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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)13167号 判決 2003年9月08日

原告

被告

破産者a運輸株式会社破産管財人Y

主文

一  原告が、破産者a運輸株式会社に対し、高松地方裁判所平成一四年(フ)第一号破産事件につき、四二万九四九二円の破産債権を有することを確定する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が、破産者a運輸株式会社に対し、高松地方裁判所平成一四年(フ)第一号破産事件につき、異議にかかる八二六万三八九一円の破産債権を有することを確定する。

第二事案の概要

本件は、原告が破産宣告前のa運輸株式会社の業務遂行中に負傷した事故につき、原告が同社に対し、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由として損害賠償(遅延損害金を含む。)を請求する訴えを当裁判所に提起していたところ、同社は、平成一四年一月四日破産宣告を受け、被告が破産者a運輸株式会社(以下「破産会社」という。)の破産管財人に選任され、原告が届け出た本件損害賠償金及び遅延損害金の一部に対して異議を述べたことから、原告が被告による本件訴訟の受継を申し立てるとともに、従前の給付の訴えを前記異議にかかる破産債権確定の訴えに変更した事案である。

一  争いのない事実等

(1)  当事者

ア 破産会社は、貨物自動車運送等を目的とする株式会社であった。

イ 原告(昭和○年○月○日)は、平成一一年九月二九日、トラック運転手として破産会社に入社し、大阪市住之江区所在の大阪営業所に勤務していた。

(2)  事故の発生

次の事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

ア 日時 平成一一年一一月二日午後二時三〇分ころ

イ 場所 兵庫県加古川市内にある株式会社フットワーク加古川店内のトラックホーム(以下「本件事故現場」という。)

ウ 態様 原告が、破産会社所有のトラックを運転して本件事故現場に到着した後、前記トラックの後部ドアを開けたところ、荷崩れ防止用のベニヤ板製パネル(通称「コンパネ」。以下「本件パネル」という。)一〇枚が原告の上に倒れた。

(3)  原告の受傷等

原告は、本件事故により、第三頸椎椎体骨折、頸部捻挫及び外傷性頸部症候群の傷害を負い、次のとおり通院して治療を受けた。

ア 本件事故現場付近の病院

平成一一年一一月二日

イ 東住吉森本病院

平成一一年一一月四日から平成一二年二月一六日まで(実通院日数九日)

ウ 大阪府立病院

平成一二年二月一八日

エ 山本クリニック

平成一二年二月一九日から同年一〇月二四日まで(実通院日数一三一日)

(4)  原告の休業

原告は、本件事故により、平成一一年一一月三日から平成一二年一〇月二一日までの間(一一か月一九日)休業した。

(5)  労働者災害補償保険法に基づく後遺障害認定

原告は、平成一二年一〇月二〇日、頸部捻挫、第三頸椎椎体骨折後の頸部痛、肩の痛み、頭痛、耳鳴り等の神経症状を残して症状が固定した旨診断され、同月二七日、大阪南労働基準監督署長から、原告の前記後遺障害は労働者災害補償保険法施行規則別表一に定める障害等級第一二級一二号(局部にがんこな神経症状を残すもの)に該当すると認定された(甲一一、一二の六)。

(6)  労災給付等

ア 原告は、労災保険から、次のとおりの給付(特別支給金は除く。)を受けた(甲一一)。

(ア) 療養補償給付 七八万六一五七円

(イ) 休業補償給付 一九五万九九八四円

(ウ) 障害補償給付 一四六万〇三一六円

イ 原告は、破産会社から、休業補償として、二万二四六四円の支払を受けた。

(7)  破産会社の破産宣告

ア 破産会社は、平成一四年一月四日、高松地方裁判所から破産宣告を受け(同裁判所同年(フ)第一号)、被告が破産会社の破産管財人に選任された。

イ 原告が、前記破産手続において、本件損害賠償金一二一三万七五五五円及び遅延損害金一三一万八五〇四円の債権を届け出たところ、被告は、債権調査期日において、原告の届出債権のうち、損害賠償金七四五万四一四六円及び遅延損害金八〇万九七四五円について異議を述べた。

