大阪地方裁判所 平成15年(ワ)2181号 判決 2004年2月13日
甲事件原告兼乙事件被告
X1
甲事件原告
X2
甲事件被告
Y1
ほか一名
乙事件原告
全国共済農業協同組合連合会
主文
一 甲事件被告らは、甲事件原告X1に対し、連帯して五三八万六一七三円及びうち五一二万七八六一円に対する平成一二年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 甲事件被告Y2は、甲事件原告X2に対し、七六万七二一八円及びこれに対する平成一二年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 乙事件被告は、乙事件原告に対し、二九万二一九三円及びこれに対する平成一三年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 甲事件原告ら及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、甲事件乙事件を通じ、これを四分し、その三を甲事件原告らの負担とし、その余を甲事件被告ら及び乙事件原告の負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 甲事件
(1) 甲事件被告らは、甲事件原告X1に対し、連帯して二二六一万一〇五四円及びうち二二三五万二七四二円に対する平成一二年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 甲事件被告Y2は、甲事件原告X2に対し、一〇〇万九六二五円及びこれに対する平成一二年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件
乙事件被告は、乙事件原告に対し、四六万七五一〇円及びこれに対する平成一三年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、停止中の被害車両の傍らに佇立していた同車運転者及び被害車両に、加害車両が衝突した交通事故について、(1)<1>負傷した被害車両運転者が、加害車両の運転者に対しては民法七〇九条に基づき、加害車両の所有者に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、治療費、後遺障害逸失利益等の損害賠償請求をし、<2>被害車両の所有者が、加害車両の運転者に対し、民法七〇九条に基づき、被害車両時価等の損害賠償請求をし(甲事件)、(2)加害車両について自動車共済契約を締結していた共済者が、加害車両損害について共済金を支払ったことにより、被共済者に代位して、被害車両運転者に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償請求をしている(乙事件)事案である。
二 争いのない事実等
(以下、甲事件原告兼乙事件被告X1を「原告X1」、甲事件原告X2を「原告X2」、甲事件被告Y1を「被告Y1」、甲事件被告Y2を「被告Y2」、乙事件原告全国共済農業協同組合連合会を「被告農協連合会」という。また、書証番号は、特に記載のない限り、併合前の甲事件の書証目録及び併合後の甲乙事件の書証目録の書証番号による。)
(1) 本件事故の発生(甲一)
ア 日時 平成一二年一〇月二九日午前二時五〇分ころ
イ 場所 大阪市<以下省略> 国道四二三号(以下「本件道路」という。)
ウ 態様 原告X1(昭和○年○月生まれ、当時二五歳。)が同人運転の普通乗用自動車(所有者は原告X2。以下「原告車」という。)を、本件道路上に、ハザードランプをつけて停止させ、同車の近傍に佇立していたところ、被告Y2運転の普通乗用自動車(所有者は被告Y1。以下「被告車」という。)が、原告X1及び原告車に衝突した。
(2) 原告X1の受傷及び入通院状況
原告X1は、本件事故により、右アキレス腱開放性断裂、左脛骨骨折、右腓骨骨折及び右長母趾屈筋腱断裂の傷害を負い、次のとおり、入通院治療を受け、平成一四年一〇月七日に症状固定となった。
ア 医誠会病院
平成一二年一〇月二九日から同年一一月一日まで入院(四日)
イ 西宮市立中央病院
平成一二年一一月一日から同年一二月二九日まで入院(五九日)
