大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成14年(ワ)5950号 判決 2005年9月21日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は,甲事件・乙事件とも,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1原告らの求めた裁判

1  甲事件

被告会社は,甲事件原告ら各自に対し,別紙未払賃金差額計算書の合計額欄記載の各金員及びこれらに対する平成14年6月1日から支払済みまで年6分の割合による各金員を支払え。

2  乙事件

被告会社は,乙事件原告ら各自に対し,別紙未払賃金差額計算書の合計額欄記載の各金員及びこれらに対する平成15年5月28日から支払済みまで年6分の割合による各金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告会社の従業員であり,補助参加人の組合員である原告らが,被告会社と補助参加人の間において締結された労働協約によって賃金が減額されたことに関し,上記労働協約が無効であると主張して,上記労働協約の締結前の条件による賃金と上記労働協約に基づいて支払われた賃金との差額及びこれに対する弁済日の経過後から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 被告会社(略称は「日逓」であり,以下「日逓」ということがある。)は,郵便物及び逓信事業に関連する物品の輸送事業等を目的とする株式会社であり,近畿地区には近畿統轄支店をおいている。

被告会社の具体的業務内容は,日本郵政公社(以前は郵政省ないし郵政事業庁)との間の請負契約に基づき,<1>普通郵便局管内における特定郵便局あるいは郵便ポストからの郵便物の取集業務,<2>普通郵便局間の郵便物の輸送業務等である。

イ 補助参加人(略称は「JPU」である。)は,以前の名称を全逓信労働組合(略称は「全逓」であり,以下「全逓」ということがある。)といい,郵政関係労働者及び組合が加入を認めた者で組織された労働組合である(<証拠略>,証人A)。

補助参加人は,規約に基づき,下部組織として全国に12の地方本部を置き,その下に郵便局や地域を単位として579支部(平成15年9月現在)をおいている(<証拠略>)。

補助参加人の組合員は,大きく分けて,郵政(現在の日本郵政公社)の職員,簡保事業団の組合員及び輸送部門を担当する民間会社(被告会社もこれに含まれる。)の組合員からなる。補助参加人の全組合員約15万人のうち13万人以上が郵政の職員であるが(<証拠略>,証人B),補助参加人には,被告会社の従業員を組織している日逓部門の10支部があり,その人数は約2800人である(<証拠略>,証人B)。

ウ 原告らは,いずれも被告会社に正社員運転士として雇用され,近畿統轄支店傘下の各事業場において稼働する労働者であり,補助参加人の組合員である。原告らの略歴は,別紙原告ら略歴一覧表のとおりである。

(2)  日逓労組と補助参加人との統一

ア かつて被告会社には,日本郵便逓送労働組合(以下「日逓労組」という。)が組織されていたが,昭和46年8月29日から開催された全逓第24回定期全国大会(以下「本件統一大会」という。)において,昭和46年9月1日をもって,補助参加人と沖縄全逓,日逓労組が統一されることが決議され(以下「本件統一」という。),日逓労組の組合員は補助参加人の組合員となった。

イ 日逓労組の第33回臨時全国大会(昭和46年7月20日開催)において,日逓労組本部から本件統一後の決議機関の運営に関し,本件統一後における両組織の運動が完全に同化するまでの間,日逓労働者の意思統一を図るため,日逓関係の問題に限定して,次の諸会議を当分の間設置し開催する議案が承認され(<証拠略>),その後開催された本件統一大会において確認された(<証拠略>)。

(ア) 日逓関係全国代表者会議(以下「全国代表者会議」という。)

a この会議は,日逓対策部中央執行委員会及び各地本,地区の各執行委員と,各支部ごとに150名までに1名,以上100名までごとに1名を加えた定数により選出された支部代表をもって構成する(ただし,地本執行委員と地区執行委員を兼務している場合は1名とする。)。

b 会議は年1回定期に行うこととし,全逓全国大会の方針原案作成後の段階で開催する。ただし,中央執行委員会の判断により,臨時に開催されることがある。

c 会議の目的と審議事項は,日逓に関係する諸問題に限定し,全逓全国大会に向けて日逓労働者の意思反映の場とするとともに,日逓独自のたたかいの目標,その他特殊性による諸活動などについて,年間を通じての意思統一を図る。この意思統一された内容が,全逓の運動方針に加味されていないときは,全国大会の追加補強事項として中央本部側より提案する。

(イ) 全国日逓支部長会議(以下「全国支部長会議」という。)

a 会議の構成は,本部中央執行委員会及び各地本担当執行委員と各日逓支部長とする(ただし,地本執行委員と支部長を兼務している場合は,支部代表1名を加える。)。

b 会議は,年間3回程度行い,全逓中央委員会の前段で開催することを原則とし,その他中央執行委員会の判断で必要に応じて開催する場合がある。

c 会議の目的と性格は,全逓中央委員会の闘争方針に基づき,日逓企業に対する統一的なたたかい方についての意思統一並びに独自要求の具体的内容について確認し,徹底を図る。なお,この会議は,すべての議題について満場一致をもって決定することとし,原則として採決は行わない。ただし,要求の具体的な内容等で意思統一が図れない場合は,次期全国代表者会議で決定する。

(ウ) 地本代表者会議

(エ) 日逓関係地方代表者会議

ウ 被告会社と補助参加人は,昭和51年3月31日に労働協約を締結したが(<証拠略>。以下「基本協約」という。),その後労使間で成立した労働協約の改廃の合意事項については,その都度関連条文のみを改正協約として締結している(<証拠略>)。

基本協約には,以下の規定がおかれている(<証拠略>)。

(協議会の目的)

第128条 会社は,業務運営の民主化と,その円滑なる運行を図るため,労務協議会を設置する。

(協議事項)

第129条 本協議会において協議する事項は次のとおりとする。

1  労働条件に関すること。

2  労働協約に基づく諸規程の制定及び改廃に関すること。

3  労働協約の解釈,適用についての疑義及び異議に関すること。

4  業務の刷新並びに能率増進に関すること。

5  その他本協議会の目的達成上必要と認めたこと。

前項に定めるもののほか,なお,前項第1号に関連する業務運営の方針及び経理状況について必要資料を提供して説明し,または意見を述べることができる。

(有効期間)

第172条 この協約の有効期間は昭和51年4月1日から昭和52年3月31日までとする。

当事者がこの協約を改廃しようとするときは,上記期間満了の90日前に書面をもって相手方に申し出なければならない。この改廃の申し出がないときは,この協約期間は,1か年ずつ更新するものとする。

エ 補助参加人の規約(平成11年7月9日改正施行にかかるもの。以下「本件規約」という。)のうち,補助参加人の機関に関する第3章の主な規定は以下のとおりであるが,前記イの諸会議についての規定はない(<証拠略>)。

第15条(地位及び権限) 全国大会は組合の最高議決機関とする。

下記の事項については,全国大会の決議により決定しなければならない。

(1) 規約の改正

(2) 組合の解散

(3) 運動方針

(4) 他団体への加入,他団体との連合及びこれらの団体からの脱退

(5) 予算及び決算

(6) 逓送部門及び簡易保険福祉事業団部門組合員のストライキ権の行使に関わる権限の委譲

2 前項の(1)及び(2)の議決は直接無記名投票による全代議員の3分の2以上の賛成によらなければならない。

3 その他,全国大会の運営については全国大会で定める規定による。

第21条(定足数,表決)全国大会は,代議員,第36条の役員及び地方本部代表者の構成員の3分の2以上の出席がなければ,議事を開くことができない。

2 全国大会の構成員のうち,代議員以外の者は議決権を有しない。

3 議事は,この規約に別段の定めがある場合を除いては,代議員の3分の2以上が出席し,議長を除く出席代議員の過半数の賛成をもって決するものとし可否同数のときは議長の決するところによる。

第22条(代議員)代議員は全国大会に出席して,提出された議案を審議し,議決を行う。

2 代議員は,毎年大会直前に,地方本部(沖縄県本部含む)ごとに,組合員の直接無記名投票によって選出する。

3 代議員は,組合員400名に1名の割合で選出するものとし,400名未満の端数は201名以上の場合に1名を加える。

第24条(地位及び権限)中央委員会は全国大会に次ぐ議決機関とする。

2 次に掲げる事項は,中央委員会の議決により決定することができる。なお,中央委員会の決定は全国大会に反することはできない。

(1) 運動方針に基づく各種闘争方針及び戦術

(2) 労働協約に関する事項

(3) 特別会計支出に関する事項

(4) 臨時組合費の徴収

(5) その他全国大会から委託された事項

第25条(構成)中央委員会は中央委員,第36条の役員並びに地方本部代表者(地本委員長)をもって構成する。

第30条(定足数,表決)中央委員会は,中央委員,第36条の役員及び地方本部代表者の3分の2以上の出席がなければ,議事を開くことができない。

2 中央委員会の構成員のうち,中央委員以外の者は議決権を有しない。

3 議事は,この規約に別段の定めがある場合を除いては,中央委員の3分の2以上が出席し,議長を除く出席中央委員の過半数の賛成をもって決するものとし,可否同数のときは議長の決するところによる。

第31条(中央委員)中央委員は中央委員会に出席して,提出された議案を審議し,議決を行う。

2 中央委員は,定期全国大会の代議員が選出された後速やかに,地方本部(沖縄県本部含む)毎に,代議員の中から組合員の直接無記名投票によって選出する。

3 中央委員は,組合員2000名に1名の割合で選出するものとし,2000名未満の端数については1001名以上の場合に1名とする。

また,上記の方法で選出される中央委員のほか,各地方本部(沖縄県本部を除く)毎に1名を加えた中央委員定数とする。

4 選出された中央委員は全国大会において議長より指名される。

5 中央委員の任期は,当期の全国大会終了の翌日から次期の定期全国大会の開催の前日までとする。

第33条(任務と権限)中央執行委員会は全国大会及び中央委員会の議決に基づき組合の業務執行に関する意思を決定しこれに基づき組合業務を執行する。

第34条(構成)中央執行委員会は,主席会計監査員及び会計監査員を除いた役員で構成する。

第35条(会議の運営)中央執行委員会は中央執行委員長が招集する。

2 中央執行委員会の議事は中央執行委員長が主宰する。

3 中央執行委員会は,議決権を有する役員の3分の2以上の出席がなければ,議事を開き,議決することはできない。

4 中央執行委員会の議事は,この規約で別段に定めがある場合を除いては,議長を除いた議決権を有する出席構成員の過半数で決し,可否同数のときは議長の決するところによる。

