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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)4137号 判決 2000年4月24日

大阪府<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

大深忠延

斎藤英樹

東京都<以下省略>

被告

太平洋証券株式会社

右代表者代表取締役

大阪府<以下省略>

被告

Y1

右両名訴訟代理人弁護士

小木郁哉

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して二六二万九二三八円及びこれに対する平成一〇年一二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して九九六万七七一三円及びこれに対する平成一〇年一二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告太平洋証券株式会社(以下「被告太平洋証券」という。)の従業員である被告Y1(以下「被告Y1」という。)が①説明義務違反、②断定的判断の提供、③一任、無断売買、④無意味な反復売買の違法行為を行ったとして、被告Y1に対しては民法七〇九条の不法行為責任に基づき、被告太平洋証券に対しては民法七一五条の使用者責任に基づき、連帯して後記損害相当金九九六万七七一三円及びこれに対する不法行為の後の日である平成一〇年一二月二三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

二  争いがない事実等

1  原告は、昭和一七年○月○日生まれの男性であり(弁論の全趣旨)、不動産仲介業を営んでいるa社の代表取締役である(甲第一号証)。

被告太平洋証券は、有価証券の売買、取次などを業とする株式会社である(争いがない。)。

被告Y1は、被告太平洋証券の従業員であり、平成一〇年四月以降、被告太平洋証券梅田支店の課長代理を務め、原告の別紙証券取引損益一覧表記載の証券取引を担当した(争いがない。)。

2  原告は、平成一〇年四月初めころ、被告太平洋証券に証券取引口座を設けた後、同年六月一七日、信用取引口座を設け、被告太平洋証券を通じ、別紙証券取引損益一覧表記載の取引を行った(争いがない。)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  被告Y1の違法行為の有無

(原告の主張)

(一) 説明義務違反

被告Y1は、原告の大和銀行の株式買付けが株式取引の最初の経験であることを知りながら、また、被告会社の社内基準においても、信用取引を開始するまでには相当の株式売買の経験が必要であるにもかかわらず、あえて危険性の高い信用取引を勧誘した。そして、その際にも信用取引が少額の保証金(通常は売買代金の三割相当)のみで売買できるものの、一定の期限内に反対売買をするか、反対売買をしない場合には、保証金の数倍の約定代金を準備して、品受け・品渡しするかを選択しなければならず、株価の変動によっては多額の損失を発生させる危険のある取引であることについて、具体的な説明を怠った違法がある。

(二) 断定的判断の提供

被告Y1は、原告に対し「絶対に間違いのない株である。」「私に任せてほしい。」「決して迷惑をかけることはない。」「三井ハイテック株式は、これから伸びていく優良会社である。」「是非とも買い増ししてほしい。」などと言って、三井ハイテック株の信用取引を勧誘した結果、原告は、平成一〇年六月二三日に一四〇〇株、同月二四日に二六〇〇株、同月二六日に三〇〇〇株をそれぞれ買い付けた。

被告Y1の原告に対する右勧誘は、証券取引法が禁止する断定的判断の提供(証券取引法五〇条一項一号)に当たり、違法である。

(三) 一任、無断売買

被告Y1は、原告に対し、平成一〇年六月二三日、同月二四日、同月二六日の取引において、三井ハイテック株の買付単価、買付株数につき一任を得て売買を行った。

また、同年七月七日、同月八日の取引においては、事前に原告が「前日のようなわずかな利益を取るために多額の売買はしたくない。」「そんなに短期間に頻繁に売買をする必要もない、自分は利益金など欲しくない。」「そこまで言うのなら責任を持ってほしい、責任が持てないなら買わないでほしい。」と述べて、三井ハイテック株式の買い増しに反対したにもかかわらず、被告Y1は無断で同株を買い付けた。

被告Y1の前記勧誘及び売買執行は、一任売買又は無断売買として違法な行為である。

(四) 無意味な反復売買

被告Y1は、三井ハイテック株式について原告の無知・無思慮に乗じて、同株式の売却を勧める一方で、直ちに買い増しをするなど、顧客にとって手数料負担がかかるだけの無意味な売買を反復させた。

