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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)12732号 判決 2001年4月24日

大阪府東大阪市上四条町22番21号

原告

田畑一男

大阪府東大阪市横枕東28番地

被告

三世会こと河内総合病院こと森本弘子

訴訟代理人弁護士

澤田有紀

大阪市守口市本町1丁目5番8号

被告

蔦佳尚

訴訟代理人弁護士

大砂裕幸

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告三世会こと河内総合病院こと森本弘子(以下「被告森本」という。)は、原告に対し、金657万円及びこれに対する平成12年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告蔦佳尚(以下「被告蔦」という。)は、原告に対し、金710万4880円及びこれに対する平成12年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  当事者の主張

【原告の主張】

1  被告森本に対する請求原因

(1) 原告は、便の潜血検出用試薬の特許権(特許第2017379号。以下「本件特許権」という。)を有している。

(2) 被告森本は、三世会又は河内総合病院の名称で総合病院を経営しているところ、平成7年4月27日以降、原告に無断で、1日2回以上、便の潜血検出試薬による検査をし、本件特許権を侵害した。

本件特許権の実施料相当額は、上記検査1回につき3000円以上であるから、被告森本が、平成9年11月1日から平成12年10月31日までに行った上記検査について支払うべき実施料相当額は、少なくとも657万円となる。

(3) よって、原告は、被告森本に対して、本件特許権侵害に基づく損害賠償として、損害金657万円及びこれに対する平成12年12月1日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告蔦に対する請求原因

(1) 被告蔦は、平成10年12月18日、河内総合病院で耳鼻咽喉科の医長として勤務していた。

(2) 原告は、同日、被告蔦から耳の手術を受けた。しかるに、被告蔦は、同日、なぜか河内総合病院の入院患者らに対し、「原告は、できもしない発明をちらつかせ、有名人の名前をかたり、誇大妄想型精神病である‥‥」と話した。この話は、原告が転院した病院先にも話されたので、原告は転院先でも気狂いのように扱われる被害を被った。

原告は、平成11年4月末ころ上記事実を知った。上記事実は、原告に対する最大の侮辱であり、かつ医師としてあるまじき行為であり、これにより被った原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、50万円と見るのが相当である。

(3) また、被告蔦は、保険会社に対する入院給付金請求書の診断書に原告名を「田原一男」と記載してしまったため、原告がその後診断書を求めても田原一男でしか得られなくなってしまった。さらに、被告蔦は、自ら診断もしていないのに、転院先に「既往症 慢性膵炎慢性肝炎、胃潰瘍」という診断書を送付した。このため、原告は、保険会社から告知義務違反に問われ、結局、今日まで下記入院給付金合計660万4880円の支給を受けられないという損害を被った。

<1> 郵便局簡保 1万5000円(1日)×200=300万円

<2> 全労災 1200円(1日)×574=68万8880円

<3> 太陽生命 4000円(1日)×729=291万6000円

(4) 原告は、被告蔦に対し、平成11年11月15日付内容証明郵便により「慰謝料及び入院給付金相当額の弁償をするよう」にと催告したが、被告蔦は何ら誠意ある解決をしない。

(5) よって、原告は、被告蔦に対し、不法行為に基づく損害賠償として、損害金710万4880円及びこれに対する平成12年12月1日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

【被告森本の主張】

1  本案前の答弁

原告は、河内総合病院内で実施されている検査について、本件特許権侵害の事実を主張しているようであるが、被告森本は、三世会や河内総合病院を個人経営しているわけではなく、被告森本に当事者適格はない。

2  被告森本が本件特許権を侵害した事実はない。

【被告蔦の主張】

【原告の主張】2記載の事実のうち、被告蔦が、平成10年12月18日、河内総合病院の耳鼻咽喉科に勤務していたこと、同日、原告の耳の手術をしたことは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。なお、原告主張の診断書(入院証明書)を作成したのは、被告蔦ではない。

第3  当裁判所の判断

1  被告森本に対する請求について

原告は、河内総合病院が被告森本の個人経営であることを前提に、同人が、同病院内で行われた本件特許権侵害による損害賠償責任を負うと主張する(なお、被告森本は、自己に当事者適格がないと主張するが、本件において原告は、被告森本に対して上記原告の主張を前提に金銭の支払請求をしているのであるから、被告森本に当事者適格がないということはできない。)。

しかし、証拠(乙1)によれば、同病院は、医療法人三世会が開設している病院であって、被告森本は、同病院の理事長にすぎないものと認められるから、原告の主張は、その前提を誤るものであって、原告の被告森本に対する請求は、その余の点を検討するまでもなく、認められない(原告は、本件第3回口頭弁論期日において、被告森本の表示を「被告医療法人三世会代表理事長森本弘子」に訂正する旨の訴状訂正書を提出したが、これは当事者の表示の訂正ではなく、当事者の変更に当たるものであるから、許されない。)。

なお、原告は、本人尋問において、原告が河内総合病院において本件特許権侵害が行われたと考えたのは、同人が同病院において、便の潜血検査を受けたからと供述するが、同供述によれば、原告は、同検査に際し、単に、自己の便を容器に入れて同病院の看護婦に渡したにすぎないと認められ、それ以上に、同病院が行う便の潜血検査によって、本件特許権が侵害されたことをうかがわせる事情は認められない。したがって、河内総合病院において、本件特許権が侵害されているとも認められない。

よって、原告の被告森本に対する請求は、理由がない。

2  被告蔦に対する請求について

原告は、被告蔦が、前記第2【原告の主張】2(2)記載のとおり、原告を侮辱するような発言をしたと主張するが、原告も本人尋問においては、被告蔦自身がそのような発言をしたわけではないことを認める供述をしているのであって、その他本件全証拠によってもそのような事実を認めることはできない。なお、原告は、自分を侮辱するような記載が自己のカルテに記載されているから、誰がその記載をしたかにかかわらず、被告蔦がその責任を負うべきであると供述しているが、そのような責任を被告蔦に認める理由はない。

原告は、被告蔦が、前記第2【原告の主張】2(3)記載のとおり、保険会社に対する入院給付金請求書の診断書に虚偽の記載をしたと主張するが、証拠(甲2、丙1)によれば、被告蔦は、同書面が作成された平成11年2月12日よりも前の同10年12月31日に河内総合病院を退職しており、同書面の作成者は被告蔦以外の医師であると認められるから、原告の主張は認められない。

よって、原告の被告蔦に対する請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がない。

3  以上より、原告の請求は、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 安永武央 裁判官高松宏之は、転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小松一雄)

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