大阪地方裁判所 平成12年(行ウ)107号 判決 2003年4月10日
主文
被告が原告に対し平成12年6月30日付けでした,河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例に基づく特定事業の不許可処分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告の「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例」(以下「本件条例」という。)に基づく特定事業の許可申請(以下「本件申請」という。)に対し,被告が不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をしたため,原告が,本件不許可処分は違法であるとしてその取消しを求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠(書証番号は特に明示しない限りいずれも枝番を含む。)等により容易に認められる事実)
(1) 当事者
原告は,大阪府松原市において産業廃棄物処理などを業として行う株式会社である。
被告は,本件条例上,本件申請に対する許可,不許可の処分権限を有する者である。
(2) 本件条例
本件条例中,本件に関連する主な条項は,別紙「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例(抜粋)」のとおりである。また,「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例施行規則」(以下「本件規則」という。)中,本件に関連する主な条項は,別紙「河内長野市土砂埋立等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例施行規則(抜粋)」のとおりである。
本件条例は,土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生を未然に防止するため,必要な規制を行うことにより,もって市民生活の安全を確保するとともに,市民の生活環境を保全することを目的とする(1条)。
本件条例における「特定事業」とは,土砂等の埋立て等に供する区域以外の場所から採取された土砂等による土砂等の埋立て等を行う事業のうち,土砂等の埋立て等に供する区域の面積が500平方メートル以上のもので,かつ,現況地盤より高さが1メートル以上となるものをいい(2条2項),特定事業を行おうとする者は,あらかじめ市長の許可を受けなければならない(9条)。
特定事業の許可を受けようとする者は,10条1項各号に掲げる事項を記載した申請書に本件規則5条2項各号所定の書類及び図面を添付して被告に提出しなければならない(10条1項)。
被告は,9条の許可の申請が10条1項の規定によるものである場合には,当該申請が12条1項各号に定める許可の基準に適合していると認めるときでなければ,9条の許可をしてはならない(12条1項)。
(3) 本件不許可処分に至る経緯
ア 原告は,別紙物件目録記載の各土地付近の山林約15万平方メートルを8年間かけて埋め立て,跡地は山林に復元するという土砂埋立事業を計画していたところ,同計画に係る事業は「特定事業区域の面積が5万平方メートル以上の特定事業」(本件条例2条,11条1項)に該当するため,平成10年12月9日付けで,被告に対し,事前協議を申し出た(甲5,乙1)。
イ 被告は,本件条例11条2項に基づき,当該特定事業の土壌汚染の防止及び災害の防止等に関する計画について,河内長野市事業評価審議会に意見を求め,同審議会は,平成11年1月26日から7回の審議を経た後,同年11月19日付けで被告に意見を提出した(乙3,4)。
ウ 被告は,原告に対し,平成12年2月14日までに,同月10日付け埋立て指導書を交付した(甲30,乙5)。
エ 原告は,被告に対し,本件条例10条1項に基づき,同年4月13日付け特定事業許可申請書(以下「本件申請書」という。)を提出して本件申請を行った(甲1,11,乙7)。
原告は,本件申請に係る特定事業(以下「本件特定事業」という。)を行う区域(以下「本件特定事業区域」という。)の位置を別紙物件目録記載の各土地とし,2年間の特定事業期間内に29万8880立方メートルの土砂を本件特定事業に使用することとしていた。
オ 原告代理人柴山譽之弁護士は,被告に対し,直ちに本件申請に対する許可をされたい旨の同年5月26日付け上申書を提出した(乙8)。
カ 被告は,本件申請書の内容に一部不備があるとして,原告に対し,同年6月12日付け「申請書類の内容補正について」と題する河内長野市助役D作成名義の書面(甲6,乙9。以下「補正事項通知書」という。)を送付し,次の各補正事項(以下「本件各補正事項」という。)を通知した。
(ア) 環境政策推進室
① 土砂の採取場所の特定について,土砂採取予定区域詳細図(発生場所の地形図)及び採取土砂量等の資料が不足しているので添付すること(以下「補正事項①」という。)。
② 土砂の採取場所について,土砂採取できることの法的許可(森林法等の許可)が必要であるので手続きを行うこと(以下「補正事項②」という。)。
③ 車両の登録制及び日報管理について再度検討し,実施すること(以下「補正事項③」という。)。
④ ダイオキシン類の検査について,土砂発生元,事業場,調整池堆積土砂のそれぞれにおける検査について実施すること(以下「補正事項④」という。)。
⑤ 三郷水利組合に対して,事業計画,特に事業中並びに水路の付け替えにかかる工事の詳細にわたる協議を実施し,協議書を提出すること。また,通水が確認された時期に合わせて公用廃止を行う旨の確約書(事業者と水利組合の連名)を提出すること(以下「補正事項⑤」という。)。
⑥ 埋立地の境界確定書類が不足しているので添付すること(以下「補正事項⑥」という。)。
⑦ 「河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書」において騒音にかかる環境基準の基準値の記載に誤りがあるので訂正すること。また,騒音に関する影響について再度検討すること(以下「補正事項⑦」という。)。
⑧ また,上記報告書の4ページに記載の基準値に誤りがあるので訂正すること(以下「補正事項⑧」という。)。
⑨ 天野グリーンヒルズ自治会への事業計画説明について,地元自治会と十分調整の上,今後2回以上説明会を実施すること。また,地元より要望があれば説明会がいつでも開催できる体制を維持すること(以下「補正事項⑨」という。)。
⑩ 寺ヶ池水路の無形固定資産にかかる協議について,当市水道局と詳細の協議をした上で,当該協議結果書を提出すること(以下「補正事項⑩」という。)。
(イ) 水道局
特定事業許可申請書(乙7,甲1,甲11)添付の「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面(甲17の1)のうち,「6-1)」の項を「水道水源保護条例並びに水道水源保護条例に関するすべての指導事項を遵守します。
その他として①水道水源保護条例の中の排水水質基準に,ダイオキシン類が新たに追加される予定であるとの報告を受けました。②協議書の中の埋立土壌について搬出場所が確定し,土壌検査結果が提出され次第,水源保護審議会を開催するとの報告を受けました。」と改め,「7-3)」の項を「協議の結果,水道局で算出した金額を代替水路の使用開始時点で支払います。その他として,寺ヶ池水路は,何時も使用状態であるので,一刻も途切れることがないようにとの指導を受けました。」と改めること(以下「補正事項⑪」という。)。
キ 原告代理人柴山譽之弁護士は,被告に対し,同月16日付けで,「ご通知」と題する書面を送付し,被告は,同月19日,同書面を受け付けた(乙10)。同書面には,「不備とされている事項については,すでに事前に全て担当部署との間において解決済みのものであり,申請人としては何らの回答義務を伴うものではありません。」との記載があった。
ク 被告は,原告に対し,平成12年6月30日付け埋立て等不許可書をもって,本件条例10条1項10号で規定する本件規則5条2項11号,12号,14号で定める書類及び図面の提出がない以上,本件条例12条の許可基準に基づき判断するまでもなく,同各規定の各要件不備が明白であるとして,本件不許可処分をした(甲2,乙11)。
(4) 本件特定事業区域及びその周辺の状況
本件特定事業区域及びその周辺は,日野谷と呼ばれ,河内長野市水道水源保護条例に規定する水源保護地域内にある。日野谷から流れ出る谷水が石川に合流する地点から下流には,河内長野市民の飲料水の源水を取水している西代浄水場がある。また,本件特定事業区域の北東側に隣接する旭ヶ丘地区には,天野グリーンヒルズと呼ばれる住宅地が存在している(甲11,乙12,13)。
2 争点
本件の争点は,次のとおりである。
(1) 本件不許可処分の処分理由の範囲
(2) 本件申請の手続的不備の有無
(3) 本件不許可処分の手続的瑕疵の有無
3 当事者の主張
(1) 争点(1)(本件不許可処分の処分理由の範囲)
(被告の主張)
被告は,原告の本件申請を適正に審査するために,その審査に必要な資料等として,補正事項通知書をもって本件各補正事項の補正を求めたが,原告がこれに応じなかったため,原告の申請に対する許否を適正に審査することができず,本件不許可処分をしたのであるから,本件不許可処分が適法か否かは,被告の指摘する本件各補正事項が補正の必要のないものであったかどうかという点にかかることになる。
原告は,本件不許可処分の理由となるのは,埋立て等不許可書の記載自体から了知しうる理由,すなわち,補正事項①,②,⑤,⑥の4つに限られる旨主張する。しかし,埋立て等不許可書には,原告が本件各補正事項の補正に全く応じなかったために,本件申請の審査に必要不可欠な資料が不足し,不許可処分としたものであることが明記されている。そして,その中で,原告の挙げる上記4点を,「特に」という形で例示的に説明していることが明らかである。また,被告は,原告に対し,補正事項通知書を送付する以前から補正事項について説明を行っており,原告は被告の求める補正事項全体について十分に知悉しつつ,あえてこれらを全て拒否したのであって,かかる経過にかんがみても,本件不許可処分は,原告が被告の求める補正事項全体を拒否したことに起因するものであることは明らかである。したがって,本件不許可処分の理由は,原告の挙げる4点のみならず,被告が求めた全ての補正事項が拒否され,そのため被告が本件申請に関する審査を適正になしえなくなったことにあるのであり,その適法性・違法性の審理においては,補正事項全体が問題とされるべきものである。
(原告の主張)
行政手続法8条,14条では,申請に対する拒否処分等については,その理由を付さなければならないことになっているが,その理由は,先例により,いかなる事実関係を認定してそのように判断したかを具体的に記載することを要し,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して拒否されたかを申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならないとされている。とすれば,申請に対する拒否処分等については,当該処分に付された理由の記載から申請者において了知できる理由が処分理由ということになる。
