大阪地方裁判所 平成13年(ワ)7604号 判決 2003年4月18日
原告
X1
ほか二名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、二億五四七八万二五六六円及びこれに対する平成一一年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、二七五万円及びこれに対する平成一一年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、二七五万円及びこれに対する平成一一年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告X1に対し二億六八九八万四〇九〇円、原告X2に対し三三〇万円、原告X3に対し三三〇万円及びこれらに対する平成一一年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、交通事故(普通貨物自動車と自転車との衝突事故)により負傷した者とその両親である原告らが、加害車両の所有者かつ運転者である被告に対し、自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条に基づき、後遺障害逸失利益、付添介護費用等の損害賠償請求及び遅延損害金の請求をしている事案である。
二 争いのない事実等
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一一年一月二六日午前六時三〇分ころ
イ 場所 滋賀県野洲郡野洲町三上二八三―一地先交差点
ウ 加害車両 被告保有・運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)
エ 被害車両 原告X1(昭和○年○月○日生まれ、当時一七歳。)運転の自転車(以下「原告車」という。)
オ 態様 信号機により交通整理の行われている上記交差点において、被告が、対面赤信号であるにもかかわらず、被告車を同交差点内に進入させたため、その左方道路から対面青信号に従い同交差点に進入してきた原告車と衝突した。
(2) 原告X1の受傷及び治療状況
原告X1は、本件事故により、びまん性脳損傷、外傷性くも膜下出血、右鎖骨骨折等の傷害を負い、次のとおり、入通院治療を受けた。
ア 入院
(ア) 済生会滋賀県病院
平成一一年一月二六日から同年一一月一九日まで(二九八日間)
(イ) ヴォーリズ記念病院
平成一一年一一月一九日から平成一二年一月一二日まで(五五日間)
平成一二年二月一七日から同年三月二九日まで(四二日間)
同年四月一三日から同月一五日まで(三日間)
同年五月二六日から同月二九日まで(四日間)
同年六月一三日から同年八月五日まで(五四日間)
同年八月二四日から同年一一月一〇日まで(七九日間)
イ 通院(往診等)
平成一二年一月一三日から同年一二月一日までの間、次のとおり通院治療(往診等)を受けた。
(ア) 山地内科 実日数一一日
(イ) びわこ学園 実日数 五日
(ウ) 済生会滋賀県病院 実日数 一日
(エ) ヴォーリズ記念病院 実日数 一日
(3) 後遺障害の認定
原告X1の上記傷害は、平成一二年一二月一日に症状固定し、頭部外傷後失外套症候群の症状が残存し、自賠責保険後遺障害認定手続において、後遺障害等級(自動車損害賠償保障法施行令別表)一級三号に該当すると認定された。
(4) 被告の責任原因
被告は、被告車の保有者であり、また、赤信号無視により本件事故を生じさせたのであるから、自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(5) 原告X2は原告X1の父であり、原告X3は原告X1の母である。
なお、平成一四年一二月一六日、大津家庭裁判所において、原告X1について後見を開始し、同人の成年後見人として原告X2を選任するとの審判がされた。
(6) 既払額(なお、支払名目、内払か否かについては争いがある。)
治療費 一四九六万五八八七円
通院治療費、訪問看護料、入浴料他諸雑費 二二〇万円
付添介護費 一七五万八一二一円
近親者交通費 三二四万二四一一円
原告X2の休業損害 六六万四四六三円
装具及び車椅子レンタル料 三二万六九〇八円
家屋改造費用 八九七万二一九〇円
(合計 三二一二万九九八〇円)
三 原告らの主張(損害額)
(1) 治療費等
ア 平成一二年一二月までの社会保険求償分 八二五万六九三一円(争いがない)
平成一三年二月二八日までの病院支払分 六七〇万八九五六円(争いがない)
イ 平成一三年三月一日以降の入院費 三三一万九七五九円
原告X1は、症状固定時(平成一二年一二月一日)において一八歳であり、平成一一年簡易生命表によれば、一八歳男子の平均余命は五九・六七歳である。
原告X1は、将来にわたり、三か月に一回の割合で、胃瘻チューブの交換等のため入院が必要である。入院費用(部屋代)は一日当たり六三〇〇円であり、平成一三年三月一日以降の将来の入院費は、次のとおり、三三一万九七五九円となる。
