大阪地方裁判所 平成15年(ワ)11769号 判決 2005年3月28日
原告
X
被告
Y1
ほか四名
主文
一 被告Y1及び同株式会社サン・エキスプレスは、原告に対し、連帯して二二〇万円及びこれに対する平成一四年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告Y1及び同株式会社サン・エキスプレスに対するその余の各請求並びに同日本道路公団、同株式会社NIPPOコーポレーション及び同テイケイ株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告Y1及び同株式会社サン・エキスプレスの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して一一〇〇万円及びこれに対する平成一四年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告日本道路公団(以下「被告公団」という。)が設置管理する名神高速道路の通行止め規制工事の広報及び後尾警戒作業に従事していたAが乗車していた車両が、被告株式会社サン・エキスプレス(以下「被告サン・エキスプレス」という。)が保有し、被告Y1が運転する車両に衝突されて炎上し、Aが焼死した事故(以下「本件事故」という。)について、Aの父である原告が、被告Y1に対して民法七〇九条、七一一条に基づき、被告サン・エキスプレスに対して同法七一五条、七一一条、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、被告公団に対して民法七一五条、七〇九条、七一一条、国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条一項に基づき、被告株式会社NIPPOコーポレーション(以下「被告NIPPO」という。)及び被告テイケイ株式会社(以下「被告テイケイ」という。)に対して民法七一五条、七〇九条、七一一条に基づき、それぞれ損害賠償(遅延損害金を含む。)を請求している事案である。
一 争いのない事実
(1) 当事者
ア 被告Y1は、運送を業とする被告サン・エキスプレスの従業員である。
イ 被告公団は、日本道路公団法に基づく法人であり、名神高速道路、中国縦貫自動車道ほかの高速道路等を設置管理するものである。
ウ 被告NIPPO(旧商号日本鋪道株式会社)は、道路工事、舖装工事等を目的とする株式会社である。
エ 被告テイケイは、警備請負業を目的とする株式会社である。
オ 原告は、Aの父である。
(2) 名神高速道路夜間通行止め規制工事
ア 被告公団は、平成一四年度名神高速道路京都東・吹田間舗装改良工事(以下「本件改良工事」といい、そのうちの平成一四年度名神高速道路夜間通行止め規制工事[栗東IC~吹田IC]を「本件規制工事」という。)を計画し、被告NIPPOは、本件改良工事を被告公団から請け負った。
イ 被告テイケイは、本件改良工事の規制・警備一式を被告NIPPOから請け負った。
(3) Aが従事していた業務
Aは、被告テイケイの従業員であり、同社従業員のBとともに、平成一四年一一月一四日午後八時頃から、中国縦貫自動車道中国上り五・二一キロポスト付近に、被告公団所有の後尾警戒車(以下「本件後尾警戒車」という。)を停車させ、通行止め広報、交通状態の監視等の後尾警戒作業(以下「本件作業」という。)に従事していた。
(4) 本件事故の発生
ア 日時 平成一四年一一月一四日午後一〇時二七分ころ
イ 場所 大阪府豊中市新千里西町二丁目中国縦貫自動車道(以下「本件高速道路」という。)中国上り五・二一キロポスト付近(以下「本件事故現場」という。)
ウ 被害車両 本件後尾警戒車
エ 加害車両 被告Y1運転、同サン・エキスプレス所有の大型貨物自動車(以下「本件加害車」という。)
オ 事故態様 被告Y1が本件加害車を運転して本件高速道路の登坂車線を西から東へ時速約一〇〇kmで走行中、脇見運転等をするなどしたため、約一九・八m手前の地点で本件後尾警戒車を発見し、急制動をかけたものの停止することができず、本件加害車の左前部を本件後尾警戒車の右後部に衝突させて、本件後尾警戒車を進行方向左側の壁に激突させた上、約四〇m前方まではね飛ばして炎上させ、Aを焼死させた。
(5) 被告Y1及び同サン・エキスプレスの責任原因
ア 被告Y1
被告Y1は、本件加害車を運転するに当たり、前方を注視して運転すべき注意義務があったのにこれを怠り、脇見運転等をし、前方不注視のまま漫然と本件加害車を運転して、本件後尾警戒車に追突したものであるから、民法七〇九条、七一一条に基づき、原告に対し、損害賠償責任を負う。
イ 被告サン・エキスプレス
被告サン・エキスプレスは、被告Y1の使用者であり、被告Y1は、同社の業務として本件加害車を運転していたものであるから、同社は民法七一五条、七一一条に基づく損害賠償責任を負う。また、同社は本件加害車の保有者であり、自己の業務のために、本件加害車を被告Y1に運行させていたものであるから、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。
二 争点
(1) 被告公団の責任
(2) 被告NIPPOの責任
(3) 被告テイケイの責任
(4) 損害額
(5) 過失相殺(被告Y1及び同サン・エキスプレスの主張)
三 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告公団の責任)について
【原告の主張】
ア 安全配慮義務違反(民法七一五条、七〇九条)
<1>当該労働者が、下請企業・元請企業の現場責任者の実質的指揮・監督に服している場合において(実質的指揮監督関係)、<2>業務を遂行する上で、当該労働者の生命・身体に危険が存し、その危険が予見可能であるならば(予見可能性)、<3>現場責任者は、当該労働者の生命及び身体等を危険から守り、生命・身体の侵害結果を回避する措置をとる義務(結果回避措置義務)がある。もっとも、<4>当該措置を講じることにより、結果を回避できたことが、結果回避措置義務を負担する要件となる(結果回避可能性)。
そして、当該労働者を指揮監督する立場にある現場責任者が、前記予見義務・結果回避義務に違反した場合、同現場責任者は、これにより生じた結果について不法行為責任を負い、同現場責任者を雇用する下請業者、元請業者は、それぞれ民法七一五条の使用者責任ないし民法七〇九条に基づく法人として直接の不法行為責任を負うことになる。
(ア) 実質的指揮監督関係の存在
以下のとおり、被告公団監督員及びその他の管理者は、Aら作業員に対し、実質的な指揮監督権を有していた。
a Aらの配置場所
本件事故当時、B及びAが停車し、広報活動を行っていた地点は、中国縦貫自動車道上り豊中インターチェンジ(以下「インターチェンジ」を「IC」と表示する。)~吹田IC間登坂車線終点であったところ、この停車位置は、被告公団監督員C作成に係る「平成一四年度名神通行止め規制工事実施要領案」(甲七)において、「D―G―<1>により中国豊中IC~中国吹田IC間(登坂車線終点五・二一KP)の(後尾警戒車)により通行止め広報」と指示されていることに基づくものである。
すなわち、前記実施要領案に基づき、被告NIPPO及び同テイケイにより「名神高速道路京都東~吹田間舗装改良工事本線規制計画書」(甲一一)が作成され、Aらの配置場所は、当初の被告公団の指示どおり、「中国豊中IC~中国吹田IC間(五・二一KP付近から登坂車線の終点)」とされ、さらにこれに基づいて被告公団により監督要領(乙ニ一)が作成され、これによれば、Aらの配置場所は、「中国豊中IC~中国吹田IC間(登坂車線終点)」とされており、Aらの停車位置は、当初から一貫して五・二一キロポストと定められていたのである。かかる経緯からして、被告公団の責任者である監督員Cの指定した場所にAらが配置されたことは明らかである。
b Aらが使用した設備・器具
本件広報・後尾警戒作業においてAらが使用した車両(本件後尾警戒車)及び付属の設備は、いずれも被告公団から被告NIPPOに貸し出され、被告NIPPOから被告テイケイの責任者を通じてAらに使わせたものであった。
c 被告公団監督員らからの指示に基づく作業
当日の通行止め工事を行うか否かの決定、工事開始の号令及び工事終了の号令は、被告公団が行うことになっていた。また、通行止め工事当日は、被告公団関西支社茨木管理事務所(以下「茨木管理事務所」という。)に、被告NIPPO及び同テイケイの実施本部が開設され、各現場作業員からの報告は逐一被告テイケイ実施本部になされ、被告テイケイ実施本部から被告NIPPOを通じて、あるいは被告テイケイ実施本部から直接被告公団実施本部に報告され、また、配置場所の変更等の決定権限は被告公団に存し、同公団から被告NIPPOを通じて被告テイケイに、あるいは被告テイケイに直接指示がなされ、被告テイケイを通じて、Aら各作業員に指示がなされることになっていた。
また、被告公団職員も、工事期間中、一日に一回はパトロールをしており、現場において何らかの指導が必要な場合は、パトロールに来た被告公団職員が直接当該作業員に対して指導できるし、その他にも指示があれば、被告NIPPO、被告テイケイを通じて、Aら作業員に指示することができた。
さらに、本件作業が通行止め工事の広報活動及び後尾警戒業務であり、被告公団職員が日常的に行う業務と何ら異なるところはないこと、作業場所は被告公団が管理する中国縦貫自動車道での作業であること、工事請負契約書(甲三)第一二条二項には、労働者で工事の施行又は管理につき著しく不適当と認められるものがあるときは必要な措置をとることができるとされており、被告公団は下請企業労働者の人事権にも大きな影響力を有していること等にかんがみると、被告公団監督員及びその他の管理者は、Aら作業員に対し、実質的な指揮監督権を有していたと解するのが自然である。
(イ) 予見可能性
a 高速道路上の交通事故は年間一万四〇〇〇件を超え、中でも追突事故は六五%を占めている上、高速道路では車両が高速で走行しているため、一旦事故が発生すれば生命の危険にまで及ぶ大事故につながりやすい。また、夜間は、昼間と比較して、死亡事故率が極めて高くなっている。さらに、道路交通法七五条の八は、高速道路上で駐停車することは、追突事故を惹起する可能性が極めて高いことから、高速道路上での駐停車を原則禁止している。
