大阪地方裁判所 平成11年(ワ)11964号 判決 2000年4月28日
原告
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
梅田章二
高木吉朗
原野早知子
被告
大阪観光バス株式会社
右代表者代表取締役
木村雄吉
右訴訟代理人弁護士
芝原明夫
莚井順子
渡部孝雄
主文
一 本件訴えのうち、原告が被告に対し、本判決確定後に支払期日の到来する賃金の支払を求める部分を却下する。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告が被告の従業員の地位にあることを確認する。
二 被告は原告に対し、平成一一年一〇月から毎月二八日限り三〇万八七四二円を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告から解雇の意思表示を受けた原告が、被告の主張する解雇事由の存在を争って右意思表示は合理的な理由のない解雇権の濫用であると主張し、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
被告は、旅客自動車運送事業等を営む会社である。
原告は、平成三年八月二一日、被告に雇用され、平成四年六月二一日、正社員たるバス運転手となった。
原告は自交総連大阪観光バス労働組合(以下「組合」という。)書記長である。
原告の賃金は、毎月二〇日締切り、同月二八日支給であった(就業規則五七条、<証拠略>)。
被告は、平成一一年一〇月一日、原告に対し、就業規則八八条八項及び二〇項に該当する懲戒解雇事由があるとして懲戒解雇の意思表示をし(以下「本件解雇」という)、同日以後の賃金を支払わない。
なお、被告の就業規則八八条は、懲戒解雇と題して「従業員が次の各号の1に該当するときは懲戒解雇処分を行う。(中略)8.風紀濫用等により職場の規律を乱したとき。(中略)20.許可なく、会社の車輛を他人に運転させ、又は貸与したとき。(後略)」と規定している(<証拠略>)。
二 本件の争点
1 本件解雇が権利濫用か(懲戒解雇事由があるか)
2 原告の賃金請求権の有無及び額
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1(解雇事由の有効性)について
1 被告の主張
原告には、就業規則八八条八項及び二〇項に該当する以下の懲戒解雇事由が存し、本件解雇は正当である。
(一) JTB添乗員に対するセクハラ行為
被告は、平成一一年一月、取引先であるJTB関西メディア(以下「JTB」という。)の販売事業部国内企画第二課長金丸桂三から、女性添乗員から運転手である原告及びKによるいわゆるセクハラの苦情が出ているとの連絡を受けた。
被告運行部長中井隆三が原告らに事実を確認したが、両名とも覚えていないと述べたため、中井はJTBの金丸を訪問して具体的な調査を依頼した。
同月一九日、金丸からの調査結果が届けられたが、それによると、原告に関しては多数の被害が報告されたとして今後の強い指導が要請されていた。
原告の多数のセクハラ行為は被告の信用を低下させるものであり、中井は原告に口頭注意を与えた。
(二) 乙山花子に対するセクハラ行為
被告の従業員でトラベルコンパニオンをしている乙山花子は、同年五月一六日ないし一七日の一泊ツアーに同行した際、バス運転手Oから性的関係を迫られそうになるという被害を受けた。
乙山が同年九月七日ないし八日の立山への一泊ツアーに同行した際、回送のための原告運転のバスに同乗して運転席横のガイド席に座っていたところ、原告は、乙山に話しかけ、Oとの件に関して同人が「どこまで触った」などと微細に聞き出し、乙山の膝、太股、胸を触り、スカートの中に手を入れるなどした。
同月八日午後九時ころ、客を降ろし右ツアーを終えて帰社すると、原告は乙山をしつこく誘って自家用車で生駒山の展望台に連れ出し、乙山に抱きつき、乙山から拒絶されたにもかかわらず、更にその後も車中でも抱きつこうとした。
その帰路、原告は乙山をホテルに誘ったが、乙山から拒否された。
