大阪地方裁判所 平成13年(ワ)338号 判決 2001年9月21日
原告
鍛治谷明美
被告
廣野隆行
主文
一 被告は、原告に対し、六二四万三三一二円及び内五六四万三三一二円に対する平成一一年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一三五〇万円及び内一二七〇万円に対する平成一一年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、交通事故(普通貨物自動車に普通乗用自動車が正面衝突した事故)により負傷し、胎児が死亡した原告が、加害車両の所有者かつ運転者である被告に対し、自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条に基づき、休業損害、慰謝料等の損害賠償請求及び事故の日から支払済みまでの遅延損害金(弁護士費用を除く損害額に対する遅延損害金)の請求をしている事案である。
二 争いのない事実等
(一) 本件事故の発生
ア 日時 平成一一年七月八日午前八時三〇分ころ
イ 場所 滋賀県愛知郡愛知川町市七一五番地先路上
ウ 事故車両 <1> 被告所有・運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)
<2> 原告運転の普通貨物自動車(以下「原告車」という。)
エ 態様 被告車が対向車線に進出し、対向車線を進行していた原告車に正面衝突した。
(二) 原告の受傷(甲三の一、甲四)
原告は、本件事故により、右足関節捻挫、頸部挫傷の傷害を負ったほか、胎児を死産した(「妊娠一八週初産婦交通事故後子宮内胎児死亡」と診断された。)。
原告は、平成一一年七月八日から同月一九日まで友仁山崎病院に入院し、同月二〇日から平成一二年四月三〇日まで同病院に通院した(実通院日数六三日)。
(三) 被告の責任原因
被告は、被告車を所有して運行の用に供していた者であり、かつ同車を運転していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
三 原告の主張(損害額)
(一)ア 入院雑費 一万五六〇〇円
一、三〇〇円×一二日
イ 装具代 八四〇〇円
ウ 休業損害 一五九万一六〇六円
原告は、夫及びその両親らと同居し、主婦業の傍ら、愛知川町社会福祉協議会に訪問介護員として勤務していたが、事故後は休職した。原告の傷害は、平成一二年四月三〇日に症状固定したものであるが、右足首の疼痛が持続している。
原告は、平成一二年二月一四日から就労復帰したが、事故から就労復帰までの七か月間につき、当初四か月間は全く主婦業を行えず、その後三か月間についても家事労働の五〇%は制限された。原告は、本件事故当時二五歳であり、平成一〇年賃金センサスによる平均年収は三四七万二六〇〇円であり、本件事故による原告の休業損害は、次のとおり、一五九万一六〇六円となる。
289,383円×4か月+289,383円×3か月×0.5
エ 傷害慰謝料 一一〇万円
入院一二日、実通院日数六三日を要する傷害につき、上記金額が慰謝料として相当である。
オ 胎児死亡についての慰謝料 一〇〇〇万円
原告は、本件事故当時、妊娠一八週であり(出産予定日平成一二年一二月四日)、初産を心待ちにしていた。被告の一方的過失に基づく本件事故により、胎児が死亡し、原告の悲しみは筆舌に尽くし難い。
カ 弁護士費用 八〇万円
(二) 原告は、アないしオの合計額一二七一万五六〇六円のうち一二七〇万円と弁護士費用八〇万円の合計一三五〇万円及びうち弁護士費用を除く一二七〇万円に対する本件事故日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 被告の主張
(一) 休業損害について
原告の同居家族には、原告の夫の母、原告の夫の祖母及び原告の夫の妹がおり、原告が主婦業に従事していたとは考えられない。
また、原告の傷害については、平成一二年二月一〇日には症状固定に至っていたから、原告主張の休業期間は相当でない。
(二) 傷害慰謝料について
原告の傷害については、平成一二年二月一〇日には症状固定に至っていたから、原告主張の症状固定日までの治療を前提とする傷害慰謝料額は相当でない。
(三) 胎児死亡についての慰謝料について
原告主張の慰謝料額は高額に過ぎる。
五 争点
損害額(主に、胎児死亡慰謝料、休業損害)
第三争点に対する判断
一 本件事故により原告が被った損害の額は、次のとおりと認められる。
(一) 入院雑費 一万五六〇〇円
原告が、本件事故により一二日間入院したことに争いはなく、入院雑費は一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当である。
1,300円×12日=15,600円
(二) 装具代 八四〇〇円(甲五の一、二)
(三) 休業損害 一一一万九三一二円