b 他方、運転者の認知エラーの要因のほとんどが「見れば見えたのに見なかった」というものであり、「見なかった」原因としては、その八九%を「他の物に注意、脇見」していたことが占めている。したがって、被告Y1の運転は、いわば典型的な過失運転であり、本件事故は、容易に予見できた事故であって、各作業員の安全を確保すべき被告公団としては、本件のような追突事故等に備えた結果防止措置を講じておくべきであったことは明らかである。
c 本件作業は、夜九時頃から翌朝六時頃まで、約九時間もの間、中国縦貫自動車道登坂車線終点付近に後尾警戒車を停車して、広報活動と渋滞状況の報告を行うことを作業の基本としている。しかも、本件登坂車線終点付近は、路肩が狭く、側壁に寄せて車を停車させたとしても、車体の一部が登坂車線内にはみ出してしまうのであり、本件作業中も、本件後尾警戒車の車体の一部は本件登坂車線内にはみ出していたが、パトロールを行った被告公団及び同テイケイの管理者らは、Aらが適正な配置についたものと認識していたのである。
そして、前記のとおり、統計上、高速道路における交通事故発生の頻度が極めて高く、しかも本件事故は夜間の交通事故であり、視界が悪いために、より事故発生の可能性が高まるといい得ることからすれば、いかに本件後尾警戒車の表示灯を回転させ、標識を上げていたとしても、不注意な運転者が前方を十分に注意せず登坂車線を走行して、広報・後尾警戒活動中の本件後尾警戒車の存在に気付かず、追突するおそれは極めて高く、本件事故は容易に予見することができたというべきである。さらに、夜間の登坂車線は、大型トラックなど重量の重い車両が高速で走行してくることが多いことは明らかであり、一旦事故が発生した場合は、生命にかかわる重大な事故につながることが予想されるのであって、被告公団現場責任者らに課される予見義務は、より一層重いことが明らかである。
(ウ) 結果回避措置義務及び結果回避可能性
本件広報・後尾警戒業務の内容、予測される事故態様、一旦事故が発生すると重大な生命・身体の危機にさらされることが予想されること等を考慮すると、被告公団監督員あるいは現場責任者は、次のような結果回避措置を講じておくべきであった。
a 後尾警戒車を停車させないで行う広報・後尾警戒業務
後尾警戒車を登坂車線終点という危険な地点に停車させ、後尾警戒のため待機させるのでなく、広報活動は無人の標識車や発光式の看板で行い、渋滞の有無の監視は、道路上に監視カメラを設置し本部においてモニタリングして監視する等によって行い、後尾警戒車は最寄り基地その他安全な場所で待機させ、もし渋滞が生じた場合は直ちに出動して後尾警戒に当たらせるという方法をとるべきであった。
b 後尾警戒車の停車位置
渋滞時の警備上、後尾警戒車を高速道路上で待機させるのがやむを得ないとしても、停車場所は最寄りのサービスエリア、パーキングエリアないし幅員の十分に存する待避場所、路肩、路側帯上に停車させるべきであり、大型の車両が多く走行することが予想される登坂車線終点で待機させるべきではなかった。
c 後尾警戒車の危険防止対策
被告公団作成の「保全作業要領(路上作業編)」(甲一五)及び「路上作業に伴う交通規制標準図」(甲一六)に準じ、後尾警戒車の後方に、ラバーコーン、矢印板、後尾警戒車が後尾警戒に当たっていることを予告する赤色灯付き予告看板を設置するなど、後尾警戒車が待機中であることを明確にわかりやすく表示し、運転者の注意を喚起し、追突事故の発生を防止する措置を講ずるべきであった。
d 後尾警戒に使用する車両
後尾警戒に使用する車両は、普通乗用車ではなく、クッションドラム等の追突衝撃緩和装置を装着した四トン又は二トン式トラックにしたり、後尾警戒車の手前に追突に備えた緩衝車を配置しておくべきであった。
イ 被告テイケイの現場責任者の過失による責任(民法七一五条)
(ア) 下請業者の現場責任者が、その指揮監督に服する下請業者の労働者が業務を遂行するについて、前記予見義務及び結果回避義務を怠り、当該労働者に損害を与えた場合、同下請業者の現場責任者に元請企業の指揮監督関係が及んでいれば、元請企業は、やはり民法七一五条に基づき、使用者責任を負う。
(イ) 被告公団は、被告テイケイの現場代理人D、安全衛生責任者Eその他現場責任者に対しても指揮監督権限を有していたところ、被告テイケイの現場責任者らに後記の過失があり、それによって本件事故が発生したものであるから、被告公団は、民法七一五条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
ウ 国賠法二条一項による責任
(ア) 前記のとおり、被告公団は、大型トラック等の走行が予想される登坂車線終点部分に、二一時から翌朝六時まで、本件後尾警戒車を停車させ、Aらを後尾警戒業務に当たらせたものである。しかも、本件後尾警戒車の後方には、「保全作業要領」、「路上作業に伴う交通規制標準図」に従った赤色灯、予告看板の設置、ラバーコーン及び矢印板などの設置といった警告防護の措置がとられていなかった。さらに、後尾警戒車として、クッションドラムなどの衝撃緩和装置を装着した四トンないし二トントラックの標識車は用いられず、ライトバンである本件後尾警戒車が用いられ、その手前に緩衝車が設置されることもなかった。高速道路上において車を停車させることは、追突事故を惹起する危険性が極めて高く、道路交通法上も禁止されている。ことに夜間は、ドライバーにとって距離感がつかみにくく、また疲労が蓄積しており、注意力も散漫となるため、追突事故の発生する危険性は高くなることに加え、中国縦貫自動車道は夜間でもかなりの交通量があり、追突事故の発生する危険性は極めて高かった。
(イ) したがって、本件事故現場に、何らの警告、防護措置もとらずに、本件後尾警戒車を二一時から翌朝六時までの長時間停車させ、同車内にAらを乗車待機させ、工事広報、渋滞状況の報告、渋滞発生時の後尾警戒作業に当たらせることは通常の安全を著しく欠いた状態を作出するものであるから、被告公団には、中国縦貫自動車道の安全管理上において重大な瑕疵があり、被告公団が前記の措置を採っていれば、本件事故は未然に防止できたし、仮に事故が発生してもAらの死という結果までは回避できたことは明白である。
(ウ) 以上のとおり、被告公団は、その管理下にある公の営造物である中国縦貫自動車道の設置管理に関して瑕疵があるから、国賠法二条一項により、原告に生じた損害を賠償する義務がある。
【被告公団の主張】
ア 安全配慮義務違反について
(ア) 実質的な指揮監督関係の不存在について
以下のとおり、被告公団監督員及びその他の管理者が、Aら作業員に対し、実質的な指揮監督権を有していたということはできない。
a 被告公団は公共用物である高速道路の管理者として、高速道路を整備し、これを公共の用に供しているが、本件規制工事の実施に当たり、交通規制に関しては規制権限を有する警察の権限であるところから、あらかじめ夜間通行止規制工事実施要領(案)を作成し、警察(大阪、京都府警察本部交通部高速道路交通警察隊長)との協議を行い、警察の定める施行条件に従って工事を行うべく、請負人たる被告NIPPOに通知した。そして、被告NIPPOにおいては、これを下請である被告テイケイと打ち合わせた上、本線規制計画書を作成し、被告公団の承諾の下に工事に着手したものである。同規制計画書には被告NIPPOから規制・警備一式を下請した被告テイケイ作成と見られる実施計画書も添付されていた。
なお、被告公団の監督員と被告NIPPOの工事に関する打ち合わせの際、被告テイケイが同席したことはあったかもしれないが、それは被告NIPPOとの間の工事規制に関しての下請関係にある立場でのもので、被告公団が直接被告テイケイに対して指示したことはない。また、後尾警戒車の停車位置が五・二一キロポスト付近で、車両が被告公団の提供車であることは決まっていたが、その停止箇所は被告テイケイか同社の警備員らにおいて現場で判断すべき事柄で、また、そのようにされていた。
したがって、被告公団は、直接の請負人である被告NIPPOに対しては契約上から、さらには公共用物たる道路構造物の管理者としての立場から、前記請負契約の履行に関して被告NIPPOの現場代理人に対して施行に関する指示監督権限を有するが、被告テイケイについては、被告NIPPOの下請であり、被告公団には被告テイケイに対する直接の権限はなく、前記実施要領等に違反がある等の場合に、被告NIPPOの現場代理人を通して指示できる程度の権限しかなかった。
b 交通規制のために使用する後尾警戒車が被告公団の所有車両であったとしても、その使用目的は、規制工事に当たっての後尾警戒のためであり、現場での業務実施は貸与者(被告NIPPO)に任されているのであり、これをもって直ちに被告公団と下請の業務担当者との間に実質的な私法上の使用関係が生じるものではない。
c 以上のとおり、被告公団と下請の業務担当者との間に実質的な私法上の使用関係が生じるものではないから、被告公団は使用者責任を負わない。
(イ) 予見可能性について
被告公団及びその監督員のC、主任補助監督員Fらは、本件事故の発生を予見することはできず、また、何ら結果回避義務違反もなかったから、被告公団は責任を負わない。
被告公団は、名神高速道路の一部区間全面通行止めに際して、あらかじめテレビ等においてこれを広報し、路上においても通行者に知らせる等広報に努めており、さらに本件通行止めの起点手前に後尾警戒車を配置し、後方通行車への案内や渋滞のための誘導を図っていた。また、使用する後尾警戒車は、黄色の車体に赤白の注意表示の塗装をなし、車上に黄色回転灯、電光の通行止め表示、方向指示板等の掲出装置を備え、予定された登坂車線終点付近の五・二一キロポスト付近の路肩部に停車し、後方通行車への注意、誘導に当たっていたものであって、この付近では道路はほぼ直線状で水平勾配に近く、後方通行車においては三〇〇m手前からでも本件後尾警戒車を十分視認できる状況であった。本件事故は、被告Y1が大型トラックを時速一〇〇kmで、約一〇秒間、三〇〇mにわたって前方注視を怠った常識外の過失によって生じたもので、被告公団やC、Fは本件事故を予見することはできず、また、以下のとおり、何ら結果回避義務違反もないから、責任を負わない。
a 後尾警戒車を停車させないで行う広報・後尾警戒業務について
