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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)2968号 判決 2001年1月31日

原告(反訴被告)

渕上典昭

被告(反訴原告)

大阪相互タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  本訴被告らは連帯して、本訴原告に対し、金一三二四万九〇六五円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する

三  反訴被告は、反訴原告に対し、金四万二六二九円及び内金二万二六二九円に対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その二を本訴原告の負担とし、その八を本訴被告らの連帯負担とする。

六  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

本訴被告らは連帯して、本訴原告に対し、金一八一九万八三一八円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

反訴被告は、反訴原告に対し、金二一万三一四八円及び内金一一万三一四八円に対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故)、自賠法三条、民法七一五条

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

(一)  交通事故の発生(甲一)

<1> 平成八年一二月二七日(金曜日)午後六時二〇分ころ(晴れ)

<2> 大阪市中央区大手前三丁目一番六号

<3> 本訴被告上口早喜(以下、被告上口という。)は、業務用普通乗用自動車(和泉五五き三九四一)(以下、被告車両という。)を運転中

<4> 本訴原告渕上典昭(以下、原告という。)(昭和四八年一二月二四日生まれ、当時二三歳)は、普通自動二輪車(京都う五五)(以下、原告車両という。)を運転中

<5> 詳細は後記のとおり争いがあるが、同一方向に進行中の原告車両と被告車両が接触した。

(二)  責任(弁論の全趣旨)

本訴被告大阪相互タクシー株式会社(以下、被告大阪相互タクシーという。)は、被告車両を保有している。したがって、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。

また、被告上口は、被告大阪相互タクシーの従業員であり、業務中に本件事故を起こした。

(三)  傷害(甲四、五)

原告は、本件事故により、顔面打撲挫創、右肩甲骨骨折、右外傷性気胸、右第一、五ないし八肋骨骨折、頸部挫創、両膝部挫創、右肺挫傷、外傷性膵炎、頸椎捻挫、開放性下顎骨骨折、右肩鎖関節脱臼、左側オトガイ神経知覚まひ、三慢性化膿性歯根膜炎などの傷害を受けた。

(四)  治療(甲四、五)

原告は、治療のため、明生病院及び協和歯科に、平成八年一二月二七日から平成一一年一月七日まで、四六日間入院し、実日数三八日通院した。

(五)  後遺障害(甲四、五、調査嘱託の結果)

原告は、平成一一年一月七日に症状固定した(当時二五歳)が、右手で重量物が持てないなどの右肩部の障害、左側オトガイ神経領域の知覚まひ、知覚異常などの後遺障害が残った。

自動車保険料率算定会は、原告の後遺障害のうち、右肩部の症状が等級表一二級五号、左側オトガイ神経領域の知覚まひ、知覚異常が一四級一〇号にそれぞれ該当し、併合一二級に該当する旨の認定をした。

三  争点

過失の有無と割合

四  原告の主張

被告上口は、左後方を十分に確認しないで、第二車線から第一車線に進路を変更し、第一車線を後方から走行してきた原告車両に衝突した。したがって、本件事故は、被告上口の一方的な過失よるものである。

原告主張の損害は、別紙一のとおりである。

五  被告らの主張

被告車両が渋滞中の第二車線から第一車線に進路を変更しようとしてわずかに第一車線に入り、いったん停止をしたところ、原告車両が被告車両後方の第一車線を走行中の車両と歩道の間から、相当のスピードで被告車両方向に急に切れ込んできて、停止中の被告車両に衝突した。

したがって、本件事故は原告の一方的な過失によるものである。

また、被告大阪相互タクシーは、被告車両の修理費一一万三一四八円及び弁護士費用一〇万円の損害を受けた。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲二、原告と被告上口の供述)によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故は、ほぼ直線の東西道路上で発生した。