二  争点

(1)  破産会社の責任原因及び過失相殺

(2)  原告の損害額

三  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(破産会社の責任原因及び過失相殺)について

ア 原告の主張

(ア) 本件パネルは、固定されないままトラック荷台の後部ドアに立てかけられており、そのことを知らない者が後部ドアを開けると倒れるようになっていた。破産会社としては、雇用する乗務員に対し、後部ドアを開けても荷崩れ防止用のベニヤ板製パネル(以下「パネル」という。)が倒れないようにこれを固定するよう、その積み方を指導すべき義務があったところ、この義務を怠ったため、原告がトラックの後部ドアを開けたところ、荷台後部に固定せずに立てかけた状態で置かれていた本件パネルが倒れてきて、原告を押し倒し、その結果、原告が負傷したものである。

(イ) 空車の場合、パネルは、通常、荷台の床に寝かせておくものであって、これが固定されないまま後部ドアのところに立てかけられていることは普通はあり得ないことであるから、このような異常な事態をプロドライバーが熟知しているはずがなく、本件事故の責任はすべて破産会社にある。また、本件事故が発生したとき、原告は、空車のトラックの後部ドアを開けただけであるから、ヘルメットを着用する必要はなかったし、本件事故で原告が受けた負傷内容は、第三頸椎椎体骨折、頸部捻挫等であるから、ヘルメットを着用していても、前記負傷を免れることはできなかったと言うべきである。したがって、原告がヘルメットを着用していなかったことを理由に過失相殺することはできない。

イ 被告の主張

(ア) パネルは、荷崩れ防止用にトラック荷台に常備されているものであるところ、これを荷台床に置くと、トラックが走行中に荷台内で動くし、原告が本件事故当時使用していたトラックは、側面部にウィングドアのあるタイプであり、このようなトラックにあっては、パネルが荷台前部にあると、ウィングドアを開閉して荷物を積み卸しするのに邪魔であるから、パネルは後部ドアにベルトで固定して立てかけておく(その場合、パネルは荷台側には倒れないが、後部ドアを開けると、開放部に向かって倒れることになる。)のが通常である。

したがって、破産会社に後部ドアを開ける際にパネルが倒れないようにする義務はなかった。

(イ) 原告は、破産会社に勤務する前から、他の会社でトラック運転手として勤務した経験があり、大型第二種及び牽引第二種の免許を有していた。そして、破産会社入社後には、ヘルメットの着用及び事故防止等についての指導を受け、本件事故当日に破産会社加西営業所の責任者から運行前の点検を確実に実施するように指示されていたのであるから、原告には、<1>運行開始前の点検を実施し、特に後部ドアを開けてパネルを積んでいるか否かを確認すべきであったにもかかわらず、これを怠ったまま漫然と前記営業所を出発した過失、<2>前記株式会社フットワーク加古川店に到着した際、通常は後部ドアにパネルが立てかけられているのであるから、後部ドアを開ける際には、注意して片方ずつ開けるべきであったにもかかわらず、観音開きの後部ドアを両方一度に開けた過失、<3>ヘルメットを着用すべき義務があったのに、これを怠った過失があり、前記<1><2>の過失によって本件事故が惹起され、前記<3>の過失によって傷害の結果が発生したものである。

したがって、本件事故は、原告の一方的な過失若しくは重大な過失によるものであり、破産会社が責任を負う理由はなく、仮に責任が認められるとしても、過失相殺がなされるべきである。

(2)  争点(2)(原告の損害額)について

ア 原告の主張

(ア) 診療費 六二万九三一七円

(イ) 薬剤費 一五万六八四〇円

(ウ) 休業損害 三八〇万五一五三円

原告が破産会社に入社したのは本件事故発生日の少し前である平成一一年九月二九日であり、破産会社から支給を受けていた給与に基づいて原告の得べかりし平均賃金を計算するのは妥当でなく、原告の前の勤務先である大阪牧迫運輸株式会社における過去三か月の一か月当たりの平均賃金三二万七六六六円を基準とすべきである。

原告は、本件事故により、平成一一年一一月三日から平成一二年一〇月二一日までの間(一一か月一九日)休業したから、原告の休業損害は三八〇万五一五三円となる。

(エ) 後遺障害による逸失利益 六六五万二七〇二円

原告には、前記第二の一(5)の後遺障害が残存し、その労働能力喪失率は一四%である。

原告の労働能力喪失期間一九年に対応するライプニッツ係数は一二・〇八五三であるから、前記平均賃金を基準に原告の後遺障害による逸失利益を算定すると、次のとおり六六五万二七〇二円となる。