道路交通法七五条の八は「法令の規定若しくは警察官の命令によ(る)」場合、高速道路上での駐停車も許されるところ、本件工事についてはすでに京都府警本部及び大阪府警本部の交通部高速道路交通警察隊との協議によりなされている。また、本件工事は、夜間一定の時間、高速道路の通行を全面的に遮断規制して工事を行う大規模なもので、多くの通行車は夜間全面通行止めが行われることは、テレビ、ラジオ等はもとより、チラシ、立看板、情報誌等、その他通行に際しての伝達等によって事前に知っていると考えられ、後尾警戒車の配置目的は、工事現場手前において通行止め及び出口方向を表示するためであるところ、渋滞発生の場合の対策として、本件事故現場付近に警備員を配備した標識装置を備えた後尾警戒車を配置することについては、交通規制権限を有する警察からの施行条件でもあった。また、後尾警戒車の現場での臨機の措置を考えれば、離れた地点に後尾警戒車を待機させ、発光式の看板や路上の監視カメラを操作させることなどは考えられない。
b 後尾警戒車の停車位置について
被告公団が、後尾警戒車の停車位置に関して、実施要領において中国豊中IC~中国吹田IC間(五・二一キロポスト地点)とした趣旨は、正確な地点を指して停車を指示したものではなく、その地点付近が中国縦貫自動車道から吹田ジャンクションを経由して名神高速に向かう車両が本件工事にかかる通行止めに当たって高速道路に流出できる最後のICである中国吹田ICに近く、後尾警戒車による通行止め広報や渋滞の場合の後尾警戒等に必要かつ有効な地点であり、またこの付近では路肩より外側にさらに約一m幅の余幅部分もあるところ、請負側において適切な地点を判断して停車し、前記作業を行うことになっていた。被告公団が特に登坂車線にまたがって停車するように指示した事実はない。
c 後尾警戒車の危険防止対策について
配備された後尾警戒車には、相当距離から視認できるように車両の屋根の上に現場の状況に応じて後続車両に注意を促すための車載標識装置が装備され、加えてその上部に黄色の回転灯も装備されていた。また、後尾警戒車は状況に応じて移動が可能で、危険であれば警備員たる当人らにおいて自ら判断の上、臨機に自車の手前に赤色灯や表示板を置くことも十分可能であった。さらに、全面通行止め規制の場合、一部車線規制の場合と比べて、その現場に至る手前付近においては交通量が通常よりも少なく、それだけ危険性も小さいから、本件事故当時の状況からラバーコーンや矢印板を置く必要はなかった。
d 後尾警戒に使用する車両について
本件後尾警戒車は単なる普通乗用車のライトバンではなく、黄色の車体に赤白の注意表示の塗装がなされ、黄色回転灯、表示板、矢印板の標識装置を備えた維持作業車であって、交通規制の場合に通常後尾警戒車として使用されているもので、無線設備、拡声器等の装備もあり、必要に応じて使用できるようラバーコーン三本、脚付きの矢印板二枚、赤黄旗各一本、ほうき、スコップ、発煙筒を搭載していた。また、後尾警戒車の車種の決定についても、警察と事前に協議を重ねた上でのものである。原告主張の大型車両を使用した場合は、さらに登坂車線に車体がはみ出すことになり、危険が増大することになる。
イ 被告テイケイの現場責任者の過失による使用者責任について
被告公団監督員及びその他の管理者が、被告テイケイの現場責任者ほかの従業員に対し、実質的な指揮監督権を有していなかったことは前記のとおりである。
ウ 国賠法二条一項による責任について
後尾警戒業務の際の警備員の勤務継続時間等は、被告テイケイと警備員との間に関するもので、被告公団の関知するところではない。本件後尾警戒車には黄色回転灯や標識装置が装備されており、同車の手前にラバーコーン、矢印板、赤色灯、予告看板等の設置は特に決められていなかったが、同車には矢印板やラバーコーン等も積載されており、警備員らによる臨機の際の配備も可能であった。また、本件後尾警戒車にはクッションドラムなど衝撃緩和装置は装着していなかったが、標識装置の装着された維持作業車であり、日常同種業務に使用しているもので後尾警戒車として十分に機能するものであるところ、大型車両を使用した場合には、かえって衝突の危険が大きくなる。さらに、本件規制工事に当たって標識装置を備える維持作業車の停車が認められることは、道路法四六条一項二号、道路交通法七五条の八、同法八〇条等からも明らかであり、本件においては、道路交通法八〇条に基づく警察との協議において、後尾警戒車の配備が施行条件として定められていた。
以上のように、本件後尾警戒車が後尾警戒車として十分機能を果たし得るものであったこと、本件事故が被告Y1の非常識な運転により生じたものであり、原告の主張する後尾警戒車が四トン車であったか否かや、クッションドラム、緩衝車等の設置の有無等に関係なく、被告公団には管理上の瑕疵はない。
(2) 争点(2)(被告NIPPOの責任)について
【原告の主張】
ア 安全配慮義務違反(民法七一五条、七〇九条)について
(ア) 実質的な指揮監督関係の存在
以下のとおり、被告NIPPOの現場代理人G又はその代理人である現場管理者は、Aら作業員に対し、指揮監督権限を有していた。
a 本件広報・後尾警戒活動の方法については、まず被告公団が「平成一四年度名神高速道路夜間通行止め規制工事実施要領案」(甲七)において中国豊中IC~中国吹田IC間登坂車線終点五・二一キロポスト付近で通行止め広報を行うことを定め、これを受け、被告公団、同NIPPO及び同テイケイのそれぞれ現場責任者が協議を行い、「名神高速道路京都東~吹田間舗装改良工事本線規制計画書」(甲一一)が被告NIPPO名義において作成され、「中国豊中IC~中国吹田IC間(五・二一キロポスト付近から登坂車線の終点)の後尾警戒を行う(二時間おきに被告テイケイ本部に中間報告)。このとき通行止めの標示を上げる。渋滞が発生した場合は標示を渋滞中に切り替えて渋滞状況を目視により本部に報告する。」という作業を中核とする具体的な作業が確定された。
そして、被告公団の実施要領に基づいた具体的な警備作業の内容の確定については、被告NIPPOの現場代理人Gあるいはその部下が協議に参加し、その内容について確認し、被告NIPPOとして、作業内容を承諾した上、被告NIPPO名義で前記本線規制計画書を作成している以上、実質的には被告NIPPOの指示(具体的には被告NIPPO現場代理人Gの指示)に基づいて、Aらは本件事故現場に本件後尾警戒車を停止させ、広報・後尾警戒活動を行っていたものというべきである。
b また、本件後尾警戒車は、被告公団の所有車両を被告NIPPOが借り受け、これをA及びBに使用させていたところ、本件後尾警戒車の取扱責任者はGである。したがって、Aらは、被告NIPPOの供給する設備、器具を用いて、本件広報・後尾警戒作業に当たっていたということができる。
c 本件規制工事において、現場の警備員からの報告は、基本的には現場から被告テイケイの実施本部へ同連絡員から被告NIPPOの実施本部へ、同連絡員から被告公団実施本部へという手順で報告され、被告公団からの指示がある場合は、まず被告NIPPO実施本部に指示がなされ、被告テイケイ本部から各現場作業員に指示がなされるという経路をたどるのであるから、被告NIPPO現場代理人ほか現場責任者は、被告テイケイとその従業員との雇用契約に基づく指揮監督関係を介して、Aら現場作業員に対して指揮監督権限を有していたことを否定し得ないはずである。
そして、被告NIPPOの実施本部は、茨木管理事務所内に置かれ、被告テイケイの実施本部の隣に置かれていたのであるから、事実上被告NIPPOの現場責任者は、被告テイケイを介して、各現場作業員に指示を行っていたことは明らかである。
さらに、被告公団と被告NIPPO間の請負契約書一二条二項、三項によれば、被告NIPPOの下請人や労働者等で工事の施工又は管理につき著しく不適当と認められるものがあるときは、被告公団監督員の請求により、被告NIPPOが「必要な措置」を講じることが予定されており、被告NIPPOが下請企業である被告テイケイの従業員に対しても、何らかの指揮権限を有することは明らかである。
d 被告NIPPOと被告テイケイら下請業者は、単なる元請、下請の関係ではなく、被告NIPPOを統括企業とする企業体を構成しており、同時に被告NIPPO現場代理人のGは、統括安全衛生責任者、すなわち、当該作業現場における安全衛生の最高責任者であり(労働安全衛生法一五条一項)、協議組織の設置及び運営、作業間の連絡及び調整、作業場所の巡視、関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助、その他労働災害を防止するために必要な事項を統括管理する業務を有している(労働安全衛生法一五条一項、三〇条一項)。そして、Gを会長とし、各下請業者の責任者により構成される工事作業所災害防止協議会や安全衛生協議会が組織され、被告公団の指示命令が各業者に周知徹底される施工体系づくりがなされていた。
(イ) 予見可能性
被告NIPPOの現場代理人Gその他現場責任者には、前記三(1)【原告の主張】ア(イ)のとおり、事故の発生の危険性及びAらの生命・身体が危険にさらされていることについて予見可能性及び予見義務があったことは明白である。
(ウ) 結果回避措置義務及び結果回避可能性
被告NIPPOの現場代理人及び現場責任者らは、前記三(1)【原告の主張】ア(ウ)と同様の結果回避措置をとるべきであった。すなわち、被告NIPPOの現場代理人らは、<1>後尾警戒車を本件登坂車線終点付近という危険な場所に配置すべきでなく、発光式表示看板を設置するなど無人の方法で広報活動を行い、また、交通状況の監視はカメラを設置して本部においてモニタリングすることにより行い、Aら警備員は最寄りの基地などに待機させ、渋滞が生じた場合は直ちに出動して後尾警戒に当たらせるという方法をとるよう被告テイケイに指示すべきであったし、<2>仮に中国縦貫自動車道上で広報・後尾警戒活動を行うにしても、路肩に十分な幅のある非常駐車帯などにおいて作業に当たらせるよう指示すべきであったし、<3>本件後尾警戒車の手前に、「保全作業要領(路上作業編)」(甲一五)及び「路上作業に伴う交通規制標準図」(甲一六)に準じ、矢印板やラバーコーン、予告看板を設置して運転者の注意を喚起すべきであり、さらには<4>追突された場合に備え、四トン又は二トン式トラックである標識車を使用し、かつ、その後部にはクッションドラム等の追突衝撃緩和装置を設置するべきであった。
イ 被告テイケイの現場責任者の過失による責任(民法七一五条)
