大阪地方裁判所 平成12年(ワ)2039号 判決 2001年2月02日
原告
安藤四郎
ほか一名
被告
株式会社岩本建材店
ほか一名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは連帯して、原告らそれぞれに対し、金一四九四万〇九五四円及びこれに対する平成九年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 訴訟の対象
民法七〇九条(交通事故、死亡)、民法七一五条、自賠法三条
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
(一) 交通事故の発生(甲一)
<1> 平成九年一二月一九日(金曜日)午前一一時〇五分ころ(晴れ)
<2> 大阪市平野区加美南四丁目六番三一号先(大阪中央環状線)
<3> 被告妹尾は、大型貨物自動車(なにわ一一な三二六三)(以下、被告車両という。)を運転中
<4> 亡安藤房子(昭和一八年一〇月二〇日生まれ、当時五四歳)は、自転車を運転中
<5> 信号機がある交差点において、亡安藤が自転車を運転して横断歩道上を走行中、右から進行してきた被告車両が衝突した。
(二) 死亡(乙八)
亡安藤は、本件事故により、即死した。
(三) 相続(甲二の一ないし七)
原告安藤四郎は、亡安藤の夫であり、原告髙﨑智亜紀は子であり、ともに相続人であり、ほかに相続人はいない。
(四) 責任(弁論の全趣旨)
被告妹尾は、前をよく見ないで走行したため、道路を横断走行中の亡安藤に衝突した過失がある。したがって、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。
また、被告妹尾は、被告株式会社岩本建材店の従業員であり、その業務中に本件事故を起こした。したがって、被告会社は、民法七一五条に基づき、損害賠償義務を負う。また、被告会社は、被告車両の保有者であり、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。
三 争点
過失相殺(被告車両の対面信号は青信号か赤信号か)
四 原告の主張
亡安藤は、対面信号が青信号であったので、自転車を運転して横断を始めたところ、被告車両が赤信号を無視して交差点に進入してきたため、これと衝突した。したがって、本件事故は被告妹尾の一方的な過失によって生じた。
原告ら主張の損害は、別紙一のとおりである。
五 被告らの主張
被告妹尾は、対面信号が青信号であったので、交差点に進入したところ、亡安藤が赤信号を無視して横断歩道上で横断を始めたため、これと衝突した。したがって、被告妹尾に前方不注視の過失があったとしても、亡安藤の過失は八割を下らない。
第三争点に対する判断
一 証拠(乙一ないし八、証人世良朝男こと李相朝、証人浮世一幸、被告妹尾の供述)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場の状況
本件事故は、ほぼ直線の南北道路南行き車線(大阪中央環状線)と東西道路が交わる交差点で発生した。
交差点には信号機が設置されている。
南北道路南行き車線は、交差点の北側で五車線あり、第一車線は左折専用、第五車線は右折専用である。交差点の南側は三車線あるが、第二車線と第三車線は、さらに南に進むと高架になっている。そのため、第一車線と第二車線の境界にはゼブラゾーンが設けられている。また、第三車線の右側(西側)にもゼブラゾーンが設けられている。一車線の幅員は三・二ないし三・五mである。
東西道路は、交差点の西側は四車線、東側は一車線の道路である。
南北道路の前方の見通しはよく、交通量は多い。東西道路の西行きは、三分間に三〇台程度の通行量がある。
最高速度は時速六〇kmに規制されている。
(二) 被告妹尾の供述
<1> 実況見分時の説明
被告妹尾は、本件事故直後の実況見分の際に、次の内容の指示説明をした。
南行き車線第四車線を走行していたが、本件事故現場交差点の対面信号が赤信号であったので、先行車両に続いて、数台後方に停止した。その後、対面信号が青信号にかわったので、先行車両に続いて発進し、交差点に進入するときには、先行車両が交差点中央まで達していた。交差点を通過し、交差点南側の横断歩道にさしかかったとき、左方からピーとクラクションが聞こえたので、左方を見た。横断歩道を通過したとき、ガチャッと音がしたので、右ドアミラーで後方を確認すると、右後方にかごを見つけた。そこで、第三車線右のゼブラゾーンに被告車両を停車させ、車を降りて確認したところ、交差点南側の横断歩道南側に亡安藤が倒れているのを見つけた。
<2> 本件における供述
本件においても、次の点を除き、実況見分時の説明と同じ供述をする。