本件不許可処分の具体的理由は埋立て等不許可書において示されているところ,原告が埋立て等不許可書の記載自体から了知しうる理由は,原告が補正事項①,②,⑤,⑥の補正指示に従わなかったことである。これらの補正事項は,特に判断上必要不可欠なものとされているが,逆に,他の補正指示は,補正指示前の資料をもってその全趣旨から判断が可能であることを意味しているものであって,これが不足しているからといって判断上必要不可欠というわけではなく,不許可事由とはなり得ないものということができる。よって,原告は,埋立て等不許可書の記載自体から了知し得る上記処分理由について不服申立てをすれば足りることになる。
被告は,上記4つの補正事項以外にも補正事項を追加するが,本件抗告訴訟においては埋立て等不許可書に記載のない理由を追加することは許されないと解すべきである。もしこの理由の追加が許される場合には,国民にとって大きな利害を有し,行政庁の後見的役割からどうしても不許可としなければならないような場合に限られるべきである。
(2) 争点(2)(本件申請の手続的不備の有無)
ア 補正事項①(土砂採取予定区域詳細図及び採取土砂量等の資料の提出)
(被告の主張)
(ア) 本件条例12条1項4号,10条1項7号は,建設残土等を特定事業区域に廃棄・埋め立てる場合,同事業区域で土壌汚染・水質汚染等が生じることを防止するために行われる土壌検査の実効性を担保する必要があり,また,土質の差などにより土砂崩壊等の災害発生を防止するためには少なくとも特定事業が予定された計画どおりに完遂されなければならず,埋立土砂量の不足による特定事業の頓挫などという事態が生じないことを担保する必要があることから,土砂採取場所の特定等を求めている。このような趣旨・目的からすれば,本件条例上,特定事業許可の申請に当たって,当該特定事業に使用する予定の土砂全量に対応する土砂の採取場所全てを特定することが要求されていると解すべきである。
この点,原告は,本件申請に係る申請書において,本件特定事業の期間を2年間,埋立予定土砂量を約30万立方メートルと記載し,同申請書別紙に,土砂採取場所として富田林市東板持753-20及び堺市原山台5-9-1の各土地を掲記し,それぞれからの採取予定土砂量を27万立方メートル及び3万立方メートルと記載していた。しかし,河内長野市側の本件申請担当者が平成12年2月25日に上記富田林市の土地の土壌検査に立会した際の認識では,同土地から27万立方メートルもの土砂が採取・確保されうるのかどうか疑問であり,また,上記堺市の土地についても,当時造成工事中で,その工事もほぼ終了する段階となっていて,今後において同土地から3万立方メートルもの土砂が採取・確保されうるのか疑問があった。
このように,本件特定事業に使用予定の土砂量全量(約30万立方メートル)に対応する土砂の採取場所全てを特定していないのではないかとの疑問が認められたことから,被告は,補正事項通知書において,本件条例10条1項7号及び本件規則5条2項14号に基づき,原告に対し,補正事項①の補正を求めた。
ところが,原告はこの補正に応じなかったため,被告は,本件特定事業に関し土砂採取場所の特定がなされているかどうかについて適正に審査することができなかった。
(イ) 原告は,被告に対し住宅地図を提出しており,補正事項①に応じる必要はない旨主張する。しかし,原告が住宅地図を提出したのは事業評価審議会に対してであって,本件申請に当たって提出しているわけではないし,その点をおくとしても,住宅地図では土砂採取場所のおおよその区域しか分からず,また,採取土砂量の推定資料としても不十分であることは明らかである。
また,市の担当者が検分に行った事実もない。平成12年2月25日に土壌検査実施のため河内長野市職員(A室長,B参事)が立会した事実はあるものの,その際土砂採取予定地域の確認等を行ったわけではない。その際,原告従業員は,「自分は社長に言われて来ただけで,区域の境界や面積は分からないが,検体土壌採取を実施する地点が土砂採取場所の区域内であることは間違いない。」と返事するに留まっていたような状況であり,確認検分をしたとする原告の主張は事実に反する。
さらに,本件条例13条により土砂採取場所の変更が認められるのは,あくまでも,当初の申請段階において埋立予定土砂量全量に対応する土砂の採取場所すべてが区域的に特定された上できちんと許可を受けた後,やむを得ず事情変更等が生じてしまった場合の制度にすぎない。被告が土砂採取場所の特定や搬入予定量について原告の主張するような指導をした事実もない。
(原告の主張)
本件条例10条1項7号によれば,特定事業の許可を受けようとする者は,被告に対し,特定事業に使用される土砂採取場所並びに当該採取場所からの搬入予定量及び搬入計画に関する事項等を記載した申請書を提出することとなっている。かかる事項については,本件規則によってその書式が定められており(本件規則様式第2号),原告は,本件申請の際,被告の指導の下,必要事項を記入して本件申請書を提出している(甲9,11の1)。
なお,原告は,被告との協議中に土砂採取場所を特定するための地図として,その地区が詳しく記載されている住宅地図を提出し,当該地区に現実に市の担当者に来てもらい,検分もしてもらっている。
土砂採取場所の特定について,被告側との協議では,まずは事業開始後直ちに採取が予定されている富田林市東板持及び堺市原山台を計画地として記載し,本件特定事業は約2か年に及ぶものでその後はその採取場所が当然追加・変更されていくことになるため本件条例13条以下の変更許可手続をもって対応していることで了解されていたものである。
搬入予定量についても,そもそも採取量は土砂採取場所の所有者らによって決定するもので,その計算根拠など申請の段階で判明するものではなく,被告側の担当部門との協議では,本件規則様式第2号の定型書類には本件申請で前提となっている予定量を記載し,もしこれが変更される場合は本件条例13条以下の変更許可手続にて対応できるものと指導を受けていたものである。
イ 補正事項②(土砂採取のための森林法等の許可手続)
(被告の主張)
(ア) 原告は,本件申請において,富田林市東板持753-20の土地を土砂採取場所とし,同土地から27万立方メートルという大量の土砂採取を予定しているが,同土地の現況は山林であり,また市街化調整区域であるため,森林法による大阪府知事の許可等を得ておかなければならない。仮にそれらの許可等を得られなければ,同土地からは土砂採取等をすることができないことになり,ひいては土砂採取場所が特定されていないことになる。
そこで,被告は,本件特定事業に関し土砂採取場所が特定されているかどうかの審査の一側面として,土砂採取場所について,原告から,森林法上の許可申請手続等の準備・申請着手等に関する進捗状況やその見通し等に関する資料(関係機関の受付印のある申請書面等)を提出してもらう必要があると考え,補正事項②として,本件規則5条2項14条に基づき,上記資料の提出を求めた。ところが,原告はこの補正に応ずることを拒否したため,被告は,上記の観点からの土砂採取場所の特定がなされているかどうかの審査を適正にすることができなかった。
(イ) 被告は,補正事項②において,森林法等の許可申請手続等が必要な場所であると判断した上で,それらの手続等を行うよう求めているが,当該手続における許可等までを求めていたわけではない。被告は,平成12年6月2日に補正事項案(乙9の2枚目のうち環境政策推進室の指摘にかかる補正事項のみを記載したもの)を示して補正事項の説明をした当初から,補正事項②は,森林法等による許可等の見通しや進捗状況等に関する資料の提出を求めるものであり,当該許可等そのものが備わっていること(許可証等)まで求めるものではないことを説明している。
また,本件条例15条2号は,土砂採取予定場所についての森林法等による許可申請手続等の準備・着手を特定事業許可前にすることを制約する規定ではない。
さらに,本件では,富田林市東板持の上記土地は原告所有地であるし,同土地の周辺には原告所有地や原告のために物上保証に供された土地もあるのであって,原告において森林法等の許可等の見通しや進捗状況等を明らかにしていくことは不可能とはいえない。
(原告の主張)
補正事項②が,原告の主張するように,森林法等による許可等の見通しや進捗状況等に関する資料の提出を求めるものであるとしても,森林法等による許可申請等の手続は,特定事業許可が得られてはじめて土砂採取場所の所有者又はその権利者がこれをするものであって,事前に許可も得ていない者が土砂採取場所と予定されている土地の所有者らにこの手続の履行を求めることはできないものである。逆に特定事業許可前にかかる手続を先行すれば,周辺住民だけでなく被告からも異議が出るのは明らかである。特定事業許可前に土砂採取を前提とした行為をすることは,逆に慎むべきこととされているものである。本件条例15条2号も,特定事業許可がなされ土砂の搬出をしようとする際に,当該土砂につき法令に基づく諸許可がなされていたかどうかの書類を提出しなければならない旨規定しており,土砂採取場所における土砂採取の根拠となる法的手続は,本件申請に対する許可がなされた後にされるということを前提としている。したがって,補正事項②に係る上記資料を本件申請に際して必要書類として提出させることは,明らかに本件条例に反するものである。
ウ 補正事項③(車両の登録制及び日報管理の再検討及び実施)
(被告の主張)
(ア) 本件条例は,特定事業に使用される土砂の採取場所が特定されていることを許可基準の一つとしている(12条1項4号)が,特定事業に使用される土砂の採取場所が区域的に特定され,土壌検査が行われたとしても,当該土砂採取場所の土砂が特定事業区域へ搬入されるという管理体制が担保されず,他の場所の土砂が特定事業区域へ搬入され得る状態となっているのでは,特定事業区域の土壌汚染の防止等の目的を達成することができず,実質的に土砂採取場所の特定がなされていないのと全く同じことになってしまう。
そこで,被告は,本件特定事業に関し土砂採取場所が特定されているかどうかの審査の一側面として,土砂採取場所の土砂が特定事業区域まで直送される体制を担保するため,補正事項③として,本件規則5条2項14号に基づき,土砂採取場所の土砂が特定事業区域へ搬入されることが担保されるような車両登録制や日報管理の仕方等について再検討及び報告を求めた。ところが,原告はこの補正に応じることを拒否したため,被告は,上記観点からの土砂採取場所の特定の有無に関する審査を適正に行うことができなかった。