(三) 原告による専恣な運転手配置
同月一一日、出勤時刻に遅刻しそうになった原告は、運行課の小野に電話して、原告の代わりに待機場所までバスを移動させるよう依頼した。小野は急遽出勤してバスを出庫させようとしたが、宿直者に止められた。
このような行為を被告がこれまで黙認したことはない。
宿直者から連絡を受けた中井が、原告に電話して注意したところ、原告は「なにが悪いんや」と食ってかかり、さらに、被告の副社長にも電話して「書記長としてなにが悪いんや」などと述べて自らの落ち度を誤魔化そうとした。
(四) ビラ配付をほのめかす脅迫
同月二〇日、中井が原告を呼んで乙山へのセクハラ行為(右(二))について事実確認をしようとしたところ、原告は回答を拒否し、「中井部長こそ口でセクハラしとるやないか。ビラまいたろか」と述べて、中井を脅迫した。
2 原告の主張
被告が解雇事由として主張する事実はない。本件解雇は合理的な理由なしになされたものであって無効であり、原告は被告の従業員たる地位を有する。
(一) JTBの添乗員に対するセクハラ行為に関して、平成一一年一月ころ、JTBから被告に対し、原告らのセクハラについて苦情がきたこと、原告が中井から事実確認を受けた際覚えていないと答えたこと、さらに、JTBから被告に対し、原告のセクハラ行為について報告文書が提出されたことは認めるが、原告がJTBの添乗員にセクハラ行為をした事実はない。
原告は、中井と金丸との会談に同席した組合執行委員長から、JTBは問題を公にするつもりはないと言っており、解決した旨聞かされた。その後、中井から特段の注意も受けていない(但し、原告は、先に、中井から口頭注意を受けた事実を認め、仮にセクハラ行為があったとすれば申し訳なかったとの意向を示した旨主張していた)。
(二) 乙山花子に対する種々の行為のうち、同年九月八日午前一〇時ころ、回送中のバスの中で高速道路を降りて領収書を渡そうとした際、乙山の足に軽く触れ、「長い足してるなあ。身長は一七〇センチくらいか」と尋ねたことはあるが、卑猥な冗談を言ったり、胸や太股に触ったり、スカートの中に手を入れようとしたことはない。
帰社後、乙山と生駒山にドライブに行ったが、しつこく誘ったり、抱きついたり、ホテルに誘うなどしたことはない。
(三) 運転手の配置の件についても、同月一一日、原告が、遅刻しそうになったため、小野に電話して原告の代わりに待機場所までバスを移動させるよう依頼したことはあるが、このような応急措置は被告では黙認されていた。
中井から電話で叱責された際も、原告は謝罪したうえで指示を仰いだが、中井は「自分で勝手にやれ」と言って電話を切ったので、原告はやむなく副社長に電話した。
その際、原告は、中井に食ってかかったりはしていないし、組合書記長の地位を引き合いに出したこともない。
また、結果的には遅刻することなく勤務に就いている。
(四) ビラ配布等の発言について、原告が被告主張の発言をしたことはあるが、原告は、中井が女性ガイドにセクハラ的言動をしていることを被害女性から直接聞いていたのでその旨を中井に言ったまでであるし、ビラ配付の発言も、余りにも事実無根の中井の話に、売り言葉、買い言葉で出たに過ぎず、恫喝ではない。
なお、本件解雇の背景事情として、被告では、中井が平成九年五月に運行部長に就任して以来、従業員の些細な行動に目を付け、退職強要、一方的な配置転換、団体交渉拒否、不当な解雇等を強行してきたため、組合がこれに抗議するなどして労使関係が悪化してきたとの事情がある。本件解雇は、このような状況下でなされたものであって、中井に屈服しない姿勢を見せていた原告に対する報復的措置の疑いが強い。
二 争点2(賃金請求権の有無及び額)
1 原告
本件解雇は無効であるから、原告は本件解雇がなされた平成一一年一〇月一日以降も賃金請求権を有している。
原告の、平成一一年四月から同年六月までの三か月の賃金の月平均額は三〇万八七四二円であった。
よって、同年一〇月以降毎月二八日限り三〇万八七四二円の支払を求める。
2 被告
争う。
第四当裁判所の判断
一 将来の給付請求について
