大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪地方裁判所 平成11年(ワ)7163号 判決 2000年3月31日

原告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

板垣善雄

原野早知子

被告

東京海上損害調査株式会社

右代表者代表取締役

五十嵐庸晏

右訴訟代理人弁護士

市橋和明

永沢徹

野田聖子

大野澄子

長浜周生

小林広樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は原告に対し、五〇七万四八三九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告に対し、平成一一年七月以降毎月二〇日限り、七二万四九七七円を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告から懲戒解雇の意思表示を受けた原告が、被告の主張する解雇事由の存在を否定するとともに懲戒解雇の相当性を争って右意思表示は合理的な理由のない解雇権の濫用であると主張し、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、東京海上火災保険株式会社(以下「東京海上」という。)が全額出資する同社の子会社であり、資本金一〇〇〇万円、従業員約一三〇〇名を有し、東京海上から調査を受注し、自動車及び新種保険事故の損害額見積並びに原因、状況調査等を行うことを業としている。

被告従業員の大部分はアジャスターと呼ばれる専門職員であり、このうち約一〇〇〇名が主として自動車保険の保険金請求のある事故について損傷車両の損傷調査を行う技術アジャスターであり、約三〇〇名が自動車保険や新種保険の保険金請求事案について事故に関する原因調査、被害者の疾病に関する医療調査、物損害に関する立会調査などを行う一般アジャスターである。

原告は、昭和五一年一一月一日、被告に期間の定めなく雇用され、それ以来約二二年間一般アジャスターとして勤務してきており、平成一〇年一二月当時、被告の近畿第一事業所に所属し、東京海上大阪支店大阪損害サービス第二部大阪南損害サービス課に所属していた。

原告の平成一〇年九月から一一月までの平均賃金は、月額七二万四九七七円であり、その支払方法は毎月末日締切りの翌月二〇日払いである。

2  アジャスターの調査方法には電話調査と面談調査があり、被告から支払われる調査料は面談調査の方が高額に設定されている。アジャスターは調査結果を調査報告書に作成して被告に提出することとされているが、調査報告書には電話か面談かの調査方法も記載することとされている。

アジャスターが調査のため移動する際には、アジャスター自身の所有車両を業務使用車両として使用する。被告は、アジャスターから、その業務使用車両に装着されたオドメーター及びトリップメーターに基づいて月毎に総走行距離及び業務走行距離の申告を受け、これにより、総走行距離に対する業務走行距離の割合を算定したうえ、車両経費などを算出して月毎にアジャスターに支払うこととしている。

また、被告では、アジャスターに立会調査手帳を交付し、アジャスターが社外において被害者その他の関係者と面談した場合、契約者名、立入調査先、走行距離等をその都度記載させることとしている。

3  平成一〇年二月、東京海上の検査部が被告の各拠点における調査業務等の調査を行い、原告もその対象となり、その際、原告は上司である被告技術担当課長谷崎から「車両経費請求書記載の走行キロ数がおかしい」との指摘を受けた。

原告は、車両経費請求書を提出しなおすなどしたが、同年三月には被告近畿第一事業所所長佐藤雄三(以下「佐藤所長」という。)らから事情聴取を受け四通の車両経費に関する報告書(<証拠略>)を提出した。

原告は、同年五月七日、業務使用車両の走行キロ数について虚偽の説明をしたことを認める旨記載した始末書(<証拠略>。以下「本件始末書」という。)を被告に提出した。

佐藤所長らは、同年八月頃から、原告が関わった調査に関する記録を調査し始め、同月二五日及び二六日の両日、同所長らは、原告から過去の調査内容について詳細な事情聴取をした。

同年一一月五日、原告は、さらに佐藤所長らから事情聴取を受け、その際、原告が関わった調査三件について、調査料の不正取得を認める旨記載した文書(<証拠略>。以下「本件確認書」という。)等を提出した。

原告は、平成一〇年一二月四日付で、被告から口頭で懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)を受けた。