(イ) この点,原告が提出した作業手順書(甲18)には,特定事業区域への土砂搬入ごとの処分券回収の際,土砂発生場所,車両ナンバー,搬入日時を記録すると記載されている。しかし,かかる管理方法は,土砂採取場所から土砂を採取・搬出する際に,その都度処分券を交付するというやり方ではなく,個人で土砂運搬車両を所有し土砂の運搬をしている者をとりまとめている親方的な人物に処分券を事前に一括して交付しておき,その後の処分券の土砂運搬車両の運転手への交付の仕方等は,その親方的人物の裁量に全面的に委ねつつ,土砂運搬車両が特定事業区域へ土砂を搬入するときのみ,処分券の記録を行うという趣旨のものであって,土砂採取場所の土砂が特定事業区域へ搬入されることを担保できないのは明らかである。
(原告の主張)
補正事項③は,条例の立法趣旨たる環境や土砂の安全性ということから,搬出土砂の中に危険性のある物が混入していないかを確認するため,使用車両の監視を充実させることを主眼とするものであるが,これは原告が行う事業の体制や内容によって,色々な方法論が考えられるもので,原告が作業手順書(甲18)に記載した監視体制をもって十分その目的を達成し得るものといえる。よって,補正事項③に関し,被告側の要求するとおりにならなかったとしても,本件条例が要求する目的は十分充足しているものといえるから,これをもって不許可処分の理由とすることはできない。
エ 補正事項④(ダイオキシン類の検査の実施)
(被告の主張)
(ア) ダイオキシン類については,環境ホルモンとしての人体への影響が社会的に懸念される状況であり,平成12年1月15日施行のダイオキシン類対策特別措置法3条2項においてもダイオキシン類による環境汚染の防止に関する施策の実施が地方公共団体の責務とされている。また,事業評価審議会において,学識経験者委員から,土砂についてダイオキシン類の検査を実施することが極めて重要であることが指摘された。そこで,被告は,本件条例の目的(1条)を達成するため,<A>土砂発生元(土砂採取場所),<B>事業場(特定事業区域)及び<C>調整池堆積土砂のそれぞれにおけるダイオキシン類の検査の実施が必要と判断し,補正事項④として,本件規則5条2項14号に基づき,上記<A>,<B>及び<C>におけるダイオキシン類の検査の実施の意思表示とその実施方法等に関する書類の提出を求めたのである。しかし,原告は,これらの補正に応じることを拒否したため,被告は,本件特定事業による特定事業区域のダイオキシン類からの汚染を防止できるかどうか,市民の生活環境の保全等が図れるかどうかといったことについて適正に審査することができなかった。
(イ) 原告は,本件条例にはダイオキシン類の検査のことが明記されておらず,補正事項④についての補正は必要ない旨主張する。しかし,本件条例は,ダイオキシン類の検査の実施を否定しているものではないし,むしろ上記のような事情などからは,本件条例はこれを積極的に推奨しているものということができる。
他方,原告においてダイオキシン類の検査の実施や検査手順等の検討・報告をすることはさほど困難なことではないし,ダイオキシン類対策特別措置法4条が「事業者は,その事業活動を行うに当たっては,これに伴って発生するダイオキシン類による環境の汚染の防止又はその除去をするために必要な措置を講ずるとともに,国又は地方公共団体が実施するダイオキシン類による環境の汚染の防止又はその除去等に関する施策に協力しなければならない」と規定していることや,原告が本件特定事業により相応の利益を得ることを勘案しても,土壌汚染防止及び市民生活環境保全のために積極的に努力する義務を負ってしかるべきである。また,本件条例に基づいて特定事業許可申請の審査を行う場合,その審査内容及び申請者に提出を求める書類等(本件条例10条1項,本件規則5条2項)は,本件条例の趣旨・目的に沿った合理的なものであればよいということができるところ,本件のダイオキシン類の検査に係る審査及びそのための書類の提出の要求は,上記のとおり,本件条例の趣旨・目的に沿った合理的なものである。したがって,ダイオキシン類の検査が本件条例上特に明文化されていないからといって,補正事項④の補正の必要性がないなどということはできない。
また,原告は,<B>特定事業区域におけるダイオキシン類の検査については,本件申請前にダイオキシン類の検査が実施されており(甲14の2),この点についての補正は必要ないと主張する。しかし,甲14の2は,本件申請前に事業評価審査会の審理において提出されただけで,本件申請の添付書類としては提出されていないから,補正の必要がないとはいえない。
さらに,原告は,<C>調整池堆積土砂におけるダイオキシン類の検査について,特定事業許可申請の段階で実施することは不可能である旨主張するが,被告は,原告に対し,ダイオキシン類の検査を実施することの意思表示とその検査方法・手順等の検討・報告を求めているのである。
(原告の主張)
補正事項④は,本件条例が特定事業許可申請の際に必要とする事項とはなっていない。
<A>土砂採取場所及び<B>特定事業区域における土壌の検査に関しては,特定事業許可がなされた後,具体的に土砂を搬出,搬入する際に,本件条例17条により定期的に特定事業区域の土壌や排水についてこれを検査して報告することが定められているもので,特定事業許可申請の際にかかる土壌の検査が必要事項とされるものではない。しかも,本件規則所定の特定事業土壌等検査報告書(14条1項,様式第13号)における諸検査の中には,ダイオキシン類の検査は含まれていない。
また,<A>土砂採取場所の土砂の検査については,当該土砂を特定事業許可も得られていない段階で採取することは,土砂採取場所の所有者らの権利を侵害することになるが,通常土砂採取場所の所有者らが許可も得られていない者にかかる土砂を提供することはあり得ず,不可能に近い。<C>調整池堆積土砂の検査についても,調整池などの施設は,特定事業許可を得られた後に特定事業の一環として建設されるものであって,特定事業許可に先立って検査をすることは不可能である。被告は,条例上要求されていない不可能なことを要求している。
なお,<B>特定事業区域の土砂のダイオキシン検査については,本件条例による必要事項ではないが,原告において自発的に審査し,その結果を提出している(甲14の2)。また,原告は,<A>土砂採取場所予定地の土砂のダイオキシン検査についても,平成12年2月25日に実施している。
オ 補正事項⑤(三郷水利組合との協議書及び確約書の提出)
(被告の主張)
(ア) 本件特定事業区域に通水している寺ヶ池水路は,本件特定事業区域の地形を利用して水が自然流下するようになっているものであるが,本件特定事業は,従来M字形に蛇行している寺ヶ池水路の一部を廃して,直線的につなぐという付け替え工事を伴うものである。そして,寺ヶ池水路は,上原水利組合,野作水利組合,寺ヶ池水利組合の3つの水利組合(以下「三郷水利組合」と総称する。)が管理しているものであるから,原告が寺ヶ池水路の付け替え工事を行うためには,三郷水利組合と十分に協議し,その理解を得ておく必要がある。
しかし,本件特定事業については,三郷水利組合の理解が十分に得られておらず,本件特定事業が中断・頓挫等させられてしまう可能性があるほか,土砂崩落・水路への流出に対する対策が必ずしも十分でないともいえることなどから,原告に対し,補正事項⑤として,本件規則5条2項12号に基づき,三郷水利組合と付け替え工事に係る協議を実施し,その詳細な協議書を提出するとともに,それを踏まえた上での水路の公用廃止の同意書を原告と三郷水利組合の連名で提出することを求めた。ところが,原告はこの補正に応じることを拒否し,被告は,本件特定事業に対する三郷水利組合の理解が得られているかどうか,本件特定事業が市民生活にとって安全なものかどうかの適正な審査をすることができなかった。
(イ) この点,原告は,三郷水利組合の代表者から,平成9年2月26日付け埋立造成工事同意書(甲8の1)及び平成10年4月26日付け水路の公用廃止に関する回答書(甲8の3)を得てはいる。しかし,平成11年4月30日の第4回事業評価審議会において利害関係者から意見聴取を行ったとき,三郷水利組合の代表者は,原告の埋立計画の設計図どおりならば埋立工事に着工するに先立って現状の水路より優れた水路を付け替えるようにして欲しい等の意見を述べた。これに対し,原告の事業計画は,水路の付け替えは,埋立工事の着工前ではなく,同工事の過程で行っていくというものであった。このように,水路の付け替え工事については,三郷水利組合と原告との間でかなりの認識の差があった。
そこで,被告は,平成11年12月ころ,原告に対し,水路の付け替え工事つき三郷水利組合との間で十分に協議しておくよう指導した。これに対し,原告の担当者は,三郷水利組合と協議したとして,「水利組合との協議内容」と題する書面(甲15)の2枚目及び3枚目を被告に提出した。しかし,当該書面は原告が一方的に作成したものにすぎず,三郷水利組合と十分な協議ができたのか,三郷水利組合の理解が得られたのかは,必ずしも明らかにならなかった。そのため,河内長野市の担当者(B)が本件申請後に三郷水利組合に事情を確認したところ,三郷水利組合は,寺ヶ池水路の付け替え工事によって流水速度が速まる関係で下流水路の支障が生じないのか,本件特定事業中に重量のある工事車両が水管橋の下を通過することによる影響で水管橋が沈下するなどして寺ヶ池水路の使用に支障が生じないのか,新たに付け替えられた水路敷が経年変化で地盤沈下して寺ヶ池水路が使用不能となるおそれはないのか,本件特定事業中における寺ヶ池水路への濁水の流入防止対策は十分なのか,という疑念を呈しており,寺ヶ池水路の付け替え工事についてほとんど認識差は埋まっておらず,理解を得られていないことが判明した。
そこでさらに,被告の担当者(B)は,平成12年4月24日,原告の担当者(C)に対し,三郷水利組合の上記疑念を伝え,三郷水利組合と十分に協議するように指示したところ,同人も,技術的な説明をする関係からコンサルタントないし工事施工者を連れて同年5月の連休明けくらいに協議に行く旨返答していたが,結局原告は三郷水利組合との協議を行わなかった。
上記の経過等を踏まえれば,埋立造成工事同意書(甲8の1),回答書(甲8の3)並びに「水利組合との協議内容」と題する書面(甲15)の2枚目及び3枚目を既に提出しているから補正事項⑤について補正の必要はない旨の原告の主張に理由のないことは明らかである。
(原告の主張)
補正事項⑤の補正内容は,三郷水利組合との協議経過及び通水後の公用廃止に伴う三郷水利組合の同意を要求するものであるが,その範囲内での書類は,本件申請書(甲1)に添付して提出済みである(甲11の1)。すなわち,原告は,既に「水利組合との協議内容」と題する書面(甲15)記載のとおりに協議を行い,埋立造成工事同意書及び回答書(甲8の1,3)等の必要な書面を提出している。また,公用廃止に関しても同意書(甲8の2)を提出している。さらに,将来設置する水路に関しても,平面図,縦断図,横断図及び構造図を記載した図面(甲32)を作成し,これを被告側へ提出し説明している。
被告は,埋立造成工事同意書及び回答書は,原告が三郷水利組合に十分説明せずに取り付けたものであると主張する。しかし,「水利組合との協議内容」と題する書面(甲15)記載のとおり,原告は三郷水利組合と十分協議して上記埋立造成工事同意書及び回答書をもらっている。
