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大阪地方裁判所 平成15年(ワ)3753号 判決 2003年10月09日

主文

1  被告は、原告に対し、134万4556円及びこれに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

被告は、原告に対し、164万4556円及びうち134万4556円に対する平成14年10月11日から、うち30万円に対する平成15年4月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

1  本件は、消費者金融業者である被告から金員を借り受けた原告が、<1>利息制限法所定の利率を超えて貸金債務を弁済したため、同法に従って引き直し計算をすると過払金が生じたと主張し、不当利得返還請求権に基づき、過払金134万4556円及びこれに対する悪意の受益者として最終弁済日の翌日である平成14年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息金の支払を求めるとともに、<2>訴訟提起前に原告が過去の全取引履歴を開示するよう要請したにもかかわらず、被告がこれを開示しなかったため、原告の債務整理が遅延したとして、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、慰謝料30万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  争いがない事実及び証拠により容易に認められる事実

(1)  被告は、金銭の貸付業務等を目的とする株式会社である。

(2)  原告は、被告から、別紙「利息制限法による計算書」の「年月日」欄記載の年月日に、「借入金額」欄記載の金員を借り受け、「返済金額」欄記載の金員を返済した。

(3)  被告の貸付は、利息制限法所定の利率を超過するものであり、同法所定の利率である年1割8分で引き直し計算をすると、過払金が発生し、これは、原告の損失により被告が法律上の原因なくして利得したものであるから、原告は、被告に対し、不当利得に基づく過払金返還請求権を有する(ただし、金額に争いがある。)。

(4)  原告は、原告代理人に債務整理を依頼し、原告代理人は、平成14年11月1日付け通知書(甲1。同月5日到達)で代理人となる旨の通知を行うとともに、過去の全取引履歴の開示を要請し、さらに、平成15年2月12日付け書面(甲2)及び同年3月13日付け取引履歴開示請求書(甲3)により全取引履歴開示を求めたが、被告は、これに応じなかった。

(5)  被告は、本件訴訟において、原告との全取引履歴の開示をした。

3  争点及び当事者の主張

(1)  悪意の受益者となる時期及び過私金額

(原告の主張)

ア 被告は、貸金業者であり、利息制限法違反について悪意であるから、過払金発生の日から、悪意の受益者として利息を支払う義務がある。

イ 利息制限法所定の利率である年1割8分で本件貸金債務を引き直し計算すると、過払金額(平成14年10月10日現在)は、別紙「利息制限法による計算書」記載のとおり134万4556円となる。

(被告の主張)

ア 不当利得返還請求における「悪意の受益者」とは、法律上の原因がないことを現実に知る者のことをいい、善意有過失者を含まず、これを本件のような過払金返還請求の場合に当てはめれば、制限超過利息・損害金が元本に充当し尽くされ完済となったことを知りながら、さらに利息等の金員を受領した者ということになる。

被告は、貸金業者として多数の貸付業務を行っており、それら各取引は、約定利息を前提にした計算により管理され、利息制限法所定の利息による計算を行っていないので、制限超過利息・損害金が元本に充当し尽くされ、完済となったことを知ることはない。あえていえば、制限超過利息・損害金が元本に充当し尽くされ完済となったことについては、個々の顧客からの過払金返還請求等を契機として、引き直し計算を実施した時点で事後的に悪意になるにすぎない。

したがって、本件においては、悪意の受益者となる時期は、原告が主張する最終弁済日の翌日である平成14年10月11日の時点ではなく、原告からの請求時以降とされるべきである。

イ 原告の充当計算は、過払金発生時から悪意の受益者として過払金に対する利息年5分を考慮し、その後の原告による借入額につき同利息分を充当計算するもののようであるが、少なくとも最終弁済日の翌日である平成14年10月11日の時点までは被告は悪意の受益者ではなく、原告主張の利息の発生、充当計算は失当である。

したがって、仮に過払金返還請求を認めるとしても、その金額(平成14年10月10日現在)は、別紙利息制限法換算表記載のとおり110万9785円である。

(2)  原告の全取引履歴開示請求に被告が応じなかったことが不法行為になるか。その場合の損害額。

(原告の主張)

ア(ア) 原告は、被告に対し、一貫して取引履歴の開示を求めたが、被告はこれに応じなかった。

原告は、被告の取引履歴不開示により、負債総額を把握することができず、債務整理は著しく遅延しいつまでも不安定な立場に置かれたままになり、また訴訟の結果の目途もつかず訴訟を提起すべきか否かの判断も困難な状況下で、結局本件訴訟提起を余儀なくされた。

