大阪地方裁判所 平成15年(わ)2845号 判決 2004年4月16日
主文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は、分離前の相被告人A、同B及びCらと共謀の上、Dを監禁して同人から同人が経営していた風俗店の登録名義料等名下に金品を喝取しようと企て、
第1 平成15年3月27日午後1時ころ、大阪府堺市<以下省略>付近路上において、AがD(当時28歳)を同所に停車させていた普通乗用自動車内の後部座席に連れ込み、AとCの間に座らせ、AがDに対し、「ヤクザなめとったらあかんぞ。いてまうぞ、こら。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し、Dの顔面等を手拳で多数回殴打する暴行を加えるなどした上、被告人が運転して同車を発進させ、同日午後2時30分ころ、Dを京都市<以下省略>所在のaビル305号室に連行して、同時刻ころから同日午後6時20分ころまでの間同室内に閉じ込めて監視し、さらに、同時刻ころ、同人を同車に乗車させて同市東山区三条通大橋東2丁目68番地先路上まで連行し、同日午後6時30分ころ、同所で同人を解放するまでの間、同人を同車及び同室内から脱出することを著しく困難にし、もって、同人を不法に監禁するとともに、その際上記暴行により、同人に加療約2週間を要する頭部顔面打撲、鼻部挫創、口腔内裂創等の傷害を負わせた
第2 同日午後2時30分ころから同日午後6時20分ころまでの間、上記aビル305号室において、上記暴行脅迫により畏怖しているDに対し、Aが、「うちはc会や。」「店の登録を抹消する気はない。月10万払え。」「車を担保にさせてもらう。車は置いて帰れ。」などと申し向けて金品の交付方を要求し、もしこの要求に応じなければDの身体等に危害を加えかねない気勢を示して、同人をその旨畏怖させ、同日午後6時30分ころ、同市東山区三条通大橋東2丁目68番地付近路上において、同人から現金約5万9000円及び同人管理の普通乗用自動車1台(時価70万円相当)の交付を受けてこれらを喝取した
ものである。
【証拠の標目】省略
【事実認定の補足説明】
1 弁護人は、被告人には、判示各犯行について、その故意も、共犯者らとの共謀の事実もなかったものであるから、被告人は無罪とされるべきであり、これらがあったように述べる被告人の捜査段階における供述は、任意性に疑いがあり、証拠能力を欠くものである旨主張し、被告人もこれに副う供述をする。
2 しかしながら、AとBが共謀の上判示各犯行を敢行したことについては争いがなく、証拠上も認められるところ、被告人の捜査段階における各供述調書をひとまず措いても、証人D、同A、同B及び被告人の当公判廷における各供述、その他関係各証拠によると、次のとおりの事実が認められる。
(1) 被告人とD及びBとは同じ頃に奈良少年刑務所に在監していたことから、互いに知り合っていたものであり、Aは、本件当時暴力団b組c会d組の構成員として活動していたものであるところ、Bは、平成14年12月か平成15年1月ころ、知り合いの暴力団組長を通じてAと知り合いになった。被告人は、その後Bが京都市内で営むたこ焼店を手伝うようになったことから、同店に頻繁に出入りしていたAとも知り合いとなったが、暴力団組員として勢威のあった同人に、使い走りとして使われるようになっていた。
(2) 被告人は、平成15年1月ころ、Dの求めに応じて、同人が営む風俗営業の登録につき、名義料1か月7万円の約束で名義貸しすることを承諾し、Dは、そのころ、大阪府泉北警察署に風俗営業の登録をし、その後同年2月から風俗店の営業を開始した。しかし、約束どおり名義料が支払われなかったことから、被告人は、同月下旬ないし3月上旬ころ、このことをBに話し、その後同人がこのことをAに話した。被告人は、Dに名義料の支払いを要求し、Dから名義料等として合計3万5000円を受け取ったものの、その余の支払いがなかったことから、同月下旬ころ、再びBに話し、BはそのことをAに話した。なお、被告人は、以前勤務していた風俗店の無料案内所における給料約20万円が未払いになっているということをBに話していたところ、本件より前、その未払いの給料相当額をAが取り立ててきたことがあった。