第36条(役員)組合に次の役員を置く。

中央執行委員長1名 副中央執行委員長1名 書記長1名

財政局長1名 中央執行委員若干名 青年部長1名

主席会計監査員1名 会計監査員4名

第37条(任務と権限)役員の任務と権限は次のとおりとする。

(1) 中央執行委員長は,組合を代表する。

(2) 副中央執行委員長は,中央執行委員長を補佐し中央執行委員長に事故のあるときはその職務を代行する。

(3) 書記長は,執行業務全般を統轄する。

(4) 財政局長は,財政業務を分掌する。

(5) 中央執行委員は,中央執行委員会の決定により執行業務を分掌する。

(6) 青年部長は,青年部業務を分掌する。

(7) 主席会計監査員は,組合業務を監査し,これを統括する。

(8) 会計監査員は,それぞれ組合業務を監査する。

第38条(選出と補充)役員は,組合員の中から全国大会において代議員の直接無記名投票により選出する。

2 役員のうち,中央執行委員は,下記のとおり,部門別に選出する。

郵政部門若干名

逓送部門1名

事業団部門1名

3 役員に欠員が生じた場合には,直近の全国大会又は中央委員会において,代議員又は中央委員の直接無記名投票による補欠選挙を行って選出するものとし,その任期は前任者の残りの期間とする。

(3) 労働協約の改訂(本件改正)について

ア 被告会社においては,昭和58年1月以降,労使間において経営改善に関する協議を行う経営改善委員会(以下「改善委員会」という。)が開催されていたが,平成12年10月31日,第39回改善委員会が開催され,委員長である被告会社代表者から,新規参入業者があったことを理由に,コストの削減の必要性が説かれ(<証拠略>),改善委員会のメンバーの一部からなる経営改善専門委員会(以下「専門委員会」という。)を設置し,協議を重ねていたが,その中で,被告会社は,従来の労働協約の労働条件事項を改訂する「平成13年度に実施する収支改善施策」(以下「本件収支改善施策」という。<証拠略>)を提示した。

イ 平成13年1月23日に開催された第40回改善委員会において,被告会社は,改めて,本件収支改善施策を提示し,中央本部日逓対策部は,これを受けて,補助参加人内部で検討することとした。

平成13年2月15日から同月16日にかけて,全逓第114回中央委員会が開催されたが,逓送部門の取り組みに関して,中央執行委員会から,「具体的なとりくみについては,日逓部門全国支部長会議議案に提起することとし,郵便輸送部門については,地本代表者会議での議論の上に,別途指導することとします。」との議案説明がなされた(<証拠略>。なお,この会議において,本件収支改善施策に対する対応を,全国支部長会議に委ねることが決定されたか否かについては,当事者間に争いがある。)。

ウ 平成13年2月22日から23日にかけて開催された全国支部長会議を経た上,同年3月16日,補助参加人は,全逓中央執行委員会委員長を代表者として,被告会社との間で,労働協約の一部を改正する内容の労働協約を締結して,これを書面に作成し(以下「新労働協約」といい,この労働協約の改正を「本件改正」という。),新労働協約は,同年4月1日から実施された(<証拠略>)。

(4) 本件改正に基づく労働条件の変更

ア 本件改正における主要変更事項は,別紙主要変更事項対照表のとおりである(以下「本件変更事項」という。)。

イ 本件改正により,その実施後1年間(ただし,原告X3については後半の約半年間)において,原告らに支払われないこととなった賃金の差額は,別紙未払賃金差額計算書記載のとおりである。

2 争点

(1) 本件改正手続の瑕疵の有無

(2) 本件改正に表見法理が適用されるか否か。

(3) 本件改正が無効である場合と就業規則の不利益変更の効果

第3争点に関する当事者の主張

1  本件改正手続の瑕疵の有無

【原告らの主張】

(1) 全国代表者会議の決議を欠いていること

ア 補助参加人は,本件統一に際して,前記争いのない事実等(2)イ記載のとおりの諸会議を設置した。

補助参加人の日逓対策部は,単位組合ではなく,補助参加人の一部門となったため,独自の組合規約を設けることができないので,前記諸会議の設置に至ったものであるが,全国代表者会議は,補助参加人の日逓部門内において,組合員100名に1名ずつ各支部から選挙によって選出された代議員が,一般組合員の傍聴の下で,議論の上,過半数決議による意思決定が行われる最高決議機関である。

一方,全国支部長会議は,わずか10名(各地本日逓対策委員を加えても計20名)が参加し,密室で,満場一致を原則とし,執行部の闘争方針に基づき日逓部門独自の意思統一を図る必要がある事項について,具体的方針を確認し,徹底するといういわば業務執行に関する意思決定機関であり,採決をすることをしない。

したがって,日逓部門においては,個々の組合員の意思を問う必要がある事項については,組合民主主義の原理に基づき,全国代表者会議において執行部案の採否を決定する必要がある。

補助参加人の日逓部門においては,労働条件の不利益変更問題に関しては,本件改正まで,軽微な不利益変更を除いては,すべて全国代表者会議に付議し,採決してきた。補助参加人は,全国代表者会議を含む上記諸会議に関する確認事項は,昭和63年開催の全逓第42回定期全国大会において削除されたと主張するが,その後も,全国代表者会議は開催されていた。

イ 本件のように,日逓部門組合員の労働条件に関する従来の労働協約類を大幅に不利益変更する新労働協約の締結については,明らかに全国代表者会議の付議事項であって,その過半数決議を経るのでなければ,日逓対策部ひいては補助参加人の意思決定が行われたものと評価することはできないが,本件改正を協約事項とする新労働協約は,全国代表者会議の決議を経ていない。

したがって,全逓中央執行委員長及び同中央委員には,そもそも新労働協約の締結権限がないから,新労働協約は無効である。

(2) 全国支部長会議への委任について

ア 全国支部長会議への委任がないこと

仮に,必ずしも本件改正について全国代表者会議の決議を要せず,全国支部長会議の決議で足りるとしても,全逓第114回中央委員会においては,具体的な取り組みについて全国支部長会議議案に提起するとの決議をしたにすぎないから,これをもって,具体的な取り組み課題や締結されるべき労働協約の内容の決定までをも,全国支部長会議に委ねる旨の決議がされたと解釈することはできない。

本件規約においては,「労働協約に関すること」については中央委員会で決めると定められているが,中央委員会議案書全16項のうちわずか1行の「具体的なとりくみについては,日逓部門全国支部長会議議案に提起する」という文章をもって,全国支部長会議に,労働協約を不利益に変更する権限が委ねられたと理解することはできない。

イ 全国支部長会議への委任が無効であること

また,仮に,中央委員会が,本件改正についての決定を全国支部長会議に委任したとしても,そのような委任は無効である。

労働協約に関する事項について決定する権限を有している中央委員会は,それを他の機関に委任できるとしても,ほしいままに,どこの誰に何を委任してもよいというのではなく,本件規約の趣旨の下,委任すべき事項,委任の範囲,委任の相手方については,自ずから労働協約の有する性質に基づく本来的な制約がある。

労働条件の不利益変更を内容とする労働協約の締結・改訂に当たっては,通常の場合よりも慎重な手続が要求されると解すべきであり,委任できる機関と委任された機関の内部における決定過程は,「集団的意思が民主的手続を経て形成された」か,「通常よりも慎重な手続」と評価できるものでなければならない。

しかし,本件においては,以下のとおり,労働協約に関する集団的意思が民主的手続を経て形成されたものとは到底いえない。

平成13年2月22日,23日に開催された全国支部長会議では,「本年4月実施課題として別途提起する取り組みを実施することとします」としているが,別途提起された「具体的取り組み課題」(<証拠略>)には,収支改善施策(案)が付されているにすぎず,労働協約の締結について触れたところは一切ない。

したがって,補助参加人の主張によっても,労働協約の締結についての意思決定手続が本件規約に定めるところに従ってされたとは到底言えない。

そして,日逓部門組合員の多数が新労働協約の締結に反対していたのであるから,実質的にも,日逓部門組合員による意思形成手続を経たということはできない。

前記(1)イのとおり,組織運営上,日逓部門組合員の意見を十分に反映するのは,全国代表者会議の方であり,補助参加人の日逓部門においては,労働条件の不利益変更問題に関しては,軽微な不利益変更を除いては,すべて全国代表者会議に付議し,採決してきた。

(3) 基本協約第172条に基づく従前の労働協約の自動更新

ア 被告会社が書面による基本協約の改廃申し出を行った時期は,平成13年1月23日開催の第40回改善委員会である。労働協約の有効期限は,平成13年3月31日であるから,期間満了の67日前となる。

基本協約第172条2項によれば,労働協約の改廃には,期間満了の90日前に書面をもって相手方に申し出なければならないとされているから,前記要件を満たしていない。

イ なお,被告会社が平成12年12月27日に補助参加人に提出した書面は,専門委員会の中で討議資料として使用するために作成されたものであり,単に検討項目を羅列しただけのレジュメにすぎないから,改廃申し出の確定的意思表示文書ということはできない。また,仮に,かかる改廃の申し出であるとしても,その基本協約自体の解約申入れではなく,その一部の改廃申し出にすぎないから,基本協約自体の更新とすることはできない。

