大阪地方裁判所 平成14年(ワ)13238号 判決 2003年7月30日
原告 X
同訴訟代理人弁護士 鈴木康隆
被告 日本中央競馬会
同代表者理事長 A
同訴訟代理人弁護士 田島孝
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は、原告に対し、25万6500円及びこれに対する平成14年11月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、原告が、競馬の開催者である被告との間で、事後に的中が判明したところの勝馬投票券の購入契約を自動販売機により締結したにもかかわらず、被告が勝馬投票券を発行する債務を履行しなかったため、得べかりし払戻金相当額の損害を被った旨主張して、被告に対し、購入契約の債務不履行に基づく損害賠償及び訴状送達の日の翌日以降民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を請求したのに対し、被告が購入契約の成立を争った事案である。
第3前提事実(証拠を付さない事実は、当事者間に争いがない。)
1 被告は、日本中央競馬会法に基づき、競馬を行うことを目的として設立された法人であり、大阪市中央区道頓堀において場外馬券売場ウインズ道頓堀を設置している。被告は、同場外馬券売場に勝馬投票券の自動販売機を設置し、勝馬投票券の購入を受け付けている。
2(1) 勝馬投票券の投票には複数の方式があり、そのうち、馬番連勝単式による勝馬投票法とは、1着の馬番号と2着の馬番号の順序を着順通りの順に組み合わせて指定する方式による投票をいう。
(2) 自動販売機による勝馬投票券の購入の方法は、以下のとおりである。
ア まず、購入者が、勝馬投票券購入額に相当する現金を自動販売機に投入する。
イ 次に、購入者が、被告所定の様式によるマークシート方式の用紙にあらかじめ自らの購入内容に該当するマークを付しておいた投票カードを自動販売機に挿入する。
ウ そうすると、自動販売機が投票を受け付け、自動的に勝馬投票券を発行する。適式に投票カードに記載がされた場合、投票券の発行に際して購入者が投票内容を確認するための操作はなく、購入者が金銭の返還を求める方途はないことになる。
(3)ア 現金及び投票カードが投入され、正常に識別された場合、自動販売機に付属する画面上には、「計算機と交信中です。しばらくお待ち下さい。」との表示の下に、購入者の選択した投票内容及び購入金額が表示される(別紙1)。また、投入金額に残金が存する場合、自動販売機の画面上には、上記の表示の後、「精算」及び「投票カードを入れるか精算を押して下さい」との表示及び残金額が表示され(別紙2、3)、これに対し、購入者は、残金を精算するか、投票カードを追加的に投入して購入を継続するかを選択することになる(弁論の全趣旨)。
イ 購入中、自動販売機に異常が発生し、機械の作動が停止した場合、自動販売機付属の装置から音が鳴ると同時に、自動販売機の画面上には「そのまましばらくお待ち下さい」との表示(別紙4)が現れる(弁論の全趣旨)。
3 原告は、平成14年8月11日午後1時50分ころ、上記場外馬券売場において、被告の主催する小倉競馬2002年3回2日第8レース(サラ3歳上500万下指定、芝1200メートル、出走時刻午後2時00分)の勝馬投票券を購入しようとして、馬番連勝単式専用投票カードのマークシート欄に所定のマークをし、現金2万円及び同投票カードを上記売場の自動販売機に投入した。
同投票カードには、上記レースにつき、延べ7個の組み合わせに係る投票金額合計1万5000円の投票内容が記載されていた。その1つには、「馬番(1着)」欄に4番、「馬番(2着)」欄に13番、金額欄に1000円の投票に相当する欄にそれぞれマークが付された、1着4番と2着13番の組合せに対する1000円の投票が含まれていた。
4 ところが、原告が上記現金と投票カードを自動販売機に投入したところ、紙幣が機械の中に詰まり、自動販売機の紙幣識別部の異常エラー(機器が自動販売機に投入された紙幣を読み取ることができなくなる異常)が発生したため、勝馬投票券は発行されなかった。なお、現金及び投票カードの投入並びに上記エラーが発生した時点は、午後1時57分26秒であった(乙1)。
