大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成13年(行ウ)10号 判決 2002年3月01日

原告

馬場隆

同訴訟代理人弁護士

村田浩治

被告

堺労働基準監督署長夏見欣也

同指定代理人

天野智子

柳昌仁

梶原宏之

吹上賢治

小松敏和

加藤英二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対しなした平成八年八月六日付け労働者災害補償保険法による療養補償給付・休業補償給付の不支給決定を取り消す。

第二事案の概要

1  本件は、原告が、被告に対し、被告が、原告が労働者災害補償保険法上の労働者ではないとして、原告に対しなした平成八年八月六日付けの労働者災害補償保険法による療養補償給付・休業補償給付の不支給決定が、違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

2  前提事実(当事者間に争いのない事実)

(1)  当事者

原告は、かつて運転手を一二名ほど雇い、事業者として運送業を営んでいたが、阪神大震災の影響を受けて、経営が悪化し廃業に至った。そして生活に困り、再度運送業務の下請けをして生計を立てようと考え、これに必要な安価な中古トラックを取得したいとして、知人に相談したところ、貨物の運送、クレーン車のリースなどを業務とするコスモ商会株式会社(以下、「コスモ商会」という)を紹介された。

原告は、コスモ商会の代表取締役である舩木康彦(以下、「舩木」という)に、会社の廃車になった中古車を売って欲しいと頼んだが、コスモ商会には原告の要望にそう手頃な中古のトラックがなく、舩木から依頼を断わられた。

しかしながら、原告が、舩木に、自己の経済的窮状を訴えたことから、原告は、コスモ商会で、鉄骨、プレハブ等の運送業務に従事することになった。

(2)  本件事故

平成七年一二月二〇日午後五時三〇分ころ、大阪市大正区所在の松尾エンジニアリング構内において、原告は、コスモ商会の貨物自動車の運転手として、業務に従事していた際に、トラックの荷台から転落し、頭部外傷Ⅱ型、後頭部挫創、腰部打撲の傷害を受けた(本件傷害)。

(3)  原告による給付請求

本件事故後、原告は、金城外科脳神経外科に搬送され、治療を受けた。平成八年一月二二日、原告は、羽曳野労働基準監督署長に対し、本件傷害は、業務上の事由によるものであるとして、労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」という)に基づき療養補償給付を請求し、同署長は、支給する旨の処分をした(<1>請求)。

その後、原告はベルランド総合病院で受診し、同年四月一一日、原告は、被告に対し、その分の療養補償給付を請求した(<2>請求)。

さらに、原告は、同年四月一一日、被告に対し、金城外科における療養期間である平成七年一二月二〇日から同月二一日までの間の休業補償給付(<3>請求)、及びベルランド総合病院における療養期間である同月二二日から平成八年三月八日までの間の休業補償給付(<4>請求)を請求した。

(4)  被告による不支給処分

同年四月一一日、羽曳野労働基準監督署長は、<1>の請求書の事業者欄に記載された「コスモ商会株式会社」を管轄する被告に、同給付請求書を移送した。

被告は、同年八月六日、改めて<1>の請求を不支給とし、これとともに<2>ないし<4>の各請求を不支給とする旨の処分をした(本件処分)。

(5)  不服申立

原告は、平成八年九月六日、本件処分を不服として、大阪労働者災害補償保険審査官に労働保険審査請求をしたところ、同審査官は、平成九年三月一四日付けでこれを棄却した。

また、原告は、平成九年五月一二日、労働保険審査会に対して、再審査請求をしたが、労働保険審査会は、平成一二年一一月二〇日付けで原告の再審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年一二月一三日、原告代理人に同裁決書謄本が送達された。

2  争点

原告が、労災保険法上の労働者に該当するか否か

3  被告の主張

(1)  原告の労働者性

ア 指揮監督下の労働か否か

(ア) 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

原告は、他社からの仕事を受注することを禁じられていたわけではない。

原告は、三日前までに自己の都合により受注しない旨連絡すれば、コスモ商会側でも発注を行わないことが認められており、このことは、継続的発注を行う便宜上の取り扱いであった。

(イ) 業務遂行上の指揮監督の有無

原告は、他の従業員同様運送先及び納入時刻の指示を受けていたが、これは運送契約の要素であり、一般労働者に対する業務遂行上の指揮監督、指揮命令とは異質なものである。そもそも、運送品、運送先、納入時刻の指示は、運送契約の発注者が、商取引上当然に行う契約履行内容・方法としての指示であり、運送契約の要素である。