(イ) 原告のような多重債務者について債務を整理して経済的更正を図ることは、本人自身の利益にかなうのはもちろん、経済的困窮から起こる犯罪、家庭崩壊を防止し、公共の安寧を維持するという観点からも必要不可欠である。この意味で、弁護士による債務整理は、単なる私益の問題ではなく、公共の利益を図るものである。弁護士が任意に債務を整理しようとする場合、すべての債権債務を確定し、公平平等な処理を図る必要があるにもかかわらず、多重債務に陥り、債務を整理しようとするころには、債務者は弁済等に関する資料のすべてを保管しておらず、各金融業者との取引履歴の詳細を明確に把握するのは困難であることが多いのが現実である。このような状況にあるときに、金融業者が過払金の返還を免れる等の不法な目的のために、弁護士の手で公共の立場に立って行われる債務整理に協力せず、取引履歴の開示を拒むのは、自己の営業利益は不当な手段によってでもこれを追求する一方、自己の営業の結果として生じる国民全体の不利益はこれを無視しようとする反社会的な行為であり、特段の事情のない限り、社会的相当性を欠いた違法な行為というべきである。

また、契約関係を支配する信義誠実の原則に照らし、少なくとも多重債務に陥る等、債務整理の必要に迫られた債務者が、弁護士を通じるなどして、貸金業者に対し残債務又は過払金の有無・金額を明確にするため全取引履歴の開示を求めた時には、貸金業者はこれを拒絶する合理的な理由がある場合でない限り、これに応じる義務があり、これに反して全取引履歴の開示を拒否した場合には不法行為が成立するというべきである。

(ウ) 取引履歴開示義務を負う被告が、その義務に違反し取引履歴を開示しなかったことにより、原告の債務整理は著しく遅延し、原告は、精神的に不安定な地位に置かれたものであり、その精神的損害としては30万円が相当である。

(被告の主張)

(ア) 被告は、原告代理人弁護士からの連絡に対し、みなし弁済の適用の考慮の打診を含めた和解の申し入れをしたが、原告代理人は、あくまで取引履歴開示を求あるとの態度に終始し、結局、本件訴訟提起に至った。

原告と被告間のやり取りにおいては、当初より過払金返還請求を前提とした取引履歴開示だけが話題にされ、原告が進めている「任意整理(債務整理)」についての負債状況、進行状況、取引履歴不開示による原告の債務整理手続への具体的影響等の個別事情は被告に一切明らかにされていない。

原告は、上記個別事情を明らかにすることなく、取引履歴不開示の結果のみを捉えていわゆる「形式犯」的に違法行為、不法行為が成立すると主張するが、原告に生じた損害の具体的な特定、取引履歴不開示との因果関係も特定されていない。

本件では、被告は、当初より過払金額についての和解を申し入れており、原告の債務を請求することはしない前提での交渉が続けられたものであり、原告の主張は本件の個別事情にそぐわない。

(イ) 原告の損害の主張は争う。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)について

ア  被告は、貸金業者であり、利息制限法及び利息に関する法規制を熟知しているものと解されること、利息制限法所定の利息を超過した約定による貸付をした場合、超過部分の利息の約定が原則として無効であり、また、債務者が利息制限法所定の制限を超えた利息・遅延損害金を元本とともに支払った場合に、利息制限法に従い元本充当をし、なお残額がある場合は、過払金として不当利得返還義務があることを認識していること(弁論の全趣旨)からすれば、「悪意の受益者」となるのは、被告の主張のように個々の債務者の請求に応じて貸金業者が現実に利息制限法所定の利息で引き直し計算をした時点ではなく、原告が主張するとおり、過払金が発生した時点と解するのが相当である。

イ  そして、原告の過払金額は、原告の計算どおり、134万4556円と認めることができる。

2  争点(2)について

(1)  前記争いのない事実に加えて、証拠(甲1ないし3、乙3)、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告は、平成14年10月、原告から任意整理(債務整理)を委任された。その時点で、原告の債権者は、2社(被告及びレイク)であった。

イ 原告代理人(A弁護士)は、被告に対し、平成14年11月1日付け通知書で、原告から債務整理を受任した旨を通知するとともに、原告の負債状況を早急に把握するため、過去の全取引履歴の開示を求め(全明細が整わないと返済の計画案ができず、返済案の提示が遅れる旨付記していた。)、同書面は同月5日に被告に到達した。しかし、被告からは、何らの提示はなかった。

ウ 原告代理人は、事務所事務員をして、被告に対し、同月25日、電話で債権届を至急に提出するよう連絡をし、被告担当者は、和解前提での話し合いを申し出たが、原告代理人事務所事務員は、取引履歴開示で対応する旨返事をした。

エ 原告代理人は、事務所事務員をして、被告に対し、同年12月10日及び平成15年1月10日、電話で同様の連絡をし、被告からは和解で解決を願う旨の申出があったが、あくまで取引履歴開示を求める旨のやり取りがなされた。