ウ したがって,本件改正による労働協約の改廃はされておらず,従前の労働協約が自動更新されたこととなる。

【補助参加人の主張】

(1) 本件改正に至る経緯について

被告会社は,平成12年10月31日の改善委員会において,補助参加人に対し,被告会社が当面する危機的な経営状況を説明し,平成13年1月23日の改善委員会において,収支改善施策案を提示した。

補助参加人は,改善委員会における被告会社の説明を受けて,独自に郵便輸送事業に関する諸情勢を分析したところ,被告会社を巡る情勢は極めて深刻なものと認識した。そこで,補助参加人は,平成12年12月12日に地本代表者会議を開催し,平成13年1月22日に日逓部門緊急全国支部三役会議を開催するなどして,情勢を説明して認識の一致を図るとともに,同年2月22日及び翌23日に全国支部長会議を開催して,被告会社提示の収支改善施策に対する補助参加人日逓部門としての意向を決定することとした。

補助参加人は,同年1月23日に,被告会社から収支改善施策案の提示を受け,翌24日に地本代表者会議を開催し,全国支部長会議の議案書及び同会議に向けた職場討議資料(具体的取り組み課題)の内容について承認を得て配布し,これを各地方本部日逓担当執行委員に託して,日逓部門組合員の職場討議に付した。

同年2月22日及び翌23日に全国支部長会議が開催された。同会議においては,討議の過程においては各支部から賛否両論が示されたが,補助参加人中央本部が最終的に本部案を承認することの決断を求めたところ,全会一致で「具体的取り組み課題」を受け入れることを承認した。

(2) 全国代表者会議の決議の要否

争いのない事実等(2)イ記載の諸会議は,規約上のものではなく,統一大会の確認事項として,日逓部門の組織運営の便宜のために,当面の措置として特にその設置が認められたものにすぎない。そして,統一大会においても,前記諸会議に準機関的任務が与えられたことはなく,これらの会議を開催することが決定されただけであり,その構成,開催時期,目的,審議事項については,何ら決定されていない。

しかも,日逓部門の組織運営に関する上記大会確認は,そもそも本件統一に伴う当面の措置であったところ,その後,これら確認事項は,順次削除されて,すべて現存していない。当面の措置として設置された上記各会議の開催については,昭和63年に開催された全逓第42回定期全国大会において削除された。

全国代表者会議も全国支部長会議も,本件規約上の機関ではないし,決議機関でも執行機関でもないのであって,労働協約の締結に当たっても両会議の議決は必要とされていない。

なお,これらの諸会議の招集,開催自体が禁じられたものではないため,これらの諸会議の招集,開催が行われてきたことはあるが,規約の運用解釈として,これらの諸会議を開催しなければならないものではない。

本件規約第24条によれば,「労働協約に関する事項」は中央委員会の議決により決定することができるとのみ定めているから,労働協約を締結するには,中央委員会の決議があれば足りる。

原告らは,労働条件の不利益変更に関しては,全国代表者会議に付議して採決されてきた旨主張するが,そのような事実はない。

中央委員会が,日逓部門組合員の労働条件の不利益変更について,全国代表者会議又は全国支部長会議に付議したのは,中央委員会自らが,組織運営者の観点から,これらの会議に付議することが適切と判断したことによるものである。

(3) 全国支部長会議への委任

ア 平成13年2月15日に開催された補助参加人第114回中央委員会は,「逓送部門のとりくみ」として,郵便輸送における輸送運賃の引下げ,新規業者の参入という状況に対応して,組合員の「職場と雇用・事業」を守ることを基本スタンスとして全力を挙げて取り組むこと及びその「具体的とりくみ」については全国支部長会議に提案することを決議した。すなわち,補助参加人中央委員会は,被告会社の提示した収支改善施策案に対する補助参加人としての対応としての「具体的取り組み課題」の決定を全国支部長会議に委ねることを決議したのである。議案として提案したのであるから,その趣旨は,全国支部長会議に議案として提示して,その決定に委ねるとする趣旨であることは明らかであるし,これについては,日逓部門組合員のすべてが理解していた。

なお,原告らの主張に従えば,具体的取り組み課題の決定には,規約上,改めて中央委員会の決議が必要であることになる。しかし,補助参加人組合員のうち,日逓部門組合員のみに適用される具体的取り組み課題について,日逓部門組合員の意向が定まれば,組織運営上の観点からは,改めて中央委員会を開催して決議をする必要性はないから,上記中央執行委員会決議は,具体的取り組み課題を単に提案しただけでなくその諾否の決定を全国支部長会議に委ねる趣旨のものと解するのが当然である。

イ そして,具体的取り組み課題は,直接的には,日逓部門組合員のみの労働条件に関するものであるから,その諾否の決定を,日逓部門組合員から選出された中央委員が少数(中央委員88名の中の3名)しかいない中央委員会においてせずに,日逓部門組合員の組織的判断に委ねることとし,日逓部門各支部の支部長らを構成員とする全国支部長会議に委ねたのは,組織運営上,日逓部門組合員の意思を十分に反映,尊重しようとしたものであり,何ら不当として非難されるべきものではない。

この決議に基づいて,平成13年2月22日から23日にかけて開催された全国支部長会議は,「具体的取り組み課題」を承認した。なお,全国支部長会議の議案書には,労働協約を締結する上での明文の記述がない。しかし,「具体的取り組み課題」の別紙として添付された「専自関係収支改善施策(案)」及び「軽四輪事業部収支改善施策(案)」は,項目ごとに改善内容概要を具体的かつ詳細に記載したものであり,提案された労働条件の変更内容は明確である。そして,同議案は,「具体的取り組み課題」の別紙の改善施策を,「本年4月」から実施することを受諾するよう提案したものであることも明らかである。さらに,これを受諾する場合には,その実施前に,その内容に従った内容の労働協約を締結しなければならないことも明らかであって,全国支部長会議は,労働協約の締結についても承認したものというべきである。

全国支部長会議においては,討議を経た結果,全国代表者会議における決定を求めた支部長らも含めて,結局は,全支部長が本部集約を受け入れたのであるから,多数意見を無視した決定ではない。

したがって,本件労働協約は,本件規約に従って締結されたものである。

ウ 本件労働協約の締結は,規約に定めるところに従ってされたものである上に,実質的にも,日逓部門組合員による意思形成手続をも経ているのであるから,意思決定手続には何らの瑕疵もない。全国代表者会議の議決を経ていないことをもって,意思形成手続に瑕疵があるとすべき理由はない。

なお,補助参加人中央本部は,本件労働協約類締結後に開催された「全逓第55回定期全国大会」(平成13年6月20日開催)及び「第31回日逓部門全国代表者会議」(同月23日開催)に,本件労働協約類締結に至る経緯を報告し,その承認を得た。

(4) 以上のとおりであるから,本件改正は有効である。

【被告会社の主張】

(1) 本件改正の手続

被告会社と補助参加人との間による本件改正に関する手続は,以下のとおりであり,違法な点はない。

ア 平成12年10月31日開催の第39回改善委員会において,委員長である被告会社代表者から,被告会社がこれまで3年連続して運賃を引き下げているが,荷主である郵政省からは郵便事業を取り巻く厳しい経営環境から更なる運賃引下げ要請を受けており,今後も抜本的な経営改革が必要であることから,具体策の早急な策定と実行が必要であるとの趣旨の所信表明があった。これを受け,委員会においては,経営改革に関する議論を始めることが確認され,具体的経営改革案については専門委員会で議論することが決められた。

イ その後,改善委員会及び専門委員会において,労使の意見交換が行われ,平成13年1月23日開催の第40回改善委員会において,被告会社から補助参加人に対し,「平成13年度に実施する収支改善施策」の提案を行い,補助参加人が組織内での検討を行うことになった。

ウ 以上の議論の過程を経て,平成13年3月16日,被告会社と補助参加人の間で,平成13年度実施の収支改善施策に関する諸規程等の改正,運行管理要員配置基準等の改正,平成13年度実施の収支改善施策に関する協約,協定等の改正の締結が行われた。

エ そして,本件改正には,原告ら以外の大多数の従業員は,これを受け入れ,賛成している。

(2) 本件改正の内容について

また,本件改正の内容は,次のとおり,合理的なものである。

ア 被告会社を初めとする各郵便輸送業者は,郵便専用自動車により輸送を行い(以下「専自制度」という。),その運賃(以下「専自運賃」という。)は,すべての郵便輸送業者(以下「専自業者」という。)について,運輸省(当時)の処分による確定額(全社同一運賃)をもって定められてきた。それゆえ,国と専自業者との契約も競争契約ではなく,随意契約によって締結・更新されてきており,こうした随意契約制は専自業者にとってメリットがあるため,各専自業者の労使双方も,随意契約制の維持・継続を目指す点では利害が一致していた。

専自制度による運賃は,昭和61年以来据え置かれてきたが,世界各国では,郵便事業に関する民間への開放,更には多国籍化といった動きが急速に進展してきた。また,日本国内でも,郵便事業の経営内容が悪化し,諸部門について大幅な規制緩和が叫ばれるようになった。

そうした背景の下,専自業者も,荷主である郵便事業の収支改善に応えるため,平成9年から継続的に専自運賃の引下げを実施してきた。そして,管理要員の削減(180人),機械化による事務員の削減(90人),ベースアップの抑制,賞与の引下げ,正社員の採用中止,食堂等の廃止など,効率化を進め,経費を削減することで対応してきた。

イ 平成12年8月30日,a社が,運輸局に対し,貨物自動車運送事業法11条1項に基づき,「運賃及び料金(郵便)」を届け出て,受理された。その内容は,それまでの専自運賃と比較して,時間制運賃が25パーセント,距離制運賃は30パーセント低いものとなっており,これを適用する営業区域も,北海道・四国・沖縄を除く全国とされていた。