5 その後、被告職員が上記自動販売機の点検を行い、その内部に原告が投入した2万円が詰まっていたのを発見して原告に同金額を返却したが、その時点では既に上記レースの発売締切時刻である午後1時58分00秒が経過していた。そして、勝馬投票券の購入は、その発売が締め切られた後は一切受け付けられないこととされていた。
6 結局、原告は、上記レースにつき、被告から上記内容の勝馬投票券の発行を受けることができなかったところ、上記レースの結果は、1着4番、2着13番であり、馬番連勝単式の払戻金は100円の投票に対し1万7150円の割合による額であった。
第4争点及び当事者の主張
1 原告と被告との間で、勝馬投票券の購入に係る契約が成立していたか。
(1) 原告の主張
ア 自動販売機によって商品を販売する場合、当該自動販売機の設置者たる売主は、その自動販売機を設置した時点において、商品の販売の申込みをし、買主は、現金を投入することにより承諾の意思表示をし、これにより売買契約が成立するものというべきである。したがって、本件では、原告が現金及び投票カードを勝馬投票券の自動販売機に投入した時点で、原告と被告との間で勝馬投票券の購入契約が成立したものである。
イ 自動販売機による物品の売買について、自動販売機の設置が申込みでなく申込みの誘引であるとすると、自動販売機が、利用者たる買主に対して、商品を売るか否かの自由を有するという奇妙なことになってしまう。
(2) 被告の主張
ア 勝馬投票券を購入しようとする者が自動販売機に金員と投票カードを投入することが契約の申込みに当たり、被告がそれに応じて勝馬投票券を発行することが契約の承諾に当たるというべきである。購入者と被告との契約関係は、勝馬投票券の発行をもってする発売によって発生するのであり、勝馬投票券の発行がない以上、投票に基づく契約関係は成立しない。
イ 勝馬投票券の自動販売機による売買においては、通常の自動販売機の場合と異なり、勝馬投票券の売得金が集計され、それを基礎として払戻金が計算され、的中者に支払われるのであるから、どのような内容の投票がいくらあったのかを画一的かつ一律に確定することが制度上必要不可欠である。また、不特定、大量の的中者との間の大量決済処理には勝馬投票券の制度が不可欠である。かかる制度上の特質からすれば、投票の成立の有無は勝馬投票券の発行をもって画し、理由が何であれ、発行に至らなければ投票にはカウントしないとする取扱いにせざるを得ない。
ウ したがって、通常の自動販売機の場合はともかく、自動販売機による勝馬投票券の販売の場合は、勝馬投票券の発行によって初めて投票に基づく契約関係が発生するといわなければならない。
2 仮に上記契約が成立していた場合、被告が勝馬投票券を発行しなかったことによる原告の損害額。
(1) 原告の主張
ア 払戻金額から投票金額を控除した残額 15万6500円
原告は、本来ならば17万1500円の払戻金を取得し得たはずであるところ、それを取得できなかった。ただし、原告は、上記勝馬投票券を購入するのに際し1万5000円を投じていたから、同金額を控除した残額15万6500円が原告の被った損害である。
イ 弁護士費用 10万円
原告は、被告が本件でのトラブルに際し何ら誠意ある態度を示さなかったことから、弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなった。そのための費用10万円は、原告の被った損害である。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。ただし、正常に勝馬投票券が発行されていた場合、原告の主張する金額が払戻金として原告に支払われていたであろうことは争わない。
第5当裁判所の判断
1 争点1(勝馬投票券購入に係る契約の成否)について
(1) 勝馬投票券発行に係る契約の法的性格について
争点1について判断する前提として、まず、原告が被告との間で成立したと主張する勝馬投票券発行に係る契約(以下「本件契約」という。)の法的性格がいかなるものであるかが問題となる。原告は、本件契約が勝馬投票券の売買であり、その成立により被告に勝馬投票券を交付すべき債務が生じる旨主張するのに対し、被告は、本件契約が勝馬への投票及びそれが的中した場合に被告が所定の払戻金を支払うことを内容とする契約(一種の射倖契約)であって、勝馬投票券が現実に発行されることにより成立する契約である旨主張する。
