大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成13年(ワ)1914号 判決 2002年3月22日

原告

甲野太郎

同訴訟代理人弁護士

梅田章二

篠原俊一

平山敏也

被告

森下仁丹株式会社

同代表者代表取締役

岡崎康雄

同訴訟代理人弁護士

巽貞男

主文

1  原告が,被告の従業員の地位にあることを確認する。

2  被告は,原告に対し,86万円及びこれに対する平成13年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同月より判決確定に至るまで,毎月25日限り43万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

4  この判決第2項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,原告が,被告に対し,被告が原告に対しなした解雇の意思表示が,解雇権の濫用であり無効であると主張して,被告との雇用契約に基づき,被告の従業員の地位にあることの確認と未払賃金(将来分を含む)の支払いを求めた事案である。

2  前提事実(当事者間に争いのない事実等)

(1)  被告は,肩書地に本店を有し,医薬品・医薬部外品・医療器具・食品等の製造販売他を目的とする株式会社である。

原告は,昭和44年4月に,被告に雇用され,被告の札幌支店等で就業し,平成12年4月より,被告本社マーケット開発部の職を務めていた。なお,原告の被告内での経歴は,別紙のとおりである。

原告の平成12年12月時点での賃金は,月額43万円であり,月末締めの当月25日払いであった。

(2)  平成12年11月27日,原告は,被告の中西賢二総務部長(以下「中西総務部長」という。)から,「1月,2月分の給与を支払い,有給休暇を買い上げるので辞めてほしい。さもなくば本年12月31日付けで解雇する」旨,口頭にて解雇予告を受けた。

原告が,会社を辞めることを拒否したところ,被告は,原告に対し,同年12月11日付け「辞令」と題する「平成12年11月27日に予告したとおり,就業規則第52条第2号により,平成12年12月31日付けで解雇する。」と記載された文書を交付し,原告は,同月31日をもって解雇された(以下「本件解雇」という。)。

なお,被告の就業規則第52条の本文,2号には,下記のように規定されている。

第52条本文 従業員が,次の各号の1に該当するときは30日前に予告するか,30日分の平均賃金を支給して解雇する。

2号 技能発達の見込みがないと認めたとき

3  被告の主張

(1)  本件解雇の理由は,以下のとおりである。

ア 原告の過失により被告の金庫が開けられ盗難が発生した事件

原告は,平成7年2月時点で,札幌支店業務課長代理であり,支店長から,同支店の金庫の管理を委ねられていた。同年2月28日夜から翌3月1日にかけて,同支店に泥棒が侵入し,金庫を開けて金庫から21万3415円が窃取された。同盗犯現場では,原告の保持していたと見られる暗証番号が残されていたのが発見されていることから,原告の保管義務に落度があり,同盗犯事故を生ぜしめたということができるところ,かかる原告の行為は,就業規則77条1項10号「災害,傷害その他事故を発生させたとき」に該当する。

これについては,始末書の提出を命ずべき事案であり,原告に告知し処分を留保していた。

イ 被告会社の会計処理システムの取扱ミス

(ア) 被告の会計処理システムは,コンピューター各部門の業務課で入力されると,自動的に経理部のコンピューターにもデーターが送付され,業務課は,月毎にアウトプリントし,印刷分として保管することになっている。経理部は,「仕入先別購入・支払い・買掛金残高推移表」及び「勘定科目費目実績明細表」にまとめ翌月1か月から20日の間に各部門の業務課宛に印刷物として返送する。そして,業務課自身が前月の会計処理に間違いがないかどうか自己チェックし,間違いがあった場合は,業務課でこれを訂正修正するチェックシステムをとっている。

(イ) 原告は,平成11年10月から仁丹栄光薬品株式会社(以下,「仁丹栄光薬品」という。)本社の業務職に配転された。業務職の仕事は,仕入と支払いのチェックをなすことであるが,原告は,平成3年4月以降札幌支店で5年間その業務に従事し,本来なら経験を生かし無難に遂行できるところであった。しかし,平成11年10月から平成12年11月初旬までの原告の会計処理は,でたらめな処理であった。原告は,販売・回収関連の伝票の書き方等会計データーの各取引における入力方法を理解していないため,ほぼ毎日経理部へ行き業務処理について教えを受けていたが,結局理解できなかったが,当該業務は,一般社員が初めて仕事につく場合でも1,2か月でマスターする程度のものであった。

