大阪地方裁判所 平成15年(ワ)11293号 判決 2006年1月19日
原告
X
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、金三二五二万二八九〇円及び内金二五〇〇万一九七五円に対する平成一五年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、うち一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第二項を除き、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金五八四四万七二七九円及び内金四五七四万九二三五円に対する平成一五年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、居眠り運転により対向車線にはみ出した普通乗用自動車が、対向車線を走行中の普通貨物自動車と正面衝突をしたという交通事故につき、衝突された普通貨物自動車の同乗者が居眠り運転をした運転者に対し、後遺障害を含めた人身損害について、民法七〇九条に基づいて損害賠償請求を行う事案である。
二 判断の前提となる事実(争いがない事実以外は、括弧内に認定の証拠を示す。)
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一〇年三月六日午前七時〇〇分ころ
イ 場所 大阪府和泉市仏並町一五五二番地先路上
ウ 事故車両
<1> 普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「被告車」という。)
運転者 被告(昭和○年○月○日生、当時五六歳(甲一))
<2> 普通貨物自動車(<番号省略>)(以下「原告車」という。)
運転者 A(昭和○年○月○日生、当時三〇歳(甲一))
同乗者 原告(昭和○年○月○日生、当時二八歳(甲一))
エ 態様 被告が、被告車を運転して帰宅途中、居眠り運転を行い、対向車線にはみ出し、対向車線を直進中の原告車と正面衝突したもの
(2) 責任原因
被告は、普通乗用自動車を運転する際、自車前方を走行する車両等に十分に注意をしてその動静を見極め、前方を注視して運転する注意義務があるのに居眠りをしたためこれを怠り、対向車線にはみ出して対向車線を直進してきた原告車に正面衝突させた過失があるので、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する義務がある。
(3) 原告の負った傷害及び後遺障害認定等
ア 傷害等
原告は、本件事故により、左大腿骨骨折、左膝蓋骨骨折、左脛骨関節内骨折、胸部打撲、顔面・左下肢裂創・擦過創、右手打撲の傷害を負った(甲五)。
イ 原告の治療及び後遺障害認定
原告は上記治療のために市立岸和田市民病院(甲七(枝番を含む。))に入通院し(なお、治療の具体的期間、日数については後に認定する。)、平成一二年一一月二日に症状固定に至った(甲九、乙二の一)が、原告には左膝関節の機能に著しい障害が残存し、それは自賠責保険の関係では、第一〇級一一号の後遺障害等級に該当するとの認定を受けた(甲八)。
(4) 既払金額(損害の填補)
原告は、被告車の自賠責保険から保険金四六一万円、被告から本件事故の賠償金二四五一万七〇八五円の合計二九一二万七〇八五円を受領した。
三 争点
原告が主張する本件事故による損害額について、被告はいずれも不知としているが、その中でも特に以下の点について争いがある。
(1) 将来の人工(膝)関節置換術に係る治療費
(2) 後遺障害逸失利益の金額
ア 基礎収入額
イ 人工(膝)関節置換術後の労働能力喪失率
ウ 現在価値の基準時
(3) 通院交通費
四 損害額(全体)についての原告の主張
(1) 治療費 九六七万八一七〇円
(2) 入院雑費 一七万六八〇〇円
ア 日額 一三〇〇円
イ 入院日数 一三六日
ウ 計算式
1,300×136=176,800
(3) 入通院慰謝料 二六〇万〇〇〇〇円