4  被告の就業規則には、以下の定めがある。

四四条 従業員が次の各号の一に該当すると認められるときは、会社はこれを懲戒する。

四号 故意・重大な過失または職務怠慢により、会社に損害をもたらしたとき

八号 会社の名誉信用を毀損し、または従業員としての体面を傷つけたとき

一一号 本条に定める事項のほか、この規則もしくは、会社の諸規定に違反したとき

一二号 その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき

四五条 懲戒は、その程度により次のとおり区分し、その都度次の方法によりこれを行う。

一  譴責 始末書をとり将来を戒める。

二  減給 始末書をとり減給する。ただし、減給額は一回につき平均給与の半日分、総額においては、その月の給与の一〇分の一を超えることはない。

三  出勤停止 始末書をとり、出勤を停止する。ただし、三〇日を超えて停止することはない。出勤停止中の給与は支給しない。

四  解雇 予告期間を設けず直ちに解雇する。

二 本件の争点

1  本件解雇に被告が主張する解雇事由があるか

2  本件解雇が適法か

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(解雇事由)について

1  被告の主張

原告には、本件解雇の解雇事由となる以下の非違行為があり、これは就業規則四四条四号、八号、一一号、一二号に該当する。

(一) 原告は、平成八年三月以降、以下の三件につき、面談調査を行っていないにもかかわらず、面談調査をしたとして面談調査料合計九四五二円を不正に受領した。

(1) 原告は平成八年三月ころ発生した交通事故の原因調査に際し、事故当事者である保険契約者に対し、真実は電話聴取により調査したにもかかわらず、面談により調査を実施したものとして虚偽の調査報告書を作成し、被告から右報告書に基づいて調査料を受領した(以下「契約者Kの件」という。)。

(2) 原告は平成九年八月ころ発生した動産盗難事故の原因調査に際し、盗難動産のリース先の会社担当者に対し、真実は電話聴取により調査したにもかかわらず、面談により調査を実施したものとして虚偽の調査報告書を作成し、被告から右報告書に基づいて調査料を受領した(「以(ママ)下「契約者Tの件」という)。

(3) 原告は平成八年九月ころ発生した交通事故の医療調査に際し、保険契約者、被害者、第三者に対し、真実は電話聴取により調査したにもかかわらず、面談により調査を実施したものとして虚偽の調査報告書を作成し、被告から右報告書に基づいて調査料を受領した(以下「契約者Hの件」という。)(ママ)

(二) 原告は、同人所有の業務使用車両の月毎の総走行距離数あるいは業務に使用した走行距離数について立会調査手帳に捏造記載し、業務走行距離、通勤走行距離を過剰申告し、平成八年一月から平成一〇年三月までの間に車両経費一万三三〇三円、燃料代一万九〇〇八円を不正に受領した。

(三) 原告は、立会調査手帳の走行距離と実メーター走行距離の不一致についてメーター故障をその理由にしたが、平成九年三月に行ったメーター交換の時期を、平成九年九月と偽ったうえ、第三者をして交換時期を偽った整備請求明細書を作成させた。

(四) 原告は、右(二)及び(三)に関し、被告に対し、虚偽の説明を繰返した。

2  原告の主張

被告が主張する解雇事由に該当する事実はない。

(一) 被告が面談調査を行っていないと主張する契約者Kの件及び契約者Tの件については、原告は面談調査を行っており、そのことは調査報告書に詳細な聴取結果の報告がなされていることから判明するし、原告が不正請求をする意図を有していたなら、むしろ後日の証拠とするため立会調査手帳に必ずその旨記載するはずである。

また、契約者Hの件は、健康保険への切替手続に関し、原告が切替のための交渉をした事実の存否にかかわるものであるが、被告では、原因調査の過程で被害者と面談した際にその切替を促せば、他の関係者についても面談として調査料を請求できることになっていた。原告は原因調査の過程で、右切替交渉を行った。

また、仮に原告の調査が被告の主張するように面談によるものではなかったとしても、原告が請求できた調査料と現に受領した調査料との差額は四三〇〇円に過ぎない。

本件確認書も、被告が一方的に事実を決めつけ、原告の意に反して作成させたもので、記載内容は事実に反する。

(二) 原告が、業務走行距離、通勤走行距離を過剰申告し、車両経費、燃料代を不正受領した事実はない。

原告は、メーターが故障していたため、控えめに業務走行距離を申告していた。

通勤走行距離についても、平成八年までは往路復路とも、被告に申告した距離の同一路線で通勤していたが、平成八年から朝の混雑から往路のみ別経路で通勤するようになった。原告は往路の距離が短縮したことを認識していなかったことから、従前どおりの通勤距離を申告し続けたものであって、意図的に車両経費の過剰請求をしたものではない。

(三) 原告は、メーター交換時期を故意に偽ったことはない。メーター交換後も何度かメーターの修理を繰返していたことから、その時期を取り違えたまでである。

原告が、メーター交換時期を偽った整備請求明細書を提出したのも、被告の執拗な追及に、記憶の曖昧なまま誤った修理時期を答えてしまったため、後日誤りに気付いたものの、さらに厳しい追及を受けるのではないかとの恐れから修理会社の担当者に依頼して虚偽記載した右明細書を作成してもらったものである。これを懲戒解雇事由とするのは行き過ぎである。

(四) 原告は、立会調査手帳の走行距離とメーター上の走行距離との不一致について何度か説明を訂正したことはあるが、車両経費の過剰請求について被告から説明を求められたことはなく、これについて虚偽の説明を繰返した事実はないし、メーターの交換時期も、右のとおり、当初から意図的に虚偽の説明をしたものではなく、修理時期を取り違え、後日、その過誤に気づいたが申告しなかったというものにすぎない。