これにより,既存の専自業者は,委託契約(随意契約)を更新してもらうために,少なくともa社と同額のレベルにまで専自運賃を引き下げざるを得ない状況に追い込まれた。また,それまで既存の専自業者に独占されてきた郵便輸送の領域に,今後,別の新規業者が参入する可能性が生じたため,そうなると各専自業者は更なる運賃引下げを余儀なくされることになり,それができなければ新規業者に既存受託業務を蚕食されることになる。

ウ そこで,被告会社は,a社の参入が被告会社の経営に与える影響を分析し,それに対する対応策を検討しなければならなくなった。

被告会社においては,数次にわたる運賃引下げにより,売上高は700億円を割り込むに至った上,a社と同額の運賃に変更した場合,更に135億円もの売上減を余儀なくされる見通しとなり,抜本的な経営改革を避けて通れない状況となった。他方で,135億円の売上減を専自部門に従事する正社員約3500人(平成13年3月当時)の賃金のみで吸収すると,一人当たり年間約390万円の収入減となることから,従業員に与える衝撃もできる限り緩和する必要があると判断し,可能な限り基準賃金への影響を抑制し,また臨時賃金への影響も必要最小限にとどめることを基本としつつ,諸手当や福利厚生面を含め抜本的な見直しを行うこととなった。

エ 改革は次の点に配慮しながら,休憩時間,休日・休暇日数,病気休暇制度,超過勤務手当等についての割増率,年末始出勤手当,深夜勤務の52分加算措置などについて変更を加えた。

まず第1に,急激な改革は,従業員にとって必要以上の打撃となるので,それをできる限り緩和するため,事項によって実施時期に違いを設け,あるいは一つの事項を段階的に実施するなどの工夫を凝らした。第2に,改革は,一部の従業員にのみ不利益を課すものではなく,役員・従業員全体が等しく負担を分かち合うものである。第3に,前記のとおり,従業員の賃金以外の部分で可能な限り経費を削減し,賃金への影響を極力抑制するよう配慮した。第4に,賃金以外の部分での削減についても,例えば「服務編成要領の見直し」などについては,運転士など人員の自然減で対応し,無理な人員削減は行っていない。第5に,今回の改革で見直された事項の中には,もともと法定基準を上回る内容が定められていたもの,あるいは,他の運送事業者と比較して好条件になっていたものなどが多数存在していた。これらについて,法定基準に基づき見直しを行ったり,あるいは他企業並みに近づけた。

オ 以上のとおり,本件改正は,a社の参入を契機として生じた危機的事態を回避すべく,労使が真摯かつ十分に交渉を重ねて実施されるようになったものであって,内容その他の面からみても合理的なものである。雇用を確保しつつ新規参入業者との価格競争にも勝ち抜いていかなければならない被告会社にとって,本件改正は避けて通れない課題であり,そのことは補助参加人も十分承知していたからこそ,労使双方が参加する改善委員会などでも改革案が了承され,新労働協約の締結に至ったものである。

しかも,被告会社は,本件改正の内容の策定,実施方法の検討の過程において,労働条件の低下を緩和するため,最大限の配慮を行った。

カ 本件改正後の経営状況等について

平成15年4月に発足した日本郵政公社は,「中期経営計画」に基づき,利用者に対する新しいサービスを展開するなど郵便利用拡大に努めてきたが,長引く不況で企業が経費節減の一環から差出郵便物を控える傾向にあり,取扱い郵便物が減少する一方,民間宅配業者との競争も激化するなど,郵便事業財政を取り巻く環境は厳しさを増してきた。これに対応するため,同公社は,新たに「アクションプラン」を策定し,中期経営計画の目標達成に向けて,更なる経費削減に積極的に取り組み始めた。

中期経営計画では,距離制300キロメートル以上の長距離線路が,競争契約に移行されることとなっており,その第一弾として,平成15年4月に新規線路の競争入札が実施された。

被告会社は,競争入札において受注できず,落札できた分についても大幅な運賃引下げを余儀なくされている。また,郵政事業庁ないし日本郵政公社からも,大幅な運賃引下げを求められている。

被告会社が平成13年に行った改革は,その内容及び実施時期において,当時被告会社が置かれていた状況に対応するために必要不可欠であったと同時に,その後に求められることが予測された一層の運賃引下げに備えるためにも必要なものであり,本件改革は,実質面においても正当なものであったことは明らかである。

(3) 以上のとおりであるから,本件改正は有効である。

(4) 原告らの主張(3)について

次のとおり,本件改正の対象となった従前の労働協約の該当条項は,平成13年3月31日の経過により失効したということができる。

ア 被告会社は,補助参加人に対し,平成12年10月31日開催の第39回改善委員会において,給与の是正を行うこと,それを行うについては手当関係,福利厚生関係を含めた抜本的な見直しを行い,一般貨物運送事業者と同等の会社組織,賃金,福利厚生制度等に改革したいとの申し出を行った。

この申し出を受け,この委員会において,具体的経営改革については専門委員会で議論することが決まった。

その後,被告会社と補助参加人は,平成12年12月27日までに開催された改善委員会及び専門委員会において,被告会社と補助参加人間の労働協約のうち,本件改正に関する各項目を見直しの対象とすることとし,これらについて労使で意見交換を行った。このような労使協議の過程を経て,平成13年3月16日,労使の間で本件改正に関する合意が成立した。

イ ところで,被告会社と補助参加人間の労働協約は,昭和51年3月31日に作成された労働協約書(基本協約書)を基本書面とし,その後労使間で成立した労働協約の改廃の合意については,その都度合意事項のみを別文書として作成している。本件で問題となっている労働協約の変更合意も基本協約書とは別に合意文書が作成されている。

ウ 以上のとおり,被告会社と補助参加人は,平成12年10月31日開催の第39回改善委員会以降,本件労働協約のうち,本件改正に関する各項目を見直しの対象として議論を重ねたのであるから,基本協約第172条に基づき,従前の本件改正に関する各条項に該当する部分については,期間満了日である平成13年3月31日の経過により失効したというべきである。

2  本件改正に表見法理が適用されるか否か。

【被告会社の主張】

(1) 仮に,補助参加人内部の手続的瑕疵により,その代表者に本件改正に関する協約の締結権限がなかったとしても,それは,本件規約に違反するものではなく,補助参加人内部の慣行に違反したものである。

(2) このように労働組合内部の慣行に違反したことが手続的瑕疵となるのであれば,使用者は,労働協約を締結するに当たり,労働組合の意思形成におけるすべての情報を労働組合から入手し,組合代表者に労働協約の締結権限があるか否かを検討する必要が生じる。

しかしながら,使用者が,労働組合に対し,そのような情報提供を求める法令上の根拠はないし,また,そのような調査を行うことは,かえって,不当労働行為になりかねない。

(3) 被告会社は,原告らが主張する労働組合内部の慣行について調査を行ったことはなく,それゆえ,それに関する情報を持っていない。

(4) そして,被告会社は,補助参加人との間の労働協約に基づき,本件を真摯に議論したのであり,本件は,まさに民法54条が機能する局面といえる。被告会社は,補助参加人の内部の慣行について善意である以上,原告らは,被告会社に対し,補助参加人内部の慣行について手続的瑕疵を主張できないと言わざるを得ない。

【原告らの主張】

(1) 労働協約の締結には,取引安全の保護を目的とする表見法理の適用ないし準用はない。

(2) 全国支部長会議が補助参加人日逓対策部における執行機関でしかないことは被告会社も承知しており,また,本件改正が,日逓対策部の決議機関である全国代表者会議の議を経ていないことも知悉していた。

したがって,仮に,労働協約の締結に民法54条や取引安全のための表見法理の適用ないし準用があるとしても,被告会社は,善意の第三者などではあり得ない。

3  本件改正が無効である場合と就業規則の不利益変更の効果

【被告会社の主張】

(1) 被告会社は,平成13年3月16日に成立した補助参加人との合意をうけ,就業規則をこの合意と同一の内容に変更したものであるが,前記1【被告会社の主張】のとおり,本件改正は,被告会社存続のためにはやむを得ない措置であり,被告会社は,本件改正以外に執りうる措置は講じており,本件改正の内容には合理性がある。

(2) また,本件改正に至る経緯については,次のとおりである。

ア 本件収支改善施策は,a社の参入による被告会社への影響に対応することを目的として議論が始まったものであるが,被告会社は,補助参加人に対し,被告会社の置かれていた客観的な状況を伝え,客観的かつ正確な情報を提供するとともに,誠実な態度で協議に臨んだ。

イ 被告会社と補助参加人との間で最終的に固まった収支改善施策の内容は,補助参加人の要請,被告会社の回答,補助参加人の要請,被告会社の回答・譲歩という交渉経過をたどった上で確定したものであり,両者の間では,安易な妥協のない真剣な議論や丁寧な交渉が繰り広げられた。

そして,最終的に固まった内容は,補助参加人は,運賃減を10パーセント減にとどめる意思で,今回限りの最大限の譲歩として決定したものであり,他方,被告会社は,随意契約を維持し,事業を継続するためには,収支改善施策の実施時期を平成13年4月以降に引き延ばすことは不可能であると判断し,実施時期に関する主張は譲れないとする一方で,内容面においては,補助参加人側の要望を可能な範囲で取り入れる形で譲歩したものであった。

ウ 本件改正案の内容は,補助参加人執行部の独断で決められたものではなく,専門委員会及び改善委員会の委員全員及び各地本の意見も採り入れて確定されたものであり,かつ,その確定・実施に当たっては,十分な職場討議やオルグなどを実施し,地本代表者会議,臨時支部三役会議,全国支部長会議という内部意思形成手続を円滑に履践し終えたものであり,補助参加人の総意が反映されているということができる。

