大阪地方裁判所 平成11年(ワ)8121号 判決
①事件
原告
A
右訴訟代理人弁護士
石田法子 大橋恭子 角野とく子 河合徹子 川崎裕子
越尾邦仁 小橋るり 小山操子 阪口徳雄 島尾恵理
高瀬久美子 段林和江 辻公雄 寺沢勝子 長岡麻寿恵
乗井弥生 松尾園子 矢倉昌子 雪田樹理 養父知美
淺松千寿 秋田一惠 岩城穣 岩永惠子 岩本朗
色川雅子 宇賀神直 江野尻正明 大国和江 小川恭子
小倉京子 笠松健一 加納雄二 片見富士夫 川西渥子
木村治子 小島妙子 児嶋初子 今野久子 財前昌和
澤口嘉代子 城塚健之 白倉典武 谷千恵子 玉木昌美
辻川圭乃 角田由紀子 出口みどり 寺沢達夫 富崎正人
豊川義明 中村れい子 成田教子 西尾弘美 野仲厚治
長谷川京子 馬場久枝 番敦子 秀嶋ゆかり 平山知子
藤井美江 松井繁明 松井千恵子 松田幸子 松本剛
三木恵美子 宮地光子 莚井順子 村田浩治 村田智子
森下弘 門間久美子 山口健一 山下潔 山下道子
山田万里子 横山精一 吉岡睦子 吉原稔 吉岡良治 渡辺和恵
被告
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
蒲谷博昭
同
奥田純司
同
富士川敦己
主文
一 被告は、原告に対し、一一〇〇万円及び内金八〇〇万円に対する平成一一年四月一六日から、内金三〇〇万円に対する同年一〇月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
一 原告は、「被告は、原告に対し、一五〇〇万円及び内金一二〇〇万円に対する平成一一年四月一六日から、内金三〇〇万円に対する平成一一年一〇月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求め、請求の原因として、別紙「訴状請求の原因」、同「原告準備書面(一)の第二」、同「原告準備書面(二)」のとおり述べた。
二 被告は、本件口頭弁論期日において、右請求の趣旨に対しては答弁せず、請求原因事実についてはいずれも沈黙するので、請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。
三 もっとも、慰謝料算定の基礎となる事実については右のとおり擬制自白が成立するが、右基礎事実を前提とする慰謝料額の算定については当裁判所の裁量に委ねられているので、慰謝料額について、以下具体的に検討する。
1 わいせつ行為による慰謝料について
(一) 原告が受けたわいせつ被害は、一度の機会におけるものとはいえ、選挙運動のために走行中の選挙用ワゴン車の中で、被告の支配下にあり、原告との性交渉を望むような発言すらしていた者を含む同乗者らに囲まれ、当時二一歳の誕生日を迎えたばかりの女子大生であった原告が、風邪で高熱もあり容易に抵抗できなかった状況下で、被告により自己の腹部から足下を覆うように体に毛布を掛けられた上、約三〇分間にわたり、被告の右手をズボンや下着の中に差し入れられたり、指で陰部を直接弄ばれたというものであり、右行為態様は執拗かつ悪質である。また、わいせつ行為に及ぶ経過をみると、被告はわざわざ毛布一枚を持って車両を乗り換えるなどわいせつ行為の計画性も窺われるし、わいせつ行為後も、被告は、自らの行為を反省するどころか、原告に対して海外ブランド品を交付することにより事を解決しようとするなど、原告の人格を蔑視する態度を取っている。さらに、原告は、被告の大阪府知事としての政策に関心を持ち、全面的に信頼を寄せて被告の選挙運動員として活動していたにもかかわらず、被告はこのような原告の信頼を裏切って、選挙運動のために走行中の選挙用ワゴン車の中でわいせつ行為に及んでいる。これらに照らすと、被告の行為は、極めて悪質で、強く非難されるべきであり、原告の受けた精神的な衝撃ないし屈辱感も極めて大きいというべきである。
(二) 右各事実を総合すれば、本件わいせつ行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するには、二〇〇万円が相当である。
2 虚偽告訴に関する名誉毀損行為による慰謝料について
(一) 原告が被告から右わいせつ被害を受けたとして、被告を強制わいせつ罪で告訴したことに対して、被告は逆に原告を虚偽告訴罪で告訴しているが、原告の告訴がわいせつ被害を受けた事実に基づくこと及び被告の告訴行為が虚偽の事実に基づくものであることについて、前記のとおり擬制自白が成立している。そうすると、被告の告訴は、現職の知事の立場にある権力者が、わずか二一歳の女子大生を虚偽の事実により罪に陥れようとしたという極めて特異かつ異例な違法性の強い行為と評価し得る。
(二) しかも、被告は、「乙山次郎」の芸名で芸能活動を行い、参議院議員を経験した後、現在は大阪府知事であるという極めて高い知名度を有しており、自らの発言が、その虚実はともかくとして、マスメディアを通じて直ちに全国に報道されることを十分に認識し、その上で、自己の見解を流布させる意図で、あたかも原告が被告を陥れているかのごとき発言を繰り返してきた。被告の右行為は、自らわいせつ行為をしたにもかかわらず、その知名度を利用して、原告によって陥れられたかのごとき虚偽の事実を一方的に流布させて、原告の名誉を不当に侵害したものである。