二  争点2(本件解雇の適法性)について

1  原告の主張

仮に被告が主張する解雇事由が存在するとしても、本件解雇は次の理由から違法というべきであり、合理的な理由なしになされたものであって解雇権の濫用である。

(一) 相当性がない。

懲戒解雇は、単に雇用関係を終了させるだけでなく、退職金請求権や解雇予告手当請求権を失わせ、再就職の妨げとなるなど労働者に種々甚大な不利益をもたらすものであるから、かかる不利益を負わせるだけの合理性を有するものでなければ有効とはいえない。

本件解雇は以下の諸事情を考慮すると相当性を欠くものである。

(1) 被告は、原告が調査料及び車両経費等を不正取得したと主張するが、原告は故意に不正行為をしたものではない。

(2) 原告が不正取得したとする回数、金額は、原告の主張によっても、面談調査料につき三回で合計九四五二円、車両経費及び燃料代合計三万二三一一円というにすぎず、総額四万二〇〇〇円弱の不正取得を理由に懲戒解雇することは、これによって、原告が受ける不利益との均衡を欠く。

また、原告が調査方法につき虚偽の報告をしたと主張されている三件について、被告や東京海上には実害は生じていないし、メーター故障についても原告は走行距離を控えめに申告しているから被告に実害を与えていない。

(3) 被告は同種事案についてその不正取得金額の多寡にかかわらず、懲戒解雇としてきたというが、後述のとおり、その事実及びそのような取扱の相当性自体問題があるうえ、かかる取扱について原告は全く知らされておらず、被告の不正防止措置は十分ではなかった。

(4) 被告は、原告の立会調査手帳に明確な記載がなかったことから、原告が関係者と面談しなかったものと一方的に決めつけ、原告を強要し、意に反して事実を認める本件確認書を書かせた。

かかる調査方法は不公正である。

(5) 原告は二二年間誠実に勤務を続け、処理件数も多いアジャスターだったのであり、これまで懲戒処分を受けたこともない。

(二) 二重処分である。

被告は、平成一〇年五月七日、原告に既に始末書を提出させているが、これは譴責処分にほかならない。しかも、それ以前に、被告は原告の過去二年分の立会調査手帳と最近の調査記録を引き上げており、すでにそれらを調査しており、本件の全貌を把握していた。

原告は、始末書の提出により一見落着と考えていたのであって、本件解雇は二重処分である。

(三) 過去の事案との均衡を欠く。

被告では過去同種事案について、すべて懲戒解雇という厳しい処分がなされてきたものではない(被告が挙示する事案の一つについて、原告は、被処分者から事案も処分内容も被告の主張と異なる旨聞き及んでいる。)し、他方、本件以上に重要と思われる事案において何ら厳しい処分がなされていない場合があり、本件解雇は、これらの前例と均衡を失する。

(四) 適正手続違反である。

被告が、平成一〇年三月(谷崎課長担当)、八月二五日及び二六日(佐藤所長担当)、一一月五日(佐藤所長担当)に行った事情聴取や事実確認はいずれも一方的なもので、関係資料も示されることもなく、弁明の機会は与えられなかった。

一二月四日に本件解雇を告げられた際にも、全く弁明は許されず、原告が署名させられた確認書(<証拠略>)の写しを求めたにもかかわらず、これを拒否された。

かかる手続は違法である。

2  被告の主張

(一) 相当性について

懲戒処分に当たって、いずれの処分を選択するかの判断は原則として懲戒権者である使用者の裁量に委ねられている。

被告は、金融機関たる保険会社東京海上の子会社として、同社から受注した支払保険料額に直結する調査を行っているのであり、その業務の適正さ及び正確さが厳格に求められており、アジャスターに対する信頼や信用は極めて重大であり、被告の業務のそのものがアジャスターに対する信頼と信用の上に成立している。アジャスターが行う調査の方法は、調査内容の正確性に影響し、ひいては東京海上が被害者との交渉や訴訟で主張する内容の信用性にも影響を及ぼす。

このようなことから、被告では、調査方法に関する虚偽の報告に対して例外なく懲戒解雇をもって対処しており、かかる取扱は社会通念上相当というべきである。

原告には、虚偽の調査方法を記載して調査料を不正取得したという非違行為を含む前記解雇事由が存するのであるから、本件解雇は相当であり、なんら解雇権の濫用には当たらない。

(1) 原告が確定的な故意を持って調査料等を不正取得したことは明らかであるし、故意がなければ懲戒解雇が不相当というものではない。

(2) 被告におけるアジャスターに対する信頼と信用の重大性からして、調査料の不正取得を曖昧にすることは被告の企業秩序の維持確保の観点から許されないことであり、このことは不正取得額の多寡に関わりない。

被告には原告の不正取得にかかる調査料、車両経費等の実害も生じている上、原告の架空調査によって東京海上に誤った保険金を支払わせた可能性すらある。

(3) 被告のように従業員に対する信頼や信用を基礎とする企業において、金銭の不正取得があった場合、重い処分を行うというのは社会通念上妥当な運用であり、そのことは処分内容に関する周知の有無に関わらないものというべきである。