東西道路は、片側二車線の道路であり、東行きと西行きの境界には中央分離帯がゼブラゾーンで標示されている。

一車線の幅員は、三ないし三・五mであり、中央のゼブラゾーンの幅は二・六mである。

東行き車線の北側には、歩道柵、さらにその北側には、歩道が設けられている。

道路はアスファルト舗装され、事故現場に向かってやや登りとなっている。最高速度は時速五〇kmに規制され、信号機は設置されていない。

市街地であるが、事故当時は交通は閑散としており、夜間でも照明があって明るく、前後の見通しもよい。

(二)  被告車両の損傷状況は、左側面前部に凹損があり、左前輪がパンクしていた。原告車両は、右クランクケース擦過し、前照灯が破損していた。

事故後の現場の痕跡は、東行き車線の第一車線内のやや北側から、北東方向に、歩道柵の切れ目を通って、歩道の南側部分まで、約八・四mにわたり、原告車両の擦過痕が残っていた。そして、擦過痕の終点に原告車両が転倒していた。

(三)  原告は、被告車両と衝突したときに頭部を強打したためと思われるが、事故時の記憶がない。

なお、実況見分調書(甲二の二)によれば、原告は、平成九年二月二八日、実況見分の際に、警察官に対し、第一車線を走行中の車両を左側(歩道側)から追い抜き、第二車線方向へ進行したところ、車線境界線の手前で、第二車線から進行してきた被告車両と衝突し、ガードレールの切れ目の地点に転倒した旨の説明をしたとされる。しかし、原告の本件における供述と対比し、原告がこれだけ詳細な事故経過を説明したとは到底考え難く、これらの指示説明を採用することはできない。

(四)  被告上口は、本件事故直後の平成八年一二月二七日午後六時五〇分ころから開始された実況見分(第一回実況見分)の際に、警察官に対し、次の内容の指示説明をした。

東行き車線の第二車線を走行中、左折の合図をして、ハンドルを左に切った(<1>)。このとき、後方の第一車線に後続車両が走行していた()。

約二〇m進み、左斜めになり、車線境界線をまたいだ状態のとき(<2>)、原告車両(<ア>)と衝突した。

被告車両は約三m進んで停止し(<3>)、原告車両は約一三m進み、歩道と車道の境界付近に転倒した(<イ>)。

(別紙図面一を参照)

(五)  被告上口は、本件事故から約二か月後の平成九年二月二八日の実況見分(第二回実況見分)の際に、警察官に対し、次の内容の指示説明をした。

東行き車線の第二車線を走行中、減速をした(<1>)。

約二三m進み、左折の合図をして、ハンドルを左に切った(<2>)。このとき、後方の第一車線に後続車両が走行していた()。

約一八m進み、わずかに第一車線に進入した(<3>)。このとき、第二車線前方、第一車線の前後に、それぞれ車両(<甲>、<あ>、)がいた。

さらに約二m進み、左斜めの状態で車線境界線をまたいだとき(<4>)、原告車両(<イ>)と衝突した。このとき、第一車線に後続車両がいた()。被告車両は衝突地点で停止した。

原告車両は約一三m先の歩道と車道の境界付近に転倒した(<ウ>)。

(別紙図面二を参照)

(六)  被告上口は、本件事故から約三か月後の平成九年四月三日の実況見分(第三回実況見分)の際に、警察官に対し、次の内容の指示説明をした。

東行き車線の第二車線を走行中、減速をした(<1>)。

約二三m進み、左折の合図をして、ハンドルを左に切った(<2>)。このとき、後方の第一車線に後続車両が走行していた()。

約一八m進み、わずかに第一車線に進入した(<3>)。このとき、第二車線前方、第一車線の前後に、それぞれ車両(<甲>、<あ>、)がいた。

さらに約三m進み、左斜めの状態で車線境界線をまたいだとき(<4>)、原告車両(<ア>)と衝突した。このとき、第一車線に後続車両がいた()。

被告車両は、約二m進んで停止し(<5>)、原告車両は約一三m先の歩道と車道の境界付近に転倒した(<イ>)。

(別紙図面三を参照)