被告は色々と問題点を指摘するが,具体的に三郷水利組合側から異議や反対などの意見表明があったことは全くない。
カ 補正事項⑥(本件特定事業区域の境界確定書類の提出)
(被告の主張)
(ア) 原告は,本件申請に当たって,本件特定事業区域とその隣接地との境界を確定できる書類として,境界明示図面等(甲12の2枚目以下,13)を提出し,さらに被告側担当者の求めに応じて全体の合成図面(甲12の1枚目)を提出した。ところが,これらの図面を検討すると,別紙物件目録記載12の土地(以下「1340番の土地」という。)及び同目録記載16の土地(以下「1553番1の土地」という。)とそれらの隣接地との境界が明示されていないことが認められた。この点について,原告の担当者は,1340番の土地及び1553番1の土地については,事業区域線をセットバックという形で認めて欲しいと要求してきた。しかし,隣接地との境界が明示されておらず,どこまでが1340番の土地及び1553番の土地なのか明確に判明しないにもかかわらず,事業区域線を原告の所有する1340番の土地及び1553番1の土地の内側にセットバックして設定したなどと言っても,およそ適切な説明となっていないことは明らかである。しかも,1340番の土地について言えば,そのセットバックして設定されたという事業区域線が接している河内長野市日野1336番乙の土地は原告所有地でないため,通常のセットバックの議論の前提すら欠いている状況である。
そこで,被告は原告に対し,補正事項⑤として,本件規則5条2項11号に基づき,本件特定事業区域とその隣接地との境界確定書類を提出することを求めた。ところが,原告はこの補正に応じることを拒否したため,被告は,本件特定事業区域が位置的・場所的に特定・明示されているか審査することができなかった。
(イ) これに対し,原告は,1340番の土地については,甲13の4の図面におけるS.245地点とTN.96地点とを結ぶ線が,1553番1の土地については,上記図面におけるS.1地点と甲13の12の図面における53地点とを結ぶ線が本件特定事業区域とその隣接地との境界線として特定されており,補正の必要はないと主張する。しかし,原告の上記主張は,単に甲13の図面内に記載されている点を引用しているだけである。TN.96の地点に至っては,トラバー点(測量の際に測量機器を設置する点)にすぎないのであり,このような地点を引用すること自体,不合理である。甲12,13のいかなる図面を見ても,1340番の土地の境界については,その隣接地である大阪府河内長野市日野1335番甲,同1335番乙,同1334番,同1333番等の各土地の所有者の立会により明示されていないのであるから,S.245及びTN.95の各地点並びにそれらの点を結ぶ線が境界点ないし境界線となっているのか,あるいは1340番の土地上に存在するのか,明らかにはならない。同様に,1553番1の土地の境界についても,その隣接地である大阪府河内長野市日野1336番1,同1237番,同1239番,同1243番及び同1245番等の各土地の所有者の立会により明示されたことはなく,S.1及び53の各地点並びにそれらの地点を結ぶ線が境界点ないし境界線となっているのか,あるいは1553番1のと地上に存在するのかは,明らかとならないのである。
また,原告は,1340番,1553番1の各土地の境界地点について,被告側の担当者が現地で立会確認しており,補正の必要はないと主張する。しかし,そのような立会確認をした事実はない。平成11年2月25日及び3月10日に,原告の従業員と被告側担当者(E,Fら)が本件特定事業予定地に行っているが,これは同月13日に予定されていた第2回事業評価審議会の現地確認の事前打ち合わせのために行ってきたものである。そこでは,甲27の1枚目からもわかるように,寺ヶ池水路付け替え部分や調整池設置部分等を中心に見たもので,あとは現地の勾配のおおよその状態,地質調査のボーリング地点及び土壌検査の位置等を確認したりしたにすぎないものであり,1340番,1553番1の各土地の境界や境界明示点等を確認したような事実はない。しかも,特定事業区域の特定・明示を求める本件条例の趣旨からすれば,それは現地確認で事足りるものではなく,あくまでも図面によってなされるべきものである。
さらに原告は,本件特定事業において現実に埋立てを行う区域は,特定事業区域よりも内側にあり,現実に埋立てを行う区域の外側は森林のまま残置するので,隣地所有者に迷惑をかけることはなく,特定事業区域の境界線は曖昧でよい旨主張する。原告の上記主張は,「埋立区域」と「事業区域」という独自の表現を持ち出すものだが,本件条例上は特定事業区域という概念しかなく,原告の主張は独自の見解というほかない。そして,本件特定事業を進めていくうちに,特定事業区域が曖昧になっていき,隣地地権者等に甚大な迷惑を与える危険性等が大きいという特定事業の実情を十分にふまえておく必要があるのであって,本件特定事業区域の境界を特定・明示しておく必要性はいささかも揺るぐところがないのである。
(原告の主張)
被告は,1340番の土地及び1553番1の土地の境界が明らかでないと主張するが,かかる境界地点については,当時の河内長野市担当部長,久保係長外約5名の担当者が立ち会い,これを現場で確認している。
また,境界を確定する図面(甲12,13)も提出しており,河内長野市の担当者に十分説明している。まず,1340番の土地について特定事業区域の境界地点を説明するに,その北側の地点については,それぞれ当該地域の担当行政庁の立ち会いを得て境界明示を得ており,その明示線との接点でこれを特定することができる。北側地点は,甲13の4の図面における明示線平成6年富士第3373号のS-245の地点である。南側地点は,同明示線のTN-96の地点である。次に,1553番1の土地については,北側地点は上記同様明示線平成6年富士第3373号のS-1の地点であり,南側地点は甲13の12の図面における平成元年河内長野建土第3明示線53の地点である。いずれも甲13添付の官民明示指令書図面によりこれを特定し,現場においても杭入れをしている。いずれも市の担当者がこれを検分しているもので,これ以上の説明の必要性は全くないものである。
本件境界確定の資料については,被告の求めようとするのものは,分筆登記などに必要な,土地所有権の範囲を正確に特定しようとするほどの書類ということができる。しかし,本件の境界の問題は,あくまでも特定事業区域を明らかにしようとするものである。本件申請には,区域として特定事業区域と埋立区域があり,埋立区域は環境を考慮するとある程度の正確さを必要とするが,特定事業区域は埋立の対象ではなく,山林のままで残しておくもので,直接環境を変えてしまう区域ではないのである。原告は他の所有者とのことを考慮して,問題とされる1350番の土地及び1553番の土地については,いずれも原告所有であるためその各土地の中間地点をもって事業区域の線を引き,別の所有者の土地を妨害しないよう配慮しているものである。
よって,1340番の土地及び1553番1の土地についての特定事業区域としての境界線の特定は,原告提出の資料をもって十分ということができる。
キ 補正事項⑦(「河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書」の騒音に係る環境基準の基準値の記載の誤りの訂正及び騒音に関する影響についての再検討)
(被告の主張)
本件条例は,市民生活の安全確保及び市民の生活環境の保全のため(1条),事業者に特定事業区域の周辺関係者や特定事業に使用する土砂運搬車両の通行経路の住民の理解を得るべき責務を課し(3条4項),また,事業者に特定事業に使用する土砂の飛散等による被害の発生を防止する措置を講じる義務を課しているものであるが(8条,10条1項9号,12条1項6号),土砂運搬車両等の通行や埋立工事等は,周辺地域に騒音・大気汚染等の影響・被害を与えるおそれがあることからすれば,本件条例は,特定事業許可申請の審査に当たって,土砂運搬車両の騒音状況や埋立工事による土砂・粉塵の飛散・影響,それらの対策等についても審査することを求めており,特定事業許可申請者には,そのための書類等の提出を求めているものと解される。
この点に関し,原告は,本件申請に当たり,河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書(甲11の1,以下「環境影響調査報告書」という。)を提出した。しかし,環境影響調査報告書11頁及び24頁には,騒音規制基準値について,昼間70デシベル以下,夜間65デシベル以下との記載があるが,「騒音に係る環境基準について」(平成10年環境庁告示第64号)によると,上記各記載は,それぞれ「65デシベル以下」「60デシベル以下」の誤りであることが認められた。また,そうすると,本件特定事業に関する発生車両の騒音レベルは68.5デシベルであるため,上記の騒音規制基準値をオーバーすることになり,その騒音軽減対策等についても検討してもらう必要があることが認められた。
そこで,被告は,補正事項⑦として,本件規則5条2項14号に基づき,上記の誤った記載の訂正と,発生車両の騒音軽減対策に関する報告書の提出を求めたのである。ところが,原告は上記の補正を拒否したため,被告は,本件特定事業に関する土砂運搬車両の騒音状況・対策状況等について適正に審査することができなかった。
(原告の主張)
補正事項⑦については,そもそも原告側・被告側においてこれが単なる誤記であって訂正さえされればよい事項であったことを了解していた。この訂正がなされなかったとしても,直ちに本件特定事業における環境破壊や土地の安全性などに影響するものではなく,許可後でも訂正印をもっていつでも訂正できるもので,当該訂正が判断上不可欠なものとは言い難く,本件不許可処分の理由とならないことは明らかである。
ク 補正事項⑧(「河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書」の4頁に記載の基準値の誤りの訂正)
(被告の主張)
前記のように,本件条例は,特定事業許可申請の審査に当たって,土砂運搬車両の騒音状況や埋立工事による土砂・粉塵の飛散・影響,それらの対策等についても審査することを求めており,特定事業許可申請者には,そのための書類等の提出を求めているものと解される。
この点に関し,原告が本件申請に当たって提出した環境影響調査報告書4頁の大気汚染に関する排出規制基準値の「1時間値0.1ppm以上,日平均値0.04ppm以上」との記載は,「大気の汚染に係る環境基準について」(昭和48年5月8日環境庁告示第25号)によれば,その表示単位としては「㎎/m3」の誤りであることが認められた。
そこで,被告は,補正事項⑧として,本件規則5条2項14号に基づき,上記の誤った記載の訂正を求めた。ところが,原告は上記の補正を拒否したため,被告は,本件特定事業に関する土砂運搬車両の騒音状況・対策状況等について適正に審査することができなかった。
(原告の主張)
補正事項⑦に関する主張に同じ。
ケ 補正事項⑨(天野グリーンヒルズ自治会への事業計画説明等)
(被告の主張)
