大阪地方裁判所 平成13年(ワ)2660号 判決 2001年12月26日
原告
田原克宣
ほか三名
被告
陰山仁
ほか一名
主文
一 被告らは、原告田原克宣に対し、連帯して二九一六万六九七九円及びこれに対する平成一一年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告熊澤靖子に対し、連帯して九一〇万九〇二九円及びこれに対する平成一一年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告加藤陽子に対し、連帯して九一〇万九〇二九円及びこれに対する平成一一年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告石倉久子に対し、連帯して九一〇万九〇二九円及びこれに対する平成一一年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
七 この判決は、第一ないし第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
(一) 被告らは、原告田原克宣に対し、四八九五万六三三二円及びこれに対する平成一一年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告熊澤靖子、同加藤陽子、同石倉久子に対し、それぞれ一六一〇万三三九二円及びこれに対する平成一一年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(三) 仮執行宣言
二 被告ら
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(三) 仮執行免脱宣言
第二事案の概要
一 本件は、交通事故により死亡した被害者の相続人らが、加害車両の運転者及び所有者である被告らに対し、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、逸失利益、慰謝料等の損害賠償請求及び遅延損害金の請求をしている事案である。
二 争いのない事実等
(一) 本件事故の発生
ア 日時 平成一一年八月二〇日午後一一時五〇分ころ
イ 場所 兵庫県飾磨郡夢前町玉田所属山陽自動車道下り線御立トンネルを過ぎた五七・一キロポスト先道路
ウ 加害車両 被告陰山仁(以下「被告陰山」という。)運転・被告馬場隆(以下「被告馬場」という。)所有の普通乗用自動車
エ 被害者 加害車両に同乗中の田原弘子(当時六二歳。以下「亡弘子」という。)
オ 態様 被告陰山が、御立トンネル内を大阪方面から岡山方面に向かい時速約一〇〇キロメートル以上で加害車両を進行させていたところ、同トンネルを出た際、大雨に狼狽し、不用意に急制動をかけたために、加害車両が横滑りして左右の側壁に順次衝突した上、後続の大型貨物自動車左側面に衝突し、これらの衝突により、亡弘子は両側広範囲肺挫傷等の傷害を負い、呼吸不全のため死亡した。
(二) 責任原因
被告陰山は、降雨のために道路路面が濡れて滑りやすい状況下では、適宜速度を調整してハンドル、ブレーキを的確に操作して、自車を滑走させることのないよう進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。
被告馬場は、加害車両を所有して自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。
(三) 相続関係
原告田原克宣(以下「原告克宣」という。)は亡弘子の夫、原告熊沢靖子(以下「原告靖子」という。)、原告加藤陽子(以下「原告陽子」という。)、原告石倉久子(以下「原告久子」という。)はいずれも亡弘子の子である(甲一)。
三 原告らの主張
(一) 亡弘子の損害
ア 逸失利益 四七四二万〇三五三円
(ア) 就労対価分(三八二五万四九八四円)
a 基礎収入
亡弘子は、主婦業の他、地域社会とのかかわりやボランティア活動等に従事していたものであり、学歴(短大卒)と年齢に応じた労働能力と労働意思をもっていたといえるから、就労対価分の逸失利益算定の基礎収入は、平成一〇年度賃金センサスの産業計・企業規模計・短大卒六〇歳ないし六四歳女子の平均給与額である五一六万七七〇〇円とすべきである。
b 就労可能年数
平均余命(二四・五九年)の二分の一である一二年間
c 生活費控除割合 三〇%
d 中間利息控除