(4) 休業損害 九五八万六八三六円
ア 平成九年度の給与収入額 三六〇万円
イ 休業日数 九七二日
平成一〇年三月六日~平成一二年一一月二日
ウ 計算式
3,600,000÷365×972=9,586,836
(5) 交通費 二六五万八三七〇円
(6) 将来の人工関節手術費用 三〇万〇〇〇〇円
一回の手術費用は一五万円であるが、人工関節は二〇年おきに交換が必要であり、余命を四七年とすれば二回取り替えが必要となる。
150,000×2=300,000
(7) 後遺障害逸失利益(人工関節置換術前) 二五二九万四一〇三円
ア 基礎収入額 五六〇万六〇〇〇円
平成一二年賃金センサス、産業計、企業規模計、学歴計、全年齢、男性労働者平均賃金
イ 労働能力喪失率 二七%(一〇級相当)
ウ 就労可能年数及び対応ライプニッツ係数 三七年、一六・七一一
症状固定日は平成一二年一一月二日であり、症状固定時の原告の年齢は三〇歳であるので、就労可能年数は三七年(六七歳まで)である。
エ 計算式
5,606,000×0.27×16.711=25,294,103
(8) 後遺障害逸失利益(人工関節置換術後) 一〇〇九万九〇四一円
原告が後遺障害を負った左膝については、近い将来、変形性関節症が発生し、原告が五〇歳となるころに人工関節置換術が必要になる可能性が高い。
人工関節置換術によって原告に人工関節が装着された場合、自賠責の後遺障害等級表によれば第八級九号の変形障害(器質的障害)に該当することとなり、既に認定されている第一〇級一一号の機能障害との併合により第七級の後遺障害等級に該当することになる。
ア 基礎収入額 五六〇万六〇〇〇円
平成一二年賃金センサス、産業計、企業規模計、学歴計、全年齢、男性労働者平均賃金
イ 労働能力喪失率 五六%(七級相当)
ウ 人工関節置換術後の就労可能年数 一七年
人工関節置換術が行われる可能性があるのは、原告が五〇歳のころであり、その後の就労可能年数は一七年(六七歳まで)である。
エ ライプニッツ係数 一一・二七四
上記一七年に対応するライプニッツ係数は一一・二七四である。
オ 計算式
5,606,000×0.56×11.274=35,393,144
カ 第一〇級一一号に相当する後遺障害相当分の控除
上記金額から、第一〇級一一号に相当する後遺障害相当分を計算し、控除する。
5,606,000×0.27×16.711=25,294,103
35,393,144-25,294,103=10,099,041
(9) 後遺障害慰謝料(併合七級相当)一〇〇〇万〇〇〇〇円
(10) 家屋改造費 三三万三〇〇〇円
(11) 損益相殺前の損害合計額 七〇七二万六三二〇円
(12) 損益相殺後の残額 四一五九万九二三五円
以下の既払金を控除した。
ア 被告からの支払 二四五一万七〇八五円
イ 自賠責保険金 四六一万〇〇〇〇円(平成一五年九月三日受領)
ウ 合計 二九一二万七〇八五円
エ 計算式
70,726,320-29,127,085=41,599,235
(13) 弁護士費用 四一五万〇〇〇〇円
(14) 確定遅延損害金(自賠責保険金受領まで) 一二六九万八〇四四円
ア 元本額 四六二〇万九二三五円
損益相殺前の損害合計額から、被告からの既払金のみを控除した金額
70,726,320-24,517,085=46,209,235
イ 期間
平成一〇年三月六日から平成一五年九月三日まで(二〇〇六日)
ウ 遅延損害金率 年五%
エ 計算式
46,209,235×0.05÷365×2,006=12,698,044
(15) 請求金額等
ア 請求金額 五八四四万七二七九円
損益相殺後の残額と弁護士費用と確定遅延損害金との合計額
41,599,235+4,150,000+12,698,044=58,447,279
イ 附帯請求の元本額 四五七四万九二三五円
損益相殺後の残額と弁護士費用のみの合計額
41,599,235+4,150,000=45,749,235
五 将来の人工(膝)関節置換術にかかる費用について
(1) 原告の主張
