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大阪地方裁判所 平成11年(ヨ)10089号 決定 2000年5月09日

債権者

加登久美子

右代理人弁護士

鎌田幸夫

小林徹也

債務者

エールフランス航空

右日本における代表者

ベルナール・アンケ

右代理人弁護士

中山夫

男澤才樹

中島秀樹

主文

一  債務者は、債権者に対し、平成一一年七月から平成一二年六月まで、毎月二五日限り月額二五万円の割合による金員を仮に支払え。

二  債権者のその余の申立てを却下する。

三  申立費用は債務者の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  債権者

1  債権者が、債務者に対し、雇用契約上の地位を有することを仮に定める。

2  債務者は、債権者に対し、平成一一年七月から本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り月額二五万円の割合による金員を仮に支払え。

3  申立費用は債務者の負担とする。

との決定を求める。

二  債務者

1  債権者の申立てを却下する。

2  申立費用は債権者の負担とする。

との決定を求める。

第二事案の概要

一  争いがない事実等

1  当事者

(一) 債務者は、本店をフランスに置き、日本国内においても東京、大阪、福岡などの支店を持つ航空会社である。

(二) 債権者は、昭和四一年九月一一日生の女性であり、平成二年二月、日本航空大阪空港支店に契約社員として雇用され、平成三年二月、期間満了により退職し、同年三月、株式会社JALプラスに契約社員として雇用され、平成八年一月、期間満了により退職し、同年五月、ルフトハンザドイツ航空大阪支店に派遣社員として勤務し、平成九年六月、期間満了により退職した者で、平成九年七月七日、債務者に、期間を平成一〇年七月六日までとする臨時契約社員として採用された(以下「本件契約」という)。その後、債権者と債務者は、同年七月二日、期間を平成一一年七月六日までとして、本件契約を更新した(書証略)。

2  賃金等

月額給料は、二五万円である。

支払日は、当月末日締めの当月二五日である。

3  更新拒絶

債務者は、平成一一年六月四日、債権者に対し、本件契約の更新をしない旨告げた(以下「本件更新拒絶」という)。

二  争点

1  本件更新拒絶に解雇法理の適用があるか否か

2  本件更新拒絶の合理性の有無

3  債権者の信義則違反の有無

4  保全の必要性

三  当事者の主張

1  争点1(本件更新拒絶に解雇法理の適用があるか否か)について

(一) 債務者

(1) 本件契約には、期間が明記されており、契約更新条項はない。しかも、債務者では、期間満了時、更新をする場合には、あらかじめ期間一年とする契約締結の意思を確認して、その都度、改めて契約書を作成し本人の署名を得る手続きをしており、自動更新の如き手続は一切していない。債権者についても、期間満了時に改めて本人の意思を確認して期間一年の臨時契約社員契約を締結しているところである。従って、本件更新拒絶に解雇法理の適用はなく、本件契約は期間満了により当然終了したものである。

(2) 本件契約は継続雇用を期待させるものではない。

債務者においては、平成九年七月一日から新たに名古屋-パリ路線の直行便が就航することとなったが、これに伴い、大阪及び西日本地区支店(以下「大阪支店」という)の予約課に一名を増員することとし、同年二月、新たに派遣社員一名(浜田)を入れた。しかるところ、浜田が急に同年七月四日でやめることになったため、浜田の代わりに債権者を臨時契約社員として採用し、同年七月七日付けで予約課に配属したのである。従って、債権者の採用は、新たに名古屋-パリ直行便が就航することによる業務量の増加に対応したものであり、しかも、新航路開設は、開設後の利用収益状況により見直すことが常であるため、期間一年の臨時契約社員として債権者を採用したものである。これらの採用事情については、採用面接時に債権者に対し説明しているところである。

(3) 債権者は、女性の臨時契約社員はすべて三年経過後に正社員として採用されていると主張しているが、そのような事実はない。

債務者が大阪支店及び関西空港支店で臨時契約社員を採用したのは平成四年からであり、以後、現在までの間に債権者を含め六名の臨時契約社員がいたが、その中で正社員となった者は一名だけである。この一名は空港旅客に所属した渡辺であるが、同人は一九九四年に臨時契約社員に採用された後、パリ研修センターにおいて搭載業務資格試験に合格し、パリ本社から搭載業務資格者の認定を得たことから、債務者は平成九年に正社員として採用したのである。その他の大阪支店における臨時契約社員で正社員になった者はいない。

