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大阪地方裁判所 平成13年(ワ)11732号 判決 2002年11月08日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

被告は、原告に対し、1224万1156円を支払え。

第2  事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、預金の払戻を請求する事案である。

1  争いのない事実等

(1)  被告(堺支店扱い)に対し、いずれも満期が到来するごとに元利合計金を元本とする自動継続約定による次の各定期預金(以下「本件各預金」という。)が存在していた。本件各預金の預金証券には、いずれも昭和58年4月13日、昭和59年4月13日を満期とする最終の継続の書き換えが記載されており、昭和58年4月13日現在の預金金額は、それぞれ次の記載のとおりである。

ア 預金番号 自1-1237

預金名義 乙川次郎

当初預入金額 244万9384円

預入日 昭和53年4月13日

期間 1年

昭和58年4月13日現在預入金額 295万1645円

イ 預金番号 自1-1238

預金名義 丙山三郎

当初預入金額 427万8400円

預入日 昭和53年4月13日

期間 1年

昭和58年4月13日現在預入金額 515万5714円

(2)  原告は、平成13年11月8日、本件各預金の権利者であるとして、被告に対し支払を求め本訴を提起した。

2  争点

本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおりである。

(1)  本件各預金の権利者

(原告)

本件各預金は、架空名義で設けられたもので、原告は、自らの出捐により本件各預金を取得したもので、本件各預金の権利者は原告である。

(被告)

上記事実は知らない。

(2)  弁済の有効性

(被告)

本件各預金は、いずれも昭和63年6月7日、解約されて払い戻されている。

(原告)

原告は、本件各預金証書及び届出印を一貫して所持しており、本件各預金が解約された事実はない。解約手続がなされたとすれば、被告担当者の何らかの不正行為によるもので、権利者である原告に払戻がなされていない以上、本件各預金は消滅していない。

(3)  消滅時効

ア 起算日

(被告)

自動継続特約が付された定期預金でも、最初の満期日以降は払戻を受けることが可能であり、本件各預金について、最初の満期である昭和54年4月13日から消滅時効が進行する。

また、昭和58年4月13日の書替をもって承認に当たるとしても、昭和59年4月13日を起算日として消滅時効が進行する。

本件各預金は、上記各起算日から5年又は10年の経過により時効により消滅しており、被告は、上記各消滅時効を援用する。

(原告)

本件各預金は、自動継続特約が付されており、書替の手続がなくとも、満期時点で自動的に1年間更新されるもので、更新時に新たな預金契約がなされたものと解すべきである。したがって、当初の満期日及び証書記載の最終満期日は、消滅時効の起算日とはならない。

イ 権利濫用

(原告)

被告は、従前から満期から5年又は10年以上経過した自動継続定期預金の払戻等に異議なく応じてきており、本件各預金と共に原告が有していた架空名義預金については払戻に応じた。また、被告は、平成14年2月ころ、顧客に対し、自動継続定期預金で10年以上記帳のない預金(睡眠預金)について、事業譲渡日の前営業日までに支払、書替の手続をすることを呼びかける案内書を配布している。更に、本件各預金については、当時の被告支店長が不正に解約手続をとって横領した可能性が高く、これらの点に照らせば、被告が、本件各預金についてのみ消滅時効を援用するのは信義則に反し、権利の濫用に当たる。

(被告)

案内書は、被告から近畿産業信用組合に対し、事業譲渡が予定されており、睡眠預金について近畿産業信用組合に対する払戻請求による混乱等が生じるのを避けるため配布したもので、睡眠預金全部について積極的に払戻に応じる趣旨で配布したものではない。

(4)  本件各預金金額

(原告)

本件各預金の平成13年4月13日現在の預金金額は、別紙1及び2記載のとおり、それぞれ445万6637円、778万4519円となり、原告は、被告に対し、上記合計1224万1156円の支払を求める。

(被告)

原告の主張する計算は、一部源泉徴収税率の適用期間及び利率が異なり、本件各預金の平成13年4月13日現在の預金金額は、別紙3及び4記載のとおり、それぞれ444万7040円、776万7793円となる。

第3  争点に対する判断

1  本件各預金の権利者について

定期預金証書(甲1、2)、陳述書(甲14)及び証人Kの証言によれば、原告が、昭和58年4月13日ころ、自ら出捐して架空名義である本件各預金を取得し、以後、本件各預金証書及び届出印を保管していたことが認められる。上記によれば、原告は、本件各預金の権利者であることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

2  弁済の有効性について

被告の取引履歴(乙1、2)によれば、本件各預金が、いずれも昭和63年6月7日、解約手続がとられていることは認められるが、上記解約は事故扱いとされ、上記のとおり、本件各預金が架空名義預金で、原告が預金証書及び届出印を保管していた事実に照らせば、本件各預金の払戻金が原告又は他の正当な受領権限を有する者に支払われたということはできず、他に、有効な弁済があったことを認めるに足りる証拠はない。

3  消滅時効について

(1)  起算日について

自動継続特約が付された定期預金でも、預金者は、最初の満期日以降、払戻を受けることが可能であり、消滅時効が進行すると解されるところ、書替手続がとられ、証書上に新たな満期日と共に記載された場合には、債務を承認した上、新たな満期を設定したものとして、上記満期日から新たに消滅時効が進行すると解するのが相当である。

原告は、自動継続特約が付されている場合、書替の手続がなくとも、満期時点で自動的に1年間更新されるもので、更新時に新たな預金契約がなされたものと解すべきである旨主張するが、これによれば、当事者の特約により永遠に時効にかからない債権を設定することとなり、定期預金の性格からしても相当なものではなく、上記主張を採用することはできない。

したがって、本件各預金は、最終の書替の満期日である昭和59年4月13日から5年の経過により消滅時効が完成したものと認められる。

(2)  権利濫用について

原告は、被告が、原告が有する他の架空名義預金や他の一般の睡眠預金の払戻に応じていることをもって、本件各預金について消滅時効を援用することが信義則に反する旨主張するが、被告が、預金が存在し、その権利者であることが確定できる者に対して払戻に応じ、本件各預金のように被告の取り扱い上解約手続がとられている預金については、二重払いを防ぐため消滅時効を援用することも正当な権利行使というべきである。また、原告は、被告の案内書(甲3)を理由として主張するが、上記案内書が、事情の如何を問わず睡眠預金全てについて払戻に応じることを表明したものとは認めることができない。更に、原告は、本件各預金の解約手続における被告担当者の不正行為を主張するが、上記不正行為を認めるに足りる証拠がないのみならず、原告の主張する不正行為は、原告の本件各預金の払戻請求を何ら妨げるものではなく、これを理由に被告の消滅時効の援用を信義則に違反し、権利濫用に該当するものということはできない。他に、被告の消滅時効の援用が信義則に違反し権利の濫用に該当することを認めるに足りる証拠はない。

4  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田明)

(別紙)1

<省略>

(別紙)2

<省略>

(別紙)3

乙川次郎名義 定期預金利息計算

<省略>

(別紙)4

丙山三郎名義 定期預金利息計算

<省略>

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