他の従業員は、「高速道路を使うな」などの運送経路等に関する指示を受けていたが、原告はそのような指示を受けたこともなく、その他出発時刻の管理や運送方法等についても自由であった。また原告は、運送業務以外の業務を行ったことはなく、業務命令の実態を有する命令に服したこともない。

イ 報酬の労務対償性

(ア) 他の従業員の扱い

コスモ商会の他の労働者は、定時に稼働したことに対する基本給(日給)のほかに、乗務手当、家族手当等の諸手当、タイムカードで把握した労働時間に応じて早出・残業手当、休日出勤手当、深夜手当が賃金として支払われ、給与明細書が交付されていた。賃金計算の締切は、毎月二〇日、支払いは翌月の五日で銀行振込となっていた。

(イ) 他方、原告は、舩木との間で、仕事の方法と報酬の支払い方法等について口頭で約したが、その際、報酬については、荷物の重さと距離により定めるとしていた。

原告の場合、「運転日報・運転前点検表」の控えを自宅に持ち帰り、一日の仕事を帳面につけ、それを基に市販の請求書用紙に発注者・運行先等を記載した請求書をコスモ商会に対して毎月提出していた。コスモ商会では、提出された請求書を同社で作成した「乗務員稼働明細書」などの資料をもとに確認し、この売り上げから諸経費及び車両代金を差し引いた金額を報酬として原告に支払っていた。すなわちコスモ商会から支払われていた報酬については、運搬業務の完成度に応じ、一回の運送で幾らと決められていたものであり、労働日や労働時間に対応して支払われたものではない。現実には、原告が経済的に困っていたので先払いとして計算上の額以上のものを支払っていたのである。

また、原告の報酬は時間労働の対価ではないから、所定労働時間を超える時間に基づく諸手当はないことになるが、原告は、残業や休日出勤、深夜勤務をしたときでも手当はもらえないことを了解していたものである。

原告の報酬の締め切りは、毎月二〇日で支払いは翌月の二〇日に現金で支払われており、毎回津久野の営業所で(初回のみ田園駐車場)、専務から受取っていた。原告は、報酬の支払いに対して、領収証を発行していた。

原告の場合、タイムカードは出退勤管理、手当の支払いに使われていたものではなく、日々の業務のけじめをつける程度のものであり、原告は出てきた日でも押していないときがかなりあった。

ウ 事業者性の有無

(ア) 機械、器具の負担

原告は、舩木に対し、コスモ商会に労働者として雇用してくれるように申し込んだところ、舩木は、原告が六〇歳近かったこと、病気がちであることなどから、労働者として雇用することを断ったが、コスモ商会の一〇トントラックの代金を割賦で償却しながら、これを用いて仕事をし、完済後にはトラック所有権を完全取得する、いわゆる「トラック持ち込み」という形で働くことを提案し、原告はこれを受け入れ、平成七年七月二五日からコスモ商会の下請けを継続的に行うこととなったものである。

コスモ商会には、原告の他には、トラックを持ち込んだり、トラックの償却をしながら業務を遂行している者はいない。

原告には、その後、車両代金請求書(控)が交付されている。コスモ商会は、販売店に原告が使用していたトラックの価格査定を依頼し、これに基づいて現金価格四六〇万円、割賦価格五五〇万円で三六回、月々一五万三〇〇〇円の分割払いを取り決め、そのうえで同内容を記載した「車両代請求書(控)」を原告に渡し、原告も異議なくこれを受領している。原告は、長年事業者として運送業を営んでいたので「トラックの持ち込み」が会社所有のトラックを使用するものの、車両代金は償却として請負代金から経費とともに差し引いて報酬を受け、償却終了後は車両の所有権を得るという形態であることを熟知しているものである。

なお、本件トラックは、現在、コスモ商会がそのまま継続使用しているが、これは、コスモ商会側として、トラックの償却が履行不能となったため原告との売買契約が解除されたものとし、それまでの支払いをトラックの使用料に充当する扱いにしたものにすぎない。

(イ) 源泉徴収の有無、保険加入の有無

コスモ商会の他の労働者については、源泉徴収は行われ、社会保険等も加入している。

他方、原告の場合、給与所得として源泉徴収は行われておらず、社会保険の加入、雇用保険の加入も行われていない。このことについて原告は承知しており、すこしでも手取額が多い方がよいと思っていたものである。