本件取引は、原告の犠牲において委託手数料を優先させるものにほかならず、証券会社としての忠実義務、善管注意義務に違反する違法な勧誘である。

(被告らの主張)

被告Y1は、信用取引の概要について説明し、三井ハイテック株については、平成一〇年六月二三日ころ、同社の事業内容、最高利益、更新の可能性、小型球形半導体の新製品が発表される可能性等を資料に同社の将来性等を説明した上、資料をファックスで送付した後、原告に電話をかけ、原告から三一〇〇万円の指値で三〇〇〇株の信用取引の買付けの注文を受けて執行し、指値三一〇〇円で一四〇〇株の売買が成立した。

その後、原告による三井ハイテック株の信用による買付け、売却は、すべて原告に事前に意向打診し、指値で注文を受け、事後に成立した取引の株数、単価等を報告している。

したがって、本件売買取引について、原告が主張する説明義務違反、断定的判断の提供、一任売買、無断売買、無意味な反復売買といった違法な行為は存在しない。

2  損害

(原告の主張)

(一) 取引損失 九〇六万七七一三円

原告が最終的に品受けした三井ハイテック株の合計代金は、二八七七万七七一三円であり、これに対し、平成一〇年一二月二二日時点での同株の終値は一株当たり二一九〇円であって、九〇〇〇株の価格は一九七一万円であるから、原告は、右差額九〇六万七七一三円の損失を被った。

信用取引において、品受け後の株価の変動は、違法な本件取引とは無関係な損益であるから損害の考慮に入れるべきではない。

(二) 弁護士費用 九〇万円

弁護士費用は九〇万円が相当である。

(被告らの主張)

三井ハイテック株は、平成一〇年一二月二二日以降値上がりし、平成一一年七月初旬から中旬にかけて三三〇〇円前後の値を付けており、この時点で処分すれば損害どころか利益すら生じたのであって、原告が損害額を特定できない以上原告の主張は失当である。

第三争点に対する判断

一  争点1(一)(説明義務違反)について

1  原告の右主張には、甲第一号証及び原告本人尋問の結果が沿う。

しかしながら、原告は、本人尋問において、被告太平洋証券梅田支店のB支店長や被告Y1が原告宅を訪問した際の信用取引に関する説明につき、「まあ、どの程度と言われても、それがどこまでか知りませんが、取りあえず聞いたことは聞きました。」などと供述し、信用取引の期限に関する説明についても「そうですね、それは何となく分かりました。」などと述べて信用取引の仕組みの一部につき説明があったことを認め、「信用取引に当たっては、何かを担保にということでしたんで、それはどうしたらよろしいんですかと言うたら、大和銀行の株券、一〇万株券と現金で三〇〇万円を供託してくれ。」と言われたと供述し、信用取引の保証金の内容を理解していたことを認める供述をしている。他方、信用口座の開設をしたらすぐ取引を始める準備をしていたかとの問いに「そんなん考えてなかったです。」と供述しながら、信用取引口座開設と同時に三〇〇万円の現金と大和銀行株を証拠金として預けており、三〇〇万円の現金を預けることになった理由についても「なんでか知りません。言われるままに預けたんです。」などと供述しているが、右金額が決して低額なものとはいえないことに照らせば、原告の右供述は不合理である。

2  しかるところ、前記争いがない事実等、甲第一、第二号証、乙第一、第七号証、乙第八号証の1及び2、原告、被告Y1各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、不動産業に従事し、不動産仲介を業とするa社を設立し、右会社の代表取締役を務めている。

被告Y1は、昭和六二年四月、被告太平洋証券に入社し、平成一〇年一月三〇日から被告太平洋証券梅田支店に資産営業課課長代理(リーダー)として勤務している。

(二) 原告は、福徳銀行(現・なみはや銀行)荒本支店(以下「荒本支店」という。)と取引があり、資産株として大和銀行株の購入をしたいと考えたが、これまでに証券取引の経験がなかったため、平成一〇年四月初めころ、荒本支店の支店長Cに相談したところ、被告太平洋証券梅田支店の紹介を受けた。