(七)  被告上口は、本件事故から約四か月後の平成九年四月二五日の実況見分(第四回実況見分)の際に、警察官に対し、次の内容の指示説明をした。

東行き車線の第二車線を走行中、減速をした(<1>)。このとき、約四五m前方に先行車両がいた(<甲>)。

約二三m進み、左折の合図をして、ハンドルを左に切った(<2>)。このとき、後方の第一車線に後続車両が走行していた()。

約一三m進み、わずかに第一車線に進入した(<3>)。このとき、第二車線前方、第一車線の前後に、それぞれ車両(<甲>、<あ>、)がいた。

さらに約四m進み、左斜めの状態で車線境界線をまたぎかけたとき(<4>)、原告車両(<ア>)と衝突した。

被告車両は、約六m進んで停止し(<5>)、原告車両は約一五m先の歩道と車道の境界付近に転倒した(<イ>)。このとき、後方の第一車線に後続車両がいた()。

(別紙図面四を参照)

(八)  被告上口は、本件において、次の供述をする。

乗客一人を乗せて、東行き車線の第二車線を走行していた。東行き車線はかなり渋滞していた。乗客から行く先の指示があったので、次の交差点を左折しようと思い、左のウィンカーを出し、左にハンドルを切った。第一車線の後続車両の運転者が左に入ってよいと手で合図をしてくれた。左後方にはバイクはいなかった。しかし、第二車線の先行車両がじゃまになって、第一車線に進入することができず、車線境界線上でいったん停まった。そうしたら、ドーンと音がして、左側面に原告車両が衝突したことがわかった。

二  これらの事実によれば、被告上口は、第二車線を走行中、左方向の合図をしたが、左後方の安全を十分に確認しないで、進路を変更して第一車線に進入し、後方から第一車線を進行してきた原告車両に衝突した過失があると認めることが相当である。

三  これに対し、被告上口は、まず、被告車両が車線境界線をまたぎ、いったん停止をしたときに、原告車両が衝突してきた旨の供述をする。

しかし、被告上口は、捜査段階において、被告車両が停止をしたところに原告車両が衝突してきた旨の供述をしたことがあるが(第二回実況見分)、衝突後被告車両が停止した旨の供述もしており(第一回実況見分、第三回実況見分、第四回実況見分)、供述自体に一貫性がない。

また、事故直後の実況見分によれば、交通量は閑散としていたとされ、被告車両が第一車線に進路を変更できない状況にあったとは考えがたい。付け加えると、被告上口のいずれの実況見分時の説明においても、本件事故当時渋滞していたとは認められない。

さらに、被告上口の実況見分における指示説明を前提にしたとしても、第二回ないし第四回のいずれの実況見分においても、第一車線または第二車線の先行車両は被告車両の相当前方にいて、被告車両の進路変更に何らの支障がないことは明らかである。

したがって、いずれにしても、被告車両が車線境界線上でいったん停止をする事情は何も見当たらない。

さらに、被告車両が積載しているタコグラフなど、被告車両がいったん停止をしたことを裏付ける客観的な証拠もない。

これらの検討によれば、被告車両が車線境界上でいったん停止をしたと認めることはできない。

四  次に、被告らは、原告車両が被告車両の方向に切り込んできたと主張する。

しかし、そもそも、被告上口の供述は、基本的には、衝突してはじめて原告車両に気付いたという内容であるから、被告上口の供述から原告車両が切り込んできたと認めることは到底困難である。

被告らは、被告上口が原告車両を確認していないから、後続車両の左側から切り込んできたと推測できると主張するが、被告上口が左後方を確認しなかったり、原告車両を見落とした可能性もあり、被告らの推測は相当ではない。