(ウ) 福利厚生施設

コスモ商会の田園駐車場には、運転手の休憩所があり、机やいすのほかに従業員二名につき一個の割り当てロッカーがあったが、原告はロッカーの割り当ては受けていない。

(2)  以上のように、原告は、トラック持ち込み運転手である点のほか、<1>運送業務遂行にあたり、運送物品、運送先、納入時刻以外は指示がなされておらず、業務命令に服したこともなかった点、<2>報酬は出来高制で、勤務時間を理由とする不利益は被っていない点、<3>報酬は、売り上げから経費としてガソリン代、修理代、高速道路料金等を控除する方法で算出されており、トラック購入代金も負担していた点、<4>所得税の源泉徴収、社会保険、雇用保険の保険料は控除されていなかったことなどの点、加えてその他事業者と考えられる要素が多々認められるのであり、労災保険法にいう労働者と認めることはできない。

原告は、原告本人の行った療養補償給付請求手続きにあたり、当初コスモ商会が、事業主の証明を行ったことから、コスモ商会と原告との間で労働者性について疑義がなかったと主張するが、当初、労災保険給付の請求になされている事業主証明を行った者は事業主の舩木ではなく、誰が行ったかは不明である。原告本人の身分については、コスモ商会の従業員の森本茂應(以下「森本」という)は、「社長の知り合いとしか聞いていない」と言っており、従業員も舩木と原告との具体的関係を看過して一般従業員と同じように処理し、押印してしまったものにすぎない。

4  原告の主張

(1)  原告の労働者性

原告は、事業が立ち行かなくなったために、コスモ商会において業務に従事し始めたものであり、他の従業員と同様、指揮命令に服していたものである。原告は、他の従業員と同様にタイムカードで時間の管理を受け、日報等の報告書を作成してきたものであるし、コスモ商会所有の車両に乗務して労働に従事してきたものである。

コスモ商会は、当初、原告を労働者として認め、療養補償給付のために事業主の証明欄に署名押印したうえ、労働基準監督署に書面を提出したにもかかわらず、原告とのトラブルが発端となって、請求手続きを回避するようになったものである。

以上のように、原告は、労災保険法上の労働者であり、原告の請求を認めなかった本件処分は違法であり、取消を免れない。

(2)  被告の主張に対して

ア 諾否の自由の有無

原告は、コスモ商会で勤務し始めた平成七年七月から一二月にかけて原告が、コスモ商会以外の業務に従事したことはなく、諾否の自由を有する実態にはなかった。

イ 業務上の指揮監督の有無

原告は、他の従業員と同様に、運送先及び納入時刻の指示を受けていたのであるから、労働の実態としては、指揮命令関係に他の同僚と差はなかったことは明らかである。

原告は、業務に従事している当時、勝手に高速道路を使うことは一切許されなかったのであり、他の従業員と同様、コスモ商会から高速券を支給されて高速道路を使用していた。

原告は、運転業務について細かな指示を受けて業務に従事していたのであり、その業務命令の実態こそが重要である。原告が、岡山の配送先に配送を終えて、他の積み込み先に向かう途中に、コスモ商会で紛争があり、舩木の要請で急遽積み込みの仕事を残して帰社したこともある。仮に原告がトラック持ちの請負であれば、自らの仕事を減らすような指示を拒否しないはずはない。

ウ 報酬の労務対償性

原告が、舩木と労働契約を締結した際、月額四五万円の手取りを保証するという約束はあったが、賃金決定方法については、明確な取り決めはなされていない。原告は、従業員と同様に月額四五万円が確保されていたと安心していたのであり、荷物の重さと距離により定められているとは、全く考えていなかった。

また、原告は、コスモ商会の他の従業員と同様にタイムカードを打刻して業務に従事していた。

このように、原告は、タイムカードを打刻し、拘束時間内に決められた配送先や積み込み先での運送業務を行い、月額の給与として手取り四五万円の給与を支給されていたのであり、一応どんな仕事をしても、月額四五万円のみ支払うというのは、一種の年俸制契約であるともいえる。これは、他の従業員と異なる取り扱いであったが、原告がもともと運送業務をやっていた社長であったからである。

原告が、運転日報を記載し、コスモ商会に提出していたことは事実であるが、これは他の従業員も同様である。原告が提出した日報の中には、配送先のサインを受けていない日報もあるが、これは他の従業員と共同で運搬した際に他の従業員においてまとめてサインを受け取ることがあったからである。また原告がコスモ商会にあてて、日報に基づき請求書を毎月提出していたという事実もない。

