大阪地方裁判所 平成11年(ワ)12512号 判決 2000年10月04日
原告
赤帽河田運送店こと河田義一
被告
一色浩司
主文
一 被告は、原告に対し、金一四万五三九三円及びこれに対する平成一一年八月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その八を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金九四万円及びこれに対する平成一一年八月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 訴訟の対象
民法七〇九条(交通事故、物損)
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
(一) 交通事故の発生(甲一)
<1> 平成一一年八月一二日(木曜日)午後一時二〇分ころ(晴れ)
<2> 神奈川県海老名市大谷四八七二、東名上り海老名SA内Hブロック
<3> 被告は、普通乗用自動車(習志野七七ね九八六九)(以下、被告車両という。)を運転中
<4> 竹田一生は、普通貨物自動車(なにわ四四わ七〇五九)(以下、原告車両という。)を運転中
<5> 被告車両と原告車両が駐車場内で接触した。
(二) 当事者(原告と被告の供述)
原告は、印刷業者である龍紫社から、平成一一年八月一三日から一五日まで有明東京国際展示場で開催されるコミック雑誌の自費出版物展示会「コミックマーケット」の展示場設営と運営のため、一二日午後三時から午後七時半までの間に、展示場のブースへの自費出版物の搬入作業と展示会開催の広告ビラの頒布作業を行う旨の依頼を受けた。
そこで、原告は、ニッポンレンタカー近鉄あべの橋営業所から原告車両を借り受け、原告のアルバイト従業員である竹田一生に原告車両を運転させ、その他三名のアルバイト従業員を同乗させて、東京国際展示場に向かわせた。原告自身は、東海道新幹線で東京に向かった。
竹田らは、東名高速道路を東進中、休憩のため、海老名SAに立ち寄った。
被告は、被告車両を運転中、休憩のため、海老名SAに立ち寄った。
三 争点
(一) 事故態様(過失の有無と割合)
(二) 損害
四 原告の主張
(一) 事故態様
竹田が、休憩後、駐車スペースから原告車両を発進させ、SA出口に向かって徐行して進んでいたところ、進行方向前方右側の駐車スペースに駐車していた被告車両が、左を見ないで急に発進したため、被告車両がその前方を通過中の原告車両の右側面中央部に衝突した。したがって、本件事故の原因は、被告の一方的な過失によるものである。
(二) 損害
<1> 代替作業員の派遣費用 六二万二二九〇円
原告車両は、本件事故のため、展示場に予定通りに到着することができなくなり、その結果、原告らは、午後七時半までに作業を終了させることもできなくなった。そこで、原告は、事故の連絡を受けてすぐに、人材派遣業者であるブラザーズに連絡を取り、代替作業員を展示場に派遣してもらい、ようやく予定通りに業務を終了することができた。代替作業員の派遣費用は、六二万二二九〇円である。
<2> レンタカー会社への支払分 七万三五〇〇円
原告は、本件事故のため、レンタカー会社に対し、レンタル契約の規定に従い、七万円と消費税三五〇〇円を支払った。内訳は、ノン・オペレーション・チャージとして、予定の営業所に返還された場合の二万円、車両保険免責額五万円、消費税三五〇〇円である。
<3> 弁護士費用 二五万円
五 被告の主張
(一) 事故態様
被告は、駐車スペースに被告車両を後退させて駐車させるため、ハザードランプを点滅させたうえ、空いている駐車スペースの前方にいったん停止をした。そして、後退を始めたとき、突然、原告車両が被告車両の左側を高速で通過したため、被告車両の前部左角付近が原告車両の右側側面に衝突した。
したがって、本件事故の原因は、竹田の一方的な過失によるものであり、仮に被告に過失があったとしても、二〇%を越えることはない。
(二) 損害
原告が主張する損害のうち、代替作業員の派遣費用については、特別損害であり、本件事故と因果関係がない。
第三事故態様に対する判断
一 証拠(甲五、六、九、一一、乙一ないし一二、竹田の証言、被告の供述)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 海老名SAの駐車スペースの状況は、別紙図面のとおりである。
(二) 被告は、海老名SAに進入した後、駐車スペースをさがしながら、走行していた。後方に、若干離れて、原告車両が後続して走行していたのがわかった。
空いている駐車スペースを見つけたので、その前方で、ハザードランプを点滅させて、いったん停止した。そして、後方を振り返り、後方の駐車スペースを見ながら、後退を始めた。ただし、このときは、後続の原告車両の動静は確認していない。
ところが、右にハンドルを切りながら後退を始めたとき、突然左前方からドンという音がしたので、何かに衝突したと思って前方を見てみると、被告車両の左側を原告車両が通過していった。
被告は、駐車スペースに被告車両を駐車させてから、原告車両に駆け寄った。原告車両は、前方の駐車スペースにとまっていた。
二(一) これに対し、竹田は、次の証言をする。
海老名SAから出発するため、駐車スペースから原告車両を発進させた。駐車ブロックの間まで来たとき、前方の駐車スペースからサイドミラーより前方を通路部分にはみ出させて、被告車両が停まっているのを見つけた(甲九参照)。ただし、運転席は見えなかった。助手席の同乗者に、じゃまな止め方をしていると話しかけたら、同乗者もほんまやなと答えた。そこで、被告車両が発進するか後退するかがわからなかったので、通路部分の左側を、時速約一〇kmで、被告車両を見ながら進んだ。ところが、原告車両の運転席が被告車両の前方を通過したとき、ドンと衝突の音がした。ハンドルが左に切られたが、すぐに、右に切った。そして、約一〇m先の空いていた駐車スペースに原告車両を停車させた。
