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大阪地方裁判所 平成15年(ワ)7870号 判決 2005年3月30日

主文

1  原告らが,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は,原告らに対し,それぞれ,平成15年7月から本判決確定まで,毎月25日限り,別紙1の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告らに対し,それぞれ,平成15年12月から本判決確定まで,毎年6月10日及び12月10日限り,別紙2の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用中,原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の各10分の7をいずれも被告の負担とし,原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の各10分の3をいずれも原告らの負担とする。

6  この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文第1項同旨

2  被告は,原告らに対し,それぞれ,次の各金員を支払え。

(1)  平成15年7月から本判決確定まで,毎月25日限り,別紙1の「請求額(主位的主張額)」欄記載の各金員

(2)  平成15年7月から本判決確定まで,毎年6月10日及び12月10日限り,別紙2の「請求額」欄記載の各金員

(3)  前記(1)及び(2)に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員

3  被告は,原告らに対し,それぞれ,100万円及びこれに対する平成15年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告ネスレコンフェクショナリー株式会社(以下「被告会社」という。)に雇用され,菓子類の販売促進業務に従事してきた原告らが,被告会社がした解雇又はその後の雇用契約の雇止めは解雇権濫用の法理の適用又は類推適用により無効であるとして,被告会社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇以降(平成15年7月以降)の賃金(毎月の賃金及び特別手当)及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率による遅延損害金の支払を求めるとともに,前記解雇又は雇止めが不法行為に当たるとして,慰謝料及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  争いのない事実等

(1)  当事者

ア 被告会社は,チョコレート,キャンディー等の製造,輸入,輸出,販売等を業とする株式会社である。

被告会社は,神戸市αに本店を,全国に7支店及び5営業所を有している。

被告会社は,平成13年3月16日,スイスに本拠地を置くネスレ社の日本法人であるネスレジャパンホールディング株式会社(以下「ネスレジャパン」という。)が全額出資して設立した会社であり,同じくネスレジャパンのいわゆる子会社であったネスレマッキントッシュ株式会社(以下「ネスレマッキントッシュ」という。)の事業を承継する目的で設立されたものである(甲54)。

被告会社を含むネスレジャパングループの連結総売上高は,平成12年2936億円,平成13年3025億円,平成14年2959億円,税引き後の純利益は,平成12年171億円,平成13年174億円,平成14年149億円であった(甲54)。

イ 原告P1,原告P2,原告P3及び原告P4は,以下のとおり,ネスレマッキントッシュと雇用契約を締結するとともに,同契約を更新した。

被告会社は,平成13年4月1日以降,ネスレマッキントッシュの契約上の地位を承継し,以下のとおり,原告P5と雇用契約を締結するとともに,原告らと契約を更新した(以下,原告らとネスレマッキントッシュないし被告会社との各雇用契約を「本件各契約」という。更新回数については弁論の全趣旨)。

(ア) 原告P1

a 入社年月日 平成7年9月1日

b 更新回数 7回

c 最終の更新による契約期間

平成14年9月1日から平成15年8月31日まで

(イ) 原告P2

a 入社年月日 平成4年2月1日

b 更新回数 11回

c 最終の更新による契約期間

平成15年2月1日から平成16年1月31日まで

(ウ) 原告P3

a 入社年月日 平成4年4月21日

b 更新回数 11回

c 最終の更新による契約期間

平成15年4月1日から平成16年3月31日まで

(エ) 原告P4

a 入社年月日 平成12年7月1日

b 更新回数 3回

c 最終の更新による契約期間

平成15年1月1日から同年12月31日まで

(オ) 原告P5

a 入社年月日 平成14年9月9日

b 更新回数 1回

c 最終の更新による契約期間

平成15年3月1日から平成16年2月29日まで

(2)  本件各契約の内容(甲1,3,4,6,7,68ないし72,弁論の全趣旨)

ア 業務内容

原告らは,いずれも被告会社関西支店(以下「関西支店」という。)に配属され,被告会社が販売するキットカット等の菓子類をスーパーマーケット等の店舗で販売促進する業務(以下「MD業務」といい,MD業務担当者を「MD」という。)を担当していた(ただし,本件各契約上,原告らの担当業務がMD業務に限定されていたか否かについては,争いがある。)。

原告らは,担当する複数の店舗に自宅から直行,直帰し,関西支店に対し,コンピューターの端末を通じ,店舗への入退店時間,商品の配荷,受注状況,走行距離等のデータを送信し,月1回営業会議の際に出社していた。

なお,本件各契約の契約書(以下「本件各契約書」という。)には,原告らが従事する業務がMD業務であることの記載のほか,被告会社が,業務の都合により,業務及び職種の変更を命じることがある旨の記載があった。

イ 賃金等

(ア) 原告らの賃金は,時給により定められており,原告らの時給額は,以下のとおりであった。

なお,1日の実労働時間が8時間を超えた場合は,8時間を超えた時間については,1時間当たり各時給額に1.25を乗じた額を支払うこととされていた。

a 原告P1

採用時    1000円

最終の更新後 1120円

b 原告P2

採用時    1000円

最終の更新後 1270円

c 原告P3

採用時    1000円

最終の更新後 1250円

d 原告P4

採用時    1000円

最終の更新後 1035円

e 原告P5

採用時     950円

最終の更新後  980円

そして,被告会社は,毎月25日,原告らに対し,各人の時給に同月1日から末日までの所定労働時間を乗じた金額を支払い,実働時間との過不足がある場合は,翌月25日に精算することとされていた。

(イ) 自動車の借り上げ代及びガソリン代

被告会社は,それぞれの最終の更新後,原告らに対し,業務上,普通乗用自動車を使用する場合は,月額3万5000円及び燃料費として1キロメートル当たり15円,軽自動車の場合は,月額3万円及び燃料費1キロメートル当たり12円を支給することとなっていた。

後記解雇当時,原告P1,原告P2及び原告P3は,業務遂行の際普通乗用自動車を使用し,原告P4及び原告P5は,軽自動車を使用していた。

(ウ) ファクシミリ代及び携帯電話代

被告会社は,原告らに対し,一月当たり,ファクシミリ代5000円,携帯電話代3000円を支払うこととされていた。

(エ) なお,本件各契約書には,6月及び12月に特別手当をその都度決定し,支給するとの記載があり,その支給日は,6月10日,12月10日であった(ただし,被告会社が,原告らに対し,本件請求に係る特別手当を支給する義務があるか否か及びその額については,争いがある。)。

ウ 労働時間

平成14年及び平成15年の原告らの年間所定勤務日数は242日であり,最終の更新後の1日の勤務時間は7時間であった。

エ 勤務場所

原告らの勤務場所は,以下のとおり,関西支店管轄内の市町村等と特定されていたが,本件各契約書には,被告会社が,業務上の理由により,勤務場所の変更を命ずることができる旨の記載があった。

(ア) 原告P1 東大阪市,大阪市,八尾市,河内長野市

(イ) 原告P2 大阪府堺・泉南地区及びその近郊

(ウ) 原告P3 宝塚,伊丹,西宮,尼崎,神戸地区

(エ) 原告P4 吹田,摂津,茨木,高槻ほか周辺地区

(オ) 原告P5 寝屋川市,枚方市,交野市,門真市,八幡市及びその周辺地域

オ 契約期間

1年(ただし,原告P3,原告P4及び原告P5の一部の契約には,1年未満の期間のものがある。)

本件各契約書の第1項には,原告ら又は被告会社の都合により,契約期間内においても解約することができるとの条項(以下「本件解約条項」という。)が設けられていた。

カ 有給休暇 10日

なお,原告P2及び原告P3については,直近の契約においては,上記有給休暇のほかに,少なくとも特別休暇が1日認められていた。

(3)  被告会社によるMD業務の外部委託

被告会社は,株式会社エーエスピー(以下「ASP」という。)にMD業務を外部委託することを決定したが,全国の支店及び営業所について外部委託を実施する前に,関西支店が管轄するエリアにおいて外部委託を先行させることとした。被告会社はASPとの間で業務委託契約を締結し,ASPは平成15年7月1日から関西支店が管轄するエリアにおいて業務を開始した(以下,この業務委託を「本件業務委託」という。)。

(4)  被告会社による解雇

被告会社は,原告らに対し,平成15年5月28日に開催した説明会(以下「本件解雇時の説明会」という。)において,同年6月30日をもって解雇するとの意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

なお,同説明会に同席したASPの従業員は,原告らに対し,同年7月1日からASPとの間でMD業務を業務内容とする業務委託契約の締結の申込みをした。

(5)  団体交渉

原告らは,平成15年6月2日,全国一般労働組合大阪府本部キットカット分会(以下「分会」という。)を結成し,被告会社に対して団体交渉を申し入れたところ,被告会社は,同月20日,団体交渉を同月27日に開催するとの回答をした。

(6)  被告会社による雇止め

被告会社は,平成15年6月23日付けで,原告らに対し,予備的にそれぞれの雇用期間満了日において本件各契約の更新をしない旨通知した(以下「本件雇止め」という。)。

(7)  就業規則

被告会社の就業規則(以下「就業規則」という。)においては,以下の規定(関係部分のみ抜粋)がある(乙13)。

第3条(従業員の種類)従業員の種類は次のとおりとする。

1)正規従業員 2)臨時従業員 3)パートタイマー

第4条(適用範囲)

この規則は,前条に定める従業員に適用する。

ただし,次の各号に該当する者には次の各条を適用しない。

(略)

2) 前条第2号に定める臨時従業員

第16条(試用),第21条ないし第26条(休職及び復職),第30条(定年),第63条・第64条(年次有給休暇,出勤率と勤続年数に応じ,出勤率が8割を超える従業員は入社後6か月経過後は10日ないし20日の前記休暇が与えられる。),第65条(慶弔休暇),第72条(賃金及び賞与),第73条(退職金),第74条(福利厚生),第80条(昇給停止)

3) 前条第3号に定めるパートタイマー

前号に規定するもののほか第52条(勤務時間)

第18条(異動)

1  被告会社は,業務上の必要に応じ,従業員に対し,身分の変更,役職及び資格の変更,配置転換,職種の変更,転勤,長期出張,駐在もしくは出向,派遣を命ずることがある。

2  従業員は,前項の命令を拒んではならない。

(略)

第28条(退職事由)

従業員が次の各号の一に該当する場合は退職とする。

(略)