6,300円×7日×12÷3=176,400円(1年当たりの費用)
176,400円×18.8195(58年のライプニッツ係数)=3,319,759円
ウ 平成一二年一月一二日以降平成一三年六月三〇日までの通院治療費等 一八五万六七三三円
通院治療費、薬代、訪問看護料、ガーゼ・綿棒・アルコール等の雑費、ヘルパー派遣費用、入浴料、タクシー代等の合計額。
なお、原告らは、被告加入の保険会社から、内払金等の名目で使途は限定されずに、月一〇万円の割合で平成一三年七月一〇日まで合計二二〇万円の支払を受け、ここから上記費用を支出していた。
(2) 平成一三年七月一日以降の雑費等 一六七一万一七一六円
ア 医療用品代 四、五一六、六八〇円
原告X1は、アルコール、ガーゼ、蒸留水、おむつ等の医療用品代として一か月当たり少なくとも二万円を要し、平成一三年七月一日以降の将来の医療用品代は、次のとおり、四五一万六六八〇円となる。
20,000円×12×18.8195(58年のライプニッツ係数)=4,516,680円
イ 訪問入浴料等 一二、一九五、〇三六円
原告X1は、訪問入浴料として一か月当たり約五万二〇〇〇円、デイサービスの入浴料として一か月当たり約二〇〇〇円(合わせて一か月当たり五万四〇〇〇円)を要し、平成一三年七月一日以降の将来の入浴料は、次のとおり、一二一九万五〇三六円となる。
54,000円×12×18.8195=12,195,036円
(3) 将来の交通費 三一五万六七二〇円
前記のとおり、原告X1は、今後も三か月に一回の割合で一週間程度の入院が必要であり、原告X3が自宅と病院(ヴォーリズ記念病院)とを毎日タクシーで往復する必要がある。一日当たりのタクシー代を一〇〇〇〇円とし、原告X3が付添介護が可能と考えられる六七歳までの一七年分(ライプニッツ係数一一・二七四〇)を計算すると、三一五万六七二〇円となる。
10,000円×7×12÷3×11.2740=3,156,720円
(4) 医師への謝礼 二一万円
済生会滋賀県病院に入院した際に六万円、ヴォーリズ記念病院に入院した際に一五万円を、それぞれ医師等へ謝礼として支払った。
(5) 付添介護費用
入院期間中は、原告X3と同X2が協力して、連日深夜にわたり介護に当たった。自宅介護となってからも、原告X3と同X2が協力して、深夜も二時間おきに体位交換、おむつ交換を行い、時に五分から一〇分おきに行うこともある痰の吸引等の介護に当たっている。
ア 症状固定日(平成一二年一二月一日)まで 五四〇万八〇〇〇円
一日当たり八〇〇〇円とし、六七六日分。
8,000円×676日=5,408,000円
イ 症状固定日後将来分 八二六七万五五六六円
一日当たり一万二〇〇〇円とし、平均余命五九年分(ライプニッツ係数一八・八七五七)。
12,000円×365日×18.8757=82,675,566円
(6) 入院雑費 八〇万一〇〇〇円
1,500円×534日=801,000円
(7) 自動車購入費 一一五二万三七六六円
原告X1の病院への送迎等に必要な車椅子仕様のワゴン車を平成一二年一〇月二四日に三八九万六〇六〇円で購入した。
八年ごとに買い換えると、平均余命まで七回購入することになり、自動車購入費は、次のとおり、一一五二万三七六六円となる。
3,896,060円×(1+0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.0961+0.0650)=11,523,766円
(8) 逸失利益 一億〇二一七万八九五一円
基礎収入 平成一一年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者の平均年収五六二万三九〇〇円
労働可能期間 症状固定時(一八歳)から六七歳までの四九年間(ライプニッツ係数一八・一六八七)
5,623,900円×18.1687=102,178,951円
(9) 原告X1の慰謝料 三五〇〇万円
ア 入通院慰謝料 五、〇〇〇、〇〇〇円
イ 後遺障害慰謝料 三〇、〇〇〇、〇〇〇円
(10) 近親者慰謝料
原告X2 三〇〇万円
原告X3 三〇〇万円
(11) 弁護士費用
原告X1 一〇〇〇万円
原告X2 三〇万円
原告X3 三〇万円
(12) その他
ア 近親者ガソリン・タクシー代(平成一二年一月一一日以前分) 三二四万二四一一円
イ 原告X2の休業損害 六六万四四六三円
ウ 装具及び車椅子レンタル料 三二万六九〇八円
エ 家屋改造費用 八九七万二一九〇円
(13) 請求額
原告X1 二億六八九八万四〇九〇円
原告X2 三三〇万円
原告X3 三三〇万円
四 被告の主張
(1) 原告X1の余命について
原告X1は、いわゆる植物状態で、意思疎通はできず、四肢の自発運動はなく、気管切開による呼吸管理と胃瘻チューブによる栄養摂取が行われていることから、肺炎、感染症等に罹患する危険性が高いと考えられる。また、寝たきり者の生存余命については、平成四年の自動車事故対策センターのデータから作成された生命表によれば、参考値ではあるが、事故時の年齢が一〇歳代で事故後五年未満の場合、五年後の生存率は五〇・九%、一〇年後の生存率は二二・六%、平均余命は八年とされている。