原告は、同月一〇日、荒本支店において、支店長Cから被告Y1を紹介された。Cは、被告Y1に対して、原告がこれまでに株取引の経験がないこと、今回長期保有を目的に株式購入を希望していること、それを踏まえて丁寧に説明してほしいと口添えをした。

その後、原告は、被告Y1を通じて、同月一三日に大和銀行の株式を一〇万株、買付代金(手数料等を含む。)合計三一六六万三〇八三円(一株三一一円ないし三一五円)で買い付けた。

(三) 原告は、その後、間もなく、被告Y1に対し、もっと簡便な方法で買付注文をしたいという希望を告げ、同被告は、信用取引の話をし、平成一〇年六月荒本支店のD課長から原告が信用取引をやりたいと言っているとの依頼を受け、これを認めることとなった。

被告太平洋証券梅田支店のB支店長と被告Y1は、平成一〇年六月一七日、原告宅を訪問し、信用取引の手引きに従い、信用取引の仕組みと三か月、六か月という期間制限もあり、予測と違った場合には損失が大きくなることなどを説明し、信用取引口座設定約諾書、信用取引の手引きを交付し、書類への署名押印を求めたが、原告は、各内容をよく読んでから渡すということで、その日のうちに署名押印しなかった。

原告は、同月一九日、荒本支店において、C支店長、D課長同席の上、信用取引口座設定約諾書と信用取引の手引きの最終ページにある信用取引口座開設申込書に署名押印した。被告Y1は、右手引きから信用取引口座開設申込書を切り取り、手引きの本体の方は原告に交付し、原告は、その際、信用取引の担保として、現金三〇〇万円と前回買い付けた大和銀行の株式一〇万株の株券を預け入れた。

3  右認定によれば、原告は、自ら不動産仲介業の会社を設立し、それなりの判断能力を有している人物と認められるところ、福徳銀行から紹介を受けた大切な顧客であって、支店長からも丁重に扱ってほしい旨の口添えがあったこともあり、被告Y1らは、原告宅に赴いて信用取引の仕組み等を説明したが、原告は、その場では関係書類への署名押印をせず、後日、署名押印をしたことが認められ、これらの事実からすると、原告は、右経歴にあるような経済活動に従事していた者の一般的常識として、信用取引の概要、一定期間内に決済しなければならないこと、証拠金を提供する必要のあることなどを知っていたと考えられ、さらに、被告Y1の説明と信用取引の手引きを読了したことで信用取引の内容を理解し得たというべきであり、被告Y1に説明義務違反は認められない。

したがって、原告の前記主張に沿う前記証拠は採用することができず、他に原告の前記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

二  争点1(二)(断定的判断の提供)について

原告の右主張には、甲第一、第一八、第一九号証及び原告本人尋問の結果が沿い、甲第一号証において、原告は、被告Y1が、「先日は有り難うございました。早速ですが、三井ハイテックという優良株があります。少し買ってほしい。輸出に強い会社です。今アメリカの景気もよく、必ず値上がりしますから。絶対に間違いのない株ですから。私に任せてほしい。決して迷惑をかけることはない。三井ハイテック株式は、これから伸びていく優良会社である。是非とも買い増ししてほしい。」などの断定的な表現を用いたと述べ、原告本人尋問において、被告Y1が「間違いない。この株は絶対値上がりしていく株やから少しだけ買っていただけませんか。」と言ったなどと供述する。

しかしながら、右発言のうち、断定的判断の提供に該当するものは、「必ず値上がりしますから。」「絶対に間違いのない株ですから。」「決して迷惑をかけることはない。」であるが、結局のところ、右株を少し買ってほしいと言っているのであって、取引上ままあり得る美辞麗句的なものとも言い得る。

しかるところ、原告本人尋問の結果に照らすと、右のような断定的発言が真実そのとおりされたのか、前記のとおり、自ら不動産仲介業の会社を経営して、経歴上それなりの判断能力を有していたといえる原告がその文言どおりの内容を信じたような状況、態様で各発言がされたのか、必ずしも判然としない。

