大阪地方裁判所 平成11年(ワ)4198号 判決 2000年4月14日
主文
一 原告の主位的請求を棄却する。
二 被告は、原告に対し、平成12年12月25日が経過したときは、300万円及びこれに対する同月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 主位的
被告は、原告に対し、240万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成11年5月2日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 予備的
主文同旨
第二 事案の概要
一 本件は、原告が、被告に対し、ゴルフ会員契約上の預託金の返還を求める事案である。
二 前提事実(争いがない。)
1 丁野三郎(以下「丁野」という。)は被告との間で、平成2年12月25日、預託金300万円を被告に預託して(以下「本件預託金」という。)、関西軽井沢ゴルフ倶楽部(以下「本件倶楽部」という。)の入会契約を締結した(以下、これに基づくゴルフ会員権を「本件会員権」という。)。
2 本件倶楽部の会則には、預託金は、会員証書発行の日から10年間据え置くとの規定があり、本件倶楽部の細則には、会員からの返還請求で理事会においてやむを得ないと認めたときは、残り年数につき各年1割の中途解約金(違約金)を差し引き返還するとの規定がある。
3 丁野は、原告に対し、平成10年9月8日、本件会員権を譲渡し、被告に対し、その旨通知した。
4 原告は、被告に対し、同年12月17日到達の書面で、本件預託金の返還を請求した。
三 争点
1 期限前請求の可否
(一) 原告の主張(主位的請求)
本件倶楽部の細則では、残り年数につき各1割の中途解約金(違約金)を差し引き返還するとされているので、被告は、原告に対し、本件300万円から2割を控除した240万円を直ちに返還すべきである。
(二) 被告の主張
据置期間中の預託金の返還は、会員本人の死亡など理事会において特にやむを得ないと認めた場合に限って行われてきたものであるが、原告についてそのような事情があるとは認められない。
(三) 原告の主張(予備的請求)
被告は、後記のように、本件倶楽部の預託金の据置期間を10年間延長したと主張しており、当初預託期間(10年間)が経過しても、任意に預託金の返還に応じない態度を明確にしている。よって、将来の請求を現時点において行うことの正当な理由が存する。
2 譲渡についての理事会の承認未了、名義変更手数料の不払
(一) 被告の主張
(1) 本件会員権の会員証書には、被告の承諾なく譲渡できない旨が記載されている。これは、本件倶楽部の会員となるのにふさわしくない者の入会を拒むため、本件倶楽部の会員資格の譲渡について、被告の承諾を要するものとしたのである。原告は、被告の承認を得ていないから、預託金の返還を求められない。
(2) 本件倶楽部の会員権譲渡を被告に承諾させるためには、被告の定める名義変更手数料(一般80万円、親族間40万円)を被告に支払う必要があるが、原告は、名義変更手数料を支払っていない。
(二) 原告の主張
(1) 本件会員権は、施設の優先利用権と預託金返還請求権とからなるところ、施設の優先利用権を含む本件倶楽部の会員としての地位の譲渡について、被告の承認を必要とすることには異論を述べないが、預託金返還請求権は純粋の金銭債権であり、その譲渡について被告の承認を要すると解することはできない。
(2) 本件会員権の譲渡通知と同時にその譲受人が預託金の返還を求めている場合は、その際に譲渡人による退会の意思表示がされていると解すべきである。原告は、本件倶楽部の施設の優先的利用権の譲渡について承認を求めているわけではないから、被告の承諾は不要である。
(3) 原告は、譲渡人である丁野から、本件倶楽部の退会に関する一切の権限について委任を受けている。原告は、平成11年7月12日の本件第1回弁論準備手続期日において、丁野を代理して、本件倶楽部から退会する旨の意思表示をしたから、名義変更手数料支払の義務はない。
(三) 被告の反論
本件倶楽部の会則6条には、本件倶楽部の都合により据置期間を延長することができる旨の規定があるところ、原告が丁野を代理して退会の意思表示をするに先立ち、被告の取締役会と本件倶楽部の理事会は、平成11年3月10日、預託金の据置期間を10年間延長する旨の決議をしたから、返還期限は到来していない。