4) 期間の定めがある雇用が満了したとき

(略)

第31条(解雇事由)

1  次の各号の一に該当する場合は30日前に予告するか,又は平均賃金の30日分以上を支給して解雇する。

(略)

7) 経営不振,業務の整理縮小,その他やむを得ない事由により冗員となったとき

(略)

9) その他,前各号に準ずる程度の事由あるとき

(略)

2  争点

(1)  本件解雇が無効であるか否か。

ア 本件解約条項は法的規範性を欠くか否か。

イ 本件解約条項が民法628条に反し無効であるか否か。

ウ 本件解約条項は就業規則に違反し無効であるか否か。

エ 本件解雇に解雇権濫用の法理が適用されるか。また,本件解雇が解雇権の濫用に当たるか否か。

(2)  本件雇止めが無効であるか否か。

ア 本件雇止めに解雇権濫用の法理が類推適用されるか。

イ 本件雇止めが権利の濫用に当たるか。

(3)  毎月の賃金額並びに特別手当の支払義務の存否及びその内容

(4)  本件解雇又は本件雇止め(以下,これらを併せて「本件解雇等」という。)の違法性,故意・過失及び損害の有無並びに損害額

3  争点に関する当事者の主張

(1)  本件解雇が無効であるか否か(争点(1))。

ア 本件解約条項は法的規範性を欠くか否か(争点(1)ア)。

(原告らの主張)

(ア) 本件解約条項によれば,およそ期間の定めの意味がなくなり,概念矛盾といわざるを得ない。しかも,労働者としては,賃金,労働時間,休日等の基本的労働条件に関心を持つばかりでなく,契約期間が明示されているならば,少なくとも,その期間中は,解雇されずに雇用が保障されるものであるとの認識であり,使用者も,その期間中は労働力としてあてにできるという認識である。原告らと被告会社間においても,原告ら入社後,関西支店において被告会社による期間途中の解約の事例は一度もない。

(イ) 平成13年から平成14年にかけて,被告会社従業員6人が期間途中で退職していることについては,労働者から退職の意思表示をし,使用者がこれを承諾したにすぎない。平成12年12月ころに被告会社中部支店エリアで,会社都合によりMD4人がいわゆる派遣社員になったということがあったとしても,それは,被告会社が従業員に対し,いったん退職して雇用形態を変更するよう申し入れ,従業員がこれを承諾したもので,双方の合意に基づいて,従業員の地位が変動したにすぎない。

したがって,いずれも,労働者の意思に反して行われた本件解雇とは事案が異なる。

(ウ) したがって,本件解約条項は,およそ当事者間においては,規範性を持たない。

(被告会社の主張)

(ア) 本件各契約においては,本件解約条項は,いずれも契約書第1項に明記されており,被告会社においては,本件各契約と同様の約定契約権の行使により,平成12年12月以降,MDについて,被告会社からの解約により5名,MDからの解約により6名,営業職従業員について被告会社からの解約により2名の各雇用契約が終了し,いずれからの解約の場合にも,民法628条ただし書の損害賠償が請求された例はない。

(イ) したがって,本件解約条項が,単なる例文にとどまらない規範性を有していたことは明らかである。

イ 本件解約条項が民法628条に反し無効であるか否か(争点(1)イ)。

(原告らの主張)

(ア) 労働契約においては,一般に,使用者が優越的地位に立って,労働条件を一方的に決定し,その後の労働契約の展開過程においても労働者が従属的な地位にとどめられることから,労働契約の締結ないしその後の展開過程における労働者保護の規定は,強行法規であると解すべきである。そして,民法628条は,契約当事者の期間に利益(特に弱者である労働者側に対して期間中に解雇されないとの利益)を付与するものであるから,同条の「已ムコトヲ得サル事由」がなければ解約することができないという基準は,強行法規たる性質を有し,この規定に抵触する特約は無効となるというべきである。

そして,民法628条にいう「已ムコトヲ得サル事由」とは,期間満了まで雇用を継続することが不当ないし不公平と認められるほどの重大な事由をいうと解すべきである。

(イ) また,被告会社が想定していた期間中に解雇しなければならない事情は,MD業務が必要なくなるといった事態であり,本件のようなMD業務の改善や強化目的による外注は想定されていなかったことからすると,本件各契約の意思解釈としても,本件解約条項について,原告のみならず被告会社も民法628条の拘束力を排除する意思はなかった。

(ウ) そうすると,本件解約条項の意思解釈としては,やむことを得ない事由が必要となると解すべきであり,それが不要と解釈される場合には,本件解約条項は民法628条に反し無効である。

そして,本件において,MD業務は被告会社の業務として重要で必要不可欠な業務であり,原告らがその業務を担ってきたものであるが,被告会社は,経営合理化のためMD業務を外注したにすぎず,原告らを期間途中で解雇しなければならないほどのやむを得ない事由があったとはいえないから,本件解雇は無効である。

(被告会社の主張)

(ア) 本件解約条項は,有期労働契約につき約定解除権を定めたものであり,法律による特別の制限がないかぎり有効である。

民法628条は,当事者が解約権の放棄をすることを人身の自由の観点から禁じたものであるが,当事者の自由な解約権について規定した同法627条の後に置かれていることやその文言上からして,当事者の合意による中途解約権の留保を禁ずる趣旨とは解釈し得ない。

(イ) 中途解約権を留保した場合でも解約に「已ムコトヲ得サル事由」が必要であると解すると,労働者からの解約においてもこのような事由が必要となり,また,「已ムコトヲ得サル事由」が認められる場合であっても労働者に過失があれば損害賠償義務を負うこととなるが,それは中途解約権を留保した労働者の意思に反し,労働者保護の見地からも問題である。

ウ 本件解約条項は就業規則に違反し無効であるか否か(争点(1)ウ)。

(原告らの主張)

(ア) 就業規則は,解雇事由を31条1項所定の事由に限定しており,同規定は,パートタイマーにも適用される。

したがって,本件解約条項は,就業規則で定める基準に達しない労働条件に当たるから,労働基準法93条により無効であるか,就業規則31条1項7号に当たり,かつ「已ムコトヲ得サル事由」がある場合に適用される限度で有効であると解すべきである。

(イ) 本件解雇は,外注化のための解雇であり,そもそも冗員は発生していないから,就業規則31条1項7号に当たらず,無効である。

(被告会社の主張)

(ア) 就業規則31条1項7号は,冗員となったときは解雇する旨規定したものであって,同号にいう「やむを得ない事由」とは,文言どおり,冗員を発生させ,解雇の必要性を生じさせる原因となる経営不振,業務縮小等の事由をいい,民法628条の「已ムコトヲ得サル事由」とは意義を異にする。

本件解約条項により適用が排除されている民法628条が就業規則の前記条項の解釈を左右する余地はない。

(イ) 本件業務委託は,合理化による職種消滅と他職種への配転不能ということができ,就業規則31条1項7号に該当する。

エ 本件解雇に解雇権濫用の法理が適用されるか。また,解雇権の濫用に当たるか否か(争点(1)エ)。

(原告らの主張)

(ア) 本件解雇に解雇権濫用の法理が適用されること

本件解約条項によれば,期間の定めは単なる目安にすぎないというほかなく,実態としては,期間の定めのない契約であると解すべきである。

また,原告らについては,後記(2)の原告らの主張アで述べるように,継続雇用に関する合理的期待が存する。

したがって,本件解雇には,解雇権濫用の法理が適用される。

(イ) 本件解雇が解雇権の濫用に当たること

本件解雇については,民法628条の法意に照らし,整理解雇の法理よりも厳格に判断されるべきであるが,仮にそうでないとしても,本件解雇が,被告会社の事情により,労働者の責めに帰すべからざる事由によって従業員たる地位を一方的に喪失させるものである以上,整理解雇の法理が適用されるというべきである。

被告会社の後記主張によれば,経営不振によって人員削減の必要性がある企業(いわば危機に瀕した経済的余力のない企業)は,整理解雇として4要件(要素)が厳格に要求され,逆に,経営不振ではなく,人員削滅の必要性もない企業(経営的な余力のある企業)の方が,前記要件(要素)を必要とされず,容易に解雇できるという奇妙な結果を招き,公正を欠くことになる。

非正規従業員については,有期雇用従業員の雇止めの効力の判断においては,正規従業員に比して緩やかな判断基準を用いても差し支えないとされているものの,正規従業員との違いは,その限度にどどまるのであって,解雇権濫用の法理が適用される以上,その枠組によって規制されることは当然である。

したがって,本件解雇は,以下のとおり,①経営上の必要性はなく,②解雇を回避する努力を尽くしておらず,③人選基準が合理的とはいえず,④説明や説得等労働者側との間で協議を尽くしたとはいえず,解雇権の濫用として無効である。

a 経営上の必要性がないこと

(a) 人員削減の必要性がないこと

被告会社の経営は,以下のとおり,順調であり,原告らが余剰になったとか,業績悪化による人員削減の必要性があるとはいえない。

ⅰ 被告会社を含めたネスレグループは,スイスに本拠地を,平成13年当時,世界84か国に営業拠点ないし工場を置き,従業員総数23万人,年間売上約6兆1000億円にのぼる世界有数の国際的な飲料,食品会社であり,被告会社が属するネスレジャパングループは,平成デフレ不況のもとでも約3000億円という巨額の売上高を誇っており,税引き後の当期純利益も150億円近くかそれを上回っている。

ⅱ 被告会社は,平成12年度において16億3100万円もの利益を上げており,売上高も前年比28.5パーセント増の220億円となるなど,平成11年から平成14年にかけて売上高,菓子本業の利益,営業利益も順調に伸びた。

なお,平成13年度のメーカー申告利益が減少したのは,会計基準変更により資産の時価評価を行ったこと及び退職給付会計基準変更時差異の償却額による特別損失を計上したためである。被告会社が同業者の中でもいち早く会計基準変更処理を行うことができたのは,特別損失を計上しても企業を維持することができるだけの企業体質があったからであり,経営基盤が強固であることが裏付けられている。被告会社は単に赤字であると主張するのみで,具体的な経理内容を明らかにしていない。

(b) シェア拡大は解雇の合理的理由とはならないこと

整理解雇の一要件(要素)である経営上の必要性・合理性とは,本来,客観的な人員削減の必要性であるが,本件解雇は経営不振ないし将来の経営不振のおそれを理由としない攻撃的,経営戦略的解雇であって,前記必要性があるとはいえない。