被告NIPPOは、被告テイケイの現場代理人D、安全衛生責任者Eその他現場責任者に対しても指揮監督権限を有していたところ、被告テイケイの現場責任者らに後記の過失があり、それによって本件事故が発生したものであるから、被告NIPPOは、民法七一五条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
【被告NIPPOの主張】
ア 安全配慮義務違反について
以下のとおり、被告NIPPOは、Aに対して安全配慮義務を負うものではない。
(ア) 実質的な指揮監督関係の不存在について
被告NIPPOは被告公団から本件改良工事を受注したが、過年度の名神高速道路の舗装改良工事に伴う規制・警備業務は、いずれも被告テイケイが行っていたため、同業務について従前の実績と経験と専門的知識を有する被告テイケイに対し、本件改良工事に伴う規制・警備業務一式を依頼したものである。具体的な本線規制計画も、被告テイケイが平成一三年度以前からの本線規制計画の内容を踏襲しつつ、被告公団の平成一四年度作業実施要領案や車線規制工事要領等に沿って起案したものであり、被告NIPPOは、被告テイケイに対し、後尾警戒車の具体的作業内容や具体的停車位置及び停車状況等について、被告公団の実施要領や本線規制計画の記載内容以上に具体的な指示を行っていない。後尾警戒車の具体的作業内容や具体的停車位置及び停車状況等は、警備業務を業とし、名神高速道路の舗装改良工事に伴う規制・警備業務について従前の実績と経験と専門的知識を有する被告テイケイが、専門的判断によって決定したものであるから、本件事故の結果について被告NIPPOが原告に対して何らかの責任を負うものではない。
(イ) 原告が、被告NIPPOとAとの間に雇用関係におけるのと同様の指揮命令関係が存在した根拠として主張する事実のみから、被告テイケイの責任者を飛び越えて、被告NIPPOと被告テイケイの作業員であるAとの間に雇用関係におけるのと同様の指揮監督命令が生じる道理はないし、証人尋問においてもAを含む被告テイケイの作業員がGから具体的に何らかの指揮命令を受けた旨の証言は一切なされていない。
(ウ) 本件改良工事の内容は、文字通り名神高速道路の京都東ICから吹田ICの間において被告公団から指示された箇所の舖装を改良するというものであるところ、工事中は、前記区間が通行止めになるため、名神高速道路における車線規制のほか、これと接続する中国縦貫自動車道での広報・警備が必要となるものであるが、被告NIPPOが本件改良工事を行っていたのは名神高速道路であって、本件事故が発生した中国縦貫自動車道ではない。したがって、被告NIPPOはAが後尾警戒作業を行っていた現場において舗装改良工事を実施しておらず、同現場に被告NIPPOの社員が派遣されていた事実もないことから、被告NIPPOが当該現場に対して事実上の支配を有していたとは到底認められず、被告NIPPOがAに対して安全配慮義務違反を負わないことは明らかである。
(エ) Gの現場代理人としての権限についても、被告公団との契約には、同請負契約に基づく被告NIPPOの一切の権限を行使することができると記載されているが、具体的には被告公団の監督員がその職務の執行につき著しく不適当と認められるときに必要な措置をとるべきことを請求できる程度である。また、本件通行止めを伴う夜間工事には被告NIPPOだけでなくこれと並列的立場に立つ三〇数社の元請業者が関与して様々な工事が並行して行われており、そのそれぞれに現場代理人が存在し、Gもそのうちの一人に過ぎないことからも、Gが本件改良工事の現場代理人であったという事実を過大に評価することはできない。
イ 予見可能性について
被告NIPPOの現場代理人等が本件事故発生を予見することは不可能であった。
本件事故は、被告Y1が大型トラックを運転して本件事故現場付近の片側三車線道路の登坂車線を時速一〇〇kmで進行するに当たり、約一〇秒間もの長時間脇見をした結果、走行車線を逸脱し、路肩に停車していた本件後尾警戒車に追突するという通常考え難い重大な過失によって惹起されたものである。同車には一見して工事関係車両と分かる非常に目立ちやすい塗装がなされている上に、屋根の上には大きな字幕式車載標識装置と黄色の回転灯が点灯・回転し、ハザードランプも点灯していたこと、現に被告Y1自ら被験者として行った実況見分においても、本件後尾警戒車の停車位置より遥か三〇〇m手前からでも同車を肉眼で十分視認できたこと等からすれば、かかる追突防止装置にもかかわらず、前記のような通常考え難い重大な過失によって本件事故が惹起されることなど通常予見し得ないから、被告NIPPOにおいてかかる異常な事態までも予見して前記以上の追突防止措置を講じるよう被告テイケイに指示することはできない。
ウ 原告主張の結果回避措置について
(ア) 後尾警戒車を停車させないで行う広報・後尾警戒業務について
後尾警戒車は渋滞発生の場合に渋滞状況を目視により本部に報告する役割も担っていることから、自力で移動できない無人の標識車や発光式の看板ではその役割を果たせない。
(イ) 後尾警戒車の停車位置について
中国豊中ICと中国吹田ICの間にはサービスエリアもパーキングエリアもないから、後尾警戒車の停車場所は最寄りのサービスエリア、パーキングエリアとすべきという原告の主張は現実的でない。なお、本件後尾警戒車が待機していたのは、登坂車線終点ではなく、その外側の路肩である。
(ウ) 後尾警戒車の危険防止対策について
前記のとおり、後尾警戒車が待機中であることを明確にわかりやすく表示する措置は十分に講じられていたから、被告NIPPOにおいて、原告が主張するような追加の表示を講じるように実施要領を変更し、被告公団の監督員に承諾させるべき義務があったとする合理的根拠はない。
(エ) 後尾警戒に使用する車両について
四トントラックの幅員は約二二〇cmであり、本件後尾警戒車の幅員よりも五〇cm広いから、その分だけ路肩から登坂車線方向に幅をとることになり、かえって追突接触等の事故発生の危険を増すおそれがあったというべきである。また、緩衝車を配置したとしても、緩衝車を無人とすれば、渋滞発生の場合の役割を果たせず、その移動の問題が生じ、緩衝車を有人とすれば、当該緩衝車自体について追突防止措置を講じる必要が生じるから何ら解決とならない。
したがって、被告NIPPOにおいて、後尾警戒車を四トントラックに変更し、又は後尾警戒車の手前に緩衝車を追加配置するように実施要領を変更し、被告公団の監督員に承諾させるべき義務はない。
(3) 争点(3)(被告テイケイの責任)について
【原告の主張】
ア 指揮監督権限の存在
被告テイケイは、Aら警備作業員の雇用者であり、被告テイケイの現場代理人D、安全衛生責任者E、その他現場責任者らは、Aらに対し指揮監督権限を有していたことは明白である。また、実質的にも、被告テイケイ実施本部が現場警備員からの報告を受けこれを被告NIPPOを通じあるいは直接に被告公団実施本部に伝え、また、被告公団からの指示を被告NIPPOを通じて受け、これを被告テイケイ実施本部の責任者が各現場作業員に伝えて指示するという体制がとられていたこと、被告テイケイの責任者が、現実に「名神高速道路京都東~吹田間舗装改良工事本線規制計画書」の具体的警備計画にかかる部分を作成したこと等からも、Eほか被告テイケイの現場責任者らがAら現場の警備作業員に対し、指揮監督権限を有していたことに疑いを差し挟む余地はない。
イ 予見可能性
被告テイケイの現場代理人Dその他現場責任者には、前記三(1)【原告の主張】ア(イ)のとおり、本件のような事故の発生の危険性及びAらの生命・身体が危険にさらされていることについて予見可能性及び予見義務があったことは明白である。
ウ 結果回避措置義務及び結果回避可能性
被告テイケイも、前記三(1)【原告の主張】ア(ウ)と同様の結果回避措置をとるべきであった。すなわち、被告テイケイの現場代理人らは、<1>後尾警戒車を本件登坂車線終点付近に配置すべきでなく、発光式表示看板を設置するなど無人の方法で広報活動を行い、また、交通状況の監視はカメラを設置して本部においてモニタリングすることにより行い、Aら後尾警戒員は最寄りの基地などに待機させ、渋滞が生じた場合は直ちに出動して後尾警戒に当たらせるという方法をとるべきであったし、<2>仮に中国縦貫自動車道上で広報・後尾警戒活動を行うにしても、路肩に十分な幅のある非常駐車帯などにおいて作業に当たらせるよう指示すべきであったし、<3>本件後尾警戒車の後方には、「保全作業要領(路上作業編)」(甲一五)及び「路上作業に伴う交通規制標準図」(甲一六)に準じ、矢印板やラバーコーン、予告看板を設置して運転者の注意を喚起すべきであり、さらには<4>追突された場合に備え、四トン又は二トン式トラックである標識車を使用し、かつ、その後部にはクッションドラム等の追突衝撃緩和装置を設置するべきであった。
【被告テイケイの主張】
ア 実質的な指揮監督関係の不存在について
被告テイケイの従業員であるD及びEは、本件規制工事及び後尾警戒作業の現場代理人及び安全衛生責任者という地位にあったが、同人らは、本件道路規制業務について、被告公団の実質的指揮監督下にあり、被告テイケイの指揮監督下にはなかったから、D及びEに対する実質的指揮監督権限を有していなかった被告テイケイに使用者責任は生じない。
イ D及びEの過失について
D及びEは、被告公団及び被告NIPPOの策定した実施要領及び本線規制計画書に従うのみであった。また、Aら現場作業員に対する具体的指示事項についても、被告公団及び同NIPPOが決定していた。この点、被告公団の実施本部にはD及びEが詰めており、Aら現場作業員に対する指示事項の伝達はD及びEからなされていたが、同人らは、被告公団実施本部に所属する被告公団職員が決定した具体的指示をそのまま現場へと伝え、また、現場からの結果報告をそのまま被告公団職員に伝えるというまさに伝達役に過ぎなかった。
以上のとおり、被告テイケイの被用者であるD及びEに過失がないのであるから、そもそもD及びEに不法行為が成立せず、被告テイケイは使用者責任を負わない。
また、本件事故は、被告Y1が時速約一〇〇kmという高速度で走行中、約一〇秒間にもわたる脇見運転というあまりにも重大な過失のみによって引き起こされたものであるから、このような異常事態の予見可能性及びそれに基づく結果回避義務はなく、被告テイケイの現場代理人らに過失はない。原告の主張する具体的な措置については、前記から明らかなように被告公団が決定する権限を有する事項であるが、次のとおり、原告主張の措置を講ずることは相当でなく、いずれにせよ原告の主張には理由がない。