人工関節置換術が将来必要となることは証拠(甲九)上明記されている。
その時期についても、担当医師が、原告が五〇歳となる時期前後であると認定しており(甲一二)、五〇歳時と七〇歳時の二回は必要である。
なお、将来人工関節となった場合、後遺障害等級は第八級九号に該当することになり、その際、新たな損害が発生することになる。
(2) 被告の主張
人工関節置換術については、現実に必要になる蓋然性やその時期が判然としない。必要性及びその時期が原告が五〇歳となるころであることを証するものは担当医の簡単な診断書(甲九、一二)であるが、これをもって、上記手術の必要性及びその時期について高度の蓋然性を示すものとは到底言えず、原告の請求はいわば単なる仮定の損害に他ならない。
原告は、医師から「できる限り自分の骨でやって、どうしても駄目なときに人工関節にしよう」と言われ、人工関節置換術の実施時期は五〇歳になるのか六〇歳になるのか不明とのことであり、人工関節置換術を実施するか否かはもとより、実施した場合に生ずる具体的な損害の内容も明らかでないのであるから、人工関節置換術実施を前提とする原告の主張は認められない。
仮に二〇年後に初回の手術をするとしても医学の進歩により人工関節の耐用年数が飛躍的に延びている可能性が高い。
さらに、将来の手術費用を現在請求するのであれば、中間利息を控除した現価で計上されなければならない。
六 基礎収入額について
(1) 原告の主張
原告は、本件事故当時二七歳であり、父親の経営する建築土木業であるa組の現場作業員として就業し、給与はいわゆる日給月給という方法で、一日当たりの日当が一か月分まとめて支払われるというものであった。
一日の日当は本件事故の一年前までは一日当たり一万四〇〇〇円であったが、本件事故の一年前から一日当たり一万五〇〇〇円となり、一か月二五日以上の就労日数の金額とその他に夏季及び冬季に各二〇万円から三〇万円の賞与の支払を受けていた。
したがって、本件事故当時の原告の平均年収は稼働日数の少ない一か月二五日稼働の場合を前提として計算しても、年収は四九〇万円~五一〇万円であったということができる。
さらに原告の職業の場合、通常日曜日は休んでいるが、工事の内容により日曜日に稼働することも珍しくはなく、稼働日数が多いこともある。その場合には賞与を含め一か月四〇万円~五〇万円の収入となり、年収は四八〇万円~六〇〇万円となる。
平成九年の所得証明書(甲一四)に記載されている所得金額は、建築土木業を営む一家の収入から取得する金額について過少に申告されたものであり、同業界ではこのような過少申告の事例は珍しいことではなく、むしろ多い。
原告自身は、本件事故により傷害を被ったが、それまでは、将来は独立し、恋愛結婚をした妻とコンビニエンスストアーの事業主となって事業を営む夢を持っていたものであった。
年齢的にも事故時の地位や職業で一生涯を終えるつもりはなく、収入についても、事故当時のままでいることはなかったはずであったが、これらの夢が本件事故によって打ち砕かれ、長期間の闘病生活を経て、現在は実兄の仕事を手伝っている状況である。
原告が一か月三〇万円の収入で稼働年齢の六七歳まで固定した収入で推移すると考えること自体、社会の実情に合致しない考え方である。
少なくとも男性労働者の学歴・全年齢平均年収である五六〇万六〇〇〇円が確保されることは不自然なことではない。特に原告は本件事故当時二七歳の若さであったことも勘案すると、将来の職種変更によって収入額が大きく変動することも十分に考えられる。
(2) 被告の主張
本件事故前の原告の収入について根拠となるのは所得証明書(甲一四)であるが、これによれば原告の平成九年(事故前年)の所得は三六〇万円である。これについて原告は原告の父が原告に無断で過少申告したものであるとするが、この申告は保険会社に本件事故による休業損害を請求する資料を得るためになされたものであることなので、敢えて過少に申告することは考え難い。