したがって、原告車両が被告車両の方向に切り込んできた旨の主張は、認められない。

五  もっとも、少なくとも、被告車両は、左のウィンカーを出してから、進路を変更し、第一車線に進入したと認められる。また、被告車両の速度も、正確には確定できないが、低速であったと考えられる。したがって、原告も、被告車両の動静に十分注意すべきであったといえ、これを怠った過失がなかったとはいえない。

六  これらの過失を比べると、被告上口の過失が大きいことは明らかであり、被告上口と原告の過失割合は、八〇対二〇とすることが相当である。

第四原告の損害(本訴分)に対する判断

一  車両損害(全損) 一六万〇〇〇〇円

車両損害は、全損として一六万円と認められる。(甲三)

二  治療費 五二万八四四五円

治療費は、五二万八四四五円と認められる。(甲七)

三  入院雑費(一三〇〇円×四六日) 五万九八〇〇円

入院雑費は、五万九八〇〇円(一三〇〇円×四六日)が相当である。

四  通院交通費 二万四三二〇円

通院交通費は、二万四三二〇円と認められる。(甲九)

五  入通院慰謝料 一二〇万〇〇〇〇円

入通院慰謝料は、一二〇万円が相当である。

六  休業損害 二六万一三五四円

休業損害については、基礎収入は賞与を除き一日六〇七八円、期間は四三日分の二六万一三五四円と認められる。(甲八)

七  後遺障害慰謝料 二四〇万〇〇〇〇円

後遺障害慰謝料は、二四〇万円が相当である。

八  逸失利益 一三八九万五七四八円

基礎収入については、原告がまだ若いこと、建築設計事務所に勤務し、事故後ではあるが二級建築士の資格を取得したこと、事故当時、賞与を含めると、年齢別平均賃金に近い収入を得ていたことを考えると、将来平均賃金を得られる蓋然性があると認められるので、全年齢平均賃金年五六九万六八〇〇円によることが相当である。

労働能力喪失率については、右肩部の障害が職務上の製図の作業などに影響を与えていると認められ、これに後遺障害の部位や程度を併せて考えると、一四%とすることが相当である。

期間については、後遺障害の内容を考えると、早期に軽快するとは認められず、かえって、経年変化により悪化することも十分に予想されるから、二五歳から六七歳までの四二年(一七・四二三)と認められる。

(甲四、五、八、原告の供述)

九  小計 一八五二万九六六七円

一〇  過失(二〇%)相殺後 一四八二万三七三三円

一一  既払金 二七七万四六六八円

既払金は、自賠責保険金合計二七七万四六六八円と認められる。(弁論の全趣旨)

一二  既払金控除後 一二〇四万九〇六五円

一三  弁護士費用 一二〇万〇〇〇〇円

弁護士費用は、一二〇万円が相当である。

一四  認容額 一三二四万九〇六五円

第五被告大阪相互タクシーの損害(反訴分)に対する判断

一  修理費 一一万三一四八円

修理費は、一一万三一四八円と認められる。(乙一)

二  過失(八〇%)相殺後 二万二六二九円

三  弁護士費用 二万〇〇〇〇円

弁護士費用は、二万円が相当である。

四  認容額 四万二六二九円

(裁判官 齋藤清文)

別紙1 原告主張の損害

1 車両損害(全損) 16万0000円

2 治療費 52万8445円

3 入院雑費(1300円×46日) 5万9800円

4 通院交通費 2万4320円

5 入通院慰謝料 180万0000円

6 休業損害 40万4673円

<1> 基礎収入は1日9411円

<2> 期間は43日

7 後遺障害慰謝料 240万0000円

8 逸失利益 1389万5748円

<1> 基礎収入は全年齢平均賃金年569万6800円

<2> 労働能力喪失率は14%

<3> 期間は25歳から67歳まで42年(17・423)

小計 1927万2986円

既払金 277万4668円

自賠責保険金53万4668円、224万円

弁護士費用 170万0000円

請求額 1819万8318円

別紙図面〔略〕