シェア拡大は,いかなる産業,業種,企業においても目標とするところであり,本件解雇の必要性を根拠づけるものとはならない。被告会社の主張によれば,経営者の主観的意思や願望によって解雇が自由にできることになってしまい,不当である。

仮に,本件解雇の必要性を根拠づける要素になるとしても,外注化による解雇の必要性の判断については,企業の目的に比して外注による解雇という手段・結果が均衡を失しないか,やむを得ない措置であったかが,慎重かつ厳格に問われなければならない。

被告会社においては,以下のとおり,原告らに後記ⅲで述べる経済的,精神的不利益を被らせてまで本件業務委託をする必要があったとはいえない。

ⅰ そもそも被告会社においては,以下のとおり,MD業務を外部に委託する必要性はない。

① 被告会社のシェア率は横ばいであり,全体を見ても各メーカーのシェア率は比較的固定されている。被告会社は,同業他社と比較して商品数が少なく,これ以上のシェア拡大のためには商品開発が必要であり,また,MDの活動以前に営業部門の強化が重要であり,MD業務を外注化してシェア拡大を達成できるものではない。

② 被告会社は,袋物(大きな袋に多数の菓子が包装されている商品)の販売に力を入れ,MDの活動も袋物にも力を注いできたし,袋物といっても,価格は数百円程度である上,かなりの値下げがされることが多くなっているため,ポケット物(ポケットに入る箱入りの商品)との価格差もかなり縮小しており,衝動買いの対象にもなり得るのであるから,一律に袋物がプル型(消費者への店頭を介しての購買促進)の商品に含まれないことを前提とする被告会社の主張に合理性はない。

また,プル型販売の比率が少ないのは,被告会社が同業他社と異なり,商品数が少なく,有力なポケット物商品もキットカットだけということによるものであり,MD業務の問題ではない。

さらに,プル型の販売比率が低いといっても,プッシュ型(問屋・小売店への売込み)の販売で利益が上がっていればよいのであり,袋物の販売自体も利益が継続して上がっている。

③ 被告会社においては,他社に比べてMDのみならず支店数が少ないなど,管理できていない店舗が無数に存在しており,その差が他社との売上高との差として出てくるのは当然である。

また,売上高は,営業本部やセールスの活動のみならず,取扱商品の種類,数,単価,ブランド力によって左右される。被告会社においては,ほぼキットカットだけについての活動となり,MD活動と売上げの効率が異なることも当然である。

以上によれば,菓子部門の売上高をMDの人数で割って比較することは意味がない。

④ 被告会社においては,ネッスルマッキントッシュの時代から,プル型の重要性が強調され,その理論が確立され,実践が目指されていた。そして,原告らMDを,主としてプル戦略を担うものと位置づけ,その業務の実践を積み重ねて店頭活動に対する知識や経験を蓄積し,MD業務についてのマニュアルを作成して活用するとともに,原告らMDに対し,研修を実施し,効果的,効率的なMD業務を行うための技能を確立させ,実績を上げてきた。また,MIS(情報端末)を導入し,原告らMDに対する指示や受けた報告又は店舗情報の管理を行うなど,的確なMD業務を行うために必要な情報管理を行ってきた。

被告会社はMD業務の問題点を具体的に主張していないし,MD業務の改善の必要性は全社に共通するものであるといいながら,関西支店以外では,従前どおりMDを直接雇用し,支障なく業務が行われている。

訪問店舗の選択等はMD業務を管轄する専任担当者(以下「MDSⅤ」という。)に対する指導や教育の問題であり,MDが会社本部の商談と別個に訪問することはセールス部門の怠慢を補うという意義があり,ビジネスチャンスが生まれ得るものでもある。

⑤ 仮に,被告会社のMD業務に改善すべき事項が存在したとしても,被告会社は既に改善すべき点を十分把握できていたのであるから,以下のような措置を行えば克服でき,MD業務を外注化する必要はなかった。

被告会社には,前記④のとおり,MD業務のマニュアル集やノウハウ集を作成し教育する人材がおり,研修体制も確立され,知識と経験豊富なべテランMDもいたのであるから,被告会社において,MDやMDSⅤの人材教育を行うことは可能であったし,MD業務の知識経験のある者を中途採用することや,MDやMDSⅤに対する教育・研修あるいはMDSⅤのみを外部委託することにより,MD業務の一層の改善強化が可能であったし,現にそれを行い,関西支店以外においては,MD業務の改善が進んでいる。

しかるに,被告会社で行った社内でのMD業務改善の努力は,以下のとおり,極めて不十分であったし,外注によるビジネスモデルの構築は,原告らの解雇という大きな不利益を伴うのであるから,外注によらない社内努力による改善に要する時間よりも早期に実現できることを検討し,確認した上で実施すべきところ,被告会社はこの点の検討を何ら行っていない。

a 被告会社がMD業務改善のために取り組んだ施策のうち,平成13年12月から名古屋地区で実施したネスレジャパンとのジョイントMDのテストは,名古屋地区のみで行われたものである上,内容もネスレジャパンのコーヒーを中心にMD活動を行うというものであったから,被告会社のMD業務の内容を改善するものではない。

b 平成12年9月以降のMDSⅤの設置についても,東京,大阪,名古屋に設置されただけで,かつ,人選や研修も十分ではなかった。

c インストアマーチャンダイジングマニュアルもそれまでのMDマニュアルとノウハウ集を分かりやすくまとめたものであり,その他の研修等もこれまであった取組にすぎない。

d 被告会社は,MDSⅤやMDに対する教育・研修のみの委託が企業秘密であることを理由にASPに断られ,他にも適切な委託先は見当たらなかったと主張するが,MD業務はMDとセールスとが連携して行うため,MD業務全体の委託を受ける場合でもASPのノウハウが知れることになるのであるから,ASPがこのような理由で断ったとは思われないし,被告会社は,労働組合との団体交渉においても,ASPに断られたという説明はしていない。また,被告会社において,委託先の具体的な検討及び努力を行った形跡もない。

⑥ MD業務を外注することにより,被告会社も本来社内で蓄積すべきものであることを認めているMD業務のノウハウを蓄積することができず,従来蓄積してきたノウハウも失いかねないばかりか,被告会社のセールスやMD業務の秘密やノウハウが流出し,業務の質も低下する。また,売上げが減少した場合には,被告会社の営業部門とMD業務の外注先のいずれに責任があるのか明確にすることができず,互いに責任を押し付け合い,それぞれの活動にプラスにならないなどの弊害が生じる。

⑦ 実際,本件業務委託後の実績をみると,直接雇用の場合と比較して年間一人当たり100万円(9名で900万円)の経費が増加しており,しかもディスプレイ設置台数は2,3割下回るなど改善・強化につながっているか甚だ疑問である。ディスプレイ設置店数は伸びているかのようにもみえるが,これは本社本部交渉によることも大きいのであって,これによって原告らとASPとの活動の優劣を比較することはできない。

逆に原告らの調査結果によれば,ディスプレイが傷んでいたり,商品の補充が十分でないなど,ASPの活動はMD業務としては不十分極まりないものといわざるを得ない。

⑧ 同業他社においても,減収減益ないし赤字となっている企業を含め,MDを直接雇用している。

ⅱ 対象を関西支店,外注先をASPとしたことにも,以下のとおり,合理的理由や必要性がない。

① 本件は,先に述べたとおり経営状況が順調である被告会社が原告らを解雇までして行う外注化であるから,他の店との比較とその選択の合理性が具体的な証拠によって裏付けられる必要がある。

しかし,被告会社が合理性を裏付けるものとして提出した証拠(乙17,18)は何ら基となるデータが明らかにされておらず信用性がないし,その数値については,取引先と被告会社営業本部との商談の内容や店舗間の距離や交通状況など物理的な条件によっても左右されるもので,関西支店のMD業務に問題があることを示すことにはならない。

② エリアがまとまっていることや抽象的な「有用なビジネスモデルの構築」ということは,MDを解雇してまで行う外注化の合理的理由とはならない。

③ ASPが他のメーカーのMD業務を請け負った実績があることについては,裏付けとなる証拠があるとはいえないし,そもそもこのことがASPを選んだ理由となっていることも疑わしい。

④ ASPに菓子業界のMD経験者が1名いることはさほど優位とはならないし,ASPが会社として菓子業界のMD業務を請け負ったことは不明であったというのであるから,そのような会社にノウハウがあるとはいえない。

⑤ 被告会社は,MD業務を一括請負の形でなく,教育研修,指導者の中途採用等によりMD業務の改善を図ることができたのであるから,一括請負をできることは選定の理由とはならない。

⑥ ASPが1業種1社しか請け負わないとしていることは,当然であって,選定の理由とはならない。

⑦ 関西支店が被告会社本社やASPの大阪支社と近いことは,高度情報化社会において選択の理由とはなり得ないし,ASPに対して行ったというテスト結果は,MD業務経験のない被告会社従業員と経験豊富なASPの担当者との比較であるし,関東と関西の状況も異なるのであって,ASPの優位性を示すことにはならない。

⑧ ASPへの委託をした後の結果も,MD一人当たり100万円近くもコストが増加しており,合理性がないことが裏付けられている。

なお,被告会社が作成した資料(乙10)は,その信用性があるとはいい難いが,この資料によっても,1店舗当たりのディスプレイ設置台数は減少しているし,ディスプレイ設置店数の伸びは本社本部交渉によるところも大きいのであって,MD業務の成果であるとはいえない。また,ディスプレイの傷みを放置しているなど業務内容も不十分である。

ⅲ 原告らは,本件解雇によりASPと契約する個人事業主となった場合,賞与のみならず自動車借り上げ代やガソリン代が支給されなくなるため年間60ないし80万円(約4分の1ないし3分の1)減収となるばかりか,同じ業務をより少ない年間労働日数及び1日の労働時間で行うよう求められ,労働密度が上がるのみならず,事実上サービス残業を行わざるを得なくなる。