(ア) 後尾警戒車を停車させないで行う広報・後尾警戒業務について
有人の車両にて後尾警戒を行うことは、大阪府警が指定した条件であった。
(イ) 後尾警戒車の停車位置について
本件停車場所に関しては、後尾警戒を有効かつ十分に行うことができ、その上で、より安全な場所ということで選定されたものであった。
(ウ) 後尾警戒車の危険防止対策について
後尾警戒は随時移動しながら行われるものであるので、ラバーコーン等の什器を用いると、移動の都度、それらの出し入れ、設置、撤去の作業が必要となるが、その作業は現場作業員が車外に出て行わざるをえないことから、かえって危険を招くことになる。
(エ) 後尾警戒に使用する車両について
四トン又は二トントラックを使用すると、普通乗用車に比べ車両の幅が広くなり、高速道路を通行する他の車両の障害となりやすくなる。そこで、道路交通の円滑、事故の防止及び警備員の安全について総合考慮した上、最適な車両として、本件後尾警戒車が選択されたものである。また、緩衝車の設置については、原告が無人の車両か有人の車両がどちらを指しているのか明らかではないが、無人車両であれば前記のとおり、大阪府警指定の条件に抵触し、有人車両であれば、その緩衝車について新たに追突防止措置を講じる必要が生じるのであって、何ら解決にはならない。
(4) 争点(4)(損害額)について
【原告の主張】
ア 慰謝料 一〇〇〇万円
被告Y1の著しく注意義務を欠いた運転により、突然、息子であるAの命を奪われた原告の悲しみ、怒りは筆舌に尽くし難い。
また、本件事故は、被告公団をはじめ、同NIPPO、同テイケイによる末端の作業員の人命をあまりにも軽視した高速道路上作業方法の指揮、管理が誘発した事故にほかならず、もし被告公団らが必要最低限の事故防止措置を行い、作業員の人命尊重に取り組んでいれば、Aの死亡という最悪の結果は避けることができたのであるから、ずさんな安全管理体制により息子を奪われた原告の憤りは察するに余りある。
したがって、原告は本件事故により受けた精神的損害は、いかに低く見積もっても、一〇〇〇万円を下るものではない。
イ 弁護士費用 一〇〇万円
原告が本件に要した弁護士費用は一〇〇万円が相当である。
ウ 合計額 一一〇〇万円
エ 被告らの主張に対する反論
被告らの損益相殺の主張は争う。
【被告らの主張】
ア 被告Y1及び同サン・エキスプレスの主張
(ア) 本件事故に関し、被告Y1及び同サン・エキスプレスに一定の責任が存するだけでなく、被告公団、同NIPPO及び同テイケイにも、それぞれ一定の責任が存する。したがって、本件事故につき、原告固有の慰謝料は被告公団らにおいて負担すべきである。
(イ) 原告の被告Y1及び同サン・エキスプレスに対する許せないという気持ちは、原告本人尋問の結果からも、だいぶ和らいでいることが窺われる。また、被告サン・エキスプレスの加入する任意共済組合たる近畿交通共済協同組合(以下「共済」という。)は、すでにAの妻に二九〇万円支払っており、被告Y1の父は遺族らの賠償金に充ててもらうため、二〇〇万円を被告サン・エキスプレスに預託している。さらに、本件事故によるAに対する損害賠償については、共済からAに対して、社会通念に従った正当な金額の補償がなされることは確実である。
したがって、被告Y1及び同サン・エキスプレスは、本件事故によって死亡したAの遺族に対して、できる限り誠意を尽くした謝罪をし、本件事故の発生について真摯に反省してきたから、原告の被告Y1及び同サン・エキスプレスに対する怒りの感情はほとんどなくなってきている。
(ウ) 他方、原告は、本人尋問、陳述書等においても、被告公団、同NIPPO及び同テイケイに対する納得できない思い、怒りの感情をはっきりと示しているから、本件事故に関する原告固有の慰謝料の金額を押し上げる要素として、被告公団、同NIPPO及び同テイケイの対応ないし説明のずさんさがあることは明らかである。
(エ) 以上より、原告の固有の慰謝料の金額について、前記被告公団、同NIPPO及び同テイケイの原告に対する対応をもって特に増額すべき事由があると考えたとしても、それは被告Y1及び同サン・エキスプレスの責めに帰すべきものではない。
イ 被告公団の主張
原告主張の損害額は不知ないし争う。
被告公団は、前記サン・エキスプレスおよび後記被告テイケイの損益相殺の主張を援用する。
ウ 被告NIPPOの主張
争う。
エ 被告テイケイの主張
争う。
被告テイケイは、本件事故に関し弔慰金として一〇〇万円交付した。
(5) 争点(5)(過失相殺[被告Y1及び同サン・エキスプレスの主張])について
【被告Y1及び同サン・エキスプレスの主張】
A及びBが広報・後尾警戒業務を行っていた付近は、駐停車禁止区域であり、前方及び左右に同人らが待避する余裕はなかった。そして、本件後尾警戒車は、登坂車線にまたがって、車体の約八〇cmをはみ出して停止しており、同車の約半分がはみ出した状態であった。A及びBは、自分たちが乗車している車両が車線内に入っていることを認識していたはずであり、両名とも車両の運転に関する知識を十分に有していたにもかかわらず、本件後尾警戒車が車線内に入らない状態で停車するように配慮しなかったのであるから、Aらにも本件事故について一定の責任があるといえる。
本件事故の発生については、被告公団、同NIPPO及び同テイケイにも責任が存するところであるが、Aらにも一定の過失があるというべきである。
【原告の主張】
争う。
第三争点に対する判断
一 前提となる事実
前記争いのない事実に証拠(甲三ないし七、八の一・二、九ないし一八、二二の一ないし一九・二二、二三の一ないし五、二六、三〇ないし三三、三七、三八、三九の一ないし一五、乙ロ一、二の一・二、三の一ないし五、四の一・二、五、乙ハ一、乙ニ一、二、三の一ないし九、四、五、証人H、同G、同E)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる(各項に掲記した証拠は、当該事実を認定するに当たり特に用いた証拠である。)。
(1) 被告公団と被告NIPPOの間の本件改良工事の請負契約の内容
ア 被告公団関西支社は、その管理する名神高速道路を毎年計画的に補修・改良する工事を行ってきたが、平成一四年度の工事として、次の補修工事(本件改良工事)を計画し、同年七月一九日、発注者を被告公団、請負人を被告NIPPOとして、同社との間で請負契約を締結した。なお、平成一三年度の名神高速道路京都東・吹田間舗装改良工事は、被告NIPPOとは別の業者が受注した。(甲三、乙ロ五)
(ア) 工事名 名神高速道路京都東~吹田間舖装改良工事
(イ) 工事場所 滋賀県大津市追分町から大阪府吹田市青葉丘北まで
(ウ) 工期 平成一四年七月二〇日から同年一二月一六日まで
イ 被告公団と被告NIPPO間の本件改良工事の請負契約では、監督員等に関し、次のとおり定められていた。(甲三)
(ア) 被告公団は、監督員を置くものとし、その氏名を被告NIPPOに通知しなければならない。監督員を変更したときも同様とする(第九条一項)。
監督員は、この契約書の他の条項に定めるもの及びこの契約書に基づく被告公団の権限とされる事項のうち被告公団が必要と認めて監督員に委任したもののほか、設計図書に定めるところにより、次に掲げる権限を有する(第九条二項)。
a 契約の履行についての被告NIPPO又は被告NIPPOの代理人に対する指示、承諾又は協議
b 設計図書に基づく工事の施工のための詳細図等の作成及び交付又は被告NIPPOが作成した詳細図書等の承諾
c 設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事の施工状況の検査又は工事材料の試験若しくは検査(確認を含む。)
(イ) 被告NIPPOは、次の各号に掲げる者を定めて工事現場に設置し、設計図書に定めるところにより、その氏名その他必要な事項を被告公団に通知しなければならない。これらの者を変更したときも同様とする(第一〇条一項)。
a 現場代理人
(以下、略)
現場代理人は、この契約の履行に関し、工事現場に常駐し、その運営及び取締りを行うほか、この契約に基づく被告NIPPOの一切の権限(設計図書に示したものを除く。)を行使することができる(第一〇条二項)。
被告NIPPOは、前項の規定にかかわらず、自己の有する権限のうち現場代理人に委任せず自ら行使しようとするものがあるときは、あらかじめ当該権限の内容を被告公団に通知しなければならない(第一〇条三項)。
(ウ) 被告公団は、現場代理人が、その職務の執行につき著しく不適当と認められるときは、被告NIPPOに対して、その理由を明示した書面により、必要な措置をとるべきことを請求することができる(第一二条一項)。
(エ) 被告公団が被告NIPPOに支給する工事材料及び貸与する建設機械器具の品名、数量、品質、規格又は性能、引渡場所及び引渡時期は、設計図書に定めるところによる(第一五条一項)。
(2) 被告NIPPOと被告テイケイとの間の請負契約
ア 被告NIPPOは、本件改良工事のうち、舗装工事等を大西建設株式会社等十数社に請け負わせたほか、平成一四年八月一九日、工期を同月二〇日から同年一一月三〇日までとして、本件改良工事に伴う次のような規制・警備業務を被告テイケイに請け負わせる旨の契約を締結した。(甲六、乙ニ四)
(ア) 工事に先立ち、ICや近畿道・中国縦貫自動車道からの一般車両の進入を防ぐ業務
(イ) 工事に先立ち、サービスエリアから本線への進入を防ぐ業務
(ウ) 広報車を使って近畿道・中国縦貫自動車道の通行車両に名神高速道路の夜間通行止めを広報する業務
(エ) 工事車両の待機場所での接触事故を防ぐ業務
イ 被告テイケイは、平成六年頃から、名神高速道路夜間通行止め規制工事に伴う規制・警備業務を受注しており、平成一三年度も同業務を請け負っていたことから、被告NIPPOは、この実績と経験を考慮して、本件規制工事に伴う規制・警備業務を請け負わせることにしたものである。(乙ニ四、E証言)
(3) 本件規制工事及びこれに伴う警戒・広報計画の立案