諸手当の支給はなかったが、これは、前述のとおり、原告がその経歴から特別扱いされていたからである。

なお、原告は、コスモ商会から賃金として毎月給与を受領して領収証を発行していたのであり、請負代金を受領していたのではない。

コスモ商会は、売り上げが四五万円より少ない月も多い月も、それとは無関係に三〇万円ないし四五万円を支払っていたのであり、都合のいい労働者として適当に賃金を支払っていたことは明らかである。

エ 事業者性の有無

(ア) 原告は、コスモ商会とトラック一台持ちで働くとの合意をしたことはない。本件トラックの所有者は、原告ではなく、コスモ商会であり、リース契約もコスモ商会で行っているものである。その後本件トラックは、原告に何の相談もなくそのままコスモ商会において使用している。

コスモ商会が、原告に販売店の割賦価格や支払い額を記載した書面を交付したのも原告が本事故で入院した後である。

(イ) 源泉徴収、保険加入の有無については、労使とも使用者に加入義務があることを認識していないことが多いというのが社会的実態である。原告のような年齢である程度の裁量をもって、社会保険に縛られずに業務命令に従い勤務する労働者がいることは何ら不思議ではない。

福利厚生施設の点についても、原告は本件事故当時勤務し始めてからまだ四ケ月になったばかりであり、福利厚生施設が充実していなかったとしても何ら不思議ではない。

第三判断

1  前提事実、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告が、コスモ商会で運転手として就業するに至る経緯等

ア 平成七年七月ころ、原告は、知人の結城某から、以前同人がコスモ商会へ売却した古いトラックがあるから、それを譲ってもらえばよいと言われたことから、舩木のとこへ行って、当該トラックを安く譲ってくれるように依頼した。しかし、舩木から、当該トラックは古く、修理費用がかさむばかりだから譲り受けるのはやめた方がいいと言われて断られた。このため、原告は、舩木に、金銭に困っているので雇ってほしいと依頼したが、舩木は、原告が、高齢で持病もあることから、同人を雇うつもりはなかったため、そのかわりに、原告に、空いている車(車両番号4441番の一〇トントラック、以下「4441番」という)が一台あるから、「持ち込み」でコスモ商会で仕事をしないか、従業員でも一台持ちでもどっちでもいいのではないかと提案した。原告は、これを良い話であると喜び、「持ち込み」の運転手として就労することを承諾した。

イ この舩木との話の際、原告は、トラックを購入すると、自分で仕事を探さなければならなくなることを心配し、舩木に、仕事ももらえるのか尋ねると、同人は、「うちのほうから無線の付いたトラックで、一切指示して、うちの仕事を全面にしてもらう。そやからあんたが勝手によそで仕事取ってきてやれというんでなしに、うちから仕事出してうちの仕事全部してもろおて、うちから支払いするから」と答えた。

また、原告は、舩木から、朝に原告の車の仕事が決まっていない場合があるため、夜積みがないときは、午前七時までに堺市田園の駐車場に来ていれば、津久野営業所の配車係から運送作業の指示を無線で連絡すること、仕事がなければ四時に帰ってもよいこと、原則日曜日は休みだが、できるだけ日曜日も仕事に出ること、休む場合は、三日前までには連絡することと言われた。また、原告の希望で、一か月に一回、病院へ行く日は仕事を休みとすることを舩木は了解した。

さらに、報酬については、出来高払いで、必要経費、車両代金等を控除し、二〇日締めの翌月二〇日払いで支払うと言われ、厚生年金等の社会保険料の控除については、原告の希望で控除しないことになった。その後に、原告が、舩木に幾らぐらいの報酬が得られるかを尋ねたときには、同人は、原告の働き方次第では、月額四五万円から五〇万円ぐらいにはなると答えた。

この点、原告は、舩木との間で、最低賃金を四五万円とする合意があったと主張し、その旨供述するが、渡部美代子は、当時原告の給料について四〇万円や四五万円くらいあると聞いていること(書証略)や原告自身「定額」と供述していることもあること(書証略)等に鑑みれば、原告の供述はたやすく信用しえず、他に原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。また、売上げから、経費等を控除するという話はなかったとも供述するが、(書証略)及び弁論の全趣旨に照らし、たやすく信用しえない。

ウ 原告は、当時交際していた渡部美代子に、コスモ商会で、持ち込みの運転手として就業することになったことを話したところ、同人が、そんなうまい話はないといって信用しなかったことから、わざわざ同人を伴って舩木の所へ赴き、舩木より、原告に持ち込みで仕事をしてもらうことなどを説明させたりした。

