大阪地方裁判所 平成14年(行ウ)177号 判決 2003年10月15日
甲事件・乙事件原告
X
同訴訟代理人弁護士
森下弘
甲事件被告
大阪府知事 齋藤房江
同指定代理人
福岡鐘一
同
足立武雄
乙事件被告
貝塚市木積土地改良区
同代表者理事長
A
同訴訟代理人弁護士
山村恒年
主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
3 当裁判所の判断
1 本件各訴えの適法性について
(1) 甲事件
ア 取消訴訟は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める訴訟であるところ(行政事件訴訟法3条2項)、ここにいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、行政庁の法令に基づく行為の全てをいうものではなく、その行為により直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される。
イ そこで、本件換地計画決定が、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為といえるか否か、すなわち、行政処分性を有するか否かについて、以下検討する。
(ア) まず、土地改良法の定める土地改良区が行う換地計画の認可申請から換地処分に至る手続は以下のとおりである。
<1> 土地改良区は、その行う土地改良事業について、その事業の性質上必要があると認めるときは、当該土地改良事業の施行にかかる地域につき、換地計画を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない(同法52条1項)。
<2> 都道府県知事は、上記認可の申請があったときは、当該申請にかかる換地計画につき詳細な審査を行ってその適否を決定し、その旨を当該申請をした土地改良区に通知しなければならない(同法52条の2第1項)が、同認可申請について、申請の手続または換地計画の決定手続もしくは内容が法令または法律に基づいてする行政庁の処分に違反している場合、あるいは、換地計画の内容が土地改良事業計画の内容と矛盾している場合を除き、換地計画を適当とする旨の決定をしなければならない(同法52条の2第2項)。
<3> 都道府県知事は、当該換地計画を適当とする旨の決定をしたときは、遅滞なくその旨を公告し、20日以上の相当の期間を定めてその決定にかかる換地計画書の写しを縦覧に供しなければならない(同法52条の2第4項、8条6項)。
<4> 換地計画にかかる土地の所有者等は、上記公告にかかる換地計画を適当とする旨の決定に対して異議があるときは、上記縦覧期間の満了の日の翌日から起算して15日以内に都道府県知事にこれを申し出なければならず、都道府県知事は、同異議の申し出に対し、上記縦覧期間満了後60日以内にこれを決定しなければならない(同法52条の3、9条2項)。
<5> 都道府県知事は、上記異議の申し出がないとき、または異議の申し出に対する決定があった場合において、同決定が換地計画の認可申請を却下する場合を除き、換地計画の認可をしなければならない(同法52条の4第1項、9条2項、4項)。この認可及び同認可にかかる換地計画に基づく土地改良区の処分については、行政不服審査法による不服申立てをするこどができない(同法52条の4第3項)。
<6> 換地計画の認可を受けた土地改良区は、認可された換地計画に基づいて換地処分を行い、同換地処分は、当該換地計画にかかる土地につき所有権等の権利を有する者に対し、同換地計画において定められた関係事項を通知して行う(同法54条1項、5条7項)。
(イ) 本件で原告が取消しを求める本件換地計画決定が、被告改良区の換地計画の認可申請を適当とする旨の被告知事による公告(平成14年5月24日の大阪府公報による公告)をいうことは、原告の主張から明らかであるところ、(ア)記載の土地改良区が行う換地計画の認可申請から換地処分に至る手続に照らせば、本件換地計画決定は、本件換地計画が被告知事により認可され、これに基づいて被告改良区による本件換地処分が行われる前の段階における行為であり、本件換地計画を公告し、また、縦覧に供することによって、本件換地計画の内容を利害関係人等に知らしめ、これに対する意見表明の機会(異議の申し出)を与え、本件換地計画の認可の可否を検討する段階での手続にすぎないものと認められる。
したがって、このような段階でなされた本件換地計画決定は、原告ら本件換地計画に利害関係を持つ個々人に向けられた具体的な処分ということもできないし、本件換地計画決定によって、本件換地計画に利害関係を持つ個々人の権利義務を形成し、またはその範囲を確定するものということもできないから、本件換地計画決定をもって行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するものということはできない。
ウ この点、原告は、行政訴訟検討会による行政事件訴訟法改正の議論の動向も踏まえ、換地計画自体について処分性を認めるべきである旨主張する。しかしながら、ア及びイ記載の行政事件訴訟法の規定及び土地改良法が規定する換地処分に至る一連の手続にかんがみれば、現行法の解釈として、原告主張のように換地計画自体に処分性を認めることはできないものというべきであって、この点に関する原告の主張は失当である。
エ よって、本件換地計画決定の取消しを求める原告の訴え(甲事件)は不適法なものとして、却下を免れない。
(2) 乙事件
ア 行政事件訴訟法14条1項は、取消訴訟について、処分または裁決があったことを知った日から3か月以内に提起しなければならない旨の出訴期間の定めをおいている。
イ そこで、本件における出訴期間徒過の有無について検討する。
(ア) 本件換地処分がされ、原告がこれを知った時期について、被告改良区は、平成14年9月25日付けで原告に対し配達証明郵便で発送し、同月26日に原告に対し配達された旨主張するのに対し、原告は、同年10月5日付けで本件換地処分がされた旨主張する。
この点、原告の主張によっても、原告は、同年10月6日ないし7日ころには本件換地処分がされたことを知ったものと解されるところ、本件換地処分の取消しを求める訴え(乙事件)が提起されたのは平成15年6月23日である(当裁判所に顕著な事実)から、同訴えは行政事件訴訟法14条1項に定める出訴期間を徒過してされたものと認められる。
(イ) これに対し、原告は、行政事件訴訟法14条1項にいう処分を知った日とは、原告が訴訟を提起しなければならないことを知った日と解釈すべきであるとした上で、被告知事による平成15年4月3日付けの甲事件の答弁書を原告が原告訴訟代理人から受け取って初めて本件換地処分の取消しを求める訴えを提起しなければならないことを知ったから、同年6月23日に提起された同訴えはいまだ出訴期間を徒過していない旨主張する。
しかしながら、出訴期間を定める上記条項の文言や、出訴期間の定めの趣旨は行政処分が公共の利害に与える影響が大きいことから、行政処分に瑕疵が存したとしても、当該行政処分の効力を争うことができる(取消訴訟を提起することができる)期間を限定し、行政処分の早期確定を図る趣旨にあるものと解されることに照らせば、原告主張のように、当該処分について訴えを提起しなければならないことを知った時点をもって同条項にいう処分を知った日と解することはできないものといわなければならない。
この点、原告は、行政訴訟検討会による行政事件訴訟法改正の議論の動向も踏まえると、上記原告主張のように解すべきである旨主張するが、現行法の解釈としては上記のように解すべきであり、原告の主張は失当である。
(ウ) また、原告は、本件換地計画に対する不服申立てを行っていたものであり、早期解決を遅滞させるものでも、また、権利の上に眠っていた者でもないとして、本件において行政事件訴訟法14条1項は適用されない旨主張する。
しかしながら、原告主張のように原告が本件換地計画決定に対する不服申立ての手段(被告知事に対する異議の申し出や被告知事を相手とする本件換地計画決定取消訴訟の提起)を採っていたとしても、これをもって、被告改良区が行った本件換地処分について、出訴期間の制限がかからないものと解することはできない。
ウ よって、本件換地処分の取消しを求める原告の訴え(乙事件)は不適法なものとして、却下を免れない。
2 以上から、本件各訴えはいずれも却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田知司 裁判官 田中健治 小野裕信)