(3) A及びB(以下「Aら」ということもある。)は、同月20日過ぎころ、ファミリーレストランでDと会って名義料の支払いを要求したものの、Dはこれに応じなかった。その際、被告人は、Aらに同行してファミリーレストランまで赴き、AらがDに名義料の支払いを要求することも聞かされていたが、Aらと同席することなく、同レストランの外に駐車した車内で待機していた。その待機中に被告人が眠り込んでしまったところ、Dとの話し合いを終わって戻ってきたAから、お前のために話しをしているのに何寝とるんやと言って被告人が殴られたことがあった。
(4) Dは、その言動や左手小指の欠損等の特徴に照らし、ヤクザであろうと判断されたAらが介入してきて、名義料の支払いを求めるなどしてきたことから、風俗営業を辞めようと考え、その旨の廃業届けを提出するため、名義人である被告人に上記泉北警察署に同行するよう求めた。同月26日このことをBを通じて知ったAは、Bに対し、翌27日にDをAらのいる京都市内に来させるよう指示し、この指示をBから受けた被告人は、Dに連絡をとって京都市内に来るよう求めたが、Dはこれに応じず、同日午後0時ころ、泉北警察署前路上で待ち合わせることとなった。
(5) 被告人は、同日午前、Aの指示でCと一緒に電車で同所に向かうこととなったが、その際、Aから、「Dとは話しをするな、同人との話しは自分の方で付けるから。」との指示を受けていた。他方、Aら外1名(Bの内妻E)は、Bの運転する普通乗用自動車シーマ(以下「シーマ」という。)で同所に向かったが、その途中、Dから被告人の携帯電話に、会合の時刻と場所を、同日午後1時、大阪府堺市<以下省略>の泉北高速鉄道泉ヶ丘駅前路上(以下「泉ヶ丘駅前」という。)に変更する旨の連絡があり、被告人はこのことを直ちにAらに伝えた。
(6) Aらと被告人、Cらは、同日午後1時ころ、泉ヶ丘駅前に赴き、Aは、同所に普通乗用自動車グロリア(以下「グロリア」という。)で来ていたDを降車させ、シーマの後部座席中央に座らせ、同人を挟み込む形で、その右側(運転席側)にAが、その左側(助手席側)にCが座り、被告人が、運転席に乗車した。Aは、同車内で、Dに対し、「ヤクザなめとったらあかんぞ。いてまうぞ、こら。」などと言いながら、その顔面等を手拳で多数回殴打する暴行を加え、その結果、Dは判示のとおりの傷害を受け、顔面から出血した。その後、内妻とともにDのグロリアに乗り込んだBが同車を運転して先導し、被告人がシーマを運転してこれに追従する形で京都市内に向けて両車を走行させたが、その途中、Aは、シーマの車中で、被告人からティッシュペーパーを受け取って、Dに顔面からの出血をふき取らせ、Dに対し、「大阪でもうるさい組はいっぱいあるけど、うちは京都でも一番うるさい組や。」「おまえは、その組の一番古い人間を怒らしてるんや。」などと言い、更に、同市内のAが所属する暴力団b組c会d組事務所付近路上にシーマを停車させたが、その際、被告人は、「こいつ逃がさんように、よう見とけよ。」とのAの指示を受けて、シーマのドアをロックした。
(7) シーマに乗る被告人とA、C及びDと、グロリアに乗るBとその内妻及び途中合流した普通乗用自動車セルシオに乗るFらは、同日午後2時30分ころ、Dを判示のaビル付近路上に連行した。Aは、被告人とBらに対し、滋賀県大津市内に駐車していた普通乗用自動車アウディを取りに行くよう指示して、被告人、B及びFらを同市内に赴かせた上、CとともにDを同ビル305号室に連行した。
(8) Aは、同室内において、Dに対し、「うちはc会や。」「店の登録を抹消する気はない。月10万払え。」「車を担保にさせてもらう。車は置いて帰れ。」などと言って金品を要求した。アウディを取りに行った被告人、B、Fらが戻ってきて、同室に入室してから、Aらは、「1 デリヘル 金曜 朝 26,000」などと記載した書面を作成してこれをDに渡し、Dに金銭借用書及び念書等を作成させ、金品の支払いを約束させたが、被告人はこの間、一時同室から外に出ことがあるものの、その余は同室内に居合わせた。
(9) 被告人は、同日午後6時20分ころ、A及びBとともに同ビル付近路上に駐車していたシーマの助手席側後部座席にDを乗車させた上、Aが運転席側後部座席に、Bが助手席に、被告人が運転席に乗車して同車を発進させ、同日午後6時30分ころ、京都市東山区三条通大橋東2丁目68番地付近にDを連行し、Aは、そのころ、同所において、Dから現金約5万9000円を交付させるとともに、Dをアウディに乗車させて立ち去らせ、同所に移動させていたDのグロリアを交付させた。