平成12年3月,経理部の担当者Aが,仁丹栄光薬品の経理報告を見ていたところ,同社の買掛金残高が本来の約束では,1か月でその処理がなされるべきであるのに,2か月,3か月でも同額の買掛金残高として残っていることに疑問をもった。このためAは,原告に対し「被告を含め6社の買掛金処理がおかしいので,調査,修正のうえ決算処理するように」と注意した。これに対し,原告は「注意して処理します。」と約束したが,その後何の処理もしなかった。また,Aがその後も調査したところ,各種の間違いを発見したので,同年6月初旬に,その間違いを具体的に指摘した。原告は,同年7月初旬,経理部に来て「いろいろ間違いを指摘されたが,今年(6月分)からは,間違いなく会計処理しますので問題ありません」と言明した。しかし,その後,Aが調査したところ,仕入及び支払関連業務に特に間違いが多く,問題がありすぎた。これは,原告に適応能力がないことを示すものであり,原告に業務課の仕事をさせることになれば,それこそ,専任の者を1名別に担当させなければならない状況になった。被告は,やむを得ず,原告の業務を経理部で引き取ることを了解し,平成12年6月から栄光食品の仕入関連業務を経理部へ移管した。この結果,移管を受けた経理部の担当者は,その全業務量の30%で当該移管業務を処理している。

(ウ) 原告のなしたミスに対する修正件数は89件であり,原告の主張するような14件ではない。また原告が経理処理を誤った件数は遙かに多く,その修正には,5月18日から延べ40日間を費やしている。

原告の具体的な入力ミス等は,以下のとおりである。

<1> Y018K(株),Y181K純薬(株)の仕入二重計上

本来,Y181K純薬(株)1社だけの仕入計上で終えるべきであるのに,Y018K(株)にも仕入計上をした。

会社の仕入れ,いわゆる買掛金は「当月20日起算,翌日(ママ)10日支払い」(発生主義)の法則をとっているので,本件の二重計上の処理は,Y181K純薬へは平成12年1月に支払処理したが,Y018Kには,同額買掛金残高として残った。これは,原告が,毎日の買掛金残高推移表をチェックさえしていれば容易に発見できたミスであるが,原告は,そのチェックを怠り,このミスについて自己修正をしなかった。

<2> Y160森下仁丹(株)に関する記帳の誤り

原告は,平成11年10月に仁丹栄光薬品が森下仁丹から仕入れた商品の買掛金処理を誤った。

同社の買掛金処理は「当月末起算,翌月末支払い」の定めをとっているから,買掛金は,仕入れた翌月に支払うので,翌月には帳簿から消えることになる。帳簿上から買掛金を支払いで消去する方法は,経理上の法則に従うことになる。すなわち,仕入れた当月の処理は,貸借対照表の仕分方法に従い,資産,費用は借方,負債,資本,純益は貸方として記載する。次いで翌月の買掛金支払は,負債の減少になるから借方へ移動することになり,それに対応する貸方の位置には,買掛金の支払いを表するものとして,現金あるいは支払手形等の勘定科目が記入されることになる。ところが,原告の買掛金の支払い仕分方法は,以下のとおり,費用科目と現金等の支払手段とを対応させる形をとったため,買掛金はいつまでも残るという誤りをおかすことになった。そして,原告は,その残っていくのが当然わかってくるのにその修正をしなかった。

(原告の勘定科目) (正しい勘定科目)

販売諸費/銀行預金 買掛金/銀行預金

仮払い消費税/銀行預金 買掛金/銀行預金

販売活動費/銀行預金 買掛金/現金

仮払い消費税/現金 買掛金/現金

荷造運賃/現金 買掛金/現金

仮払い消費税/現金 買掛金/現金

保管料/銀行預金 買掛金/銀行預金

仮払い消費税/銀行預金 買掛金/銀行預金

<3> Y160森下仁丹(株)に関する平成12年1月の仕入未計上

原告は,平成12年8月31日付けで,会社に始末書を提出している。同始末書は,原告が,同年1月に森下仁丹の仕入れ354万2902円を不注意により未計上としたことによる。原告は,仕入未計上であるにも拘わ(ママ)らず同年2月に支払いを計上した(手形支払い11万3686円,売掛金と相殺342万9216円)。

<4> Y160森下仁丹(株)に関し,平成12年2月の仕入れに対し,3月の支払いが不足し,その差額を未修正のまま放置した件

平成12年2月の仕入金額368万1934円に対して,3月に311万398円を支払い,その差額57万1536円を未処理のまま放置した。

<5> Y160森下仁丹(株)に関し,相殺処理の間違い

平成12年3月に買掛金とリベートを相殺処理したが,本来は,相殺ではなく,支払金額であった。

<6> Y160森下仁丹(株)に関し,相殺処理の二重計上

平成12年4月の仕入227万4424円に対し,原告は,同年5月に手形支払及び相殺支払合計411万3772円の支払いを行い,そのことにより,差額183万9348円が発生した。

<7> Y160森下仁丹(株)に関し,返品未計上

平成12年5月に返品があったが,原告は返品計上の手続きをしなかった。

<8> Y819(有)T印刷所

平成12年1月にT印刷所から包装材料金額31万5000円を仕入れ,買掛金(詰合費/買掛金)として計上した。

ところが,2月になって,その買掛金を支払う手続きをとらねばならないところ,詰合費/支払手形として支払うという誤った処理を行った。本来は,買掛金は,計上時に貸方に記入し,支払時に買掛金の額が減少するから,借方へ記入して支払手形で支払うという仕分(買掛金/支払手形)を行うことになる。