また,被告会社とASP間の契約が3か月前までに通知することにより何らの補償なく終了できるとされており,その場合には原告らはASPから受託業務消滅を理由に契約解除されることを余儀なくされるという不安定な地位になるほか,社会保険等において労働者としての資格を失うという大きな不利益を負わされるばかりか,被告会社の従業員として働く誇りを失うという精神的不利益を受ける。

b 被告会社が解雇回避努力を尽くしていないこと

使用者には整理解雇回避努力義務が課せられており,整理解雇回避措置をとっていないならば,それだけで解雇は無効とされるべきである。

本件では,前記aのとおり,経営上の必要性の内容が曖昧で程度も薄弱であり,被告会社において時間的余裕があることからすると,解雇回避努力は高度のものが求められる。

本件業務委託を前提としても,被告会社は,以下のとおり,本件解雇を回避できたにもかかわらず,これらの措置を怠った。

(a) 被告会社においては,従業員を在籍したまま出向させれば,ASPのノウハウを利用しつつ,委託料を減額することができるし,原告らにとっても職種を転換したり転勤する必要性もなく,被告会社従業員としての身分や労働条件も確保されたまま従前の業務に従事することができる。また,ASPにおいても,人件費を負担することなく,ベテランMDである原告らに対して直接指揮命令を行い,その知識・経験を活用することができ,指揮系統も混乱することがない。このような手法はよく見受けられるものである。

そして,ASPは,原告らを採用することは了解しており,被告会社とASPとの力関係からしても原告らの在籍出向の提案を受け入れたことは確実である。

(b) 被告会社は,本件各契約及び就業規則上,配転や職種の変更を命ずることができ,原告らは,MD業務との関連性から,被告会社の営業のセールス部門の業務であれば十分にこなすことが可能であった。

なお,仮に職種や勤務地が限定されていたとしても,直ちに,配転や出向措置が不要であるということはできない。

(c) 被告会社が意図していたという関西支店におけるビジネスモデルの構築は,開始から1年以上経過した今でもいつになったらできるのかそのめどすらたたないのであるから,いきなり解雇せずに,原告らに対し,個別に時間をかけて説明ないし説得をし,同意をとる努力をすべきであった。

(d) 被告会社がしたASPに対する再就職の斡旋は,解雇を前提としたものであり,そもそも解雇回避努力には当たらないし,前記a(b)ⅲのとおり,生活援助努力としても評価し得るものではない。

c 人選の合理性

本件業務委託の対象を関西支店としたことには,前記a(b)ⅱのとおり,合理性を認めることができない。

d 本件解雇に至る手続の妥当性

使用者は,従業員に対し,解雇する場合にはその必要性と内容につき説明をし,誠意をもって協議する信義則上の義務を負う。

そして,本件では攻撃的,戦略的解雇であり,時間的な余裕が十分にあったのであるから,被告会社は,①業績が順調であるのに,MDを解雇しなければならない理由,②MDの改善すべき点,③MD業務を改善,強化するための手段としてASPに業務委託する理由,④MDを個人事業主とする理由,⑤MDとの雇用契約期間満了まで待てない理由,⑥関西支店のMDだけを解雇する理由について,原告らと十分に時間をかけて具体的な資料に基づき協議・説得して,被告会社を退職した上でASPに移行することの個別同意をとる努力をすべき義務があった。

しかし,被告会社は,平成15年5月28日,原告らに対し,MD業務を外注することと原告らを解雇することを告げただけで,具体的な説明と説得を行うことはなかった。

原告らは,労働組合を結成して団体交渉を求めたところ,被告会社は平成15年6月23日付けで予備的に雇止めの意思表示をした。

そして,同月27日及び同年7月4日の団体交渉においても,抽象的な結論を繰り返すだけで,MD業務強化の必要性を裏付ける具体的事情や資料に基づく説明はしなかった。

(被告会社の主張)

(ア) 本件解雇に解雇権濫用の法理が適用されないこと

本件各契約は,契約書の勤務場所及び従事業務の各記載のとおり,原告らの職種がMD,勤務場所が関西支店エリア内の原告らの自宅から直行直帰が可能なエリアに,それぞれ限定されているとともに,本件解約条項に基づく中途解約権を留保した有期雇用契約である。

そして,期間の定めのない雇用を前提とする正規従業員の場合は,被告会社の本社において,中長期の人員計画に基づき,大学卒を中心として,履歴書,筆記試験,集団面接,複数回の個別面接,学業成績等を総合的に勘案し,将来を見据えて採用しているのに対し,臨時社員であるMDの場合は,被告会社の支店において,人員を補充する必要が生じた場合に,その都度,基本的には履歴書の内容と面接に基づき,MD業務の適性のみを基準として採用している。

なお,本件各契約書上は,業務の都合で職種の変更等を命ずることがあるとされていたが,労働契約は,継続的契約関係であり,その内容は慣行によって形成されるところが相当に大きく,労働者の職種の内容及びその変更が可能であるか否かは,就業規則や労働契約の規定に加えて,当該企業ないし事業所における当該職務,地位等にある労働者に対する実際の扱いをも考慮して判断すべきである。本件では,原告らは,自宅を基点として自動車で巡回できる近隣のスーパーマーケット等においてMD業務を行っており,関西支店の事務所に来ることは基本的にはなく,関西支店には机もロッカーもなかった。月1回のマーチャンダイザー会議(以下「MD会議」という。)も,外部の会議室を借りて行うことがほとんどであった。したがって,原告らの職種や勤務地を変更することは非現実的であり,原告らMDも同様に認識しており,実際,他の業務に従事させたことはなかったのであるから,そのような当事者の意思と実態(慣行)に照らせば,本件各契約において職種及び勤務地限定の合意は認めることができる。

そのような有期雇用労働者(非正規従業員)である原告らは,長期雇用を予定されていないために,たとえ契約が反復更新された後であっても,契約の性質上期間の定めがなく定年年齢に達するまで長期雇用されることを予定された正規従業員よりも劣後した地位にあることは明らかである。

特に,本件各契約のように当事者双方が自己都合による解約権を留保した有期雇用契約の場合には,労働者の継続雇用に対する期待を保護する必要はないのであって,終身雇用を前提としたいわゆる解雇権濫用の法理は,そもそも適用ないし類推適用されないというべきである。

(イ) 本件解雇が解雇権の濫用といえないこと

もちろん,前記解約権の行使が何ら合理的な理由を欠く場合に権利の濫用として無効とされる余地があることは否定できないが,その合理性判断の基準は終身雇用の場合とは自ずから異なり,以下のとおり,いわゆる整理解雇法理の適用はない。

a 経営上の必要性

本件解雇は,経営合理化策の実施によって必要となったものであり,経営上の必要性の存在が求められることは当然であるが,正規従業員の場合と異なり,人員削滅の必要性までは要求されない。

被告会社が,本件業務委託を行ったことには十分に合理的な理由があり,それに基づいて冗員となる原告らを留保解約権に基づき解雇したことは,以下のとおり経営上の必要性に基づく合理的なものである。

なお,本件解雇のように解約権が留保された有期雇用契約における解雇について,原告らが主張するような高度の必要性・緊急性が求められると解することは,企業活動に過度の制約を課するものであって,採用できない。

(a) 菓子市場の現況と被告会社の状況

日本におけるチョコレート市場は,市場規模が限られている上,平成12年をピークに少子高齢化や甘さ離れなどにより,縮小傾向に入っているにもかかわらず,多数のメーカーが存在しているため,価格競争が熾烈となっており,販売価格が低下している。

被告会社は,キットカットという強力な商品を持つものの,他のメーカーのように他種類の商品を持っておらず,売上シェアは,チョコレート市場のおおむね5,6パーセント程度,菓子市場全体では1パーセントにとどまっており,大手メーカーに大きく水をあけられ,平成13年の売上規模は,菓子業界において14位と低迷している。

菓子業界においては,従来,企業買収等は比較的少ないが,主な販売先であるスーパーマーケット等の流通業界では,企業再編により寡占化が進み,メーカーに対しても納品価格や商品供給について圧力が強まりつつあり,今後は菓子業界においても弱小メーカーが淘汰されることが予想される。

したがって,被告会社としては,このまま下位メーカーに甘んじているならば,会社の存立にもかかわることから,早急に態勢を整えて売上げを伸ばし,上位のシェアを獲得することが必要となっている。

(b) MD業務の重要性

被告会社の従来の取扱商品の大半は,いわゆる袋物に代表される家庭内消費型(Ⅰn-to-Home型)の商品であるところ,家庭内消費型商品は,店頭では特売型の商材とされて仕入価格も安く抑えられ,メーカーの利益率が低い。しかも,菓子の購買は,その約8ないし9割が非計画的購買(衝動買い。Ⅰmpulse型)とされているため,被告会社は,非計画的購買型の商品の売上げの増加を図ることが課題となっており,売場でいかに消費者の目につくように並べるか,手に取りやすいところに自社の商品を並べるかという店頭におけるMD業務が極めて重要となっている。

(c) 被告会社のMD業務の問題点及び改善の取組

被告会社のMDの人員は,他の大手メーカーより少ないのみならず,MD一人当たりの売上高も低位であり,人員や販売促進費用を増強することなく,早急かつ効果的にMD業務を改善する必要があった。

被告会社は,平成12年秋から,東京,大阪,名古屋にMDSVを設置し,MD業務についてのマニュアルを作成し,集合研修や現場教育を行うなどの努力をしたが,以下の理由から,目立った効果や成果を上げることができなかった。

ⅰ 効果的,効率的なMD業務を行うための技能が確立されていない。

ⅱ 店頭でのMD業務の理論や技能等を教育する能力が欠けている。

ⅲ 的確なMD業務を行うために必要な情報管理が不十分であった。

ⅳ 長年問屋へのプッシュ型販売を中心に営業活動を続け,目先の販売目標を消化することに重点を置いており,営業組織内にプル型販売が根付いていなかったため,担当店舗の見直しや各MDの巡回スケジュールの指示を的確にすることができなかった。

ⅴ MD自身も,同一地域で特売受注を中心に活動していたことから,非計画的購買型の商品用ディスプレイ増設等に慣れていなかった。

ⅳ MDに対して十分な教育訓練を行うことができず,MD個人の経験のノウハウに頼ることとなり,レベルや考え方がまちまちであった。

(d) 本件業務委託に至る経緯

ⅰ 被告会社は,上記のとおり,社内のみの対策により早急に抜本的な改善を行うことは不可能であったところ,アメリカにおいて1990年代の初頭から,MD業務の外注化がビジネスとして認知され,成果を上げるようになっており,日本においてもいくつかの大手メーカーが導入していることに着目し,他業種の会社における成功例を参考に,MD業務を請け負う複数の会社にMD業務の外注化の可能性やスキームを提案させ,他に複数の人材派遣会社等にもMD業務の請負の可能性を打診するなどして比較検討を行った。