同年一二月三〇日から平成一三年一月一一日まで通院(実日数四日)
平成一三年一月一二日から同年二月一五日まで入院(三五日)
同年二月一六日から同年五月二三日まで通院(実日数一九日)
同年五月二三日から同年七月六日まで入院(四五日)
同年七月七日から同年一一月二六日まで通院(実日数一三日)
平成一四年七月二九日から同年八月一九日まで通院(実日数二日)
同年八月一九日から同月二六日まで入院(八日)
同年八月二七日から同年一〇月七日まで通院(実日数二日)
ウ 関西労災病院
平成一二年一二月一八日から同月二五日まで通院(実日数二日)
平成一三年一月四日から同月一二日まで入院(九日)
同年二月八日から同年五月一七日まで通院(実日数四日)
エ 横山整形外科
平成一三年三月一七日から同年五月一九日まで通院(実日数二三日)
同年七月九日から平成一四年三月三一日まで通院(実日数五三日)
(3) 原告X1の後遺障害の認定
原告X1は、自賠責保険後遺障害認定手続において、右足関節痛、右足趾運動時痛、右足底しびれにつき、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級(平成一三年改正前の自動車損害賠償保障法施行令別表)一二級一二号に該当すると認定された。
(4) 被告Y2及び同Y1の責任原因
被告Y2は、進路前方の安全を確認して進行すべきであるのにこれを怠り、本件事故を生じさせたのであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。
被告Y1は、被告車を所有し、自己のために同車を運行の用に供する者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(5) 被告車についての共済契約の締結
被告Y1は、被告車について、板野郡農業協同組合との間で自動車共済契約を締結し、被告農協連合会は、板野郡農業協同組合との間で再共済契約を締結していた(甲一、二<乙事件>、弁論の全趣旨。以下「本件共済契約」という。)。
(6) 既払額
ア 原告X1分 九五四万四九六一円
(ア) 本件共済契約による支払額 五、八〇二、六五七円
(イ) 社会保険による治療費填補額 一、五〇二、三〇四円
(ウ) 自賠責保険後遺障害保険金 二、二四〇、〇〇〇円
イ 原告X2分 一〇万二三七五円(レッカー代)
三 原告らの主張
(1) 事故態様(過失相殺)について
被告Y2は、本件道路の制限速度である時速四〇kmを大幅に超過する時速約七〇kmで走行し、被告車の同一車線前方約五一mの地点にハザードランプを点灯して停止している原告車を発見したにもかかわらず、そのまま減速せずに走行を続けた上、本件道路は進路変更が禁止されているにもかかわらず、右側車線に進路変更しようとして、原告車付近から目を離したため、原告X1らの発見が遅れ、急制動の措置をとったが間に合わなかったものであり、被告Y2の過失の程度は大きい。
一方、原告X1は、原告車の同乗者のAが、気分が悪くなり、走行中にドアを開けたため、やむなく原告車を停止させ、降車したAを追って自らも降車したものである。原告X1は、ハザードランプを点灯させて降車しており、原告車の直近後方にしゃがみ込んだAの背中を二、三回さすったところに、被告車に衝突されたのであり、降車していた時間はわずかであった。
これらの点を考慮すると、本件事故についての原告X1の過失割合は、せいぜい二割程度と見るべきである。
(2) 原告X1の損害額(甲事件)
ア 治療費 六九八万三三七一円(社会保険による填補分を含む)
本件事故による原告X1の傷害の治療費は、次のとおり、合計六九八万三三七一円である。
医誠会病院 四二〇、四七六円
西宮市立中央病院 六、〇九七、八六六円
関西労災病院 三四〇、三一九円
横山整形外科 一二四、七一〇円
イ 付添看護費 三七万五五〇〇円
平成一二年一〇月二九日から同年一一月一一日までは、原告X1の両親が交代でほぼ二四時間付添看護にあたったほか、平成一三年一月五日から同月七日までは、原告X1の妹弟が交代で付き添った。その後も、全入院期間にわたり、原告X1の母である原告X2が、毎日病院に行って身の回りの世話に当たった。