オ 被告担当者は、同年1月25日及び同年2月14日、原告代理人事務所に電話したが、いずれも代理人不在のため、連絡いただきたい旨伝言を依頼するにとどまった。

カ その後、原告代理人は、被告に対し、同年2月12日付け書面(甲2)及び同年3月13日付け書面(甲3)により、被告からは、取引履歴開示がないこと、これがないと残額の確定ができないばかりか、相互の話し合いもできないこと等を記載して、取引履歴開示を求めたが、被告は、開示しなかった。

キ 同年2月28日、原告代理人事務所事務員から、取引履歴開示を求める旨の電話連絡があり、被告は、再度和解の話をしたが、早急に履歴開示してほしいと同様のやりとりがされた。

ク 被告は、原告代理人からの3月13日付け書面で、B元弁護士(以下「B弁護士」という。)も代理人になり、今後はB弁護士が担当する旨、取引履歴開示がないが、同月20日までに開示するよう要求する旨の連絡を受け、同月14日、被告担当者からB弁護士に電話して和解を申し出たが、B弁護士は、取引履歴開示以外には取り合わない、早急に開示を求めるとの態度で、これを断った。

ケ 被告は、同月27日、ATM画面の写真コピー等資料を同封して、みなし弁済の考慮の打診を含めた和解の申し入れを内容とする書面を原告代理人B弁護士あてに発送した(これが到達したかどうかは証拠上不明である。)が、B弁護士は、同年4月4日の電話で、あくまで取引履歴開示を求める、被告主張の書面は届いていない、再度郵送するか、ファックスで送信するように申し入れたが、これに対しては、被告担当者は、みなし弁済の規定の適用を主張する、和解交渉させていただくが取引履歴開示はできない旨答え、書面の郵送等については、既に郵送したと言って再送付を拒否したので、B弁護士も徹底的に裁判で争う旨答えた。

コ 原告代理人と被告担当者の間では、同月15日、16日の各電話連絡で、同様のやりとりがあったが、原告は、同月18日、本件訴訟を提起した。

サ 本件訴訟提起前の原告と被告間のやり取りにおいては、原告は、当初から取引履歴開示だけを話題にし、原告が進めていると主張している債務整理についての負債状況、進行状況、取引履歴不開示による原告の債務整理手続への具体的影響等の個別事情は一切明らかにしなかった。

シ 原告は、レイクからは、平成15年4月24日、全取引履歴開示を受け、年1割8分の利率で引き直し計算をすると、原告の計算上、約31万円の過払となった。しかし、レイクとの話し合いはまとまらず、同年5月9日、大阪簡易裁判所に過払金返還訴訟を提起し、レイクからは、みなし弁済の主張がなされて係属中である(弁論の全趣旨)。

(2)  取引履歴不開示の違法性、損害

ア 原告の損害賠償請求は、被告が取引履歴開示義務を負うことを前提とするものであるから、まず同義務の存否について検討する。

この点、貸金業の規制等に関する法律、その他の法令上、貸金業者の取引履歴開示義務を定めた明文規定はないから、貸金業者が債務者からの取引履歴開示請求を受けた場合において、貸金業者に常にこれに応じなけばならないといった一般的な法的義務があるものと解することはできない。

しかしながら、債務者の取引履歴開示請求の態様、その際の債務者の置かれた客観的状況、貸金業者の対応等諸般の事情によっては、貸金業者の取引経過に関する情報の不開示が、信義則に著しく反し、社会通念上容認できないものとして、違法と評価される場合もあり得るものというべきである。

そこで、本件について、以下検討する。

イ(ア) 原告は、被告に対し、一貫して取引履歴開示を求めてきたが、被告は、本件訴訟提起前はこれに全く応じなかったものである。

被告は、訴訟提起前の取引履歴開示につき、基本的には(例外はあるが、まれというべきである[乙3、弁論の全趣旨]。)、これを拒否する姿勢を採っていることがうかがえる(甲37、40ないし43、弁論の全趣旨)。

そして、本件では、取引期間が10年に及んでおり、被告において、取引履歴開示に応じるためには、全社レベルでのコンピューター照会、報告受理の手続を経なければならない事情があったことがうかがわれる(弁論の全趣旨)が、これを考慮しても、被告に取引履歴開示に応じない合理的な理由があったとはいえない(しかし、合理的な理由なく開示に応じなかったことが直ちに不法行為として違法になると解することは、一般的な開示義務を課するのと変わらないことになるから、相当ではない。)。

(イ) 取引履歴開示の持つ意味について検討するに、債務者としては、正確な取引履歴が分からないと、利息制限法所定の制限利率により引き直し計算をすることができず、債務が残っているか、それとも過払金があるか、過払金がある場合でもその額等について、判断が付かない状況にあり、逆にいえば、仮に取引履歴開示があれば、債務者は、上記引き直し計算をすることにより、数的根拠に基づき、残債務があれば、その弁済等の交渉を、過払金があれば、その返還交渉をすることができることになるから、一般的には、取引履歴の開示を受ける必要性は大きいといえる。しかも、正確な取引履歴は、被告が開示しない限り、債務者にとって分からないことが多く(とりわけ、本件のように取引期間が長期に及んでいる場合はそうである。)、債務者が債権者から交付された契約書、領収書等を所持していないことを非難することも必ずしも相当ではない。