ⅱ この検討の中で,ASPが,①日本の大手企業のMD業務を請け負っている実績があり,MD業務についで強い専門性を有すること,②菓子業界について,かつて外資系菓子メーカーのMD業務を請け負った経験を持つ従業員を擁するなど知見を有しており,この者が被告会社のMD業務の責任者として計画に当たることが期待できたこと,③MDの単なる斡旋にとどまらず,MD業務そのものの企画,日常的な業務管理,指示命令や情報分析,効果測定まで,全般にわたる業務を一括して請け負わせることが可能であること,④請け負う企業は,同業種1社とのポリシーを持ち,信頼性が高いことなどから,被告会社は,ASPを選定した。

そして,同社に対し,平成14年10月から3か月間,関東エリアの一部で試験的に業務を請け負わせたところ,1日当たり訪問店数,1日当たり新規ディスプレイ設置台数,ディスプレイ配荷率(訪問店舗に対してディスプレイを設置できた店舗の割合)についていずれも被告会社の従業員の実績を上回る優秀な実績が上がったことなどから,被告会社はASPにMD業務を委託することを決定した。

ⅲ 被告会社は,ASPに対し,MDに対する教育や研修のみの委託の可能性等も検討し,ASPにもその旨打診した。しかし,ASPが,MD業務に関わるノウハウが企業秘密に当たるため教育,研修等の部分的な業務のみを請け負うことはしないという方針をとっていたこと,部分的な委託ではASPの責任があいまいとなる面もあったことから,被告会社は,MD業務全体をASPに外注することに決定した。

ⅳ 被告会社は,MD業務の重要性にかんがみ,一度に全国のMD業務をすべて外注せずに,まず,関西支店のMD業務を外注し,アカウントセールス担当者(問屋や小売店の本部を中心に営業活動をする営業担当者。以下「AS」という。)が本部で決定した事項や目標を店舗レべルで分析し,MD個別の目標をその都度具体的に設定し,店頭展開することをコントロールするという新たなビジネスモデルを構築した上で,全国に展開することとした。

関西支店を新たなビジネスモデルを構築するための最適の支店であると判断した理由は,主として以下のとおりである。

① 関西支店は,地域としては,近畿地方全般と広いが,MD業務を行うべきエリアは京阪神地域が主体で比較的まとまっている。また,MDSⅤが1名いることに加えて,MD人員が特殊ルートを除いて9名と比較的少人数にとどまっている。

② 売上構成において,関西支店は全国平均に比べ,非計画的購買型商品の比率が約4パーセントも低いため,これを全国平均まで高めていかなければ売上げも上がらず,利益構造もよくならないことから,店頭でのMD業務の活性化が必要である。

③ 関西支店は,被告会社本社から近く,ASPの大阪支社からも至近距離にあるので,外注に当たって,双方の担当者同士の利便性も高い。

(e) ASPに対する業務委託後のMD業務の改善

被告会社のMD業務については,ASPに委託した後である平成15年8月,同年9月とも,訪問店数,ディスプレイ設置店数で前年を上回っているほか,MDSⅤの機能,訪問店舗の見直し,携帯端末による情報集積と指示など,MD業務の改善が進められている。また,最大の課題であった,非計画的購買型商品の販売構成比は,平成16年上半期は10パ-セント以上改善した。

なお,被告会社は,今後更にディスプレイ及び配荷先の拡大を目指しており,MD業務を更に改善する必要があり,ビジネスモデルの構築にはなお1年程度かかる見通しである。

b 解雇回避努力

(a) 被告会社は,MD業務の強化のために,前記a(d)ⅲのとおり,当初は,ASPに対し,MDに対する教育や研修のみの委託の可能性等も検討し,ASPにもその旨打診しているが,これは,解雇回避努力と評価できる。しかし,ASPは,単なる教育・研修といった業務指導を内容とする契約には応じないことから,原告らMDの雇用を継続したまま,ASPの有するノウハウを被告会社に導入するという手法はそもそも選択不可能であった。

(b) 本件業務委託をするに当たっては,当然のことながら業務を一括して移行する必要があったものであり,仮に本件各契約の終了日が同一であれば,本件業務委託の開始日を前記終了日以降とした上で,原告らについて前記終了日で雇止めをすることもできたものの,実際には本件各契約の終了日はそれぞれ異なっていたため,そのような方法を選択することはできなかった。

(c) 本件のように支店全体のMD業務の外注化に伴い業務自体が消滅する場合に,職種及び勤務地を限定されて雇用された原告らを他の営業所に配転したり,職種を変更したりして雇用を維持することは不可能であるから,被告会社は解雇回避努力を負うものではない。むしろ,就業機会の提供や再就職への支援などの生活援助努力を重視すべきである。

(d) 被告会社は,関西支店のMDを解雇することにより,MDの生活に少なからず影響が出ることを懸念し,一方でASPの有する専門的ノウハウと原告らがこれまで培ってきた経験の双方が活用できれば被告会社のMD活動の成果が一層上がることが期待できると考え,ASPに対し,被告会社との雇用契約と比較して勤務条件及び収入の両面で大きく変わらないように配慮しつつ原告らをMDとして用いるよう申し入れ,ASPにそれに応じさせた。

そして,被告会社は,本件解雇時の説明会において,関西支店のMDに対し,本件解雇の意思表示をするとともに,同年7月1日以降ASPと新規に契約を締結することを斡旋した。

なお,本件各契約の内容と,ASPが申込みをした契約の内容を比較すると,時給で比較するとASPとの契約における額が上回っている。なお,ASPとの契約においても,業務遂行上やむを得ず,規定の時間を超過して業務を行った場合は超過した時間に応じた業務委託料金が支払われることとなっている。

また,ASPとの契約においては,携帯電話やファクシミリの使用料金などの経費も,ASPが原告らに支払うこととなっているほか,契約期間も原則1年で自動更新とされており,不安定なものではなかった。

したがって,社会保険の取扱いの変更などの各種支出を考慮しても,一概に不利益な内容とはいえない。

このような斡旋は,いわば原告らに対する生活援助努力と評価すべきものである。

c 対象選定の合理性

本件解雇のように,支店のMD業務全部を委託するような場合には,対象選定の合理性についても問題にする余地はない。

d 手続の相当性

被告会社は,本件解雇時の説明会において,原告らに対し,関西支店のMD業務を外注化する理由及びこれに伴い原告らとの契約を解約しなければならないこと,ASPとの契約を斡旋すること,ASPとの契約条件が従前の被告会社との契約内容と比較して不利益でないことなどを意を尽くして説明を行っている。

また,その後の団体交渉にも被告会社は誠実に対応し,条件面等で不満があれば提示するよう求め,また原告らの不安を取り除くべく努力したにもかかわらず,原告らがあくまで解約の白紙撤回に固執したため奏功しなかったにすぎないのであって,被告会社としては原告らに誠実に対応しており,それ以上の協議を求められる理由はない。

e したがって,本件解雇は,権利の濫用として無効であるとはいえない。

(2)  本件雇止めが無効であるか否か(争点(2))。

(原告らの主張)

ア 本件雇止めに解雇権濫用の法理が類推適用されること

有期契約労働者と使用者との結びつきの度合い等の事情により,契約更新への期待が客観的に合理的であると認められる場合には,雇止めに解雇権濫用の法理が類推適用されるというべきである。

そして,契約更新への期待が客観的に合理的と認められるか否かは,主として,①職務内容や契約上の地位について,いわゆる正規従業員との同一性・近似性,②採用時等の雇用継続を期待させる使用者の言動,認識の有無,③更新手続の厳格さ,④有期契約締結,更新の状況(更新の有無,回数,勤続年数等)を考慮して判断すべきである。

本件においてそれらの判断要素については以下のとおりであり,原告らの契約更新への期待は客観的に合理的である。

(ア) 原告らの担当するMD業務は,被告会社において重要で必要不可欠の業務であった。そして,原告らは正規従業員の研修をしたり,マニュアルの作成を担当したこともあるなど正規従業員と同等の扱いを受け,その職務内容は正規従業員に準ずるものであった。

(イ) 被告会社担当者は,原告らを採用する際,契約期間の限定にかかわらず,長期間勤務できる旨説明をしたり,家族構成や介護の予定など,長く勤務できるか否かを判断するための質問も行っていた。また,採用後も,仕事のため車を買い換えた方がよいとか,この会社は定年がないから,頑張っていろいろなことを提案して働きやすい職場にしてくれなどと言ったり,MD会議において,他の会社で女性労働者が解雇されたこと等が話題となった際も,アメリカ型企業ではなく,ヨーロッパ型企業で労働者を大切にするから,解雇等をすることはないので気にしないで働くよう言ったりするなど,長期間雇用が継続されることを前提とした言動をしていた。

(ウ) 原告らに対する契約更新をするか否かの意思確認は口頭によっており,ファクシミリによる確認がされるようになったのは最近のことであるし,口頭での確認がないことすらあった。また,契約更新は被告会社が郵送する契約書に原告らが署名押印して返送していただけで,被告会社が契約書の内容等について個別に説明することはなかったし,契約期間が過ぎてから契約書が作成されたり,既に被告会社の印鑑が押された契約書が送付されることもあり,契約更新手続はずさんであった。

(エ) 前記第2の1(1)イのとおり,原告P5を除く原告らの契約更新回数,勤続年数は,多数回,長期間に及んでおり,継続雇用を期待するに十分なものであった。

原告P5についても,採用面接の際,被告会社担当者から「他のMDは,ずっと長いことやっている。」と説明されており,MD業務が被告会社にとって不可欠なものとして位置づけられ,,関西支店における他のMDが雇止めされることなく長期間勤務していたことからすると,原告P5についても継続雇用への期待は合理的である。

なお,原告P5を除く原告らは,ネスレマッキントッシュに入社したものであるが,雇用契約が同社から被告会社に承継された際,被告会社自身が社名変更程度にしか認識しておらず,新たな雇用契約書も作成していないのであるから,原告らの従前の地位,雇用継続への合理的期待が承継されているというべきである。

(オ) 被告会社における雇止めの事例については,仮にその事実が認められるとしても,関西支店以外の事例であること,健康上業務遂行に支障を来したり,業務成績が不良であったなどの理由があったことからすると,合理的な理由がない限り雇止めはされないという期待を減殺するものとはいえない。