したがって、近親者の付添看護費として、平成一二年一〇月二九日から同年一一月一一日まで及び平成一三年一月五日から同月七日までの合計一七日間については一日当たり五五〇〇円、その余の入院期間一四一日については一日当たり二〇〇〇円の損害が発生しており、次のとおり、合計三七万五五〇〇円となる。
5,500円×17日=93,500円
2,000円×141日=282,000円
ウ 入院雑費 二〇万五四〇〇円
1300円×158日=205,400円
エ 通院交通費 二万二八〇〇円
原告X1は、横山整形外科に通院するに際し、阪急電鉄今津線を利用し、片道運賃(門戸厄神駅から甲東園駅まで)一五〇円を要し、実通院日数七六日分である二万二八〇〇円の損害が発生している。
150円×2×76日=22,800円
オ 後遺障害逸失利益 一六二〇万二五二三円
原告X1には、本件事故により、右足関節痛や右足底の知覚障害等の後遺障害が残存し、これらの後遺障害による集中力の低下は著しく、労働に対する悪影響は決して小さくない。原告X1は、株式会社三和銀行(現・株式会社UFJ銀行)に勤務していたが、上記後遺障害が仕事の能率低下や残業時間の増加等をもたらし、また、身体全体が疲れやすくなり、仕事上無理をすることができなくなった。
本件事故後現在までのところは、減収が生じていないが、これは、原告X1が特別の努力をしてきたためであるほか、本件事故当時原告X1は未だ二〇歳代後半であり、昇級のスピードが上がっていき、また、同年代の社員との差がつきにくい年代であるためである。原告X1の勤務先は、いわゆるメガバンクの一角であり、優秀な人材が多く社員間の競争は熾烈である。今後、働き盛りを迎える原告X1にとって、本件事故による後遺障害の存在は、昇進、昇格を目指す上で大きなハンディになることは疑いがない。
原告X1の後遺障害逸失利益は、同人は若年労働者であること、同人の勤務先が一般に給与水準の高い大手都市銀行であること、実収入額と平均賃金との乖離の程度も小さいこと等に照らすと、原告X1は、将来的に生涯を通じて、平成一四年賃金センサス産業計・企業規模計・大卒・男子全年齢平均賃金である六七四万四七〇〇円を得られる蓋然性があり、これを基礎収入とし、労働能力喪失率一四%、労働能力喪失期間を四〇年(ライプニッツ係数一七・一五九)として計算し、一六二〇万二五二三円となる。
6,744,700円×0.14×17.159=16,202,523円
カ 賞与減額による損害 三四万二〇〇〇円
原告X1は、本件事故による受傷のため、平成一二年一二月一日から平成一三年三月八日まで欠勤を余儀なくされ、このため、三四万二〇〇〇円の賞与減額を受けた。
キ 入通院慰謝料 二五〇万円
ク 後遺障害慰謝料 三〇〇万円
ケ 確定遅延損害金 二五万八三一二円
原告X1は、平成一五年二月一八日、自賠責保険より、後遺障害保険金二二四万円を受領したが、この保険金に対する本件事故日(平成一二年一〇月二九日)から保険金受領日の前日(平成一五年二月一七日)までの年五分の割合による確定遅延損害金(次のとおり、二五万八三一二円となる。)が発生している。
2,240,000円×0.05×64日/366日+2,240,000円×0.05×2年+2,240,000円×0.05×48日/365日=258,312円
コ 弁護士費用 二〇〇万円
サ 原告X1の請求額
アないしコの合計額のうち二二六一万一〇五四円及びうち二二三五万二七四二円に対する本件事故の日である平成一二年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金。
(3) 原告X2の損害額(甲事件)
ア 車両時価額 七五万円
本件事故により、原告車は全損となり、原告X2は、車両時価額である七五万円の損害を被った。
イ 雑費 七万七二五〇円
原告X2は、自動車修理業者に対し、原告車の修理見積費用として三万円を支払ったほか、結局全損となった原告車の解体費用として四万七二五〇円を支払った。
ウ レッカー代 一〇万二三七五円
エ 弁護士費用 八万円
オ 原告X2の請求額
アないしエの合計額一〇〇万九六二五円及びこれに対する本件事故の日である平成一二年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金。
四 被告らの主張
(1) 事故態様(過失相殺)