中間利息控除の利率については、現在の長期にわたる低金利状態からすれば、二%とすべきである。
就労可能年数一二年の二%ライプニッツ係数は一〇・五七五三である。
五、一六七、七〇〇円×(一-〇・三)×一〇・五七五三=三八、二五四、九八四円
(イ) 国民年金分(九一六万五三六九円)
亡弘子は、本件事故から三年後の六五歳から平均余命(二四年)まで、年額八一万六八〇〇円の国民年金を受給することができた(二四年の二%ライプニッツ係数は一八・九一三九、三年の同係数は二・八八三八である。)。
八一六、八〇〇円×(一-〇・三)×(一八・九一三九-二・八八三八)=九、一六五、三六九円
イ 慰謝料 二七〇〇万円
亡弘子が家族や家事の中心的存在であったこと、本件事故における被告陰山の過失は重大であること及び本件事故後、被告らから原告らに対する謝罪がない上に、被告らが相当な権利主張の範囲を超える減額主張をしていたこと(亡弘子の好意同乗による減額を主張していたこと)からすれば、亡弘子死亡による慰謝料は二七〇〇万円が相当である。
(ア、イ合計七四四二万〇三五三円)
ウ 相続による損害賠償請求権の取得
原告らは、亡弘子の損害賠償請求権を、それぞれ相続分に従い相続した。
原告田原(二分の一) 三七二一万〇一七六円
原告靖子、同陽子、同久子(各六分の一) 各一二四〇万三三九二円
(二) 原告克宣の損害 六七四万六一五六円
ア 治療費 三七万六六二二円
イ 遺体運搬費 六万三二七〇円
ウ 葬儀費 二八四万六二六四円
エ 仏壇費 四六万円
オ 慰謝料 三〇〇万円
(三) 原告靖子、原告陽子及び原告久子の各損害
慰謝料 各二〇〇万円
(四) 弁護士費用
原告克宣 五〇〇万円
原告靖子、原告陽子及び原告久子 各一七〇万円
四 被告らの主張
(一) 逸失利益について
ア 亡弘子の主婦としての逸失利益の基礎収入額は、女子労働者の学歴計、六〇歳ないし六四歳の平均賃金によるべきであり、生活費控除率は四〇%とすべきである。国民年金分の逸失利益については、生活費控除率は五〇%以上とすべきである。
イ 中間利息控除の利率については、長期的に見れば金利の回復上昇は十分にあり得ること及び遅延損害金を五%としている法制とのバランスから、五%とすべきである。
(二) 慰謝料額について
ア 原告ら請求の慰謝料総額は高額に過ぎる。
イ 被告側の契約保険会社から、原告側に対し、平成一三年一〇月一五日、搭乗者傷害保険金一〇〇〇万円が支払われているから、これを慰謝料減額事由として考慮すべきである。
(三) 好意同乗減額等
亡弘子と被告陰山は、叔母、甥の関係にあり、亡弘子は加害車両に好意同乗していたものであるから、相当割合の好意同乗減額がなされるべきである。
また、亡弘子が、後部座席で座席を倒して寝るような姿勢で乗車していたことも、減額事由として考慮されるべきである。
五 争点
損害額
第三裁判所の判断
一 被告らが賠償すべき損害額は次のとおりである。
(一) 亡弘子分
ア 逸失利益
(ア) 就労対価分 二一四二万六三四二円
争いのない事実及び証拠(甲一七、二六ないし二九、四一ないし四三<枝番号を含む>)によれば、亡弘子は、本件事故当時六二歳の主婦であり、娘である原告靖子、同陽子及び同久子がいずれも結婚独立していたことから、夫である原告克宣と二人暮らしであったこと及び原告克宣は、かつて会社員であったが平成一〇年八月に退職し、厚生年金等を年額四七一万六二〇二円受給していることが認められ、これらの事実によれば、亡弘子の就労対価分の逸失利益算定にあたっては、基礎収入を平成一一年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女子全年齢平均賃金である三四五万三五〇〇円、生活費控除率を三〇%、就労可能年数を一二年(平均余命の二分の一)とするのが相当である。
また、将来の運用利益を正確に判断することは困難である一方で、民法上の法定利率は年五分(民法四〇四条)とされていることからすれば、賠償されるべき損害を算定するに当たっての中間利息控除の利率は、年五%とするのが相当である(一二年に対応するライプニッツ係数八・八六三二)。
三、四五三、五〇〇円×(一-〇・三)×八・八六三二=二一、四二六、三四二
(イ) 国民年金分 五四二万七八三二円