327,666×12×0.14×12.0853=6,652,702

(オ) 通院慰謝料 一四〇万円

(カ) 後遺障害慰謝料 二七〇万円

(キ) 弁護士費用 一〇〇万円

イ 被告の主張

否認ないし争う。

第三争点に対する判断

一  争点一(破産会社の責任原因及び過失相殺)について

(1)  本件事故の状況等

前記争いのない事実等(1)(2)に証拠(甲二、一二の二・四、一三、乙一、二、五ないし三九)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

ア 原告は、平成一一年九月二九日に破産会社に入社するまでに、長年、運送会社等でトラック運転手として稼働した経験があり、大型第二種及び牽引第二種の運転免許を有していた。原告は、破産会社入社後、約二〇日間は見習い(助手)としてトラックに乗務していたが、同年一〇月一九日ころから正運転手として一人で乗務していた。

イ 原告が本件事故当日運転していたトラック(以下「本件トラック」という。)は、長さ約一二m、幅約二・五m、高さ約三・七m、最大積載量九二五〇kgの普通貨物自動車で、荷台後部に観音開きのドアがあるほか、荷台側面部にウィングドアがあり、ウィングドアを開いて荷物の積卸しができる構造となっていた。

本件パネルは、縦一八〇〇mm、横九〇〇mm、厚さ一二mmのベニヤ板製パネルである。

ウ 本件トラックは、平成一一年一〇月二九日に徳島から京都方面(綾部)へ運行された後、破産会社加西営業所へ空車で回送されて以来、同年一一月二日に原告が乗務するまで使用されていなかつた。

本件トラックの荷台には、本件パネル一〇枚が後部ドアに立てかけられており、走行中の振動により倒れないように、荷台後方の両側面部に設けられたフックに取り付けられたベルトによって後部ドアに押しつけられる形で固定されていたので、荷台内部の側に倒れることはなかったが、後部ドアを開けたときに、ドアの外側に倒れることを防止できる状態にはなっていなかった。

なお、破産会社従業員は、本件事故前にトラックの荷台にパネルを積載する方法やその際の注意事項について、上司等から具体的な指導を受けたことはなかった。

エ 原告は、平成一一年一一月二日、破産会社大阪営業所から同加西営業所に行ったところ、同営業所において、本件トラックに乗り換えて株式会社フットワーク加古川店に赴き、同所でテレビ等の電化製品を積み込んで愛媛県松山市まで配送するよう指示された。

そこで、原告は、本件トラックを運転して前記加古川店に赴き、本件事故現場において、後部ドアから荷物を積み込むため、まず、後部ドアのうちの右側ドアを開いて、これをフックにかけて固定した。そして、左側ドアを半分くらい開けたところ、本件パネル一〇枚が倒れてきて原告の頭に当たり、原告は第三頸椎椎体骨折、頸部捻挫等の傷害を負った。

オ 原告は、前記加西営業所を出発する前に本件トラックのエンジンの点検や燃料の補給を行ったが、本件トラックの荷台内部の状態は確認しておらず、本件パネルが前記ウの状態で後部ドアに立てかけられていたことは知らなかった。

なお、原告は、以前に勤務していた運送会社や、破産会社入社後に本件トラックと同じタイプのウィングドア開閉式のトラックに乗務したことがあったが、本件トラックを運転するのは本件事故当日が初めてであった。

(2)  破産会社の責任原因について

ア 使用者は、雇用契約上の付随義務として、労働者が労務提供のため設置された場所、設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命、身体等を危険から保護するように配慮すべき義務を負っている。

本件において、ウィングドア付きのトラックであっても、後部ドアも荷物の積卸しのために開閉されることが予定されていたところ、本件トラック荷台には後部ドアを開けると本件パネルが後部ドアの外側に倒れる状態で積載されており、後部ドアを開いた場合、本件パネルが倒れ、それにより負傷することがあることは十分に予見できたのであるから、破産会社としては、トラック運転手等の従業員に対し、トラック荷台にパネルを積載するときは、後部ドアを開けた際にパネルがドアの外側に倒れないように積載するよう指導すべき義務があったというべきである。