<9> Y850D印刷(株)に関し,仕入れを計上せず支払いのみ処理したこと

平成12年4月に仕入12万6000円があったにも拘わ(ママ)らず,原告は,この仕入れを計上せず,5月に支払計上を行ったため,買掛金残高がマイナスとなった。原告が,注意していれば,買掛金マイナスの異常記帳に気づくところであったが,原告の不注意のため,経理部Aによって発見され,修正されたのは,同年6月であった。

<10> Y857N通運(株)の支払時の勘定科目間違い

原告は,平成11年10月にN通運に対して買掛金(荷造運賃/買掛金)計上したが,同年12月においては,支払のために買掛金/銀行預金とすべきところ,費用(荷造運賃/銀行預金)で会計処理したため,買掛金残高の記帳は平成12年5月まで残ることになった。

<11> Y801A製薬(株)の仕入先コード入力間違い

平成11年11月A製薬から40万9213円を仕入れ,原告は,その仕入入力は正確に入力したが,同年12月の支払時に会社コードの入力をしなかったため,当該支払は,帳簿上「その他扱い」の支払いとなり,同年12月以降は「買掛金残高」として残ることになった。

ウ 原告の職務遂行能力の欠如

(ア) 原告の入社時のテストについては,比較的上位であり,昭和50年の主任昇格時点頃までは平均実績を残していたが,その後業務に管理職的能力が必要となるに従い,原告の業務実績は低下していった。

昭和52年8月名古屋支店販売職に転職し,昭和61年12月まで勤務するが販売実績が上らず,終わり4か月は業務職に異動させられた。そして,一旦は東京支店に販売職主任として販売業務に従事したが販売職としては無理ということで,本人の希望と妻も札幌出身ということから,昭和62年4月札幌支店業務課課長代理とし,翌年4月には6級に昇進させている。

当時の上司の話では,「原告は営業としてはツメが甘い,相手の言うことは良く聞いてくるが,会社として相手に話すべき内容を十分伝えきれていない。単にあいさつ程度に終る交渉であるから,話合いが会社間の話し合いにならない。特に東京地区での営業には向かないと考えられる。これは周囲すべての感想であった。」ということであった。

昭和62年4月から札幌支店業務課で仕入れ売上げの関連の仕事をするが,同支店業務課には,支払業務売上伝票発行などの業務についても,部下に優秀な女性がいたので,業務遂行には支障は来さなかったが,上司が指示した仕事以外はしないタイプであったから,前向きな提案は一切なかった。

(イ) 別紙原告の評価推移表にある如く評価は,昭和58年には最下点といえるC点(30点~49点)という評価がなされている。それは,昭和61年,同62年,平成元年と続くようになり,平成8年からはすべての評価点がC,そして平成12年では4月に最下点Dが選ばれている。

平成8年度の評価点はCであるが,その際の能力についての指導事項は「課された立場の理解が甘く,判断が自己中心であり変革をせねばならぬ」というものである。また,実績についての指導は,「各企業のトップと商談するにはまだ知識経験に欠ける。」とある。

平成8年4月,同人が札幌支店業務課課長代理当時,札幌支店の機構改革の必要があり,30名の人員整理を行った。原告は,考課内容として低位にあり,整理基準に該当したところから,同人の意見を聞いたが,原告は強硬に被告の意見に従わずこれを拒否し,かつ同時に他社でもよいからということで札幌勤務を希望したので,被告は伝手を求め,K株式会社を紹介したが拒否され,セールスなら自信があるという同人の意見を入れ,被告の子会社である仁丹栄光薬品に出向させた。しかし,同職場に2年6か月勤務したが一向に業績が上らず,出向先の仁丹栄光薬品から同人の転職を求められるということになった。

平成9年度の能力査定は,C点であり,その際の指導事項は「状況判断が不充分,従って問題点の把握ができず対策が遅い」とあり,実績査定での指導ポイントは「責任者としての自覚が不足」であった。

同じく平成10年度の能力査定は,C点であり,指導事項は「出向時よりは少し理解できて来(ママ)たが,まだ自分の立場や何をなすべきかが理解できていない。」,また実績査定でのポイントでは「仕事は改善工夫がほとんどない。」とある。

(ウ) これらの結果点は,評価者にとってできるだけ温暖(ママ)な評価点を選択しようとする意思の存在する点数であり,客観的に正当視できる評価点といえる。例えば夏・冬の実績内容は正しく販売実績の点数を基礎にしたものであり,客観的に正当視できるものである。その評価点が最下点に近いということが長期間続き,それにより最下点のD点が生じるということは,周囲の従業員にも悪影響を与えるということは避けられないというべきである。

同人の性格は,強情,あるいは意固地ともいえる面があり,また会社や上司に対しては絶えず批判的態度をとり,転勤先での仕事には熱意がみられず,本人は不平が多かったといえる。研究意欲に欠けるところがあり,それは後の業務職での経理的記帳に仕事を放棄したかと疑われるほどの大規模な記帳誤りを行い,その誤りについては自己の責任回避ととれる言動も作出している。