ア 争いのない事実及び証拠(甲六ないし九、乙二、三、六、七、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、本件事故により右足関節捻挫、頸部挫傷の傷害を負い、平成一一年七月八日から同月一九日まで友仁山崎病院に入院し、同月二〇日から平成一二年四月三〇日まで同病院に通院した(実通院日数六三日)。
原告の受傷は、平成一二年二月一〇日ころには症状固定し(乙第二号証及び同第三号証によれば、平成一二年二月一〇日ころには、友仁会山崎病院の医師は、原告の症状につき、自覚症状に著変はなく、他覚所見もないことから、症状固定に至っていると判断していることが認められる。)、原告には、右足首の疼痛の症状が残存している。
(イ) 原告は、平成一一年三月に結婚し、本件事故当時、夫の実家で、夫、夫の両親、夫の祖母及び夫の妹と同居していた。夫は会社員であり、夫の両親は、農業(水田耕作、菊の栽培)に従事し、夫の祖母は寝たきりであり、美の妹は会社員であった。原告は、滋賀県愛知郡愛知川町の社会福祉法人愛知川町社会福祉協議会に在籍し、訪問介護員として就労し、月額約一七万円の収入を得ていた。原告の勤務時間は、月曜から金曜まで、毎日午前八時一五分から午後五時一五分までであった。
(ウ) 原告の家では、原告と原告の夫の母が家事を分担し、原告は、主に、夕食の買い物とその調理、洗濯と掃除(土日にまとめてすることが多かった。)を担当し、寝たきりの祖母の世話は夫の母が行っていた。夫の妹は、家事は担当していなかった。
(エ) 原告は、本件事故の受傷により、平成一一年八月七日までは実家で療養し、その後夫の家に戻ってからは、同年一〇月末ころまでは家事を行えず、その間の家事は、すべて夫の母と夫の妹が行っていた。その後平成一二年二月ころまでは、原告も少しずつ家事に従事できるようになったが、家事の大半は夫の母や夫の妹が行っていた。
また、この間、原告は、訪問介護員としての就労もできなかったが、訪問介護員の給与は支給されていた。なお、原告は、平成一二年一〇月末日をもって、前記社会福祉協議会を退職した。
イ 以上の事実によれば、原告は、本件事故の受傷により、事故日(平成一一年七月八日)から症状固定した平成一二年二月一〇日までの間(二一八日間)、家事労働を休業したことによる損害が生じていると認められる。
そして、原告の家事労働の休業損害を算定するに当たっては、原告が、前記認定のとおり、終日家事のすべてを担当していたものではないことや訪問介護員としての勤務状況やその収入等を考慮し、平成一一年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女子全年齢平均年収(三四五万三五〇〇円)の七〇%をもって基礎収入と認めるのが相当である。また、前記認定に照らせば、休業期間のうち当初の四か月間(一二〇日間)は一〇〇%の休業、その後の期間(九八日間)は五〇%の休業とみるのが相当である。
以上より、本件事故の受傷による原告の休業損害は、一一一万九三一二円となる。
3,453,500円÷365日×0.7×(120日+98日×0.5)=1,119,312円
(四) 入通院慰謝料 一〇〇万円
本件における原告の入通院慰謝料は、入通院日数等に照らし、一〇〇万円と認めるのが相当である。
(五) 胎児死亡についての慰謝料 三五〇万円
ア 争いのない事実及び証拠(甲八、乙六、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告(昭和四八年生)は、本件事故により、妊娠一八週(出産予定日平成一二年一二月四日)の胎児を死産した(「妊娠一八週初産婦交通事故後子宮内胎児死亡」と診断されている。)。
本件事故時、原告はシートベルトを着用しており、事故の衝撃によりシートベルトが原告の腹部に食い込む状態となっていた。
(イ) 原告は、初産婦であり、平成一一年四月に妊娠六週で出血があったため安静目的で入院したことがあったが、入院により出血はなくなっていた。
(ウ) 原告とその夫は、本件事故後、再び原告が妊娠することを待ち望んでおり、原告は、平成一三年二月から、月に四・五回、産婦人科に通院して排卵誘発剤等のホルモン投与を受けているが、未だ妊娠するには至っていない。
イ 以上の事実及び本件事故の態様等に照らし、胎児死亡による原告の精神的苦痛の慰謝料は三五〇万円と認めるのが相当である。
(六) 弁護士費用 六〇万円
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、賠償されるべき損害としての弁護士費用は、六〇万円が相当と認められる。
二 以上によれば、原告の請求は、六二四万三三一二円及び内五六四万三三一二円に対する平成一一年七月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 冨上智子)