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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)1820号 判決

原告

昼田一之

右訴訟代理人弁護士

前川清成

被告

グランド開発株式会社

右代表者代表取締役

竹下雅樹

被告

甲野花子

右両名訴訟代理人弁護士

黒田修一

右訴訟復代理人弁護士

坂井慶

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一五六万円及びこれに対する被告グランド開発株式会社は平成一二年三月二日から、被告甲野花子は同月三日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金二七三万円及びこれに対する被告グランド開発株式会社(以下「被告会社」という。)は平成一二年三月二日から、被告甲野花子(以下「被告甲野」という。)は同月三日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成九年一〇月八日午前一一時三〇分ころ、被告会社の経営する小野グランドカントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)において、脇田幸夫(以下「脇田」という。)、伊南晋一(以下「伊南」という。)、鎌倉一郎(以下「鎌倉」という。)と共に、四人一組となって本件ゴルフ場のキャディである被告甲野を伴って競技をしていたところ、右ゴルフ場新一八番ホールにおいて原告の第三打目の打球(ゴルフルール上は第四打目とみなされる。)が、原告より約一〇〇ヤード前方に進行していた脇田の顔面に当たり、同人は歯牙欠落等の傷害を負った(以下「本件事故」という。)。なお、原告が第三打目を打った地点からは直接脇田を見ることはできなかった。

2  原告は、脇田に対し、本件事故発生後、本件事故による損害の賠償として、九〇万円を支払った。

3  平成一一年八月一九日、原告と脇田及び被告らの間で次のような民事調停が成立した(平成一〇年(ノ)第一七六三号。以下「本件調停」という。)。

(一) 原告は、脇田に対し、本件事故による損害の賠償として、既に支払済みの九〇万円のほか、さらに三〇〇万円を支払うが、被告らは右金額の相当性について争わない。

(二) 原告及び被告らは、右合計三九〇万円につき、原告から被告らに対して提起する訴訟によって決せられた過失割合(原告と被告らとの間の責任分担の割合)に応じて分担し、被告らは、原告に対し、右三九〇万円に被告らの過失割合を乗じた金員を支払う。

4  原告は、脇田に対し、本件調停における合意に基づいて、三〇〇万円を支払った。

5  被告甲野は、原告の前方の安全を確認し、原告の第三打目の打撃を制止し又は脇田に注意を促す等して事故の発生を防止し競技者らの安全に万全の配慮を払うべき注意義務があったのにこれを怠り、かえって、原告らに速やかな競技の進行を促して、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故によって発生した損害を賠償すべき責任を負い、被告会社は、被告甲野の使用者であるから、民法七一五条により、右損害を賠償すべき責任を負う。さらに、被告会社は、キャディへの安全に関する指導、監督を怠っただけでなく、売り上げの増加のみに資するよう、キャディに対して進行の遅滞を厳しく咎め、前の組との時間が空いたときは、キャディから罰金を徴収していた。

このような事情に鑑みれば、本件事故に対する被告らの過失割合は七割を下らないというべきであるから、被告らは、原告に対し、三九〇万円に七割を乗じた額である二七三万円を支払わなければならない。

6  よって、原告は、被告らに対し、共同不法行為者間の求償権に基づき、連帯して金二七三万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被告会社は平成一二年三月二日から、被告甲野花子は同月三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因1ないし4の各事実は認める。

2  請求原因5(被告らの過失割合)は否認ないし争う。

被告甲野は、原告が第三打目を打つ前に、OBとなった原告の第一打目のボールを探すため、原告ら四人にその旨及びその間の競技の進行を委ねる旨を告げ、原告らの了承を得た後、原告らから離れた。そして、本件事故発生時には、原告の打球地点から五〇メートル以上離れたコース右側(ティーグラウンド方向からグリーン方向を見て右側をいう。以下同様)にあるOBゾーンでボールを探していたのであり、原告が第三打目を打つ際に前方(ティーグラウンド方向からグリーン方向を指す。以下同様)に他の競技者が存在するか否かを確認することはできなかったのである。ゴルフ競技においては他の競技者が打撃する競技者よりも時として前方に出ることはしばしば見受けられることであるが、本件事故前には、競技者らがしばしば前方に出ていた状況も危険行為に及ぶことが常態となっていたこともなく、逐一被告甲野が原告らの競技を注視して一打一打のプレーごとに安全の確認をしなければならないような特段の危険性は見出せない状況にあり、被告甲野には、本件事故の予見可能性も結果回避可能性もなく、本件事故の発生に関して過失があるとはいえない。また、被告甲野によって競技を急がせる発言がなされたとしても、原告ら競技者の自由な競技が妨げられるものではないので相当因果関係がないし、ゴルフ場の円滑な業務遂行のためにゴルフ場側に認められた正当な権利行使の一つであり違法性はない。