そして,平成8年以降は,原告の自己中心の言動に終始したことの反作用として,同僚側の気持ちに反発心をもたらせた結果か原告自身に暗さをもたらしている。

(2)  以上,原告は,専心業務に服する意欲に欠け,経年と共に仕事上のミスが増加し,それと同時に責任回避の言動が目立ち,組織不適応となり,業務遂行に支障を来し,将来もその改善は期待できない状態になった。このため,被告は,原告を,就業規則52条1項2号に該当するとして解雇することとした。

また,前記アの札幌支店業務課長時代の盗難事件は,被告の就業規則77条1項10号(災害,傷害その他事故を発生させたとき)に該当し,また前記イの経理ミスは,同就業規則2条1項,第2項(社員の遵守義務違反),第77条1項4号(職務上の指示に正当な理由なく従わなかったとき)に該当するが,これらを,一等減じて普通解雇とし,同就業規則第52条5,6項(業務上やむをえないとき)を適用し,解雇したものである。

そして,本件解雇後は,被告は,原告とその所属する労働組合の要求に従い,3回会合をもち,解雇理由を書面で手交し,口頭で説明した。

4  原告の主張

(1)  盗難について

被告主張の盗難事件が発生したこと及び盗難現場に原告が保管していた暗証番号を書いた紙が残されていたことは認める。

原告は,暗証番号を名刺入れの底に入れて,そのうえに名刺を重ねて保管していたのであり,原告には,保管義務の落度がないか,仮に認められるとしても極めて小さいものである。

この件については,顛末書を書くのみで終わっており,始末書といった話はされていない。このような6年近くも前の何の処分もなされなかった事件を取り出して解雇理由に挙げること自体,被告による解雇の根拠薄弱さを物語るものである。

(2)  会計処理上の取扱ミスについて

ア 原告は,平成11年4月,仁丹栄光薬品の経費節減を理由に被告本社物流部に配属され,解装庫で返品の検収作業に従事した。同年9月,原告は,仁丹栄光薬品の西川業務課長が退職するので,その補充要員になるように言われ,同年10月から,仁丹栄光薬品業務課に再度出向した。そこで,原告は,これまで経験したことのない会計処理を含む商品仕入業務(商品買掛及びその支払い)を行うことになったが,仁丹栄光薬品による十分な指導もないまま,未経験の上記業務を行うことになった。

イ 上記業務を行うに際して,仁丹栄光薬品の磯野監査役は,原告に,現金・銀行預金勘定の入出金データーだけは確実にチェックするようにと指示し,他の項目については,磯野監査役の方でチェックするとのことであった。そこで,原告は,現実に仕入れた物に対応する支払いが行われたこと,現実に販売した商品に対応する回収が行われたことに細心の注意を払って業務を遂行していた。それ故,現金・銀行預金勘定の入出金データーのチェックに誤りはなく,債権者である取引先から苦情が来たことは皆無であり,また,仁丹栄光薬品に実損を生じさせたこともない。

仮に被告主張のミスが事実であるとしても,それは極めて軽微であり,また磯野監査役が,その有無をチェックする責務があったのであるから,そのミスを原告だけの責め帰(ママ)すのは不当である。

ウ 原告が,平成11年10月に仁丹栄光薬品業務課に着任する以前,同課では,西川課長と中村社員の2名がその業務に従事していたが,原告は,同業務を1人で行っていた。業務量は当然多くなり,残業でも消化しきれず,休日出勤も珍しくなかった。

エ 原告の1か月の伝票処理件数は,仕入関係で約70件,銀行預金関係で約120件,売上関係で400件,回収関係で50件,現金関係で約30件の合計約670件であるから,8か月では数千件の処理件数に及ぶ。

被告が,主張する原告の会計処理ミスは,平成11年10月から平成12年5月までの8か月でわずか14件である,そして,これらのミスについては,原告は,その都度指摘されておらず,平成12年5月ころになって初めて指摘されたにすぎない。それも,ミスの内容について逐一指摘されたのではなく,ただ漫然と会計処理のミスがあると言われたに止まり,ミスは電算室の方で処理しておくというものであった。

しかも,原告の行う業務内容は,伝票処理だけではない。電話応対,荷札の作成,出荷依頼,月末の売上及び回収実績集計,セールスマンに対する仮払金の清算,支払業務,返品の検品とその返送,銀行預金残高及び現金残高の照合等々の多種多様な業務を原告はたった1人で行わなければならず,伝票処理に費やされる時間が全体の6割とすれば,その他の業務に費やされる時間は4割である。

このことからも被告の指摘するミスがとるに足りない重箱の隅をつつくものでしかないことは明らかである。

オ 被告指摘のミスに対する反論は,以下のとおりであり,到底解雇を正当とするだけの理由にはなりえない。

(ア) Y018K(株)とY181K純薬(株)の仕入二重計上のミスがあったことについては,不知。仮に事実としても,「K」という名称が共通に使用されているために誤って二重計上したという極めて単純なミスである。