原告は、毎月の賃金につき、将来の給付を求めるが、被告の従業員たる地位を確認する判決がなされた場合であっても、原告の労務提供がいつまでなされるかは不確定であり、他方、右の判決が確定すれば被告が原告を従業員として処遇することも期待できるから、本訴請求のうち、本判決確定後に支払期が到来する賃金の支払を求める部分については訴えの利益を欠くというべきである。
よって、右部分は不適法として却下する。
二 争点1(解雇事由の存否)について
1 証拠(<証拠・人証略>、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 被告では、宿泊を要するツアーなどの乗務もあるため、かねてから男性運転手と女性ガイドなどの男女関係が杜撰にならないよういわゆる不倫関係が発覚した従業員は退職させるなどの対応をしてきた。
しかるに、原告は、女性ガイドに抱きついたり、女性従業員の臀部を触るなどの振る舞いがあり、これまでにも上司から注意を受けることが一度ならずあった。
平成一一年一月ころ、被告は、取引先であるJTBから、添乗員から原告及びKによるセクハラの苦情が出ている旨の連絡を受けた。
被告の運行部長であり、最高責任者として現場の管理を任されていた中井が原告らから事情を聴取したところ、原告は、どこまでがセクハラか判らないなどと曖昧な応答をした。このため、中井は、組合執行委員長及び原告とを同行してJTBを訪問し、応対に出たJTBの金丸に対してとりあえずの謝罪をするとともに、具体的な調査を依頼した。同月一九日ころ、JTBから被告に実態調査の結果が文書で届けられたが、それによると、Kに関しては一人の添乗員からの報告でその時期も前年二月ころの古いものであり、勇み足であったかも知れないとして、嫌疑をかけたことに対する謝罪が述べられていたが、原告に関しては、具体的な被害内容や申告者の氏名の記載はないものの、多数の報告があったとして今後の指導が要請されていた。
中井は、原告に口頭で注意を行うとともにJTB宛の始末書を提出させた。
(二) 乙山は、平成一一年一月に被告にトラベルコンパニオンとして被告に雇用され、同年二月頃からバス添乗業務に就くようになった。
乙山は、同年五月ころ、勝浦温泉への宿泊付きツアーに同行したが、その際、宿泊先のホテルで運転手のOから押し倒されて、身体を触られるなどされたことがあった。
被告では同年九月七日から八日にかけてバス二台による立山へのツアーがあり、これに原告、Oほか一名の運転手が交替で乗務し、車掌として乙山が同行した。
乙山は目的地のホテルで客を降車させた後、次の回送地につくまでの約三時間半にわたって原告運転のバスに乗車していた。その間、乙山が運転席横に設置されているガイド専用席に座っていると、原告は、同年五月のOとのことを話題にし、どこまでされたのかとかどこを触られたのかなどと尋ねてきた。また、高速道路に入って直線道路を走行することが多くなると、乙山のストッキングがほころんでいることにかこつけて乙山の膝の間に手を入れたり、会話の合間にきれいな足をしているなどと言って脚部を触ったり、さらには運転席から腕を伸ばして胸を触るなどの行為を、約一時間半にわたって断続的に行った。
乙山は、入社後まだ日が浅いことや原告との同乗は二度目であり、一度目の乗務の際にも原告との間に軋櫟があったことなどから、原告の右行為を強く拒絶できないでいた。
同年九月八日午後九時ころ、大阪市の難波付近で乗客を降車させ右ツアーを終えて帰社する際、原告は、食事に行こう、夜景を見に行こうなどと言って乙山を執拗に誘い、乙山が断りきれずにこれを承諾すると、乙山を原告の自動車に同乗させて生駒山の展望台に連れて行き、降車した乙山の背後からいきなり抱きつき胸を触るなどした。乙山が強く拒絶して、帰宅したい旨述べたことから、原告は、乙山を自動車に乗せて一旦は帰路についたものの、途中の人気のないところに停車させて、乙山の手を強く引っ張って抱きつこうとし、さらに、ホテル前でも停車させて、ホテルに行こうと誘ったりしたが、いずれも乙山に拒絶された。