以上のとおり認められる。
3 以上の事実によれば、被告人は、Aが暴力団構成員であり、Aらが、被告人がBに話したことのある風俗店の無料案内所における未払給料相当額を取り立てたことや、AらがファミリーレストランでDに会って名義料の支払いを要求したものの、Dがこれに応じなかったことを知っていたものである。その上で、Dが廃業届けを提出しようとしていることを知ったAが、Dを京都市内に来させようとし、これをDが断り、本件当日27日午後0時に泉北警察署前で被告人と待ち合わせることになるや、Aは、本件当日午前、被告人を一人で行かせるのではなく、Cを同行させるよう指示した上、被告人に対し、「Dとは話しをするな、同人との話しは自分の方で付けるから。」との指示を与え、しかも、被告人が、泉北警察署に向かう途中、Dから会合の時刻と場所を午後1時に泉ヶ丘駅前においてと変更する旨の連絡が届くや、被告人はすぐさまそのことをAらに連絡し、これを受けたAらは、Bの運転するシーマで泉ヶ丘駅前に赴いて、判示第1の犯行に着手し、引き続き判示第2の犯行に至っているのである。このような経緯に照らすと、被告人は、遅くとも、泉ヶ丘駅前でのDに対する判示第1の犯行着手時において、AらがDを監禁し、名義料名下に金品を喝取することを認識・認容していたことは十分推認可能というべきである。その上、被告人は、AがDをグロリアから降車させ、AとCとで両側から挟み込むような形で、シーマの後部座席にDを乗車させ、「ヤクザなめとったらあかんぞ。いてまうぞ、こら。」などと言いつつ、その顔面等を手拳で多数回殴打する暴行を加えて負傷させるなどしていることを知りなから、BがDのグロリアを運転して発進するのに追従して、Dらの乗るシーマを運転発進させて京都市内まで走行させ、前記d組事務所付近では、Aの指示に従ってドアをロックしてDが逃げないように監視するなどして、aビル前まで連行し、アウディを取りに行って戻ってからは、同ビル305号室の狭い一室において、Dが金品の支払いを要求され、被告人を含むAら男5人に取り囲まれるような状態下に置かれていることを知りなから、その場に居続け、その後更に、DをAらとともにシーマの後部座席に乗車させ、同ビル前から三条通大橋東まで同人を連行しているのであり、この間被告人において、Dに対するAらの行いに関して異議を述べるなどした形跡も一切窺われないことなどからすると、被告人は、AらがDを監禁し、金品を喝取しようとしていることを認識、認容した上、同人らとともに、その実行行為の一部を自ら担当してこれを実行したものと優に認められる。
4 被告人は、<1>Aから指示されるままに行動していただけであって、Aらが何の目的で泉ヶ丘駅前に来たのか、はっきりとは分からなかったが、BがDとの間であったB自身の金にまつわる問題について話し合うものと思っていた、Dを拉致監禁して名義料名下に金品を喝取しようとしていたなどとは思いもしなかった、<2>Dが泉ヶ丘駅前から京都に行くことになったのも、Dにいやがっている様子がなかったことから、Aらとの三者の話し合いでそうなったものと思っていたものであり、車中でAがDに暴行を加えたところは見ておらず、脅迫していたことにも気付かなかった、<3>aビル305号室でも、DはBと和やかに話していたので、Dが脅されて金品を要求されているなどとは思わなかったなどと弁解する。しかしながら、<1>の点については、被告人自身、当公判廷において、Aは、何か金になるネタがあるとそれに介入して自分の利益を図る人物であり、風俗店の無料案内所での未払い給料を取り立ててきたことがあり、Bに未払いの名義料のことも話していたので、金額が多ければ、Aがその取り立てに動く可能性のあることを認識していた旨自認している上、前記のとおり、被告人は、本件当日、Dとの会合場所に向かうに際し、Aから、「Dとは話しをするな、同人との話しは自分の方で付けるから。」との指示を受けていたものであり、会合時刻と場所が変更になるとそのことをすぐさまAに連絡していることからすると、被告人において、Aらが名義料の取り立てを企図し、そのために、Dとの会合場所に赴こうとしていることを十分認識していたことは明白である。