したがって、原告の前記主張に沿う前記各証拠をたやすく採用することはできない。

三  争点1(三)(一任、無断売買)について

1  原告は一任売買の主張につき、一任合意の日時、内容、態様について何ら具体的な主張、立証をしない。

のみならず、前記争いがない事実等、乙第一号証、乙第一一号証の1ないし3及び被告Y1本人尋問の結果によれば、被告Y1が平成一〇年六月二三日、同月二四日、同月二六日の取引において、三井ハイテック株の買付単価、買付株数につき、各取引ごとに個別に原告に連絡して了解を取り、指値注文で買付けをしたことが認められる。

したがって、右主張事実は認められない。

2  原告の無断売買の主張には、甲第一号証及び原告本人尋問の結果が沿い、これによると、同年七月七日、同月八日の取引において、原告が「事前に前日のようなわずかな利益を取るために多額の売買はしたくない。」「そんなに短期間に頻繁に売買をする必要もない、自分は利益金など欲しくない。」「そこまで言うのなら責任を持ってほしい、責任が持てないなら買わないでほしい。」と述べて、三井ハイテック株の買い増しに反対したにもかかわらず、被告Y1が無断で同株式を買い付けた旨、また、「売った後、すぐに三井ハイテック株を更に買うという話だったんで、それはおかしいやないかと、そんな売ってすぐに買うという意味が分からんと、それは僕はよう買わんというて断ったんです。」「なおも言うてくるので、責任持つんやったら買うてくれと、それでなかったら私はやめたというてそこで断ったんです。」と供述し、右無断売買に関し、被告Y1に対し、「取りあえず買い付けると言うたときから文句言うてます。」「事後報告が来てから即に言うてると思います。」、その方法については「その当時に、電話も直接会うたりも、両方してますので、どっちも言うてると思います。」などと言ったというのである。

しかしながら、原告は、本人尋問において、売買成立の都度、取引報告書が郵送されてきたのに、平成一〇年七月三〇日になって被告太平洋証券の本店ないし支店に対し無断売買に関するクレームを付けたと供述するにすぎず、右郵送直後に無断売買に関するクレームを被告Y1に言ったとの供述もあいまいである。

そして、甲第九号証の1及び2、乙第一号証並びに被告Y1本人尋問の結果によると、平成一〇年七月一〇日、三井ハイテックの業務下方修正の発表があり、同月一三日から大きく株価を下げたことが認められ、右事実を考慮すると、原告がクレームを付けたのは、無断売買に対してというよりも、右のような展開となった株を勧められたことに対してである可能性が強い。

したがって、原告の前記主張に沿う前記各証拠を採用することはできない。

四  争点1(四)(無意味な反復売買)について

1  前記争いがない事実等、甲第九号証の1及び2、甲第一四号証の1、乙第一ないし第五号証、乙第一一号証の4ないし7並びに被告Y1本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一) 三井ハイテック株の同年六月二九日の始値は三二六〇円で、高値は右同額であり、安値は三二二〇円で、終値は三二四〇円であった。

同株の同年六月三〇日の始値は三二五〇円で、高値は三三〇〇円で、安値は三二五〇円で、終値は三二八〇円であった。

同株の同年七月一日の始値は三三〇〇円で、高値は三三四〇円で、安値は三二六〇円で、終値は三二七〇円であった。

(二) 被告Y1は、同年七月二日、三井ハイテック株が高値三三四〇円を付けたことを原告に電話で報告し、売却も考えてほしいと伝えたが、この日は売却の注文はなかった。

被告Y1は、右同日、以前から全日本空輸が最終赤字で、無配転落等業績が良くないことなどの情報が伝わっていたから、全日本空輸株の信用取引による売建てを勧め、原告の承諾を得て、全日本空輸株を指値五〇七円で一万株を売り建てする注文を出した。その後、成行注文に変更した結果、五〇五円で五〇〇〇株、五〇一円で四〇〇〇株、五〇〇円で一〇〇〇株の取引が成立し、原告に対し、報告した。