(三) 同月一一日、原告は、出勤時刻に遅刻しそうになり、当日予定の乗務に間に合わなくなりそうになったため、被告には何らの連絡をすることもなく、会社付近に自宅がある運行課の小野に電話して、原告の代わりに待機場所までバスを運行して移動させるよう依頼した。小野は自宅から急遽出勤してバスを出庫させようとしたが、そのことは宿直の山田から中井に報告され、中井の指示を受けた山田によってバスの出庫は止められた。
中井が原告に電話して注意しようとしたが、原告は、なにが悪いんやなどと言って反抗し、被告の副社長にも電話したりしたが、かえって副社長からも勝手なことをしないようになどと言われて取り合われなかった。
なお、原告は出勤時刻には遅刻したものの、予定どおりの乗務には就くことができた。
(四) 乙山は、原告から右の(二)のような被害を受けた旨を他の運転手に相談し、同人が届けたことから被告の知るところとなった。
同月二〇日、中井が原告を呼んで乙山に対するわいせつ行為について事実確認のための事情聴取をしようとしたが、原告は、「中井部長こそ言葉でセクハラをしているやないか。ビラまいたろか」などと述べて、事情聴取に応じなかった。
2 以上認定の事実に対し、原告は
(一) JTB添乗員にセクハラ行為をしたことはないし、これに関して被告から注意を受けたこともないと主張する。
なるほど、苦情を寄せられたセクハラ行為といってもその内容が不明ではあるが、JTBの添乗員多数が全く根拠もない被害申告をするとは考えられないし、原告自身も、本人尋問では、JTB宛に始末書を提出した事実は認めており、何らの心当たりもないまま自発的に不名誉な始末書を提出するなどということも考えられないことであって、原告が、JTBの添乗員に性的な事柄に関わる不愉快な思いをさせるような振る舞いを重ねていたこと、これに関して被告から注意を受けて右始末書を提出したことは否定できないところであり、原告の右主張は採用できない。
(二) 乙山に対するセクハラ行為として被告が主張する事実のうち、回送バスの中で、高速道路の領収書を渡す際乙山の足に触れたことは認めながら、それ以外の事実はないと主張し、本人尋問では、これに加え、生駒山の展望台に行った際、冗談で、瞬時抱きついたとの限りでは右事実の一部を認めるに至ったが、その余の事実はなお否定する供述をしている。
しかしながら、証人乙山は、右認定を裏付ける証言をしているところ、その証言には格別不審な点は認められないし、同人が、自己の恥辱の属す事実を敢えて捏造してまで、原告を誹毀しなければならない理由もない。他方、原告が展望台で乙山に抱きついたという事実は乙山からの供述録取書(<証拠略>)に記載されており、右書証はすでに第一回口頭弁論期日(平成一一年一二月二四日実施)で提出されていたところ、原告は、その後の弁論準備手続期日でも右事実を否認する準備書面を陳述し、同旨を記載した陳述書(<証拠略>)を提出していたのに、乙山の証人尋問後に行われた本人尋問において突如これを認めるに至ったものであって、状況を見ながら場当たり的に供述を変遷させているというほかない。
よって、右認定に反する原告本人尋問の結果や原告の陳述書の記載は信用できず、これに関する原告の右主張は採用できない。
(三) 運転手の配置の件でも、被告では、応急処置として他の運転手に代わって貰うことは黙認されていたとか、中井に謝罪し指示を仰いだが、勝手にやれと言って電話を切られたなどと主張し、本人尋問でこれに沿う供述をするほか、陳述書(<証拠略>)にも同旨を記載している。
しかるに、原告は、本人尋問で、このような場合の常識として、被告に連絡して指示を仰ぐべきであることは心得ており、現に宿直には連絡したが、宿直者の山田が中井に連絡するなどというので、間に合わないと思って自己の判断で小野に依頼したなどとも述べている。
原告の右供述からすると、応急措置といえども勝手な運転手の手配が許容されていないことは原告自身当然の前提にしているというべきであるし(証人中井も、従業員が運転手を勝手に変(ママ)えて手配することを黙認したことはなく、このような場合の措置を明記したものはないが、被告に連絡して指示を仰ぐべきであると証言している)、宿直に連絡したなどという供述も本人尋問になって突如述べられたものであって、原告が恣意的に供述を変遷させたものと考えられ、到底信用できるものではない。