そして,帳簿上,上記ミスがあるとしても,Y181K純薬(株)への支払いは正確になされている。それ故,銀行預金残高と帳簿上のそれは一致しているので,磯野監査役から言われていた指示には応えており,実損は発生していない。

(イ) Y160森下仁丹(株)に関する記帳の誤りについて

このミスの存否については,不知。仮に事実であるとしても軽微なミスである。

被告の主張では,8件のミスがあるかに見えるが,1回の入力で2行分が一度に記載されるので,ミスの件数は4件である。

また,上記のような帳簿上のミスがあるとしても,森下仁丹(株)に支払われるべき額が,銀行預金から支払われているから,銀行預金残高と帳簿上のそれは一致しており,実損は発生していない。

(ウ) 平成12年1月の仕入未計上について

原告が,上記ミスをした事実は認める。

しかし,原告は,仕入先からの請求書と納品書を照合して支払を起こしているから,銀行預金残高と帳簿上のそれとは一致しており,実損は発生していない。また,被告の主張によれば,原告は2件のミスをしたかのようになっているが,ミスは仕入計上もれの一件である。

このミスについて,原告は,始末書を作成しているが,本来,「現金・銀行預金勘定の入出金データー」以外は,磯野監査役がこれをチェックすることになっていたのであり,上記ミスについては,平成13年2月に原告が発見する前に磯野監査役がこれを発見すべきものであった。それ故,原告としては全責任を負う必要はなかったのであるが,自らが遂行した業務において生じたミスであることから始末書を作成したのである。

(エ) 平成12年2月の仕入に対し,3月の支払いが不足。その差額を未修正のまま放置したとの件について

上記ミスの事実は否認する。原告は,平成12年1月の森下仁丹(株)からの仕入についてこれを計上していなかったことに気づいた。そこで,原告は,森下仁丹(株)の電算室の末吉氏に,その手当をどうすべきかを相談した。同氏に相談したのは,仁丹栄光薬品株(ママ)は,森下仁丹(株)に仁丹栄光薬品(株)の売掛,買掛等の経理処理を委託しており,同氏は森下仁丹(株)電算室においてその業務を行っていたからである。

その結果,同氏が帳簿上の修正を試みることになって,以降,帳簿には,同氏による修正が施されている。被告の指摘は,帳簿上の記載を正常化させるために末吉氏がした操作であり,ミスでない可能性がある。また仮にミスであるとしても,原告によるものではない。

(オ) 相殺処理の間違いについて

相殺処理は,磯野監査役の指示で行ったことであり,ミスではない。

(カ) 相殺処理の二重計上について

上記ミスについては,その事実を否認する。前述のように,原告が,平成12年1月の仕入計上もれを同年2月に発見した後,森下仁丹(株)の末吉氏らがその帳簿上の修正を行っている。それ故,被告の指摘は,帳簿上の記載を正常化させるために,末吉氏がした操作であって,ミスではない可能性がある。また仮にミスであるとしても,それは原告によるものではない。

(キ) 返品未計上について

上記ミスについては,その事実を否認する。

仁丹栄光薬品(株)の営業部門が,平成12年4月1日付けで仕入れ業務だけを残して森下仁丹(株)に譲渡された。そこで,仁丹栄光薬品(株)にある在庫を森下仁丹(株)に移す必要が発生したが,原告は,その処理を前述の末吉氏,田畑氏の指示により在庫移管という形で行った。ところが,末吉氏,田畑氏からは,電算室の方で在庫の処理の形を換(ママ)えるとの報告が入った。返品計上手続き云々は電算室での処理の結果である。

従って,その処理はミスではない可能性がある。仮にミスであっても,原告はこれに関与していない。

(ク) Y189(有)T印刷所,Y850D印刷(株),Y857N通運(株)について

これらのミスの存否については,不知。仮に事実であるとしても,実損は発生しておらず,軽微なミスである。

(ケ) Y801A製薬(株)について

このミスの存否については,不知。仮に事実であるとしても,会社のコードを入力していなかったという些細なミスである。A製薬に対する支払は,正確になされているから,銀行預金残高と帳簿上のそれは一致しており,実損は発生しておらず,軽微なミスである。

カ 原告は,平成12年1月の仕入未計上について,同年8月に,始末書を作成した。このとき,本件訴訟で被告が指摘するミスはすべて被告の知るところとなっていたのである。そうであれば,被告は,ミスを承知のうえで,始末書を作成させるに止まっている以上,平成12年1月の仕入未計上以外のミスは不問に付し,かつ平成12年1月の仕入未計上に対する問責は,始末書の作成で完結したというべきである。

