び○○町一五番物件を、右Fに対し、それぞれ三八〇〇万円及び四八〇〇万円で譲渡するので、それぞれの譲渡代金から、それぞれ仲介手数料等を差し引いた三六七四万円及び四六四二万五〇〇〇円の各返済を受けることにより抵当権及び根抵当権の放棄を原因として本件各抵当権の登記及び本件根抵当権三の登記を抹消したい旨上申させ、同月一六日ころ、右Eをして、右上申どおり承認決定させて、その登記手続書類を被告人に交付させ、よって、同年一一月九日、鹿児島市<以下省略>所在の鹿児島地方法務局において、抵当権及び根抵当権の放棄を原因として本件各抵当権の登記及び本件根抵当権三の登記をいずれも抹消させ、もって、財産上の不法の利益を得た

ものである。

(証拠の標目) 省略

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも包括して刑法六〇条、二四六条二項に該当するが、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人の本件各行為は詐欺利得罪における欺罔行為に当たらず、財産上の損害も発生していないから、被告人に詐欺利得罪は成立しないと主張する。

しかし、本件において、被告人は、真実はc銀行の被告人経営に係るa社に対する不良債権の回収の一環として、被告人が実質的に支配、経営するd社にa社所有の本件各物件を移転し、これを担保にc銀行から新たに融資を受けるために、本件各物件に設定されたb機構の有する第一順位の根抵当権等の登記を抹消させるつもりであるのに、その事情を秘してあたかもa社が第三者に対する正規の任意売却をするかのように装って、これを信じたb機構の担当者をして本件各物件に設定された根抵当権等につき放棄を原因としてその登記の抹消に必要な登記手続書類を交付させたものであるところ、b機構としては、正規の任意売却であり、a社ひいてはその経営者である被告人が本件各物件を第三者に処分するものと信じたからこそ、右各物件の評価額に近い金額の価格で売却することを認め、根抵当権等の登記の抹消に応じたのであって、実質上被告人の資産が残る担保の付替えであり、仮装譲渡ということで譲渡価格も被告人が融資額の範囲内で左右できることが分かっていれば、根抵当権等の登記の抹消自体に応じること、あるいは被告人の経営するa社の方で提供する登記抹消料等の条件の下でこれに応じることはありえないと認められることから、被告人の本件各行為が詐欺利得罪における欺罔行為に当たることは明らかである。また、根抵当権等の放棄を原因とするこれら根抵当権等の登記の抹消は担保物権という個別財産に関わるものとしてその喪失自体が財産上の損害といえるから、詐欺利得罪における財産上の損害が発生していることも明らかである。

したがって、弁護人の主張は採用できない。

よって、主文のとおり判決する。

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