エ 被告会社も,補助参加人が,本件改正について,補助参加人の総意を反映するための手続を践んだ上で決定されたものであると認識し,信頼していた。

(3) 以上によると,仮に本件改正が無効であったとしても,就業規則の変更は有効とされるべきである。

【原告らの主張】

就業規則の変更の効力は,以下のとおり,無効である。

(1) 本件改正の契機となったa社の問題については,a社が新規参入した千葉・高松南便は利益が出ないと予想されていて,実際に,a社が平成15年9月末をもって撤退したこと,a社の筆頭株主である株式会社b社は被告会社の株主でもあって,a社と被告会社との結びつきがあることから,a社問題は,原告らの労働条件を切り下げる口実にされたとの疑いがある。

(2) また,本件改正が実施される直前の平成13年3月末決算において,被告会社は空前の利益を上げていたのであり,その直後に,原告ら従業員に対して年間100万円にも及ぶ大幅な賃金低下をもたらす施策をあえて実施すべき経営上の高度の必要性が存在していたとは考えられない。

一般に,運送業界で働く労働者の労働条件は,他業界と比べて,相対的に劣悪であるといわれているが,被告会社もその例外ではなく,早くから変形労働時間制が導入され,勤務形態は日勤・深夜勤・泊まり勤と不規則勤務の繰り返しであり,盆休みも正月もないというのが実態であって,同業他社よりも一層過酷な労働環境下にあるといっても過言ではない。

しかしながら,従事している仕事は郵便輸送という極めて公共性の高い業務であり,日逓労組においては,同様の業務に従事する郵政労働者並みを目指し,全逓との組織統一を果たすとともに,本件改正以前の労働条件を獲得してきた。

本件改正は,このようにして獲得してきた労働条件を一挙に奪い去るものであり,これが同業他社に比して遜色はないからという理由で合理化できるとすれば,一体これまでの労働組合の努力は何であったのかと問わずにはいられない。

(3) なお,被告会社が主張する平成15年4月以降の経営事情については,平成13年4月時点における労働協約の不利益変更を問題としている本件においては,関係がない。

(4) 以上のとおり,本件改正は,必要性・合理性を欠くものであり,これを内容とする就業規則の変更も無効である。

第4当裁判所の判断

1  事実経過

前記争いのない事実等,証拠(<証拠略>,証人B同C,同A及び被告会社代表者D本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  本件統一に至る経緯について

ア わが国においては,戦前から郵便輸送については民間業者に委託されていた。そして,逓信省(当時)は,昭和17年,戦時下の郵便輸送体制を確保し,郵便事業の円滑な運営を図る目的で,それまで郵便輸送業務を行っていた全国各地の業者を統合し,被告会社を設立した。

郵便輸送会社は,被告会社のほかに全国に約100社存在するが,郵便輸送業務のうち約60パーセントを被告会社が担っている。

イ 被告会社には,もともと日逓労組が組織されており,ユニオンショップ制であった。

そして,補助参加人は,全国の郵便輸送に携わる労働者の組織化を運動方針としており,日逓労組において,昭和44年,補助参加人との組織統一が決議され,統一準備会が発足し,昭和45年9月14日から同月17日にかけて開かれた日逓労組第31回定期全国大会において,具体的な統一方針が審議決定され,昭和46年1月,全組合員による批准投票により,72.3パーセントの賛成で成立した。

日逓労組は,昭和46年7月20日,第33回臨時全国大会を開催し,全逓との組織統一に関する内容を中心として審議が進められた。その中で,本件統一後の決議機関の運営に関して,前記第2の1(2)イのとおりの内容が提案され,当面の間,提案にかかる諸会議で運営していくこととされた。

日逓労組は,昭和46年8月26日から同月28日にかけて開催された日逓労組第34回定期全国大会において,解散することを決定した。

補助参加人は,昭和46年8月29日から同年9月2日にかけて,全逓第24回定期全国大会を開催し,同大会において,日逓労組及び当時単独組合であった沖縄全逓との組織統一を決定した。これに伴って,補助参加人は,その規約を改正した。また,同大会において,日逓関係の会議として,全国代表者会議,全国支部長会議,地本日逓担当者会議,日逓関係地方代表者会議をおくことなどが確認された。

なお,本件統一後は,目逓部門における規約上の下部組織としては,各支部が設けられることになった。

(2)  本件統一後の動き

ア 補助参加人は,昭和51年7月開催の全逓第29回定期全国大会において,本件統一の意義を踏まえ,日逓部門における全国大会代議員及び青年部中央委員の選出方法を改正した。また,補助参加人は,昭和59年7月開催の全逓第38回定期全国大会において,日逓部門に関する大会確認事項の一部を変更した。さらに,補助参加人は,昭和63年7月開催の全逓第42回定期全国大会において,規約等を改正し,全逓第24回定期全国大会(本件統一大会)確認事項のうち,「日逓関係の会議として,<1>日逓関係全国代表者会議,<2>全国日逓支部長会議,<3>地本日逓担当者会議,<4>日逓関係地方代表者会議をおこなうものとする。」との大会確認事項を削除した。

イ 補助参加人においては,前記大会確認の削除後,本件規約及び大会確認事項上,前記各会議に関する規定はないが,以下のとおり,各会議は開催されていた。

(ア) 全国代表者会議は,毎年,全逓定期全国大会前の6月(平成12年までは主に7月)に開催することを基本としており,全逓全国大会議案にそった日逓部門の一年間の活動方針について議論・決定し,全国大会の議論・決定に反映させることにしていた。また,全逓全国大会に立候補する逓送部門中央執行委員候補1名,特別中央執行委員候補2名もこの会議で決定された。

なお,必要が生じた場合には,臨時大会が開催され,後記(エ)のとおり,昭和56年10月,平成14年2月,同16年4月に3回開催された。

この会議は,出された議案,議題に対する組合員の意思を反映させるため,開催される都度,日逓各支部ごとに,組合員150名までに1名,150名を超える場合には,150名を超える組合員数が100名までごとに1名を加えた数の代表を組合員の選挙により選出し,それらの代議員によって構成されていたが,平成2年には,組織人員の低下に伴い,100名までに1名,端数が51名以上となった場合に1名を加算した数により選出することに変更された。

そして,この会議は,支部代表者45名,地本日逓担当執行委員10名及び中央本部の担当執行役員により構成されていたが,その後,支部代表者は37名となった。

同会議の具体的な運営としては,議事について承認や決議を行っていた。

(イ) 全国支部長会議は,平成12年度以降は,年1回春に開催される中央委員会に近接する時期に開催され,中央委員会議案にそった日逓部門の活動方針について議論・決定し,中央委員会の議論・決定に反映させることを目的としていた。

この会議は,支部長10名,地本日逓担当執行役員10名及び中央本部の担当執行役員によって構成されている。

同会議においては,承認や決議を行うことはなかった。

(ウ) 地本代表者会議は,節々の重要な案件に対する日逓部門の意思統一を図るために,年間6,7回開催された。

この会議の構成員は,常任の地本日逓担当執行委員10名及び中央本部の担当執行委員であった。

(エ) 本件改正以外の労働条件の変更に関する会議の開催状況は,以下のとおりである。

a 被告会社は,昭和56年,補助参加人に対し,同年度実施計画や郵政事業効率化計画を提示し,各種合理化を提案したが,その際,同年10月22日に第11回臨時全国代表者会議を開催して,それに対する活動方針について意思統一を図った。

また,被告会社は,昭和57年には,補助参加人に対し,輸送体制を二人体制から一人体制にすることなどの人員削減等を内容とする経営改善計画を提案したが,その際,同年7月開催の第12回全国代表者会議で,経営改善に取り組むことを全会一致で決定し,全国支部長会議において具体的な実施要領を含めての意識統一を図るとされた。

b 被告会社は,平成6年に,補助参加人に対し,一日当たりの基準労働時間を7時間から8時間に延長し,年間労働時間数を55時間増加させるなどの提案をしたが,その際,同年7月開催の第24回全国代表者会議で議論し,最終的には採決によって本部案を承認した。

c 補助参加人は,平成10年2月開催の全逓第111回中央委員会において,逓送部門の当面する緊急課題の具体的取り組みの進め方について,第2回全国支部長会議で決定するとし,同会議で,休日・休暇制度の見直しなどが議論された。

d 被告会社は,平成14年,補助参加人に対し,定期昇給の2年間停止などの提案をしたが,その際,同年2月開催の第32回臨時全国代表者会議で,これを承認した。

e また,平成16年,補助参加人は,定期昇給を1年間停止することにしたが,これについて,同年2月開催の第35回臨時全国代表者会議で承認した。

(3)  労働協約締結に関する規定等

ア 被告会社と補助参加人は,昭和51年3月31日,基本協約を締結した。

イ 補助参加人は,規約を設けているが,平成11年7月9日改正施行にかかる本件規約のうち,機関に関する主な規定は,前記争いのない事実等(2)エのとおりであって,全国代表者会議,全国支部長会議,地本日逓担当者会議及び日逓関係地方代表者会議に関する規定はない。

そして,労働協約に関する事項は,中央委員会の議決により決定することができると規定されている。

ウ 被告会社と補助参加人が,日逓部門における労働協約,協定,覚書等を締結する際には,補助参加人が提出した要求課題について中央本部日逓対策部が中心となって,被告会社側と交渉を行い,その間に,地本代表者会議を開催して,日逓部門組合員に対して経過を説明するとともに,その後の道筋を確認しながら交渉を進めていた。そして,交渉が到達点に至ったと中央本部日逓対策部が判断した場合には,補助参加人の中央執行委員会に最終判断を諮り,その決議に基づき,労働協約等を締結していた。その締結された労働協約等の内容は,「全逓日逓号外」等に掲載して日逓部門組合員に周知し,直近の全国大会又は中央委員会において議案及び経過報告として提出し,その承認を得ていた。また,承認を得る議決機関が全国大会の場合には全国代表者会議を,中央委員会の場合には全国支部長会議を招集して,事前又は事後に,それらの締結について承認を得ていた。