また、Dがファミリーレストランでの話し合いでは名義料の支払いを拒否し、京都に赴くことも拒否している状況にあり、一方、Aは、被告人にCを同行させる一方、それとは別にBと共にシーマで会合場所に向かうなどしていたものであり、被告人は、そのような状況を知っていたことからすると、AらがDを拉致監禁しようと企図していることについても、十分認識していたというべきである。<2>については、DがAらを恐れていたことはDの公判供述に照らして明白であり、同人が京都市内に赴くことを拒否していたことも前記のとおりであるから、シーマに乗せられた同人にいやがった様子がなかったはずはない上、そもそも同人はグロリアに乗って来ているのであるから、同人が同車を運転せずにシーマに乗せられ、Bがグロリアを運転して京都に向かうこと自体異常な事態というべきであり(グロリアに同乗していたBの内妻Eも、「D君の車をBが勝手に乗って、D君をシーマに乗せて行くことは、いくら私が世間にうとい、といっても尋常ではないことぐらいわかります。」と述べている<甲10>)、Dがシーマの車中でAから暴行を受けて負傷し、また、脅迫されたことについては、D及びAの両名が一致して供述するところであり、両名がこの点について、口裏を合わせて虚偽供述をすることも考え難いことから、そのような事実があったことは動かし難いところ、狭いシーマの車中の後部座席、それも運転席側に座っていたAがこれら行為を行っていることからすると、同車運転席にいる被告人において、これら事実を認識し得なかったはずはない。仮に、Dに対する暴行が、被告人がシーマに乗り込む前になされたものであり、被告人がその場に居合わせていなかったとしても、被告人が乗車したのはその直後であることは疑いなく、そうであれば、その状況に被告人が気付かないはずはないし、また、上記のとおり、Aが、Dに顔面の血をふき取らせるため、被告人にティッシュペーパーを取らせていることに照らしても、被告人が、Aによる暴行に気付かなかったとは考えられない。<3>の点についても、以上検討したところによれば、被告人の弁解が措信できないことは明白である。犯行時、aビル305号室の現場に居合わせた上記Eは、「D君は・・・疲れ切った様にうなだれて、室内には何とも言えない重苦しい雰囲気が流れていた」と述べている(甲10)。
5 以上のとおり、被告人の捜査段階における各供述調書によるまでもなく、被告人の上記弁解は措信することができず、被告人が、A、Bらと共謀して、本件監禁致傷、恐喝の各犯行を共同実行したことは明白というべきであり、これに加えて、被告人の検察官及び警察官調書を総合すると、判示各事実は優に認定することができる。
なお、弁護人は、被告人の各警察官調書は、取調べに当たった警察官の暴行、脅迫の下に作成されたものであり、各検察官調書は、警察官による暴行・脅迫の影響下で作成されたものであるから、これら調書には任意性がないか、任意性に疑いがあるというべきである旨主張し、被告人もこれに副う供述をする。しかしながら、被告人は、本件で逮捕された4月30日に弁解録取書(乙47)を、5月1日に身上・経歴関係の調書(乙34)をそれぞれ作成され、同日に当番弁護士の接見を受けたが、その翌日の5月2日の取調べの際に1回目の暴行を受けた、それで事実関係を認める調書の作成に応じていたところ、2回目の検事調べ(5月15日)の前日の5月14日に同弁護士と接見した際、暴行を受けたことを話し、毅然とした態度で臨むようアドバイスを受けたことから、同日の取調べの際、やっぱり違いますと言って否認すると、警察官から2度目の暴行を受けたなどと述べ、その際の暴行の内容については、1回目のときは、両手で胸倉を掴まれて、何回も覚えられないくらい壁に打ち付けられた、その後意識がふっとなるほど腕を首に押しつけられた、しゃべれるまで座っとけと言われて、空気椅子といわれている、椅子がないのに椅子に座っている格好をさせられ、態勢が崩れると、胸倉を掴まれて引き上げられ、再び空気椅子をさせられるということを10ないし15分くらい繰り返された、2回目の暴行は、胸倉を掴まれて壁に打ち付けられ、首を絞められ、ハンカチを口に突っ込まれ、「これで死ね、その方が世の中のためや。」