このようなことからすれば、原告X1の余命は向後一〇年と判断すべきである。
(2) 将来の入院費について
胃瘻チューブの交換は極めて容易な作業であり、交換前の準備及び交換後の経過観察の日数を考慮しても、入院日数は四日で足り、また、交換の回数も四か月に一回で足りる。
(3) 介護のための交通費(タクシー代)について
介護のための通院は、公共交通機関によっても可能であり、病院への往復にタクシーを利用する必要性はない。また、付添介護のための通院費用は、付添介護費用の中に含まれているというべきである。
(4) 付添介護費用について
症状固定までの治療期間六七六日のうち入院日数五三四日については、完全看護体制の病院に入院していたのであるから、仮に近親者介護の必要性があったとしても、この間の付添介護費用は一日当たり四〇〇〇円程度とすべきである。
症状固定後の将来の付添介護費用については、原告X1が自動車事故対策センター、滋賀県湖南地域振興局及び草津社会保険事務所から公的給付の支給を受けていること並びに訪問入浴サービス等を利用しその料金を損害として請求していることを考慮した相当額に限られるべきである。
(5) 自動車購入費について
将来の自動車購入費の算定に当たり、その用途からみて年間走行距離が極めて少ないと予想されることから、耐用年数は一〇年と考えるべきである。また、自動車は、原告X1の送迎用に限定されず、他の家族も利用することができ、家族の便益にも資することから、少なくとも購入費の四割が控除されるべきである。あるいは、車椅子仕様車の価格と、同種車両の標準仕様車の価格との差額をもって損害とすべきである。
(6) 逸失利益について
逸失利益算定に当たり、前記(1)のとおり、原告X1の平均余命は一〇年程度とすべきであるほか、原告X1の状態からみて、生活費を要しないと考えられるから、一〇%の生活費控除を行うべきである。
(7) 家屋改造費用
原告ら主張の家屋改造費は、自宅敷地内に建物を増築する方法によるものであるが、既存建物の一階南西角和室を改造する方法によっても十分介護の目的が達成できる。その場合の見積価格は三七八万六六六七円であり、このうちカーポート(一八五、〇〇〇円)及びアコーディオンカーテン型門扉(一〇〇、〇〇〇円)は家族の便益にも資するから、その価格の五〇%は控除されるべきであり、相当な家屋改造費は三六四万四一六七円となる。
仮に、上記の方法が採用されないとしても、原告ら主張の家屋改造費のうち、「基礎工事」、「屋根工事」、「金属 樋工事」、「金属製建具」、「電気工事」及び「諸経費 確認申請料」の合計二三四万九五二五円は、既存建物の改造工事においては不要であるから控除されるべきであり、また、「解体工事」、「仮設工事」、「大工工事」、「木工事」、「左官工事」、「内装工事」及び「諸経費」の合計三八二万九四〇三円についても、少なくともその五〇%である一九一万四七〇一円は控除されるべきである。
個別の設備について言えば、<1>ウッドデッキ(二二七、五四一円)<2>トイレ設置(二六四、八八二円)<3>冷凍庫(五二、二九〇円)は必要性がないから、その費用は全額控除されるべきである。
五 争点
損害額
第三争点に対する判断
一 原告X1の症状、治療経過及び介護状況
争いのない事実及び証拠(甲三の八・一二、甲四ないし一九<枝番号を含む>、五五ないし五七、六四、六五、六七、乙一二ないし一五<枝番号を含む>、原告X3)によれば、原告X1の症状、治療経過及び介護状況に関し、次の事実が認められる。
(1) 原告X1は、平成一一年一月二六日午前六時三〇分ころ、本件事故により、びまん性脳損傷、外傷性くも膜下出血、右鎖骨骨折等の傷害を負い、済生会滋賀県病院に救急搬送された。初診時の意識レベルはJCS=Ⅲ―二〇〇、GCS=四で、除脳硬直が認められ、対光反射は両側とも消失で、全身けいれんも認められた。同日より同病院ICUにおいて、気管切開による挿管を受けたほか、保存的加療が行われたが、意識レベルに変化はなく、同年二月一〇日に一般病棟に転室となった。
その後、原告X1は、自発開眼があり、視覚刺激には反応するようになったが、言語命令には反応せず、遷延性意識障害、四肢麻痺が継続した。平成一一年三月三〇日には、下顎習慣性脱臼に対する固定術が行われた。栄養摂取は経鼻チューブによった。
(2) 平成一一年一一月一九日、同病院より紹介を受けて、ヴォーリズ記念病院に転院し、平成一二年一月一二日まで同病院に入院し、在宅介護へ向けての家族指導が行われた。