本件事故前の原告の具体的な就労や所得の内容が明らかではないが、個人規模の建築土木業を親族で営んでいる(甲四)のであれば、年齢(昇進)による所得の増加は見込まれない。したがって、原告が就労可能な全期間に渡って各年齢層で平均賃金相当の収入を得られる蓋然性はない。逸失利益における基礎収入額は年額三六〇万円とすべきである(甲四p一四~p一七参照)。
七 人工(膝)関節置換術後の労働能力喪失率について
(1) 原告の主張
人工関節置換術によって可動域が拡大するとの被告の主張は争う。労働能力喪失率の低下、逸失利益の減少とも根拠のない主張である。
人工関節置換術は、変形性関節症の変化によりその必要性が生じるものであるが、人工関節は、患者自身の関節に比較して、骨折の危険や摩耗などの欠点を有しており、患者自身の関節で日常生活を送るのが望ましく、最後の手段と捉えるべきものである。
人工関節にすることによって、痛みは多少緩和されるが、関節の耐久性や機能性には改善が及ばないとされている。
したがって、被告が主張するように可動域が拡大されたとしても、関節の器質障害や機能障害が改善されるというものではない。
(2) 被告の主張
原告は、高度の蓋然性が立証されない人工関節置換術を前提に同手術実施の予想時期の前後を分けて逸失利益を算定する。その前提自体が相当でないことは前記のとおりであるが、仮にこの手術が施されるとすれば、以下のとおり、原告の労働能力喪失率は却って低下し、逸失利益が減少することになると考えるべきである。
ア 疼痛について
そもそも人工膝関節置換術は除痛を主な目的とする手術である。疼痛は主観的なものであるが、その客観的定量評価を行った日本膝関節学会の調査結果を見ても原告の場合殆どの疼痛が改善することが予想される(乙二の一p三、乙三)。
イ 関節可動域について
術前可動域の悪い方が改善率がよいことが知られているが、原告の左膝関節の可動域は他動・自動とも五〇度と相当に悪いので、術後は六〇度~九〇度程度まで改善される可能性が高い(乙二の一p四)。
ウ その他の能力について
日本膝関節学会の調査によれば、膝の人工関節置換術を行った場合、平地歩行、階段歩行、外出の各能力が飛躍的に改善されている。
エ 後遺障害等級の併合について
原告は、人工関節書換術を受ければ新たに後遺障害等級第八級九号(一下肢に仮関節を残すもの)が認定され、すでに認定されている第一〇級一一号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの)と併せて併合第七級になると主張する。
しかし、仮関節とは偽関節を指すのであって、本件には当たらない。人工関節置換術を受けた場合は、第八級七号(一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの)に該当し、上記第一〇級一一号の認定は取り消されることになる。
したがって、原告が主張する併合は生じえない。
オ 実質的労働能力喪失率について
前記のとおり、人工関節置換術を受けたということで自動的・形式的に後遺障害第八級七号が認定されるが、実質的な労働能力喪失率は別に考えなければならない。
手術を受けた膝関節の運動可動域が健側可動域(甲九によれば一五〇度)の二分の一(七五度)以下であれば、実質的には後遺障害第一〇級一一号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの)と評価されるべきものであるから、その労働能力喪失率の標準は二七%である。
さらに、運動可動域が二分の一(七五度)超、四分の三(一一二・五度)以下であれば、実質的には第一二級七号(一下肢の三大関節中の一関節に障害を残すもの)と評価されるべきであるから、労働能力喪失率の標準は一四%である。
原告が人工関節置換術を受ければ、左膝関節の可動域は六〇度~九〇度程度まで回復する可能性が高いのであるが、それを考慮して実質的労働能力喪失率が判断されるべきである。
なお、労災保険及び自賠責保険で人工関節置換術実施の場合の認定基準が最近改定されている。新しい認定基準は本件事故に適用があるものではないが、改定後の基準によれば人工関節置換術を実施しても一律に後遺障害第八級になるものではなく、実施後の関節可動域制限の程度に応じて第八級と第一〇級とに区分されることになっている。