また、被告は、金員不正取得を理由に従業員を懲戒解雇した場合、被処分者のプライバシーへの配慮もあって、各部署の管理者に対し、処分内容等を記載した文書を親展、複写禁止にして通知し、管理者から所属アジャスターに知らせる方法で周知していたし、原告自身、調査料の不正取得をすれば懲戒解雇に処せられることは熟知していた。

(4) 被告は、本件解雇事由の調査過程で、原告に対し一方的に事実を決めつけたり、本件確認書等の提出を強要したりしたことはない。本件確認書も、被告の求めに応じ原告が任意に提出したものである。

(二) 二重処分であるとの(ママ)について

原告は本件解雇が二重処分であると主張するが、原告が本件始末書を提出した時点で判明していたのは、原告の立会調査手帳の総走行距離と実メーターの総走行距離とが一致しないこと、これに関して原告が虚偽の弁明を繰返したことのみであり、本件始末書は、これらに対する業務上の指導の一環として厳重注意する趣旨で提出させたにすぎず、懲戒処分としてではない。

(三) 過去の事例との均衡について

被告は、過去の同種事案について、例外なく懲戒解雇をもって望(ママ)んでいるし、他方、原告が本件より重大事案と例示する事案のうち、その一部は、被告において、非違行為を把握していないし、それ以外は(ママ)ものは手当等の過誤請求事例であり、本件とは全く性質や重要性を異にする。

(四) 適正手続違反との主張について

被告は、これまで、平成一〇年七月三一日、同年八月二五日、同月二六日、同年一〇月一六日、同年一一月五日と原告から事情聴取を行い、弁明の機会を与えた。

第三(ママ)当裁判所の判断

一  争点1(解雇事由の有無)について

1  証拠(<証拠・人証略>、原告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 東京海上検査部は、東京海上グループ全体の厳正な業務運営を確保するという観点から、平成一〇年二月九日から同月二〇日にかけて、被告本社、九事業所、四三サービス拠点を対象に検査を行い、原告が所属する被告の近畿第一事業所もその対象となった。右検査の一環として、同月二〇日、任意抽出対象者の業務使用車両のメーター確認が行われ、原告がその対象者となった。このため、原告の上司である谷崎課長は、原告の業務使用車両の走行メーターの総走行距離を書き留めておいた。

そして、同月二三日ころ、原告から車両経費請求書が提出されたが、その請求書に記載されていた総走行距離数が谷崎課長が書き留めておいたメーター表示の総走行距離より少なく、このため谷崎課長は原告に同請求書を訂正して提出するよう求めた。

原告は右指示に従い、メーター表示どおり総走行距離を訂正し車両経費請求書を再提出したが、これによると、同年一月二七日から同年二月二四日までの総走行距離が、通常月よりも異常に多く、矢(ママ)崎課長が同月二四日頃、原告にその理由を質したところ、原告は一月三〇日に岡山へ葬式に行った旨答えた。

原告の説明に納得しなかった佐藤所長が、同年三月二日ころ、原告に再度説明を求めたところ、原告は、当初、岡山へ行ったとの説明が虚偽であることを認めたうえ、同年一月三〇日から同月三一日にかけて伊勢へ行き、二月一四日には神戸青木港まで姉を迎えに行き、翌日京都を案内したなどと説明したが、なおも追及を受け、平成九年六月頃からメーターが不調となり、三か月ほどそのまま走行したため正確な走行距離が不明になったと説明し、その旨記載した報告書(<証拠略>)を提出した。

原告は、同年三月一七日にも佐藤所長からメーター故障についての説明を求められ、同月一九日付で報告書(<証拠略>)も提出し、同月二〇日ころ、その裏付けとして平成九年九月三日発行の株式会社フォードグランマルシェ大阪作成かかるメーター交換修理を行った旨記載した整備請求明細書(<証拠略>)を提出した。

しかるに、同月二四日、さらに説明を求められると、原告は、伊勢に行ったとの説明も虚偽であったと述べて、虚偽説明をしたことに対する同日付の詫び状(<証拠略>)を提出したが、翌二五日には、さらに右説明をも翻し、伊勢に行ったのは事実であったとして、その旨記載した報告書(<証拠略>)を提出した。

被告は、同年五月七日、原告に虚偽説明をしたことに関する始末書を提出させ、厳重注意した。

(二) 被告では、平成一〇年六月ころ、従業員たるアジャスターによる車両経費、調査料等の不正取得が判明し、同従業員は、同年七月懲戒解雇となった。

これを契機に被告ではアジャスターの日常業務遂行状況の抽出調査を行うことになったが、原告もその対象となった。

原告については、平成一〇年二月二〇日の直近三か月間の調査報告書と立会調査手帳との照合が行われ、その結果、三三件中一七件について、調査報告書では面談調査料が請求されていながら立会調査手帳にはその旨の記載がないなどの不備が発見され、同年七月三一日、佐藤所長が、谷崎課長の後任である篠原課長や東京海上の森瀬課長立会のもとで原告から事情聴取を行った。