ヴォーリズ記念病院転院時の原告X1の状態は、意識レベルはJCS=Ⅲ―二〇〇~三〇〇、意思疎通は全くできず、寝たきり状態、除脳硬直があり、経管栄養・気管切開で栄養・呼吸の管理が行われ、排泄はおむつを使用していた。また、体温調節ができず、三七かいし三八度台の有熱状態が多いため、常にクーリングが必要であった。同病院入院中、ほぼ毎日、朝から夕方までは母親である原告X3が付き添い、夕方から午後一〇時ころまでは父親である原告X2が付き添っていた。予定される主な在宅介護者は原告X3、副介護者は原告X2とされ、特に原告X3は、在宅介護における清拭、口腔ケア、体位交換、気管切開の管理(消毒、ガーゼ交換、内筒洗浄)、経管栄養、吸引、排泄コントロール等がほぼ習得できていた。退院後は、山地内科を主治医として、定期的な訪問診療を受け、緊急時には同内科で対応してもらうこととなった。
(3) 平成一二年一月一三日から在宅介護が開始されたが、このころ、原告X1の除脳硬直が強くなり、硬直時の多量発汗も認められた。原告X1は、夜間、完全に入眠することがなく、時折覚醒しては硬直を生じており、原告X3及び同X2は、交代で夜間介護の際に、タッチングを行うなどして硬直に対処していた。
原告X1は、同年二月一七日から同年三月二九日までヴォーリズ記念病院に入院し、胃瘻造設(内視鏡的胃瘻造設術)を受けた。
(4) 平成一二年四月一三日から同月一五日まで、希望によりヴォーリズ記念病院に入院し、同年五月二六日から同月二九日まで、胃瘻チューブ交換のため同病院に入院した。
その後、在宅介護中、栄養剤注入後に嘔吐をするため、同年六月一三日から同年八月五日までヴォーリズ記念病院に入院した。
同月二四日から、胃瘻チューブ交換のため、同病院に入院したが、胃潰瘍が認められたため、その治療を受け、同年一一月一〇日に退院した。以後、同病院A医師が主治医になることとされた。
(5) 平成一二年一二月一日、A医師により症状固定と診断され、意識レベルはJCS=Ⅲ―一〇〇~二〇〇、植物状態で、意思疎通はできず、四肢麻痺、寝たきり状態で、全介助が必要であった。
上記後遺障害につき、自賠責保険後遺障害認定手続において、後遺障害等級一級三号に該当すると認定された。
(6) 平成一三年二月一八日から同月二四日まで、同年五月二八日から同年六月二日まで及び同年九月三日から同月九日まで、それぞれ胃瘻チューブ交換のため、ヴォーリズ記念病院に入院した。これら入院時において特に異常は認められず、呼吸、血圧、体温、尿量、栄養状態等は安定していた。
ヴォーリズ記念病院へは二週間に一回の割合で通院し、気管カニューレの交換と内服薬の処方を受けている。
原告X1に褥瘡は生じておらず、内臓機能、自律神経機能、免疫力の低下は認められていない。
(7) 平成一二年二月九日から重症心身障害児・者施設第二びわこ学園を利用し、一回につき二、三日程度の短期入園を数回利用したこともあった。
(8) 自宅における介護状況
ア 平日は、朝から夕方までは原告X3が担当し、原告X2が勤務を終えて帰宅する夕方以降午後一一時ころまでは原告X3と同X2の二人で行い、午後一一時以降翌朝までは、原告X3か同X2が日替わり交代で担当するが、もっぱら原告X3が担当することが多い。
土日は、朝から午後一一時ころまでは、原告X3と同X2の二人で行い、午後一一時以降翌朝までは、原告X3か同X2が日替わり交代で担当している。
平日の午後三時ころから午後四時半ころまではヘルパー訪問があり、また、週三回、昼間に約一時間程度、訪問看護師が来て、リハビリと清拭を行っている。
イ 終日、約二時間おきに体位交換をし、適宜、痰の吸引とおむつ交換をする。原告X1は、夜間も覚醒することが多く、覚醒時には痰を詰まらせ、吸引の必要があるため、介護者は夜間に十分な仮眠をとることができない。おむつ交換は、汚れの有無を随時確認して行っている。
ウ 食事は、胃瘻チューブによる経管栄養摂取で、一日に三回、準備行為も含めて約一時間半を要する。朝食は午前六時ころから準備し、終了後には、気管切開部の消毒、ガーゼ交換、顔ふき、検温等を約三〇分間行う。また、各食事後には、経管による投薬を行う。また、週に数回、胃瘻消毒を行う。
エ 午後三時ころから約一時間程度、ベッドから車椅子に移動させて、手足を運動させたり、歯みがきを行う。平日はこの時間帯にヘルパーが訪問しており、原告X3は若干他の家事をすることができるが、ヘルパーは痰の吸引等の医療行為ができないため、痰の吸引は適宜、原告X3が行う。
オ 入浴は、自宅に原告X1が利用できる浴室はなく、特別養護老人ホームに行ってデイサービスの入浴を利用するほか、訪問入浴サービスを利用している。
二 原告X1の推定余命について
原告X1の将来分の各損害額算定に関わる、原告X1の推定余命についてまず判断するに、原告X1は、前記認定のとおり、植物状態で全介助が必要であり、気管切開と胃瘻造設を受けているが、症状固定までの間の在宅介護中において、栄養剤注入後の嘔吐により入院したことや、胃瘻チューブ交換目的での入院中に胃潰瘍が発見され治療を要したことはあったものの、他に、肺炎等の感染症を発症して治療を要したということもなく、呼吸、血圧、体温、尿量、栄養状態はいずれも安定し、褥瘡は生じておらず、内臓機能、自律神経機能、免疫力の低下も認められていないこと及び原告X1に対しては、前記認定のとおり、原告X3及び同X2により、ヴォーリズ記念病院の指導に従った適切な介護が行われているほか、週三回の看護師の訪問、二週間に一回のヴォーリズ記念病院への通院等、異常があれば早期に発見し対処しうる態勢も整っていることからすれば、原告X1について生命に対する具体的な危険があるとはいえないから、原告X1の推定余命は、簡易生命表に基づき、一八歳(症状固定時における原告X1の年齢)男子の平均余命である五九年と認めるのが相当であり、これを覆す事情を認めるに足りる証拠はない。