などと言われ、その後、空気椅子を5分か10分やらされた後、腕立て伏せをさせられたなどと述べるが、既に5月1日に当番弁護士と接見しているのであるから、取調べを受ける際の注意を受けているはずであるのに、上記のとおりの激しい暴行を捜査官から受けながら、そのことを何ら同弁護士等に訴えることなく意に反する調書の作成に応じていたと述べるなど、その供述自体不自然というほかない上、被告人の5月1日付警察官調書(乙48)によると、被告人が暴行を受けたとする日の前日である5月1日の取調べの際、被告人は既に事実関係を概ね認めているのであり(なお、被告人は、当公判廷で同調書を見せられるや、1回目の暴行を受けたのは5月2日ではなく、同月1日の夕方ころであると供述を変遷させるに至っている。)、暴行を受けるなどして捜査官の言いなりの内容になっているはずの警察官調書等の内容を検討しても、シーマの車中でAがDに暴行を加えたところは見ていない(乙38)、aビル305号室でDが委任状等を書かされているところは見ていない(乙39)、Dが書かされたという金銭借用証書、領収書、念書等についても初めて見るものである(乙40)、AがDから金品を脅し取ったことには気付かなかった(乙43)等と、捜査官の言いなりではなく、被告人の言い分が録取された内容になっていることなどに照らすと、上記各暴行を受け、捜査官の言いなりの調書作成に応じた旨の被告人供述は、これをにわかに措信することができない。被告人の取り調べを担当した警察官である証人Gの公判供述によれば、同人が被告人の述べるような暴行、脅迫を加えたことはないことが認められ、被告人の警察官及び検察官調書が任意性に欠けるものでないことは明らかである。
【法令の適用】
被告人の判示第1の所為は、刑法221条(220条)、60条に、判示第2の所為は同法249条1項、60条にそれぞれ該当するが、判示第1の罪について、同法10条により同法220条所定の刑と同法204条所定の刑とを比較して重い傷害罪所定の懲役刑(ただし、短期は監禁罪のそれによる。)に従って処断すべきところ、以上の各罪は同法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。
【量刑の理由】
本件は、被告人が共犯者らと共謀の上敢行した監禁致傷、恐喝各1件の事案であるが、犯行は利欲目的から敢行されたものであり、犯行に至る経緯、動機に酌むべきところがないのはもとより、その犯行態様も、共犯者Aを中心にした共犯者ら多数が関与し、Aの暴力団構成員としての威力を背景にして、判示のとおり、被害者に対し、暴行脅迫を加えて長時間にわたって監禁し、負傷させるとともに金品を喝取したという悪質なものである。これにより被害者は加療約2週間を要する軽度とはいえない傷害を負わされ、現金5万9000円と判示の普通乗用自動車を奪われるという損害を被るに至っているのであり、これら被害に加え、恐怖感等の被害者が被った精神的被害にも軽視できないものがある。被告人は、平成10年6月に強制わいせつ罪で懲役6年に処せられて服役し、平成14年7月に仮出獄を許されて社会復帰した身でありながら、更生に向けた真摯な努力を怠り、上記社会復帰から僅か8か月余りの未だ仮出獄期間中に本件犯行を敢行するに至ったものである。加えて、被告人が上記のとおり、不自然、不合理は弁解を繰り返して刑責を争い、真摯な反省の姿勢を示すところがないことなどからすると、犯情は芳しくなく、被告人に対しては厳しくその刑責を問う必要がある。
しかしながら、他方、上記のとおり、刑責を争いながらも、被告人が被害者に宛てて謝罪文を作成送付して謝罪すると共に、母親の協力を得て金10万円を被害者に支払っていること、共犯者らにおいても、Aは20万円、Bは合計27万円を被害者に支払い、被害者は、Bに対する寛大な判決を求める旨記載した嘆願書を作成して、同人に対する宥恕の意思を表明するに至っていること、被害車両については、被告人らの逮捕に伴って被害者に返還されていること、本件の首謀者は共犯者のAであり、同人及びBに比し、被告人の果たした役割は従属的なものに止まるといえること、母親が当公判廷に出廷し、被告人に対する指導監督を約束し、被告人も、出所後の更生を約するに至っていること、既に刑が確定している共犯者A及び同Bとの刑の均衡、前刑の仮出獄が取り消されており、平成16年12月まで残刑の執行が継続すること等量刑上被告人に有利に斟酌すべき事情も認められるので、以上諸般の情状を総合勘案して、主文のとおり刑を量定した次第である。
よって、主文のとおり判決する。(求刑 懲役3年)