エ 同年八月か九月ころ、原告が、舩木に、4441番の代金として、いくらずつ支払いをしたらいいかを尋ねた際に、舩木は、トラックの代金を払い終われば、それが原告が辞めた時の退職金になる、また4441番を再度コスモ商会が買い取ってもよいと述べた。

そして、同年九月末頃、舩木は、4441番の販売会社に同車の見積書と三六回分割の試算表の作成を依頼し、これを同年一〇月五日ころ入手して、原告に交付した。

(2)  原告のコスモ商会での就業状況等

ア 原告は、コスモ商会で就労を開始した当初三日間は、4441番ではなく、別のトラックに乗車したりしたが、その後も4441番が修理に出ていた時や特別の台車でないと積めない荷物を搬送するときなどは、別のトラックに乗ったりしたこともあった。また、4441番について舩木が原告の専属車にしたらよいと言っていたにもかかわらず、原告以外の者が、4441番に乗ることもあったことから、原告は専属車という意味がないとして、舩木に対し苦情を述べたこともあった。

4441番に修理が必要な場合には、原告が自分で修理するか、あるいは修理に入ることの了解を得てから修理していた。また同年七月二八日、原告は、交野のカーポートで物損事故を起こしたが、その事故にかかる保険の自己負担分である八万六七二六円は、原告も了承のうえ、報酬額から控除されていた。

イ 原告は、自家用車で田園の駐車場に出勤し、タイムカードを押して、無線の配車の指示がくるのを待ち、指示をうけて、指示をうけた場所に荷物を運び、運搬先から作業証明書に受け取りのサインをもらい、運転日報を作成して、コスモ商会に提出していた。4441番は、必ず、田園の駐車場のガレージに入庫し、また荷物の配送の際には、コスモ商会の制服を着用をしていた。ただし、原告には、運送業務を行うに際しての運行経路の指定、高速券の使用制限はなかった。また、コスモ商会の従業員にはロッカーが割り当てられていたが、原告には、割り当てられていなかった。

この点、原告は、勝手に高速道路を使用することはできなかったと主張するが、(証拠略)に照らし採用できない。

ウ コスモ商会での就業中、原告は、コスモ商会の仕事以外の仕事をしたことがなかった。また原告は、度々、朝の早出や、宵積みの仕事、夜勤をしたり、日曜日も出勤していたが、時間外の割増賃金が支払われたことはなかった。

エ 原告は、岡山の配送先に行ったときに、舩木から、従業員のヤナモトと原告が、原因でトラブルになっていることから至急戻るように指示され、荷物の積込みもしないで帰ったことがあった。

(4)  原告に対する報酬の支払方法等

ア 原告は、コスモ商会から、平成七年九月二〇日に四五万円を、同年一〇月に三五万円を、同年一一月二〇日に三〇万円を、同年一二月二〇日に四〇万円を、田園の駐車場ないし津久野の営業所において、現金で受け取り、その都度領収書を作成して、コスモ商会に渡していた。また、コスモ商会の賞与の支給は、七月と一二月の年二回であったが、原告には、平成一二年一二月の賞与は支給されなかった。

原告は、同年一〇月以降に受取った金額が四五万円に足らないことから、舩木に仕事を断ったことはない旨文句を言ったが、舩木は、すぐ渡す、ちょっと待ってというだけであった。

イ 原告は、請求書を書くように、コスモ商会から求められたが、荷物の単価等について原告の方では分からなかったことから、毎月市販の請求書の用紙に運送先を書いたものだけをコスモ商会に渡し、その余の売り上げ単価、燃料費等の経費等の記載、計算は、コスモ商会に任せていた。コスモ商会の方では、原告が一部作成した請求書をもとに、事務員が売り上げを計算し、燃料費、高速代金、車検費用等の経費、車両代金等を控除して報酬額を算出していたが、実際の原告への支払いは、原告の経済状況の理由から、必ずしもその計算に基づかずに概算で支払っていた。

この点、原告は、毎月請求書を出したことはなく、平成七年一二月分だけは、コスモ商会から書くように求められたため、一部作成したにすぎないと主張するが、平成七年九月二〇日締切りの乗務員稼働明細書(書証略)を原告が所持していたこと(証拠略)及び弁論の全趣旨に照らし、採用できない。また、領収書についても、本件事故後まとめて書かされたものであると供述するが、誰が作成したものかという点での原告の供述は変遷していること(原告本人)などに照らし、たやすく信用できない。