この点、被告は、乙第二七号証(寝たきり者の生存余命を解析した論文)を根拠に、原告X1の推定余命は向後一〇年であると主張するが、同論文は、自動車事故対策センターによる平成四年のデータをもとに解析したものであるところ、基礎となるデータは、観察期間一四年程度のものにすぎず、サンプル数も少ないこと及びいわゆる脱却者について脱却以降の追跡調査はされていないこと(乙二七)等からすれば、乙第二七号証を根拠に原告X1の推定余命を認定するのは相当でない。
三 被告が賠償すべき損害額は次のとおりである。
(1) 治療費等
ア 平成一二年一二月までの社会保険求償分 八二五万六九三一円(争いがない)
平成一三年二月二八日までの病院支払分 六七〇万八九五六円(争いがない)
イ 平成一三年三月一日以降の入院費 二三七万一二五七円
前記認定のとおり、原告X1は、栄養摂取のために胃瘻を造設しており、将来にわたり胃瘻チューブの定期的な交換が必要である。そして、前記認定のとおり、原告X1は、胃瘻増設後、ほぼ三か月に一回の割合でヴォーリズ記念病院に入院の上、胃瘻チューブの交換を受けていることからすると、今後将来にわたっても、同割合による交換が必要と認めるのが相当である。一回当たりの入院期間については、前記認定のとおり、胃潰瘍が発見されたため入院期間が長期化したもの(平成一二年八月二四日からの入院)を除けば、各入院期間は四日間ないし七日間であることからすれば、将来にわたり平均して一回当たり五日間の入院が必要と認めるのが相当である。
証拠(甲二〇)によれば入院費用(部屋代)は一日当たり六三〇〇円であり、平成一三年三月一日以降原告X1の推定余命期間の入院費は、次のとおり、二三七万一二五七円となる(なお、上記損害額の現価計算の基準時は症状固定時<平成一二年一二月一日>とするのが相当であるところ、症状固定時から平成一三年三月一日までの期間は一年に満たないこと及び原告X1の請求方法に照らし、症状固定時から将来の五八年分として算定することとする。)。
6,300円×5日×12÷3=126,000円(1年当たりの費用)
126,000円×18.8195(58年のライプニッツ係数)=2,371,257円
ウ 平成一二年一月一二日以降平成一三年六月三〇日までの通院治療費等 一八五万六七三三円
証拠(甲二一ないし四九<枝番号を含む>、六五、原告X3)によれば、原告X1は、平成一二年一月一二日(第一回めのヴォーリズ記念病院退院日)以降、薬代、訪問看護料、ガーゼ・綿棒・アルコール等の雑費、ヘルパー派遣費用、入浴料、タクシー代等として、合計一八五万六七三三円を支出したことが認められるところ、証拠(甲二一ないし四九<枝番号を含む>、六五、原告X3)並びに前記認定の原告X1の症状及び介護状況に照らせば、これらはいずれも必要性・相当性があり、賠償されるべき損害と認められる。
(2) 平成一三年七月一日以降の雑費等 一四八六万三九四二円
ア 医療用品代 四、五一六、六八〇円
証拠(甲二一ないし四九<枝番号を含む>、五九の一・二、甲六五、原告X3)及び前記認定の原告X1の介護状況によれば、原告X1は、アルコール、ガーゼ、蒸留水、おむつ代等の医療用品代として一か月当たり少なくとも二万円を要することが認められ、平成一三年七月一日以降原告X1の推定余命期間の医療用品代は、次のとおり、四五一万六六八〇円となる(なお、上記損害額の現価計算の基準時は症状固定時<平成一二年一二月一日>とするのが相当であるところ、症状固定時から平成一三年七月一日までの期間は一年に満たないこと及び原告X1の請求方法に照らし、症状固定時から将来の五八年分として算定することとする。)
20,000円×12×18.8195(58年のライプニッツ係数)=4,516,680円
イ 訪問入浴料等 一〇、三四七、二六二円
証拠(甲二一、三四、三五の一・二、甲三七、四七、四八の一ないし五、甲六五、原告X3)によれば、原告X1は、平成一二年一一月以降、訪問入浴サービスを受けており、同月から平成一三年五月までの七か月分の訪問入浴料合計は三一万一九七六円であり、一か月当たり平均四万四五六八円であること、原告X1は平成一二年一月からデイサービスの入浴を利用しており、同月から平成一三年六月までのうち、ヴォーリズ記念病院に長期入院していた月(平成一二年六月ないし一一月)を除く期間の入浴料合計は一万五〇〇〇円であり、一か月当たり平均一二五〇円であること及び原告らの自宅には原告X1が入浴できる設備はなく、今後も訪問入浴サービス及びデイサービスによる入浴を利用する必要性があること認められ、平成一三年七月一日以降原告X1の推定余命期間の入浴料は、次のとおり、一〇三四万七二六二円となる(なお、上記損害額の現価計算の基準時は症状固定時<平成一二年一二月一日>とするのが相当であるところ、症状固定時から平成一三年七月一日までの期間は一年に満たないこと及び原告X1の請求方法に照らし、症状固定時から将来の五八年分として算定することとする。)