(4) マネージャー村松が更新の約束や正社員登用の言明をしたことは全くない。村松にはそのような権限はもとよりない。

(二) 債権者

(1) 債務者日本支社においては、平成一一年四月一日以前は、女性は、すべて、臨時社員として採用し、二年ないし三年の勤務の後、正社員に登用していたのである。そして、債権者も、採用面接及びその後の勤務時において上司より、正社員登用を明言されていたのである。そうすると、本件契約は、形式的には一年の期間の定めがあるものの、その実質は、期間の定めのない雇用契約に類似するものである。

(2) 債務者においては、契約社員に対し、「三年後には正社員として雇用する」と説明しており、実際にも、契約社員として入社しても契約後三年が経過すれば、正社員として雇用されることが慣例化していた。

また、債務者においては、すべて女性は、当初は正社員として採用せず、契約社員として採用し、その後三年間経過した後(二回更新)、正社員として採用している。

(3) 債務者は、名古屋-パリ直行便が就航することに伴う業務量増加に対応するため債権者を採用したというが、これは事実に反するものである。すなわち、債権者は、平成八年六月の雇用の際の面談において、正社員の星野が定年退職するので、その後任として採用する旨説明されており、名古屋-パリ直行便就航に伴う業務量増加のための採用であるという説明は受けていない。

(4) 債権者は、一回目の契約更新時の直前である平成一〇年六月、マネージャー村松佳世から「うちは、女性社員が少ないので、淋しい思いをしてきた。磯島さん(予約課における債権者以外の契約社員)、加登さんお二人に、いずれ正社員になってもらいたい」と言われ、契約更新を約束された。

また、債権者は、同年七月一〇日にも、村松に、「契約社員として三年間勤めれば正社員になれる、ということを坂本支店長より言われた。自分としても貴方を正社員にしたいと思っている。債務者を信頼して任せて欲しい」と言われている。

債権者は、このように、債務者から更新の意向、正社員への登用を明言されたことから、債権者としては継続的に雇用に対し合理的期待を有していたのである。

2  争点2(本件更新拒絶の合理性の有無)について

(一) 債務者

債権者に対する本件更新拒絶には合理的な理由があり、雇止めは有効である。すなわち、債務者においては、平成一〇年一一月からタヒチ便が廃止され、また、ヌメア便の予約業務の取扱いが東京支店へ変更となった。さらに、名古屋-パリ直行便の航路は平成一一年四月一日に廃止となった。これにより、大阪支店の予約業務が大幅に減少し、予約課でも剰員が生じたため、名古屋-パリ直行便開設に伴い雇用した債権者を期間満了で雇止めにしたものである。

従って、本件更新拒絶は業務上の理由に基づく合理的なものである。

(二) 債権者

(1) 本件契約は、期間満了後の継続雇用を合理的に期待させるような雇用であるといえ、更新拒絶が認められるためには拒絶が相当と認められるような特段の事情が必要である。

(2) タヒチ便の廃止及びヌメア便の予約業務の取扱いの変更は、いずれも大阪支店の業務量に変化をもたらすものではないし、名古屋-パリ直行便の廃止についても、その予約業務は名古屋支店において行っていたもので、右廃止は大阪支店の業務に殆ど影響を及ぼすものではない。債権著は、前述のとおり、名古屋-パリ直行便就航に伴う業務量増加のための採用であるという説明は受けていないし、名古屋支店において平成一〇年に臨時社員として雇用した服部についても、平成一一年三月に契約を更新しており、また、大阪支店の業務量は、近時増大しているのであるから、債権者について更新拒絶をする合理的な理由はない。

3  争点3(信義則違反の有無)について

(一) 債務者

債権者は、本件更新拒絶を承認していたものであり、本件更新拒絶を争うことは許されない。債権者が、平成一一年七月六日をもって期間満了となり、期間満了による契約終了を承認し、何ら異議なく円満に退職したものであることは次の事実から明白である。

(1) 債権者は退職に際して職場の従業員に退職の挨拶を行っている。

(2) 会社が本件更新拒絶の意思表示を行った平成一一年六月四日以降退職した七月六日までの間、債権者が本件更新拒絶について会社に異議を申し入れたことは全くない。

(3) 債務者は、債権者に対し、退職前の平成一一年六月一七日付け文書で退職手続に関する通知を行い、債権者はこれに基づき必要な手続を行っている。

(4) 債権者は、退職前の平成一一年六月に他の航空会社等の関係者宛に、「私儀このたび七月五日をもちましてエールフランス航空を退職いたすこととなりましたので、ここに謹んでご挨拶を申し上げます」「皆様方のお陰で大過なくつとめさせていただき幸せに思います。人生の貴重な経験として今後に生かしていくつもりでございます」などを記載した退職挨拶状を印刷して郵送している。