本件道路は自動車専用道路であり、歩行はもちろん駐車も禁止されていた。本件事故現場は被告車からみて右カーブの中央付近であり、本件事故当時は夜間で雨も降っていたため、前方の見通しは悪かった。
被告Y2は、約五一m先にハザードランプを点灯した原告車を発見したが、原告車が停止しているのか低速度で進行しているのかわからなかった。被告は、車線変更を試みたが、右側車線の後続車が途切れず、被告車の速度を上回る速度で迫ってきたため、車線変更ができず、本件事故に至った。
被告車は制限速度を超過していたが、本件道路はほとんどの自動車が時速七〇kmないしそれ以上の速度で走行していたのであるから、被告車の速度超過は大きな過失とはいえない。また、被告Y2が五〇m程手前で原告車に気づくことになったのは、前記のとおり、原告車の位置が見通しの悪いカーブの途中であったためであり、被告Y2の前方不注視のためではない。本件事故現場は車線変更が禁止されていたが、湿ったアスファルト上を時速七〇kmで走行していた場合の制動距離は五〇・九二五mであり、原告車を発見した時点で急制動の措置をとったとしても、原告X1及び原告車との衝突は避けられなかったのであり、衝突回避のためにとり得た措置は、車線変更以外にはなかった。なお、障害のため道路を通行できない場合の進路変更は禁止されていない(道路交通法二六条の二第三項一号)。
以上の事故状況からすると、原告X1の過失割合は四割を下回らない。
(2) 原告X1の損害額(甲事件)について(被告Y1及び同Y2の主張)
ア 医誠会病院及び西宮市立中央病院はいずれも完全看護の病院であり、近親者による付添看護の必要性は認められない。
イ 本件事故後、原告X1に減収はなく、同人が特別の努力をしておりそれがなければ減収を来すという具体的な事情もない。原告X1の職業は、銀行員というデスクワークであり、右足の神経症状により、特に昇級、昇任等に際して不利益を受けるおそれもない。
以上のような事情を考慮すると、後遺障害による労働能力喪失があったとしてもせいぜい一〇%程度であり、また、原告X1はまだ若く、可塑性に富むことからすれば、経年的に労働能力喪失率が低減することは明らかであり、労働能力喪失期間はせいぜい五年程度に限定すべきである。
(3) 原告X2の損害額(甲事件)について(被告Y2の主張)
ア 修理見積費用については、被告ら側で原告車の修理費見積がされており、それ以上に原告車の修理見積をする必要はなく、相当因果関係を欠く。
イ 廃車費用は、廃車時期を早めたことに対する損害であり、相当因果関係を欠く。
(4) 被告農協連合会の原告X1に対する請求(乙事件)
ア 本件事故により、被告車は全損となり、被告Y1は、車両時価額一一〇万円、救助牽引費用六万五五〇〇円及び消費税三二七五円の合計一一六万八七七五円の損害を被った。
イ 本件事故発生についての原告X1の過失割合は四割を下回らないから、被告Y1は、原告X1に対し、民法七〇九条に基づき、四六万七五一〇円(一、一六八、七七五円×〇・四)の損害賠償請求権を有する。
ウ 被告農協連合会は、本件共済契約(争いのない事実等(5))に基づき、被共済者である被告Y1に対し、平成一三年二月二七日、上記アの損害に対する車両共済金一二二万三七七五円を支払ったことにより、被告Y1の原告X1に対する上記イの損害賠償請求権を代位取得した。
エ 被告農協連合会の請求
四六万七五一〇円及びこれに対する共済金支払日の翌日である平成一三年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金。
五 争点
(1) 事故態様(過失相殺)
(2) 損害額
第三争点に対する判断
一 争点(1)(事故態様)について
(1) 証拠(甲二、一二、一四、乙一、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の状況は次のとおりである。
ア 本件道路は、片側二車線(片側の幅員約七・六m)の南北に通じる自動車専用道路であり、歩行者通行禁止、駐車禁止、車線変更禁止の各規制がされていた。最高速度は時速四〇kmに規制されていた。本件事故当時(平成一二年一〇月二九日午前二時五〇分ころ)、小雨が降っており、路面は湿潤していた。