(44,568円+1,250円)×12×18.8195(58年のライプニッツ係数)=10,347,262円
(3) 将来の交通費 一三五万二八八〇円
前記認定のとおり、原告X1は、今後も三か月に一回の割合でヴォーリズ記念病院に平均五日間の入院が必要であり、前記認定の原告X1の症状や介護状況等に照らせば、入院期間中に原告X3が病院に行く必要性はあると認められるところ、これまでのヴォーリズ記念病院への短期入院には、介護者側の事情によるものも含まれていること(平成一二年四月一三日からの入院は、家の事情によるものであり、同年五月二六日からの入院は、胃瘻チューブ交換目的のほか原告X3が名古屋に行くためでもあった<乙一六、一七>。)や、原告X1についての訪問看護計画においては、「胃瘻チューブ交換時介護負担軽減のためショートステイとしてヴォーリズ記念病院入院」とされていること(乙二一)からすれば、賠償されるべき将来の交通費は、上記入院期間中三回程度、原告X3が病院に通うものとして算定するのが相当である。
そして、証拠(甲五二の二、甲五八、六五、原告X3)によれば、原告らの自宅からヴォーリズ記念病院までは、公共交通機関を利用すると、バス、鉄道、バスの順に乗り継いで一時間三〇分以上かかる上、自宅と鉄道駅間のバスは一時間に一、二本しかないのに対し、タクシーを利用すると約三〇分で到着できること、病院と自宅との往復の際には、原告X1が使用する衣類、タオル等を持ち運びする必要があることが認められ、これらの事実からすれば、原告X3がヴォーリズ記念病院へ通う際にタクシーを利用することは必要かつ相当というべきである。
原告らの自宅とヴォーリズ記念病院との間のタクシー代は、平均約五〇〇〇円であり(甲二一、三六、三七、四九<枝番号を含む>)、平成一三年七月一日以降、原告X3(昭和○年○月○日生まれ、甲一)が付添介護が可能と考えられる六七歳までの一七年分(ライプニッツ係数一一・二七四〇)を計算すると、将来の交通費は一三五万二八八〇円となる。
5,000円×2×3×12÷3×11.2740=1,352,880円
(4) 医師への謝礼 二一万円
証拠(甲六五)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1が済生会滋賀県病院に入院した際に六万円、ヴォーリズ記念病院に入院した際に一五万円を、それぞれ医師等へ謝礼として支払ったことが認められるところ、前記認定の原告X1の症状及び治療経過に照らし、上記謝礼は、社会通念上相当な範囲内であるというべきであり、これは賠償されるべき損害と認められる。
(5) 付添介護費用
ア 症状固定日(平成一二年一二月一日)まで 四〇五万六〇〇〇円
前記認定のとおり、原告X1は、症状固定日までのほとんどの期間、入院治療を受けていたこと、原告X3と同X2は、ほぼ毎日病院に通い付き添っていたこと、病院においては看護師等による看護が行われていたが、ヴォーリズ記念病院転院後は、在宅介護へ向けた家族指導があり、原告X3と同X2は交代で付添介護に当たっていたこと等の事実を総合し、症状固定日までの付添介護費用は、一日当たり六〇〇〇円をもって相当とし、事故日から症状固定日までの六七六日分は、次のとおり、四〇五万六〇〇〇円となる。
6,000円×676日=4,056,000円
イ 症状固定日後将来分 八二六七万五五六六円
前記認定のとおり、原告X1は、植物状態で、意思疎通はできず、寝たきりであり、胃瘻チューブによる栄養補給を受け、排泄はおむつを使用し、気管切開を受けていること、日常生活動作のすべてについて介護が必要であり、父母である原告X2と同X3が介護に当たっていること、平日昼間は、約一時間半程度のヘルパー訪問(毎日)と約一時間程度の訪問看護師による看護(週三回)がある以外は原告X3が介護に当たり、夕方以降と休日には原告X3と同X2の二人で介護に当たっていること、ヘルパー派遣費用は月額二万七九〇〇円(一時間当たりの負担金は九三〇円であり、一か月に二〇回、一回当たり一・五時間の派遣を受けた場合の金額。甲三三、四六<枝番号を含む>)であり、訪問看護料は月額約三万三〇〇〇円であること(一か月に一〇回の訪問看護を受けた場合の金額。甲二八の五)、夜間においても、約二時間おきに体位交換し、適宜、痰の吸引とおむつ交換をする必要があり、原告X3又は同X2が日替わり交代で介護に当たっていること及び症状固定時において、原告X3は四九歳、同X2(昭和○年○月生まれ、甲一)は五二歳であり、いずれ職業介護人を使用する必要が生じると考えられるところ、原告らの近隣における職業介護人の料金は、一日当たり四万〇八〇〇円であること(甲五〇)等の原告X1の介護状況に係る事情からすれば、入浴については訪問入浴サービス等を利用し、本訴において別途損害として請求していることや、自動車事故対策センターから日額約二二〇〇円の介護料の支給を受けていること(乙三一)等を考慮しても、付添介護費用は、症状固定後、原告X1の推定余命年数である五九年間について、平均して一日当たり一万二〇〇〇円を下回らないと算定するのが相当であり、賠償されるべき付添介護費用は、次のとおり、八二六七万五五六六円となる。