右事情聴取で、原告は立会調査手帳の不備は記載漏れである等と説明するとともに、業務使用車両のメーター故障は平成八年一月からであったなどと述べた。これに不審を抱いた被告では、右調査報告書と立会調査手帳の不一致の裏付調査、メーター故障修理の裏付調査、平成八年一月以降の調査報告書と立会調査手帳の照合調査等及び通勤経路の走行距離の確認などの調査を行うことになった。

右調査の結果、原告の調査報告書と立会調査手帳の記載の不一致が原告が関わった調査三一六件中一二六件、そのうち調査報告書では面談として調査料が請求されながら、立会調査手帳にその旨の記載がないものが二九件確認され、被告では、佐藤所長が、篠原課長及び森瀬課長の立会で、同年八月二五日及び二六日の両日に亘り、右不一致案件について原告から説明を求めた。

原告はこれらの多くについて警察署や病院等で面談したなどと説明したため、さらに、佐藤所長は、原告の説明のうち、不自然と思われるものについて裏付調査を篠原課長に命じた。篠原課長が調査したところ、原告が事故当事者Kと警察署で面談したと説明した契約者Kの件については、調査報告書では面談日が平成八年三月二二日となっているにもかかわらず、事故当事者であるKの警察官に対する供述調書は、同年三月二日付及び同月一五日付で作成されていることが判明し、契約者Tの件については、調査報告書ではリース先である株式会社常磐の専務取締役Mに八月二八日面談したこととなって(ママ)にもかかわらず、アンケート方式の事実確認に対し、Mから原告と面談したことはないとの回答が得られた。

また、原告は、被告には往復とも三二・五キロメートルの経路を通って通勤している旨申告しており、平成八年一月以降の立会調査手帳でも、谷崎課長から申告している走行距離の不備を指摘される平成一〇年二月二四日までは、自宅から会社までの走行距離を三二・五キロメートルとして記載しており、車両経費や燃料代も右申告にしたがって支給されてきた。しかるに、これについても、篠原課長が、原告申告にかかる通勤経路を実走行してその距離を計測したところ、復路については概ね申告どおりの距離であることが確認されたが、往路は二八・四キロメートルであることが判明した。

さらに、篠原課長は原告の使用車両のメーター取替の裏付調査も行ったが、その結果、株式会社フォードグランマルシェがメーター取替修理を行ったのは、原告の説明とは異なり、平成九年三月一一日の一回限りであり、その後原告との取引はないこと、原告が被告に提出した整備明細請求書も、原告から依頼され、修理日及び総走行距離につき虚偽の記載をして作成発行したものであることが判明した。

平成一〇年一〇月一六日、被告の業務推進部が調査報告書の点検を目的として定期的に行っている実務指導が実施され、その際、原告は、右整備明細請求書等についても質問されたが、何ら説明することができなかった。

以上の調査結果を踏まえ、同年一一月五日、佐藤所長は、森瀬課長、篠原課長の同席のもとで、原告から事情聴取を行った。原告は、通勤交通費の過剰請求については、当初から申し訳なく思っている旨述べて事実を認めたものの、契約者Kの件、契約者Tの件については、当初面談したと主張して、調査料の不正請求であることを否定していたが、篠原課長の調査結果等を示されて追及された結果、面談していないことを認めた。また契約者Hの件についても、受注は保険切替手続であったが原告の調査報告書上は社会保険切替面談として調査料が請求されていたことなどから、これに関する調査事実の有無等を追及され、原告は、後になってから不服を述べてきた被害者の夫に電話で保険切替の説得をしたなどといって弁解したが、電話での説得では面談にならない旨指摘され、調査料請求が誤りであることを認めた。

原告は、同日、被告の求めにより、これら三件の調査料不正取得についてこれを認める旨記載した本件確認書を提出するとともに、業務使用車両のメーター取替時期についても不実の申告や虚偽の整備請求明細書を作成させたことを認める確認書(<証拠略>)を提出した。

被告では、右事情聴取を踏まえ、原告の懲戒解雇を決定した。

同年一二月四日、被告人事部長北川瑛機が佐藤所長も同席する中で原告に弁明を求めたが、原告からは何らの弁明もなく、そこで、北川は、解雇予告手当を支給して、原告に本件解雇を通告した。

なお、原告は、右処分告知の際、右三件の調査料不正受領額合計が九四五二円、平成八年一月から平成一〇年三月二五日までの車両経費及び燃料代不正受領額合計が三万二三一一円になることを確認する旨記載した確認書(<証拠略>)に署名を求められて、これに署名するとともに、以上合計四万一七六三円の弁済をした(なお、調査料不正取得額の算定根拠は不明であり、また、車両経費不正取得額については、通勤距離を、篠原課長が実走行で確認した原告の自宅と会社間の往路の距離に誤差等を考慮して二八・九キロメートルとしたうえで、往復とも修正して算定されている。)。