(三) 以上のように、現職の大阪府知事である被告が、自己のわいせつ行為の被害者である女子大生に対して、逆に虚偽告訴し、これに関連して意図的に虚偽内容の記者会見をした上で、この内容を全国に報道させたことにより原告を大衆の好奇の目に晒したという名誉毀損行為の極めて異常な態様に鑑みれば、これにより原告が受けた精神的苦痛は、わいせつ行為それ自体によるものよりも甚大であるというべきであって、これにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するには五〇〇万円が相当である。
3 第一回口頭弁論期日以降の記者会見等の名誉毀損行為による慰謝料について
(一) 民事訴訟においては、被告は原告の主張を争うこともできるし、これを認めたり、争うことを明らかにせず沈黙することも許されているので、被告の本件訴訟における応訴態度自体は、セクシャルハラスメントの防止と被害女性の救済を施策として掲げる大阪府女性政策推進本部長の立場にある者として政治的・道義的な非難の対象となり得るかどうかは別として、法的には非難の対象となるものではない。
(二) しかし、被告は、本件訴訟の第一回口頭弁論期日において、請求原因事実について争うことを明らかにせず沈黙する態度を取りながら、同日夕方に行われた記者会見においては、右態度を一変させて、本件わいせつ行為に関する原告の主張につき、「真っ赤な嘘」「明らかな選挙妨害」「でっち上げ」等と発言し、この記者会見の内容は、直ちにマスメディアを通じて全国に報道されることとなり、また、その後の大阪府議会における答弁においても同様の発言を繰り返し、さらにこれが全国に報道されるという極めて異例な経過をたどった。
(三) このような、本件第一回口頭弁論期日当日及びその後にされた被告の一連の行動は、一方で、当裁判所における公開の法廷においては反論の機会を十分に与えられながらこれを行使せず、他方で、原告には何らの反論の機会すらない記者会見あるいは大阪府議会の場等で、自己の高い知名度により、その発言が直ちに全国に報道されることを意図した上で、一方的に自己の言い分を表明して原告を誹謗しているのであって、その手法自体、著しく社会常識を逸脱した行為であると言わざるを得ない。また、被告は、自己の言い分の表明に止まらず、「判決により相手方に何らかの金員を支払わなければならないことは不愉快極まりなく、一円たりとも払いたくない。」と述べながら、他方で「八〇〇億円でも支払う。」と不見識な発言をするなど、民事訴訟による紛争解決機能を全く無視し挑戦する姿勢を示し、民事訴訟による紛争解決を求めた原告の態度自体を著しく愚弄している。
(四) また、被告は、本件に付随して当裁判所が原告のプライバシー保護のため、原告の申立てに基づき訴訟記録の一部について閲覧制限決定をした点を捉え、あたかも、右決定のために、本件訴訟の場において十分に反論できなかったかのごとき発言をしている。しかし、右制限は、あくまで訴訟記録中に秘密が記載されている場合に、その閲覧等を一般人に対して制限するものであって、訴訟当事者の訴訟活動については何らの制限も加えておらず、このことは民訴法九二条一項の規定により明らかであって、被告の右発言は、民訴法の規定及び当裁判所の決定の趣旨を意図的に歪曲したと疑われても仕方がない極めて不当なものである。
(五) 被告による一方的な発言により、原告は、本来被害者であるにもかかわらず、ことさら被告を陥れるために虚偽の事実を申し立てたり、被告の反論の機会を奪っているかのように誤解されるかもしれないとか、さらに世間の好奇の目に晒され続けるのではないかとの強い不安感を抱くことにより、著しい精神的苦痛を受けたことが認められる。
(六) 以上のように、被告は、自己の高い知名度を利用して、原告には何らの反論の機会すらない記者会見等の場において、原告を侮辱し非難する発言を繰り返すことにより原告に対して著しい名誉毀損行為をし、右発言内容がマスメディアを通じて連日のように全国に報道された。これにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するには、三〇〇万円が相当である。
4 弁護士費用について
本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、一〇〇万円と認めるのが相当である。
四 よって、原告の本訴請求は、①わいせつ行為による慰謝料二〇〇万円、②虚偽告訴に関する名誉毀損行為による慰謝料五〇〇万円、③第一回口頭弁論期日以降の記者会見等の名誉毀損行為による慰謝料三〇〇万円、④弁護士費用一〇〇万円の合計一一〇〇万円及び右の内、①、②、④の合計額八〇〇万円に対する虚偽告訴の日である平成一一年四月一六日から、③の三〇〇万円に対する催告日の翌日である同年一〇月二六日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法六四条ただし書を適用して被告の負担とし、仮執行宣言につき同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官林圭介 裁判官森純子 裁判官髙原知明)
別紙「訴状 請求原因」<省略>
別紙図<省略>
別紙「原告準備書面(一)の第二」<省略>