12,000円×365日×18.8757(59年のライプニッツ係数)=82,675,566円
(6) 入院雑費 六九万四二〇〇円
賠償されるべき入院雑費は一日当たり一三〇〇円をもって相当とし、入院日数五三四日分(争いがない。)は、次のとおり六九万四二〇〇円となる。
1,300円×534日=694,200円
(7) 自動車購入費 八〇六万六六三六円
前記認定のとおり、原告X1は、ヴォーリズ記念病院に、二週間に一回の割合で通院し、三か月に一回の割合で入院するほか、特別養護老人ホームへ行ってデイサービスの入浴を利用しており、証拠(甲五一の一ないし三、甲六二)によれば、その際の移動手段として、車椅子仕様の自動車を、平成一二年一〇月二四日に三八九万六〇六〇円で購入したことが認められる。
原告X1の症状及び介護状況に照らし、車椅子仕様の自動車を利用することは必要かつ相当というべきあるところ、自動車の使用状況及び上記自動車が他の家族の便益にも資する点を考慮し、八年ごとの買い換えとし、購入代金のうち七割をもって賠償されるべき損害と認めるのが相当である。
3,896,060円×0.7×(1+0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.0961+0.0650)=8,066,636円
(8) 逸失利益 一億〇一八五万三七三二円
原告X1の後遺障害逸失利益は、本件事故がなければ就労可能であったと考えられる一八歳(症状固定時)から六七歳までの四九年間にわたり、平成一二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の全年齢平均年収である五六〇万六〇〇〇円を基礎として、前記認定の後遺障害の程度に照らし一〇〇%の労働能力を喪失し、同割合による減収を生じるものと評価して算定すべきであり、次のとおり、一億〇一八五万三七三二円となる。
五、六〇六、〇〇〇円×一八・一六八七(四九年のライプニッツ係数)=一〇一、八五三、七三二円
なお、この点、被告は、原告X1の逸失利益算定に当たり生活費を控除すべきであると主張するが、死亡の場合と異なり、原告X1は、将来にわたり、食物(栄養剤)、衣類、寝具、水道光熱費その他の生活費を要すると考えられることからすれば、原告X1の後遺障害逸失利益を算定するに当たり生活費を控除するのは相当でないというべきである。
(9) 原告X1の慰謝料 三一二〇万円
ア 入通院慰謝料 四、二〇〇、〇〇〇円
原告X1の受傷の程度及び入通院日数等を考慮し、賠償されるべき入通院慰謝料は四二〇万円が相当と認める。
イ 後遺障害慰謝料 二七、〇〇〇、〇〇〇円
原告X1の後遺障害の程度に照らし、賠償されるべき後遺障害慰謝料は二七〇〇万円が相当と認める。
(10) 近親者慰謝料
原告X2 二五〇万円
原告X3 二五〇万円
原告X2及び同X3は、原告X1の父母であるところ、原告X1の後遺障害の程度及び介護状況に照らせば、同人らの固有の慰謝料として各二五〇万円を認めるのが相当である。
(11) 近親者ガソリン・タクシー代(平成一二年一月一一日以前分) 三二四万二四一一円
証拠(甲六五、乙一の一ないし八〇、原告X3)及び弁論の全趣旨によれば、原告X3と同X2が病院へ行くためのタクシー代及びガソリン代等として、平成一二年一月一一日までの間に、合計三二四万二四一一円を要したことが認められるところ、前記認定のとおり、原告らの自宅からヴォーリズ記念病院へ行くためには、タクシーないし自動車を利用する必要性・相当性があり、証拠(甲五二の一、五八、六五、原告X3)によれば、済生会滋賀県病院についても同様にタクシーないし自動車を利用する必要性・相当性があるといえるから、上記費用は賠償されるべき損害と認められる。
(12) 原告X2の休業損害 六六万四四六三円
証拠(甲六五、原告X3)及び弁論の全趣旨によれば、原告X2が付添介護等のために、勤務先を欠勤し、六六万四四六三円の休業損害が生じたことが認められ、これは賠償されるべき損害と認められる。
(13) 装具及び車椅子レンタル料 三二万六九〇八円
証拠(甲六五、原告X3)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1の装具及び車椅子レンタル料として三二万六九〇八円を要したことが認められ、これは賠償されるべき損害と認められる。