(ア) 本件条例は,特定事業が不可避的に土壌汚染・土壌崩壊等により市民の生活環境の保全を侵害する危険をはらむことから,事業者に対して,特定事業の施行に係る土地周辺関係者の住民の理解を得るように努力し,また同事業の施行に伴う苦情等が生じたときは,誠意を持って解決に当たるべき責務を課している(1条,3条4項)。したがって,本件条例は,特定事業許可申請の審査において,事業者によって住民理解を得るための十分な努力が払われたかどうか等の点を審査することを求めているものと解され,申請者に対しそれに関連する資料等の提出を求め得ることとしているものと解される。
そこで,被告は,補正事項⑨として,本件規則5条2項14号に基づき,天野グリーンヒルズ自治会への事業計画説明について,同自治会と十分調整の上,今後2回以上説明会を実施し,その経過書を提出することを求めるとともに,地元住民より要望があれば説明会をいつでも開催できる体制を維持し,それに係る書類を提出するよう求めた。しかし,原告はこの補正に応じることを拒否したため,被告としては,原告の住民理解を得るための努力状況等について適正に審査することができなかった。
(イ) 原告は,本件申請に当たり,「天野グリーンヒルズ自治会交渉経緯」と題する書面(甲16の1),地元説明会議事録(甲16の2)及び「説明会開催後の経過」と題する書面(甲16の3)を提出した。しかし,これらの書面によれば,原告は,平成9年7月20日の第1回事業説明会において天野グリーンヒルズ自治会の住民に対する事業説明会を行っているが,それ以後は全く事業説明を行っておらず,しかも,事業説明会の開催態様・方法も,第2回及び第3回事業説明会については開催通知の配布から開催日まで6日間,第4回事業説明会については2日間,第5回及び第6回事業説明会については3日間しか余裕を持っていないという状況であったのだから,事業説明会の開催態様・方法が不十分で形式的なものにとどまっていることが認められる。この点,原告は,天野グリーンヒルズ自治会を構成する住民は,本件条例における利害関係を有する地区の住民ではない旨主張するが,天野グリーンヒルズ自治会は,本件特定事業区域に接する地域に存するものであること,本件特定事業区域内を通過する寺ヶ池水路の流入する石川から取水された水を飲料としていることからしても,同自治会は本件特定事業に関して土壌汚染及び災害防止の観点から主張をなし得る利害関係があるものというべきである。
また,天野グリーンヒルズ自治会の反対運動が一方的であるとか,事業説明会を行うことは無意味であるとの原告の主張は,原告の偏った見方によるというべきで,首肯することはできない。
(原告の主張)
補正事項⑨は,本件条例が特定事業許可申請の際に必要としている事項ではない。本件条例よりも要件が厳格な廃棄物処理法による申請に際しても,周辺住民の同意書は法令上必要とされていない。また,天野グリーンヒルズ自治会を構成する住民は,本件条例における利害関係を有する地区の住民でもない。
しかし,原告は,被告の指導の下,甲16の1ないし3のとおりの経過でもって天野グリーンヒルズ自治会と交渉を重ねてきているのである。被告側担当者も,同自治会はただ反対するのみであり,いくら説明しても調整などできるはずはないということを理解し,数回にわたる事業説明会で十分と判断していたものである。
コ 補正事項⑩(寺ヶ池水路の無形固定資産に係る水道局との協議等)
(被告の主張)
本件条例が事業者に特定事業区域の周辺関係者の理解を得る責務を課していること(3条4項)及び本件規則が事業者に特定事業に関連する水路の管理者との協議を求めていること(5条2項12号)から,特定事業許可申請の審査においては,事業者と特定事業に関連する水路の水利権者等との間でも十分な協議がなされているかどうかを審査することが求められているものと解され,そのために,それに必要な書類等の提出を申請者に対し求めることができるものと解される。
河内長野市水道局(以下単に「水道局」という。)は,寺ヶ池水路に関して取水の権利(水利権,水道事業場の貸借対照表にいうところの「無形固定資産」施設利用権)を有しており,寺ヶ池水路の維持管理に対し費用負担等もしてきている。本件特定事業においては,寺ヶ池水路の付け替えを行い,その一部を廃することになるため,原告は,水利権者たる水道局とも,本件特定事業及び水路付け替え等について協議をすべきものである。原告は,本件申請に当たり,「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面(甲17の1)を提出したが,同書面には,単に同意がなされたという結論のみ記されているにすぎず,被告において実際に同意がなされているのかどうか十分に判断することができなかった。
そこで,被告は,補正事項⑩として,本件規則5条2項14号に基づき,本件特定事業及び寺ヶ池水路の付け替え等に関し,水道局と十分な協議がなされ,その協議が整うに至るまでの詳細な協議経過等を示した書面(協議結果書)の提出を求めた。ところが,原告はこの補正に応じることを拒否し,被告としては,水道局との十分な協議がなされ,その理解を得たのかどうか,適正に審査することができなかった。
(原告の主張)
水道局との協議経過については,本件申請書(甲11の1)の添付書類として,「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面(甲17の1)を提出している。寺ヶ池水路は河内長野市の無形固定資産となるところ,この資産については,市側と協議した結果,使用開始時点において水道局で算出した価格を支払うことで平成12年2月21日及び同年4月4日に合意されており,その経過は,上記書面によって報告されている。もし水道局がかかる報告を虚偽のものであるとして異議を述べていれば別として,問題は発生していない。したがって,補正事項⑩も本件条例の要求する範囲内で十分充足しているものである。
サ 補正事項⑪(「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面の記載を改めること)
(被告の主張)
原告は,本件申請に当たり,「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面(甲17の1)を提出した。しかし,その記載内容について,補正事項⑪のとおり訂正してもらう必要があったので,被告は原告に対し補正を要求した。ところが,これに対しても原告は補正に応じなかったものである。
(原告の主張)
争う。
(3) 争点(3)(本件不許可処分の手続的瑕疵の有無)について
(原告の主張)
本件不許可処分の通知は,河内長野市長選挙の直前に,突然原告に送付されてきた。行政手続法の不利益処分に関する規定の趣旨及び被告側担当者が事前に補正事項は完結しておりもはや補正はない旨確認していたことからすれば,原告に対し,求釈明や弁明の機会を与え,どこを具体的に補正しなければならないのか(補正事項通知書の文言だけでは本件で争点となっている具体的問題点についてまで理解できない。),またどのような資料が必要なのかなどを明らかにすべきであったのに,そのような手続もなく,直ちに本件不許可処分をしたことは違法である。
(被告の主張)
補正事項通知書記載の各補正事項は,そのほとんどすべてが平成12年2月10日付け埋立て指導書(乙5)及び同指導書への原告の回答に対する指導事項を記載した書面(乙6)に掲記されている事項であり,被告から原告に対し,同年2月14日に埋立て指導書の説明をした際,同年3月28日に指導事項を説明した際,同年6月2日及び5日に補正事項案の説明をした際などにわたって,充足してもらうべき必要性を繰り返し説明してきたものであるから,上記各補正事項に応じなければ,被告が本件申請の許否について適正に審査できず,不許可処分とせざるを得なくなるおそれのあることは,原告にも十分理解できていたことである。にもかからず,原告は,被告から補正事項通知書を受け取るや,直ちに補正拒否を通知し,補正に応じることを頑なに拒んできたのである。そこで,原告が積極的かつ明確に補正拒否の意思を通知してきた以上,もはや被告としては本件申請の許否について適正に審査を行えず,河内長野市行政手続条例7条により申請に対する応答義務もあることから,平成12年6月30日に本件不許可処分を行ったものである。
また,申請により求められた許認可等を拒否する処分については,河内長野市行政手続条例2条5号において「不利益処分」の定義から除外されており,同条例に規定する不利益処分を行う際の弁明の機会の付与や聴聞に係る規定の適用は受けず,本件において,被告が本件不許可処分をする前に原告に弁明の機会等を与える義務はなかったものである。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(処分理由の範囲)について
埋立て等不許可書(甲2,乙11)には,被告が原告に対し補正事項通知書を送付して本件申請の補正を指示したにもかかわらず,原告からは平成12年6月19日付け「ご通知」と題する書面をもって補正には応じられない旨の回答があったとの記載があり,その上で,特に補正事項①,②,⑤,⑥の点は本件申請に対する判断に必要不可欠な資料不足を生じさせるものであると記載されている。そして,本件申請は,本件規則5条2項11号,12号及び14号で定めるところの書類及び図面等が提出されない以上,本件条例12条の許可基準に基づき判断するまでもなく,本件規則5条2項11号,12号及び14号の要件不備であること明白であるので不許可とする旨の記載もなされている。
そうすると,被告が本件不許可処分に当たってその処分理由としたのは,補正事項通知書記載の本件各補正事項について原告が補正を拒否したことにより,本件申請は本件規則5条2項11号,12号及び14号の要件を欠く不適法な申請であるという点であり,補正事項①,②,⑤,⑥についての記載は例示にすぎないものと解される。したがって,被告が本件において本件各補正事項について原告が補正を拒否したことを本件不許可処分の処分理由として主張することは何ら妨げられないというべきである。
この点に関し,原告は,行政手続法8条,14条等を根拠に,申請に対する拒否処分等については,当該処分に付された理由の記載から申請者において了知できる理由のみが処分理由となるとした上で,埋立て等不許可書の記載自体から了知しうる理由は原告が補正事項①,②,⑤,⑥の4つの補正指示に応じなかった点のみであるから,被告が本件において主張することが許される処分理由はこれらに限られ,その余の処分理由を追加することは許されない旨主張する。しかし,そもそも本件不許可処分の根拠は本件条例に置かれているから,本件不許可処分については行政手続法の適用がない(同法3条2項)。また,本件不許可処分については,河内長野市行政手続条例の適用はあるものの,上記のような埋立て等不許可書の記載から,補正事項通知書に記載された本件各補正事項について原告が補正を拒んだことを理由に本件不許可処分がなされたことを了知することは十分可能であるから,原告の主張は採用できない。
2 争点(2)(本件申請の手続的不備の有無)について