エ なお,被告会社と補助参加人の間においては,本件統一後も,ユニオンショップ制がとられている。

(4)  改善委員会の発足

ア また,被告会社は,昭和56年当時に2年連続で大幅な経常損失を計上したことを契機として,経営基盤の確立に取り組むこととし,昭和57年6月,中央労務協議会において,補助参加人に対し,経営改善策を提案し,併せて経営改善に関する協議を労使で行う機関として,改善委員会を発足することが決定された。

そして,昭和58年3月18日に開催された第3回改善委員会において,機構改正に関する具体策の策定とその推進を担当する専門委員会を設置することが決定された。以後,経営改善に関する具体策についての労使間の協議は,専門委員会で行われてきた。

イ なお,平成13年に実施された収支改善施策に関する協議を行った改善委員会の委員は,社長が委員長であり,被告会社の委員は,ほかに常務2名,各部・室長4名,統轄支店長10名の合計16名であり,補助参加人の委員は,中央執行委員3名及び地本執行委員10名の合計13名であった。

また,同時期の専門委員会の委員は,総務担当常務が委員長であり,被告会社の委員は,ほかに総務部長,経営企画室長,東京,関東,中国及び四国の各統轄支店長であり,補助参加人の委員は,中央執行委員3名,東海,九州,東京及び近畿の各地本執行委員であった。

(5)  本件改正に至る経緯について

ア 被告会社を初めとする各郵便輸送業者は,郵便専用自動車により郵便物の輸送を行うが(専自制度),その運賃(専自運賃)は,すべての郵便輸送業者(専自業者)について,運輸省(当時)の処分による確定額(全社同一運賃)をもって定められていた。

そのため,国と専自業者との間の契約は,競争契約(当時の郵便物運送委託法3条)ではなく,随意契約(同法4条4号)によって締結され,更新されてきた。

そして,専自運賃は,昭和61年以降据え置かれていたが,郵便事業の収支改善のため,平成9年7月に2パーセント,平成10年10月に3パーセント,平成11年10月に5パーセントと,継続的に引下げが続いていた。

イ 運送業者であるa社は,平成12年8月30日,運輸局に対し,貨物自動車運送事業法11条1項に基づいて,「運賃及び料金(郵便)」を届け出て,これが受理された。その内容は,それまでの専自運賃と比較して,時間制運賃は25パーセント,距離制運賃は30パーセント低いものとなっており,これを適用する営業区域も北海道・四国・沖縄を除く全国とされていた。

これにより,専自業者は,少なくともa社が届け出た運賃と同じレベルにまで運賃を引き下げない限り,委託契約(随意契約)を更新することができないことになった。

ウ 当時の被告会社の売上高は約700億円であったが,そのうち専自運賃は約517億円であり,その内訳は,時間制運賃が約408億円,距離制運賃は約109億円であった。そして,時間制運賃を25パーセント引き下げると,減収額は約102億円であり,距離制運賃を30パーセント引き下げると,減収額は約33億円であって,減収額の合計は約135億円であった。

そして,この減収額を当時の専自部門に従事する正社員約3500人の賃金のみで吸収する場合には,1人当たり年間約390万円の収入減となった。

エ 以上を踏まえた被告会社の従業員に関する経営改革の案は,以下のとおりであった。

(ア) 休憩時間について

被告会社の主要業務は,郵便局間の郵便輸送であり,郵便局間を決められた時間内に決められた車両で輸送しているため,次の出発時刻まで待機室で休憩することになるが,その待機時間について,従前は実働を伴わないものの,有給として取り扱われていた。

そこで,被告会社は,実働を伴う可能性がない時間帯について,労働基準法の定めに基づき,日勤は最低1時間から最高3時間,泊勤は最低2時間から最高6時間と改めた。

(イ) 休日・休暇日数について

従前は,年間の休日・休暇日数が124日であったのを,同業他社と同程度の117日に改めた。

(ウ) 病気休暇制度の廃止について

従前は,病気に罹患した場合に勤務を免除し,その日を有給として療養に専念させる病気休暇制度があったのを,一般の運送会社には全く見られない制度であったため,廃止した。

(エ) 超過勤務手当等の割増率の引下げについて

従前は,超過勤務手当及び代休手当の割増率が30パーセントであり,深夜作業手当の割増率が35パーセントであったが,いずれも25パーセントに変更した。

(オ) 年末始出勤手当の変更について

従前は,12月29日から翌年の1月3日までを年末始出勤手当の対象としていたが,これを1月1日から1月3日までに変更した。また,1日当たりの支給金額も,従前は,基準賃金日額2分の1相当(平成13年4月1日時点の平均ベースで7675円)であったが,これを3000円に固定した。

(カ) 深夜勤務の52分間分加算措置の廃止

従前は,深夜勤務1執行について52分間分を加算支給していたが,これを廃止した。

オ 被告会社は,平成12年10月31日に開催された第39回改善委員会において,委員長であるE社長が,a社が前記のとおりの運賃等を届け出て受理されたことを説明し,今後,業務執行体制の見直し等を進めていくが,対応できない場合には,人件費の削減も含めて検討しなければならない旨訴えた。この改善委員会には,補助参加人の中央執行委員(日逓部門)であり,日逓対策部長であるA(以下「A部長」という。)も参加しており,同委員会において,雇用の確保を第一義にして具体的な経営改革(収支改善施策)に取り組むため,全力で取り組む決意を表明した。そして,E社長の発言を踏まえ,専門委員会を前記(4)イの構成員で開催することになった。

被告会社と補助参加人の間において,平成12年11月16日,第57回専門委員会が開催されたが,同委員会において,被告会社は,補助参加人に対して,収支改善施策及び具体的な考え方を説明した。

補助参加人は,同年12月12日に地本代表者会議を開催したが,A部長は,このころには,10パーセントの運賃引下げで対応できるという見通しを持っていた。

また,被告会社と補助参加人の間において,同年12月13日,第58回専門委員会が開催され,労使で意見交換が行われた。

補助参加人の中央本部は,同年12月中旬ころ,収支改善施策の決定に関する組織内の手続を議論し,中央執行委員会で,A部長が臨時の全国代表者会議を開催したい旨申し入れたが,オープンな場で会議を開くことにより,マスコミ等からファミリー企業という批判を受けるなどの反対があって,全国代表者会議は開かれないことになった。この全国代表者会議を開かなかった理由について,補助参加人のF書記長は,第31回全国代表者会議において,「a社がタリフを出してタリフが提起をされて,国会の中で議論がされて,まさに規制緩和の中の2重運賃が入ろうとしている時,あるいは4月1日の契約改定という問題がある時に,どこでどんなビラが飛び交う(か分からない)ような組織運営をしている所へ出すわけにならんと言いました。」と説明した。

補助参加人は,平成12年12月26日に開催された地本代表者会議で,被告会社との折衝内容等を確認した。そして,平成13年2月15日から開催予定の中央委員会において,収支改善施策への対応を全国支部長会議に委ねることを決定することにするが,それ以前に,まず,緊急に支部三役会議を開催して,情勢認識の統一を図った上,被告会社から収支改善施策の提示を受け,これを地本代表者会議の検討に付することにした。なお,A部長は,その際,被告会社から,平成13年度に実施する収支改善施策を渡された。

そして,被告会社と補助参加人の間において,平成12年12月27日,第59回専門委員会が開催され,被告会社から補助参加人に対して項目のみの記載のある平成13年度に実施する収支改善施策を提示し,両者の間において,収支改善施策が固まった。この案は,翌年提示予定の10パーセントの運賃引下げに対応するものであり,運転職掌の平均賃金を732万5000円から661万2000円にするという計画であった。

カ 補助参加人は,平成13年1月22日,日逓部門緊急支部三役会議を開催し,中央本部以外に,支部及び地本の三役が出席した。同会議において,中央本部は,郵便輸送運賃に関する情勢と取り組みについて報告し,情勢認識を一致させ,揺るぎない体制を確立して難関を乗り切る必要があることなどを訴えたが,収支改善施策の具体的な内容が明らかにされておらず,出席者からは,取り組みの内容が抽象的であるなどの指摘がされた。

被告会社は,補助参加人に対し,同年1月23日に開催された第40回改善委員会において,項目とこれに対応した内容の記載のある平成13年度に実施する収支改善施策を提案し,補助参加人は,組織内における検討を行うことになった。なお,被告会社は,補助参加人に対して,当初は13項目の諸手当の廃止を提案していたが,その後の議論の結果,1項目を廃止し,1項目を減額し,残り11項目については残すことになり,ほかにも定期昇給の停止の提案についても削除された。

補助参加人は,同年1月24日,地本代表者会議を開催して,収支改善施策について討議し,被告会社に対して収支改善施策の実施後の検証と,問題があれば常時協議していくことを求めることなどを確認した上,収支改善施策の具体的内容を全国支部長会議の議案書として作成して職場に配布し,各支部において討議してもらうこととした。

この間,被告会社は,同年1月26日及び同月29日に,同年3月から10パーセントの運賃引下げを申請した。

補助参加人は,同年1月26日,収支改善施策の具体的内容を記載した全国支部長会議議案書を各支部に対して発送した。

これを受けて,各支部は,支部執行委員会,支部委員会,職場討議等を開催して議案書について討議した。原告らは,いずれも近畿日逓支部に所属しているが,同支部においても,同年1月31日及び同年2月14日に支部執行委員会が,同年2月18日に支部委員会がそれぞれ開催され,前記議案の具体的取り組み課題については,先行する課題と全国代表者会議での課題に分けて取り扱うべきであるとし,各種手当は社会的整合性を保つことができる範囲で整理を図ることとして,月例賃金に大きく跳ね返らない部分を先行して整理すべきであるという見解がまとめられた。