(カ) なお,本件各契約書には,「業務の都合で職場及び職種の変更等を命じることがある」と規定されており,就業規則上も「会社は業務上の必要性に応じ,従業員に対し,身分の変更,役職及び資格の変更,配置転換,職種の変更,転勤,長期出張,駐在もしくは出向,派遣を命じることがある」旨明記されており,職種及び勤務地が限定されていたとはいえない。

イ 本件雇止めが権利の濫用に当たること

本件雇止めにも解雇権濫用の法理が類推適用される以上,整理解雇として,①経営上の必要性の有無,②雇止めを回避する努力を尽くしたか否か,③人選基準が合理的であったか否か,④説明や説得等労働者側との間で協議を尽くしたか否かによりその有効性が判断されるべきである。

本件雇止めは,前記(1)エの原告らの主張(イ)で主張したとおり,①経営上の必要性はなく,②雇止めを回避する努力を尽くしておらず,③人選基準が合理的とはいえず,④説明や説得等労働者側との間で協議を尽くしたとはいえず,権利の濫用として無効である。

(被告会社の主張)

ア 本件雇止めに解雇権濫用の法理が類推適用されないこと

① 本件各契約においては,更新についての規定はなく,そもそも更新が予定されておらず,就業規則においても,「期間の定めがある雇用が満了したとき」は退職する旨規定されていること(28条4号),②被告会社は,採用時あるいはその後いずれの時点においても,原告らに対し,いかなる場合でも原告らの雇用が継続される旨の期待を持たせるような言動を行ったことはなく,むしろ,新たな契約を締結する際にも,期間満了日の2か月から半月前に契約締結の意向を書面で確認した上で,契約を新たに締結するなどしていたこと,③被告会社においては,平成12年12月から平成16年7月までの間に,4名のMDが契約期間満了により退職していること,④本件各契約においては,特に,当事者双方が期間中の解約権を留保していることなど,あくまで有期雇用を前提とした雇用管理がされていたこと等の諸事情に照らせば,原告らのいずれについても継続雇用に対する合理的期待を認めることはできない。

特に,原告P5については,平成14年9月に初めて契約を締結し,平成15年3月に再度契約を締結したにすぎず,仮に本件雇止めまでの雇用期間を通算しても1年にも満たなかったのであるから,継続雇用の合理的期待を認める余地はない。

したがって,本件各契約に解雇権濫用の法理が類推適用される余地はなく,本件各契約はそれぞれの期間の満了により当然に終了する。

イ 本件雇止めが権利の濫用に当たらないこと

仮に本件雇止めに解雇権濫用の法理が類推適用される余地があるとしても,雇止めの効力を判断すべき基準は,終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正規従業員とは自ずから合理性な差異があり,求められる合理性の程度は正規従業員よりも低いというべきである。

本件雇止めに合理的な理由が存するか否かの判断基準は,本件解雇と同様,経営上の必要性が本件雇止めの合理的理由となり得るか否かによるべきであり,前記(1)エの被告会社の主張(イ)のとおり,本件解雇にさえ合理的な理由があるのであるから,本件雇止めについてはそれ以上の合理性が認められることは当然である。

(3)  毎月の賃金額並びに特別手当の支払義務の存否及びその内容(争点(3))

(原告らの主張)

ア 毎月の賃金額

(ア) 原告らの賃金は,時給に基づいて計算されるものではあるが,解雇前3か月の平均収入(別紙1の「請求額(主位的主張額)」欄記載の各金額)は,原告らの労働実態と収入実績に照らし,今後とも支払を受けることができる額として蓋然性が高い。

(イ) 仮に,前記額が認められないとしても,各人の時給額に平均月間所定労働時間(原告らの1日の勤務時間が1日7時間,年間所定勤務日数が242日と定められていたのであるから,それらを乗じたものを12で除したもの)を乗じた金額(別紙1の「予備的主張額」欄記載の各金額)は認められるべきである。

イ 特別手当の支払義務があること

雇用契約上,被告会社は,原告らに対し,「6月及び12月に特別手当をその都度決定し,支給する」と規定されており,就労の対価としての後払が義務づけられている。

その金額は明記されていないが,被告会社は,原告らに対し,採用の際,特別手当を年に2回,1回当たり1か月分の賃金をめどに支給する旨説明しており,現にそのとおり支給してきた。したがって,今後も,直近の特別手当平均額が支払われる蓋然性が高く,その額は,別紙2の「請求額」欄記載のとおりである。

なお,原告P1,原告P2,原告P3及び原告P4については,平成14年12月10日支給分と平成15年6月10日支給分の平均額とし,原告P5については,平成14年12月10日支給分は対象期間が短いため,平成15年6月10日支給分と同額とする。

(被告会社の主張)

ア 毎月の賃金額

前記のとおり,被告会社は,毎月25日に,各人の時給に当該月の所定労働時間を乗じた金額を支払い,実働時間との過不足がある場合は,翌月25日に精算する(ただし,1日の実労働時間が8時間を超えた場合は,時給に8時間を超える労働時間を乗じた額に更に1.25を乗じる)こととなっていた。

イ 特別手当の支払義務のないこと

特別手当については,本件各契約上,被告会社が「6月及び12月に特別手当をその都度決定し,支給する」と規定されているのみで,被告会社が支給の有無及び支給額を決定するものであり,就労の対価としての後払が義務づけられているものではない。

被告会社は,原告らに対し,解雇の特別手当の支給実績がおおむね1か月分の賃金額程度であることを参考までに説明したことはあるが,必ず支給されるという説明をしたことはない。

(4)  本件解雇等の違法性,故意・過失及び損害の有無並びに損害額(争点(4))

(原告らの主張)

被告会社は故意又は過失により違法な本件解雇等を行い,それにより,原告らは,突如職場を奪われ,労働者及び人間として働く尊厳を著しく傷つけられた。その被った精神的損害は,原告一人当たり100万円を下らない。

(被告会社の主張)

原告らの主張は争う。

第3争点に対する判断

1  本件解雇が無効であるか否か(争点(1))について

(1)  本件解約条項は法的規範性を欠くか(争点(1)ア)について

前記第2の1(2)オの事実,証拠(甲1,3,4,6,7,原告P1本人,原告P2本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件各契約書の1条には本件解約条項が明記されており,原告らは,それを認識した上で,本件各契約書に署名押印し,本件解約条項について被告会社と合意をしたものと認められる。そうすると,本件解約条項は,本件各契約における合意内容の一つとして,効力を有するものといわなければらない。

もっとも,原告らは,前記第2の3(1)アの原告らの主張のとおり,本件解約条項によれば,およそ期間の定めの意味がなくなり,概念矛盾といわざるを得ないと主張するが,後記(4)において説示するとおり,本件解約条項に基づく解約権の行使にも解雇権濫用の法理が適用されることからすれば,本件解約条項を設けたからといって,期間の定めに意味がなくなるとはいえないし,本件において,本件解約条項が何らの法的効力も持たないと原告らが信頼するに足りる特段の事情も認められないから,原告らの主張は理由がない。

(2)  本件解約条項が民法628条に反し無効であるか否か(争点(1)イ)について

ア 民法は,雇用契約の当事者を長期に束縛することは公益に反するとの趣旨から,期間の定めのない契約については何時でも解約申入れをすることができる旨を定める(同法627条)とともに,当事者間で前記解約申入れを排除する期間を原則として5年を上限として定めることができ(同法626条),同法628条は,その場合においても,「已ムコトヲ得サル事由」がある場合には解除することができる旨を定めている。

そうすると,民法628条は,一定の期間解約申入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても,前記事由がある場合に当事者の解除権を保障したものといえるから,解除事由をより厳格にする当事者間の合意は,同条の趣旨に反し無効というべきであり,その点において同条は強行規定というべきであるが,同条は当事者においてより前記解除事由を緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解し難い。

したがって,本件解約条項は,解除事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから,民法628条に違反するとはいえない。

イ この点,原告らは,前記第2の3(1)イの原告らの主張のとおり,民法628条は労働者が期間中に解雇されないとの利益を付与したものであると主張するが,それは,むしろ民法626条の趣旨というべきであり,民法628条は合意による解約権の一律排除を緩和するために置かれた規定と解すべきであるから,原告らの主張は採用することができない。

また,雇用期間を信頼した労働者保護の要請については,解雇権濫用の法理を適用することにより考慮することができるから,このように解したとしても,不当な結果を招来するわけではない。

(3)  本件解約条項は就業規則に違反し無効であるか否か(争点(1)ウ)について

ア 原告らは,前記第2の3(1)ウの原告らの主張(ア)のとおり,本件解約条項は,就業規則が解雇事由を31条1項所定の事由に限定していることに反し,無効であると主張する。

確かに,終業規則31条1項9号が「その他,前各号に準ずる程度の事由あるとき」と定めていることからすれば,同項所定の事由は解雇事由を限定列挙したものと解するのが相当である。

しかし,前記第2の1(7)のとおり,就業規則は,雇用期間の定めのある原告らについて,正規従業員と異なる解雇事由を設けているわけではなく,原告らにも解雇事由を定めた就業規則31条1項が適用されると解すべきであるから,被告会社が本件解約条項に基づき原告らを解雇するには,就業規則31条1項所定の事由に該当することを要するというべきである。そうすると,原告らが主張するように本件解約条項を無効と解すべき理由はない。

さらに,原告らは,本件解約条項に基づく解約には,「已ムコトヲ得サル事由」が必要である旨主張するが,前述のとおり,本件解約条項は,解除事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから,原告らの主張は採用することができない。

イ そこで,本件解雇が就業規則31条1項7号の解雇事由に該当するか否かが問題となるが,この点については,後記(4)において,争点(1)エと併せて検討することとする。

(4)  本件解雇に解雇権濫用の法理が適用されるか,また,本件解雇が解雇権の濫用に当たるか否か(争点(1)エ)について

ア 本件解雇に解雇権濫用の法理が適用されるか。

(ア) 使用者の解雇権の行使は,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することができない場合には,権利の濫用として無効であると解するのが相当である(解雇権濫用の法理)。

(イ) この点,被告会社は,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(ア)のとおり,原告らは有期雇用の非正規従業員であり,本件各契約においては自己都合による解約権を留保しているのであるから,終身雇用を前提とした解雇権濫用の法理の適用又は類推適用はないと主張する。