また、原告が中井から注意を受けた際、謝罪し指示を仰いだというのであれば、これに対して、中井が勝手にやれなどと言って突き放す必要はなく、この点に関する原告本人の供述や陳述書の記載も前後の状況と即応しておらず信用できない。
よって、右認定に反する原告の主張は採用できない。
なお、被告は、原告が副社長に電話して組合書記長の地位を振りかざす発言をした旨主張するところ、中井は、その発言は中井自身に対してなされたと証言しており、その発言がどの時点でなされたかいささか曖昧であるため、その事実は認定できない。
他に右認定を左右するに足る証拠はない。
3 そこで、右認定事実によって判断するに、具体的内容は不明であるものの、原告が性的なことがらに関し取引際であるJTBの多数の添乗員に不愉快な思いをさせる振る舞いをして苦情を寄せられるという事態を招いたことは、就業規則八八条八項に該当するというべきであるし、被告の信用を落とす行為でもある。
また、乙山に対するわいせつ行為も、まことに悪質な行為であって社会人として許されるものでない。そして、その一部は勤務中のことであったし、また、勤務終了後の行為についても、古参の運転手という立場で入社間もない乙山にしつこく迫って誘い出すなどしているのであるから、これらが同規則八八条八項に該当することは明白である。
さらに、遅刻しそうになって小野にバスの移動を依頼し、その結果小野が原告の乗務予定のバスを移動させようとした行為は、同規則八八条八項及び二〇項に該当する。
そして、乙山に対する非違行為について事情聴取を受けた際、反論して事情聴取に応じなかった点について、原告は、その外形的事実を概ね認めながらも種々弁解している。しかしながら、仮に原告が真実、中井のセクハラ発言を他の従業員から聞き及んでいたとしても、その場は、原告の非違行為について上司である中井から事実確認のための事情聴取を受けているのであるから、中井のセクハラ発言を持ち出したりすることは、責任追及の回避であり、問題のすり替えというべきであって許されることではない。「ビラまいたろか」との発言も、原告は事実無根の非難に対する売り言葉、買い言葉であったなどと主張するが、前記のとおり乙山に対する非違行為が事実無根の中傷とは認められず、結局、右発言は、自己に対する追及をかわすため、組合役員の立場を利用し、組合の威力を背景にしてなされた脅迫以外のなにものでもないというべきである。よって、これらの言動も就業規則八八条八項に該当する。
そして、被告では男女関係が杜撰との非難を回避すべく社内での男女関係には厳しい対応をしてきており、原告は以前にも女性関係の問題で被告から注意を受けていたにもかかわらず、右のとおり、JTBからの女性関係の苦情を招いたり、乙山への悪質なわいせつ行為に及んだりしていること、乗務に遅刻しそうになるという自らの非を勝手な運転手の手配によって取り繕おうとしたばかりか、これらに関し、注意や事情聴取を受けても反抗的な言動をし、あまつさえ、責任回避のための脅迫にまで及んでいること等専恣な行為を累積させてきているのであって、反省の態度はみられず、その情状は重いというべきである。
これらの事情を総合考慮すると、本件解雇はやむを得ない選択というほかなく、相当としてこれを是認することができる。
原告は、本件解雇の背景として労使関係の悪化があり、本件解雇は報復措置の疑いがあるなどとも主張するが、右のとおりの本件解雇を相当とする非違行為が認められる以上、原告主張の事情があるからといって、本件解雇の効力に消長をきたすものではないというべきである。
以上によれば、本件解雇によって、原被告間の雇用関係は終了しており、被告の従業員たる地位の確認を求める原告の請求は理由がなく、したがって、これを前提とする賃金支払の請求も理由がない。
三 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松尾嘉倫)