(5) 離職証明書の離職理由に債権者自ら「契約期間満了」として署名捺印している。

従って、債権者が雇止めを承認していたことは明らかであるから、雇止めを争うことは信義則に反し許されない。

(二) 債権者

債権者が、本件更新拒絶を承認したことはない。債権者は、本件更新拒絶に納得がいかなかったが、法的な知識がなかったこともあって、退職の挨拶などをしたものである。

4  争点4(保全の必要性)について

(一) 債権者

債権者は、債務者からの収入を重要な生活源としていたことから、同社を解雇されれば、直ちに生活が行き詰まる状況にある。

(二) 債務者

否認する。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件更新拒絶に解雇法理の適用があるか否か)について

1  債権者は、債務者日本支社においては、平成一一年四月一日以前は、女性は、すべて、臨時社員として採用し、二年ないし三年の勤務の後、正社員に登用していたと主張するので検討するに、(書証略)、審尋の全趣旨によれば、債務者日本支社においては、昭和五九年以後の一六年間、女性四二名を臨時契約社員として雇用し、その内一九名を、一ないし三回更新後、正社員として採用したこと、また、内一三名(債権者を除く)は退職していること、女性の正社員を臨時契約社員以外から採用したことはないことを認めることができる。これによれば、債務者日本支社においては、正社員を雇用するについて、まず臨時契約社員として雇用することとしているかのように採れないこともない。しかし、臨時契約社員の中には、更新拒絶によって、退職や転職を余儀なくされた者もあり、臨時契約社員を二、三年後に必ず正社員に採用するとの制度を採っていないことも明らかである。二、三年後に必ず正社員にするのであれば、臨時契約社員として採用する意味がないともいえる。

2  債務者は、名古屋-パリ直行便が就航することに伴う業務量増加に対応するために採用した派遣社員の浜田が急に辞めたため、その後任として債権者を採用したと主張し、これは一応認められる。債権者は、正社員の星野の後任として採用されたというが、その地位及び業務内容からいって、これを採用することはできない。

しかしながら、債務者が、債権者に対し、名古屋-パリ直行便が就航することに伴う業務量増加に対応するための臨時採用であると説明したことはなく、むしろ、継続して雇用することを前提とした発言をした。債務者は、これを否定するが、臨時契約社員の中から正社員が雇用されているという実態があり、浜田の後任を至急確保する必要があったことからすると、歓心を買うような発言をしたものと推認するのが相当である。そして、雇用後においても、上司が、「正社員になってもらいたい」といった趣旨の発言をしたことは、正社員の雇用についての右のような実態があることからすると、ありうることというべきである。その発言は、職務の精励を求めるためのもので、正社員にするという約束とはいえないが、これが本件契約の更新に対する期待をもたらすものであることは否定しがたい。

3  以上によれば、本件契約は、更新を予定した契約であって、更新拒絶には、合理的な理由を必要とするというべきである。

二  争点2(本件更新拒絶の合理性の有無)について

債務者は、更新拒絶の理由について、タヒチ線が廃止されたこと、ヌメア便の予約形態が変わったこと及び名古屋-パリ直行便が廃止になったことによる業務量の減少を挙げる。

確かに、タヒチ線が廃止されたこと及びヌメア便の予約形態が変わったことにより予約業務量が減少したことは推認できるが、審尋の全趣旨によっても、その量は、さほど多くはないものといえる。名古屋-パリ直行便の廃止についても、その予約業務は、受付その他を名古屋支店においても行っており、債権者以外の者の担当する部分もあり、右廃止によって、債権者の行う業務量が格段に減少したということも認められない。また、西日本地区における予約業務量は減少傾向にあるが、右は名古屋支店又は福岡支店において行われる業務をも含むものであり、平成一一年六月の時点において、これが債権者について本件更新拒絶を正当とする程度の減少があったとする疎明には至っていない。

してみれば、本件更新拒絶については、未だ合理性を肯定できないから、本件契約は、平成一一年七月七日以降も、継続したものということができる。

三  争点3(信義則違反の有無)について

債務者主張の事実を前提としても、未だ信義則違反ということはできない。

四  争点4(保全の必要性)について

(書証略)審尋の全趣旨によれば、債権者は、債務者からの収入を重要な生活源としていたもので、他に収入があるとはいえないから、月額二五万円について保全の必要性を認めることができる。ただし、本件契約は、期間を一年とする契約であって、債務者における取扱人数の減少率が平成一一年九月以降著しいこと(書証略)を考慮し、賃金の仮払いを認める期間はとりあえず平成一二年六月までとする。また、債権者は雇用契約上の地位を有することを仮に定める旨の裁判を求めるが、右地位を仮に定めることによって法律上の効果が生じるものではないから、右申立て部分は必要がないものと認める。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 松本哲泓)

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