競技者が他の競技者の打球地点よりも前方に出ないことはゴルフの常識であり、また、競技者は、打撃の際には前方の人の存在を確認する義務があるところ、本件事故は、先行する競技者ではなく同伴競技者に打球が当たったものであるから、本件事故は、ひとえに前方及び同伴競技者への安全確認義務を怠った原告及び脇田の過失に起因するものであり、被告らには過失はない。

理由

一  請求原因1(本件事故)、同2(九〇万円支払)、同3(本件調停)、同4(三〇〇万円支払)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因5(被告らの過失割合)について

1  原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七、第八号証、被告甲野本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証、乙第四号証、弁論の全趣旨により平成一二年六月六日当時の本件事故現場の写真であると認められる乙第五号証、証人脇田の証言、原告・被告甲野各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故当日、原告らは、FSK杯という六組(各組四名)のゴルフコンペに参加しており、原告らは六組目のスタートで、一〇番ホールから競技を始めて、九ホール目の一八番ホールで本件事故が発生した。原告らは、被告会社にプレー料金を支払った他にキャディにキャディフィーも支払っている。

(二)  原告らの組は、当日OBが多く、また、直前の五組目の参加者が一名欠席し三名しかいなかったことから、前の組から進行が遅れがちであった。そのため、被告甲野は、競技開始後間もないうちから、原告らに対し、「前が空いていますので、急いでください。」と言う等して速やかな競技の進行を促し続けた。原告らが、競技の進行を早めるため、ボールよりも前方に出ることが何度かあったが、被告甲野は、それについて何ら注意することなく、かえって、競技者が前方に出ることを前提として、「前に出るときは後ろから打たれますから気を付けて下さい。プレーする方のほうを見てから、打ってください。」と注意していたのみであった。脇田は、従前他の競技者の打球地点よりも絶対に前方に出ないというゴルフのルールを厳格に守ってきたが、当日は被告甲野に急かされて、何回か前方に出たことがあった。

(三)  本件事故の発生した一八番ホールでは、原告及び伊南のティーショットがコース右側に飛びOBとなった。原告の打ち直しの第二打目は、やや打ち損ないとなりティーグラウンドから左前方へ約一〇〇ヤード飛び、伊南の第二打目は右側へ飛んだ。原告は、第三打目を打つ地点まで、脇田、鎌倉、被告甲野と共に、コース左側のカート道に沿って進行したが、被告甲野から急ぐよう促されたので、少し急ぎ足で移動した。

(四)  原告は、第二打目のボールが落ちた地点付近で、被告甲野からカートの中に入れていた五番アイアンを受け取り、コース左側にあるカート道からコース右側に一メートルほど下がった窪地にあったボールの所へ向かったが、左前方には松が林立するマウンドがあった。前方を確認すると、右前方に伊南がおり、原告のほうを見ていたため、クラブを一、二回素振りした後にコース中央よりやや左側、マウンドの右側に向けてつま先下がりの格好でスタンスを取り、第三打目を打った。原告の第三打目の打球が左へ曲がったため、原告が、打つと同時に右斜め前方に少し出ると、左前方約一〇〇ヤードの地点に脇田が見えたため、「危ない。」と叫んだ。その叫び声を聞いて振り向いた脇田の顔面に原告の右打球が当たった。

(五)  鎌倉及び脇田は、原告が第三打目を打つ前にコース前方に移動し、本件事故当時には、鎌倉は原告の第三打目の位置から左前方の林の中、脇田は鎌倉のいた林を越えて左前方約一〇〇ヤードのコース上に来ていたが、原告はコース左側のカートには背を向けていたため、原告がスタンスを取っている間に、脇田が移動していることを知らず、コース前方に鎌倉及び脇田が全く見えなかったこともあり、自己の背後に右両名がいるものと軽信して、第三打目を打ったものである。

(六)  被告甲野は、原告に五番アイアンを手渡した後、原告及び伊南の前記OBボールを探しに行くため、コースの右側に小走りで移動した。被告甲野は、原告が第三打目を打った時点では、コース右側のOBゾーンでボールを探しており、紛失球を発見しキャディカートに戻ろうとした矢先に「キャディさんボールが当たった。」と言われて初めて本件事故の発生を知った。

2  前項の事実認定に関し、被告甲野は、原告らに競技を急がせるよう要求したことはなく、また、ボールより前方へ出る競技者がいれば注意を促しているはずだが本件事故当日はそのようなことはなかった旨を供述しているが(乙第二号証)、同被告本人尋問においては、前記認定のとおり供述を変更しており、右の点に関する乙第二号証の供述は採用することができない。