しかるに、破産会社は、前記義務を履行せず、トラック運転手等の従業員に対し、トラック荷台にパネルを積載する場合の方法を指導していなかったことから、本件トラックについても、後部ドアが開けられたときに本件パネルがドアの外側に倒れることを防止できる措置が講じられていなかったため、本件事故が発生したものである。

したがって、破産会社は、民法四一五条に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

イ この点について、被告は、<1>ウィングドア付きのトラックでは、パネルは、通常、後部ドアに立てかけられているものであって、破産会社に、後部ドアを開けたときに、パネルがドア外側に倒れないようにする義務はなかったこと、<2>本件事故は、原告が本件トラックの運行開始前に本件パネル等の確認を怠り、かつ、<3>観音開きのドアを両方一度に開けたため発生したものであること、<4>原告が本件事故当時ヘルメットを着用していなかったことなどを理由に、破産会社には責任がないと主張する。

しかしながら、<1>ウィングドア付きのトラックであっても、後部ドアからも荷物の積卸しをすることが予定されていた(現に、原告は、本件事故当日、後部ドアから荷物を積み込むため、後部ドアを開けたものである。)ことからすると、後部ドアにパネルが立てかけられていることが通常であったとは認められないし、<2>仮に、本件トラックの運行開始前に、原告が後部ドアを開けて荷台内部の状態を確認していれば、その時点でパネルが倒れてきて、原告が負傷した可能性もあったのであるから、運行開始前に本件パネルの状態等を確認しなかったことを理由に破産会社の責任を否定することはできないというべきである。<3>また、前記のとおり、原告は後部ドアを片方ずつ開けたものと認められるのであって(これを覆すに足りる証拠は存しない。)、後部ドアを両方一度に開けたことを前提とする被告の主張は採用できない。<4>さらに、本件事故で原告が負傷した部位、程度等からして、ヘルメットを着用していなかったことをもって、破産会社の責任を否定する理由とすることもできないというべきである。

したがって、被告の前記主張は採用できない。

(3)  過失相殺

もっとも、前記認定のとおり、原告は、大型第二種免許及び牽引第二種免許を取得し、運送会社等でトラック運転手として長年働いてきた経験があり、トラックへの荷物搬入作業に相当慣れていたと考えられるところ、本件事故の際、原告は、本件トラックの後部ドアを片方ずつ開けたのであるから、最初に右側ドアを開けたときに本件パネルが後部ドアに立てかけられていること及び本件トラックの荷台後方の両側面部に設けられたフックにベルトが取り付けられていることを容易に認識しえたと認められる(乙三六、三七)。

これらの事情を考慮すると、損害の公平な負担という見地から、過失相殺として原告に生じた損害額から三割を減ずるのが相当である。

二  争点(2)(原告の損害額)について

(1)  診療費 六二万九三一七円

証拠(甲一一)によれば、本件事故によって原告が受けた傷害の診療費として、六二万九三一七円を要したものと認められる。

(2)  薬剤費 一五万六八四〇円

証拠(甲一一)によれば、本件事故によって原告が受けた傷害の薬剤費として、一五万六八四〇円を要したものと認められる。

(3)  休業損害 三三六万八一四九円

ア 証拠(甲六、七、一三)によれば、原告は、破産会社に勤務する前、大阪牧迫運輸株式会社に勤務して、平成一一年六月分の給与として三五万一〇〇〇円、同年七月分の給与として三四万八〇〇〇円及び同年八月分の給与として二八万四五〇〇円の支給を受けていたから、休業損害を算定すべき基礎収入(年収)は、次のとおり三九三万三九九九円(円未満切捨て、以下同様)と認めるのが相当である。

(351,000+348,000+284,500)÷3×12=3,933,999

イ 前記のとおり、原告は、平成一一年一一月三日から平成一二年一〇月二一日まで休業したところ、証拠(甲八、九、一一、一二の六)によれば、原告の一か月当たりの通院日数が平成一二年八月以降は一〇日未満になっているところ、山本クリニックのA医師に同年一〇月二〇日付けで「この一~二か月の症状は一進一退にて固定したものと考える。」と診断されたことが認められる。

