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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)2312号 判決 2001年1月26日

原告

東京海上火災保険株式会社

被告

堺日本交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告に対し、金八五万一七六〇円及びこれに対する平成一一年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を原告の負担とし、その八を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは連帯して、原告に対し、金一〇六万四七〇〇円及びこれに対する平成一一年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故、物損)、民法七一五条、商法六六二条

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

(一)  交通事故の発生(甲二)

<1> 平成一一年九月二五日(土曜日)午前二時三五分ころ(晴れ)

<2> 大阪府堺市南庄町二丁二番

<3> 被告是枝文男は、事業用普通乗用自動車(和泉五五き七七四五)(以下、被告車両という。)を運転中

<4> 辻阪秀俊は、所有する普通乗用自動車(和泉五三ぬ三九七三)(以下、原告車両という。)を運転中

<5> 岩本光紀が所有する普通乗用自動車(和泉五〇〇さ二一七〇)(以下、岩本車両という。)が駐車中

<6> 宮前高尋が所有する普通乗用自動車(和泉七七ま二五八)(以下、宮前車両という。)が駐車中

<7> 事故態様は後記のとおり争いがあるが、直進中の原告車両が道路左側に駐車していた岩本車両に衝突し、さらに岩本車両が宮前車両に衝突した。

(二)  責任(争いがない。)

被告是枝は、被告堺日本交通株式会社の従業員であり、業務として被告車両を運転していた。

(三)  自動車保険契約の締結(甲一)

辻阪は、原告との間で、平成一一年九月一日、原告車両について、自家用自動車総合保険契約を締結した。

(四)  本件事故による損害(甲三ないし八)

<1> 辻阪車両は、修理費四九万〇三五〇円の損害を受けた。

<2> 岩本車両は、修理費三八万三二五〇円、代車費用四万二〇〇〇円の合計四二万五二五〇円の損害を受けた。

<3> 宮前車両は、修理費一二万八一〇〇円、代車費用二万一〇〇〇円の合計一四万九一〇〇円の損害を受けた。

(五)  保険金の支払(甲六ないし八)

原告は、平成一一年一一月二日までに、辻阪に対し四九万〇三五〇円、岩本に対し四二万五二五〇円、宮前に対し一四万九一〇〇円の合計一〇六万四七〇〇円を支払った。

三  争点

過失

四  原告の主張

辻阪は、原告車両を運転して交差点を直進しようとしたところ、対向してきた被告車両が右折を始めたため、危険を感じ、とっさに左にハンドルを切り、道路左側に駐車中の岩本車両、宮前車両に玉突き追突した。

したがって、本件事故は被告是枝の過失によって発生した。

五  被告らの主張

被告是枝は、対向車両との車間距離が十分にあることを確認して右折を始め、右折を終えたとき、後方で車両が衝突する音を聞いた。仮に、被告是枝が距離の判断を誤ったとしても、原告車両が制限速度をはるかに超える相当な速度で走行してきたからである。

したがって、辻阪に八〇%以上の過失がある。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲九、一〇、乙一ないし三、辻阪の証言、被告是枝の供述)によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故は、ほぼ直線の南北道路と東西道路が交わる交差点で発生した。

前方の見通しはよい。転回は禁止されている。信号機が設置されている。最高速度は時速五〇kmに規制されている。

南北道路は片側二車線の道路であり、北行き車線と南行き車線の幅員はそれぞれ約七・七mである。

(二)  辻阪は、原告車両を運転して、南行き車線の第二車線を、時速約六〇kmで走行していた。本件事故が発生した交差点にさしかかったとき、対面信号が青信号であったので、交差点を直進しようとした。

交差点の手前まで進んだとき、対向の北行き車線の第二車線を被告車両が走行してきて、右折の合図をし、右折のため、交差点内まで進行してきた。

辻阪は、原告車両が交差点直前にさしかかったとき、被告車両が南行き第二車線の中央付近まで進行してきたのを見て、衝突すると思い、危険を感じ、急ブレーキをかけ、左にハンドルを切った。そのため、前輪がロックしてしまい、被告車両の直前を通過し、南行き第一車線に駐車していた岩本車両に追突し、さらに岩本車両が宮前車両に玉突き追突した。

被告是枝は、原告車両が通過後、交差点を右折し、交差点北東角付近に被告車両を停め、乗客を降ろした。

二(一)  これに対し、被告是枝は、次の内容の供述をする。

つまり、乗客を乗せて、南庄町に向かっていた。交差点手前にさしかかったとき、対面信号が青信号であったので、交差点の中央まで進み、対向車両の通過を待つため、右斜めの状態でいったん停止をした。対向車両が通過したとき、乗客が交差点をUターンしてくれと言い出したが、転回禁止であると答えた。あらためて対向車線前方を確認したところ、対向車両がひとつ先の信号がある八〇〇mくらい先に見え、かなりの速度であると思ったが、十分に間隔があり、右折を始めた。右折を終え、交差点北東角に停まるか停まらないかというとき、後方からガシャッという音がした。乗客を降ろしていたとき、辻阪が運転席に来て、どうしてくれるのかという意味の発言をしたが、何のことかさっぱりわからなかった。現場には、南行き第二車線にブレーキ痕が残っていた。

(二)  しかし、この供述を採用することはできない。

まず、辻阪と被告是枝の供述によれば、南行き第二車線にスリップ痕が残り、原告車両が進行方向左側の駐車車両に追突したことは明らかである。これらの客観的な状況からは、辻阪が、前方右方向からの障害物を避けようとして、急制動の措置を講じ、左にハンドルを切ったと推測することが相当であり、前記認定事実によく合致するが、被告是枝の供述に合致しない。なお、被告車両の後に、後続の右折車両がいれば、被告是枝の供述と必ずしも矛盾はしないが、本件証拠からは、そのような事情は何ら窺えない。

次に、被告是枝の供述自体、不合理であるといわざるを得ない。つまり、被告是枝が対向車線を確認したとき、対向車両(原告車両)がどの地点にいたかはきわめて重要な事実であるが、被告是枝は、対向車両(原告車両)がひとつ先の信号がある約八〇〇m前方にいたと供述する。しかし、原告車両が約八〇〇m前方の地点にいたとすれば、被告車両は十分に先に右折ができるから、本件事故が発生しないことは明らかである。さらに、被告是枝の供述を詳細に検討すれば、原告車両がひとつ先の信号のどのあたりにいたのか、ひとつ先の信号がどれくらい離れているのかについて、明確に供述することができない。これらの被告是枝の供述を検討すると、被告是枝は対向車両の安全を十分に確認していなかったと認められる。

したがって、被告是枝の供述を採用することはできないし、客観的な状況や辻阪の証言から、前記認定のとおり認めることが相当である。

三  もっとも、辻阪の証言を検討すると、被告車両がいったん停止後右折を始めたのか、交差点に進入してそのまま右折を始めたのかが明らかでないなど、被告車両の動静を十分に確認していなかったと認められる。

したがって、辻阪にも過失が認められる。

ただし、辻阪が制限速度をはるかに越える速度で走行していたことを認めるに足りる証拠はない。

四  これらの事実によれば、本件事故については、被告是枝の過失が大きいことは明らかであり、被告是枝と辻阪の過失割合は、八〇対二〇とすることが相当である。

第四結論

したがって、被告らは連帯して、原告に対し、前記認定の損害額合計一〇六万四七〇〇円の八〇%相当額である八五万一七六〇円を支払う義務がある。

(裁判官 齋藤清文)

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