イ 原告X1は、原告車を運転して本件道路北行車線の左側車線を走行していたところ、助手席に同乗していたAが、吐き気をもよおし、原告車を停止させてほしいと頼んだため、左側車線上の左寄りに原告車を停止させた。Aは、停止後直ちに降車し、原告車の後方に行って側壁に向かってしゃがみこんだ。原告X1は、原告車のハザードランプを点灯して、Aに続いて降車し、原告車後方に行ってAの背中をさすった。原告X1は、Aの背中を二、三回さすったころ、後方から衝撃を受け、はね飛ばされて路上に転倒した。
ウ 被告Y2は、被告車を運転して、本件道路北行車線の左側車線を、時速約七〇kmで走行していたところ、前方約二九・四mの地点の左側車線上を走行していた先行車が、ハザードランプを点灯させて右側車線に車線変更して行くのを見た。そこから、被告車が約二八・五m走行した時、被告Y2は、前方約五一mの左側車線上の左寄りの地点に、ハザードランプを点灯している原告車を発見した。この時、被告Y2は、原告車は停止しているか又はかなり低速度で走行しているように見えた。
被告Y2は、原告車を避けるため、被告車を右側車線に車線変更させようと考えて、時速約七〇kmで走行しながら、ドアミラーで右側車線後方を見たところ、右側車線後方からは、四、五台の車両が進行してきていたので、被告車を車線変更させることができなかった。そこで、被告Y2は、前方を見たところ、前方約二六・二mの地点(原告車後部付近)に、原告X1とAがいるのが見え、急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車前部を、原告X1とAに衝突させた上、原告車後部に衝突させた。
(2)ア(ア) 以上の事実によれば、被告Y2は、制限速度を約三〇km超過する時速約七〇kmで走行中、自車の走行する車線の進路前方約五一mの地点に、ハザードランプを点灯させている原告車を発見し、その際、同車が停止しているか又はかなり低速度で走行しているように見えたのであるから、原告車の動静及び同車の周辺の状況に注意し、原告車が停止しているか否か及び停止している場合にはその付近に同車の運転者等が佇立していないかを確認し、自車にブレーキをかけて、原告車等との衝突を避けるべきであったにもかかわらず、車線変更により衝突を回避できるものと軽信して、時速約七〇kmの速度のまま被告車を進行させながら、右後方に注意を向けていたため、原告車の手前約二六・二mの地点に至るまで、原告車が停止し、かつ、その後方に原告X1及びAがいるのを発見できず、被告車を原告X1、A及び原告車に衝突させた過失が認められる。
(イ) この点、被告らは、本件道路はほとんどの自動車が時速七〇kmないしそれ以上の速度で走行していたのであるから、被告車の速度超過は大きな過失とはいえない旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない上、本件では、制限速度を約三〇km超えていたことが、事故発生の大きな原因となっていると考えられることからすれば、被告らの上記主張は採用できない。
また、被告らは、見通しの悪いカーブの途中に原告車が停止していたため、被告Y2は、五〇m程手前で初めて原告車を発見することができたが、湿ったアスファルト上を時速七〇kmで走行していた場合の制動距離は五〇・九二五mであり、原告車を発見した時点で急制動の措置をとったとしても、衝突は避けられず、衝突回避のためにとり得た措置は、車線変更以外にはなかった旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、被告車の前車がハザードランプを点灯させて車線変更して行ったのであるから、被告Y2は、その前方に対する注意をより喚起されるはずであり、前方に十分注意していれば、より早期に原告車を発見できたと考えられるし、また、被告Y2は、ハザードランプを点灯している原告車を前方に発見しても、それが停止しているかどうか判別しないまま、右後方に注意を向けながら走行していたことからすると、前方不注視はやはり著しいといわざるを得ない。また、被告ら主張の被告車の制動距離(五〇・九二五m)からすれば、被告Y2が原告車を発見した時点(約五一m手前)で制動措置をとっていれば、衝突は避け得たといえるし、仮に衝突したとしても、より低速度での衝突となっていたはずであり、甚大な被害は生じさせなかったと考えられるから、被告らの上記主張は採用できない。