証拠(甲二五)によれば、亡弘子は、六五歳まで保険料を支払えば、六五歳から年額八一万六八〇〇円の国民年金(老齢年金)を受給できたことが認められるところ、本件事故までに亡弘子の保険料が滞納していたとか、本件事故後同保険料の支払が困難であったなどという事情も見当たらないから、亡弘子が受給できたはずの国民年金も逸失利益と認められる。
そして、国民年金(老齢年金)は、その性質上、生活費に費消されることが予定されているものであること及び前記のとおり、亡弘子の夫である原告克宣に収入があることを総合考慮し、生活費控除率は四〇%と見るのが相当である。
また、受給可能期間は、平均余命(二四年)に照らし、八六歳までとし、中間利息控除は前記のとおり五%ライプニッツ係数によるものとする(事故時から受給開始の六五歳までの三年のライプニッツ係数は二・七二三二、事故時から八六歳までの二四年のそれは一三・七九八六)。
八一六、八〇〇円×(一-〇・四)×(一三・七九八六-二・七二三二)=五、四二七、八三二円
イ 慰謝料 二三〇〇万円
亡弘子の年齢、家族構成、本件事故の態様、死亡に至るまでの経緯、原告ら遺族の被害感情、被告ら側で加入していた保険(契約者は被告馬場であり、同人は、被告陰山の妻の父である<乙六>。)により搭乗者傷害保険金一〇〇〇万円が原告ら側に支払われたこと(乙七)等、本件訴訟にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件事故による亡弘子死亡についての慰謝料(原告ら固有の慰謝料も合わせて算定することとする。)は、二三〇〇万円と認めるのが相当である。
(ア、イ合計四九八五万四一七四円)
ウ 好意同乗減額等の主張(被告ら)について
証拠(甲一七、乙一、六)によれば、亡弘子と被告陰山は、叔母、甥の関係にあり、亡弘子は被告陰山の家族と共に旅行に行くために加害車両に同乗していたことが認められるが、亡弘子が加害車両の危険な走行に関与していたとか、事故発生の危険が極めて高いことを容認して同乗したような事情は見当たらない。また、仮に亡弘子が座席を倒して寝るような姿勢で乗車していたとしても、それが本件事故による亡弘子の被害発生ないし拡大にどのような影響を及ぼしたものか判然としないし、本件事故発生時にそのような姿勢で乗車していたと認めるに足りる証拠もない。
したがって、被告らの好意同乗減額等の主張は認められない。
(二) 原告克宣の損害
ア 治療費 三七万六六二二円
証拠(甲三四の一・二)によれば、本件事故による亡弘子の治療費として、原告克宣が三七万六六二二円を支払ったことが認められ、これは賠償されるべき損害と認められる。
イ 遺体運搬費 六万三二七〇円
証拠(甲三五)によれば、亡弘子の遺体運搬費として、原告克宣が六万三二七〇円を支払ったことが認められ、これは賠償されるべき損害と認められる。
ウ 葬儀費関係費用 一二〇万円
証拠(甲三六ないし四〇<枝番号を含む>)によれば、原告克宣が、亡弘子の葬儀関係費用として三三〇万六二六四円を支払ったことが認められるが、このうち賠償されるべき損害としての葬儀関係費用は一二〇万円と認めるのが相当である。
エ 原告克宣の慰謝料
前記(一)イにおいて合わせて認定したものである。
オ 亡弘子の損害賠償請求権の相続(相続分二分の一)
二四九二万七〇八七円
カ 弁護士費用
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、賠償されるべき損害としての弁護士費用は、二六〇万円が相当と認められる。
(アないしカ合計二九一六万六九七九円)
(三) 原告靖子、原告陽子及び原告久子の各損害
ア 慰謝料
前記(一)イにおいて合わせて認定したものである。
イ 亡弘子の損害賠償請求権の相続(相続分各六分の一)
各八三〇万九〇二九円
ウ 弁護士費用
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、賠償されるべき損害としての弁護士費用は、原告靖子、原告陽子及び原告久子についてそれぞれ八〇万円が相当と認められる。
(アないしウ合計各九一〇万九〇二九円)
二 以上によれば、原告らの請求は、被告らに対し連帯して、原告克宣が二九一六万六九七九円、原告靖子、原告陽子及び原告久子がそれぞれ九一〇万九〇二九円及びこれらに対する平成一一年八月二〇日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。なお、仮執行免脱宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
(裁判官 冨上智子)