(四) 原告の再反論
据置期間延長決議は、会員の個別の承諾を得ない限り、効力を生じない。
3 名義変更に伴う据置期間延長
(被告の主張)
本件倶楽部の会員権譲渡を被告が承諾する際には、譲受人から、預託金を名義変更の日から10年間を据え置くことを確認する旨の念書を提出してもらっている。被告は、原告に対し本件会員権の譲渡を承認していないが、仮に承認するとすれば、預託金は、名義変更の日から10年間据え置くことになるから、返還期限は到来していない。
第三 判断
一 期限前請求の可否について(争点1)
1 本件倶楽部の細則の「会員からの返還請求で理事会においてやむを得ないと認めたときは、残り年数につき各年1割の中途解約金(違約金)を差し引き返還する」旨の規定は、被告が自発的な意思に基づいて、期限の利益を放棄する場合について定めたものと解すべきであり、会員がこの条項に基づいて、当然に期限前の返還を求める権利を取得すると解することはできない。
よって、原告の主位的請求には理由がない。
2 将来請求について
被告は、本件倶楽部の預託金の据置期間を10年間延長したと主張しているから、本件預託金について、当初預託期間(10年間)の末日である平成12年12月25日が経過しても、任意にその返還に応じないがい然性が高いというべきである。
よって、原告には、本件預託金の返還請求権について、あらかじめ給付の債務名義を得ておく必要性が認められる。
二 譲渡についての理事会の承認未了、名義変更手数料の不払について(争点2)
1 本件倶楽部の会則には、会員権の譲渡を禁じた規定はなく、会員権の譲渡について理事会の承認を要するとの趣旨も明確には読みとれない(甲3)。その点をひとまずおいて考えるとしても、被告の主張からすると、理事会の承認を要するとしている趣旨は、本件倶楽部の会員となるのにふさわしくない者の入会を拒むためであると認められるから、会員が退会して預託金の返還を求める場合には、そのような理事会の承認は必要がないと解される。
2 原告は、譲渡人である丁野から、本件倶楽部の退会に関する一切の権限について委任を受けた上で(甲8の8、9)、平成11年7月12日の本件第1回弁論準備手続期日において、丁野を代理して、本件倶楽部から退会する旨の意思表示をしたから、本件預託金の返還について、本件倶楽部の理事会の承認を得る必要はないというべきである(なお、本件会員権の譲渡を被告に対抗できる場合は、退会の意思表示は原告によってなされるべきことになるが、本訴の提起自体に原告からの退会の意思表示が含まれていると解されるから、理事会の承認を得る必要がないのは右と同様である。)。
3 本件倶楽部の会則等には、相続以外の原因による会員権承継について、名義変更手数料支払の義務を定める明確な規定は存在しないが、原告は、会員として施設の優先的利用権を主張するものではなく、右2のとおり丁野についての退会の効力も生じているのであるから、原告が名義変更手数料を支払う義務を負うことはないというべきである。
4 被告は、右2の退会の意思表示が到達する前に、据置期間延長決議がされたから、本件預託金の返還時期は到来していないと主張する。
しかし、本件倶楽部の会則6条のような「本件倶楽部の都合により据置期間を延長することができる」旨の規定があっても、会員の重要な権利である預託金返還請求権について重大な変更をもたらす据置期間の延長は、会員の個別の承諾を得ない限り、効力を生じないと解すべきである。
三 名義変更に伴う据置期間延長について(争点3)
被告は、本件倶楽部の会員権譲渡を被告が承諾する際には、譲受人から、預託金を名義変更の日から10年間を据え置くことを確認する旨の念書を提出してもらっていると主張するが、それはそのような念書を差し入れた者が個別に据置期間についての合意をしたことを意味するにすぎず、そのような手続をとっていない原告に対しては、据置期間の延長をすべき何らの根拠とならない。
四 以上によれば、本件預託金の返還時期は、当初預託期間(10年間)の末日である平成12年12月25日の経過によって到来し、その翌日である同月26日から遅滞に陥ることになるから、原告の予備的請求には理由がある。なお、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととする。