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大阪地方裁判所 平成14年(ワ)13586号 判決 2005年3月25日

原告

X1

ほか四名

被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、金一億八六七六万九六八一円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2、原告X3、原告X4、原告X5に対し、それぞれ、金一九八万円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、一〇分し、その七を被告の、その三を原告らの連帯負担とする。

五  この判決は、第三項を除き、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、金二億七九七八万〇〇三一円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2、同X3、同X4、同X5に対し、それぞれ、金三三〇万円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要及び当事者の主張

一  事案の概要

本件は、幹線道路から側道に右折進入しようとした車両と対向車線を直進進行してきた車両が衝突し、右折車両の運転者が後遺障害一級三号相当の後遺障害等の被害を被ったとして、また、同運転者の家族らが同事故により、同運転者の死亡に比すべき著しい精神的苦痛を被ったとして、いずれも自賠法ないし不法行為に基づく損害賠償金及びこれに対する事故日からの遅延損害金を請求する事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実等

(1)  交通事故の発生

ア 日時 平成一一年一一月七日午前一一時五〇分頃

イ 場所 大阪府茨木市<以下省略>先路上

ウ 原告車両 普通乗用自動車(<番号省略>)

運転者 原告X1

エ 被告車両 普通乗用自動車(<番号省略>)

運転者 被告

保有者 被告

(2)  事故の結果

原告X1は、本件事故により、左鎖骨及び左三~七肋骨骨折両側血気胸、左肺挫傷、脾損傷、腹腔内出血、外傷性SAH、脳挫傷、遷延性意識障害、外傷性心液貯留等の重篤な障害を受け、大阪大学医学部付属病院高度救命救急センターに救急搬送された。

(3)  治療

原告X1は、次のとおり、各病院において入通院治療を受けた。

ア 平成一一年一一月七日から同年一二月八日

大阪大学附属病院入院(三二日間)

イ 同年一二月八日から平成一二年一月二八日

大阪脳神経外科病院入院(合計五二日間)

ウ 同月二八日から同年三月三一日

淀川キリスト教病院入院(合計六四日間)

エ 同月三一日から同年九月二〇日

石切生喜病院入院(一七四日間)

オ 同月二一日から平成一三年七月六日

協和会病院入院(二八九日間)

カ 平成一二年九月五日から平成一三年一〇月一七日

協和会病院通院(実一日)

キ 平成一三年一一月七日から平成一四年一月二六日

石切生喜病院入院(八一日間)

ク 同月二七日から同月三一日

石切生喜病院通院(実五日)

(4)  後遺障害

原告X1には、上記治療の末、平成一四年七月六日をもって、頭部外傷後遺症、失語症で、後遺障害等級表第一級三号、労働能力喪失率一〇〇%の後遺障害が固定残存した。

(5)  治療費等

原告X1は、上記(3)のとおり、入通院治療を受けたから、後記のとおりの入通院治療費を要した(金三〇六万九八〇二円)。

<1> 大阪大学付属病院 五七万五〇一〇円

<2> 大阪脳神経外科病院 三五万四一一八円

<3> 淀川キリスト教病院 一二九万五七七二円

<4> 石切生喜病院 八三万九六五二円

<5> 協和会病院 五二五〇円

(6)  内金支払

被告の任意保険会社は、原告X1に対し、医療費名目で内金を支払ったほか、その余の名目で、一四二万四九六七円を支払った。

医療費名目で支払われた金員については、上記(5)<1>、同<2>、同<5>については被告において全額支払われた。

三  争点

(1)  責任原因及び過失相殺

(2)  原告X1の損害

ア 付添介護費用

イ 入通院期間・症状固定後の雑費及び交通費

ウ 家屋改造費・設備更新費用

エ 消極損害(休業損害・逸失利益)

オ その他の損害

(3)  妻子の固有の慰謝料

四  争点に対する当事者の主張

(1)  責任原因及び過失相殺について(争点(1))

ア 原告らの主張

(ア) 被告は、責任原因を否認するが、その主張の実質は、過失相殺の抗弁である。

(イ) 本件が、右折車と直進車の衝突であるとする点は認める。

(ウ) しかしながら、被告の主張には以下のとおりの誤りがある。

すなわち、本件事故現場は南北優先道路と東西道路との交差点であって、当然に交差道路である東西道路への進入を予定している。実況見分調書によれば、事故現場は「市街地」とされ、南北道路と東西道路の交通量について、東西道路一分間五台(一二秒間に一台)と高い割合で見分されている。

(エ) 加えて、被告には以下のとおり重大な過失があり、原告X1にはやむを得ない事情が存在する。

a 原告X1は、本件交差点に明らかに先入し、既に右折を終了し、被告走行車線をほぼ通過し、自車先頭部が交差点東端に達した状態のところに、ハンドルを左に切りながら走行してきた被告車両が原告車両の左側面部に激突したもので、原告車両は「既右折車両」に該当する。

b 被告の運転は、時速二〇ないし二五km以上制限速度を超過した、時速八〇ないし八五kmという無謀な高速運転であり、原告車両を発見しても、左後方を見たり、ハンドルを左に切ったもののブレーキをかけず減速しないまま突っ込んだことを自ら説明しており、過失は極めて重大である(このように、被告が基本的回避義務を怠った運転をしたのは、被告が前方注視義務を怠ったまま急加速し、衝突寸前まで原告車両を発見できなかったことによると考えるのが合理的である。)。

c 被告車両は、国道一七一号線清水交差点を左折して本件南北道路に進入し、本件事故現場に差し掛かったものであるところ、清水交差点から本件交差点はわずか一八四・三mしかない。被告車両が左折進入のため減速した後、本件交差点における時速八〇ないし八五kmとなるまでの間、著しく急激に加速したと考えるほかはなく、そうだとすれば、原告X1は被告車両の接近速度を予測することは極めて困難である(元来、自動車の速度の目測は前方向から見た場合には判断困難である。)。

d そして、これらの事情は、必ずしも被告の挙げる定型的な過失相殺率認定基準には評価し尽くされない特有の要因というべきであり、これらの事情を斟酌するときには、被告の過失の方が圧倒的に重いというべきである。

イ 被告の主張

(ア) 本件事故は、原告X1が、中央分離帯の設置された片側二車線の幹線道路(茨木摂津線)を北進した後、同道路から幅員五・五mの生活道路に東に進入するため右折を開始するに当たり、対向車線を南進してきた被告車両との距離を見誤り右折を行ったことにより衝突に至った、いわゆる右直事故であり、事故の主要な原因は原告X1にある。

(イ) 原被告走行車線は明らかな優先道路であり、中央分離帯の切れ目と交差道路との関係からすれば、右折を予定していない箇所であるから、対向車線直進車両と路外施設進入右折車両との事故例に準じて、原告X1:被告の過失割合は九:一というべきである。

(ウ) また、仮に原告X1の進入予定道路を狭路の交差道路であると考えても、優先道路走行車両と劣後道路走行車両との出会い頭事故に準じて、原告X1:被告の過失割合は九:一というべきである。

(エ) 以上によれば、仮に被告に時速二〇km程度の速度違反があったとしても、過失割合は八:二である。

(オ) 被告は、原告車両の助手席前方に衝突したから原告車両は既右折に当たらない。

(2)  原告X1の損害に関する争点(争点(2)以下)について

ア 付添介護費用(争点(2)アについて)

(ア) 原告らの主張

a 入院中の近親者付添看護費用

(a) 入院中の近親者付添看護費用は、受傷の部位程度、症状の内容、被害者の年齢等の事情により、医師の指示がない場合や完全看護システム採用の病院においても認められる場合がある。

(b) 重度の意識障害を伴う患者においては、近親者による付添看護が必要であり、職業付添人の外に近親者付添看護費用が認められる裁判例も数多い。

(c) 外傷性脳損傷患者に対しては、付添看護者が、感覚刺激の系統的使用による覚醒レベルの改善を図ることが重要であり、そのために近親者付添看護者の努力が不可欠である。医師の指示の下、家族と医療スタッフの協同により音楽運動療法を始めとする感覚刺激療法の実施及び家族の語りかけを継続するという治療方法により、顕著に改善する症例が報告されている。

(d) 原告X1の受傷内容や症状からすれば、全入院期間にわたり、病院看護に加え、排泄関係、着替え、体位交換、痰の除去、食事介護など、全般にわたり家族の介護が必要なことは明らかである。

(e) 原告X1は、植物状態から脱する上でも、近親者による付添看護の役割は小さくなかった。すなわち、妻である原告X2は、

<1> 阪大病院医師から、「介護に最善を尽くして欲しい」「家族の付添、本人の好きな音楽を聴かせ、呼びかけ、手足を握るなどの感覚刺激を与え続けるように。」との指示を受け、そのとおり実行した。

<2> 大阪脳神経外科病院医師からは、車椅子に乗せたり、さまざまに嗅覚を刺激し、さまざまな手段により触覚を刺激し、マッサージをするなどの刺激を与え続けた。

<3> 石切生喜病院では、医師の指揮の下で、医療スタッフとともに音楽運動療法を実施するなどの治療を続けたため、この音楽運動療法の訓練中に原告X1は、自力で立とうとする動作を始めた。

<4> 以上の訓練を続けた結果、原告X1は徐々に症状が改善し、介護者が身体を支えて導くと介護者にすがって立ち上がり、足を前に進める動作(支持歩行)の段階まで症状が改善し、介護者が食物を口元まで持っていって与えることにより、食物を口から食べ、嚥下することまで可能となった。

(f) 以上の介護を実現するため、原告X2は、日中に毎日通院して毎日付添、夜間や週末など原告X2が自宅の家事育児を行う間は原告の姉がつきそうなどした。これらの近親者介護の積極性、特殊性に照らせば、全入院期間六九二日につき、一日当たり、一人分の近親者付添看護日当として単価七〇〇〇円が相当である。

七〇〇〇×六九二=四八四万四〇〇〇円

b 在宅通院期間・症状固定後から口頭弁論終結時までの近親者付添看護費用

(a) 症状と必要な介護の程度(主たる介護者一名と補助的介護者一名)

<1> 原告X1は、初期の寝たきり状態から脱し、車椅子座位が可能な状態まで回復したが、依然として頭部外傷後遺症、失語症であり、四肢麻痺、失語、てんかんなどの症状を伴う後遺障害が残り、起き上がり、座位保持に要介護、移動動作・移動・食事・排泄・意思疎通などに全介護を要し、左上肢麻痺は重度で、体幹失調があり、バランス能力が低下しており、失語、発声・発動性・知的活動の低下を呈するというレベルである。

<2> このため、二四時間介護で、かつ、起床、起立、歩行、移動、車椅子への着座、経口摂食、衣類着脱、入浴など全身の管理と介助が必要である。これらを看護する肉体的・精神的負担は著しい。

加えて、筋肉や関節の緊張が強く、不規則な体動があるため、衣類着脱、排泄介護、車両乗降、入浴、移動については、一名のみによる介護では困難かつ危険が伴う。

<3> 現状は、原告X2が専業主婦業を行いながら、二四時間介護を勤め、夜間、土日、休日には実姉A(以下「姉A」という。)による補助的介護及び平日は毎日朝夕合計三時間の公的ヘルパーによる補助的介護で、暫定的に辛うじて支えてきたものであり、医療関係者はすべて一人での介護は無理であると認めている。身体に直接働きかける介助作業のみに限っても、主たる介助は一日のうち午前六時から午後九時までの一五時間必要であり、補助的介助も朝一・五時間と夕方一・五時間の合計三時間が必要である。

<4> これらの症状や障害内容と程度に照らせば、少なくとも、主たる介護者一名に加え、これを補佐するために過去の補助的介護者の看護費が償われるべきであるとともに、将来にわたって主たる介護者一名と補助的介護者一名の介護費用が賠償されるべきである。

<5> 以上によれば、

ⅰ 主たる介護者原告X2が就労可能年限に達するまでは、同人がこれを勤め、かつ職業付添人一人による補助的介護を要するとして計算すべきである。

ⅱ 主たる介護者原告X2が就労可能年限に達した後は、住み込みによる職業的介護人一人と、パートによる補助的介護者一人による介護を要するとして計算すべきである。

(b) 上記の計算

<1> 全通院期間及び症状固定から口頭弁論終結日(平成一七年二月二日)まで

ⅰ 療養期間

本件交通事故発生から口頭弁論終結日までの療養期間の合計は一二二三日である(事故発生から同日までの日数一九一五日から入院期間六九二日を控除)。

一万円×一二二三=一二二三万円

ⅱ 原告X2の付添看護料単価

原告X2の二四時間付添体制及び負担の重さを考慮すると一日当たり一万円が相当である。

ⅲ 過去のホームヘルプサービス実費

九万五三五〇円

ⅳ Aによる補助的付添看護料単価

一日当たり三〇〇〇円を相当とし、土日のみとすると全療養期間中の七分の二が相当である。

三〇〇〇円×一二二三×二/七=一〇四万八二八五円

<2> 将来の(口頭弁論終結後)付添看護費用

ⅰ 原告X2が六七歳となる(平成○年○月)まで(二二・一年)

(ⅰ) 原告X2の看護日当としては、上記同様一日当たり一万円が相当である。

(ⅱ) 職業介護人による補助的介護費用としては、一日当たり六〇〇〇円とするのが相当である(身体障害者居宅介護サービス説明書によれば、午前中の一時間半は六一九〇円、夕方の一時間半は七七三八円である。)。

(ⅲ) 合計

(1万円+6000円)×365×13.2=7708万8000円

ⅱ 原告X2が六七歳に達した後原告X1の平均余命(四七歳の平均余命三一年)まで

(ⅰ) 職業介護人による早朝夜間を含む一五時間の主たる介護者の日当は、二万円が相当である。

(ⅱ) 職業介護人による補助的介護費用としては、上記同様一日当たり六〇〇〇円とするのが相当である。

(ⅲ) 合計

(2万円+6000円)×365×(31年ライプニッツ係数-13.2)=2270万9570円

(イ) 被告の認否・反論

a 入通院中の付添看護費用

(a) 入院期間中

原告は、意識障害などの症状により、いわゆる寝たきりの状態で入院していたものであって、入院期間を通じてほとんど症状に変化のない安定した状態が継続していたのであるから、付添看護は不要であった。

また、原告X1が入院していた病院はいずれも完全看護であって、付添看護人がいなくとも看護し得る十分な体制を整えている。

(b) 通院期間中

原告は、支持歩行の段階まで症状改善し、食物を経口摂取して嚥下することも可能となったのであって、一名の付添看護で十分であるといわざるを得ず、日額六〇〇〇円で計算されるべきである。

b 後遺障害による将来の付添看護費用

否認する。上記同様、原告X2一名の付添で十分看護可能である。

イ 入通院期間・症状固定後の雑費及び交通費(争点(2)イについて)

(ア) 原告らの主張

a 紙オムツ、尿とりパット、浣腸

原告X1は、排便・排尿管理ができず、常時、便や尿を漏らして衣類を汚すため、紙オムツ、尿とりパットが離せず、浣腸の使用を要し、生涯にわたってそれらの費用が必要である。

b 電解質補助飲料、栄養補助用ゼリー、とろみ剤、嚥下補助剤、口腔刺激栄養補助食品、体調悪化時等の特殊加工食品、排便・体調調整用漢方薬、ステップアップミルクなど

<1> 電解質補助飲料(ベビー飲料、イオン飲料、ポカリスエット)

原告X1は水分補給能力が限られているため、健常者であれば本来必要のない電解質補助飲料であるベビー飲料、イオン飲料、ポカリスエットを常時摂取する必要がある。

<2> 栄養補助用ゼリー(カロリーメイトゼリー、ライトミールゼリー、キューピーアイソニックゼリー、エンガード)

嚥下及び咀嚼が困難であるため、主に水分を補給し、微量栄養による栄養を摂取し、あるいは、薬を混ぜて服薬させる(入院中も病院からの支給はない)ため、普通のヨーグルトよりやや柔らかい蜂蜜状の流動体で喉越しのよい栄養補助用ゼリー類(エンガード、カロリーメイトゼリー、ライトミールゼリー、キューピーアイソニックゼリー)を摂取する必要がある。

<3> とろみ剤(スルーソフト)

喉越しをよくして咀嚼、嚥下を容易にし、誤嚥を防止するために、とろみ剤のスルーソフトを、食物や飲料・流動食物に入れてとろみを付ける必要がある。

<4> 口腔内刺激栄養補助食品としての「プリン」、「アイスクリーム」

そもそも、原告X1は、意識レベルが低いため、口腔内に物が入っても、直ちに咀嚼・嚥下困難なため、食事を開始する前に、予め割り箸の先にガーゼを巻いて冷凍庫で凍らせておいたもので唇や口腔内をなぞって刺激を与えて口腔内を覚醒させ、飲み込みをよくしておく必要があり、介護者は日常的な介護作業として行っているという常態にある。

原告X1の全身的な体調が悪化したり意識レベルが低下すると、そのような状態が継続し、終始咀嚼も不十分になるため、冷たく、嚥下しやすく、高カロリーの、プリン、アイスクリームなどを口腔内に入れて栄養を摂取させる必要がある。

原告X1の場合は、プリンやアイスクリームも生命、健康を維持するための補助食品として必要である。

<5> 非常時・体調悪化時のための特殊加工食品

原告X1が常時介護を要し、目を離すことができないため、介護者の原告X2は、終日手一杯で、自らの分を含めて昼食を作ることができない。また、原告X1の体調が悪化したときは、咀嚼能力、嚥下能力低下のため、食物はよほど細かく刻むなど、嚥下の容易な状態になった食物でなければ摂取することができない。

このような介護の必要や体調悪化等の非常時については、高齢者や身障者対象の弁当宅配専門業者「宅配クック ワン・ツウ・スリー」の、細かく刻んだ身障者用弁当宅配や、刻み、とろみ、すりつぶしのついた宅配冷凍食品「タイヘイはつらつ御膳」を利用せざるを得ない。

これら身障者用食品宅配「宅配クック ワン・ツウ・スリー」の製品も、冷凍食品「タイヘイはつらつ御膳」も、いずれも通常の食品より割高で別途の計算を要する。

<6> 漢方薬

体調や排便は不安定であり、摂食による栄養補給が十分できないため、体調を維持調整し、排便を調整するために、漢方薬の服用が不可欠である。

<7> ステップアップミルク

さらに、全療養期間中を通じ、体調維持のための栄養補助食品、兼、便通促進剤として、弱くなった消化管でも吸収しやすく、便通にもよいものを飲ませる必要上、とろみを付けた消化し易いステップアップミルクと呼ばれるミルクを口まで持って行って飲ませている。

c 水道代、電気代、ガス代

なお、日中、夜間を問わず、失禁が多く、洗濯の回数が増加したため、電気代、水道代、ガス代も飛躍的に増加した。早朝の様子を見ると、掛け布団が全く身体の上になく、かつ、ズボンまで下ろし、尿が大量に漏れている場合もあって、風邪を引きやすいため、体調維持の必要上、自宅での生活を送る通院期間、後遺障害固定後の療養期間中、一晩中、床暖房を点けている。そのため、電気代、水道代、ガス代も多額になっているので、慰謝料斟酌事由としての考慮を求める。

d 交通費

<1> 入院期間中の介護者の通院交通費

原告X2は、自宅の家事育児をこなしながら入院中の原告X1の付添看護に従事するため、日中は、毎日、原告X1の入院先に通院し、夜間は家事育児を行っていた。そのため、通院交通費の実費を要した。

夜間及び週末は、これに代わって姉Aが、自家用車を運転して原告X1の入院先で付添看護に当たり、入院用品を運搬するなどしたため、これにも実費を要した。

被告はすべて公共交通機関を利用すべきであったと主張するが、交通費の請求が控え目なものであることは、交通費の多くを公共交通機関のカードが占めていること、姉Aに自家用車で運び、その場合は高速道路料金のみ計上していること、急性期であったり、緊急を要するなど万やむを得ない場合や、公共交通機関の便がない場合に限って、タクシーを利用していることに照らして明らかである。

<2> 在宅通院期間中の通院交通費

原告X1の症状、ないし、後遺障害の内容、程度に照らして、症状の維持、悪化防止、心身状態の改善のためにはシャントをはじめとする医師による治療に加えて、作業療法士、理学療法士、言語療法士によるリハビリ、音楽運動療法が必要である。

現在、医師からは、脳障害による意識レベルの維持、向上を計るために、リハビリとして、健康状態が許す限り、頻繁に外出させることが必要であるとの指示を受けている。そのうち、理学療法の主な内容は、全身の関節可動域を確保するためにストレッチや歩行訓練を受けること、作業療法の主な内容は、肩、腕、手首、指などの可動域を確保するために、マッサージをなし、呼びかけて簡単な作業動作をさせる訓練を受けること(呼びかけに応えることは困難であるが)、言語療法の主な内容は、嚥下能力や発音能力を維持確保するために、口腔内を刺激し、喉・首・肩・顔面をマッサージし、水を与えて飲ませ、発音を促し、呼びかけてコミュニケーションをとるよう促す訓練を受けることである。

これら治療やリハビリにより、原告X1の全身的な体調や能力は維持、確保されているところが大きいところ、その通院、通所には、車椅子用のリフトタクシー、介護タクシーなどを利用せざるをえない。

e 雑費算出

<1> 領収書類の残っている交通費及び個別物品について計上すると以下のとおりとなった。

ⅰ 入通院期間中の雑費

一六四万五八二四円(一日当たり一六九一円)

ⅱ 症状固定後の雑費

六一万七九六〇円(一日当たり一六五二円)

ⅲ 全期間一三四七日分の合計は、二二六万三七八四円となり、一日平均単価は一六八〇円となるから、本件雑費計算単価は控えめに見ても一日当たり一六五〇円を要するというべきである。

<2> 口頭弁論終結時までの雑費合計

上記の単価により、事故日から口頭弁論終結時(平成一七年二月二日)までの一九一五日間の雑費を合計すると、三一五万九七五〇円となる。

1650円×1915=315万9750円

<3> 症状固定後から平均余命までの雑費合計

原告X1が症状固定となった四七歳から平均余命三一年(ライプニッツ係数一五・五九三)までの介護雑費合計は、九二六万二二四二円となる。

1650×30×12×15.593=926万2242円

(イ) 被告の認否反論

a 入院中の雑費

入院雑費が必要であるのはせいぜい当初の半年までであり、原告の症状の変化のなさにかんがみれば、それ以降は雑費不要である。

b 通院交通費

介護者の通院交通費は否認する。

c 将来の介護雑費

否認する。

d 雑費項目毎の認否

(a) 上記a(おむつ等)

おむつ代としては月額一万円程度で足りる。

(b) 上記b

<1>(電解質補助飲料)必要性がない。

<2>ないし<5>(特殊加工食品)調理は可能であり、相当因果関係がない

<6>(漢方薬)必要性がなく、相当因果関係に欠ける。

<7>(ステップアップミルク)必要性がなく、相当因果関係に欠ける。

(c) 上記c(電気代等)

数額が不明である。

(d) 上記d(交通費)

公共交通機関を利用した移動が可能であり、作業療法士等の治療は医学的効果が証明されているとはいえない。

ウ 家屋改造費・設備更新費用(争点(2)ウについて)

(ア) 原告等の主張

a 原告X1の障害内容と家屋改造の必要性

原告X1は脳損傷後遺障害による重度障害者であり、急性期の寝たきり状態は脱したものの、意識障害が顕著で、周囲の者が判別できているのか否かも分からず、周囲の者の意思がどの程度伝わっているのかも定かでなく、発語もないなど、意思疎通は著しく困難である。

また、四肢麻痺、体幹失調のために、自力では起き上がることもできず、上肢もほとんど使えない。さらに、てんかん症状を呈し、身体の緊張が強く、急に体をのけぞらせたり、上肢や下肢を突っ張らせたりして、ベッドや車椅子からさえずり落ちることがある。このように自力では生活が不可能であり、特殊ギャッジベッドと車椅子の生活を送り、常時紙おむつをあてがい、起床から、着替え、移動、食事、排泄、入浴、外出等の全生活にわたって、二四時間体制の介護が必要であるばかりか、一刻も目を離すことが出来ない状態にある。

b 平成一三年春の一部改造工事と必要性

<1> 在宅通院治療の開始による応急的住宅改造の概要

平成一三年春、原告X1が退院し、入院治療から在宅通院治療となるにあたり、原告X2は、常時介護と常時監視が必要で目を離すことのできない原告X1に対する介護を一手に引き受け、幼い子供達三人の養育その他の家事全般との両立をはかる必要に迫られた。

そこで、緊急の課題である常時介護・常時監視と、育児及び家事との両立を計ることを目的として、敷地面積が狭いために三階建の縦構造をなす狭小な原告ら住宅について、原告X1の療養空間を、台所や風呂、洗濯場に隣接し、本来は家族全体のリビング兼食堂の役割を担っている二階部分に設けるとともに、一階と二階の間にエレベーターを設置することを骨格として、平成一三年四月ないし七月の間、次のとおりの応急的な住宅改造工事を施工した。

<2> 平成一三年春の個々の改造工事の内容と必要性

ⅰ 一階、二階間の専用エレベーターの設置

原告X1宅は敷地面積が狭く、一階あたりのフロア面積が狭いため、それを補うために三階建構造にして、そこに夫婦と子供三人の家族五人が生活している。

原告X1の居室・療養空間である二階から一階への縦移動が不可欠であるため、その間に原告X1を車椅子に乗せたまま利用するための専用のエレベーターを新設した。なお、他の家族は階段を利用しており、このエレベーターはX1の専用であって、他の家族が利用することはない。

ⅱ 玄関の引き戸(平成一三年春施工)

玄関は従前ドアであったが、車椅子での出入りを可能にするため、車椅子用の広い引戸に改造した。

ⅲ 玄関アプローチの段差解消

脳損傷障害の診察やリハビリのために、比較的頻繁に外出する必要があり、その際は自動車を利用することになるが、自家用車がないため、車椅子のまま乗車できる特別のタクシーを利用するか、姉Aの乗用車を利用することになる。

いずれを利用するにしても、てんかん症状、身体緊張のために、不意に上体をのけぞらせ、あるいは、意識がないまま車内のサイドブレーキレバーに触れようとすることがあるため、乗降時には介護に困難を極め、また、乗車時も目を離せない。このように自動車の乗降の際の介護が困難であることから、外出時には、自動車を玄関に横付けし、車椅子ごと自動車に乗せ、又は車椅子から抱え上げて自動車に移動させる必要上、玄関アプローチの段差解消工事を施工した。

ⅳ 手摺(一階玄関、一階・二階の間の階段、二階便所内)

なお、エレベーターの故障時や非常事態でエレベーターが使用できない場合に階段を利用することに備えて一階と二階の間の階段に手摺を設置した。二階便所は原告X1も利用する。

ⅴ 二階共用空間(居間、食堂)の療養室への応急改造

退院に際し、原告X1の症状と、常時介護、当時幼かった子供達の養育と原告X1に対する常時介護の両立の観点から、応急措置として、家族の共用空間である二階の元和室六畳間と食堂をバリアフリーの洋間に改造し、X1の療養室と兼用した。居間と食堂の間は間仕切りを撤去してアコーディオンカーテンに改造し、居間に特殊ギャッジベッドを置いて、療養室としてきた。冷えによる身体の緊張、床に触れる足部分の褥創の発生等の健康悪化を防ぐため床暖房を施工した。一階に通じる階段口に転落防止用のドア状仕切りを施工した。

ⅵ 二階便所

介護の必要上、二階便所は、ドアを左右両側の二箇所に設置するとともに、バリアフリー化し、特殊便器、手摺取付等を施工した。

ⅶ 二階洗面所、浴室

洗面所のドアを車椅子での出入りを可能にするため広い引戸に改造し、洗面所フロアの段差を解消し、手摺や滑り止め等を設置した。

<3> 平成一四年冬ユニットバスの改造工事と必要性

浴室に、介護者の入浴介護作業を可能にするため広く段差のない浴槽・壁・天井、扉が一体となったバスユニットを設置し、洗面所フロア・浴室フロアの段差を解消し、入浴用の昇降機と附属の背付チェア、手摺等を設置した(原告X2の陳述書は、工事の時期に関する点を訂正する。)。

c 平成一五年冬の残りの改造工事と必要性

<1> 在宅通院療養実績を踏まえた残りの住宅改造の概要

二年半に及ぶ在宅による通院、療養生活を経て、後遺障害が固定したので、その間の生活実績を踏まえ、ⅰ)自動車を横付けする玄関アプローチ上に屋根を設置すること、ⅱ)一階に原告X1のベッドを置き専用トイレを隣接させた療養室を設けること、ⅲ)一階の療養室に天井走行リフトを設置することを内容とする住宅改造工事を実施した。

<2> 平成一五年冬の個々の改造工事の内容と必要性

ⅰ 玄関アプローチ上への屋根設置

雨天時に、自動車乗降時に、介護作業中の者ともびしょ濡れになるため、それを防ぐために、自動車を横付けする玄関アプローチ上に屋根を設置した。

ⅱ 一階療養室設置

事故後、在宅通院生活に入るに際し、子供たちが幼かったという事情もあって、常時介護・育児との両立の必要上、上記のとおり、応急措置として、元来家族全員の共用空間である二階部分の和室居間と食堂をバリアフリーに改造してX1の療養室と兼ね、一階部分は空き部屋のまま放置せざるを得ず、納戸として利用してきた。しかし、二階でベッドと車椅子の生活を送るのはあまりに狭い上に、現在では長女と次女が成長して大学、高校に入学したため、X1の療養についても、食事その他生活時間帯には従来どおり原告X2が家事や育児のかたわら介護することのできる二階で家族と触れ合いながら生活する一方、就寝時や休養時に家族とは別室で十分に休むことができるようにするとともに、思春期を迎えた子供達が就寝中の父に気兼ねすることなくリビングや食堂での時間を過ごすことができるようにするために、一階にベッドを置き、専用トイレを隣接させた療養室を設け、天井走行型リフトを設置して、介護者である原告X2とともに車椅子とベッドで療養生活を送ることができるようにすることに主眼を置いた改造工事を施工した。被介助者である原告X1が重度の障害を有する大柄の成人男子であり、介助者である小柄な原告X2が非力な女性であり、トイレ等の介護に著しい困難を生じることに鑑みて、療養室と身障者トイレを結ぶ電動式天井走行リフトを設置したものである。

d 二階の改造等が必要ないとの被告の主張について

<1> リフト、寝室・居間の確保、隣接トイレ、入浴の重度介護、手すり、スロープの必要性は肯定されていること

被告は、整形外科医師による、整形外科的な動作能力の制限への対応を中心とした意見書(乙三)を提出するが、以下の必要性は被告も認めるところである。

まず、乙三の意見書は、自力での実用動作は、ほとんどできず、常時の重度の介護(世話)と介助(手助け)が必要な状況であること(同意見書二頁)、失禁も大小便共にあること(同意見書二頁)、天井走行型リフトが必要であること(同意見書三頁)、患者のための寝室あるいは居室として、ベッドを置き、介助により車椅子へ乗り移ることができるように充分なスペースを確保する必要があり、それだけで少なくとも六~八畳の広さが必要であること、トイレ、洗面所、風呂場は寝室に隣接させて設置する必要があること、入浴には重度の介助が必要であり、天井走行型リフトによる移動が適当であること、トイレは洋式で洗面所とも車椅子対応であること、段差を解消し、手すりを設けること、住宅内への出入りのためにスロープや昇降機を設置すべきことなどが指摘されている。以上の諸点は、本件患者の整形外科的な動作能力の制限への対応という点で、異論のないところである。

<2> 建築学的、医学的観点等から二階改造、カーポート、床暖房等の必要性は肯定されること

被告は二階の改造工事等は元来必要がなかったと主張するが、理由がない。

本件は、患者を含む家族五人が居住する狭小敷地上の三階建住宅について、脳外傷重度障害者用介護住宅への改造を行うという事案であり、二階の改造工事等が必要であったことは明らかである。

ⅰ 二階部分の改造の必要性

第一に、本件建物では、敷地面積が狭小であるため、一階には患者と介護者のベッドを置き、トイレ、洗面所を設置し、リハビリ訓練の空間を確保すると、浴室に充てるための空間は残されていない。すなわち、一階には付添い介護者が休む空間が必要であり、浴室を設置するスペースは残されておらず、二階の改造を要することは明らかである。

第二に、被告意見書は、QOLの改善は賠償範囲に枠外であり、共用空間の改造は相対的なものであるので、それに伴う損害金の認定に当たっては、割合認定が必要であると述べるが、理由がない。

本件患者は、目の離せない常時要介護・要監視者であり、他方、介護者・監視者である妻は二階で家事、育児に当たらざるを得ないため、日中は、介護者と共に二階に上げて車椅子を中心とし、必要に応じてベッドで休むことのできる生活を確保する必要があり、したがって、二階での生活を可能にすることは、住宅改造において、まさに不可欠の必要項目である。加えて、重度の意識障害を伴う患者については、意識障害状態の改善のためには、家族からの働きかけと触れ合いが不可欠であり、この点から、家族全員が日常生活を送る空間である二階については、その一員である患者本人も従来どおり出入りできるよう改造を施すべきであり、そのためには、エレベーターの設置とバリアフリー化が不可欠である。

ⅱ カーポート(玄関アプローチの屋根)の必要性

乙三の意見書は、玄関については、アプローチの段差解消、並びに、引戸は必要かつ妥当であるとする一方、屋根の設置は医学的に絶対必要ではないと述べている。しかし、本件患者は、リハビリ、その他治療的必要から外出する必要があり、屋根の設置は、その外出の際に患者本人や介護者が雨に濡れることを防ぐために必要なのであって、療養雑費として計上したリハビリ通院の頻度もそれを裏付けている。

ⅲ 床暖房の必要性

乙三の意見書は、屋内の改造、修繕について、手すりや天井走行リフトは必要であるとしつつ、床暖房はエアコンで足りるので不要であると述べている。

しかし、重傷脳外傷患者の特徴として、体温調節機能が障害されているため、本件患者は下半身の冷えが顕著で、床に触れる足部分に褥創が発生しやすいところ、エアコンの暖気は低い位置には十分に行き渡らないため、原告X1の場合は、体調維持と褥創防止のために床暖房が必要である。

ⅳ 尿漏れによる張り替えについて

乙三の意見書は、尿漏れによる張り替えは前例がないと述べているが、本件患者について、排便排尿失禁があることは意見書も認めるところであるし、そのために床が腐りかけていることも厳然たる事実である。よって、腐りかけた床を張替え、腐ることを防止するためビニール加工を施した床に改造することが現に必要である。

ただし、本件訴訟では、床暖房施設の更新(後記五項)に伴う床の張替えのみを考え、それ以外に尿漏れに伴う床張替えは考えない。

<3> まとめ

乙三の意見書は、本件住宅の改造には、医療従事者、建築家、主治医、担当訓練士の意見が必要であると指摘している。

しかし、すでに検討したとおり、理学療法学、作業療法学、脳神経科学、建築学の観点からの検討をも総合すると、結局、本件において原告側がなした住宅の改造は、いずれも必要に迫られてなした有用な改造であることが明らかであるから、いずれも本件事故との間の因果関係は肯定されるべきである。

e 改造工事費用 合計金二一一〇万一七七七円

<1> 平成一三年春施工部分の改造工事費用 合計金九六五万五七八〇円

ⅰ リフォーム代金(リフォームサービスヤマシタ) 九五六万四四五〇円

ⅱ リフォーム収納相談料((有)ゆとり工房) 七万二四三〇円

二階の居間、食堂の共用空間を療養室兼用に応急改造するにあたり、狭いスペースに多くの家具、生活用品を収める必要上、設計に当たり、収納機器の選定や配置について東京の専門業者から助言を得たことによる相談料である。

ⅲ リフォーム工事のためのピアノ運送代((株)ピアノ引越センター) 一万八九〇〇円

二階の居間、食堂の共用空間を療養室兼用に応急改造するために、居間に置かれていたピアノを一階に移すことが必要であった。

<2> 平成一四年冬施工部分の改造工事費用 合計金三八五万九二二二円

ⅰ ユニットバス改造工事代金(リフォームサービスヤマシタ) 三八五万九二二二円

<3> 平成一五年冬施工部分の改造工事費用 合計金七五八万六七七五円

ⅰ リフォーム代金(リフォームサービスヤマシタ) 七五六万五七七五円

ⅱ リフォーム工事のためのピアノ運送代((株)ピアノ引越センター) 二万一〇〇〇円

一階に療養室を設置するために、一階に置かれていたピアノを三階に移すことが必要であった。

a 設備・機器の更新分の費用 合計金六二〇五万五八二五円

(a) 設備、機器のうち、末尾添付別紙(3)「買替計算書(X1)」一覧表の「ホームエレベーター取替工事」、「居宅二階部分取替工事」、「居宅一階部分取替工事」の各欄記載の設備、機器は、その「買替周期」欄記載の年毎に更新が必要である。

(b) 各更新時期に対応するライプニッツ係数は、末尾添付別紙(4)「ライプニッツ係数表」のとおりである。

(c) よって、別紙(3)「買替計算書(X1)」一覧表の「買替単価」欄記載の金額に、各更新時期に対応するライプニッツ係数をかけると、更新分の費用は、同一覧表の「将来買替金額欄」記載のとおり合計金六二〇五万五八二五円となる。

(イ) 被告の認否反論

a 二度にわたる改造

本件交通事故発生(平成一一年一一月七日)から原告X1の退院日(平成一三年春)までの間に住宅改造を施す時間的余裕は十分あったのであり、二度にわたる改造は不必要であった。

b 不必要な設備

(a) 原告X1の居住スペースは一階とすべきこと

原告らの居住建物の形状からすれば、当初から一階に原告X1の居住スペースを作ることは十分可能であり、現に現在では一階に設置されているのであるから、二階浴室、二階トイレ、エレベーターなどは不必要であったことは明らかである。これらを設けても依然二七三〇平方ミリメートルの納戸スペースが残存する。

(b) その他の不必要な設備

床暖房、カーポートは必要性がない。

c 設備・機器の更新分の費用

原告X1の症状からすれば、必要性が認められるのは、入浴リフトのみであり、エレベーター、床暖房、走行リフトは不必要であるから、更新も必要がない。

エ 休業損害・逸失利益(争点(2)エについて)

(ア) 原告らの主張

a 休業損害

原告X1は、本件事故当時、財団法人大阪府同和事業促進協議会(元商号に業務部長として勤務していたところ、事故発生日(平成一一年一一月七日)から症状固定日(平成一四年七月六日)の前年である平成一三年分までに支払われるべき賃金の見込合計額は以下のとおりである。

平成一一年分(一九九九年) 金三九八万二三三三円

平成一二年分(二〇〇〇年) 金七五九万八六五八円

平成一三年分(二〇〇一年) 金七七六万一八九〇円

計 金一九三四万二八八一円

このうち、財団法人大阪府同和事業促進協議会から、同就業規則に基づいて、平成一一年一一月から平成一三年二月分までの給与及び賞与として合計金七九四万六三四五円が支払われた。よって上記からこれを差引き、金一一三九万六五三六円を休業損害とする。

b 退職金差額(定年まで勤務した場合に支給されるべき退職金と今回支給退職金額との差額)

原告X1が本件交通事故に基づく傷病によって退職することなく、定年まで勤務した場合の退職金は、「定額退職となった場合の退職金額と今回支給額との差額調」(甲第二五号証)によると、金一六九六万八〇〇〇円であり、他方、今回の受傷による退職で現実に支給された退職金は三一二万七〇〇〇円である。

よって、一六九六万八〇〇〇円に症状固定時(四五歳)の二〇年後である退職予定時(六五歳)に対応するライプニッツ係数〇・三七六八八九四八を乗じ、そこから今回現実に支給された退職金三一二万七〇〇〇円を差し引くと、退職金差額の現価は金三二六万八〇六〇円となる。

c 逸失利益

原告X1は、受傷当時財団法人大阪府同和事業促進協議会に業務部長として勤務していたところ、これまでの勤務状況や業務の実績に照らして大変優秀な職員であり、将来は常務理事を嘱望された人材であり、これを想定して給賞与分の逸失利益を、同協議会発行の書面(甲二四)に基づく各年間給賞与にライプニッツ係数を乗じて算出する。

また、定年後である六六歳、六七歳時の収入額については、平成八年度男子大卒者平均賃金額に基づいて計算する。その結果は、別紙(5)「逸失利益計算書(X1)(ライプニッツ係数)」のとおり、金一億二一六六万一一三八円となる。

d 被告の主張に対する反論

(a) 三四歳での中途就職であるとの被告の主張について

ⅰ 被告は、原告X1が三四歳時に現職場に就職したものであるから、定年時まで勤務する蓋然性はないと主張するが、同主張は理由がない。

ⅱ 原告X1の職歴は次のとおりである。

すなわち、原告X1は昭和五八年三月、大阪市立大学経済学部を除籍終了した後、同年四月から茨木公共職業安定所職業相談員として茨木市同和事業促進道祖本地区協議会に勤務して同和関係者に対する職業相談事業に従事し、その実績を買われて、平成三年一〇月一日以降、財団法人大阪府同和事業促進協議会に勤務し、本件事故当時は同協議会業務部長の重責を担っていた。

ⅲ また、「部落問題・人権事典」の執筆者兼分野別編集委員としてその出版に尽力するなど、学問的な活動にも従事してきており、その功労により、平成一四年二月二二日、茨木市同和事業促進協議会から表彰されている。

ⅳ 財団法人大阪府同和事業促進協議会は、賃金及び退職金差額証明書(甲二三)の作成にあたり、その算出根拠の中で、「X1さんはこれまでの勤務状況や業務の実績を見た場合大変優秀な職員であり、将来には常務理事を嘱望されていた人材であることは、理事会においても周知のことでありましたので、これに基づいて役職を想定して算出いたしました」と述べている。

ⅴ 以上のとおり、原告X1が、勤務先である財団法人大阪府同和事業促進協議会において、将来の幹部職員として嘱望されていたことは明白であり、ましてや定年まで勤務したであろうことは疑いない。

(b) 休業損害に関する被告の主張について

ⅰ 平成一一年一一月二一日から同一二年一〇月二〇日の給与減額について

乙二の二によると、減額金六万三五七〇円は平成一一年一二月分から同一二年二月分までの三か月分の間違いである。ただし、被告は平成一二年四月からの昇給を全く考慮していないので、金額は下記合計額八五万〇六四二円に昇給分を追加しなければならない。

減額された給与は

平成一一年一二月~平成一二年二月 六万三五七〇円

平成一二年三月~平成一二年一〇月 各九万八三八四円

八五万〇六四二円

ⅱ 平成一二年一〇月二一日から同一三年二月二日の給与減額について

被告の計算は推測にすぎない。平成一二年度の原告X1に対する給与額は毎月四五万五八三〇円である。

ⅲ 平成一三年二月二一日から同一四年七月六日の給与減額について

被告主張の給与額三四万七六五二円は、乙二の二のとおり平成一一年度の原告X1に対する給与額であり、その後の昇給が考慮されていない。

ⅳ 賞与減額について

被告は賞与減額証明書が提出された平成一二年七月の夏季手当の減額分しか認めていないが、実際平成一二年の年末手当が原告X1に支給されている。減額証明書の有無にかかわらず、休業期間の賞与減額も考慮すべきである。

(イ) 被告の主張

a 休業損害について

(a) 平成一一年一一月二一日から同一二年一〇月二〇日の給与減額について(乙二)

<1> 平成一一年一二月分 六万三五七〇円

<2> 同一二年一月分から同年一〇月分まで 各九万八三八四円

計一〇四万七四一〇円

(b) 平成一二年一〇月二一日から同一三年二月二日の給与減額について

平成一二年一一月から平成一三年二月までは、三〇万八三八四円であると推測され、減額は各月九万八三八四円である。

したがって、合計は三九万三五三六円となる。

(c) 平成一三年二月二一日から同一四年七月六日の給与減額について

この間、一切の給与を受領していないから、減額部分は以下のとおりである。

(34万7652円+34万7652円+34万7652円)÷90=1万1588円

1万1588円×501=580万5588円

(d) 原告X1が平成一二年七月に受領した賞与金額は一五万二五四八円減額されたことは認められるが、それ以外については立証がない。

(e) 以上の休業損害合計は七三九万九〇八二円であるところ、原告X1の給与所得金額は五九一万八六七〇円であり、原告引用の賃金見込みに関する書証による計算とは乖離しているから、同書証は信用できない。

b 逸失利益

原告X1が三四歳時に現職場に就職してきた転職者であること、本件事故時点では同所に八年間しか勤務してきておらず、定年退職までに二三年も要することから、定年時まで勤務する蓋然性はない。

原告X1の平成一〇年度の年収は五九一万八六七〇円であるから、逸失利益は以下のとおりである。

591万8670円×13.163(22年に相当するライプニッツ係数)=7790万7453円

オ 原告X1の損害に関するその余の請求項目(争点(2)オについて)

(ア) 原告等の主張

a 慰謝料

(a) 入通院慰謝料 金四一七万円

原告X1に生じた症状の程度及び態様の重篤さ、またその間の肉体的精神的苦痛の程度、入院のみならず、通院期間中においても、自力では身動きが取れず、入通院の全期間中終始付き添いが必要であるなど、入院期間中と同等の苦痛を受けたことについて、その入通院全期間(平成一一年一一月七日から平成一四年七月六日〔後遺障害固定日〕までの九七三日間〔約三二か月間〕)にわたり、入院と同視して計算した額である。

(b) 後遺障害慰謝料 金三〇〇〇万円

原告X1には、頭部外傷後遺症、失語症で後遺障害等級表一級三号の後遺障害が固定残存し、これにより、同原告は、神経系統の機能または神経に著しい障害を残し、これからの長い全生涯について、言葉を失い、意思疎通もほとんどできず、かつ寝たきり、ないし車椅子の生活を強いられ、付添看護なしでは生活できない等の身体的、社会的ハンデイキャップを負わされたことにより、筆舌に尽くしがたい身体的精神的苦痛を受けている。

なお、原告X1を介護するため、上記経費として計上されていない、電気代、水道代、ガス代などの有形、無形の未計上の経費も多額になっており、慰謝料斟酌事由として考慮する必要がある。

b 後見開始申立費用

本件事故により、原告X1は、意志言語障害、及び前頭葉障害による自発性低下の為、現在まで意思疎通が殆ど取れない心神喪失の常態にあり、これ以上の回復は望めないため、妻であり、かつ終始介護に当たっている原告X2を原告X1の成年後見人に選任するため、原告X2の精神鑑定費用として一五万円を要した。

c 損害金小計 金三億八二八九万一三五八円

d 内金支払 四四一万八九七七円

訴外日動火災海上保険株式会社から仮払明細(乙一、甲三〇)のとおり、医療費名目で三〇六万九八〇二円、その余の名目で一四二万四九六七円の合計金四四一万八九七七円の支払を得た。

e 損害金差引小計 金三億八二八九万一三五八円

f 弁護士費用 三八二八万円

被告は、上記損害金の支払に応じないため、原告は代理人弁護士に委任して、本件提訴に踏み切らざるを得なかった。本件請求金額、事案の難易度からして、弁護士費用のうち、金三八、二八〇、〇〇〇円も本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

g 原告X1の損害金総合計 金四億二一一七万一三五八円

h 以上によれば、原告は、被告に対し、自賠法三条ないし不法行為による損害賠償請求(元本金四億二一一七万一三五八円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金)の内金として、金二億七九七八万〇〇三一円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(イ) 被告の認否反論

a 慰謝料

(a) 入通院慰謝料

否認する。二五〇万円が相当である。

(b) 後遺障害慰謝料

否認する。二七〇〇万円が相当である。

b 後見開始申立費用

否認する。

c 損害金合計

否認する。

d 既払金の合計額

上記治療費込みで、合計四四一万八一七九円

e 弁護士費用

否認する。

(3)  妻と子の固有の慰謝料(争点(3)について)

ア 原告らの主張

(ア) 原告X2の被害

原告X2が本件事故によって被った肉体的、精神的、経済的損害は甚大である。

原告X2は、大学時代に原告X1と知り合い、この二〇年間、自己の最大の理解者であり、かつ人生最高の伴侶として、ともに人生を歩んできたが、その最愛の夫を実質的には一瞬にして失ってしまった。それどころか、かかる唯一の人が、重い介護の負担となり、三人の子育てや家政にかかわることのすべてが、終生原告X2一人の負担となる見通しである。この精神的被害だけでも、三〇〇万円という金額では到底償えないものがある。

(イ) 原告X3、原告X4、原告X5らの慰謝料

a すなわち、本件事故時、子供は、長女である原告X3が高校一年生、次女である原告X4が中学一年生、長男である原告X5が二歳であった。

b 多くの人に尊敬され、仕事をこなし、頼りがいのある父親であった原告X1が、このように変り果てた姿になったことは、比類ない精神的ショックであった上に、今後、母親を助けて介護、家事、弟の面倒を担うべき立場となった重圧は、計り知れないものがある。思春期というかけがえのない時期に、本件事故が彼女らの心に与えた傷は取り返しがつかない。

c これらの重圧から、原告X4は、中学一年生の秋に本件交通事故が起きて以来、学校を休みがちになり、二年生及び三年生においてはほとんど登校できなったため、当初希望していた高校への進学を断念し、それとは別の高校に進まざるを得なかった。

d 原告X3は、母X2を相当支えたが、それでも、学校を休む日が次第に増え、かろうじて卒業して大学に進学した。

e 本件事故時、二歳であった長男X5については、原告X2が、原告X1の介護を優先する生活に追われるため、十分に母親としての情愛を注ぐことができず、情緒不安定を来している。

(ウ) 慰謝料額

原告X2、原告X3、原告X4、原告X5が本件事故により被ったこれらの精神的苦痛を慰謝するためには各自金三〇〇万円の支払を相当とし、これに弁護士費用金三〇万円を加えた金三三〇万円の支払を求めることとする。

イ 被告の主張

原告X1の慰謝料額は、近親者の慰謝料を含めた数額である。

第三当裁判所の判断

一  責任原因及び過失相殺(争点(1)について)

(1)  上記争いのない事実及び証拠(甲一ないし二の二、三二の一、三二の二)、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件事故現場

本件事故現場は、国道一七一号線と南北に交わる、中央分離帯を有する幅員いずれも三・三mの対面各二車線を有する幹線道路を同国道との交差点から一八三・四m南下した地点の同南北幹線道路上(以下「本件南北道路」という。)である。同所は、同南北幹線道路から東西各方向に側道が設置されているが、同所とほぼ同位置の中央分離帯は途切れており、そこから、これらの東西方向の各側道(以下「東西道路」という。)に進入できるようになっていると認められる(別紙一のとおり)から、同所は信号による交通整理のされていない交差点と評価することができる(以下「本件事故現場交差点」という。)。

本件事故現場付近は、幹線道路沿いとはいえ、街路樹のある市街地であり住宅も多く、本件南北幹線道路の交通量も、一分間に自動車二八台、東西道路の交通量は一分間に自動車五台が通行するという程度であった。本件南北道路の速度規制はなされていなかった。

イ 本件事故態様

(ア) 被告の運行態様

被告は、上記国道一七一号線を東から西に走行し、本件南北道路に左折進入し、同道路の南行車線のうち中央寄りの車線(以下「南行第二車線」という。)を南進したが、本件事故現場手前七五・一mの地点(<1>)で、同南北道路の対向車線上を北進してきた原告車両が、中央分離帯の切れ目から右折のために自車進行方向に頭を出そうとしてきた(<ア>)のを発見したが、そのまま南進を続け、さらに同車両が二・四mほど前進し、中央分離帯から東西道路に右折進入してくる(<イ>)のをその四六・六m手前で認めた(<2>)が、減速することなく、左後方を見、衝突地点から二〇・二m手前(<3>)で原告車両がそのまま前進してくる(<ウ>)のを認めてようやくハンドルを左に切り、走行車線より左寄りの地点において、被告走行車線を横断通過し、南行車線のうち左寄り車線(以下「南行第一車線」という。)を横断しようと同車線の中央部に至った原告車両の左側面部に衝突した。

(イ) 原告X1の運行態様

原告X1は、本件南北道路の北行車線を北進し、東西道路の東にある自宅に向かうため、東行道路に進入しようと本件事故現場交差点を時速一七kmの低速で右折開始し、本件南北道路の南行第二車線を横切ろうとしたところ、本件南北道路の南行第二車線を南進してきた被告車両と南行第一車線上で衝突した。

(2)  検討

ア 責任原因

被告は、本件車両を運行の用に供していたのであるから、自賠法三条の責任を免れない。

イ 過失相殺

(ア) 証拠(甲三二の一)によれば、被告は時速約八二kmで衝突したものと認められるが、被告が本件南北道路に左折進入した箇所から本件事故現場までの距離は一八三・四mで、極めて短く(時速六〇kmであればわずか一一秒で到達できる距離)、左折時に推定される速度からすれば、極めて短距離のうちに大きく加速したものと認められる。

(イ) 被告は、原告車両を七五・一m先に認め、さらにこれが二・四mほど前進し、中央分離帯から東西道路に右折進入してくるのをその四六・六m手前で認めながら、漫然と高速走行を継続し、意味もなく左後方を見るという行動に出るなどし、二〇・二m手前で原告車両がそのまま前進してくるのを認めてようやくハンドルを左に切ったというもので、優先道路走行中であるから徐行義務まではないものの、原告車両を認めながらこの間高速運転を全く止めることなく、原告車両への注視もせず、自車が優先道路上であるのに慢心して相手方が止まるであろうと軽信したものと推認できる上、原告車両が右折を完了して被告走行車線を渡り切ったにもかかわらず、被告の不適切な判断に基づき、ハンドルが左に切られたために南行第一車線において衝突したというものである。

これらによれば、被告は、優先道路を走行するに当たり、法定速度を遵守し、前方の安全を十分確認した上で走行すべき注意義務があるのにこれを怠り、前方に交差道路に進入するため右折横断しようとする対向車両を認めながら、漫然高速運転を継続し、同車両への注視をせず、同車両二〇・二m手前でようやく危険を感知して、ハンドルを左に切ったために南行第二車線上において、殆ど右折を完了しつつあった同車両に衝突したもので、過失は軽視できない(なお、被告は原告車両の二〇・二m手前で危険を感知してハンドルを左に切ったというのみで、特段急制動の措置については述べておらず、路面にも制動痕が見当たらないから、急制動の措置を講じなかったのではないかと考えられるが、被告の速度からすれば空走距離内であると考えられるから、急制動の措置を取ったとしても事故は回避できなかったものと認められる。そうとすれば、この点は、被告の高速運転が原因であったというに尽きるものである。)。

(ウ) 他方、証拠によれば、原告X1は、衝突時の速度は時速一七kmであったと認められるところ、原告X1から見れば、中央分離帯から頭を出した地点において、被告は本件事故現場(衝突地点)から七五・一mの手前地点にいたと認められるが、この地点で仮に被告が時速六〇kmであれば秒速約一六・六mであり、衝突地点に到達するのに約四・五秒を要するところ、被告が時速八二kmであったために秒速約二二・七七mであるため、衝突地点に至るのにわずか約三・二秒で到達したことになり、いずれにしても、この時点で、仮に原告X1が被告車両を発見しながら先に右折できると考えて右折継続したものとすれば、漫然時速一七kmで右折継続するのは不自然というほかはないから、原告X1は被告車両に気付かなかったのではないかとの推定が可能なところであり、原告車両としては、優先道路上から右折して対向車線を横切る態様で交差道路に進入しようとするときには、優先道路上の車両の有無や速度等に十分注意して行うべきであったのに、これを怠り、被告車両を見落として右折進行した過失があるから、過失相殺を免れない。

(エ) 以上によれば、信号機により交通整理が行われていない交差点において対向車線から非優先道路である交差道路に右折進入しようとした原告車両と、優先道路直進走行中の被告車両が衝突したという事故態様、被告車両が極めて短距離の間に著しく加速して高速運転を開始し、前進する原告車両を認めながらその動向を注視することもなく、安易に優先道路であったことに慢心して法定速度二〇km以上の高速運転を継続し、全く減速することもなかったこと、原告車両が既右折であったと認められることを総合勘案すると、過失割合は、原告:被告=四:六とするのが相当である。

二  原告X1の損害

(1)  治療費

治療経過(第二の二(3))及び治療費(第二の二(5))については、いずれも当事者間に争いがない(三〇六万九八〇二円)。

なお、第二の二(3)ク以後の治療経過については、証拠(甲一二、一五の一、一六)によれば、症状固定(平成一四年七月四日)までB医師の往診を得ながら協和会病院に通院を継続したことが認められる。

(2)  付添介護費用(争点(2)ア)

ア 入院中の介護費用

(ア) 入院中の介護状況

a 治療経過等

原告X1の治療経過及び障害の状況は、証拠(甲三の一ないし甲一七、六五の一、原告X2本人)によれば、以下のとおりと認められる。

原告X1は、本件事故(平成一一年一一月七日発生)により、上記争いのない事実(第二の二(4))のとおりの傷害を受け、脳の損傷のために強い意識障害状態が遷延し、会話及び意思疎通は不可能であり、四肢体幹に運動障害が認められた。平成一一年一二月八日に転院(大阪脳神経外科病院〔甲三の一、四の一〕)後比較的早期の段階でリハビリテーションを開始し、平成一二年一月二八日にさらに転院(淀川キリスト教病院〔甲五の一、六の一〕)して、脳賦活剤点滴の上リハビリテーションを継続し、その後もリハビリ目的で同年三月三一日に転院(石切生喜病院〔甲八の一、九の一、一一の一〕)して理学療法や音楽療法によるリハビリテーションを継続し、意識レベル、四肢運動機能がそれなりに改善をみた。協和会病院に平成一二年九月二一日から平成一三年七月六日まで入院し、いったん退院(甲一二)とはなったものの、その後平成一三年一一月七日に嚥下障害が強くなり、脱水・全身状態が悪化したため再び入院となり(甲一三の一)、水頭症が判明したため、同年一二月二七日にV・P・シャント術を施行したところ、経口摂取は改善がみられた(しかしながら、その後、髄膜炎とみられる発熱があり、シャントチューブを抜去しており、その後の経口摂取はやや不良である〔甲六五の一〕。)。症状固定時(平成一四年七月四日)において、起き上がり・座位保持には介助を要し、移動動作・移動・食事・排泄・意思疎通は全介助を要し、特に左上肢のまひは重度であり、体幹失調のためバランス能力が低下しており、失語のため、発声・発動性・知的活動は低下しているとされている。

症状固定直後に石切生喜病院に入院し、シャント手術を行っているようであるが、その間の事情は明らかでなく、その後さらに、平成一五年七月九日、V・P・シャント術を再施行したようであるが、これによりその後の経口摂取がどの程度改善したかは必ずしも明らかではない。

b 介護経過等

介護に関する知見及び原告X1の介護状況については、証拠(甲三六ないし三八、五一、原告X2本人)によれば、以下のとおりと認められる。

原告X1は、外傷性脳損傷患者であり、付添介護者が感覚刺激の系統的使用により、覚醒レベルの改善を図ることが重要であり、受傷者が個人的に元気の出るような刺激が使われることが重要であるとの医学的知見がある。介護に当たった原告X2は、搬送先(大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター)の担当医師から家族の努力と回復の度合いについて示唆を受け、さらに、上記の知見に基づき聴覚や触覚、全身感覚に刺激を与え、言語により認知刺激を与えるよう医師の指示を受けたため、これに従って音楽やマッサージ、言葉掛け等の方法で終始働きかけることでリハビリの一端を担い、転院先(大阪脳神経外科病院)では車椅子座位を取らせることにより中枢に刺激を与え(上記証拠〔甲三七〕によれば、抗重力姿勢は脳幹部覚醒を促進する神経伝達物質の活性を促すとされている。)、嗅覚や触覚などの刺激を与えるよう医師の指示を受けたため、これに従って、食品や香料等を購入して嗅覚刺激を与えたり、豆類の入った袋を握らせたりビロード等をさわらせたり、マッサージを行う等の方法で触覚刺激を与えることでここでもリハビリの一端を担い、再度の転院(石切生喜病院)先においては、医師の指示の下、医療スタッフとの協同作業の下、種々の音楽と上下運動を組み合わせて心と身体に繰り返し働きかけることにより、人間の運動機能や精神発達を促し、障害を改善回復させるという音楽運動療法の実施に参加し、この間の努力が効を奏して、原告X1は自力で立とうとする動作を始め、介護者にすがり立ちし、足を前に進めようとする支持歩行まで回復するに至った。

(イ) 検討

これらの事実を総合すれば、原告X1の入院中の付添介護は、医学的措置としての日々のリハビリの一環として行われ、いずれも医師の指示があったものと認められるから、全期間を通じ、一日当たり六〇〇〇円相当の単価をもって計算するのが相当である。

6000円×692=415万2000円

イ 在宅通院期間・症状固定時まで(症状固定時の現価を算定する必要があるので、原告主張のように口頭弁論終結時で区切る考え方は採用しない。)

(ア) 在宅介護状況

証拠(甲四九、五一、六五、原告X2本人)によれば、以下の事実が認められる。

a 原告X1の日常生活における障害の程度及び態様

原告X1の障害は上記のとおりであり、加えて、日常生活においても、座位や立位になることはできても、体幹の緊張が極めて強いため、反り返ってしまい、立位・座位いずれも保持することができない。意識障害があるため、危険認識に欠け、危険な動作をすることがある。支持歩行をさせ、便所には行かせるが、排尿排便障害があるためおむつを使用している。嚥下障害(上記のとおり、原告X1は水頭症のため、嚥下障害を来して脱水症状を起こしたことがあり、V・P・シャント手術を行ったものの、嚥下障害が残存していると認められる。)があるため、経口摂取を行うときは、場合により少量ずつかつ長時間にわたる食事及び水分補給を要することがある。

b 原告X1に対する介護の状況

退院後は原告X2が福祉ヘルパー、実姉Aの補助を得ながら、以下のとおり日常の介護を行っている。なお、原告X1の身長は一七三cm、原告X2の身長は一六〇cmである(甲五一)。

<1> 車椅子への移乗は福祉ヘルパーと二人がかりで行う。

<2> 排泄関係の処理(おむつ替え、排尿徴候を見て、日に五、六回便所に誘導する、便所に移動させる〔支持歩行であり、身体を支持しすり足で移動させる。〕、便所の便座に座らせる、尿漏れの始末)

<3> 衣服の着脱は、身体が筋肉緊張・上体反り返り・肘関節の屈曲・足関節・膝関節の緊張のため、全般に介助を要する。

<4> 洗顔やひげ剃り、歯磨きも介助者が行う。

<5> 服薬、食事(三食とも)、飲料の摂取についても、場合によっては細かく刻み、嚥下補助食品を加えた上での介助者による摂食。場合によっては嚥下困難を来すため、長時間(毎食一時間ないし一時間半)を掛け少量ずつの摂取及び誤嚥事故の監視。

<6> 通院リハビリ時の車椅子移乗・車両移乗

<7> 入浴は、ⅰ)デイサービス、ⅱ)原告X2と訪問看護師の介助による入浴、ⅲ)原告X2と姉Aの介助による入浴。座位保持ができないため、一人が支え、一人が操作ないし洗浄などを行う。

c 原告X2の家事労働

他方、原告X2はもともと専業主婦であり、大学生の長女、高校生の次女、小学生の長男を抱えて、通常の家事労働を行っている。しかしながら、原告X1のための家事労働は、洗濯物は相当増加し、食事の手間も増加している。

(イ) 検討

以上の事実を前提に、原告X1の介護に要する人数及び単価について検討する。

a 介護担当者及びその人数

上記のとおり、原告X1の介護は終始原告X2が担当し、いわゆる近親者介護の実体を有しているが、原告X1は成人男性で身長一七三cmの中肉中背、原告X2は成人女性であるという基本的な体格及び筋力等の差異がある上、原告X1の筋肉は全身極めて強い緊張状態にあり、女性一人の手で積極的に原告X1に介助を施すとき(移動、移乗、入浴、衣服の着脱、おむつ替え)には、原告の自宅に天井走行リフトなどの介護用の設備が施されていることを考慮に入れても、なお肉体的に相当過酷な作業を強いられるものと認められ、筋肉緊張と強い嚥下障害のため、摂食は全て介助者の手により、かつ、体調によっては細かくした上で嚥下補助剤を加えて少量ずつ摂取させ、同時に誤嚥を監視するという精神的緊張を要する作業を要し、加えて、原告X1には強い意識障害があり、その生理的欲求や主訴を感知することも必要不可欠な作業であり、これらの作業を二四時間の常時介護としてこなすことは、三人の子供を抱えて家事労働を兼務する主婦である女性一人では到底困難というべきである。

他方、現在実態としては、家族による家事の補助などを得ながら、福祉ヘルパーや訪問看護師、姉Aの手を借りて、何とかこなせるという状況であり、これらのことを考慮すると、本件事故と相当因果関係のある介護の範囲としては、近親者による主たる介護者一名と補助的介護者一名の部分を認めるのが相当である。

そして、原告X1の上記のような肉体的障害の程度及び意識障害の程度に照らすと、相当程度の肉体的精神的負担があるものと認められるから、原告X2による介護費用単価は一日当たり九〇〇〇円と見るのが相当であり、姉Aの補助的介護費用は、土日のみ(全期間の七分の二)で一日当たり二〇〇〇円と見るのが相当である。

b 療養期間(症状固定まで)

受傷時平成一一年一一月七日から症状固定時平成一四年七月六日までの日数(九七三日)から上記六九二日を控除すると、

(七三一〔平成一二年はうるう年〕+二四二)-六九二日=二八一日

c 計算式

9000円×281日+2000円×281日×2/7=252万9000円+16万0571円=268万9571円

(ウ) 実費

上記のとおり、原告X2は茨木市の身体障害者福祉関係のホームヘルプサービスを利用したことがあったが、証拠(甲六七の一ないし六七の一九)によれば、その実費として九万五三五〇円を要したことが認められる。

(エ) 小計

以上の小計は、二七八万四九二一円である。

ウ 症状固定時平成一四年七月六日から平均余命まで

(ア) 原告X2が六七歳(平成○年○月)になるまで

a 主たる介護者

主たる近親介護者たる原告X2は、昭和○年○月○日生まれであり、同人が六七歳になるのは、平成三八年三月であると認められるから、症状固定時平成一四年から平成三八年の二四年間に対応するライプニッツ係数は、一三・七九九である。

b 補助介護者

証拠(甲五一、原告X2本人)によれば、現在、経済的理由から補助的介護者については公的ヘルパー及び姉Aの好意に頼る状況であると認められる。しかしながら、公的ヘルパーについては、福祉の理念に基づくもので、今後も同様の措置を受けうるかは見通しが不明であり、これを損害賠償のてん補があったものと同様に考えることは相当でないし、姉Aについては、本来的には直接原告X1に対して扶養義務を負うものではなく、同人の援助を受け続けられる見通しが確実であるとはいえないものであるから、現に経済的理由から同人の好意に依拠してきた実費に関する現在請求とは異なり、今後についてまで同人の好意を予定して介護費用を算定すべきでないのは明らかであるから、原告が職業的介護費用を前提に請求するのは真摯な意図によるものと認めることができる。

そうすると、証拠(甲五一、五三の一、五三の二、原告X2本人)に顕れた、原告が今後も受け続けようと考える身体障害者福祉サービスの身体介護サービスの利用科金、原告が現に利用する公的ヘルパーの支援時間やその時間帯などからすれば、一日当たり六〇〇〇円を請求するのは相当である。

c 計算式

上記a及びbによれば、以下のとおりである。

(9000円+6000円)×365×13.799=7554万9525円

(イ) 原告X2が六七歳に達した後、原告X1の平均余命まで

a 原告X1(昭和○年○月○日生)は、症状固定時において四五歳であり、平成一四年簡易生命表によれば、平均余命は三四年である(ライプニッツ係数は一六・一九三)。

b 主たる介護者

原告X2が六七歳に達した後は、主たる介護者は職業的付添人を付するのが相当であり、時間数も、上記のとおり現に行われている原告X2の介護状況に照らせば一日一五時間を認めるのが相当である。

証拠(甲五三の一、五三の二)によれば、現時点における比較的短時間を前提に設定された単価としては三時間半以上で既に二万円以上要するというのであるが、将来においては介護市場の拡大に伴い、さらに廉価かつ長時間の介護サービスの提供も予想されるところであり、原告X2が六七歳になるのは現時点から二〇年余も将来の問題であることも総合考慮して、本件事故と相当因果関係のある介護費用単価は、上記の八割に相当する一日当たり一万六〇〇〇円を基礎とするのが相当である。

c 補助的介護者

上記に認めたとおり、補助介護者の現時点における介護費用単価としては、一日当たり六〇〇〇円を認めるのが相当であるが、上記のとおり、将来における介護単価の見通しは未だ不確定な要素が多々あることを考慮すると、本件事故と相当因果関係のある補助介護者の介護費用単価は、上記の八割に相当する一日当たり四八〇〇円を基礎とするのが相当である。

d 計算式

(1万6000円+4800円)×365×(16.193-13.799)=759万2000円×2.394=1817万5248円

(ウ) 小計

以上の小計は、

7554万9525円+1817万5248円=9372万4773円

エ 小計

以上の小計、

415万2000円+278万4921円+9372万4773円=1億0066万1694円

(3)  入通院期間・症状固定後の雑費・交通費(争点(2)のイ)

ア 入院期間中の雑費

上記認定の事実及び証拠(甲六三の一ないし六三の五九九)によれば、原告X1は、平成一一年一月七日の受傷時から平成一三年七月六日まで及び平成一三年一一月七日から平成一四年一月二六日入院を継続した(六九二日)が、その間、入院雑費及び原告X2の付添交通費を要し、その一日平均単価は前者の入院では一七九〇円、後者の入院では五九七円であったことが認められるが、これらのうち、付添交通費については、入院付添費用に含めて考えるべきであり、これらが多くタクシー利用されていることなどに鑑みれば、一日平均一三〇〇円で計算するのを相当とすべきである。

そうすると、その間の入院雑費は、八九万九六〇〇円となる。

1300円×692日=89万9600円

イ 通院期間中(症状固定まで)の雑費

上記認定の事実及び証拠によれば、原告X1は、平成一三年七月七日から同年一一月六日まで及び平成一四年一月二六日から平成一四年七月六日の症状固定までの間通院治療を行ったが、その間、在宅療養雑費及び原告X1本人の通院交通費を要したことが認められ、前者の通院期間中には五万九六四〇円、後者の通院期間中には四四万九五四八円の実費を要したこと、この間の実費の内容は、本人のリハビリ通院・通所交通費(介護タクシー)、紙おむつ、漢方薬(排便調整)、デイサービス(上記ホームヘルプ実費とは異なるものと認められる。)、嚥下補助食品、電解質補助飲料、栄養補助用ゼリー等の特殊食品類であることが認められ、いずれも通院期間中の雑費として認めることとする。

5万9640円+44万9548円=50万9188円

ウ 症状固定後の雑費

(ア) 症状固定(平成一四年七月六日)から再度のシャント術(平成一五年七月九日)まで(三六九日)の療養雑費について

上記認定の事実及び証拠(甲六五の一、原告X2本人)によれば、原告X1は、症状固定日の翌日から平成一四年一一月二九日までシャント術のため入院し、その後しばらく在宅療養をしていたが、平成一四年一二月一三日から平成一四年一二月二一日まで再びリハビリ入院したことが認められる。

そして、在宅療養期間中は、紙おむつや漢方薬等を要し、また、後遺障害の現状維持・悪化防止、心身の改善のためにリハビリ通所及びそのための通院・通所交通費を要する状態が継続しているほか、原告X1は、しばしば、水頭症による嚥下困難を発症し、シャント術を施行するも、髄膜炎のため、結局はシャントを外して在宅療養を継続していたのであり、嚥下困難状態が発症したときには、上記のような特殊食品や身障者用の特殊弁当等の購入を余儀なくされていたことが認められ、これら症状固定後からシャント術を施行した七月までの療養雑費の一日平均単価は少なくとも一六五〇円を要したことが認められる。しかしながら、紙おむつの消費については、通常人の消費する生活雑費よりどの程度多く消費するかは不明である上、こうした消費を行う一方で、通常人の消費する生活雑費の支出を免れている関係に立つと認められるし、また、これらの特殊食品を要するとの主張については、この間、そうした特殊食品を消費したことにより通常の食費を免れたと思われるから、これらをすべて療養雑費として計上することは、通常の生活費も損害に含まれてしまい不当な結果となることは明らかであり、上記通院交通費や紙おむつ等と食品消費量の比重等に照らし、上記総額のうち、四分の三を相当と認める(なお、症状固定時の現価算定のため、一年のライプニッツ係数を乗ずる。)。

1650×3/4×369×0.952=43万4718円

(イ) 平成一五年七月の退院後から将来の療養雑費について

上記認定の事実によれば、症状固定後の療養雑費の一日平均単価は一六五二円であること、原告X1は、後遺障害状態の現状維持のため、今後もリハビリ入院・通院などを要する見通しであること、今後も通常人に比して多額の紙おむつ代等排泄関係の雑費を要する見通しであることが認められるが、他方、原告X2も非常時にのみ嚥下困難対応の食品を要すると述べており、シャント術の再施行により、水頭症が緩和し、今後は平成一五年七月以前の状態より嚥下困難対応食品の購入頻度は低下するのではないかと推認されること、上記のとおり、これらの排泄関係消耗品及び特殊食品を消費することにより通常の生活雑費及び食費を免れる関係に立つと考えられ、これらをすべて療養雑費として計上するのは不当であることから、上記一日平均単価のうち、三分の二を認めるのを相当とする(症状固定時の現価算定のため、症状固定時四五歳の平均余命三四年のライプニッツ係数〔一六・一九三〕から上記で考慮した一年分のライプニッツ係数〔〇・九五二〕を控除した係数を乗ずる。)。

1650×2/3×365×(16.193-0.952)=1100×365×15.241=611万9261円

エ 合計額

上記の合計額は、七九六万二七六七円である。

89万9600円+50万9188円+43万4718円+611万9261円=796万2767円

(4)  家屋改造費・設備更新費用(争点(2)のウ)

ア 家屋改造の経過

証拠(甲一八ないし二二、四九ないし五一、五二、五四ないし五九、六一、六八、原告X2本人)によれば、家屋改造の経過については以下のとおりと認められる。

(ア) 平成一三年退院時における改造

原告らの居宅は、敷地面積が狭小で、建坪わずか四二m2(甲六四)で、三階建てとなっており、一階は物置と納戸(原告X1の書斎であった。)二階は台所・食堂(七・五畳)・居間・浴室・便所があり、三階には六畳間三室あり、家族五人が居住している。原告X1の退院に際して、家事・育児労働を兼務する原告X2の必要上、原告X1を、この時点では当面、原告X1の書斎であった一階ではなく、家族らの主たる共用空間である二階において療養させることとし、<1>一・二階間のエレベーター、<2>車椅子通過用に玄関の引き戸、<3>同様の玄関アプローチ段差解消、<4>非常時に備えての手摺り、<5>二階のバリアフリー化・床暖房の設置、<6>二階便所の設置、<7>浴室の補助用具設置(この時点では補助用具設置に止まり、本格拡張は後記(イ)のとおり)を行った(甲一八、原告X2本人)。

証拠(甲二〇の一ないし二〇の五、二一)によれば、これらについては、リフォーム代金が九五六万四四五〇円、リフォーム相談費用七万二四三〇円を要している。

(イ) 平成一四年浴室の改造

浴室を改修して、介護作業を可能とするため、二階浴室を拡張・段差解消工事及び備品(入浴用昇降機・附属背付きチェア〔入浴中原告X1を固定しておく器具〕、手摺り)を設置した(甲六九)。

証拠(甲七〇の一、七〇の二)によれば、これらについては、ユニットバス改造工事代金として合計三八五万九二二二円を要している。

(ウ) 平成一五年症状固定後における改造

原告X2は、二階において原告X1を療養させるには家族の生活空間や台所などもあることから狭すぎると判断し、二階を療養室とした上記方針を変更して、原告X1を一階において療養させることとして、<1>玄関アプローチ上の屋根(雨よけ)の設置、<2>一階を療養室とするための改修・便所設置・天井リフト設置を行った(甲五六、五九)。

証拠(甲五八の一ないし五八の六)によれば、これらの費用は、七五六万五七七五円を要している。

(エ) なお、証拠(乙二、三)によれば、被告側から上記の経過はともかくとして、一回的改修を前提に必要な改修の程度を見積もると、基本的にベッド及びここから車椅子への移乗を前提とすべきであるから六畳から八畳の広さは最低限必要であることを前提に、<1>一階に療養室を設け、<2>エレベーターを不要(二階における家族とのふれあいの問題はわが国の住宅改造に関する一般的なコンセンサスからすれば賠償範囲に含めるべきでないとする。)とし、<3>床をフローリングとして段差を解消し、<4>車椅子専用の洗面化粧台、<5>アコーディオンカーテン、<6>既存便所の拡幅工事について五〇%、<7>手摺り、<8>浴室拡張(但し一階寝室との隣接が相当〔但し、建築学的にこれが可能かどうかは不明〕)・入浴リフト及び背付きチェア、<9>玄関アプローチの段差解消工事等を内容とする工事として、最大限二九六万円が必要かつ妥当な金額と認められるとされている。

イ 改造の必要性・相当性

(ア) 浴室及び便所の拡幅工事の施行(備品設置を含む。)そのもの、床及び玄関の段差解消、車椅子専用洗面化粧台の設置、手摺りの設置

上記被告の意見によっても、浴室及び便所の拡幅工事の施行そのもの、床及び玄関の段差解消、車椅子専用洗面化粧台の設置、手摺りの設置は相当な改造というべきである。

(イ) エレベーターの設置

上記のように、原告等の居宅は、敷地面積が狭小であるため、各階の床面積も狭く、車椅子による移動や他の家族の必要、防災上の考慮からすれば、最終的に原告X1の療養を一階において行うことが相当であり、家族との共同生活や食事の利便、入浴の必要を考慮するときには、その都度二階にエレベーター移動することも必要やむを得ないというべきである。被告は、家族とのふれあいなどの問題は、わが国の住宅事情からすれば損害賠償の範囲には含ませるべきでないと主張し、確かに損害賠償においては公平の観点から介護上必要最小限の改造に限り考慮すべきであるが、だからといって、原告の居宅の事情からして事実上本人を一階に隔離するような結果までを容認することはできない。したがって、ある程度、家族の共同生活を考慮して一階と二階を一体的に考えるほかはなく、エレベーターの設置を相当でないということはできない。

(ウ) 便所二箇所の設置

上記のような改修経緯を辿ったために、便所は当初の療養室予定の二階及び現在の療養室である一階に一つずつ計二箇所に存在する。確かに家族の生活は構成員の成長等時と場面に応じてさまざまにありようを変化させていくのであるが、損害賠償の場面においては、その変化の都度増大する費用まで負担させるのは相当ではないから、公平上一箇所をもって相当とせざるを得ない。

(エ) 床暖房・天井リフト・玄関アプローチ上の屋根の設置

a 証拠(甲五一、六八、原告X2本人)によれば、原告X1は、体温調節機能を失調しており、冬になれば手足が紫色になり、場合によっては褥創ができるほど手足が冷えるため、床暖房の設置を要するというのであるが、ベッドに横臥する者の下半身を暖めるための暖房手段は既存のものでも種々あるのであって床暖房でなければならないという理由はない。

b 天井リフトの設置については、一階を療養室とする以上必要であると認められ、玄関アプローチ上の屋根の設置については、社会通念上相当なものと認められる。

(オ) 家族の利便

上記で相当と認めた改修範囲については、家族も利便を享受するのみならず、不動産及びその造作・備品の価値を更新・増加させるものである。但しその中には、原告X1のみが利便を享受するものも含まれているから、これらを平均して、上記のうち、六割をもって相当とする。

ウ 積算

(ア) 相当とする工事価額

<1> 平成一三年の改修工事(九五六万四四五〇円)のうち、床暖房の設置部分及び便所のうちの二階部分を控除する(九七万一二五〇円〔甲一八の五枚目〕、二五万六〇〇〇円〔甲一八の四枚目〕)を控除する。

なお、ピアノの運送代は相当因果関係がないから認められない。

リフォーム相談料は、設計上必要であったと認められるが、本件と相当因果関係があるのはその半額である(7万2430円÷2=3万6215円)。

956万4450円+3万6215円-(97万1250円+25万6000円)=837万3415円

<2> 平成一四年の改修工事 三〇八万五八八九円

平成一四年の改修工事(三八五万九二二二円)のうち、浴室の床暖房も相当性の範囲を超えるが、同項目はユニットバス本体の代金に含まれているから、同項目(二三二万円〔甲六九〕)の三分の一を控除する。

385万9222円-232円×1/3=308万5889円

<3> 平成一五年の改修工事 七五六万五七七五円

上記のとおり、床暖房は相当性の範囲を超えるから、関連費用と認められる部分(一四万五〇〇〇円、二四万四〇〇〇円、三万円〔甲五六の二枚目〕)を控除する。

756万5775円-(14万5000円+24万4000円+3万円)=714万6775円

なお、ピアノの運送代は相当因果関係がないから認められない。

<4> 合計

以上<1>ないし<3>の合計は、一八六〇万六〇七九円である。

(イ) 家族の利便の控除

1860万6079円×0.6=1116万3647円

(ウ) 結論

以上によれば、自宅改造費用は一一一六万三六四七円を相当と認める。

エ 設備等更新費用

(ア) エレベーター更新費用(甲六二・一枚目)

上記によれば、エレベーターは必要であるから、更新費用は相当であり、証拠(甲六二)によれば、その費用は二八二万六六八四円であるが、上記のとおり、不動産の価値を増加させるものであるから、うち三割をもって相当とする。

282万6684円×0.3=84万8005円

(イ) 二階更新費用(甲六二・二枚目)

二階便所、浴室暖房、二階床暖房の更新費用は、いずれも認められないから、二階部分更新費用から、同費用を差し引くこととし(1208万4628円-〔63万円+52万0800円+457万5228円+114万6600円+29万4000円〕=491万8000円)、その余については上記同様家族も利便を享受し、不動産の価値を増加させるものであるが、この中の大半を占める電動チェアリフトは専ら原告X1の使用にかかるものであるから、うち八割をもって相当とする。

491万8000円×0.8=393万4400円

(ウ) リフト更新費用(甲六二・三枚目)

いずれも認め、全額をもって相当というべきである。

四四九万九〇四〇円

(エ) 一階更新費用

床暖房は認められないから、同関連費用は差し引くこととし(八一五万一一五八円-〔二二二万三四八〇円+九一万七二八〇円+二九万四〇〇〇円〕=四七一万六三九八円)、上記同様、不動産の価値を増加させるものであるから、五割をもって相当とする。

471万6398円×0.5=235万8199円

(オ) 合計

上記の合計は、一一六三万九六四四円である。

(5)  消極損害(休業損害・逸失利益)(争点(2)エについて)

ア 休業損害

(ア) 給与減額・賞与減額の計算について

原告X1は、財団法人大阪府同和事業促進協議会に勤務してきたものであるところ、その給与については、被告の契約した保険会社に提出された源泉徴収票(乙二の一)及び休業損害証明書(乙二の二以下)の各給与額の記載と、勤務先が本件訴訟のために原告X1宛に作成した、定年退職となった場合の見込み賃金額及びその内訳を記載した書面(甲二四、以下「見込み賃金額記載表」という。)の給与額の記載に食い違いが見られるため、被告は、後者について信用性がないと主張する。

これらの内容を検討すると、休業損害証明書記載の「本給」については上記見込み賃金額記載表の基本給と同額であるが、諸手当の額が大きく異なっており(乙二の三以後の計算根拠記入欄と乙二の二の付加給欄合計額を照合すれば、職務手当を度外視しているようである。)、そのために源泉徴収票の年収額にも差が生じているように思われる(休業損害証明書の記載を元にすると、賞与額も見込み賃金額記載の賞与額よりも少なく記載されていることになる。)。さらに、証拠(甲二四)によれば、平成一一年の年間収入額は三九八万二三三三円であるとするが、同年一一月七日発生の事故であるのに、なにゆえ同年の収入額の半分近くを支給されるのか不明であるし、年間収入額から年末手当部分を控除した額を賃金額で除すると給料額の五・九か月分になるから、見込み賃金各記載表の平成一一年欄の記載は信用できない。

他方、休業損害証明書の記載は、平成一二年になっても同額の給与により計算していて、昇級や賞与を考慮していないのに対し、見込み賃金額記載表の個々の手当の記載は、概ね、就業規則中に規定されている賃金規程(甲二六)中の職員職務手当規程、扶養手当規程、住居手当規程、職員通勤手当規程、期末手当規程中の記載内容に従って計算されていることが明らかであり、これらの規程の体裁や内容等も併せて考えると、原告X1の給与はこれに従って支給される見込みが高い。

そうすると、平成一一年分については、源泉徴収票によって税務申告が行われていることや年収総額に誤りがある可能性が高いことに鑑み、見込み賃金額記載表の同欄記載に依拠すべきでなく、休業損害証明書及び既払い給料に関する照会回答書(甲三一)により計算するのが相当であり、平成一二年以下については、上記見込み賃金額記載表により計算を行うのが相当である。

(イ) 各年度の休業損害

a 平成一一年分について

(a) 給与部分

<1> 証拠(乙二の二)によれば、平成一一年一一月分は、有給休暇を使用したためか、事故日から二週間休暇扱いになっておらず、支給金額を見ても、見込み賃金額記載表(甲二四)と同額が支給されている。したがって、実際上の減額はなかったものと考えられる。

<2> 証拠(乙二の二)によれば、平成一一年一二月分は、三八万五九七〇円を支給されたが、源泉徴収を行っている基礎となっていると考えられる収入は、休業損害証明書記載の三四万七六五二円であると考えられるから、これによればやはり減収はなかったことになる。

(b) 年末手当部分

証拠(乙二の二)によれば、平成一一年分年末手当部分は、一二三万五三八六円支給されたが、見込み賃金額記載表(甲二四)の賞与額によれば、一三二万一〇一六円であるから、減額されたのは、八万五六三〇円である。

(c) 合計額

以上の合計は、八万五六三〇円である。

b 平成一二年

証拠(甲二四、三一)によれば、この年は、七五九万八六五八円支給されるべきところ、五二六万二二七七円しか支給がなかったものであるから、減額部分は、二三三万六三八一円である。

c 平成一三年

証拠(甲二四、三一)によれば、この年は、七七六万一八九〇円支給されるべきところ、六一万七五五二円しか支給がなかったものであるから、減額部分は、七一四万四三三八円である。

(ウ) 合計

原告は、平成一四年以降は逸失利益として計算しており、平成一三年までの請求に止めているから、休業損害の合計(aないしcの合計)は、九五六万六三四九円である。

イ 将来の給与・賞与・退職金の喪失について

(ア) 勤務継続・理事及び常務理事への昇進・昇格の蓋然性について

原告の請求する退職金差額及び逸失利益については、原告X1が理事及び常務理事に昇進することを前提に算出された金額を元にしているのに対し、被告は、原告が中途採用(三四歳)であり、同所に八年しか勤務しておらず、定年まで二三年間もあるとしてそれほどの年収は得られる見込みがないと主張するところである。

証拠(甲三九ないし四八、五一、原告X2本人)によれば、原告X1は、こども会やPTA活動を含め、社会福祉の向上や民生の安定、地域社会の発展に極めて貢献してきており、同和問題の研究家としても実績を上げてきた人物であることが認められ、これまでの職歴を見ても、茨木公共職業安定所職業相談員として茨木市同和事業促進道祖本地区協議会に勤務してきたものであり、事故当時の勤務先も、原告がこれまでに取り組んできた問題を取り扱う公益目的で設立された関連団体であるから、原告X1が終生同勤務先で勤務を継続する蓋然性は高いと認められ、さらに、原告X1の上記の社会活動や研究内容及び職歴に照らせば、中途採用であっても、時期はともかくとして、最終的には理事ないし常務理事に推薦される蓋然性もまた高いものと認められ、被告の指摘するように一般営利私企業と同様の就職事情に基づいて考えるべきでない。

(イ) 退職金差額について

証拠(甲二三ないし二五、三一)によれば、原告が、本件事故により退職することなく、定年(六五歳)まで勤務した場合の退職金は、一六九六万八〇〇〇円であり、症状固定時(四五歳時)の現価を求めるために二〇年に対応するライプニッツ係数〇・三七六八八九四八を乗じ、現実に支給された退職金三一二万七〇〇〇円を控除した額は、三二六万八〇六〇円となる。

1696万8000円×0.37688948-312万7000円=326万8060円

(ウ) 逸失利益(給賞与込み)

証拠(甲二四)によれば、原告X1の各年における取得見込み賃金額(給賞与込み)が判明しているから、これらに取得すべき年に応じたライプニッツ係数をそれぞれ乗じるとそれぞれの現価が判明する(別紙二のとおり)。その合計は、一億二一六六万一一三八円となる。

(6)  慰謝料

ア 入通院慰謝料

証拠(甲三の一ないし甲一六)によれば、原告X1は、平成一一年一一月七日の受傷から大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター、淀川キリスト教病院、石切生喜病院、協和会病院を経て平成一三年七月六日までの約一年八か月間入院し、平成一三年一一月七日から平成一四年一月二六日に再入院し、上記の入院の狭間である平成一三年七月七日から同年一一月六日まで及び平成一四年一月二七日から平成一四年七月六日までの一年間は通院(実治療日数三六日)であり、原告の受傷部位や症状などを併せ考慮し、これらの苦痛を慰謝するためには、四一七万円を相当とする。

イ 後遺障害慰謝料

原告X1の上記のとおりの受傷内容、後遺障害の内容及び程度に照らせば、その後遺障害慰謝料は二七〇〇万円を相当とする。

(7)  後見開始申立費用

証拠(甲二八、二九)によれば、原告X1の成年後見開始決定を得るため、原告X2の精神鑑定費用として一五万円を要したことが認められ、本件訴訟に必要な費用として損害中に含めるものとする。

(8)  合計

以上の損害の合計額は、三億〇〇三一万三一〇一円となる。

(9)  過失相殺

上記一で認定した割合により、過失相殺をすると、原告X1の損害は、一億八〇一八万七八六〇円となる。

(10)  損害のてん補

証拠(乙一)によれば、被告によっててん補された損害額は四四一万八一七九円であるから、上記損害額からこれを控除すると、一億七五七六万九六八一円となる。

(11)  弁護士費用の加算

本件訴訟の難易度、認容額、その他本件に現れた一切の諸事情に照らすと、被告に負担させるべき弁護士費用相当の損害は一一〇〇万円と認めるのが相当であり、これを上記(10)の金額に加えると、弁護士費用を加えた損害額元本は、一億八六七六万九六八一円となる。

三  原告X2らの固有の慰謝料

(ア)  慰謝料額

上記認定のとおり、原告X1は、終生脳障害患者として生活することを余儀なくされたもので、原告X2にとっては、最も信頼できる最愛の人生の伴侶であったのを一瞬にして奪われたも同然となり、もはや意思疎通すらも不可能な変わり果てた姿となったのを終生介護しなければならなくなったのは、筆舌を尽くし難い苦悩であるのは容易に察することができ、また、原告X3、原告X4、原告X5にとっては、地域の人々から尊敬を集めてきた誇らしき父親が一瞬にして奪われたも同然となり、もはや親子の会話すらできない姿となったのは、比べるものもない深い悲しみであるのは容易に察することができる。これらに照らすと、原告X2の固有の慰謝料は三〇〇万円、原告X3・原告X4・原告X5の固有の慰謝料はいずれも各三〇〇万円とするのが相当である。

(イ)  過失相殺

上記(ア)の損害額に一で認定した割合による過失相殺をするといずれもそれぞれ一八〇万円となるところ、これに本件訴訟の内容及び経過、認定額などその他一切の事情により被告に負担させるべき弁護士費用相当の各損害一八万円を加算すると原告X2、原告X3、原告X4、原告X5の各損害はいずれも一九八万円となる。

第三結論

以上によれば、原告X1の被告に対する本訴請求は、自賠法三条に基づく損害賠償金として、金一億八六七六万九六八一円及びこれに対する事故日である平成一一年一一月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、原告X2、原告X3、原告X4、原告X5の被告に対する各本訴請求は、自賠法三条に基づく損害賠償金として、各自金一九八万円及びこれに対する事故の日である平成一一年一一月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 天野智子)

別紙1 交通事故現場見取図

<省略>

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