交差点南側の横断歩道を通過するとき、クラクションがかなり鳴ったのはわかったが、割り込みかと思った。ガチャッという音は聞いていないし、衝突した衝撃もなかった。残土を積載していたから、かなりふかして発進し、窓も閉め切っていた。警察官からは、音がしないわけはないといわれた。左側車線の走行車両の運転者から後方を見るように合図され、ミラーで確認すると、かごが見えた。左側の車線については、交差点手前で停まっていたときは、停止車両があったと思う。その後はあまり意識していなかった。交差点を通過するときは、渋滞車両もないし、直前にも左側にも車両はなかったと思う。自転車にはまったく気付かなかった。
(三) 証人世良朝男こと李相朝の証言
<1> 事故直後の実況見分時の説明
李は、本件事故現場の交差点南東角のガソリンスタンドで、南に頭を向けて車を停め、給油をしていた。運転席に座っていた。大型ダンプが第三車線上の交差点南側の横断歩道を通過したとき、ガチャッ、ガリガリという音がした。このとき、西行きの信号は赤信号であった。大型ダンプは、さらに第三車線を進み、ゼブラゾーンに停まった。その後、横断歩道南側に人が倒れていて、大型ダンプが自転車を巻き込んだことがわかった。倒れている人のところまで行ったが、北から南に直進車が流れていた。
<2> 本件における証言
これに対し、本件では、次のとおり証言する。
ガチャッという音がしたときに、すぐに信号は見ていない。南行き車線を見たら、かなり渋滞していた。しばらくたってから西行きの対面信号が赤信号であるのを見た。ガチャッという音がしてからどれくらい時間が経過したかはわからない。
(四) 証人浮世一幸の証言
<1> 実況見分時の説明
浮世は、目撃者捜しの看板を見て、警察に出頭し、平成一〇年二月二三日、次の内容の指示説明をした。
対面信号が青信号で交差点に進入したが、交差点南側の横断歩道の直前で、横断歩道南側の先行車両が停止したので、続いて停止した。このとき、自転車が横断歩道上を東から西に横切り、ほぼ同じくらいに、ダンプカーが第三車線を通過し、衝突音がした。このときの信号は見ていない。先行車両が発進したため、続いて発進し、横断歩道南側で再度停止したところ、ダンプカーがゼブラゾーンに停まり、横断歩道南側に人が倒れていた。ガソリンスタンドから人が倒れている人のところに行った。
<2> 本件における証言
これに対し、本件では、次のとおり証言する。
交差点南側の横断歩道直前で停止していた時間は、一、二分くらいであると思うが、正確な記憶はない。伝票などの書類を見ていた。南行き車線は渋滞していた。信号はわからない。
(五) 目撃者森川直樹の指示説明
森川直樹は、平成九年一二月一九日の実況見分時に、次の内容の指示説明をした。
森川は、本件事故現場の交差点南東角のガソリンスタンドの店員であるが、客の車に給油をしていた。南行き車線から音がしたので、振り向いたところ、第三車線を大型ダンプが走っていった。このとき、二台の乗用車が第二車線を走行し、大型ダンプを追い抜いた。大型ダンプは、第三車線右のゼブラゾーンに停止したが、自転車を巻き込んでおり、横断歩道南側に人が倒れていた。給油していた車の客が倒れている人のあたりまで行っていた。交差点の信号は全く見ていない。
(六) 衝突地点
衝突地点については、現場の状況や被告車両の事故の痕跡から、被告車両が交差点南側の横断歩道上で横断歩道を東から西に進行してきた原告車両と衝突したものと認められた。
また、交差点の見通しはよいから、交差点内で原告車両を発見していれば、急制動により事故を回避できたと認められる。
二 これらの事実を検討する。
まず、目撃者の説明や証言について検討する。
李は、要するに、実況見分時には、衝突直後の西行きが赤信号であった旨の説明をしたとされ、本件においては、衝突後しばらくたってから西行きが赤信号であるのを見たと証言する。
実況見分調書の内容が必ずしも正確でないこともあるが、本件のように信号機がある交差点における出会い頭の事故については、信号表示がきわめて重要な事実であり、警察官もこれについて目撃者からより正確に事情を聴取すると考えられる。また、事故から約三年を経過した本件における証言のほうがより正確であるともいえない。そうすると、実況見分調書の指示説明がすべて正確であるとはいえないまでも、衝突の直後ころには、西行きが赤信号であったと認めることができる。
