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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)8604号 判決 2001年3月27日

原告

株式会社エスジーエムソフト

同代表者代表理事

【A】

同訴訟代理人弁護士

松村信夫

和田宏徳

被告

株式会社システムトラスト

同代表者代表取締役

【B】

同訴訟代理人弁護士

江野尻正明

主文

1  被告は、ウィンドウズ(Windows)用ソフトウエア「あばかすくらぶ」を複製、翻案、公衆送信及び頒布してはならない。

2  被告は、前項記載のソフトウエアを廃棄せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は、珠算学習用ソフトのプログラムを作成し、同ソフトの著作権を有しているとする原告が、同ソフトの複製物を公衆送信、頒布等している被告に対し、その差止め等を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠の掲記がないものは、当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は、ソフトウエアの開発等を目的とする会社である。

イ 被告は、ソフトウエアの開発並びに電子計算機の販売及びそれに伴う用品の販売等を目的とする会社である。

ウ アドバンスシステムズ開発株式会社(以下「アドバンスシステムズ」という。)は、ソフトウエアの開発等を目的とする会社である。

(2)  被告は、平成11年7月14日、アドバンスシステムズとの間で、珠算学習用ソフトウエアである「ABACUS倶楽部システム(仮称)」(以下「ABACUSシステム」という。)のシステム開発に関し、次のような契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲1)。

ア 被告は、アドバンスシステムズに対し、ABACUSシステムに関わるシステム開発を委託し、アドバンスシステムズはこれを受諾する。

イ 本件契約の作業範囲は、「要求定義、設計、プログラム作成、試験」とする。

ウ 被告は、アドバンスシステムズに対し、ABACUSシステムのシステム開発の対価として、委託料総額700万円を支払う。

エ アドバンスシステムズは、本件業務を原告に再委託することを了承する。

オ 本件業務にかかわる発明、考案などの工業所有権を受ける権利は、発明、考案などを被告が行った場合は被告に、アドバンスシステムズが行った場合はアドバンスシステムズに、被告、アドバンスシステムズ及び開発者共同で行った場合は、被告、アドバンスシステムズ及び開発者が共有(持分均等)に帰属する。

ただし本件業務の販売権については、被告に帰属するものとする。

カ 本件システム中の成果物の所有権は、被告よりアドバンスシステムズへ委託料が完済された時に、アドバンスシステムズから被告へ移転する。

ただし、成果物の中の、同種の成果物に共通に利用されるノウハウ、ルーチン、モジュール等(アドバンスシステムズが従前より権利を有していたもの及び本件業務により新たに取得したものも含む)に関する権利は、アドバンスシステムズに留保されるものとし、アドバンスシステムズはそれらを利用して類似の成果物を作成することができる。

キ 被告又はアドバンスシステムズは、相手方の債務不履行が相当期間を定めてした催告後も是正されない時はこの契約を解除することができる。

(3)  原告は、本件契約に基づき、ABACUSシステムの開発を進めたものの、進捗状況が思わしくなかったため、平成12年1月21日、被告及びアドバンスシステムズとの間で話合いをし、ABACUSシステムのうち、問題作成、成績管理等の先生側が利用する機能(同機能をまとめた部分は「ABACUS先生」と呼称される。)を除き、学習者側が利用する機能のみをまとめたものを暫定版(以下「本件ソフト」という。)として、先行して被告に納入し、被告がこれを先行発売する旨の合意をした。

(4)  被告は、ウィンドウズ(Windows)用ソフトウエア「あばかすくらぶ」(以下「被告ソフト」という。)を、価格9800円で、公衆送信、頒布等している。

2  争点

(1)  本件ソフトの著作権の帰属について

〔原告の主張〕

著作権を有する著作者は、当該著作物の表現を作成した者であり、ソフトに関していえば、当該ソフトのプログラム等を実際に作成した者が、著作権を有する著作者である。

本件契約においては、原告がアドバンスシステムズを介して被告から再委託を受け、原告が本件ソフトを開発することになっていた。原告は、本件ソフトの具体的な企画からプログラム作成までを行ったものであり、本件ソフトの著作権を有する。

〔被告の主張〕

原告の主張は争う。

被告が「ABACUSシステム」開発を委託した相手方は、アドバンスシステムズであり、しかも、同システムの基本的発想は、すべて被告の提案によるものである。

(2)  本件ソフトと被告ソフトとの同一性について

〔原告の主張〕

本件ソフト及び被告ソフトをコンピューターにインストールした際に作成されるファイルの中に、ファイルサイズ及び更新日付が共に同一のものが多数含まれているから、本件ソフト及び被告ソフトが実質的に同一であることは明らかである。

〔被告の主張〕

原告の主張は否認する。被告ソフトは原告のいう本件ソフトではない。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

(1)  前記争いのない事実に加え、証拠(甲1~10、15~18、25~33)によれば、次の事実が認められる。

ア 原告は、平成11年6月から8月にかけて、ABACUSシステムの企画案、開発案、基本設計書、データテーブルの基本案、基本流れ図、背景・イニシャル画面のストーリーやキャラクターの性格についての提案書を作成し、とりわけ同基本設計書は検討を加えながら3度にわたり作成して、アドバンスシステムズや被告に提案し、同企画、設計を基礎にして、プログラム作成を進めていった。

イ その後、原告は、本件ソフトを暫定版として制作し先行して発売する旨の前記第2、1、(3)の合意に沿って、同年3月中旬までに、本件ソフトを制作し、アドバンスシステムズを通じて被告に納品したが、その後、本件ソフトの一部に不具合が発生した。