ア 被告公団関西支社は、本件改良工事の一環として、平成一四年一一月六日から同月九日まで及び同月一一日から同月一五日までの期間、それぞれ二〇時から翌朝六時まで、名神高速道路栗東IC・吹田IC間五七・二kmを通行止め規制して舗装改良工事を行う計画を立てた。そして、平成一三年度の工事監督要領を踏まえて、実施要領を検討し、同年三月以降、管轄警察署である大阪府警察本部交通部及び京都府警察本部交通部と事前協議を重ねて内諾を得た上、同年六月、「平成一四年度名神高速道路夜間通行止め規制工事(栗東IC~吹田IC)実施要領(案)」(甲七。以下「本件実施要領案」という。)を道路工事協議書として、道路交通法八〇条に基づき、大阪府及び京都府各警察本部交通部に提出した。
本件実施要領案では、本件事故現場付近における警戒・広報については、「D―G―<1>により中国豊中IC~中国吹田IC間(登坂車線終点五・二一KP)の(後尾警戒車)により通行止め広報」と定められていた。(甲七、八の一・二、乙ロ五)
イ 同年八月、大阪府及び京都府の各警察本部交通部から、前記協議について、それぞれ以下のような条件付きで道路工事に同意する旨の正式回答がなされた。(H証言、甲九、一〇)
(ア) 大阪府警察本部交通部が付した条件
a 工事箇所手前には、必ず後尾警戒車の標識車、後尾警戒員を配置して渋滞のない時は、工事規制の実施について一般ドライバーに広報し、渋滞が発生したときは、常にその渋滞末尾の手前にあって一般ドライバーに渋滞が発生している旨の広報を行い、注意を喚起すること
b 道路管理者(被告公団)の監督員は、前記の渋滞発生時の広報、警戒の実施状況を現場において確認し、事故防止のための必要な是正をすること
(イ) 京都府警察本部交通部が付した条件
本線部及び路肩部の工事については、あらかじめ警戒車両を配置し、交通渋滞が発生した場合に直ちに交通渋滞後尾の安全確保に努めること
ウ 被告NIPPOは、被告テイケイと協議を行い、被告公団が警察本部交通部との協議時に添付した本件実施要領案、協議書、大阪府及び京都府各警察本部交通部の回答書、平成一三年度の本線規制計画の内容等を踏まえて、被告テイケイにおいて「名神高速道路京都東~吹田間舗装改良工事本線規制計画書」(甲一一。以下「本線規制計画書」という。)を作成し、それを被告NIPPOが確認した上で、同社名義で被告公団に提出し、その承諾を得た。(甲一二)
そして、茨木管理事務所は、被告NIPPO及び同テイケイと打合せを行った上、「平成一四年度名神高速道路(栗東IC~吹田IC)夜間通行止め工事監督要領」(乙ニ一。以下「本件工事監督要領」という。)を作成し、これに基づいて本件規制工事は実施されることとなった。なお、本件工事監督要領に定められた本件規制工事に伴う広報・警備計画は、本件実施要領案及び本線規制計画書と同内容であり、本件事故現場付近における広報・警戒のための後尾警戒車の配置場所は、「中国豊中IC~中国吹田IC間(登坂車線終点)」とされていた。(甲二二の一八、乙ニ一、H証言、E証言)
エ 本線規制計画書等では、A及びBが従事していた中国豊中IC~中国吹田ICにおける後尾警戒作業の手順は、次のとおり定められていた。(甲一一、乙ニ四)
一七:〇〇 テイケイ本部開局
一七:三〇 茨木ICに集合。車両点検を実施。テイケイ本部と夕礼。
一八:〇〇 無線ON後、茨木ICを出発。
一九:〇〇 中国豊中IC上り線ブース現着報告(テイケイ本部)
二〇:〇〇 頭押さえ車両出発後(約二~三分後)、渋滞の最後尾で後尾警戒を行う。閉鎖時の渋滞状況を随時報告。(なお、「頭押さえ」とは、一般車両が前に出ないようにパトカーや被告公団車両が横一列に並び、車線を塞ぐ形で一般先頭車両のスピードを抑えながら走行することをいう。)
二一:〇〇 中国豊中IC~中国吹田IC間(五・二一KP付近から登坂車線の終点)の後尾警戒を行う(二時間おきにテイケイ本部に中間報告)。
※前輪は路肩側、ハザード点灯、回転灯点灯。通行止めの標示を上げる。
なお、渋滞が発生しなければ、そのまま待機して広報・後尾警戒を行うが、渋滞が発生した場合は、直ちに渋滞地点に向かい、渋滞の最後尾に付いて、標示を渋滞中に切り替えて渋滞状況を目視により本部に報告する。
二四:〇〇 二四:〇〇までの運転日報を記入。
〇五:〇〇 解除前の渋滞状況を随時報告する。
〇六:〇〇 解除後の渋滞状況を随時報告する。渋滞解消後、テイケイ本部の指示により帰着する。茨木ICに帰着。無線OFF後、テイケイ本部に帰着報告。運転日報を記入。朝礼後、解散。
〇八:〇〇 テイケイ本部閉局
(4) 本件規制工事に関する指揮・監督関係等
ア 本線規制計画書等において、被告公団、同テイケイ等と所轄警察署等との間の指揮、通信系統等について、次のように定められていた。(甲一一)
(ア) 指揮及び通信系統
茨木管理事務所、高速道路交通警察隊所轄警察署及び被告テイケイの現地本部隊長、各分隊長、各隊員との間に、相互に指揮及び通信する。
(イ) 緊急連絡体制
緊急事案が発生した場合、現地警備員と被告テイケイ現地本部、被告テイケイ現地本部から所轄警察署、被告テイケイ大阪支社、茨木管理事務所は相互に連絡をとりあう。
イ 本件改良工事についての監督員、現場代理人等は次のとおりと定められていた。(甲六)
(ア) 被告公団
監督員 C(関西支社茨木管理事務所長)
主任補助監督員 F
(イ) 被告NIPPO
現場代理人 G
(ウ) 被告テイケイ
現場代理人 D
安全衛生責任者 E(被告テイケイ大阪支社長)
ウ 被告NIPPO及びその下請業者は、安全体制を確立し、工事災害の防止を図ることを目的として、「工事作業所災害防止協議会」を組織し、Gがその会長となり、他の下請業者の安全衛生責任者らとともに、被告テイケイからはE及びDがその構成員となっていた。(甲六)
(5) 本件規制工事の実施体制
ア 本件規制工事当日の工事実施体制、実施本部における業務の流れは、以下のとおりである。(乙ロ五)
一六:〇〇 作業連絡(被告公団から警察に対し、当日の作業を実施するか否かを連絡)
一七:〇〇 工事予定表作成(請負人[被告NIPPO等。以下、同じ]が作成した作業予定図に基づき、被告公団において工事状況把握のための工事予定表原案を作成)
一七:三〇 当日作業予定連絡会議(被告公団実施本部と請負人により、作業箇所の説明及び調整、出動順序、車両台数及び開口部等の確認、確定した工事予定表の配布、注意事項の周知等を行う。)
一八:〇〇 工事予定表送信(被告公団実施本部から警察、被告公団交通管制室等に工事予定表をFAX送信)
一八:五五 工事実施予告連絡(被告公団実施本部から警察、被告公団交通管制室、関係IC料金所等に工事実施予告を電話連絡)
一九:〇〇 放送(被告公団交通管制室から被告公団関係部署、関係IC料金所に対し工事実施予告の放送)
一九:三〇~ 出動体制確認(請負人実施本部から被告公団実施本部に対し、工事関係者及び車両の出動準備状況の報告)
二〇:〇〇~ 通行止め開始(請負人実施本部から被告公団本部に対し、各IC閉鎖完了の報告)
通行止め完了後 渋滞状況確認(請負人実施本部から被告公団実施本部に対し報告)
渋滞状況確認後 出動連絡(被告公団実施本部から請負人実施本部に対し、工事関係車両の待機場所からの出動可能の連絡)
工事進捗状況確認(随時)(請負人実施本部から被告公団実施本部に対し、工事進捗状況及び終了予定時刻の報告)
〇四:五〇 退出開始予定時刻(通行止め規制区間内からの工事関係車両の退出開始)
退出完了後 退出修了確認(請負人実施本部から被告公団実施本部に対し報告。)
〇五:三〇 解除予告連絡(被告公団実施本部から被告公団交通管制室、警察、国交省等に対し、工事完了[六時]の報告及び解除予告の連絡)
〇五:四五 放送(被告公団交通管制室から被告公団関係部署及びIC料金所に対し、解除予告の放送)
〇六:〇〇 通行止め解除(被告公団交通管制室の指示で通行止め解除)
通行止め解除後 渋滞状況確認(請負人実施本部から被告公団実施本部に報告)
イ 被告公団実施本部は、茨木管理事務所の二階に置かれ、そこに被告NIPPOの実施本部も置かれた。そして、その隣には被告テイケイの実施本部が置かれ、数名の管理者が常時待機し、各配置箇所からの報告を受け、その都度、報告内容と対処方法について被告公団及び同NIPPOに報告、承認を受けた上で、現場への指示を行っていた。また、Eに対しては毎日の報告がなされていた。(乙ニ四)
ウ 前記のとおり、毎日の作業開始前に、茨木管理事務所内において、本件規制工事に携わる全工事業者が集まって、当日の作業内容の確認等のための当日作業予定連絡会議が開かれたが、これに被告NIPPOのGは現場代理人として参加していた。被告テイケイは、茨木管理事務所の前で当日の広報・警備作業の段取りについて独自にミーティングを行っていた。
また、Gは、ミーティング後の午後七時過ぎから、茨木管理事務所の二階にある詰所(実施本部)に待機して、一四、一五班に及ぶ舗装改良工事の進捗状況を把握し、必要に応じて指示を行っていた。(乙ハ一)
エ 被告公団実施本部には、各IC等の監視モニターが設置されていたほか、被告公団の職員は、警備員の配置箇所や現場状況を確認するために現場パトロールを実施していた。その際、配置場所や実施内容について問題があれば、同人らは直ちに被告テイケイの実施本部に連絡を入れるほか、直接現場の警備員に指示することもあった。また、被告NIPPOも毎日のパトロールを行っていた。
被告テイケイは、同社の実施本部に連絡が入った場合は、現場リーダーに連絡を取って対処させ、その結果報告を被告公団及び同NIPPOの担当者に報告し、現場で直接指示が出た場合は、指示通りに従うように警備員に伝えていた。また、現場でクレームやトラブル等が発生した場合には、被告公団又は同NIPPOの担当者に状況報告を行い、本部勤務者が現場に急行し状況を確認、対処した後、被告公団らに結果報告を行うことになっていた。さらに、被告テイケイも一日二、三回は定期的にパトロールをしていた。(乙ニ四、五、G証言、E証言)
(6) 本件規制工事に伴う広報・警備体制等
ア Aは、平成一四年一一月一日に被告テイケイに準社員として採用され、それまで警備員の仕事はしたことがなかったことから、警備業務の経験があり、過去に本件作業と同様の業務を経験したことのあるBと組んで仕事をすることになった。(甲二二の二二、乙ニ四、E証言)
イ 被告テイケイは、本件規制工事の開始前に、警備員を被告テイケイ大阪支社に集め、業務の内容と概要を説明して、各配置箇所とそれぞれの具体的な作業内容について説明し、各配置箇所の現地確認を行った。(乙ニ四、E証言)