(5)  コスモ商会の他の従業員の就労状況等

コスモ商会には、就業規則があり、所定労働時間は、午前七時から午後四時までと定められ、また賃金は、二〇日締めの翌月五日払いで、銀行振込みにより支払われていた。賃金については、基本給のほか家族手当等の各種手当て、所定労働時間を超える就労に対する時間外手当が支払われており、税金や社会保険料等の源泉徴収もなされていた。また、原告のように三日前までに届け出れば休めるということはなく、遅刻、欠勤については、減給等の処置がなされることもあった。さらにコスモ商会の初任給は、だいたい月額二五万円位であった。

出勤に際しては、タイムカードを打刻し、無線で指示をうけ、荷物を運送し、作業証明書を搬送先からもらうとともに、運転日報を作成していた。運送に際し、勝手に高速道路を使用することは許されなかった。

(6)  原告による労災申請

本件事故後、原告は、コスモ商会からの指示で、病院を転院した。また、森本は、原告が請求した療養補償の請求書にコスモ商会の事業所の証明印を押印し、これにより療養補償給付については、支給決定がなされたが、森本自身は、原告がコスモ商会の従業員であったかどうかについては知らなかった。しかし、その後、労働基準監督署の管轄が代わり、労働基準監督署から調査が入った際には、舩木は、原告は、コスモ商会の従業員ではないとして、休業補償の証明を拒否し、また先の療養補償について押印したことに関し、森本をしかった。

2  以上の認定をもとに判断する。

原告のコスモ商会での就労形態である、「持ち込み」あるいは「一台持ち」の運転手とは、傭車運転手といわれるものであるが、これは自分でトラックを所有し、それを特定の会社に持ち込んで、経費等を負担しながら、専属的に運送等の業務を行う運転手のことである。原告についても、4441番のトラックの代金を分割で支払いつつ、燃料費、高速代金、車検費用等を負担しつつ、コスモ商会で運送業務に従事していたものであり、また売上げに基づき報酬の額が決められる一方で税金、社会保険料の源泉徴収を受けず、報酬の支払いを受けるために、請求書の作成を求められるとともに、報酬の受領に際しては領収証を作成し、交付していたことからすれば、いわゆる一人親方として、自己の危険と計算で就業していたといえる。

確かに、原告は、午前七時に出勤し、タイムカードを打刻し、制服を着用のうえ、コスモ商会の指示で、指示された場所へ荷物を運送し、作業報告書、運転日報等を作成し、また配送の指示がなければ午後四時に帰ってもよいと言われれていたことや、原告が、コスモ商会で就業をしてから、本件事故までの間に、コスモ商会以外の仕事に従事していたこともなかったことからすれば、原告は、他の従業員と変わらない状態で、コスモ商会で就労していたともいえる。

しかしながら、前記認定のとおり、原告には、運送業務に際して、運送経路の指定や高速道路の使用制限はなかったこと、タイムカードも原告の勤務時間の管理等のために用いられたことはなかったこと(書証略)、原告は仕事を休みたいときは、三日前までに連絡すればよかったことをも考慮すれば、原告が、外見上コスモ商会の他の従業員と同様の形態で就業していたとしても、このことのみで、原告が同社の指揮監督下にあったとまではいえない。

この点、原告は、舩木の指示により荷物も運ばずに岡山から戻ったことがあることから、舩木(コスモ商会)の指揮監督下にあったと主張するが、この舩木の指示の経緯は、前記認定のとおりであって、舩木個人のヤナモトとのトラブルのための要請であり、コスモ商会の代表者としての業務命令とは認められないから、これをもって、原告が舩木の指揮命令を受けていたとまでは認めることはできない。

そして、原告は、コスモ商会で、報酬の額、その算出方法、支払い方法、あるいはロッカーの貸与等において、他の従業員とは全く異なった取り扱いを受けているが、このような運転手は、コスモ商会では、原告のみであったことからすれば、原告に、コスモ商会の就業規則が適用されていたとは認められない状況であったこと、もともと運送業の事業者であり、傭車運転手とは、どのようなものかという知識も十分にあった原告が(原告本人)、舩木から、専属の「持ち込み」の運転手として稼働しないかとの提案を受け、自ら望んでこれを了承し、傭車運転手としてコスモ商会で就労していたこと、原告の療養補償の請求にかかる事情は前記認定のとおりであることをも考慮すれば、原告について、労働者災害補償保険法上あるいは労働基準法上の「労働者」性を認めることはできない。

以上より、原告の請求は理由がない。

3  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 川畑公美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例