また、浮世は、要するに、実況見分時には、青信号で交差点に進入し、横断歩道直前でいったん停止をした後に原告車両が前方を横断した旨の説明をしたとされ、本件においては、いったん停止後、一、二分たってから、自転車が通過した旨の証言をする。これによれば、南行きが赤信号にかわっていた可能性も否定できない。しかし、浮世は、事故から約二か月後に実況見分に立ち会い、事故から約三年後の本件期日において前記の証言をしており、停止していた時間を正確に認識しているかどうかは疑問がある。浮世の証言から、南行きが青信号であったと認定することはできないとしても、少なくとも、赤信号であったと認定することもできない。
また、森川は、横断歩道南側のダンプを第二車線の乗用車が追い抜いていったと説明しているから、これによれば、南行きは青信号であったと考えるのが自然である。
したがって、目撃者らの説明を総合すると、これらから直ちに南行きが青信号であったと認めることはできないが、南行きが青信号であった可能性が高いと認めることができる。
三 次に、被告妹尾は、事故直後の実況見分時の指示説明から本件における供述まで、一貫して、対面信号が青信号にかわったので発進し、青信号のまま交差点を通過したと供述している。
もっとも、被告妹尾は、衝突音にも衝撃にも気付かなかったと供述しているが、大型ダンプと自転車の衝突事故とはいえ、音や衝撃がなかったとは考えがたい。また、被告妹尾は、左側の車線には渋滞車両がなかった旨の供述をするが、前記の目撃者らの供述に反するし、この供述を前提にすれば、どうして前方の見通しがよいのに、横断中の自転車に気付かなかったのかという疑問が生じる。したがって、被告妹尾の供述には全く疑問がないわけではない。
しかし、これらの疑問については、被告妹尾が、信号以外の周囲の状況に注意を払わないで運転をしていたため、衝突に気付かず、また、左の車線の状況を確認しないで交差点を通過したと考えられなくもなく、青信号で交差点を通過した旨の供述までが信用性がないとは認めがたい。
したがって、全体的にみれば、青信号で交差点を通過した旨の被告妹尾の供述を採用することができる。
四 さらに、前記の目撃者らの説明、被告妹尾の供述、そのほかの本件各証拠を検討しても、南行きが赤信号であったことを窺わせる事情はない。亡安藤が運転していた自転車以外に東西方向の横断歩道を人や自転車が横断していたとか、東西方向に車両が走行していたなど、東西方向の対面信号が青信号であったことを裏付ける事情は全く認められない。
もちろん、亡安藤が交通量が多い大阪中央環状線(南行き車線)を赤信号を無視して横断しようとしたとは考えがたいが、他方、被告車両も東西方向の車両があるにもかかわらず、赤信号を無視して交差点を通過したとも考えがたい。したがって、これらを理由とする認定は難しい。
五 これらの検討によれば、信号表示については、被告妹尾が進行していた南行きの対面信号が青信号であったと認めることが相当である。
他方、被告妹尾の供述によれば、衝突前はもちろん、衝突時も自転車と衝突したことに気付かなかったと認められる。しかし、ほかの車両はクラクションを鳴らしているから、ほかの車両からは横断中の自転車を確認することができたと考えられる。運転席が高く、前方の見通しがよい被告車両からは、なおさら、自転車の発見は容易であったと考えられる。しかも、被告妹尾の供述によれば、渋滞車両はなかったのであるから、きわめて容易に自転車を発見することができたはずであるし、仮に左側車線が渋滞していたとしても、見通しのよい交差点であるから、わずかの注意で自転車を発見することができたはずである。したがって、被告妹尾の過失は小さくはない。
これらの事実によれば、亡安藤と被告妹尾の過失割合は、五〇対五〇とすることが相当である。
第四損害に対する判断
一 葬儀費 一二〇万〇〇〇〇円
葬儀費は、一二〇万円が相当である。
二 逸失利益 二二三七万一五二九円
基礎収入は、亡安藤の年齢などを考えると、女子全年齢平均賃金三四〇万二一〇〇円が相当である。
生活費控除は、三〇%(×七〇%)が相当である。
期間は、一三年(ライプニッツ係数九・三九四)が相当である。
三 慰謝料 二三〇〇万〇〇〇〇円
慰謝料は、二三〇〇万円が相当である。
四 合計 四六五七万一五二九円
五 過失(亡安藤五〇%)相殺後 二三二八万五七六四円
六 既払金(甲三) 二七二八万〇〇〇〇円
七 残金 〇円
八 結論
したがって、すでに既払いとなっているから、原告らの請求は認められない。
(裁判官 齋藤清文)
別紙1 原告ら主張の損害
1 葬儀費 150万0000円
2 逸失利益 2796万1908円
<1> 基礎収入は女子年齢別平均賃金363万7700円
<2> 生活費控除は、30%(×70%)
<3> 期間は、15年(ホフマン係数10.981)
3 慰謝料 2500万0000円
4 合計 5446万1908円
5 既払金 2728万0000円
6 残金 2718万1908円
7 弁護士費用 270万0000円
8 合計 2988万1908円
相続分 1494万0954円