始末書作成以降,原告は,何らのミスもしていない以上,被告には,原告を解雇する何らの理由もなく,本件解雇は,原告に対する二重処罰になる点でも違法である。

(3)  原告の職務遂行能力について

原告は,十分な能力を有しており,これまでに被告に多大の貢献をしている。

ア 原告の販売成績は,極めて優秀であったため,昭和47年12月29日から翌年1月3日まで,ハワイ・ドール社への研修旅行に推薦された。この研修旅行は,この時1回限り行われたものであり,これに選ばれたのは,全社でわずか5名にすぎない。この研修旅行の費用は,全額会社負担・小遣いも支給されるというものであった。

イ 原告は,昭和52年に名古屋支店に転勤になったのであるが,名古屋支社(ママ)においても,原告の仕事振りは充実したものであった。昭和58年10月には,14年勤続表彰を受けているし,昭和59年には,日本商工会議所小売商検定において販売士3級の資格を,翌年10月には,同2級の資格を取得している。この販売士2級の資格については,難関であり,受験をあきらめる者も多く,合格したのは名古屋支社(ママ)内10人ほどの中で2人程度であったはずである。

名古屋支店において,原告の販売実績が上がらず業務職に移動させられたなどという事実はない。名古屋支店での最後は販売職に戻っていた。

昭和62年4月からの札幌支店業務課での仕事で,業務に支障を来さなかったのは,原告の能力の現れである。原告は上司の指示した仕事しかしないタイプではないし,前向きな提案もしている。

ウ その後,5か月ほどの東京支社(ママ)勤務を経て,昭和62年4月に札幌支社(ママ)に転勤となる。同支社(ママ)に移ってからは,平成3年に課長代理6級社員,平成6年に課長代理7級社員と順調に昇進している。その間,平成4年1月には,産能大学通信講座,革新管理者基本コースを優秀賞にて修了,同年10月には,産能大学通信講座,業務改善基本コースを同じく優秀賞にて修了するなどしている。

エ 被告は,平成8年4月には,原告をリストラしようとしていたのであり,原告は,これを断固拒否していたのであるから,平成8年4月以降の評価は,被告によって,報復的に不当に評価されていたにすぎない。

なお,平成8年4月に,被告より紹介されたK社は,白老郡という郡部にあり,札幌からの通勤は不可能であり,原告としては到底応じられるものではなかった。

また,原告が仁丹栄光薬品に出向していた時については,仁丹栄光薬品自体の業績が著しく悪かったので,ほとんどの社員がC評価をされていたものである。さらに,平成12年4月にD評価がなされているが,これは,春の評価である。この評価を受けた際,原告は第1次考課者であった山本雅章専務に評価につき問いただしたところ,「自分はB評価をつけた。総務部で調整して2ランク下げたのだろう」と答えられている。

(3)(ママ) 以上より,本件解雇は,解雇に至る経緯からも明らかなように,実質はリストラ解雇であり,正当な理由に基づかないものであって,解雇権の濫用に該当する。

5  主たる争点

本件解雇に対する解雇権濫用の成否(就業規則52条2号「技能発達の見込みがないと認めたとき」の該当性の有無)

第3判断

1  証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被告の考課制度

ア 被告の従業員に対する考課は,年3回あり,4月の昇給は過去1年間の能力評価,夏・冬の賞与は,各半年間の成績(実績)評価となっている。このような考課制度は,被告では,昭和57年ぐらいから行なわれてきた。

4月昇給の評価ランクは,S(標準を大幅に上回っている),A(標準を上回っている),B(標準,普通),C(標準を下回っている),D(標準を大幅に下回っている)の5段階評価である。

イ また,賞与については,夏は,前年度の下半期(前年の10月から当年3月),冬は,当年度の上半期(当年の4月から9月)の各期間を,下記の基準で判断し査定されてきた。

(ア) 平成7年度までの評価ランク

S(標準を大幅に上回っており,上位等級者としてもAがつく出来ばえで,仕事に工夫,改善,変革が加えられている)

A1(標準を上回っており,申し分なく完全に近い出来ばえ)

A2(標準をやや上回っており,すぐれた出来ばえ)

B1(標準であり,普通の出来ばえ)

B2(標準であるが,軽いミスや問題が若干ある。しかし,仕事にそれほど大きな支障はない)

C(標準を下回っており,ミスや問題が多く,仕事に幾分支障がでているが,他に迷惑がかかる程度ではない)

D(標準を大幅に下回っており,ミスや問題が非常に多く,仕事に支障をきたし,他に迷惑を及ぼしている)であった。

(イ) 平成8年度以降の評価ランク

S(標準を大幅に上回っており,上位等級者としてもAがつく出来ばえで,仕事に工夫,改善,変革が加えられている)

A(標準を上回っており,当該等級者の仕事としては申し分なく完全に近い出来ばえ)

B(標準であり,普通の出来ばえ)

C(標準を下回っており,ミスや問題が多く,仕事に幾分支障がでているが,他に迷惑がかかる程度ではない)

D(標準を大幅に下回っており,ミスや問題が非常に多く,仕事に支障をきたし,他に迷惑を及ぼしている)