キ 平成13年2月15日から,全逓第114回中央委員会が開催されたが,中央執行委員会作成にかかる同委員会の議案書には,2001年春季生活闘争をはじめとする当面の取り組みが提案されていた。そして,日逓部門の取り組みについては,運輸業界の厳しい競争・競合の実態を背景とする被告会社を取り巻く情勢や周辺状況を分析し,職場と雇用を守るために総力を挙げるとした上で,「具体的なとりくみについては,日逓部門全国支部長会議議案に提起する」というものであった。

この中央委員会において,中央本部は,逓送部門を取り巻く厳しい情勢を含めて中央委員会全体として受け止めることを求め,特に運賃問題では,既に10パーセントの削減を余儀なくされたことから,今後厳しい環境に至るのは必至であるが,組合員の雇用確保を第一義に取り組みを進めていくことを表明した。こうした討論の末に,中央委員会は,全会一致で議案を運動方針として決定した。中央委員会においては,具体的な取り組みを全国支部長会議議案に提起するとした点について,中央委員会において自ら決定すべきであるとか,全国代表者会議に提起すべきであるという意見はなかった。

なお,当時中央委員会には,中央委員が約80名ほどいたが,日逓部門に所属する委員は2名であった。

また,中央委員会の結果は以上のとおりであったが,補助参加人の組合員の中には,全国支部長会議で決めることに反対する者もいた。

ク 平成13年2月22日から同月23日にかけて,全国支部長会議が開催され,平行して地本代表者会議を開催しながら,議論が続けられた。同会議の開催に当たっては,資料が配られており,a社の参入以降の厳しい情勢の中,被告会社は同年3月1日から運賃の10パーセント引下げを行うことにしたこと,補助参加人としては職場と雇用,事業を守ることを基本スタンスとし,本件変更事項を具体的に明示して,これについては,3月上旬に開催する改善委員会において実施上の問題点の整理を図ることとし,その具体的な実施時期は同年4月1日とすること,運賃と契約問題への基本的対処方針の確立や前記事項の実施後の諸問題の検証は,第31回全国代表者会議で行う旨が記載されていた。

同会議における各支部の意見は以下のとおりであった。

(ア) 四国支部は,一定の施策を講じた上で,それでも必要な施策であれば,全国代表者会議で議論すべきという意見であった。

(イ) 信越支部は,情報の開示を求め,全国支部長会議で決めるのではなく,全国代表者会議に向けて議論し,その上で方向性を決めるべきという意見であった。

(ウ) 東北支部は,一定の施策をとることはやむを得ないという意見であった。

(エ) 中国支部は,職場と雇用を守るために,収支改善施策に結論としては賛成するという意見であった。

(オ) 近畿支部は,責任追及などを求め,服務編成要領等の見直しについては全国支部長会議ではなく全国代表者会議で議論すべきという意見であった。

(カ) 東京支部は,服務編成要領等の見直しについては,全国支部長会議でなく全国代表者会議で決定する課題であるという意見であった。

(キ) 九州支部は,結論として原案に賛成するという意見であった。

(ク) 東海支部は,原案を支持するという意見であった。

(ケ) 関東支部は,反対意見と実施もやむを得ないという意見に分かれているという意見であった。

(コ) 北陸支部は,実施はやむを得ないという意見であった。

そして,以上のとおり,各支部の中には,全国代表者会議で決定すべきという意見や,その後の議論の中で反対意見もあったが,中央本部は,服務編成要領等の見直しの実施は先送りできないと答弁し,A部長は,4月1日から実施するという本部の提案した内容で進めていくことでまとめさせてほしいと言って意見を取りまとめた。これについては,東京支部や近畿支部から,やむを得ないとか,なお時間が欲しかったなどの意見があったが,そのような取りまとめ自体に反対する意見はなかった。

もっとも,補助参加人の組合員の中には,上記取りまとめに対して,ルール違反として反対する者もいた。

ケ 平成13年3月13日,被告会社と補助参加人の間で,第41回改善委員会が開催され,平成13年度に実施する収支改善施策の確認がされた。

同年3月16日,被告会社と補助参加人の間で,平成13年度実施の収支改善施策に関する諸規程等の改正,運行管理要員配置基準等の改正,平成13年度実施の収支改善施策に関する協約,協定等の改正が行われた。

また,被告会社は,同日,就業規則を補助参加人との合意と同一の内容に変更した。

そして,補助参加人は,同年3月19日付けの機関紙「全逓・日逓号外(No.7)」で,本件改正について組合員に周知した。

本件改正における主要変更事項(本件変更事項)は,別紙主要変更事項対照表のとおりである。

(6)  本件改正後の経緯について

ア 補助参加人は,平成13年6月20日,全逓第55回定期全国大会を開催し,引き続き,同月23日,第31回全国代表者会議を開催した。

同会議において,日逓対策部は,収支改善施策の提示から労働協約の締結に至るまでの経過を報告し,その承認を求めた。同会議では,出席者から,組織運営の在り方として全国代表者会議を開催すべきであったのではないかという意見もあったが,総括及び経過報告については,全会一致で承認された。

イ また,専自運賃は,平成11年までに10パーセント減額されていたが,その後,平成13年3月に10パーセント,平成14年3月に14.6パーセント引き下げられた。

そして,平成15年4月に日本郵政公社が発足し,従前以上に価格を重視した競争入札が取り入れられるようになり,被告会社は,一層の運賃引下げを求められるようになった。具体的には,平成15年4月1日に軽四委託料を3.6パーセント引下げ,同年5月に専自運賃を3.5パーセント引下げ,同年12月に一般地域運賃を11.5パーセント引下げ,平成16年3月に距離制運賃を33パーセント引き下げており,また,距離制運賃の入札に伴う減収も生じている。

その結果,被告会社の平成9年度の運輸収入は,約713億円であったが,平成15年度には約521億円に減少し,約192億円減少した。

ウ そして,補助参加人は,平成16年2月26日,27日に開催された第35回全国代表者会議において,組織的な効率化を理由として,全国代表者会議を廃止した。

エ なお,本件訴訟は,日逓近畿支部の500名余りの組合員の一部が提起したものであるが,同支部においては,本件訴訟に関し,組織的な対応から逸脱したものであり,原告らには同調しない旨の執行委員会見解が示されており,ほかに原告らと同様の動きを示している支部はない。

2  本件改正手続の瑕疵の有無

(1)  全国代表者会議の決議を欠いていることが無効原因となるか。

ア 被告会社は,運賃を10パーセント引き下げることに対応して,運転職掌の平均賃金を732万5000円から661万2000円に引き下げるという計画の下に本件収支改善施策を補助参加人に提示し,これに基づいて,本件改正は実施されたものである。そして,本件改正による本件変更事項は,別紙主要変更事項対照表のとおりであり,本件改正による実施後1年間(ただし,原告X3については半年間)の原告らの賃金減少額は別紙未払賃金差額計算書記載のとおりであって,原告31名について合計3003万1058円に上り,一人当たり約100万円の減少であって,原告らの労働条件を不利益に変更するものである。

そして,賃金は,労働契約における労働者の権利の中核をなすものというべきところ,前記の賃金減少額は大きく,本件改正による原告らの不利益の程度は大きいものというほかない。

しかし,本件改正に関する労働協約の改正が,上記のとおり,原告らの労働条件を不利益に変更するものであったとしても,その一事をもって規範的効力を否定することはできない。

イ 原告らは,原告らの主張1(1)のとおり,本件改正について,全国代表者会議を開催せずに締結されたものであるから,これを締結した全逓中央執行委員長,中央委員には新労働協約の締結権限がない旨主張する。

(ア) 確かに,前記争いのない事実等(1),(2)によれば,<1>補助参加人の日逓部門は,もともと日逓労組という単一労働組合を結成していたものであり,その経緯を踏まえ,補助参加人においては,本件統一後も,日逓労働者の意思統一を図るために,日逓部門において,全国代表者会議や全国支部長会議が設けられたこと,<2>そのうち,全国代表者会議は,日逓に関する諸問題に関し,全国大会に向けて日逓労働者の意思を反映させたり,日逓部門の諸活動について年間を通じて意思統一を図る機関であって,毎年少なくとも一度は開催され,その都度,代議員が各支部ごとに人数に比例して選出され,多数決により決議を行っていたこと,<3>実際,日逓部門の組合員の労働条件の不利益変更に関する協約の変更は,概ね全国代表者会議において議論の上,議決がされてきたこと,<4>一方,全国支部長会議においては,全逓中央委員会の闘争方針に基づき,日逓部門の意思統一や独自要求の具体的内容を確認するために,年間3回程度開催されるものであり,各支部においては日逓支部長が構成員とされていた。

そして,以上のような,本件統一の経緯や統一後の日逓部門における組合員の意思反映の仕組み,それに加えて,<1>前記アのとおり,本件改正により不利益を受けるのは日逓部門に属する組合員に限られ,しかも受ける不利益の程度は大きかったこと,<2>それにもかかわらず,中央委員会においては,日逓部門に属する中央委員は2名しかいなかったことをも考慮すると,本件改正に当たっては,不利益を受ける組合員の意思をできる限り反映すべきであったことはいうまでもなく,中央委員会が本件改正について議決するにあたっては,日逓部門の組合員の意思を反映させる方法を確保する必要があり,その方法としては,全国支部長会議に比べ,全国代表者会議を開催する方が,組合員の意思をより正確に反映することができる方法であったということができる。

(イ) しかし,前記争いのない事実等(2)ウのとおり,補助参加人における自治的法規範である規約において,労働協約に関する事項は,中央委員会の議決により決定することができるとされており,しかも,全国大会に反することができないとの留保が付されているのみで,日逓部門の組合員に関する労働協約に関する事項について,全国代表者会議の議決を経なければならないとするなど特段の制限は設けられていないのである。