イ 一方、原告X1も、夜間に、自動車専用道路であり、歩行者通行禁止、駐車禁止の規制がされている本件道路上に、原告車を停止させ、同車の後方に佇立していた過失が認められる。
ウ 両者の過失を比較し、本件事故発生についての過失割合は、被告Y2が七五%、原告X1が二五%と見るのが相当である。
二 争点(2)(損害額)について
(1) 原告X1の損害額(甲事件)
被告Y2及び同Y1が原告X1に対し賠償すべき損害額は、次のとおりである。
ア 治療費 五四八万一〇六七円(社会保険による填補分を除く)
(ア) 争いのない事実、証拠(三ないし六、八、一四、一五、一八<枝番号を含む>、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 原告X1は、本件事故により、右アキレス腱開放性断裂、左脛骨骨折、右腓骨骨折及び右長母趾屈筋腱断裂の傷害を負い、次のとおり、入通院した。
(a) 医誠会病院
平成一二年一〇月二九日から同年一一月一日まで入院(四日)
(b) 西宮市立中央病院
平成一二年一一月一日から同年一二月二九日まで入院(五九日)
同年一二月三〇日から平成一三年一月一一日まで通院(実日数四日)
平成一三年一月一二日から同年二月一五日まで入院(三五日)
同年二月一六日から同年五月二三日まで通院(実日数一九日)
同年五月二三日から同年七月六日まで入院(四五日)
同年七月七日から同年一一月二六日まで通院(実日数一三日)
平成一四年七月二九日から同年八月一九日まで通院(実日数二日)
同年八月一九日から同月二六日まで入院(八日)
同年八月二七日から同年一〇月七日まで通院(実日数二日)
(c) 関西労災病院
平成一二年一二月一八日から同月二五日まで通院(実日数二日)
平成一三年一月四日から同月一二日まで入院(九日)
同年二月八日から同年五月一七日まで通院(実日数四日)
(d) 横山整形外科
平成一三年三月一七日から同年五月一九日まで通院(実日数二三日)
同年七月九日から平成一四年三月三一日まで通院(実日数五三日)
b 上記の間、原告X1は、医誠会病院において、アキレス腱開放性断裂に対し、緊急縫合術を受け、平成一二年一一月六日に、西宮市立中央病院において、左脛骨骨折に対する観血的整復固定術を受け、平成一三年一月四日、関西労災病院において、神経移植術、足趾腱移行術を受けた。また、右アキレス腱部創感染が生じたため、西宮市立中央病院において、同月一八日と同年五月二五日に、病巣掻爬術を受けた。平成一四年八月二一日には、西宮市立中央病院において、左脛骨骨折について抜釘術を受けた。
c 原告X1は、横山整形外科及び西宮市立中央病院において、感染創部に対する処置及びリハビリを受けた後、平成一四年一〇月七日、西宮市立病院において、症状固定と診断された。
(イ) 以上の事実によれば、本件事故による原告X1の傷害に対し、上記の各病院において、平成一四年一〇月七日まで治療を要したものと認められ、その間の治療費額は次のとおり合計五四八万一〇六七円(社会保険による填補分を除く。甲三ないし七、一八<枝番号を含む>)であり、これは賠償されるべき損害と認められる。
医誠会病院 四二〇、四七六円
西宮市立中央病院 四、五九五、五六二円
関西労災病院 三四〇、三一九円
横山整形外科 一二四、七一〇円
イ 付添看護費 一六万五〇〇〇円
証拠(甲一四、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故日である平成一二年一〇月二九日から同年一一月一一日ころまで、原告X1の両親が交代で、ほぼ一日中、入院付添をし、その後も、全入院期間中、原告の家族が、入院中の原告X1の身の回りの世話等をしたこと及び原告X1が入院した各病院は、完全看護体制であったことが認められるところ、前記認定の原告X1の傷害の程度、治療経過等に照らし、三〇日程度は、家族による入院付添が必要であったものというべきであり、賠償されるべき入院付添看護費は、一日当たり五五〇〇円として、次のとおり、一六万五〇〇〇円と認めるのが相当である。
5,500円×30日=165,000円
ウ 入院雑費 二〇万五四〇〇円