本件条例10条1項は,特定事業の許可を受けようとする者は,同項各号に掲げる事項を記載した申請書に特定事業区域及びその周辺の状況を示す図面その他の規則(本件規則5条2項各号)で定める書類及び図面を添付して被告に提出しなければならないと定めている。そして,本件条例12条1項は,被告は,特定事業の許可の申請が10条1項の規定によるものである場合にあっては,当該申請が12条1項各号に適合していると認めるときでなければ,許可をしてはならないと規定している。したがって,本件条例上,特定事業の許可の申請が,12条1項所定の許可の基準(実体的要件)を欠く場合のほか,10条1項所定の手続的要件を満たしていない場合にも,当該申請は不許可とされることになる。
そして,被告は,原告が本件申請について本件各補正事項の補正を拒んだため,本件申請は本件条例10条1項所定の手続的要件を満たしていないとして本件不許可処分を行ったものであるから,本件申請に同条項所定の手続的要件を欠く不備があるかどうかを検討するに当たっては,被告の主張する本件各補正事項が果たして本件条例及び本件規則の定める手続的要件に該当するのかどうかがまず問題となり,次いで,当該手続的要件が原告の提出した本件申請書及びその添付資料によっては未だ満たされておらず,当該補正事項について補正の必要があったといえるのかどうかが問題となる。
以下,このような観点から,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備があったかどうかを検討する。
(1) 補正事項①(土砂採取予定区域詳細図及び採取土砂量等の資料の提出)について
被告は,補正事項①において,原告に対し,土砂採取場所の特定のため,土砂採取予定区域詳細図(発生場所の地形図)及び採取土砂量等の資料の提出を求めたものであるが,上記資料は「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類及び図面に該当するから,原告がその補正を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する(なお,被告は,補正事項①の補正を求めた根拠として,同号とともに本件条例10条1項7号を挙げているが,本件申請書に同号所定の特定事業に使用される土砂等の採取場所並びに当該採取場所からの搬入予定量及び搬入計画に関する事項が記載されていることは明らかである(甲11の1,乙7)。)。
この点,本件規則5条2項14号に該当する書類又は図面の提出がないとされた場合には申請が手続的要件を欠くとして不許可とされることになり得る以上,同号は,被告が必要と認めた書類及び図面であればいかなるものでもその提出を求めることができるとしたものと解するのは,申請者の予見可能性を害するおそれがあり,妥当でない。「必要」かどうかは,本件条例10条1項及び本件規則5条2項所定の手続的要件や,本件条例12条1項所定の許可の基準(実体的要件)との関係,その他本件条例及び本件規則の各規定の趣旨に照らし,当該書類及び図面が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものといえるかどうかによって決すべきである。
そして,本件条例は,土砂採取場所の特定に関し,特定事業許可申請の手続的要件としては,10条1項7号に「特定事業に使用される土砂等の採取場所並びに当該採取場所からの搬入予定量及び搬入計画に関する事項」を申請書の記載事項と定めるのみであり,土砂採取場所の特定自体は許可の実体的要件としている(12条1項4号)。また,本件規則においても,特定事業に使用される土砂等の予定量の計算書が申請書の添付書類として要求されている(5条2項6号)のみであり,土砂採取場所の特定及びこれを裏付ける資料の提出を申請の手続的要件とするような趣旨の規定は存在しない。さらに,被告において土砂採取場所を特定するに足りる資料が提出されていないと判断するのであれば,本件条例12条1項4号所定の実体的要件を欠くものとして不許可処分とすれば足りるはずである。したがって,申請書に本件条例10条1項7号所定の事項が記載されている場合には,それ以上の土砂採取場所の特定及びその裏付け資料等は実体的要件の問題というべきであって,土砂採取場所を特定するための資料が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものということはできない。
そして,本件申請書には,本件特定事業に使用される土砂等の採取場所並びに当該採取場所からの搬入予定量及び搬入計画に関する事項が記載されていると認められる(甲11の1,乙7)以上,被告が補正事項①において提出を求めた上記資料は,本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものではないから,本件規則5条2項14号に該当しない。
したがって,補正事項①の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(2) 補正事項②(土砂採取のための森林法等の許可手続)について
被告は,補正事項②において,原告に対し,森林法上の許可等が得られなければ土砂採取場所が特定されないことになるため,土砂採取場所について,森林法上の許可申請手続等の準備・申請着手等に関する進捗状況やその見通し等に関する資料(関係機関の受付印のある申請書面等)の提出を求めたものであり,上記資料は「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類及び図面に該当するから,原告が上記資料の提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
しかしながら,本件条例による特定事業の規制と森林法等による開発行為の規制とはその趣旨・目的を異にするものである上,土砂採取場所が特定されていることと当該土砂採取場所について森林法上の許可申請手続の準備等がなされていることは本来全くの別問題というほかない。また,仮に補正事項②が土砂採取場所の特定と何らかの関連性を有するとしても,前記のとおり,申請書に本件条例10条1項7号所定の事項が記載されている場合には,それ以上の土砂採取場所の特定は実体的要件の問題というべきであって,土砂採取場所を特定するための資料が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものということはできない。そして,本件申請書には本件特定事業に使用される土砂等の採取場所並びに当該採取場所からの搬入予定量及び搬入計画に関する事項が記載されているし,本件条例及び本件規則上,特定事業許可申請の段階において森林法上の許可申請手続等を必要とすることを規定した条項は存在しないのだから,被告が補正事項②において提出を求めた上記資料は,本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものとはいえず,本件規則5条2項14号に該当しない。
したがって,補正事項②の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(3) 補正事項③(車両の登録制及び日報管理の再検討及び実施)について
被告は,補正事項③において,原告に対し,土砂採取場所の特定のため,土砂採取場所の土砂が特定事業区域へ搬入されることが担保されるような土砂運搬車両の登録制及び日報管理を実施することの報告を求めたものであるが,上記報告を記載した書面等は「市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類及び図面に該当するから,原告が上記書面等の提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
しかしながら,土砂採取場所が特定されていることと,当該土砂採取場所の土砂が特定事業区域へ搬入されること又はその担保のために土砂運搬車両の登録制若しくは日報管理を実施することは本来別問題である。また,仮に補正事項③が土砂採取場所の特定と何らかの関連性を有するとしても,前記のとおり,申請書に本件条例10条1項7号所定の事項が記載されている場合には,それ以上の土砂採取場所の特定は実体的要件の問題というべきであって,土砂採取場所を特定するための資料が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものということはできない。そして,本件申請書には本件特定事業に使用される土砂等の採取場所並びに当該採取場所からの搬入予定量及び搬入計画に関する事項が記載されているし,本件条例及び本件規則上,土砂運搬車両の登録制及び日報管理の実施を必要とすることを規定した条項は存在しないのだから,被告が補正事項③において提出を求めた上記資料は,本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものとはいえず,本件規則5条2項14号に該当しない。
したがって,補正事項③の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(4) 補正事項④(ダイオキシン類の検査の実施)について
被告は,補正事項④において,原告に対し,本件条例の目的(1条)を達成するため,<A>土砂採取場所,<B>特定事業区域及び<C>調整池堆積土砂のそれぞれにおけるダイオキシン類の検査の実施の意思表示とその実施方法等に関する書類の提出を求めたものであるが,上記書類は「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類及び図面に該当するから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,申請書の添付書類として「必要」なものかどうかは,本件条例10条1項及び本件規則5条2項所定の手続的要件や,本件条例12条1項所定の実体的要件との関係,その他本件条例及び本件規則の各規定の趣旨に照らし,当該書類及び図面が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものといえるかどうかによって決すべきである。そして,本件条例及び本件規則は,特定事業許可申請に際しては,特定事業区域に係る表土の土壌分析結果証明書等の提出を要求し(本件条例10条1項4号,本件規則5条2項5号),特定事業区域の表土が安全基準(本件条例6条,本件規則3条)に適合する土砂等であることを特定事業許可の実体的要件の一つとしている(本件条例12条1項2号)が,安全基準や土壌分析結果証明書等の記載事項には,ダイオキシン類の項目は掲げられていない(本件規則別表第1,様式第3号)。また,本件条例及び本件規則は,特定事業許可を受けた者は,特定事業区域に土砂等を搬入するときには,当該土砂等が安全基準に適合していることを証するために,土壌分析結果証明書等を添付して被告に土砂等の搬入の届出をしなければならず(本件条例15条,本件規則10条),定期的に特定事業区域の土壌検査及び排水の水質検査を行い,その結果を特定事業土壌等検査報告書により被告に報告しなければならない(本件条例17条1項,本件規則12条ないし14条,様式第13号)としているが,上記の土壌分析結果証明書や特定事業土壌等検査報告書の記載事項にもダイオキシン類の項目は掲げられていない。土壌汚染及び災害の発生を未然に防止することにより,市民生活の安全を確保するとともに,市民の生活環境を保全するという本件条例の目的(1条)から,直ちにダイオキシン類の検査をすべき義務が課せられていると解することはできない。以上によれば,本件条例及び本件規則は,特定事業許可の前後を通じ,特定事業許可を受けた者に対し,ダイオキシン類の検査の実施を義務づけてはいないと解すべきであるから,被告が補正事項④において提出を求めた<A>土砂採取場所,<B>特定事業区域及び<C>調整池堆積土砂のそれぞれにおけるダイオキシン類の検査の実施の意思表示や実施方法等に関する書類は,本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものとはいえず,本件規則5条2項14号に該当しない。