(三) 被告では、調査料の不正取得を行ったアジャスターについては、不正取得額の多寡にかかわらず、懲戒解雇をもって対処しており、これまでにも平成五年、平成七年、平成九年にそれぞれ一般アジャスター各一名が懲戒解雇処分を受けているが、その不正取得額は、原告が不正取得したとされる金額より少額な者も存した。

また、平成一〇年七月には、右のとおり調査料不正取得の発覚した技術アジャスター一名が懲戒解雇処分を受けている。

また、これらの処分結果の公示は、被告人事部から社内各部署の管理職宛に社外秘、親展、禁コピーとする社内的な公示文書で通知されており、管理職から所属アジャスターに周知する方法が採られている。

2  以上認定の事実に対し、原告は、メーター交換時期に関して事実と異なる説明をしたこと(ただし、意図的なものではないという。)及び虚偽の記載をさせた整備明細請求書を作成させ被告に提出したこと、立会調査手帳上の走行距離とメーター上の走行距離との食い違いについて何度か説明を訂正したこと以外は解雇事由該当事実はないと主張して種々反論し、本人尋問でもこれに沿う供述をするほか、陳述書にも同旨を記載しているので、原告の主張の主要な点について、補足して説明する。

(一) 三件の調査料の不正取得に関して、まず、原告は、調査報告書(<証拠略>)の記載内容は詳細であり、これが現実に面談がなされたことを裏付けている旨主張するが、右報告書を子細に検討しても面談に基づかなければできないような記載は認められず、原告自身、本人尋問でその箇所を指摘するよう問われても単に内容の詳細さと答えるのみで具体的な指摘はできないのであって、右報告書の記載内容から面談の有無を判定することはできず、したがって原告の右主張は採用できない。

また、原告は、面談の記載が立会調査手帳にないことは却って原告が不正請求の意図を有していなかったことを示すものであるとも主張するが、立会調査手帳は単なる交通費の請求根拠となるだけでなく、行動記録でもあるとされ、その都度正確に記載することが求められているのであって(<証拠略>)、これに記載がない以上面談はなかったと推認するのが経験則上相当であり、原告の右主張は、単なるこじつけの不合理な主張というほかなく、到底採用できない。

さらに、原告は、契約者Hの件は、原因調査の段階で面談し保険切替を説得したと主張するが、原告が原因調査の段階で作成した調査報告書(<証拠略>)には、原告が保険切替について説得したことを窺わせる記載は全くないこと、原告が保険切替に関して受注したのは既に決まった保険切替の手続であり、その報告書にも、自ら切替説得をしたとの記載はなく、却って、他者による説得の結果社会保険使用となった旨の記載があること(<証拠略>)、前記認定のとおり、原告は平成一〇年一一月五日の事情聴取では、右主張とも異なる弁解をしていたと認められることなどに照らすと、原告の右主張も採用しがたい。

原告は、本件確認書は、被告から事実を一方的に決め付けられ、強要されて提出させられたものであると主張するが、仮に原告が懲戒解雇を受けることまでは予想しなかったとしても、調査料の不正取得は犯罪にも該当する非違行為であり、その額の多寡にかかわらずことの重大性は明白であって、相当の処分に繋がることは容易に予見できたはずであり、それにもかかわらず、事実に反し、意に反する本件確認書を単に一方的に事実を決め付けられたからとの安易な理由から提出したとは考えられないし、他方、被告にしても、原告を強いて懲戒や退職に追い込まなければならないような事情があったとは認めらず(ママ)、よって、原告の右主張も採用できない。

(二) 次に、車両経費及び燃料代の不正取得に関して、原告は、メーター故障のため業務走行距離を控えめに申告していたとか、通勤走行距離の往路が申告距離より短いことを認識していなかったなどと主張する。

しかしながら、原告は、本人尋問で、控えめに申告していたのは業務走行距離であり、総走行距離はメーター表示どおり申告していた旨供述するが、本件非違行為等発覚の発端となったのは、原告が、車両経費請求書に記載すべき総走行距離をメーター表示の総走行距離より少なく記載しており、これを谷崎課長に気づかれたことによるのであって、原告が作成した報告書(<証拠略>)も右の相異を説明したものであるから総走行距離に関するものであり、原告が少なくとも総走行距離について虚偽申告をしてきたことは明らかというべきである。そして、総走行距離を少なく申告すれば、それに対する業務走行距離の比率は増大し、したがって、車両経費が増額するという関係にある。本来、メーターが故障しているとすれば、メーター表示の総走行距離は実走行距離より少ないはずであるから、原告が車両経費を申告するに当たってメーター表示の総走行距離よりさらに少な目に申告することには何らの合理性もない。そうすると、原告が総走行距離を少なく申告したのは、少なくとも相対的に業務走行距離の比率を増大させるためであったというほかない。