八 現在価値の基準時について
(1) 原告の主張
被告の主張は争う。
遅延損害金は事故発生時から起算されるのが判例である。
(2) 被告の主張
原告は、本件事故による損害として事故当日からの遅延損害金を計上する。そうであれば、逸失利益についても事故当日の現在価値を算定して(中間利息控除の起算点を事故日として)、それを元本として遅延損害金を付加すべきである。
すなわち、原告の逸失利益を算定するには、「事故当日から就労可能終期までの期間に対応する中間利息控除係数」から「事故当日から症状固定日までの期間に対応する係数」を差し引いた数値を乗ずべきである。
九 通院交通費について
(1) 原告の主張
原告の治療はほぼ毎日の通院によって行われていたが、電車、バスによった場合、乗り換えと停留所までの長距離の歩行が必要となるが、当時、左足の痛みが大きく、その為に交通手段として被告加入の任意保険会社からタクシーで通院することの承諾を得ていた。
原告は、被告加入の任意保険会社に対し、通院交通費の明細を送付し、同社がこれを調査の上、既に二三四万八九二〇円を支払い、原告が受領している。
また、被告は上記の限度で認めているのであるからこれを否認するのは相当ではない。
被告は、原告が車を運転して通院することが可能であったと主張しているが、通院に伴う左足の痛みと治療薬の服用という問題を抱えながらの車の運転は精神的にもバランスを欠き、不注意による事故を惹起するおそれがあったので困難であった。通院治療に車の運転を強要することは相当ではない。
左足全荷重可能という診断について、原告が医師から告知を受けたかどうかについては明確ではないが、仮に医師からできるだけ歩いたりしなさいと言われたとしてもそれは治療の一方法にすぎず、通院にかかる時間、距離等に鑑みると、タクシー通院を不要とする理由とはならない。
原告の治療においては、平成一〇年三月一一日、同年八月五日、同年一二月二日、平成一二年三月二八日の四回にわたって手術が繰り返され、そのたびに手術のための入院が必要とされていたことからしてもタクシー通院の必要性は肯定されるべきである。
(2) 被告の主張
原告の主張する通院交通費の詳細は明らかでないが、このように多額の通院交通費が本件事故と相当因果関係があるとは考え難い。
原告は市立岸和田市民病院で症状固定とされた平成一二年一一月二日までの通院タクシー代を請求している。しかし、原告は平成一〇年一一月五日に左足全荷重可能とされ(乙一の二、一五丁目)、歩行補助具が医学的に不要となっている。この時期からは歩行こそがリハビリであり、また、バス・電車の乗降や階段歩行も可能なはずである。
また、原告は自動車の運転に関して、運転時には受傷した左足は使わないものの痛みで集中力が欠けるので自動車を運転して通院しなかったというが、原告は左膝の痛みや可動域は受傷以来変わっていないのに現在は薬で痛みを抑えて車の運転をしているというのであるから、平成一〇年一一月五日以降も運転しての通院が可能であったはずである。
したがって、同日以降のタクシー代については、本件事故との相当因果関係が否定されるべきである(乙二の一p四~)
第三争点に対する判断
一 認定する損害額
本件事故によって原告が被った損害として認められるものは以下のとおりである。
(1) 治療費 九六二万二二〇〇円
証拠(甲七(すべての枝番を含む。))により、原告が本件事故によって負った傷害の治療にかかった治療費は、別紙診療報酬明細等整理表のとおり、九六二万二二〇〇円と認められる。
(2) 入院雑費 一七万六八〇〇円
ア 日額 一三〇〇円
イ 入院日数 一三六日(別紙診療報酬明細等整理表のとおり)
ウ 計算式
1,300×136=176,800
(3) 入通院慰謝料 二六〇万〇〇〇〇円
原告の入通院についての慰謝料は二六〇万円とするのが相当である。
(4) 休業損害 九五九万六六九九円
