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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)9092号 判決 2001年7月12日

原告

牛田康善

被告

加地賀博

主文

一  被告は、原告に対し、金一九二万〇〇〇〇円及びこれに対する平成一一年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三二八万八一六〇円及びこれに対する平成一一年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、軽四輪貨物自動車を運転中、被告運転の軽四輪貨物自動車に追突された原告が、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

(一)  原告と被告との間で、下記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成一一年一〇月二八日午後三時三〇分ころ

場所 奈良市尼辻北町一番二〇号先

関係車両 一 軽四輪貨物自動車 大阪四一を六一七一(以下「被告車両」という。)

運転者 被告

二 軽四輪貨物自動車 奈良四〇も二六五〇(以下「原告車両」という。)

運転者 原告

態様 原告車両の後方から被告車両が追突したもの。

(二)  被告は、前方不注視の過失により本件交通事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき原告の損害を賠償すべき義務を負う。

(三)  原告は、被告加入の保険会社から、本件事故による損害の填補として六三万円の支払を受けた。

二  争点

本件の争点は、治療の必要性・相当性と、原告の損害額である。

(一)  治療の必要性・相当性

(原告の主張)

原告は、本件事故により頸部捻挫、左膝打撲等の傷害を負い、当初、整骨院で施術を受けていたが、一か月ほどしても症状が改善しなかったことから、整形外科に通院するようになった。症状は徐々に改善を見たが、少なくとも平成一二年六月末日ころまでは治療が必要な状態であった。

(被告の主張)

本件事故当日に撮影されたレントゲンでは異常が認められないこと、事故から一か月間も整骨院に通うのみで整形外科の診断を受けなかったのは不可解であること、その後通院するようになった整形外科の診断でも、特段の他覚的所見は見られず、本人の自覚症状のみに基づきリハビリと投薬が続けられていること、本件事故による原告車両の損傷も軽微なものであることなどからすれば、原告が本件事故で長期間の治療と休業を要する傷害を負ったとは考えられず、遅くとも平成一二年三月ころまでには必要な治療は終わっていたと見るべきである。

(二)  損害

(原告の主張)

ア 治療費 〇円

被告から支払を受けているので、損害に計上しない。

イ 通院交通費 五万三二〇〇円

往復四〇〇円、一三三日間通院。

ウ 休業損害 二四四万四九六〇円

事故前三か月間の平均月収は三〇万五六二〇円であった。原告は、本件事故後、平成一二年六月末日まで休業を余儀なくされた。

エ 慰謝料 一一二万〇〇〇〇円

オ 弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円

(被告の主張)

原告の勤務先発行の休業損害証明書は源泉徴収がなされておらず、また、確定申告は本件事故後になされているものであるから、いずれも信用性に乏しく、原告の収入認定の資料とならない。原告の勤務先は、風俗営業法等に違反する違法な営業を営んでいたものであり、これを前提とした高額な給与収入を休業損害の算定の基礎とすべきではない。前記原告の治療経過や、原告が、その主張する休業期間中も、専門学校には支障なく通学していたことなどからすれば、本件事故の傷害により原告が休業を要したとしても、せいぜい二か月程度である。

第三争点に対する判断

一  争点(一)について

証拠(甲第二号証ないし第五号証、第八号証、第一一号証、乙第一号証ないし第六号証、原告本人)によれば、本件事故は、原告車両が赤信号で停車中、被告車両が前方不注視により後方から追突したものであり、被告車両の前部及び原告車両の後部にそれぞれ凹損を生じ、原告車両への入力はリアバンパーからリアフロアにまで及んでおり、修理費用として二一万円を要する程度のものであったこと、原告は、本件事故当日、奈良市内の石洲会病院で診察を受けたところ、レントゲン所見上異常は認められなかったが、頸部捻挫、左膝打撲の診断を受けたこと、原告は、同病院が通院に不便であり、以前交通事故にあった際、整骨院で施術を受けたことがあったことなどから、自宅近くの林整骨院に平成一一年一〇月二九日から通院を開始し、同年一一月ころ、被告加入の保険会社担当者に整骨院に通院していることを告げて了承を得たこと、それでも、原告は、後頸部痛が治まらず、吐き気等の気分不良な状態が続いたことから、同年一一月二九日から白山クリニックに通院するようになり、同病院で行われたジャクソンテスト、スパーリングテストの結果はマイナスで、神経学的な異常所見は認められなかったが、外傷性頸椎症、左膝挫傷後疼痛と診断され、投薬、ホットパック、マイクロ波、低周波等による治療を受けるため、平成一二年七月二六日まで同病院に通院したこと(実診療日数一〇二日)、同病院と並行して前記林整骨院にも通院し、平成一一年一〇月二九日から平成一二年一月二六日までの間施術を受けたこと(実施術日数三三日)、白山クリニックでの通院経過を見ると、平成一二年一月後半には「調子の良いときもある、天気が左右するという。」、「頸部はそうひどくない。」、同年二月二六日ころには「膝、日常的に問題にならなくなっている。」とカルテに記載があり、その後もしばらくは特に天候に左右されての後頸部痛(つっぱり感、頭重感等)の訴えが見られるが、同年四月ころ以降になると、カルテに特段の記載はほとんど見られなくなること、原告は、この間の平成一二年二月末ころには保険会社の担当者から治療費負担等の打ち切りを告げられたことがあり、結局、治療費は平成一一年六月末まで保険会社が支払ったが、原告は、その後も自費で数回治療を受けていることの各事実が認められる。