被告が、このころまでに、本件ソフトの委託料として支払った金額は150万円である。

一方、原告が本件ソフトを制作するために要した費用は、原告代表者が携わったことによる費用を除いても、原告社員の人件費が2106万円(延べ47か月・※人)、本件ソフトのための音楽制作費が150万円、合計2256万円であった。

ウ 被告は、本件ソフトの完成版が納入されないことから、平成12年5月17日、アドバンスシステムズに対し、求める諸機能を列挙した上、同年6月10日までに本件ソフトを再納入するように督促した。なお、被告は、同督促に際し、納品検収後1か月以内に150万円を支払うとの申入れもした。

アドバンスシステムズは、同督促の内容のうち、納期、金額、納品物件等について同意できない部分があるとして、被告に対し、原告を含めた3社で協議したい旨の申入れをしたが、被告はその協議に応ずることはなかった。

エ 結局、同協議を求めるアドバンスシステムズと、協議をするまでもなく本件ソフトの完成版の納入を求める被告とは、相互に合意に至ることが困難な状況となった。

被告は、平成12年7月3日付け書面で、アドバンスシステムズに対し、本件ソフトの完成版の納入を計ることは困難と考えざるを得ないこと、アドバンスシステムズが本件契約を無条件に放棄したものとみなし、本件ソフトの著作権、販売権、その他本件ソフトに関わる権利全般は、平成12年7月3日をもって、被告が有することとすることを告知した。

一方、アドバンスシステムズは、平成12年7月6日付け書面で、被告に対し、本件契約を解除すること、本件ソフトの著作権等の権利は、原告に帰属することとなること等を告知した。

なお、被告は、ABACUSシステムの基本的発想をすべて提案したと主張するが、上記認定を覆すに足りる証拠はない。

(2)  上記の事実関係によれば、原告は、本件契約に基づきABACUSシステムの基本的な企画設計を行い、平成12年1月21日の暫定版として本件ソフトを制作販売するとの旨の合意に従って、本件ソフトを制作したものであるから、被告は本件ソフトの発注者にすぎず、本件ソフトの著作権は、原告に帰属するというべきである。

なお、その後、原告は、本件ソフトを被告に引き渡してはいるが、本件ソフトの対価(委託料)は150万円が支払われたのみで、仮に被告が平成12年5月17日にアドバンスシステムズに対し申し入れた内容に従っても150万円の残代金が未払いとなっているから、本件契約中の「本件システム中の成果物の所有権は、被告よりアドバンスシステムズへ委託料が完済された時に、アドバンスシステムズから被告へ移転する。」との条項によれば、未だ本件ソフトの権利は被告へ移転していないというべきである。

また、被告が、平成12年7月3日付け書面で、アドバンスシステムズに対し「本件ソフトの著作権、販売権、その他本件ソフトに関わる権利全般は、平成12年7月3日をもって、被告が有することとする」と一方的に告知しているものの、同告知によって、本件ソフトの著作権が原告から被告へ移転する法的効果を有するものとすることはできない。

そして、仮に、アドバンスシステムズないし原告側に、本件ソフトの制作が遅延したとか、本件ソフトに不具合があったなどの事情があったとしても、そのことによって、被告が本件ソフトの著作権を有するに至るということはできないし、その他、原告が本件ソフトの著作権を有するとの前記認定を覆すに足りる証拠はない。

2  争点(2)について

(1)  証拠(甲13、14、19~24、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

ア 本件ソフト及び被告ソフトを、コンピューターにインストールすると、メインフォルダ、サブフォルダ「PIC」、サブフォルダ「SOUND」が作成される。

(ア) メインフォルダ内のファイル「Abacus.exe」、「Export.exe」、「Furasyu.exe」、「Gasan.exe」、「Hanabi.exe」、「Inport.exe」、「Kakeba.exe」、「Kikidori.exe」、「Memory.exe」、「Mitori.exe」、「Soroban.exe」、「Yomi.exe」の各ファイルのサイズ及び更新日付は同一である。

「TTS.exe」は、他社製の音声読み上げ用ソフトである。

(イ) サブフォルダ「PIC」、同「SOUND」内のすべてのファイルは、そのサイズ及び更新日付が同一である。

イ メインフォルダ内のファイル「Unsan.exe」は、ファイルサイズは同一で更新日付が異なり、「Abacus.mdb]、「Mondai.mdb」、「St5unst.log」は、ファイルサイズ及び更新日付が異なる。

しかし、「Unsan.exe」は、同一プログラムを再度コンパイル(ソースプログラムからオブジェクトプログラムを作成すること)したために、サイズは同一であるが更新日付が異なったものと解することが可能である。

また、「Abacus.mdb]及び「Mondai.mdb」は、その拡張子「.mdb」からすると、Microsoft Accessのデータベースファイルであり、当該ソフトを利用するごとに書き換えられるファイルである。

同様に「St5unst.log」は、その拡張子「.log」からすると、当該ソフトを利用するごとに書き換えられるファイルである。

(2)  そうすると、本件ソフトと被告ソフトは、メインフォルダ内の大部分のファイル、サブフォルダ内のすべてのファイルが、サイズ及び更新日付が同一であって、それらのプログラムは同一の内容であるものと推認され、また、メインフォルダ内にサイズないし更新日付が異なるファイルが存在することも、上記の事情からすればソフトの同一性を覆すものではないから、結局、本件ソフトと被告ソフトは同一のものであると認めるのが相当である。他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

3  以上によれば、原告は、本件ソフト及びこれと同一性を有する被告ソフトの著作権を有し、同権利に基づいて、被告ソフトの複製、翻案、公衆送信及び頒布の差止めを求めることができるというべきであるから、原告の請求は理由がある。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 阿多麻子 裁判官 前田郁勝)

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

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