ア 平成九年度の給与収入額 三六〇万円(甲一四)
イ 休業日数 九七三日
平成一〇年三月六日~平成一二年一一月二日
ウ 収入日額 九八六三円
3,600,000÷365=9,863(1円未満端数切捨)
エ 計算式
9,863×973=9,596,699
(5) 交通費 二三四万七八〇〇円
ア 通院一回当たりの金額 四二〇〇円
証拠(甲二五~四三(いずれもすべての枝番を含む。))によれば、通院一回当たりの金額は四二〇〇円とするのが相当である。これはタクシーを使用して通院した場合の費用を認めるものであるが、その金額についてはばらつきがあり、おおむねこの金額とするのが相当であると認めるものである。
なお、被告は平成一〇年一一月五日に医師から左足全荷重可能とされたこと等を根拠に、その日以降についてはタクシーによる通院費用を認める必要性がない旨主張しているが、別紙診療報酬明細等整理表のとおり、原告は、平成一〇年一一月五日以降も、手術等のために入院を繰り返しており(平成一〇年一二月一日から同月二六日まで、平成一二年三月二七日から同月三一日まで、同年四月一日から同月一五日まで)、医師による左足全荷重可能との診断(乙一の二、一五丁目)の趣旨が通院等を含むすべての日常生活において左足に全荷重が可能であるとの趣旨であるとは認められず、症状固定後も痛み等が残っていることも勘案すると、症状固定日までの通院についてタクシーによる通院を認めるのが相当である。
イ 実通院日数 五五九日(別紙診療報酬明細等整理表)
ウ 計算式
4,200×559=2,347,800
(6) 将来の人工関節手術費用 七万七八五〇円
証拠(甲九、一二、四六の一及び二)によれば、原告の膝関節については、原告が五〇歳となるころに変形関節症の治療として、人工(膝)関節置換術を行う必要性を生じる蓋然性を認めることができる。
したがって、将来におけるその費用についても本件事故による損害として認めるのが相当であるが、人工膝関節の耐用年数は約二〇年と考えるのが相当であること及び原告の平均余命(約七七歳)とを併せて考慮すると、人工関節置換術は原告が五〇歳となるころ及び七〇歳となるころに必要になるものとして、その費用を、症状固定時を基準として、ライプニッツ係数によって現在価値に評価するべきである。
ア 一回当たりの費用 一五万円(弁論の全趣旨)
イ 症状固定時の原告の年齢 三〇歳
ウ 一回目手術費用の費用(現在価値) 五万六五五〇円
(ア) 症状固定時から五〇歳までの年数 二〇年
(イ) ライプニッツ係数 〇・三七七
(ウ) 計算式
150,000×0.377=56,550
エ 二回目手術費用の費用(現在価値) 二万一三〇〇円
(ア) 症状固定時から七〇歳までの年数 四〇年
(イ) ライプニッツ係数 〇・一四二
(ウ) 計算式
150,000×0.142=21,300
オ 合計
56,550+21,300=77,850
(7) 後遺障害逸失利益 二一九〇万四七一一円
ア 人工関節置換術後の後遺障害逸失利益について
原告は、人工関節置換術後に、労働能力喪失率が増加するとの前提で、その後遺障害逸失利益をさらに請求しているが、労働能力喪失率を判断するのに当たっては、常に自賠責保険の後遺障害等級表に対応する労働能力喪失率が適用されるわけではなく、実質的に判断するべき場合もあるところ、人工膝関節置換術が行われた後の膝の可動域や痛みについては、むしろ改善する場合もあることが証拠(乙二の一及び二、三)によって認められるものであり、原告の主張するように労働労力喪失率が五六%に上昇する蓋然性を認めることはできない。
一方、被告は、人工膝関節置換術後は労働能力喪失率が改善する旨主張する。確かに前記のとおり、そのような場合があることも認められるが、原告についてそのように改善するか否か、どの程度改善するかについて認めることができない。
したがって、原告の後遺障害による逸失利益は、現時点の後遺障害等級である第一〇級相当の二七%の労働能力喪失率が就労可能期間である六七歳時まで継続することを前提として算出するのが相当である。以下、その前提で金額を算出する。