これらの症状及び治療経過に照らすと、原告の休業損害については、症状固定日である平成一二年一〇月二〇日までの期間(合計三五三日)のうち、同年七月三一日まで(二七二日)は一〇〇%、残りの期間(八一日)については五〇%就労できなかったものとして、これを算定するのが相当である。

ウ よって、本件事故と相当因果関係が認められる原告の休業損壊は、次のとおり三三六万八一四九円となる。

3,933,999÷365×272+3,933,999÷365×81×0.5=3,368,149

(4)  後遺障害逸失利益 四二五万二八〇二円

ア 前記争いのない事実等(5)のとおり、原告は、平成一二年一〇月二〇日、頸部痛、肩の痛み、頭痛、耳鳴り等の症状を残して症状が固定した旨診断され、これは労働者災害補償保険法施行規則別表一に定める障害等級第一二級一二号に該当すると認められるから、原告は、その後一〇年間にわたり、労働能力を一四%喪失したものと認めるのが相当である。

イ そこで、原告の逸失利益算定の基礎収入を三九三万三九九九円と認め(前記(3)に同じ)、一〇年のライプニッツ係数は七・七二一七であるから、原告の逸失利益を算定すると、次のとおり四二五万二八〇二円となる。

3,933,999×0.14×7.7217=4,252,802

(5)  通院慰謝料 一三三万円

原告の前記受傷の部位、程度及び通院状況等を考慮すると、原告の通院慰謝料として一三三万円を認めるのが相当である。

(6)  後遺障害慰謝料 二六〇万円

原告の前記後遺障害の内容、程度を考慮すると、これに対する慰謝料として二六〇万円を認めるのが相当である。

(7)  過失相殺

前記のとおり、本件においては三割の過失相殺をするのが相当であるから、過失相殺後の損害金額は次のとおりとなる。

ア 診療費 四四万〇五二一円

イ 薬剤費 一〇万九七八八円

ウ 休業損害 二三五万七七〇四円

エ 後遺障害逸失利益 二九七万六九六一円

オ 通院慰謝料 九三万一〇〇〇円

カ 後遺障害慰謝料 一八二万〇〇〇〇円

(以上合計 八六三万五九七四円)

(8)  損益相殺

ア 療養補償給付

前記争いのない事実等(6)のとおり、原告は、労災保険から療養補償給付として七八万六一五七円の給付を受けているので、この給付と同一の事由である診療費及び薬剤費(過失相殺後の合計金額五五万〇三〇九円)はすべて填補済みということになる。

イ 休業補償給付、障害補償給付及び破産会社による休業補償

前記争いのない事実等(6)のとおり、原告は、労災保険から休業補償給付及び障害補償給付として合計三四二万〇三〇〇円の給付を受け、破産会社から休業補償として二万二四六四円の支払を受けているので、これらの給付と同一の事由である休業損害及び後遺障害逸失利益(過失相殺後の合計金額五三三万四六六五円)の損益相殺後の金額は一八九万一九〇一円となる。

ウ 損益相殺後の損害額

前記イの一八九万一九〇一円(休業損害及び後遺障害逸失利益)と前記(7)オ及びカの過失相殺後の通院慰謝料及び後遺障害慰謝料の合計額は四六四万二九〇一円となる。

(9)  弁護士費用 四七万円

本件訴訟の事案の難易、認容額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として、四七万円をもって相当と認める。

三  結論

(1)  以上によれば、原告の破産債権は損害賠償金五一一万二九〇一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年一二月二〇日から破産会社が破産宣告を受けるまでの遅延損害金二六万六八五一円となる(なお、原告は本件事故日からの遅延損害金を請求するが、本件は安全配慮義務違反を理由とする請求であるから、本件における遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日と認められる。)。

(2)  前記争いのない事実等(7)イのとおり、被告は、原告が届け出た損害賠償債権及び遅延損害金のうち、損害賠償債権七四五万四一四六円及び遅延損害金八〇万九七四五円について異議を述べたものであるから、本件請求は、四二万九四九二円の破産債権を有することを確定することを求める限度において理由があり、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 二本松利忠 比嘉一美 田中良武)

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