証人脇田は、証人尋問において、原告が第三打目を打った地点と脇田のいた地点との間には視界を遮るものは何もなく、原告からは脇田が見えていたはずであると供述する。また、脇田にボールが当たった地点が前掲乙第五号証添付の写真①、②の×の地点であることは、原告・被告甲野が一致して認めるところであるが、原告が第三打目を打った地点について、同被告は、右写真の赤丸の地点であると供述し、原告は、それよりもティーグラウンドよりの地点であると供述する。しかし、乙第五号証添付の各写真及び地図によれば、原告の打球地点が右いずれであるにせよ、その地点からは脇田は見えなかったと認められる(この点は当事者間に争いがない。)し、脇田も原告を見たのは脇田が×地点に行く前の時点でのことでありボールが当たった直前には原告を見ていないとも供述するので、右の点に関する証人脇田の証言は採用できない。

3  右認定事実に基づいて、被告らの過失割合を検討する。

(一)  ゴルフボールは硬くて反発力が強くこれが人に当たれば重大な人身事故を招くものであるから、ゴルフ競技者は、その技量等に応じ自己の打球が飛ぶであろうと予想しうる範囲に他の競技者がいるか否かを十分に確認し、安全を確認した上で競技する等して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるといわなければならない。本件において、原告は、第三打目を打つ際に、伊南が右前方にいることは確認したが、脇田及び鎌倉については、自分の背後にいるものと軽信し、両名が原告のボールよりもコース前方に進行していることに気付かなかったものである。原告のいた場所から左前方のマウンド背後に来ていた脇田が見えなかったことは前記のとおりであるが、本件事故当日は、キャディの被告甲野により速やかな進行を促され、原告や脇田らが打者のボールよりも前方に出ることが何度もあったのであり、右打撃の際にも脇田ら同伴競技者が自己のボールよりも前方に出ることを予想し得た上、キャディの被告甲野も原告の近辺に見当たらずその助言を得ることもできなかったのであるから、原告は、打撃をするに当たっては、自ら他の同伴競技者の動静に十分に注意してその所在を確認すべきであった。そして、右打撃の際、原告が自己の背後を確認するという一挙手一投足を惜しむことさえなければ、脇田らが背後にいないことが明らかになり、同人らが前方に進行していることを容易に認識し得たはずである。よって、原告には右確認を怠って第三打目を打ち、本件事故を招来した点にまず第一次的に重大な過失があるというべきである。

(二)  次に、キャディは、競技者からキャディフィーを受領して競技者を援助すると共に、当該コースの状況等を熟知しているので、ゴルフ場の従業員として競技者に危険が生ずるおそれがある場合には、これを未然に防止し競技者の安全を保持すべき注意義務があるというべきである。本件事故当日、被告甲野は、原告らの組の進行が遅れがちであったため、たびたび速やかな進行を促し続けただけでなく、原告らが、被告甲野の促しに応じてボールよりも前方に出ることが何度かあったが、被告甲野はそれについて何ら制止することなく、かえって、競技者が前方に出ることを前提として、「前に出るときは後ろから打たれますから気を付けて下さい。」などと注意していたのみであった。そのために、脇田は、従前他の競技者の打球地点よりも絶対に前方に出ないというゴルフの基本ルールを厳格に守ってきたが、当日は被告甲野に急かされて、何回か前方に出たことがあった。したがって、被告甲野においては、原告の第三打目の打撃の際にも、脇田らが原告の打球地点より前方に出るおそれがあることは容易に予想し得たといえるのであって、それにもかかわらず、被告甲野は、原告に五番アイアンを手渡した後、脇田らが前方に出ないよう注意を促す等の措置を取ることなく、また、原告らのそばを離れて原告が打撃する際における打球地点の前方の安全を確認することもなかったのであるから、被告甲野には右注意義務を怠った過失がある。競技者が他の競技者の打球地点よりも前方に出ないことはゴルフの常識であるにもかかわらず、被告甲野は自ら競技者らを危険な状態に陥れ、これを放置していたともいいうるものであってその責任は決して軽いものではないといわなければならない。

そこで、被告甲野の使用者たる被告会社は、民法七一五条に基づく使用者責任を免れない。なお、原告は、被告会社が、売り上げの増加のため、キャディに対して競技進行の遅滞を厳しく咎め、進行が遅滞したときはキャディから罰金を徴収していた旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。よって、被告会社が、被告甲野の使用者としての責任の範囲を超えて、さらに別個に不法行為責任を負うものと認めることはできない。

(三)  前記(一)(二)の各事情を総合的に考慮すると、事故当時被告甲野が原告から離れており、原告もこれを認識していたのであるから、まず第一次的に原告においてボールの打撃による危険性を判断して事故発生を防止すべき責任があると考えられるので、原告と被告甲野の各過失割合は、六割対四割とみるのが相当である。

よって、被告らの本件事故に対する過失割合は四割であると認められるので、被告らは、原告に対し、連帯して(不真正連帯関係となる。)三九〇万円に四割を乗じた額である一五六万円を支払う義務がある。

三  以上によれば、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文、六五条一項ただし書を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・坂本倫城)

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