三井ハイテック株の同年七月二日の始値は三二七〇円で、高値は三三四〇円で、安値は三二七〇円で、終値は三三〇〇円であった。

(三) 被告Y1は、同年七月三日午前八時五〇分ころ、原告に電話をかけ、全日本空輸株につきとりあえず一〇万円強の利益が出る買返済の指値をして一度利益を得ることを勧めたところ、原告がこれを承諾したため、四八一円の指値で一万株の買返済の注文を出したが、四八一円まで値が下がらず、取引が成立しなかった。

三井ハイテック株の同年七月三日の始値は三二九〇円で、高値は三三一〇円で、安値は三二五〇円で、終値は三二八〇円であった。

(四) 被告Y1は、同年七月六日、原告に対し電話をかけ、三井ハイテック株がそれほど強くないことを伝え、利益があるところで買い建てている七〇〇〇株をとりあえず売返済してはどうかを勧め、原告の承諾を得て、三二八〇円の指値で七〇〇〇株売返済の注文を出し、また、前日から買返済の注文を出している全日本空輸株が、思うほど値下がりしないため、午後一時半ころ、原告に電話をして指値を四八五円に上げてはどうかと打診し、その旨の了解を得たので、指値訂正をし、午後二時すぎ、全日本空輸株が四八五円で一万株の取引が成立し、原告に約七万円の利益が出、さらに、大引間際に三井ハイテック株七〇〇〇株のうち、二一〇〇株がこの日の高値である三二八〇円で売返済の取引が成立したので、その報告と三井ハイテック株の利益が約二二万円で、右全日本空輸株の利益との合計が約二九万円となったことも報告した。

三井ハイテック株の同年七月六日の始値は三二〇〇円で、高値は三二八〇円で、安値は三一五〇円で、終値は三二八〇円であった。

(五) 被告Y1は、同年七月七日、三井ハイテック株の株価が下がってきたことから、午前九時ころ、原告に電話をかけ、最後に買い付けた三二三〇円を超えない値段での指値で、再度買い付けてはどうかと勧め、原告の了承を得て、三二二〇円の指値で四一〇〇株を買い付けるとの注文をし、その結果、二八〇〇株、一三〇〇株が指値どおりの三二二〇円で取引が成立し、原告にその旨報告した。

三井ハイテック株の同年七月七日の始値は三二一〇円で、高値は三二七〇円で、安値は三一七〇円で、終値は三二三〇円であり、指値三二八〇円の売返済の継続注文分残四九〇〇株の取引は成立しなかった。

(六) 同年七月八日、三井ハイテック株の残り四九〇〇株を指値三二八〇円で売却するという継続注文のうち二〇〇〇株につき、指値どおりの三二八〇円で取引が成立し、被告Y1は、原告にその旨報告した。

被告Y1は、右同日の午後になり、三井ハイテック株が値下がりしてきたので、原告に電話をかけ、二〇〇〇株だけ再度安いところで買い付けてはどうかと提案したところ、原告は昨日より安い三二一〇円であればよいと答え、被告Y1は指値三二一〇円で二〇〇〇株の買付注文を出し、その結果、三二一〇円で二〇〇〇株の取引が成立し、原告に報告した。

三井ハイテック株の、同年七月八日の始値は三二八〇円で、高値は三二八〇円で、安値は三一七〇円で終値は三一七〇円であった。

2  前記のとおり、三井ハイテック株につき、平成一〇年七月七日、前日からの指値三二八〇円の売却注文が継続しているにもかかわらず、右同日、指値三二二〇円で一三〇〇株と二八〇〇株の買付けがされていること、同年七月八日、前々日からの指値三二八〇円の売却注文が継続し、右同額で、二〇〇株、一〇〇株、一七〇〇株の売却が成立したにもかかわらず、右同日、指値三二一〇円で一〇〇株、一九〇〇株の買付けがされ、いわゆる「買い直し」がされていることが認められる。