賠償されるべき入院雑費は、一日当たり一三〇〇円とし、一五八日分である二〇万五四〇〇円と認めるのが相当である。
1300円×158日=205,400円
エ 通院交通費 二万二八〇〇円
横山整形外科への通院交通費(阪急電鉄を利用)は、片道一五〇円であり(弁論の全趣旨)、実通院日数七六日分である二万二八〇〇円は、賠償されるべき損害と認められる。
150円×2×76日=22,800円
オ 後遺障害逸失利益 五六七万七七五八円
争いのない事実、証拠(甲八ないし一〇、一四、一六、一七、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故による原告X1の傷害は、平成一四年一〇月七日に症状固定し、後遺障害等級(平成一三年改正前の自動車損害賠償保障法施行令別表)一二級一二号に該当する右足関節痛、右足趾運動時痛、右足底しびれ等の後遺障害が残存したこと、原告X1は、本件事故当時、二五歳で、株式会社三和銀行(現・株式会社UFJ銀行)に勤務し、法人顧客の営業を担当し、平成一二年分の年収は五二五万二一三六円であったこと(有給休暇を利用したため、本件事故による平成一二年分の減収はほとんどなかった。)、本件事故による受傷のため、平成一三年六月末ころまで勤務せず、同年七月から復帰したこと、復帰後約九か月間は、仕事量を半分にし、補助者をつけてもらって営業活動をしていたこと、上記後遺障害のため、常に右足裏のしびれや右足関節痛等があり、顧客訪問の際の自動車運転や歩行に支障があるほか、デスクワークの際にも、従前より能率が低下し、疲労しやすくなる等の支障が生じていること、本件事故により、管理者登用試験を受験できなかったこと、原告X1は、復帰後現在まで、デスクワークを家に持ち帰ってこなすなどし、会社の求める水準以上の実績を残していること及び平成一三年分の年収は五一七万三八九五円、平成一四年分の年収は六四四万九〇二四円であることが認められ、これらの事実を総合し、賠償されるべき後遺障害逸失利益は、平成一二年分の年収五二五万二一三六円を基礎として、一〇年間(ライプニッツ係数七・七二一七)にわたり、平均して一四%の労働能力を喪失し、同割合による減収を生じるものとして算定するのが相当であり、次のとおり、五六七万七七五八円となる。
5,252,136円×0.14×7.7217=5,677,758
カ 賞与減額による損害 三四万二〇〇〇円
証拠(甲一一、原告X1)によれば、原告X1は、本件事故による受傷のため欠勤し、平成一三年度上期賞与が三四万二〇〇〇円減額されたことが認められ、これは賠償されるべき損害と認められる。
キ 入通院慰謝料 二四〇万円
原告X1の受傷の程度及び入通院期間等を考慮し、賠償されるべき入通院慰謝料は二四〇万円と認めるのが相当である。
ク 後遺障害慰謝料 二六〇万円
前記認定の原告X1の後遺障害の程度に照らし、賠償されるべき後遺障害慰謝料は、二六〇万円が相当と認める。
ケ 過失相殺
アないしクの合計額一六八九万四〇二五円に前記認定の割合により過失相殺をすると、一二六七万〇五一八円(16,894,025円×0.75)となる。
コ 損害の填補及び確定遅延損害金
ケから既払額八〇四万二六五七円(社会保険による治療費填補分を除く。争いのない事実等(6))を控除すると、残額は四六二万七八六一円となる。
これに、自賠責保険後遺障害保険金二二四万円に対する本件事故日(平成一二年一〇月二九日)から保険金受領日の前日(平成一五年二月一七日<弁論の全趣旨>)までの年五分の割合による確定遅延損害金(次のとおり、二五万八三一二円となる。)を加えると、四八八万六一七三円となる。
2,240,000円×0.05×64日/366日+2,240,000円×0.05×2年+2,240,000円×0.05×48日/365日=258,312円
サ 弁護士費用 五〇万円
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、原告X1の賠償されるべき損害としての弁護士費用は、五〇万円が相当と認める。
シ コとサの合計額 五三八万六一七三円
(2) 原告X2の損害額(甲事件)
被告Y2が原告X2に対し賠償すべき損害額は、次のとおりである。
ア 車両時価額 七五万円
本件事故により、原告車は全損となり(甲一二)、車両時価額七五万円(甲一二)は、賠償されるべき損害と認められる。