そこで判断すると、勝馬投票券は、これによる投票が的中した場合には所定の金額の払戻金の支払を受けることができる権利(競馬の結果が確定するまでは一種の期待権ということができる。)を表章した証券であって、券面に債権者名は表示されず、証券の交付により自由にその権利を譲渡することが可能であり、権利の得喪、移転の法的効果が証券と一体的にのみ発生するものであるから、一種の無記名債権であるということができる。そうすると、本件契約は、競馬の主催者である被告が勝馬投票券という無記名債権を発行し、これを原告に有償譲渡することを内容とする契約であるということができる。
そして、無記名債権は動産とみなされる(民法86条3項)のであるから、その発行を内容とする本件契約は、財産権たる動産所有権の移転を目的とする点において、物品の販売を目的とする自動販売機の場合と異なるところがないものというべきであって、その契約の成否の判断についても同様に考えることができる。
以上を前提に、本件契約の成否につき判断する。
(2) 本件契約の申込みの意思表示について
ア 一般に、自動販売機による物品販売の場合、買主たる利用者が機械を正しく操作すれば、機械が自動的に作動して所定の物品の給付を行う構造となっており、その際、通常は利用者がその契約上の義務である代金を先に自動販売機に投入しない限り商品の選択ができない構造となっていることから、利用者が対価の支払を先履行することが必要とされている。したがって、自動販売機の設置者が利用者による自動販売機の利用の際、その都度商品の供給に応じるか否かを判断し、決定することは想定されていない。
しかしながら、自動販売機を利用して行う売買契約も契約の一種であり、契約が申込みと承諾により成立するものである以上、利用者(買主)と自動販売機の設置者(売主)との間における申込みと承諾の意思表示の合致が契約成立の要件として観念されなければならないというべきである。
イ 原告は、本件契約の成立につき、自動販売機による売買契約の場合、売主による機械の設置が契約の申込みに当たり、これに対し利用者が機械を操作することが承諾であり、利用者が機械の操作を完了した時点で契約が成立する旨主張する。確かに、通常は利用者が自動販売機を適切に操作すれば自動的に商品が供給されることからすると、このような理解も考えられないではない。
しかしながら、売買契約の申込みの意思表示といい得るためには、申込みの時点において目的となる商品の内容が(少なくともその本質的部分においては)確定していることが必要と解されるところ、自動販売機による販売の場合には、一般に、機械自体に多種多様な種類がある上、個々の自動販売機についてみても、複数の商品を提供できるものがほとんどであり、利用者が具体的に希望する商品を選択しない限り、売買契約の本質的要素である売買対象物が確定しない。すなわち、自動販売機が具体的な商品を提供するのは、利用者の選択に従って作動した結果であって、具体的な物品販売の契約内容は、設置者による設置行為自体というより、むしろ、利用者の選択によって初めて明らかになるものということができる。
このような自動販売機の特質からすれば、自動販売機を設置したのみでは、具体的に特定された売買契約締結に向けての設置者の効果意思が外部に表示されているものとは認め難い。したがって、設置者が自動販売機を設置する行為それ自体は、売買契約の申込みには当たらず、申込みの誘引と解するのが相当である。
これを被告の設置した勝馬投票券の自動販売機についてみると、投票券の購入者の側で予め投票カードにマークを付すことが要求され、それにより、購入者が競馬場、レース番号、投票券の種類、投票に係る勝馬の馬番号又は枠番号及び投票額の購入内容を決定することとされている上、発行される勝馬投票券の種類も極めて多様である。したがって、一般の自動販売機における上記解釈は、勝馬投票券の自動販売機についても十分に妥当するものといえる。
ウ 原告は、自動販売機の設置をもって申込みと解しなければ自動販売機が諾否の自由を有するという奇妙な事態が生じる旨主張する。確かに、自動販売機は機械的処理により自動的に商品の供給(本件の場合は勝馬投票券の発行)を行うものであり、それ自体が諾否の判断をするものでないことは原告主張のとおりであるが、かかる機械的処理は、自動販売機の設置者が予め与えた指示の内容に従ったものであり、設置者による効果意思の発現であると捉えることができる。そうすると、契約締結の主体はあくまで設置者であり、設置者が自動販売機の動作を通じて意思表示を行っているものと観念することが可能である。したがって、上記解釈は何ら不合理なものではない。
エ 以上のとおり、被告による勝馬投票券の自動販売機の設置は申込みの誘引であり、原告がこれに現金と投票カードを投入した時点で、原告による本件契約の申込みの意思表示があったと認められる。
(3) 本件契約の承諾の意思表示について
ア そこで、次に、原告による本件契約の申込みに対し、被告による承諾の意思表示があったか否かにつき判断する。
自動販売機による売買契約の場合、一般に、利用者たる買主が金銭を投入し、希望する商品のボタンを押すなどの操作により商品を選択するものとされ、それと同時に、機械が利用者の選択した商品の供給に向け作動し、他方、利用者はこの時点で操作を取り消して自動販売機に投入された金銭の返却を要求することができなくなるのが通例である。そして、ほどなくして自動販売機から利用者の選択した商品が供給されることになる。
このような自動販売機による商品販売の実情に照らせば、利用者が自動販売機の操作を完了し、もはやそれによる契約の申込みの撤回や申込み内容の変更が不可能となった時点において、利用者と自動販売機の設置者との間における売買契約が成立したと解することも考えられるところである。
イ しかしながら、上記のとおり、自動販売機による売買契約の場合においても、契約成立の要件として申込みと承諾の意思表示を観念できる必要があるところ、その設置者による承諾の意思表示(これにより利用者と設置者との間で契約が成立する。)があったといい得るためには、やはり設置者において外部的に、すなわち機械内部の動作ではなく利用者が認識し得る態様において、その意思を表示したことが必要である。
そうすると、自動販売機の作動を通じて、利用者に対しそのような表示がなされた時点をもって契約が成立すると解するのが契約法理に照らしても相当というべきである。
現に、一般の自動販売機においても、利用者が操作を完了し、機械がその旨を認識した(正しく受け付けた)場合には、商品が供給される以前にそのことを示す何らかの表示(例えば、商品のうち選択したものに係るボタンのランプのみが点灯して他は消灯するなど)がなされるのが通例である。
ウ これに対し、商品が現実に自動販売機の機械から排出された時点をもって承諾の意思表示がなされると解することも考えられるところである。
しかしながら、自動販売機は利用者の操作を受け付けた段階でその内部において商品を供給するための準備動作を行うのが通例である(例えば、自動販売機内において物品の調理を行った上で購入者に提供するものにおいては、商品の加熱等がそれに当たる。また、本件のように証券を発券する場合は、用紙への印字などがそれに当たる。)ところ、これらは自動販売機の設置者たる売主による契約上の債務の履行行為への着手にあたるものというべきであり、この時点では既に契約が成立しているものと解するほかない。最終的な商品の供給それ自体は売買契約の履行行為であって、それ自体をもって承諾の意思表示とは解されないというべきである。
エ そこで、以上を前提に本件契約の承諾の意思表示の存否を判断する。
上記第3の2(3)摘示のとおり、勝馬投票券の自動販売機に現金及び投票カードが投入され、投票内容が正常に受け付けられた場合、自動販売機の画面上には、「計算機に接続しています」との表示とともに投票カードに付されたマークシートの内容を表示した画面が現れる。同表示が現れた場合、自動販売機が投票内容を受け付けると同時に、発行に向けて作動を開始し、その後は購入者において購入を撤回できない仕組みとなっている。
また、残金が存する場合も、精算するか追加購入するかの選択画面が表示されるものの、その前段階で上記表示が現れ、これにより、購入者において購入を撤回し得ない状態となる点で相違はない。
そうすると、勝馬投票券の購入契約においては、上記表示が画面上に現れた時点において、被告が購入者の購入申込みに対し承諾の意思表示を行い、これにより、被告と購入者との間で勝馬投票券の購入契約が成立すると解するのが相当である。
なお、被告は、勝馬投票券の自動販売機においては、通常の自動販売機の場合と異なり、勝馬投票券の売得金の集計、払戻金の計算等のためどのような内容の投票がいくらあったのかを画一的かつ一律に確定することが制度上必要不可欠であることや、不特定、大量の的中者との間の大量決済処理という制度上の特質からすれば、発券によって初めて契約関係が発生すると主張する。しかし、前示のとおり、勝馬投票券は動産とみなされる無記名債権であり、その発行に関する契約は自動販売機によるものであるか否かを問わず売買契約と何ら異なるところがないのであるから、売主である自動販売機の設置者と買主である利用者との意思表示の合致をもって契約が成立するといわざるを得ない。したがって、被告の主張する上記制度上の特質を考慮しても、かかる意思表示の合致とは別に、発券自体が本件契約の成立要件になると解すべき根拠はない(なお、前示のとおり、自動販売機が利用者の操作を受け付けて機械的に勝馬投票券の発行の準備を始め、その旨を外部的に表示したことをもって、売主である自動販売機の設置者の承諾の意思表示があったとすれば、勝馬投票券の発行の有無にかかわらず自動販売機が利用者の操作を受け付けた時点で勝馬投票券の売得金の集計、払戻金の計算が機械的には可能ということになるから、勝馬投票券の発行を契約成立の要件とする必要はない。また、無記名債権である勝馬投票券の呈示なしに払戻金の支払請求を認めることはできないと解され、それを認めると、不特定、大量の的中者との間の大量決済処理上も望ましくない。しかし、本件において、原告は、自らが的中者として勝馬投票券の呈示なしに払戻金の支払を求めているのではなく、本件契約が成立したにもかかわらず勝馬投票券の発行がされなかったことが被告の債務不履行として損害賠償を求めているのであるから、被告の上記主張は採用できない。)。
オ ところが、本件においては、上記のような投票の受付表示が自動販売機の画面上に現れたと認めるに足りる証拠はない。
かえって、被告が設置した自動販売機の機械的構造に照らせば、自動販売機が上記受付表示をするのは、自動販売機が購入者の投入した現金及び投票カードの双方を正常に認識することが前提とされているということができるところ、本件では、上記第3の4摘示のとおり、原告が投票カードを投入するのとほぼ同時に、自動販売機が紙幣識別部の異常エラーを生じたものである。そうすると、自動販売機において、未だ上記投票の受付表示をするのに必要な条件が充足されていなかったのであるから、上記表示は現れていなかったものと推認される。
(4) したがって、本件においては、原告と被告の間で本件契約が成立するに必要な被告による承諾の意思表示があったものと認めるに足りず、本件契約は未だ成立したものとは認定できないところである。
2 結論
以上によれば、原告と被告との間の本件契約(勝馬投票券購入契約)は未だ成立していないから、本件契約の成立を前提とする被告の債務不履行は認められない(なお、自動販売機による商品購入の場合には、利用者としては、自らの操作を正常に完了すれば、機械的に商品の供給を受けられるという期待を有するのが通常であり、本件のように自動販売機の異常動作が生じたために契約が成立するに至らなかった場合において、仮にそれが機械の設置者に当該機械の保守点検に関する何らかの落度があったことに由来するとすれば、契約締結上の過失又はそれに類する法理による請求権の成立する可能性が考えられないではない。しかしながら、原告は、本件口頭弁論期日において、本件契約の成立を前提とする債務不履行に基づく損害賠償請求権以外の請求権を主張するものでない旨述べているところである。)。
したがって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中俊次 裁判官 曳野久男 延廣丈嗣)
<以下省略>