よって,補正事項④の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(5) 補正事項⑤(三郷水利組合との協議書及び確約書の提出)について
被告は,補正事項⑤において,原告に対し,三郷水利組合と寺ヶ池水路付け替え工事に係る協議を実施し,その詳細な協議書を提出するとともに,それを踏まえた上での水路の公用廃止の同意書を原告と三郷水利組合の連名で提出することを求めたものであるが,本件特定事業は「特定事業区域内の雨水等を下流の水路及びため池へ放流する場合」(本件規則5条2項12号)に該当するところ,上記協議書及び同意書は,「管理者(水利組合がある場合は,当該水利組合)との協議書」(同号)として申請書に添付されるべき書類及び図面に当たるから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
この点,証拠(甲11,乙12,13)及び弁論の全趣旨によれば,本件特定事業においては,本件特定事業区域内の雨水等は,調整池を経て,最終的には下流の水路へ放流することとされていると認められるから,本件特定事業は「特定事業区域内の雨水等を下流の水路及びため池へ放流する場合」には該当する。また,本件特定事業は寺ヶ池水路の付け替え工事を伴うものである(甲8,11,乙12,13)以上,原告と寺ヶ池水路の管理者である三郷水利組合との間で,上記付け替え工事に関する協議が必要となるのは当然である。
しかし,同号の文言や,本件条例10条1項8号,9号の定める手続的要件並びに12条1項3号,5号及び6号の定める実体的要件に照らせば,本件規則5条2項12号において申請書への添付が必要とされている「協議書」とは,特定事業区域内の雨水等を下流の水路及びため池へ放流することとなっている場合に,特定事業許可申請者と当該下流の水路及びため池の管理者との間で,特定事業が施工されている間に当該雨水等の排水の水質を測定するために必要な措置や,当該特定事業に使用された土砂等の当該下流の水路及びため池への流出による災害の発生を防止するために必要な措置等についてなされた協議の経過及び結果を記載した書面をいうものと解するのが相当である。そして,被告は補正事項⑤において原告に三郷水利組合との間で寺ヶ池水路の付け替え工事に係る協議の実施を求めているが,前記のとおり,原告は本件特定事業において特定事業区域内の雨水等を下流の水路へ放流することにはしているものの,寺ヶ池水路にこれを放流することとはしているわけではないのであるから,寺ヶ池水路の付け替え工事は,そもそも同号にいう「協議書」における協議内容とはならず,また,寺ヶ池水路の管理者たる三郷水利組合も,「協議書」における協議の相手方とはならないというべきである。したがって,被告が補正事項⑤において提出を求めた三郷水利組合との間の寺ヶ池水路の付け替え工事に係る詳細な協議書及び水路の公用廃止の同意書は,本件規則5条2項12号に該当しない。
なお,被告が補正事項⑤において提出を求めた上記協議書及び同意書は,本件規則5条2項12号に準ずる書類として同項14号に該当すると解する余地もないではないが,原告は,本件特定事業について,三郷水利組合の埋立造成工事同意書(甲8の1),水路の公用廃止に同意する旨の回答書(甲8の3)及び「水利組合との協議内容」と題する書面(甲15)を本件申請書に添付して提出しており(甲11の1),これらの添付書類に加えてなお補正事項⑤の補正の必要があったとまでは考えられない。
よって,補正事項⑤の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(6) 補正事項⑥(本件特定事業区域の境界確定書類の提出)について
ア 被告は,補正事項⑥において,原告に対し,本件特定事業区域のうち1340番の土地及び1553番1の土地とその隣接地との境界を確定できる書類の提出を求めたものであるが,上記書類は「特定事業区域に隣接する土地との境界を確定できる書類」(本件規則5条2項11号)として申請書に添付されるべき書類に該当するから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
この点,同号は,特定事業区域とその隣接地との境界を確定することができる書類を申請書に添付すべき旨を定めており,被告が補正事項⑥において提出を求めた「埋立地の境界確定書類」は,これに該当するといえる。
そこで,本件申請において同号所定の書類が添付されていたといえるかどうかを検討する。
イ まず,原告は,本件申請書に本件特定事業区域の位置を別紙物件目録記載の各土地とする旨記載し,同号所定の書類として,甲12,13の図面等を添付して提出している(甲11の1)。ただし,原告は,1340番の土地及び1553番1の土地については,本件特定事業区域外の各隣接地との境界を確定できる書類は添付しておらず,1340番の土地については,甲13の4の図面におけるS.245地点とTN.96地点を結んだ線,1553番1の土地については同図面におけるS.1地点と甲13の12の図面における53地点を結んだ線をそれぞれ本件特定事業区域の境界線として本件申請をしたもの認められる(甲11~13,弁論の全趣旨)。
これに対し,被告は,上記各地点及び各線が1340番の土地又は1553番1の土地の境界点ないし境界線となっているのか,あるいは上記各土地上に存在するのかは明らかでない旨主張する。しかしながら,甲13の4及び12の各図面によれば,上記各地点は座標により特定されており,上記各線が上記各土地上に存在することも認められる。なお,TN.96地点は,甲13の4の図面上,「トラバー点」と記載されており,明示点ではないものの,やはり座標によって特定されているから,本件特定事業区域とその隣接地との境界を確定するための地点として用いること自体は差し支えないというべきである。したがって,上記各線は本件特定事業区域とその隣接地との境界線となり得るものと解される。
ウ もっとも,1340番の土地について,上記のS.245地点とTN.96地点を結んだ線が本件特定事業区域の境界線になるとしても,本件特定事業区域外の大阪府河内長野市日野1336番乙の土地(以下「1336番乙の土地」という。)とは隣接しているのであるから,同土地との境界を確定できる書類が本件申請書に添付されていなければならないはずであるのに,本件申請書にはこれが添付されていない。この点において,本件申請書に添付された本件規則5条2項11号所定の書類には一部不備があり,補正の必要があったこと自体は否定できない。
しかしながら,上記の不備を理由に本件申請が直ちに本件条例10条1項所定の手続的要件を欠くものと断ずるのは困難である。すなわち,そもそも本件規則5条2項11号が特定事業区域とその隣接地の境界を確定できる書類を申請書の添付書類として要求しているのは,本件条例が,特定事業を行おうとする者は,特定事業区域ごとに,あらかじめ市長の許可を受けなければならず(9条本文),同許可の申請書には,特定事業が施工されている間において,特定事業区域以外の地域への当該特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置を記載することを要することとし(10条1項9号),その措置が図られていることを許可の実体的要件とする(12条1項6号)とともに,同許可を受けた者は,当該許可に係る特定事業区域と当該特定事業区域以外の地域との境界にその境界を明らかにする表示を行わなければならないとしている(19条2項)ところ,これらの規定は,特定事業区域とその隣接地との境界が上記実体的要件該当性の判断が可能な程度に特定されていることを前提としているからであると解される。また,特定事業区域とその隣接地との境界が十分に確定されていないために,特定事業区域以外の地域への当該特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生のおそれがあると被告において判断するのであれば,本件条例12条1項6号所定の実体的要件を欠くものとして不許可処分とすれば足りるはずである。とすれば,申請書に本件規則5条2項11号所定の書類の添付を欠くことを理由に本件条例10条1項に定める手続的要件の欠缺があるというためには,当該特定事業区域とその隣接地との境界が本件条例12条1項6号に定める実体的要件の該当性の判断が不可能な場合でなければならないと解すべきである。そして,本件の場合,本件特定事業区域とその周囲の隣接地との境界のうち,境界を確定できる書類に一部不備があるのは1340番の土地と1336番乙の土地との境界部分のみである上,同境界部分に関しては,1336番乙の土地は,地目が田であるため,所有名義はナカタニ某のままであるが,同人から原告が売り渡しを受けて売渡証書も得ており,実質的には原告が管理権限を有する土地であることが認められる(証人C)。このような事情に照らせば,本件特定事業区域とその隣接地との境界は,上記実体的要件該当性の判断が可能な程度に特定されているというべきである。
エ したがって,補正事項⑥の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠くといえるほどの不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(7) 補正事項⑦(「河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書」の騒音に係る環境基準の基準値の記載の誤りの訂正及び騒音に関する影響についての再検討)について被告は,補正事項⑦において,原告に対し,騒音規制基準値に関する誤った記載を訂正した環境影響調査報告書及び土砂運搬車両等の騒音軽減対策に関する報告書の提出を求めたものであるが,上記環境影響調査報告書等は「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類に該当するから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