ところで、被告Y1は、三井ハイテック株がそれほど強くないと判断して保有株七〇〇〇株の売却を勧めたのであるから、右株式会社の相場動向につき弱気の判断をしていたと考えられ、少なくとも、強気の相場観でなかったということができるところ、原告の株式取引の経験が浅く、信用取引自体簡便に買付注文をしたいとの要望により開始されたもので、本格的信用取引を積極的に行う意思がなかったと推認されるから、特段の合理的理由のない限り、従前の保有株の売却処分が終了しない状況でこれと並行して新たな買付けの勧誘を行うべきでなかったというべきである。

乙第一号証及び被告Y1本人尋問の結果によると、指値三二八〇円の売り注文と並行して指値三二二〇円、三二一〇円の買い注文とがある場合、相場が高くなり三二八〇円以上になれば売り注文の取引が成立して買い注文の取引が成立せず、相場が安くなり三二二〇円とか三二一〇円以下になれば買い注文の取引が成立して売り注文の取引が成立しないから、中長期的に値上がりすることを前提とした場合、このように、短期間に安値を買い、高値を売却するのが信用取引というものであるというのであるが、右段階で、三井ハイテック株が中長期的に値上がりするという判断に客観的根拠があったのか明らかではなく、売値と買値との差はわずか六〇円ないし七〇円にすぎず、一日の株価変動の状況から考えて、売り注文、買い注文の双方が同日に成立することも容易に考えられ、右指値の差がきん少であることからすると、いわゆる両建をしたのと大差なく、また、原告の信用取引の目的が簡便に取引をすることにあって積極的取引をすることでなかったのであるから、右買い増しは、顧客にとって手数料がかかるだけで意味がないと考えられる。

したがって、右七月七日、同月八日の各買い増しは、無意味な反復売買というほかなく違法である。

五  争点2(損害)について

1  前記争いがない事実等、甲第九号証の1及び2、甲第一二号証の1及び2、甲一四号証の1並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、信用取引の期限が迫り、平成一〇年一二月二二日、従前の保有株のうち売却できなかった二九〇〇株と買い増した六一〇〇株の合計九〇〇〇株を品受け・取得したこと、このうち、前記指値三二二〇円で買い増した一三〇〇株を四一五万七二三七円で、二八〇〇株を八九四万九四二二円で、前記指値三二一〇円で買い増した一〇〇株を三二万〇三一七円で、一九〇〇株を六〇六万六一一二円で品受け・取得したこと、その後、原告は、平成一一年九月一四日、品受け・取得した三井ハイテック株三〇〇株を二五七五円で、同株八七〇〇株を二五七〇円で売却し、同年一一月五日、無償分割を受けていた九〇〇株も二四三五円で売却したことが認められる。

原告は、品受け当日の終値との差額を損害と主張するようであるが、右損害は単に計算上のもので、その後、現実に売却したことによって生じた実損害が請求し得る損害となる。

そして、前記買い増し分を品受け・取得した株が二五七五円と二五七〇円とにどのように配分されて売却されたのかを明らかにさせる証拠はないから、損害額の計算上最も控えめに二五七五円の売却分がすべて右買い増し分の売却であるとし、また、無償分割株を按分して右買い増し分に配分することとする。

したがって、原告の被った損害は、品受金額合計一九四九万三〇八八円から、①二五七五円に三〇〇株を乗じた七七万二五〇〇円、②二五七〇円に五八〇〇株を乗じた一四九〇万六〇〇〇円、③無償分割株の一四八万五三五〇円(二四三五円に九〇〇株を乗じ、九〇〇〇株で除して、六一〇〇株を乗じたもの)の合計一七一六万三八五〇円を控除した二三二万九二三八円である。

2  弁護士費用は三〇万円が相当である。

3  したがって、被告らが原告に対し連帯して賠償すべき損害額は、右合計の二六二万九二三八円である。

(裁判官 河村浩 裁判官 上村考由 裁判長裁判官若林諒は、転勤のため、署名押印することができない。裁判官 河村浩)

<以下省略>

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