(2)  原告に対する被告入社時からの評価等

ア 原告の入社時(昭和44年)のテストについては,比較的上位であり,昭和50年の主任(5級職)昇格時点頃までは平均実績を残していた。そして,平成3年4月には,札幌支店業務課課長代理として6級に昇進し,平成6年12月には,7級に昇進している。昭和57年から平成8年までの間の原告に対する1次評価は概ねBであった。

またこの間,原告は,昭和58年10月には,14年勤続表彰を受け,昭和59年には,日本商工会議所小売商検定で販売士3級の資格を,翌年10月には,同2級の資格を取得した。この販売士2級の資格に合格したのは,当時の名古屋支社(ママ)内10人中2人程度であった。また,平成4年1月には,産能大学通信講座革新管理者基本コースを優秀賞にて修了し,同年10月には,産能大学通信講座業務改善基本コースを優秀賞で修了した。

被告は,原告は,昭和50年以降,業務に管理職的能力が必要となるに従い,業務実績が低下し,昭和58年には最下点といえるC点という評価がなされ,昭和61年,同62年,平成元年と続くようになった,名古屋支店勤務時販売職として販売実績が上がらなかったため4か月間業務職となった,東京支店でも販売職は無理ということで札幌支店へ転勤させ業務課課長代理としたと主張するが,この間の原告の評価点については,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,また販売職から業務職への変更についても,その後昇進していることからすれば,職種への適性を超えて,被告の従業員としての適性に疑問を抱かせるようなものであったとまではいえない。

イ 平成7年2月当時,原告は,札幌支店業務課長代理として,支店長から同支店の金庫の管理を委ねられていた。同年2月28日夜から同年3月1日未明にかけて,同支店に泥棒が侵入し,金庫から21万円余りが盗まれた。そして同現場には,原告が保持していた金庫の暗証番号を書いた紙が残っていた。原告は,この盗難事件に関し,原告は保管義務の落度を問われ,顛末書を作成し,提出した。

そして,平成8年4月の原告の昇給に対する評価は,すべての評価点がCとなった。同年4月,原告は,被告における人員整理の対象となり,被告より退職勧奨を受けたが,原告が拒否したため,最終的に仁丹栄光薬品へ販売主事として出向した。

ウ 原告は,平成8年4月から平成11年3月まで,仁丹栄光薬品で営業の仕事に従事した。仁丹栄光薬品の札幌支店の駐在は原告1名だけの配属であった。当初新規開拓の市場ということもあり,当初原告は,6か月間は予算(ノルマ)をもたずに営業活動を行い,その後も未開拓地域ということが考慮され,通常(12~13%)より少ない予算(8%)とし,大阪から同社の代表取締役専務であった山本雅章(以下「山本」という。)等が毎月のように北海道へ行き,原告に同行し営業活動を行なっていた。

このため,得意先も当初の1か所から原告が駐在していた3年間で40ないし50件となったものの,大阪の本社と比較すれば,業績は余り伸ず(ママ),与えられた予算も達成できなかった。山本は,原告の営業について,御用聞きのように品切れ品だけの注文をとってくるだけで,相手方のトップと商談ができず,従来の得意先を維持する分には支障はないかもしれないが,新規開拓には向いていないとして,もう1名の成績不振者とともに,被告の本社へなるだけ早く勤務変更をさせたいとして配転願いを出した。

この間(平成8年冬の賞与から平成11年夏まで)の原告の評価は,平成8年冬の賞与評価のBを除きすべてCであった。

ただし,仁丹栄光薬品の業績自体は芳しくはなく,原告の後を継いだ仙台支店の元支店長である藤野某も予算を達成することはできず,また平成10年冬季の賞与評価は,大阪本社の営業部員でもC評価であった。

エ 原告は,平成11年4月から,本社(大阪)物流部主事となった。ここで原告は,返品された商品の中から比較的汚損度の低いものを選び,正規品に手直しして出荷するという返品商品の検収作業に従事した。

ここでの,原告に対する評価も,Cであった。

オ その後,原告は,仁丹栄光薬品(大阪本社)の西川業務課長の異動に伴い,同年10月から,同社の業務職となった。これは,原告が,仁丹栄光薬品の札幌営業所で営業職を担当し,被告内で,仁丹栄光薬品の商品知識,得意先等を知っていた人間であったため行なわれた異動であった。この時期,同社の富山営業所が閉鎖されたことから,業務量が減り,業務課への配置も2名から1名になった。

この原告の異動について,原告は一旦拒否しようとしたが,被告の磯野監査役から,「拒否するなら一般社員ならともかく,管理職である以上,退職するしかないだろう」と言われたため,原告は異動を承諾した。