ウ Aは、本件規制工事開始の前日である平成一四年一一月五日、本件広報・警備作業に使用する車両を受け取り、操作方法の習得及び当日の配置箇所と運行ルートを確認するため、被告公団の職員とともに同京滋事務所まで赴き、本件後尾警戒車を受け取った上、同車を運転して茨木管理事務所まで戻り、本線規制計画書に基づいた作業手順や標識表示器、回転灯及び車載無線機等の操作方法並びに運行ルートを確認した。(乙ニ四、E証言)
エ 本件後尾警戒車は、長さ四・六四m、幅一・六九m、高さ二・一一mのライトバンで、全体的に黄色、バンパー部は前後とも赤と白のツートンカラーの塗装がされ、両側面に「日本道路公団 道路パトロールカー」と記載されていた。そして、この車両の屋根には、高さ一・五二m、横一・一三mの字幕式車載標識装置と黄色の回転灯が装着され、この標識装置を起こしたときの高さは、車高を併せると地上から三・〇mになり、標識表示器の表示は、車両の後部から表示内容が確認できるようになっていた。なお、本件後尾警戒車にはラバーコーン三本、矢印板二枚、赤黄旗が各一本ずつ積載されていた。
本件後尾警戒車及び同車に搭載された付属備品は、いずれも被告公団が所有するもので、これが被告NIPPOの現場代理人Gを取扱責任者として、被告NIPPOに貸与され、同社がAらに使用させたものであった。(甲二二の二・六、三七、三八、乙ロ二の一、二、三の一ないし五、H証言)
オ A及びBは、平成一四年一一月六日から、本線規制計画書に従って、本件事故現場付近に本件後尾警戒車を停止させて、中国豊中IC・中国吹田IC間における後尾警戒作業に従事した。(乙ニ四、E証言)
(7) 本件事故の状況
ア 本件事故現場付近の道路は、中国縦貫自動車道上り中国豊中IC・中国吹田IC間のアスファルト舗装された道路であり、左から登坂車線(幅員三・三m)、本線二本(幅員各三・六m)の片側三車線となっており、このほかに登坂車線の左側に〇・八mの路肩、追越し車線右側に〇・五mの路肩がある。同道路の勾配は上り約四パーセントであり、前記登坂車線は、西から東に進行するにつれて同線の左側線が徐々に走行車線側にせり出し、車線が狭くなる形で五・二一キロポスト付近で終了し、終点付近の左側の路肩は広くなっていた(別紙参照)。
本件事故現場付近の道路はほぼ直線となっており、視界を遮る障害物等はなく、見通しは極めてよかった。本件事故現場付近の道路は、最高速度時速一〇〇kmに規制されていた。
なお、本件事故当時の天候は晴で、路面は乾燥していた。(甲二二の二・七、二三の五、乙ロ四の二、乙ニ三の一ないし九)
イ Aらは、平成一四年一一月一四日午後六時から後尾警戒業務を開始し、同日午後九時頃、本件後尾警戒車を本件事故現場付近の路肩に停止させた。Aらが本件後尾警戒車を停止させた地点は、別紙のとおり、登坂車線が狭くなり始めた地点(登坂車線が切れる約四二m手前)の五・二五キロポスト付近であり、このとき同車の左前輪は路肩に入っていたが、同車の後部は登坂車線に約〇・八ないし一・二mはみ出していた。
同車は、標識表示器を上げ、回転灯を点灯させ、ハザードランプも点灯させていた。なお、同車の運転席にはB、助手席にはAが乗車していた。(甲二二の二・五・八・一四、二三の二・三)
ウ 被告Y1は、平成一四年一一月一四日、本件加害車(長さ一一・一四m、幅二・四九m、高さ三・七七mの一〇トン車)を運転して、前照灯を下向きにした状態で西から東へ走行し、本件事故現場手前で登坂車線に進入した。そして、被告Y1は、本件加害車を時速約一〇〇kmで走行させていたところ(なお、本件加害車と並進する車両はなかった。)、同日午後一〇時二七分ころ、進路右前方のレストランの看板に注意を奪われて脇見運転をしたり、考え事をして前方を注視しないまま約一〇秒間走行させたため、別紙<ア>に停車中であった本件後尾警戒車の一九・八m手前の別紙<3>の地点で同車を発見し、急制動をかけたものの間に合わず、別紙<4>の地点で本件加害車の左前部を本件後尾警戒車の右後部に衝突させた。本件後尾警戒車は、衝突の衝撃で左回りに反転しながら左側の壁に激突した上、約四〇m前方の別紙<イ>の地点まではね飛ばされ、ガソリンタンクが破損してガソリンに引火したため、炎上した。(甲二二の二ないし八・一三ないし一七、二三の二)
エ 本件事故により、Bは頭部打撲傷による硬膜下血腫により死亡し、Aは本件後尾警戒車内で焼死した。(甲二二の八ないし一二)
オ 本件事故後の夜間に本件後尾警戒車と同形式の車両を使用して行われた実況見分において、被告Y1が脇見運転を開始した本件事故現場手前二九六・一mの地点から本件事故現場までの道路はほぼ直線であり、その間のどの地点においても走行中に前方を注視して進行すれば、本件事故現場に停車中の本件後尾警戒車を発見、確認することができた。(甲二二の七)
二 争点(1)(被告公団の責任)について
(1) 安全配慮義務違反について
ア 使用者が安全配慮義務違反により責任を負う場合について
使用者は、被用者がその労働を提供するに当たり、被用者の生命、身体、健康の安全を守るための安全配慮義務を負担しており、その労働を提供する過程で、使用者の現場責任者等の被用者の過失により、被用者の生命、身体等が害された場合、使用者は、民法七一五条一項により、その損害を賠償すべき責任を負うものと解される。そして、ここにいう安全配慮義務を負担すべき使用者・被用者の関係とは、両者間に直接の労働契約がある場合に限られず、実質的な使用従属ないしは指揮監督関係がある場合を含むものというべきである。
イ 本件における被告公団の実質的な指揮監督関係の存在について
Aと被告公団との間に直接の労働契約関係がないことは明らかであるところ、前記認定の事実、特に、
(ア) 被告公団は、計画的に名神高速道路の補修工事を行っており、平成一四年度の計画として本件改良工事を行うこととし、これを被告NIPPOに請け負わせたものであるが、その工事の詳細は被告公団において定め、実施に当たって、被告公団の監督員は、被告NIPPOの従業員のみならず、被告NIPPOの現場責任者等を通じて、あるいは直接、被告NIPPOの下請業者及びその従業員に対して指示、命令することができるとされていたこと、
(イ) 本件規制工事の実施について、当日に工事を行うか否かは被告公団が決定し、当日実施する場合は、被告公団の指示に基づき、傘下の被告NIPPOほかの受注者及び被告NIPPOの下請業者が工事を開始し、工事が終了するまで被告公団実施本部と緊密な連絡を取りながら工事を進めたこと、
(ウ) 本件規制工事に伴う広報・後尾警戒業務についても、実質的には、被告公団が本件実施要領案を定め、これを関係警察機関と協議して、その了解を取り付けたこと、被告NIPPOは、被告テイケイと協議し、被告公団が作成した本件実施要領案、関係警察機関からの回答等を踏まえて、被告テイケイが作成した本線規制計画書を確認した上で、同社名義で同書を被告公団に提出し、被告公団が、これを承諾した形をとっているが、その内容は実質的には被告公団が定めた実施要領案等に即しており、被告公団作成の本件工事監督要領に定める規制計画も本線規制計画書に定めるものとほとんど同じであること、
(エ) 被告テイケイの各隊員(警備員)と茨木管理事務所との間に直接の指揮及び通信系統が定められていた上、本件規制工事が行われる日には、被告テイケイの実施本部が被告NIPPOの実施本部とともに茨木管理事務所に設けられ、被告テイケイは、被告公団実施本部に対し、直接あるいは被告NIPPO実施本部を通じて、随時、渋滞状況等の報告を行い、また、被告公団実施本部から、直接あるいは被告NIPPO実施本部を通じて、指示を受け、これを各現場の被告テイケイの警備員に伝えていたこと、また、被告公団の職員は被告テイケイの警備員の配置箇所や現場状況等を確認するために現場パトロールをしており、その際問題があれば直接警備員に指示したこともあること、
(オ) Aらが使用した本件後尾警戒車及びその付属の備品は、被告公団によって提供されたものであること
等を考慮すると、<1>被告テイケイの従業員であるAらは、被告公団の管理する本件高速道路において、被告公団の監督員等の直接又は被告NIPPO現場責任者等を通じた指揮、命令、監督の下で、被告公団の意図する本件改良工事のために必要な労務を提供していたもので、<2>被告公団と被告NIPPO及びその下請業者との間の指揮監督関係が緊密であることに照らすと、被告公団は、本件改良工事について、被告NIPPO及びその下請業者である被告テイケイらを自らの支配下に置き、実質的には被告公団を頂点とする企業体を構成し、Aら従業員を自らの企業秩序の下に組み入れて、Aら被告テイケイの従業員をして、被告公団の目的、意図に従った業務に従事させていたと認めることができる。したがって、被告公団とAとの間には、使用者・被用者間と同視しうる実質的な使用従属の関係があったと認められ、被告公団は、信義則上、Aに対し、労働契約に基づいて使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものというべきである。
これに対し、被告公団は、被告テイケイは被告NIPPOの下請であるから、被告公団は被告テイケイの従業員であるAに対して直接指揮監督する権限はなかったし、警備の現場での業務実施は被告NIPPOに任されていたから、本件後尾警戒車が被告公団の所有車両であることをもって直ちに実質的な使用関係が生じるものではないなどと主張するが、前記の事情に照らすと、被告公団は、Aの後尾警戒業務を直接又は被告NIPPOを通じて実質的に指揮監督していることは明らかであるから、被告公団の主張は採用できない。
ウ 被告公団の監督員等の過失の有無について
そこで、被告公団が負う安全配慮義務に関して、被告公団従業員であるCらにその懈怠があったか否かを検討する。