(14) 家屋改造費用 八五一万一九三一円
ア 証拠(甲六五、乙四ないし一一<枝番号を含む>、乙三四、原告X3)によれば、原告X1を自宅で介護するため、原告らの自宅に介護用の部屋として約一〇畳の洋室及び約八畳のウッドデッキを増築し、車椅子仕様の自動車を駐車するためのカーポートとこれに付随するアコーディオンカーテン型門扉を設置し、これら工事費用として八一五万円を要したこと、上記介護室に、冷暖房機、トイレ、洗面台を設置し、冷凍庫、介護用ベッド、介護用リフト等を置き、これら費用として八二万二一九〇円を要したこと、増築前の原告らの自宅では、独立した居室は六畳の和室が最大であったこと、原告X1を介護するためには、横約一メートル、縦約二メートルの介護用ベッドや介護用リフト等の機材を設置し、ベッド両側には介護者が介護作業をする空間が必要であるほか、原告X1をベッドから車椅子へ移動させるために、ベッド脇に、背もたれを倒した状態の車椅子を置く空間が必要であること、原告X2と同X3が、自宅介護を開始するに当たり、医師に自宅まで来てもらい介護場所について相談した際、医師から、原告X1の介護をする部屋は八畳以上必要であり、ウッドデッキを付けた方がよいとのアドバイスを受けたこと及び原告X2と同X3は、上記アドバイスに沿った増築の希望を請負業者に伝え、請負業者において見積書を作成し、被告加入の保険会社において見積内容が適正であるか否かを審査した上で、ほぼ見積内容どおりに施工されたことが認められる。
イ 前記認定の原告X1の症状及び介護状況に照らせば、原告X1を原告らの自宅で介護するためには、介護専用の部屋が必要であるところ、上記認定の事情からすれば、原告らの自宅に介護室を確保するために、一〇畳程度の部屋を増築する必要性はあると認めるのが相当である。また、原告らは、居住する町から、紙おむつの便はトイレに流し、紙おむつのみ燃えるゴミとして出すよう指導されているところ、増築前の原告ら自宅のトイレは、玄関ホールとダイニングキッチンの間にあり、既存のトイレによって原告X1の排泄物の処理をするには負担が大きいこと(甲六五、乙四の三、原告X3)からすれば、介護室内に排泄物の処理のためのトイレを設置すること(ただし、ウォシュレット設置の必要性を認めるに足りる証拠はない。)及びこれに付随して洗面台を設置することには必要性が認められる。また、冷暖房機の設置、介護用ベッド、介護用リフト等についても必要性が認められる。
一方、ウッドデッキについては、原告X1の日光浴のために有用ではあるものの、介護のために必要不可欠なものと認めるに足りる証拠はなく、また、冷凍庫については、原告X1は、前記認定のとおり、症状固定までの間には、体温調節ができず三七ないし三八度台の有熱状態が多く、常にクーリングが必要な時期もあったが、症状固定後においては、基本的に体温は安定していることからすれば、常時大量の氷を確保する必要性までは認められず、介護室への冷凍庫設置の必要性は認め難い。
また、原告X1は、通院や入浴サービス利用等のために車椅子仕様の自動車に乗って移動する必要があるところ、車椅子仕様の自動車を駐車するためのカーポートを設置する必要性はあると認められるが、前記認定のとおり、車椅子仕様の自動車は、家族の便益に資する部分もあることを考慮すると、カーポート及びこれに付随するアコーディオンカーテン型門扉については、その設置費用の七割をもって賠償されるべき損害と認めるのが相当である。
ウ 以上によれば、賠償されるべき家屋改造費用は、現実に要した費用総額八九七万二一九〇円から、ウッドデッキ設置に係る費用二二万七五四一円(乙四の一、弁論の全趣旨)、冷凍庫購入費用五万二二九〇円(乙一〇)、カーポートとアコーディオンカーテン型門扉設置に係る費用三五万〇四七七円(乙六)の三〇%に当たる一〇万五一四三円及びウォシュレット設置費用七万五二八五円(乙五)を控除した残額である八五一万一九三一円と認められる。
(15) 損害の填補
(1)ないし(9)、(11)ないし(14)の合計額二億七六九一万二五四六円から、既払額三二一二万九九八〇円(争いのない事実等(6))を控除すると、残額は二億四四七八万二五六六円となる。
(16) 弁護士費用
原告X1 一〇〇〇万円
原告X2 二五万円
原告X3 二五万円
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、賠償されるべき損害としての弁護士費用は、原告X1について一〇〇〇万円、原告X2及び同X3について各二五万円が相当と認める。
(17) 認容額
原告X1((15)と(16)の合計)二億五四七八万二五六六円
原告X2((10)と(16)の合計) 二七五万円
原告X3((10)と(16)の合計) 二七五万円
四 以上によれば、原告らの請求は、原告X1が二億五四七八万二五六六円、同X2、同X3が各二七五万円及びこれらに対する平成一一年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 冨上智子)