大阪地方裁判所 平成13年(モ)90100号 決定 2001年7月19日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
本件申立てを棄却する。
理由
第一申立て
申立人が、裁判所に対し、金八二万七〇〇〇円を納付したときは、相手方のために別紙物件目録記載の動産に設定されている別紙担保権・被担保債権目録記載の担保権を消滅させることの許可を求める。
第二当事者の主張等
一 申立人の主張
(1) 申立人は、本件民事再生手続の再生債務者である。申立人は、リース会社である相手方との間のリース契約に基づき別紙物件目録記載の動産類(以下「本件動産」という。)を占有・使用し、相手方は、リース料債権を担保するため、その所有権を留保している。リース契約においてリース会社がリース物件について有する権利は、民事再生法一四八条一項に規定する担保権に該当するものと解すべきところ、本件動産は、申立人の事業の継続に欠くことのできないものである。よって、申立人は、民事再生法一四八条一項に基づき、その取引価額に相当する金員を裁判所に納付して本件動産の上に存する担保権を消滅させることについて許可の申立てをする。
(2) 後記相手方の主張(1)に対し
ア 本件リース契約についてなされた解除(以下「本件解除」という。)は無効である。なぜなら、債務者が第三者から仮差押を受けたことを理由とする契約解除に合理性を与える根拠は、債務者の支払能力に合理的な不安が生じたことであると考えられるところ、申立人に対しては既に弁済禁止の保全処分が発せられており、かつ、その後の民事再生手続開始により、相手方の有するリース料債権は再生手続によってのみ行使できるようになったので、再生手続開始により申立人の債務不履行に関する不安は存在しなくなったからである。
イ 仮に、本件解除が有効であるとしても、相手方が本件動産について有する権利が担保権であるという性質に変更はない。
二 相手方の主張
(1) 再生手続開始前に本件リース契約は解除され、契約は終了したので、相手方は、申立人に対し、民事再生法五二条一項の取戻権を有しているのであり、本件は、民事再生法一四八条一項にいう「再生手続開始当時再生債務者の財産の上に担保権が存する場合」に該当しない。
(2) 仮に、本件リース契約は終了していないとの申立人の主張を前提としても、相手方には、本件動産の完全なる所有権が終始帰属しているのであるから、相手方の有する権利は、民事再生法一四八条一項にいう「第五三条第一項に規定する担保権」に該当せず、本件動産は、民事再生法一四八条一項にいう「再生債務者の財産」に該当しないものである。
したがって、担保権消滅許可の申立てが認められる余地はない。
第三当裁判所の判断
一 一件記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 申立人は、食料品、酒類、日用雑貨品の小売業及び卸売業等を目的とする株式会社であり、相手方は、建設機械、工作機械及び工具類、電気機器、精密機器、電子応用機器、光学機器、事務用機器、医療機器、理化学機器、産業機械、輸送用機器、什器、備品、特許権、実用新案等諸権利の賃貸借並びに売買等を目的とする株式会社である。
(2) 申立人は、相手方との間で、平成一〇年三月二〇日、本件動産につき、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約(リース期間を七二か月とし、リース料総額六一九九万二〇〇〇円を八六万一〇〇〇円ずつ七二回にわたって支払う旨約定するもの。本件リース契約)を締結し、これに基づきそのころ本件動産の引渡しを受けた。
本件リース契約には、申立人が仮差押等を受けたとき、又は和議、破産、会社更生などの申立てがあったときは、相手方は、催告を要せず直ちに、契約を解除し損害賠償として残リース料の請求をすることができる旨の特約がある。
(3) 申立人は、平成一二年一一月六日、その所有不動産につき、オリックス株式会社の申立てによる仮差押を受けた。申立人は、同年一二月一五日、当裁判所に再生手続開始の申立てをした。当裁判所は、同月一八日、申立人の申立てにより、申立人に対して弁済禁止の保全処分を発令した。相手方は、申立人に対し、同月二四日、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした(本件解除)。その当時、本件リース契約の残リース料は三〇九九万六〇〇〇円であった。当裁判所は、平成一三年一月一二日午後四時、申立人につき再生手続開始の決定をした。
二(1) いわゆるフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約においてリース物件の引渡しを受けたユーザーにつき再生手続開始の決定があった場合、未払のリース料債権はその全額が再生債権となり、リース会社は、リース物件についてユーザーが取得した利用権についてその再生債権を被担保債権とする担保権を有するものと解すべきであるが、民事再生法一四八条一項の担保権消滅許可の申立ては、再生手続開始当時再生債務者の財産の上に同法五三条一項に規定する担保権が存する場合においてこれをなしうるものと規定されている。
そこで、本件が民事再生法一四八条一項の定める担保権消滅許可の申立てをなしうる場合に該当するか否かについて検討するに、前記一の事実によれば、申立人がその所有不動産につき仮差押を受けたことにより、解除権留保特約に基づいて、相手方には本件リース契約の解除権が発生したところ、相手方は、その解除権に基づき、再生手続開始前に本件リース契約を解除しており(本件解除)、これにより、申立人が本件リース契約に基づき本件動産について取得していた利用権は消滅したというべきである。一方、相手方は、本件リース契約に基づき本件動産について申立人の利用権により制限された状態で所有権を有していたものであるが、本件解除により、利用権による制限のない完全な所有権を有することとなる。
したがって、本件動産は、本件再生手続開始当時、既に再生債務者の財産ではなかったというべきであり、民事再生法一四八条一項の定める担保権消滅許可の申立てをなしうる場合に該当しないといわなければならない。
(2) 申立人は、本件解除は無効である旨主張する。しかしながら、リース物件のユーザーが仮差押を受けたことをリース契約の解除事由とする旨の特約を、民事再生手続との関係で無効と解する理由はない。もっとも、倒産手続におけるかかる特約の効力に関しては、最高裁昭和五七年三月三〇日第三小法廷判決・民集三六巻三号四八四頁は、会社更生手続の事案で、所有権留保売買においてなされた、買主たる株式会社に更生手続開始の申立ての原因たる事実が生じたことを売買契約解除の事由とする旨の特約は無効である旨判示するところであるが、会社更生手続では、担保権者も手続に全面的に服すべきものとされ、担保権実行が禁止されているのに対し、民事再生手続では、担保権は、手続に取り込まれておらず、別除権として再生手続によらないで行使することができるとされているのであるから(民事再生法五三条)、担保権の効力に関わる前記特約の効力について、民事再生手続の場合と会社更生手続の場合とを同一に解することはできないというべきである。
また、既に弁済禁止の保全処分が発せられ、かつ、その後再生手続が開始されているとしても前記解除権留保特約について、申立人が主張するようにその効力を制限する理由はないというべきであり、本件解除が無効である旨の申立人の主張は採用することができない。
三 申立人は、本件リース契約の解除が認められたとしても、相手方のリース料債権は、再生手続開始前にその原因を有する債権であり、再生債権として取り扱われることに変更はなく、また、相手方によるリース物件の所有権留保は、リース料債権の支払の担保あるいは契約解除した場合の違約損害金の支払の担保としての性質を変更するものではない旨主張する。
しかしながら、本件リース契約が解除された以上、申立人は、本件リース契約により取得していた本件動産の利用権を失い、一方、それまでその利用権により制限されていた相手方の本件動産の所有権は、そのような制限のない完全なものとなると解するのが相当であるから、申立人の前記主張は採用することができない。
四 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件申立ては理由がない。
(裁判長裁判官 森宏司 裁判官 井田宏 田中健司)
<以下省略>