この点,前記のとおり,申請書の添付書類として「必要」なものかどうかは,本件条例10条1項及び本件規則5条2項所定の手続的要件や,本件条例12条1項所定の許可の基準(実体的要件)との関係,その他本件条例及び本件規則の各規定の趣旨に照らし,当該書類及び図面が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものといえるかどうかによって決すべきである。そして,本件条例上,土砂運搬車両による騒音規制基準値や騒音軽減対策に関する規定は存在しないし,本件条例の目的(1条)や事業者の責務(3条4項)などから,直ちに上記の環境影響調査報告書や騒音軽減対策に関する報告書が本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものに該当すると解することもできない。また,このように,本件条例及び本件規則上,環境影響調査報告書が本件申請に添付すべき書類及び図面に当たらない以上,その騒音規制基準値に誤った記載があり,その訂正がなされないからといって,本件申請が手続的要件を欠くものということはできない。
なお,補正事項⑦については,本件特定事業の事前協議段階において,被告が,原告に対し,平成12年2月10日付け埋立て指導書により,本件特定事業による騒音への影響について調査し,その対策を書面で報告するよう指導したところ,原告は本件申請書に環境影響調査報告書を添付して提出したという経緯が認められる(甲11の1,17の1,乙5)。しかし,このように事前協議段階における行政指導がなされ,これにより申請者が自主的に申請書への添付書類を付加した場合であっても,本件規則5条2項各号所定の申請書に添付すべき書類及び図面の範囲が左右されるとは考えられない。
したがって,上記のような経緯があるとしても,被告が補正事項⑦において補正を求めた訂正済みの環境影響調査報告書及び土砂運搬車両等の騒音軽減対策に関する報告書は,本件規則5条2項14号に該当しない。
よって,補正事項⑦の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(8) 補正事項⑧(「河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書」の4頁に記載の基準値の誤りの訂正)について
被告は,補正事項⑧において,原告に対し,大気汚染に関する排出規制基準値の誤った記載を訂正した環境影響調査報告書の提出を求めたものであるが,上記環境影響調査報告書は,「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類に該当するから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
しかし,前記のとおり,申請書の添付書類として「必要」なものかどうかは,本件条例10条1項及び本件規則5条2項所定の手続的要件や,本件条例12条1項所定の許可の基準(実体的要件)との関係,その他本件条例及び本件規則の各規定の趣旨に照らし,当該書類及び図面が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものといえるかどうかによって決すべきである。そして,本件条例上,土砂運搬車両による大気汚染に関する規定は存在しないし,本件条例の目的(1条)や事業者の責務(3条4項)などから,直ちに大気汚染に関する排出規制基準値の記載のある環境影響調査報告書が本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものに該当すると解することもできない。このように,本件条例及び本件規則上,排出規制基準値の記載のある環境影響調査報告書が本件申請に添付すべき書類及び図面に当たらない以上,その排出規制基準値に誤った記載があり,その訂正がなされないからといって,本件申請が手続的要件を欠くものということはできない。
なお,補正事項⑧についても,本件特定事業の事前協議段階において,被告が,原告に対し,平成12年2月10日付け埋立て指導書により,本件特定事業による粉じん,交通対策等への影響について調査し,その対策を書面で報告するよう指導したところ,原告は本件申請書に環境影響調査報告書を添付して提出したという経緯が認められる(甲11の1,17の1,乙5)。しかし,前記のとおり,このような経緯があったとしても,被告が補正事項⑧において補正を求めた訂正済みの環境影響調査報告書は,本件規則5条2項14号に該当しない。
したがって,補正事項⑧の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(9) 補正事項⑨(天野グリーンヒルズ自治会への事業計画説明等)について
被告は,補正事項⑨において,原告に対し,天野グリーンヒルズ自治会への事業説明について,同自治会と十分調整の上,今後2回以上説明会を実施し,その経過書を提出することを求めるとともに,地元住民より要望があれば説明会をいつでも開催できる体制を維持し,それに係る書類を提出することを求めたものであるが,上記経過書等は,「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類に該当するから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
しかし,前記のとおり,申請書の添付書類として「必要」なものかどうかは,本件条例10条1項及び本件規則5条2項所定の手続的要件や,本件条例12条1項所定の許可の基準(実体的要件)との関係,その他本件条例及び本件規則の各規定の趣旨に照らし,当該書類及び図面が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものといえるかどうかによって決すべきである。そして,本件条例上,特定事業区域周辺の住民への事業説明に関する規定は存在しないし,本件条例の目的(1条)や事業者の責務(3条4項)などから,直ちに上記経過書等が本件申請の審査の上で本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものに該当すると解することもできない。
なお,補正事項⑨についても,本件特定事業の事前協議段階において,被告が,原告に対し,平成12年2月10日付け埋立て指導書により,旭ヶ丘地区の自治会に対し十分説明を行い理解を得るよう努め,このことに関する経過書類(事業説明会等の開催内容)を提出するよう指導したところ,原告は本件申請書に「天野グリーンヒルズ自治会交渉経緯」「地元説明会議事録」「説明会開催後の経過」と題する各書面を添付して提出したという経緯が認められる(甲11の1,16の1~3,乙5)。しかし,前記のとおり,このような経緯があったとしても,被告が補正事項⑨において提出を求めた上記経過書等は,本件規則5条2項14号には該当しない。
したがって,補正事項⑨の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(10) 補正事項⑩(寺ヶ池水路の無形固定資産に係る水道局との協議等)について
被告は,補正事項⑩において,原告に対し,本件特定事業及び寺ヶ池水路の付け替え等に関する水道局との詳細な協議経過等を示した書面の提出を求めたものであるが,上記書面は,「前各号に定めるもののほか市長が必要と認める書類及び図面」(本件規則5条2項14号)として申請書に添付されるべき書類に該当するから,原告がそれらの提出を拒んだ以上,本件申請には手続的不備がある旨主張する。
この点,前記のとおり,申請書の添付書類として「必要」なものかどうかは,本件条例10条1項及び本件規則5条2項所定の手続的要件や,本件条例12条1項所定の許可の基準(実体的要件)との関係,その他本件条例及び本件規則の各規定の趣旨に照らし,当該書類及び図面が当該特定事業許可申請の審査の上で本件条例の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものといえるかどうかによって決すべきである。そして,本件条例上,特定事業許可申請に当たり,当該特定事業について水道局と協議を実施すべき旨の規定は存在しない。本件規則5条2項12号は,特定事業区域内の雨水等を下流の水路及びため池へ放流する場合には,管理者(水利組合がある場合は,当該水利組合)との協議書を申請書に添付しなければならない旨規定しているが,前記のとおり,同号において必要とされる協議書は,特定事業区域内の雨水等を下流の水路及びため池へ放流することとなっている場合に,特定事業許可申請者と当該下流の水路及びため池の管理者との間で,特定事業が施工されている間に当該雨水等の排水の水質を測定するために必要な措置や,当該特定事業に使用された土砂等の当該下流の水路及びため池への流出による災害の発生を防止するために必要な措置等についてなされた協議の経過及び結果を記載した書面をいうものと解される。とすれば,水道局が寺ヶ池水路の水利権者であり,本件特定事業が寺ヶ池水路の付け替えを伴い,その一部を廃するものであるため,原告と水道局との間で何らかの協議が必要となるとしても,そのような協議は,同号の想定する協議とは異なるものであるから,水道局との詳細な協議経過等を示した書面が,本件申請の審査の上で同号その他本件規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものに該当すると解することもできない。また,本件条例の定める事業者の責務(3条4項)などから,直ちに上記書面が「市長が必要と認める書類及び図面」に該当すると解することもできない。
したがって,補正事項⑩の点において,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(11) 補正事項⑪(「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面の記載を改めること)について
補正事項⑪の点においても,本件条例上,申請書への添付が必要とされる根拠規定は存在しないから,本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備はなく,この点に関する被告の主張は理由がない。
(12) したがって,本件各補正事項のいずれの点についても本件申請に本件条例10条1項所定の手続的要件を欠く不備があるということはできないから,本件申請に手続的不備があることを理由とする本件不許可処分は違法であり,取消しを免れない。被告は,本件申請に基づき,本件条例12条1項各号所定の実体的要件の有無を審査し,許可不許可の処分をすべきである。
3 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 山田明 裁判官 一原友彦)
裁判長裁判官 山下郁夫は,転官のため署名押印することができない。裁判官 山田明