また、通勤走行距離についても、三二・五キロメートルの申告距離に対し三キロ以上も異なっていればその差に気づかないというのは通常考えられないし、もともと、通勤や業務での走行距離はその都度計測すべきものであり、原告が主張するように通勤経路を変更したというのであればなおさら距離の相異を意識するのが通常である。

以上に照らし、前記認定に反する原告の右主張は採用できない。

(三) 原告は、メーター交換時期について事実と相違する説明をしたのは、思い違いであり、虚偽の整備明細請求書を作成させたのも整合上のことであると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、原告が、株式会社グランマルシェ大阪でメーターの修理をしたのは平成九年三月の一回のみでそれ以後取引はないのであるから、それからさほど経過していない平成一〇年三月の時点で修理時期を間違えたというのは考え難く、また、原告は、メーターが故障していたと弁明し、虚偽の整備明細請求書を提出した前後にも、走行距離についての説明を変遷させており、メーター修理時期の説明についてのみ後から真実を述べることがはばかられたというのは不自然である。さらに、証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告が整備明細請求書を提出したのは、被告の求めによるものではなく、原告が自発的にしたものであると認められる。これらに照らすと、原告の右主張も採用できない。

(四) 原告は、車両経費の過剰請求について虚偽の説明を繰返した事実はないし、メーターの交換時期も修理時期を取り違え、後日それを申告しなかったにすぎないなどと主張するが、メーター交換時期の説明の変遷については、右に説示したとおり、単なる原告の思い違いであったとは認められない。

これに対し、車両経費の過剰請求それ自体については、確かに、原告が説明を変遷させたとの事実を認められないが、原告が申告した走行距離とメーター表示の走行距離との相異に関する説明は、とりもなおさず、車両経費請求の適正に関する説明でもあるから、その説明の変遷は車両経費の過剰請求に関する説明の変遷でもあるというべきである。

(五) 最後に、原告は、これまで同種事案が必ずしもすべて懲戒解雇されてきたものではないと主張するが、少なくとも、被告が挙示する前記認定の四例において、懲戒解雇処分がなされたことは証拠上明らかというべきである。

原告は、その内の一事案(平成五年の処分事例)について、被処分者とされている者から、事案、処分内容とも被告の主張とは異なる旨聞かされたと主張し、陳述書(<証拠略>)にも同旨を記載するほか、他の一事例(平成一〇年の処分事例)に関しても、事実をよく確認されないまま懲戒解雇されたとして不満を述べる被処分者作成の陳述書(<証拠略>)を提出している。しかしながら、懲戒解雇を受けた者は、使用者に対する反発や処分事由とされた非違行為を知られたくないとの気持などから自己の非違行為や処分内容を正確に伝えるとは限らないのであって、右陳述書等の記載によって前記認定を覆すことはできず、右主張も採用できない。

以上のとおり、前記認定に反する原告の主張はいずれも採用できず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

3  前記認定事実によれば、被告が本件解雇の解雇事由として主張する事実はいずれもこれを認めることができる(ただし、原告の車両経費、燃料代の不正取得額については、通勤復路分も過剰請求の算定に含めている点で被告主張額より低額となる余地があるし、契約者Hの件に関しては、真実は原告が何ら保険切替交渉をすることなく、面談手数料を請求した可能性がある。)。

また、右解雇事由に該当する事実は、懲戒事由を定めた就業規則四四条四号、八号、一一号、一二号に該当すると認められる。

二  争点2(本件解雇の適法性)について

1  そこで、本件解雇が原告に対する懲戒として適法であったかについて判断する。

被告は、東京海上から受注した保険事故の調査等を行うことを業としているのであるが、その調査結果は、東京海上が支払う保険金の認定の際の資料、これに関する相手方との交渉や訴訟の資料として使用されるものであり、これに誤りがあれば、被告が信用を喪失するのみならず、発注元である東京海上にも信用喪失、保険金過払等の不利益をも及ぼすことにもなりかねないのであって、調査結果の適正と正確性は被告存立の根幹に関わることといって過言ではない。そのような調査は、被告ではアジャスターに委ねられており、各アジャスターが調査結果を調査報告書に作成して報告することとされているから、アジャスターが作成する調査報告書には高い適正と正確性が求められることになる。そして、調査結果の適正及び正確性は、調査方法のいかんに関わる部分が少なくなく、アジャスターがいかなる調査方法を用いて情報収集を行ったかは、調査結果の精度を判断する上で極めて重要な要素というべきである。

被告は、このような観点から、調査報告書の不実記載とこれによる調査料の不正取得という不祥事に対しては、その不正取得額の多寡にかかわらず懲戒解雇という厳しい対処をしてきた旨主張するのであるが、調査報告書の正確性が被告の業務において有している重要性からすると、右のような被告の対応は相当としてこれを是認することができる。