(ウ) しかしながら、本件においては、原告の借入先は被告及びレイクの2社であり、残債務が残っているというよりは、過払金があるとの見通しが強かったと考えられる(弁論の全趣旨)。現に、取引履歴開示がないため、正確とはいえないものの、原告側の資料に基づいて本件訴訟を提起した際の訴状添付の利息制限法による計算書においても、原告は、平成4年4月には、既に過払金が生じているとの計算をしており、少なくとも提訴時点では残債務があるとの認識よりはむしろ、過払金があるとの認識であったと推察される。

そして、このことは、レイクについても、同様であったものと考えられる(弁論の全趣旨)。

そうすると、原告代理人の主たる目的は、債務残額があることを前提とした債務者間の平等弁済等を内容とする債務整理ではなく、過払金返還請求であったと思われる。そして、上記内容の債務整理の場合に比較して、過払金返還請求を目的とする場合には、取引履歴開示義務を認める必要性は後退するものと思われる。

(エ) さらに、本件では、原告代理人は、被告に対し、本件訴訟提起前には、原告が進めていると称する債務整理について、債権者数、債務者の負債状況、債務整理の方針、進行状況、取引履歴不開示による原告の債務整理手続への具体的影響等の個別事情は一切明らかにしておらず、そのような意図があったとも思えない。

かえって、原告代理人は、被告からの過払金の支払についての和解による解決の申出に対して、具体的な和解案の提案を求めたり、被告と和解交渉をする意思を一切示すことなく、まず取引履歴開示ありきとの態度に終始しており、被告が取引履歴開示をしない態度自体を問題視していたものである(原告代理人のこのような態度は、被告の取引履歴開示をしない方針そのものを変更させようとする消費者運動としての意味があることは理解できるが、これが、個別事案において、原告個人の利益になっているかは疑問の余地がある。)。

(オ) そうすると、本件においては、被告に取引履歴開示に応じない合理的な理由があったとはいえず、本件訴訟提起前から、被告が取引履歴開示に応じることが望ましかったというべきであるが、これに応じなかった被告の行為をもって、信義則に著しく反するとか、社会通念上容認できないものとして、違法と評価される場合に当たるとまではいい切れないというべきである。

ウ(ア) 原告は、被告が取引履歴を開示しなかったことにより、原告の債務整理は著しく遅延し、精神的に不安定な地位に置かれた旨主張する。

(イ) しかしながら、原告の借入先は被告及びレイクの2社のみであり、いずれも過払金があることが見込まれる状況であったことは前記認定のとおりであるから、いわゆる多重債務における債務総額を確定し、債権者に按分弁済するというような意味での債務整理は見込まれていなかったものと推測される(原告は、取引履歴不開示により、債務整理が著しく遅延した旨主張するが、むしろ、過払金が早急に入手できなかったことが本件の実態と思われる。)。

しかも、本件では、原告が取引履歴開示ありきの態度に終始し、被告からの和解による解決の提案についても、その交渉の席につこうともしなかったのであるから、解決が遅れた原因が一方的に被告にあるとするのも相当ではない。

また、他方で、被告においても、和解案の具体的内容を示そうともしていないことからすれば、仮に被告が遅滞なく取引履歴の開示に応じていたとしても、本件訴訟提起前の段階で原告からの過払金返還請求に応じていた可能性は低く、いずれにしても、原告が過払金返還請求訴訟を提起せざるを得なかった可能性が高い。

したがって、本件訴訟提起自体が被告の取引履歴不開示の遅滞による因果関係がある損害と認めることはできない。

(ウ) また、原告は、債務整理が遅れて不安が続いたと主張するが、その不安の意味する具体的内容が明らかでないのみならず、このような原告の精神的負担は消費貸借という取引行為に起因するものであるから、基本的には、過払金返還請求(遅延損害金を含む。)の解決により損害が填補される関係に立つものというべきであり、それを超えた特別の精神的損害が発生するような事情は見当たらない。

しかも、レイクも結局は過払金返還請求訴訟提起に至っていることからすれば、被告が取引履歴開示をしたからといって、原告が主張する債務整理の解決が速やかにできる見通しがあったとはいえない。

(エ) そうすると、被告が取引履歴開示をしなかったことにより、原告が具体的に損害を被ったものと認めることもできない。

第4  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、不当利得返還請求権に基づく請求については理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法61条、64条を、仮執行宣言については同法259条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(別紙省略)

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