以上の事実によれば、本件事故による衝撃が特段軽微なものであったとは必ずしもいえないし、特段の画像所見や神経学的所見が認められなかったからといって、頸部捻挫による疼痛が相当長期間継続することが全くないとはいえず、原告の場合、整骨院での施術が先行したが、その後、白山クリニックにおいて医師の診断、治療を受けており、上記治療経過、治療内容に特に不自然、不合理な点も見出しがたいというべきである。したがって、原告の上記治療が不必要・不相当なものであったと断ずることはできないから、少なくとも、上記治療期間に関する治療費については、全額、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

二  争点(二)について(弁護士費用を除く。)

(一)  治療費 〇円

上記期間中の治療費について、被告(加入の保険会社)が支払済みであることは、原告が自認するところであり、原告は請求額に計上しておらず、被告も既払い額として主張していない。したがって、同治療費については、全額本件事故と相当因果関係のある損害と認められるが、既に精算済みであることから、損害額にも既払い額にも計上しないこととする。

(二)  通院交通費 二万〇〇〇〇円

原告本人及び弁論の全趣旨によれば、原告宅から白山クリニックまでの通院には、バスを利用した場合往復四〇〇円を要するが、原告は、通院に際して友人に送ってもらったりしたことも多く、バスを利用した回数は正確には不明と言わざるを得ないことが認められる。そこで、五〇日間分についてのみ、通院交通費として認めることとする。

(三)  休業損害 一五三万〇〇〇〇円

甲第六号証、第七号証、第九号証、第一一号証、原告本人によれば、原告は、本件事故当時大学四年生で、かつ、服飾関係の専門学校に通学中であったこと、大学一年生のころから喫茶店でアルバイトをしていたが、平成一一年九月からは、同性愛者を対象とするパブで、アルバイトとして午後一〇時ころから翌朝四時くらいまで接客業務をして、日給一万五〇〇〇円で月に約二〇日間勤務しており、前記喫茶店でのアルバイト収入を併せた事故前三か月間の平均月収は約三〇万円であったこと(ただし、パブでの勤務は本件事故の時点で二か月間しか経過しておらず、また、喫茶店での勤務は引っ越しに伴い事故前にやめている。)、原告は、本件事故後、専門学校にはほとんど休むことなく通学し、ある時期からは自転車や自動車の運転も可能になったが、上記各アルバイトについては勤務に復帰できず、平成一二年七月になって新たなアルバイトに就いたこと、前記パブにおける労務の内容は、飲食物を運ぶ以外には、主に客の席に座って話相手をしたりすることであったことの各事実が認められる。なお、証人上松眞一は、平成一二年二月七日ころに原告宅を訪れた際、原告は、月の周囲以外を日焼けした状態であり、当時スキーをしていたことが窺われる旨証言するが、同証言を裏付ける証拠はなく、信用しがたい。

上記事実によれば、原告は、本件事故当時、月収三〇万円程度のアルバイト収入を得ており、事故に遭わなければ同程度の収入を得られる見込みがあったというべきである(なお、勤務先のパブが違法な営業活動を行っていたとしても、そのアルバイト店員にすぎない原告の休業損害計算における基礎収入を考える上では、特段の考慮を必要としないというべきである。)。そこで、同金額を基礎とした上、その労務の内容や前記原告の傷病内容、通院経過等を総合的に判断すると、事故後三か月間については一〇〇パーセント、その後三か月間については五〇パーセント、その後二か月間については三〇パーセントの割合で労務に支障を生じたものと解するのが相当であるから、休業損害は下記のとおりとなる。

300,000×(3+3×0.5+2×0.3)=1,530,000

(四)  慰謝料 八〇万〇〇〇〇円

原告の受傷内容、症状程度、通院日数等に照らせば、入通院慰謝料としては八〇万円が相当である。

上記損害額合計 二三五万〇〇〇〇円

三  損益相殺

原告が、被告加入の保険会社から、本件事故による損害の填補として六三万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを上記損害から損益相殺すると、一七二万円となる。

四  弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

被告に負担させるべき弁護士費用は二〇万円が相当である。

弁護士費用加算後 一九二万〇〇〇〇円

五  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告に対し、金一九二万円及び本件事故の日である平成一一年一〇月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 福井健太)

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