確かに,証拠(乙21,証人P6)によれば,ネスレマッキントッシュないし被告会社(以下「被告会社ら」という。)は,中長期の人員計画に基づき定期的に大学卒を中心とした正規従業員を採用する場合には,各本社に対し履歴書を提出させた上で,英語,数学,一般常識を内容とする筆記試験,集団及び個別面接を行った上で,採用者との間で期間の定めのない雇用契約を締結していたが,MDを採用する場合は,各支店において,MDの補充が必要となった場合等に,被告会社の人事部長に採用の申請を行い,人事部が広告会社等への募集の手配を行っていたものの,各支店に履歴書を提出させ,各支店が履歴書を審査した上で,適切と判断した応募者に面接を行い,仕事の内容や契約条件などを説明し,応募者に志望の動機,自動車の運転の可否,勤務時間中に家族の面倒をみる必要がないか否か,人との折衝が嫌いでないか否かを確認した上で,MD業務に対する適性があるか否かという見地から採否を決定し,採用者との間で期間の定めのある雇用契約を締結していたことが認められる。

このように,原告らMDと期間の定めのない正規従業員との間には,少なくとも,期間の定めの有無のみならず,採用の基準やその手続においても前記相違があった上,前記第2の1(7)のとおり,就業規則上においても,非正規従業員である原告らMDについては,雇用期間満了が退職事由とされ,更新に関しても特段規定はされておらず,定年の規定が適用されないことはもとより,賃金等や福利厚生の規定も適用されず,休職制度もなく,年次有給休暇等の扱いにも差が設けられていた。そして,前記第2の1(2)オのとおり,その契約書には本件解約条項が設けられていた上,後記2(1)における認定のとおり,契約を更新する際にも,ほぼ毎回それに先立ち雇用契約書が作成されていたことも併せ考慮すると,定年まで雇用を継続できるとの期待の点において,原告らと正規従業員との間には何らの合理的な差異がなかったとはいい難い。

しかし,本件各契約書に本件解約条項が設けられているといっても,前記(3)アで述べたとおり,被告会社は,有期雇用の非正規従業員に特有の解雇事由を定めているわけではなく,本件解約条項に基づき原告らを解雇する場合にも,正規従業員と同様就業規則31条1項所定の事由に該当することを要すると解される以上,本件解約条項は,客観的には,被告会社が原告らを解雇する場合に大きな意味を持つものではない。

したがって,期間の定めのある雇用契約を締結している原告らにおいても,期間満了時までは,正規従業員と同様,就業規則31条1項が限定列挙している所定の解雇事由がなければ解雇されないという点で,雇用契約関係が継続することの合理的な期待が存在するというべきであるから,雇用期間の定めのある原告らに対する期間満了前に行われた本件解雇について,解雇権濫用の法理が適用されるべき基礎事情が存在しないとまではいえない。

イ 本件解雇が解雇権の濫用に当たるか。

(ア) 経営上の必要性について

a 本件においては,被告会社は,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(イ)aのとおり,菓子市場においては企業間の競争が激化しているため,シェアや売上規模が低迷している被告会社は,より上位のシェアを獲得するために,関西支店のMD業務につき外注化し,そのため冗員となった原告らを解雇した旨主張している。

この点,証拠(乙1の1ないし5,2ないし5,21,証人P6)によれば,チョコレート市場の現状について,以下の事実が認められる。

(a) 日本の菓子市場の規模は,約2兆3400億円であるところ,そのうちチョコレート市場の規模は,その約13パーセントで約3000億円である。

チョコレート市場は,少子高齢化や消費者の甘さ離れ傾向などが原因で,平成12年をピークに減少傾向にあるほか,1キログラム当たりの単価は,平成4年を100とすると,平成13年まで一貫して減少し84.3パーセントとなったが,平成14年に87.5パーセントとなっている。チョコレート製品全体の生産量は,平成13年は前年比3.0パーセント増加したが,金額は前年比で3.2パーセント減少した。

(b) チョコレート市場のメーカー別シェアについては,平成14年は,上位から,明治製菓株式会社(以下「明治」という。),株式会社ロッテ(以下「ロッテ」という。),江崎グリコ株式会社(以下「グリコ」という。),森永製菓株式会社(以下「森永」という。),株式会社不二家(以下「不二家」という。),被告会社となっており,被告会社のシェアは5.4パーセントとなっている。

なお,被告会社のシェアは,平成7年から平成14年までいずれも5パーセント台であるところ,明治は,21ないし23パーセント台,ロッテは16ないし18パーセント台,グリコは11ないし14パーセント台,森永は10ないし12パーセント台,不二家は,5ないし6パーセント台であった。

被告会社は,平成14年度の売上高約235億円のうち約98パーセントをチョコレート製品が占めており,菓子市場全体での売上げシェアは1パーセントであり,平成13年度の売上規模は,菓子業界において14位であった。

(c) 被告会社の平成14年における製品の出荷額のうち,袋物の出荷額は,全体の73.2パーセントを占めていたが,関西支店における製品の出荷額のうちの袋物の占める割合は,77.9パーセントであった。

以上によれば,被告会社の売上高のほとんどを占めるチョコレートの市場については減少傾向にあり,それに伴い企業間競争が激化することは否定できないところ,被告会社のシェアは他の大手メーカーに比べると,4分の1ないし2分の1と低いことは否めない。

そして,証拠(甲62の1ないし4,64の1ないし29,65の1ないし76,66の1ないし50)によれば,原告らMDは,被告会社のAS及びMDSⅤが立てた販売計画に基づき,小売店舗との商談や,小売店舗における商品の陳列や売場メンテナンスを実施し,実績や情報を報告することを業務としており,その報告は,ASやMDSVが販売計画を見直したり,新たな販売計画を立てるための資料となっていたことが認められるから,競争が激化するチョコレート市場において,被告会社がチョコレート製品の売上げを伸ばすために,MD業務のより一層の改善に取り組むのもまた当然というべきである。

b 被告会社は,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(イ)a(c),(d)のとおり,MD業務の改善に取り組んだものの,目立った成果が上がらなかったため,MD業務を外注化することにしたが,その業務の重要性にかんがみ,まず関西支店の業務について本件業務委託を行い,同業務に就いていた原告らを解雇したと主張する。

この点,証拠(甲55ないし61,69,83ないし91,原告P1本人,原告P2本人)によれば,被告会社らは,MD業務の充実,改善のために以下の施策を行ってきたことが認められる。

(a) ネスレマッキントッシュは,平成4年ころ以降,MDに対し,入社時の研修として,3日間,菓子業界,同社の概要,MD業務などについて講義形式による研修を行うとともに,上司らがMD業務に同行する形式による実地研修を行った。

また,ネスレマッキントッシュは,平成4年ころ,同社が作成した店頭マーチャンダイジングマニュアルに基づき,平成12年以降は,同社が作成したインストアマーチャンダイジングマニュアル及びインストアマーチャンダイジング活動記入マニュアルに基づき,MDを指導した。

さらに,ネスレマッキントッシュは,平成12年9月から,関東支店,関西支店及び中部支店にMDSⅤを配置し,MDに対するマニュアルを作成した。

被告会社が平成13年にネスレマッキントッシュの地位を引き継いだ後は,同年下期全国会議において,理想とする店内活動や行動指針,MDと本部セールスとの連携,報告システムが提唱された。被告会社は,同時期,海外の関連会社の研修担当者による研修などを導入し,支店長や所長への集合研修やMD個人への現場教育などを行った。

また,被告会社は,平成15年3月,MD活動マニュアルを作成し,これに基づき,新規採用したMDを指導した。

なお,被告会社は,MD活動マニュアルを作成した際,同マニュアルを製作した業者を原告P2のMD業務に同行させたことがあった。

(b) 被告会社らは,毎月1回開催するMD会議において,MDに対し,販売計画の説明や目標の設定をしたほか,MD業務についての講義を行った。もっとも,平成14年秋ころから,MD業務についての講義は行わなくなった。

(c) 被告会社らは,新商品を販売する際は,MDに対し,当該新商品に関する研修を行うとともに,作成したマーチャンダイジングマニュアルをMDに配布した。また,被告会社らは,半年に1回及び不定期に,MDに対し,新商品の内容や当該時期の目標,営業計画などについての説明会を開催した。

以上によれば,被告会社では,MDについては比較的充実した教育・研修体制が構築されていたと認められるのであって,被告会社が主張しているように,被告会社がMDに対し十分な教育,訓練,指導等を行う体制を欠いていたとまではいえないし,実際,被告会社において,本件業務委託後も,原告らMDがASPに移籍した上で従前どおりMD業務を継続して担当すること自体は容認していたことを併せ考慮すれば,被告会社のMD業務が自社努力では改善が不可能で外注化が不可避であったとまではいい難い。

c 被告会社は,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(イ)a(c)iないしⅵの事由を主張し,証人P6や同P7もこれに沿う証言をするとともに,P7作成の陳述書(乙22)にもこれに沿う記載が存在するが,いずれも抽象的であって,それらにより,MD業務について具体的にどのような支障が生じているか,また,被告会社がそれらの問題点を分析して把握しながら,なぜ自社努力によりその問題点を改善できないかについては必ずしも明らかではなく,それを裏付けるに足りる客観的な証拠もない。

かえって,P6作成の陳述書(乙21)中には,原告らMDにMD業務を任せておけば,従来の販売方法は何とかなり,MDの中には,成果をあげる者もいた旨の記載が存在し,また,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(イ)a(d)ⅳのとおり,その主張によっても,MD業務の重要性にかんがみ,一度に被告会社全体のMD業務を外注化せず,当面関西支社のみを対象に外注化(本件業務委託)を実施したというのであり,被告会社が提出している資料(乙10)によっても,平成15年7月1日に本件業務委託を実施した直後は,訪問店舗数やディスプレイ設置店舗数は対前年度比において伸びていることが認められるものの,それも半年後においては前年度並みになっており,ディスプレイ設置台数については,対前年度比においていずれも減少していることが認められるばかりでなく,弁論の全趣旨によれば,被告会社においても,本件業務委託実施以降,他の支店においては,未だMD業務の外注化を実施していないことが認められる。そうすると,本件業務委託は,未だ試験的な実施の域を出ていないとも評価し得るのであって,これらのことに照らせば,証人P7の前記証言等を採用することはできないし,ほかに前記被告会社の主張(イ)a(c)ⅰないしⅵの事由を認めるに足りる証拠はない。

d 仮に被告会社のMD業務に被告会社が主張するような前記問題点が存在し,MD業務の改善のためにはASPへの外注化が望ましいとしても,雇用期間が満了していない原告らを直ちに解雇してまで本件業務委託を早急に実施する必要があるか否かは別問題である。