イ 雑費 七万七二五〇円
証拠(甲一三の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、原告X2は、本件事故により損傷した原告車の修理費見積を業者に依頼し、その費用三万円を支払ったこと及び全損となった原告車の解体等費用として四万七二五〇円を支払ったことが認められ、これらの費用合計七万七二五〇円は、賠償されるべき損害と認められる。
この点、被告Y2は、被告ら側で原告車の修理費見積がされていることを理由に、原告X2による修理費見積は必要がない旨主張するが、被告ら側で修理費見積をしたことをもって、原告X2が自車の修理費見積をする必要がないということはできず、他に、原告X2の依頼した修理費見積が不当ないし不必要であったと認めるに足りる証拠はないから、被告Y2の上記主張は採用できない。また、被告Y2は、廃車費用は、廃車時期を早めたことに対する損害であり、相当因果関係を欠くと主張するが、原告車は本件事故により全損となり、現実に廃車を余儀なくされるに至ったのであり、原告車が本件事故前から近々廃車される予定であったという事情も見当たらないから、上記解体等費用は、本件事故との間に相当因果関係を有する損害というべきであり、被告Y2の上記主張は採用できない。
ウ レッカー代 一〇万二三七五円
証拠(乙二の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により損傷した原告車のレッカー代として、一〇万二三七五円を要したことが認められ、これは賠償されるべき損害と認められる。
エ 過失相殺
原告X1と同X2は親子であり、身分上、生活関係上、一体をなすものであるから(原告X1、弁論の全趣旨)、本件事故についての原告X1の過失を被害者側の過失として斟酌するのが相当である。
したがって、前記アないしウの合計額九二万九六二五円に前記認定の割合により過失相殺をすると、六九万七二一八円(九二九、六二五円×〇・七五)となる。
オ 弁護士費用 七万円
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に照らすと、原告X2の賠償されるべき損害としての弁護士費用は、七万円が相当と認める。
カ エとオの合計額 七六万七二一八円
(3) 被告Y1の損害額(被告農協連合会の請求)(乙事件)
ア 被告Y1の原告X1に対する損害賠償請求権
本件事故により、被告車は全損となり(甲一<乙事件>)、車両時価額一一〇万円及び救助牽引費用六万八七七五円(消費税を含む)(甲一<乙事件>)は、賠償されるべき損害と認められる。
前記認定のとおり、本件事故発生についての原告X1の過失割合は二五%であるから(被告Y1の損害額についても、被告Y2の過失を被害者側の過失として斟酌するのが相当である。)、被告Y1は、原告X1に対し、民法七〇九条に基づき、二九万二一九三円(1,168,775円×0.25)の損害賠償請求権を有すると認められる。
イ 被告農協連合会による損害賠償請求権の取得
被告農協連合会は、本件共済契約(争いのない事実等(5))に基づき、被共済者である被告Y1に対し、平成一三年二月二七日、上記アの損害に対する車両共済金一二二万三七七五円を支払ったことにより(甲二<乙事件>)、被告Y1の原告X1に対する上記アの損害賠償請求権を代位取得したと認められる。
三 以上によれば、(1)原告X1の請求は、被告Y1及び同Y2に対し連帯して五三八万六一七三円及びうち五一二万七八六一円(確定遅延損害金二五万八三一二円を控除した残額)に対する平成一二年一〇月二九日(本件事故の日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、(2)原告X2の請求は、被告Y2に対し七六万七二一八円及びこれに対する平成一二年一〇月二九日(本件事故の日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、(3)被告農協連合会の請求は、原告X1に対し二九万二一九三円及びこれに対する平成一三年二月二八日(共済金支払日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 冨上智子)