イ 基礎収入額 四八五万四八〇〇円
上記金額は、平成一二年賃金センサス、産業計、企業規模計、中学卒業、全年齢、男性労働者平均賃金である。
原告の平成九年の所得金額は三六〇万円である(甲一四)。この金額については、原告の父親が過少申告したものである旨主張するが、この申告は保険会社に本件事故による休業損害を請求する資料を得るためになされたものであると認められる(原告本人三五項~四四項)ので、敢えて過少に申告することは考え難く、当時それを超える収入があったことを認めるわけにはいかない。
一方、原告の学歴は中学卒業であると認められる(甲四四)ところ、平成一二年賃金センサス、産業計、企業規模計、中卒、男性労働者、二五~二九歳の平均賃金は三七五万一〇〇〇円であり、平成九年度の原告の上記所得三六〇万円はこれを近接するものであることからすると、原告が同類型の平均賃金を得る蓋然性を認めることができ、原告の後遺障害逸失利益を算出する際の基礎収入には、その類型の全年齢平均賃金を用いるのが相当である。
ウ 労働能力喪失率 二七%(一〇級相当)
エ 就労可能年数及び対応ライプニッツ係数 三七年、一六・七一一
症状固定日は平成一二年一一月二日であり、症状固定時の原告の年齢は三〇歳であるので、就労可能年数は三七年(六七歳まで)である。
なお、被告は、中間利息控除による現在価値算定の基準時を事故時にすべきと主張するが、本件における原告の症状固定までの期間は原告の負った傷害及び後遺障害の内容、程度等を勘案すると、一般的な期間を逸脱するものではなく、症状固定時を基準に現在価値化するのが相当である。
オ 計算式
4,854,800×0.27×16.711=21,904,711(1円未満端数切捨)
(8) 後遺障害慰謝料
原告の後遺障害の程度及びそれにより原告の夢が打ち砕かれたこと、本件事故において落ち度がないこと等、本件に現れた事情を総合的に勘案すると、520万円が相当である。
(9) 家屋改造費(甲一三) 三三万三〇〇〇円
(10) 損益相殺前の損害合計額 五一八五万九〇六〇円
(11) 損益相殺後の残高 二二七三万一九七五円
以下の既払金を控除した。
ア 被告からの支払 二四五一万七〇八五円
イ 自賠責保険金 四六一万〇〇〇〇円(平成一五年九月三日受領)
ウ 合計 二九一二万七〇八五円
エ 計算式
51,859,060-29,127,085=22,731,975
(12) 弁護士費用 二二七万〇〇〇〇円
(13) 確定遅延損害金(自賠責保険金受領まで) 七五二万〇九一五円
ア 元本額 二七三四万一九七五円
損益相殺前の損害合計額から、被告からの既払金のみを控除した金額
51,859,060-24,517,085=27,341,975
イ 期間
平成一〇年三月六日から平成一五年九月三日まで(二〇〇八日)
ウ 遅延損害金率 年五%
エ 計算式
27,341,975×0.05÷365×2,008=7,520,915(1円未満端数切捨)
(14) 請求金額等
ア 請求金額 三二五二万二八九〇円
損益相殺後の残額と弁護士費用と確定遅延損害金との合計額
22,731,975+2,270,000+7,520,915=32,522,890
イ 附帯請求の元本額 二五〇〇万一九七五円
損益相殺後の残額と弁護士費用のみの合計額
22,731,975+2,270,000=25,001,975
二 結論
以上によれば、原告の被告に対する請求は、不法行為に基づく損害賠償請求として金三二五二万二八九〇円及び内金二五〇〇万一九七五円に対する平成一五年九月四日から支払済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、仮執行免脱宣言については相当でないので付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 植田智彦)
診療報酬明細等整理表
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