しかも,本件規約の機関に関する章(第3章)においても,全国大会や中央委員会,中央執行委員会が規定されているのみで,日逓部門の諸会議については特段規定が設けられておらず,本件規約上は,第5章に下部組織として,地方本部及び支部を設けることとされ(第42条),日逓部門としては,本件規約上は,各支部の支部組織を構成しているにすぎず,下部組織は,むしろ本件規約,全国大会あるいは中央委員会の決定及び中央執行委員会の指令・指示に従わねばならないと規定されている(第43条)。

また,本件規約によると,規約の改正は全国大会の決議事項とされており,全代議員の3分の2以上の賛成を要する(第15条)。本件統一にあたっては,補助参加人や本件規約第8条2項,第38条2項など規約上所要の改正を行っているにもかかわらず,日逓部門の前記諸会議については,機関に関する第3章等に特段の規定を設けず,単に大会確認に留めている。

以上によると,補助参加人においては,本件統一後,全国大会において,全国代表者会議等の諸会議を置くことを確認し,また,中央委員会においても,日逓部門の組合員の労働条件を不利益に変更するにあたっては,先に述べた観点から,日逓部門に属する組合員の意思を反映させるために,事実上,全国代表者会議を開催し,その議決を踏まえて労働協約に関する議決を行っていたことが認められるが,そのことから,直ちに,前記運用が本件規約と同等の法規範性を有するとはいえない。

(ウ) したがって,本件規約上は,本件改正について,全国代表者会議を開くことは要求されていないのであるから,全国代表者会議の決議を経ていないからといって,直ちに,本件改正について補助参加人における自治的法規範である規約に反する等の瑕疵があるということはできない。

(2)  全国支部長会議への委任があったか否か。

上記(1)で検討したとおり,本件改正のためには,中央委員会の議決があれば足り,本来,全国支部長会議の決議は不要である。しかし,平成13年2月15日から開催された全逓第114回中央委員会は,日逓部門の具体的取り組みについては全国支部長会議議案に提起するという議案について,討論の上,これを決定している(前記1(3)カ)。

原告らは,この点,前記原告らの主張1(2)アのとおり,前記「議案に提起する」ということをもって,具体的な取り組み課題や締結されるべき労働協約の内容の決定までをも,全国支部長会議に委ねる旨の決議がされたと解釈することはできない旨主張する。

しかし,前述したとおり,本件改正は日逓部門の組合員の労働条件を大幅に不利益に変更するものであり,中央委員会に日逓部門に所属する中央委員は2名しかいないこと,そして,補助参加人においては,全国支部長会議の後,改めて中央委員会において本件改正に関する議決は行っていないことをも考慮すれば,前記決議は,単に日逓部門の全国支部長会議に本件改正に関する議案を提出してその可否について諮問し,その結果を踏まえ,改めて中央委員会で議決をする意思であったというに止まらず,日逓部門から選出された委員が圧倒的に少ない中央委員会において決議するよりも,日逓部門の意思を反映させるために,本件改正に関する決定を全国支部長会議に委任したものであったというべきである。

そして,前記決定を受け,平成13年2月22日及び同月23日,全国支部長会議を開催したところ,出席した各支部からは,原案に賛成するという意見や,全国代表者会議で決定すべきという意見があったが,A部長は,4月1日から実施するという本部の提案した内容で進めていくことでまとめさせてほしいと言って,意見を取りまとめ,この取りまとめに(ママ)自体に反対する意見はなかった(前記1(3)ク)。

補助参加人は,以上の中央委員会の決定及び全国支部長会議における取りまとめを受けて,本件改正をしたものであって,新労働協約の締結に関して締結権限を有していたと認めることができる。

(3)  全国支部長会議への委任が無効であるか否か。

ア 原告らは,前記原告らの主張1(2)イのとおり,本件改正手続は,民主的手続を経て形成されたものとはいえないから,無効であると主張する。

イ 確かに,前記(1)イ(ア)で述べたとおり,本件改正にあたっては,全国代表者会議を開催する方が,全国支部長会議を開催するより,本件改正により不利益を受ける日逓部門の組合員の意思をより正確に反映させる方法であったということができる。

しかし,中央委員会,そして,その議決に基づき業務を執行する中央執行委員会が,本件改正にあたり,不利益を受ける組合員の意思を反映させるための方法として,如何なる方法を選択するかは,本件規約に違反しない限りは,基本的には労働組合の内部の自治に委ねられているというべきであり,補助参加人が全国代表者会議を開催しなかったからといって,直ちに前記委任が無効になると解すべき根拠はない。

ウ そして,本件改正により労働条件を不利益に変更される原告らの個別の同意又は組合に対する授権がない限り,その規範的効力を認めることができないものと解することもできず,ただ,労働協約が,特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合には,規範的効力を否定すべきと解される。

この点,補助参加人においては,日逓部門に属する組合員は圧倒的少数であることは明らかであるものの,前記(2)で述べたとおり,中央委員会は,本件改正が日逓部門の組合員の労働条件の不利益変更に関するものであることに鑑み,その意思を反映させるために,本件改正に関する議決を日逓部門の全国支部長会議に委任したものである。そして,本件改正に際しては,平成12年10月31日開催の第39回改善委員会における被告会社からの提案を受けて,被告会社と補助参加人の間において労使協議が続けられ,補助参加人は,平成13年1月22日開催の日逓部門緊急支部三役会議において情勢認識の一致を図った上,同月24日改正の地本代表者会議において収支改善施策について協議し,同月26日には収支改善施策の具体的内容を記載した全国支部長会議議案書を各支部に対して発送した。これを受けて,各支部は議案書について討議し,その後開催された全国支部長会議において,前記のとおりの取りまとめが行われたものであり,補助参加人は,全国代表者会議を開催しなかったものの,一定の情報提供をした上で,各支部ごとに組合員間で討議し,その上で本件改正がされたものということができる。

エ また,前記1(5)のとおり,平成12年8月に,a社が専自運賃よりも25パーセントないし30パーセント低い運賃を届け出たことにより,被告会社は,少なくともa社が届け出た運賃と同じレベルにまで運賃を引き下げない限り,委託契約(随意契約)を更新されないことになり,その減収額の合計は約135億円に上り,賃金のみで吸収する場合には,一人当たり約390万円の収入減となったこと,そこで被告会社は経営改革の案を検討し,翌平成13年から運賃を10パーセント引き下げることとし,これに対応して従業員の賃金も減額することにして収支改善施策を立案し,補助参加人との交渉に当たり,本件改正に至ったことが認められる。

また,本件改正後,被告会社は一層の運賃引下げを余儀なくされ,平成15年度には運輸収入の減少も約192億円に達していることが認められる。

以上にかんがみると,本件改正が,その必要性・合理性を欠くものとして,労働協約の規範的効力を否定するということはできない。

オ そうすると,補助参加人は,日逓部門の組合員の意思も一定程度反映させた上で,本件改正を行ったというべきであって,本件改正後に行われた全国代表者会議においても,結果的に,本件改正が承認されていること,本件改正が,その必要性・合理性を欠くとはいえないことなどをも併せ考慮すると,本件改正が補助参加人において日逓部門の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたということはできず,労働組合の目的を逸脱して締結されたということはできない。

したがって,本件改正について,労働協約の規範的効力は否定されない。

(4)  基本協約第172条に基づく従前の労働協約の自動更新の有無

原告らは,被告会社が書面による基本協約の改廃申し出を行った時期は,平成13年1月23日開催の第40回改善委員会であるが,労働協約の有効期限は,平成13年3月31日であり,期間満了の67日前となり,基本協約第172条2項の要件を満たしておらず,本件改正は有効ではなく,旧規定が自動更新されていると主張する。

しかし,前記1(5)のとおり,被告会社は,平成12年10月31日に開催された第39回改善委員会において,委員長であるE社長が,a社が前記のとおりの運賃等を届け出て受理されたことを説明し,人件費の削減も含めて検討しなければならない旨訴え,同年11月16日には,第57回専門委員会が開催されたが,同委員会において,被告会社は,補助参加人に対して,収支改善施策を記載した書面(<証拠略>)を交付するとともに,具体的な考え方を説明し,その後,具体的な内容も含めて,協議が継続されていたのであるから,基本協約の期間満了の90日前には,基本協約の改廃申し出を行ったということができる。

3  結論

以上によると,本件改正は有効であるから,被告会社は原告らに対して本件改正による賃金差額を支払う義務はないと認められるので,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がない。

(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 中垣内健治 裁判官 下田敦史)

(別紙) 当事者目録

甲事件原告 X1

同 X2

同 X3

同 X4

同 X5

同 X6

同 X7

同 X8

同 X9

同 X10

同 X11

同 X12

同 X13

同 X14

同 X15

同 X16

同 X17

同 X18

同 X19

同 X20

同 X21

同 X22

同 X23

同 X24

同 X25

同 x26

乙事件原告 X27

同 X28

同 X29

同 X30

同 X31

(甲事件・乙事件の原告をいずれも単に「原告」といい,甲事件原告ら及び乙事件原告らを併せて単に「原告ら」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士 森博行

同 永嶋靖久

甲事件・乙事件被告(単に「被告会社」という。) 日本郵便逓送株式会社

同代表者代表取締役 G

同訴訟代理人弁護士 豊田愛祥

同 二島豊太

同 石川哲夫

同 黒澤佳代

同 島田敏雄

同 小野寺眞美

甲事件・乙事件被告会社補助参加人(単に「補助参加人」という。) 日本郵政公社労働組合

同代表者 F

同訴訟代理人弁護士 秋山泰雄

同 関次郎

(別紙) 原告ら略歴一覧表

<省略>

(別紙) 主要変更事項対照表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例