本件解雇における解雇事由には、それのみであったなら懲戒解雇を相当と認めるに逡巡される虚偽説明や通勤交通費の不正請求が含まれてはいるが、その主眼は、原告が、電話で事情聴取したに過ぎない調査に関して面談調査した旨記載した調査報告書を作成し、これに関する調査料の不正取得をしたという点にあることは明らかであるし、また、原告が、自らの虚偽説明を取り繕おうとして、将来被告の取引先ともなりうる自動車修理業者をして虚偽の整備明細請求書を作成させ、これを被告に提出したことも、被告の信用を毀損し、背信性の強いものとして大きな非難に値するものと考えられる。

これらを総合考慮すると、被告が、原告に対し本件解雇を選択したこともやむを得ない措置であったというべきであり、本件解雇に裁量権を逸脱した違法があるとは認められず、よって、本件解雇は相当というべきである。

2  これに対し、原告は本件解雇の不適法性であると主張するので、以下、これら原告の主張について判断する。

(一) 相当性について

原告は、本件解雇が相当でないとして、その理由について縷々主張するが、原告の金銭不正取得が意図的なものであることは前記認定のとおりであり、本件解雇事由の性質及びその重大性からして、原告の取得額が少額であることや、原告が退職金請求権まで失う不利益を受けることは本件解雇を不相当とする理由とはなし難い。

原告は、調査料不正取得に対する懲戒解雇との方針は周知されておらず、不正防止措置が不十分であると主張するが、前記認定のとおり、被告とした(ママ)は周知の措置を採っていたと認められるが、仮に、原告の所属する部署における周知が不徹底であったとしても、調査報告書の不実記載の持つ重大性を、とりわけ勤続二二年にも及ぶベテランアジャスターである原告が認識しないということは考えられない。

また、原告は、被告が事実を一方的に決めつけたとして、事実調査の方法が不公正であると主張するが、本件解雇事由が存することは前記認定のとおりであり、被告がその調査に当たって、一方的な決めつけをしたと認めるに足る証拠もない(これに関する原告の本人尋問での供述や陳述書の記載は信用できず、採用しない。)。

本件解雇は、原告の勤続期間や勤務状況、懲戒歴をも考慮しても、なお不相当とは認められない。

よって、本件解雇が不相当であるという原告の主張は採用できない。

(二) 二重処分との主張について

原告は、平成一〇年五月七日に本件始末書を提出したことで処分済みであると主張するところ、就業規則四五条には、懲戒として、譴責等の場合には始末書を提出させることとなっているから、原告がこれを懲戒と受け止めたということも全く考えられないことではない。

しかしながら、被告としては、これを懲戒処分として行ったものではないというのであり、原告の陳述書等にも、譴責処分として始末書の提出を求められた等の事情は全く記載されておらず、本件始末書提出を真に原告が懲戒処分として受け止めていたかははなはだ疑問というべきであるし、本件始末書には岡山に行ったと虚偽説明したことのみについての謝罪等しか記載されておらず、仮にこれが譴責処分に当たるとしても、解雇事由の全貌(特に調査料の不正取得や内容虚偽の整備明細請求書を作成させたこと)が明らかになったのは、前記認定のとおり、その後のことであるから、本件解雇については、その一部に重複があるというに過ぎないことになるだけであって、そのために本件解雇が無効になるとは解されない。

よって、原告の右主張も採用できない。

(三) 過去の事例との均衡について

原告は、過去の処分との不均衡も主張するが、被告が本件と同種の調査料不正取得の事案について、懲戒解雇という処分を行ってきたことは前記認定のとおりこれを認めることができる。

他方、原告は、本件より重大事案で軽い処分等にとどめられた事案もあると主張し、陳述書(<証拠略>)に四事案を例示しているが、そのうち三例は、車両経費や住宅補助の請求過誤のみということであって、本件とは事案を異にするし、他の一事案は、調査料の過誤請求であったというのであるが、被告はこれを把握していないと主張しており、その内容に関する客観的な裏付けとなる証拠もなく、詳細は不明であって、これを本件と対比させ軽重を論じることはできない。

よって、原告の右主張も理由がない。

(四) 適正手続違反の主張について

原告は、本件解雇に当たって、十分な弁解の機会を与えられなかったとして、本件解雇が適正手続に反する旨主張するが、前記認定のとおり、本件解雇に至るまで、平成一〇年七月三一日、同年八月二五日、同月二六日、同年一〇月一六日、同年一一月五日と重ねて原告から事情聴取を行っており、その際、原告も種々弁明したりしていたことが認められるのであって、原告の右主張も採用できない。

以上のとおりであり、本件解雇を違法とする根拠はない。

三  よって、原告の本訴請求は理由がないので主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾嘉倫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例