(ア) 前記一の事実によれば、本件事故は、本件後尾警戒車が登坂車線に車体後部を約〇・八ないし一・二mはみ出した状態で停止していたところに、被告Y1が一〇トン車を前方不注視のまま約一〇秒間、時速一〇〇kmで走行、追突したものである。そして、<1>登坂車線は速度の遅い大型の自動車が走行する車線であり、交通量が走行車線と比べて絶対的に少ない上、本件事故当日は、本件規制工事の開始に伴って本件高速道路を走行する車両は減少していたこと(H証言)、<2>登坂車線の終点付近であれば、登坂車線を走行していた車両であっても、本線に車線変更するのが通常と考えられる上、本件事故現場付近は、上り勾配が四パーセントで、前方の見通しが極めてよい道路であり、しかも、本件後尾警戒車は、屋根の上に大きな字幕式車載標識装置を上げて黄色の回転灯を点灯・回転させ、車のハザードランプも点灯させていたものであり、同車の停止位置の約三〇〇m手前からでも同車を発見することが可能であったこと、<3>本件事故当時、走行車線を本件加害車と並進している車両はなかったのであるから、本件警備警戒車にある程度接近した段階でも、走行車線に進路変更して本件後尾警戒車への追突を避け得た可能性も存すること、<4>Aらは、平成一四年一一月六日から、本件事故現場付近に本件後尾警戒車を停止させて、夜間の広報・後尾警戒業務に従事していたところ、本件事故発生に至るまで、登坂車線進行車両による追突あるいは接触等の事故はもちろん、異常接近などの危険な事態が生じたものとは認められず、また、本件事故現場付近をパトロールした被告公団、同NIPPO及び同テイケイの職員らも、本件事故現場付近に本件後尾警戒車を停止させて広報・後尾警戒業務を行っていることに何らの危険も感じていなかったと窺われることなどに照らすと、被告公団の監督員ほかの職員において、本件のように、登坂車線終点近くに車両の一部をはみ出して停車させている本件後尾警戒車に、一〇トントラックが時速一〇〇kmで衝突してくることはおよそ予見することはできず、被告公団職員に過失があったものと認めることはできない。
(イ) これに対し、原告は、高速道路上の追突事故は高速道路上での交通事故の六五パーセントを占めていること、夜間は昼間と比較して死亡事故率が高くなっていること、道路交通法七五条の八が高速道路上での駐停車を原則禁止していること等から、本件事故の発生を十分予見できたと主張する。
確かに証拠(甲一九)によれば、高速道路における追突事故は全体の六五パーセントを占めること、死亡事故率では夜間は昼間の二・七倍であることが認められる。しかしながら、通行止め工事に関して追突事故が発生したのは初めてであること(H証言)、前記のとおり、事故現場、本件加害車の大きさ、同車の走行速度、一〇秒間の前方不注視という本件事故に特殊な事情にかんがみれば、被告公団らに本件事故の予見可能性はなかったといわざるを得ない。
(ウ) 以上によれば、被告公団に、本件事故発生について予見可能性があったとは認められず、被告公団の安全配慮義務違反を理由とする原告の請求は理由がない。
(2) 被告テイケイの現場責任者の過失に基づく使用者責任について
前記のとおり、被告公団と被告テイケイの現場責任者との間に実質的な指揮監督関係があったと認められるが、本件事故発生について予見可能性があったとは認められないことは前記のとおりであるから、被告テイケイの現場責任者に過失があったことを理由とする被告公団に対する使用者責任の請求は理由がない。
(3) 国賠法二条一項による責任について
ア 国賠法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうところ、道路における安全性に関しては、これを利用するものの常識的秩序ある利用方法を期待した相対的安全性の具備をもって足りると考えられる。
イ 前記のとおり、本件事故は、被告公団らが予見不可能なものであったことに照らせば、本件は常識的秩序ある利用方法がなされた場合に該当せず、Aを本件事故現場に配置したことが公の造営物の管理の瑕疵に当たるかどうかを検討するまでもなく、被告公団が国賠法二条一項による責任を負うものと認めることはできない。
三 争点(2)(被告NIPPOの責任)について
(1) 安全配慮義務違反について
ア 実質的な指揮監督権の存在について
(ア) 前記一の事実によれば、被告NIPPOは、本線規制計画書の名義人であること、被告NIPPOの現場代理人は本件改良工事に関する一切の権限を行使することができること、同社の工事作業所災害防止協議会兼施行体系図や技術者台帳(甲六)によれば同社のGから被告テイケイのDに連絡が直接取れること、被告NIPPOの実施本部と被告テイケイの実施本部が茨木管理事務所の二階に隣り合って配置されており、被告テイケイから現場の状況に関する報告が被告NIPPOに対してされていたこと、被告NIPPOもパトロールをしていたことなどが認められる。かかる事情に照らせば、被告NIPPOは、被告テイケイの従業員を直接的ないし被告テイケイを通じて間接的に指揮監督して、作業に従事させていたと認められるから、被告NIPPOと被告テイケイの従業員であるAとの間には実質的な指揮監督の関係があったと認められる。
(イ) これに対し、被告NIPPOは、後尾警戒車の具体的作業内容や停止位置等は、規制・警備業務の専門的知識を有していた被告テイケイが決定したものであるから責任を負わないと主張するが、前記のとおり本件警備の具体的な作業内容等が記載されている本線規制計画書の作成に当たり被告NIPPOも被告テイケイと協議したこと、被告NIPPO名義で同社が確認の上前記計画書が被告公団に提出されたことなどに照らせば、被告NIPPOの主張には理由がない。
また、同社は、被告NIPPOが舗装改良工事を行っていたのは名神高速道路であり、本件事故が発生した中国道ではないから、同社は本件事故現場に対して事実上の支配を有していないと主張するが、Aの業務は被告NIPPO名義で作成された本線規制計画書に基づくものであること等に照らせば、かかる主張は採用し得ない。
イ 被告NIPPOの現場責任者らの過失について
被告NIPPOの従業員であるGが、Aらを本件事故現場付近に本件後尾警戒車を停車させて広報・後尾警戒業務を行わせたこと等について、Gに過失があったものということができないことは、前記被告公団等の職員の場合と同様である。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できず、原告の被告NIPPOに対する安全配慮義務違反を理由とする請求は認められない。
(2) 被告テイケイの現場責任者の過失に基づく使用者責任について
前記のとおり、被告NIPPOと被告テイケイの現場責任者との間に実質的な指揮監督関係があったと認められるが、本件事故発生について予見可能性があったとは認められないことは前記のとおりであるから、被告テイケイの現場責任者に過失があったことを理由とする被告NIPPOに対する使用者責任の請求は理由がない。
四 争点(3)(被告テイケイの責任)について
(1) 安全配慮義務を負担する関係
ア Aは被告テイケイの被用者であるから、被告テイケイは、Aに対し、その生命・身体の安全を保護すべき安全配慮義務を負っており、これについて被告テイケイの従業員に懈怠があれば、被告テイケイは、民法七一五条一項に基づく責任を負うことは明らかである。
イ これに対し、被告テイケイは、本件道路規制業務は被告公団の実質的指揮監督下にあり、被告テイケイの指揮監督下になかったから、被告テイケイは使用者責任を負う立場にないと主張する。
しかしながら、前記一の事実によれば、被告テイケイは、本線規制計画書を作成していること、本件規制工事前に警備員に対して、具体的な業務内容の説明、現地確認等を行っていること、被告テイケイが配置場所や実施内容について被告公団等から連絡を受けた場合には被告テイケイの現場リーダーに連絡を取り対処させていたこと、被告テイケイは業務開始前に独自にミーティングを行っていたこと、同社も一日二、三回は定期的にパトロールをしていたことなどに照らせば、前記のように被告公団の実質的指揮監督下にあったとしても、被告テイケイはこれに重畳的にAら警備作業員を指揮監督下に置いていたものと認められる。
したがって、被告テイケイの主張には理由がない。
(2) 被告テイケイの現場責任者らの過失
被告テイケイの従業員であるD及びEが、Aらを本件事故現場付近に本件後尾警戒車を停車させて広報・後尾警戒業務を行わせたこと等について、Dらに過失があったものということができないことは、前記被告公団等の職員の場合と同様である。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できず、原告の被告テイケイに対する請求は理由がない。
五 争点(4)(損害額)について
(1) 固有の慰謝料 二〇〇万円
前記認定の本件事故態様に照らすと、被告Y1の過失は重大であり、それにより本件後尾警戒車に乗車したままはね飛ばされ、車内で焼死した結果は悲惨であるといわざるを得ない。
これらの事情に、Aは、本件事故当時、妊娠中の妻Iと同居し、本件事故後に長男Jが出生したこと(甲一、二二の二二)、妻I及び長男Jは、被告サン・エキスプレスに対する本件事故に基づく損害賠償請求訴訟を当裁判所に提起していること(当裁判所に顕著である。)、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故による原告の固有の慰謝料は二〇〇万円と認めるのが相当である。
(2) 弁護士費用 二〇万円
本件事案の難易、訴訟物の価額、認容額その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係の範囲内にある弁護士費用は二〇万円と認めるのが相当である。
(3) 損害額合計 二二〇万円
六 争点(5)(過失相殺)について
前記二で説示したことに照らすと、本件において、Aらが本件後尾警戒車を登坂車線に約〇・八ないし一・二mはみ出して停車させていたことをもって、過失相殺をすることはできないと認められる。その他、本件において、損害の公平な分担の観点から、過失相殺をすべき落ち度がAにあったことを認める事情は存しない。
七 結論
以上によれば、原告の被告らに対する請求は、被告Y1及び同サン・エキスプレスに対し、二二〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成一四年一一月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容するが、その余は理由がないので棄却することとし、被告公団、同NIPPO及び同テイケイに対する各請求はいずれも理由がないので棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 二本松利忠 平井健一郎 中村仁子)
別紙
<省略>