原告は,通常より長い1か月の引継期間を経て,業務課で,会計処理を含む商品の仕入れ,買掛金の支払等の業務に従事した。

なお,仁丹栄光薬品は,業績悪化により販売部門を被告に移管することになり,これに伴い原告は,平成12年4月より,被告本社マーケット開発部の所属となった。

原告が,仁丹栄光薬品で業務課の業務に従事するようになった以降,経理部の加藤宏明(以下,「加藤」という。)や末吉鉄治(以下「末吉」という。)あるいは総務部の田畑栄市(以下,「田畑」という。)にコンピューターの入力方法,買掛けの訂正の仕方と支払いの仕方など勘定科目の使い方に関する質問やミスの修正依頼を度々するようになった。このため,原告が適切に処理しているか不審に思った加藤が,平成12年1月ころから,月次資料に目を通すようにしたところ,ミスが見つかったことから,3月期の決算までには修正するように原告に注意したが,原告はこれを放置し,また別の新たなミスを生じさせていった。

平成12年5月に,仁丹栄光薬品の業務形態が変ることになり,正確な数字を把握する必要が生じたが,加藤は,原告に聞いても正確な数字は,把握できないと判断し,上司の許可をえて,2か月かけて,資料を精査し,別紙の被告主張の原告の発生させたY018K(株),Y181K純薬(株)の仕入二重計上等の89件ものミスを修正した。

この原告のミスにより決算書が間違って作成されてしまっていた。そして,原告は,平成12年8月31日,平成12年1月の入力ミスにより決算書が誤って作成されたことについて,始末書を提出した。

また,原告に伝票処理を任せられないことから,原告の伝票処理業務の一部を経理部の方で行なうことになった。

ここでの原告に対する評価は平成12年度のDを除き,すべてC評価であった。

この点,原告は,引継を受けた業務の中で,磯野監査役から,現金・銀行預金勘定の入出金データーだけは確実にチェックするように,そのほかは同人がチェックすると述べたとと(ママ)主張するが,同人はこれを否定し,また監査役という同人の職務からこのような発言をするとは思われないことなどからすれば,原告の前記主張は,採用しえない。また原告は,被告が指摘するミスの中には,原告が修正を依頼した者が行なったと思われるものがあると主張するが,(証拠略)に照らし,たやすく信用しえない。さらに,原告は,平成12年度の昇給のD評価について,原告が山本に問い合わせたところ,自分はBをつけたと答えたと主張するが,山本はこれを否定し,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  以上の認定をもとに判断する。

前記認定のとおり,平成8年度以降の原告の成績は,芳しくなく,主にC評価がつけられてきた。そして,このCという,標準より劣るという評価も,札幌支店での盗難事件や,栄光仁丹(ママ)薬品での販売職としての業績不振,また,同社業務課での大量の伝票処理ミスとそれによる誤った決算書の作成という結果などに鑑みれば,不当な評価であったとまではいえない。

しかしながら,<1>原告は,リストラの対象とされた平成8年以前には,概ねB,標準という評価を受けていたこと,<2>平成8年4月以降平成11年3月までの栄光仁丹(ママ)薬品での営業職としての勤務については,原告の後任の者でも予算を達成できなかったことや同社の営業自体が不振であったことなどをも考慮すれば,原告の成績不振を一概に非難はできないこと,<3>平成11年10月以降の仁丹栄光薬品での業務課での業務は,かつての札幌支店での業務では女性の部下がいたことと異なり,コンピューターを使っての大量の伝票処理を1人でやるというものであり,原告にとって慣れない業務であったことが容易に推認できること,<4>被告では,本社物流課での業務のように,原告がミスなく業務を行なうことができる職種もあること,<5>被告の就業規則では,人事考課の著しく悪い者等については,降格ということも定められていることなどに鑑みれば,未だ原告について,被告の従業員としての適格性がなく,解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえない。

また,被告は,原告の札幌支店での盗難事件や仁丹栄光薬品での経理ミスが,「業務上やむをえないとき」という解雇理由に該当するとするが,前者はすでに約6年ほど以前の事柄であるうえ,それぞれ,顛末書,始末書等の作成を命ぜられていることや,さらには,いずれの事由も通常考えられる「業務上やむをえないとき」の文理に合致するものではないことからすれば,これらが前記解雇事由に該当するという被告の主張は採用しえない。

よって,本件解雇は,被告の解雇権濫用であって,無効であるから,原告の本件地位確認等の請求は理由がある。

3  よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 川畑公美)

原告の職歴等

昭和44年4月 被告に入社

札幌支店販売部門 販売職

昭和49年8月 大阪支店 販売職

昭和50年1月 主任(5級職)となる。

昭和52年8月 名古屋支店 販売職

後半4か月 業務職

昭和61年12月 東京支店 販売主任

昭和62年4月 札幌支店 業務職

平成3年4月 札幌支店 業務課課長代理,6級に昇進

平成6年12月 7級昇進

平成8年4月 仁丹栄光薬品へ出向 販売職

平成11年4月 被告本社物流部主事

同年10月 仁丹栄光薬品本社 業務職

平成12年4月 被告本社マーケット開発部

甲野太郎氏の評価

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例