(二) しかしながら、竹田の証言は採用することができない。
まず、車両の損傷状況を検討すると、原告と被告の各付保会社が車両の損傷状況を調査した結果によると、原告車両は一時の方向から入力したとされ、被告車両は七時の方向から入力したとされ、車両相互の損傷状況に整合性が認められている(乙三、五)。この内容は、前記認定の事故態様に合致するが、竹田の証言とは合致しない。
次に、入力の方向以外の車両の損傷状況を検討すると、被告車両は前部左角付近の損傷が認められ、原告車両は右側面の凹損と擦過の損傷が認められる(甲五、六、乙九)。これらの損傷は、前記認定のとおり、被告車両が後退するときにその前部左角付近が原告車両に衝突した旨の事故態様によりよく整合するが、竹田の証言内容に直ちにそのまま合致するとはいいがたい。
さらに、竹田の証言を検討しても、竹田の証言によれば、被告車両がその前部を通路部分にはみ出させ、一定時間停まっていたことになるが、通常、通行量が多いSAにおいて車両がそのような状態で停まっていることは考えがたい。また、竹田は、停まっている被告車両を見て、助手席の同乗者と会話をしたと証言するが、陳述書(甲一〇)にはその旨の記載がなく、実際に会話をしたかどうかは疑わしい。また、何より、竹田の証言によれば、被告車両の動静を注視しながら、徐行して進み、しかも、衝突後にハンドルが振られ、これを戻したにもかかわらず、急ブレーキをかけていないし、その場で停止もしていないというのである。しかし、通常、ドライバーは、低速で注意しながら進行中に衝撃を感じたのであれば、急ブレーキをかけ、いったん停止すると考えられ、竹田の行動は理解しがたい。このように、竹田の証言自体、不自然不合理なところが多いといわざるを得ず、これを採用することはできない。
三 これらの事実によれば、被告車両が後退して駐車するためハザードランプを点滅させているにもかかわらず、竹田がその動静をきちんと確認しないで、その左を通過したため本件事故が発生したと認められる。したがって、本件事故の責任は竹田にある。
ただし、駐車場内においては、これから駐車をする車両と駐車場を出ようとする車両の間では、お互いに相手方車両の動静を十分に確認してから行動すべきであることを考えると、被告も、後続車両があることを知りながら、後退を始めるときに後方を確認しなかった落ち度があるというべきである。
したがって、これらの過失を比べると、竹田の過失を七〇、被告の過失を三〇とすることが相当である。
第四損害に対する判断
一 代替作業員の派遣費用
(一) 原告の供述、甲二、三によれば、次の事実を認めることができる。
原告は、本件事故が発生した直後ころ、東京に向かう新幹線に乗車していたが、携帯電話で、竹田から、本件事故が発生したこと、展示場への到着が遅れることなどの連絡を受けた。そのため、作業の開始が遅れ、作業終了予定の午後七時三〇分までに作業を終えることができず、応援を頼むしかないと考えた。そこで、これまでも利用したことがある人材派遣業者である大阪府和泉市にあるブラザーズに連絡を取り、展示場に作業員を派遣してほしい旨の依頼をした。これに対し、ブラザーズが、一日だけの派遣はできず、開催期間中三日間を通じての派遣であれば応じると回答したので、やむを得ず、三日間を通じての作業員の派遣を依頼した。展示場に到着したところ、三時三〇分ころ遅れて竹田らが到着し、また、派遣された作業員も到着し、全員で分担して作業をして、予定の午後七時三〇分までに作業を終えることができた。原告は、ブラザーズに、六二万二二九〇円を支払った。(なお、原告は、併せて、ブラザーズは大阪府和泉市の業者であるが、同社は大阪から東京の展示場まで作業員を派遣し、派遣された作業員は事故当日原告らといっしよに作業をした旨の供述をするが、この点については、時間的にほとんど不可能ではないかと思われる。もっとも、だからといって、原告の供述をすべて採用することができないとまではいえない。)
(二) これらの事実によれば、原告は、本件事故のため、やむを得ず代替作業員を派遣してもらったと認められるから、代替作業員の派遣費用は、本件事故と相当因果関係がある損害と認められる。しかし、同時に、本来、本件事故によって一日だけ代替作業員を必要としたにもかかわらず、派遣業者との交渉によって三日間代替作業員を派遣させることになったというのであるから、本件事故と相当因果関係がある損害としては、一日の代替作業員の派遣費用に限るべきである。そこで、これらの事情を考慮して、代替作業員の派遣費用としては、六二万二二九〇円の半分である三一万一一四五円に限って損害と認める。
二 レンタカー会社への支払分 七万三五〇〇円
原告は、本件事故のため、レンタカー会社に対し、レンタル契約の規定に従い、七万円と消費税三五〇〇円を支払った。内訳は、ノン・オペレーション・チャージとして、予定の営業所に返還された場合の二万円、車両保険免責額五万円、消費税三五〇〇円である。(甲四)
三 結論
したがって、原告の本件事故による損害は、合計三八万四六四五円と認められるが、これを過失相殺すると、過失相殺後の損害額は、一一万五三九三円と認められる。
弁護士費用は、三万円が相当である。
以上のとおり、被告は、原告に対し、一四万五三九三円を支払うべきである。
(裁判官 齋藤清文)