この点,被告会社には,経常収支等で赤字を計上するなど,早急に従業員の人員を削減をしなければならないなどの客観的事情は,証拠上,認められない。そして,前記cで述べたとおり,本件業務委託は未だ試験的な実施の域を出ていないとも評価できることを併せ考慮すれば,その経営上の必要性の程度が本件各契約の期間満了を待たずに本件解雇を直ちに実施しなければならないほど高かったとはいえない。

(イ) 解雇回避努力について

a 本件業務委託の部分的実施の可能性

前記第2の1(2)エ及び証拠(甲68ないし72,79ないし81)によれば,原告らMDは,各人ごとに勤務場所と担当する店舗等が決められていることが認められるから,仮に関西支店のMD業務を外注するとしても,雇用期間が満了したMDから順次雇止めをして,当該MDが担当していた地域(店舗)から段階的にASPに外注することも可能であったと考えられる。

この点,被告会社においては,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(イ)b(b)のとおり,本件業務委託をするに当たっては業務を一括して移行する必要があったため,そのような方法をとることができなかったと主張するが,その具体的な根拠は明らかではないし,証拠(乙14,15)によれば,被告会社とASPとの間では,本件業務委託の契約書と同時に交わされた確認書により,訪問活動地区を関西圏とする旨の合意がされているものの,基本となる前記契約書自体においては,販売促進業務を展開する対象店舗,販売店については別途に協議の上決定するとしか記載されていないことが認められ,このことからすれば,被告会社の前記主張は直ちに採用することはできない。

b 配転の可能性

(a) 仮に本件業務委託を段階的に実施することが不可能であり,原告らがあくまでも当時のMDという職種と勤務場所に固執すれば解雇するしか他にとるべき手段がなかったとしても,前記第2の1(2)ア及びエ並びに同(7)のとおり,本件各契約及び就業規則によれば,被告会社は,業務の都合により,原告らを他の勤務場所に配転したり,別の職種の部署に配転することも可能であったのであるから,原告らにそのような事情を説明するなどして,原告らが前記配転に応じることによって解雇されることを回避する機会を与えることができたが,本件に顕れた証拠を検討しても,被告会社が原告らにそのような機会を与えたことを認めるに足りる証拠はない。

(b) 職種及び勤務場所限定の合意の有無

被告会社は,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(ア)及び(イ)b(c)のとおり,本件各契約においては,勤務場所及び職種が限定されていたため,配転は不可能であったと主張し,証人P6もそれに沿う証言をし,同人作成の陳述書(乙21)中にも同旨の記載があり,前記第2の1(2)アのとおり,本件各契約書には,勤務場所と従事業務がMD業務であることが記載されているほか,証拠(原告P1本人)によれば,原告P1も,関西支店以外の勤務地での勤務を命ぜられたり,MD業務以外の業務を担当することは予想していなかったことが認められる。

しかし,前記第2の1(2)アの事実,証拠(甲1,3,4,6,7)及び弁論の全趣旨によれば,本件各契約書の不動文字部分については被告会社があらかじめ作成したものであるところ,本件各契約書には,同時に業務の都合により勤務地ないし職種の変更を命じることがある旨が不動文字で明記されていることが認められ,このことからすれば,前記勤務場所と従事業務の記載から,これらを限定する旨の合意が成立したと推認することは困難である。そして,原告らがMD業務や当時の勤務場所以外での就労を予定していなかったものとしても,被告会社の人事部長である証人P6も,被告会社が勤務地ないし職種の変更を命ずる権利を留保していると認識していたと証言していることや前記就業規則の規定をも併せ考慮すれば,本件各契約において勤務地及び職種が限定されていたと認めることはできない。

c 原告らをASPに移行させる措置について

被告会社は,前記第2の3(1)エの被告会社の主張(イ)b(d)のとおり,原告らに対し,本件各契約と比べて不利益でない内容でASPとの委託契約を締結することを斡旋していることが,本件解雇の合理性を裏付ける一事情となる旨主張する。

この点,証拠(甲27ないし35,乙12)によれば,ASPが関西支店のMDに対して提示した業務委託契約の内容は,おおむね以下のとおりであり,これによれば,関西支店のMDの当時の被告会社との雇用契約に基づく税金及び社会保険料控除後の勤務時間1時間当たりの平均収入が1236円であるのに対し,ASPが提示した条件によるそれは1385円であり,原告らがASPとの契約に移行したとしても,1時間当たりの収入では従前と比較して不利な内容になっておらず,業務内容や勤務場所についても変動がないことが認められる。

(a) 期間 原則として1年

(b) 勤務日 月17日

(c) 活動時間 午前10時から午後4時30分まで

(d) 休憩時間 1時間

(e) 業務委託料 1日当たり6000円

(月末締め,翌月末日払い)

(f) 燃料費立替金 1日当たり4000円

(g) その他 担当店舗に直行,直帰

自己所有車両による移動

労災保険に加入

ASPによる経費負担

しかし,前述又は後述するように,本件各契約においては,期間中の解雇及び期間満了時の雇止めに解雇権濫用の法理が適用又は類推適用されるのに対し,原告らがASPと契約をした場合には,事実上ASPと被告会社との業務委託契約が前提となるのであり,証拠(乙14)によれば,本件業務委託の契約においては,契約期間が原則として1年とされ,契約期間終了の2か月前までに被告会社がASPに対し契約終了の申出をしない限り,自動的に6か月間更新するとされている一方で,当事者双方が契約期間終了の3か月前までに書面により契約を解除する旨の通知をすれば,何らの補償をすることなく契約を解除することができるとされていることが認められる。

そうすると,被告会社は,その都合により,一方的にASPへの業務委託を打ち切ることができ,その場合,原告らも委託すべき業務が消滅したという理由により,その職を失う蓋然性が高いことからすると,その地位は不安定なものであって,本件解雇が回避される場合と同様の評価をすることはできない。

(ウ) 手続の相当性

前記(ア)で述べたとおり,被告会社においては,経営上,本件業務委託を直ちに行うべき緊急性はなかったのであるから,原告らの解雇を避けるため,原告らに対して十分に事情を説明した上で,原告らと十分協議をすべきであった。そうすれば,仮に,原告らが担当しているMD業務に被告会社が主張するような問題点が存在したとしても,原告らとしても,解雇や雇止めを回避するため,一層前記業務の改善に努力するであろうことは容易に推測できたのであるから,本件業務委託を実施するまでの必要がなくなった可能性も否定できない。

ところが,証拠(乙21,証人P6)によれば,被告会社は,本件解雇前には,原告らに対し,本件解雇に至る経緯(本件業務委託の必要性)について何らの説明も行っていないし,その後,原告らが結成した分会との団体交渉においても,本件解雇の撤回を一貫して拒否していたことが認められる。

(エ) 以上に述べた事情を総合考慮すれば,本件解雇は,被告会社が本件業務委託の対象を関西支社とした点の合理性について判断するまでもなく,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することはできず,無効であるといわなければならない。

2  本件雇止めは無効か否か(争点(2))について

(1)  本件雇止めに解雇権濫用の法理が類推適用されるか(争点(2)ア)について

ア 前記争いのない事実等,証拠(甲1,3,4,6,7,68ないし72,原告P2本人,原告P1本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件各契約の締結及び更新について,以下の事実が認められる。

(ア) 原告P1

a 原告P1は,平成7年8月,ネスレマッキントッシュが新聞に掲載した求人広告を見て入社の申込みをした。同社の面接担当者であった関西支店のP8支店長は,入社面接の際,原告P1に対し,業務内容はスーパーを巡回してディスプレイと呼ばれる菓子什器を取り付けることである旨説明し,契約期間については,「契約は1年更新ですが,定年はないので,皆さん長いこと働いていらっしゃいますよ。」と述べた。

b 原告P1と被告会社らは,契約を更新するに際し,その都度,契約書を作成したが,被告会社らの担当者が多忙であったため,契約更新後に契約書を作成したこともあった。

c 原告P1は,勤務当初には,軽自動車を業務上使用していたが,その後,上司が,自動車が小さく仕事に向いていないなどと述べたことや車検が近づいたことから,車両を普通自動車に買い換えた。

(イ) 原告P2

a 原告P2は,平成4年2月1日にネスレマッキントッシュに入社した。同社の面接担当者は,入社面接の際,原告P2に対し,「50歳までは勤めてください。」と述べた。

b 被告会社らは,契約を更新するに際し,原告P2に対し,毎年年末から翌年1月にかけて,時給額等を記入し,場合によっては被告会社らが押印した契約書を送付し,同原告がこれに署名押印して返送する方法によりそれぞれ契約書を作成していたが,更新時期後に契約書が同原告に到達したこともあった。

c 時給額は,各更新につき20円から60円ずつ上がったが,被告会社らは,平成13年に時給額が1270円となった後は,同額が最高時給金額であるとして,時給額を上げる内容の契約の変更申込みを行わなかったため,時給額の変更はなかった。

(ウ) 原告P3

a 原告P3は,平成4年4月21日にネスレマッキントッシュに入社した。同社の面接担当者は,入社面接の際,原告P3に対し,できるだけ長く続けてもらえるほうがよい旨,定年はない旨を述べた。

b 被告会社らは,契約を更新するに際し,原告P3に対し,更新時期前に,契約書2通を送付し,同原告が1通に署名押印して返送する方法(もう1通は原告P3が控えとして保管)によりそれぞれ契約書を作成したが,更新時期後に契約書が同原告に到達したこともあった。

c 時給額は,各更新につき約20円ずつ上がった。

(エ) 原告P4

a 原告P4は,平成12年7月1日にネスレマッキントッシュに入社した。被告会社らは,契約を更新するに際し,原告P4に対し,更新時期前に,仕事を継続するか否かを口頭で確認し,同原告が継続する旨述べた後,契約書を送付し,同原告が1通に署名押印して返送する方法によりそれぞれ契約書を作成した。

b 原告P4は,業務の遂行に当たり,資材を多く積み込めるようにするため,自家用車を従前の軽自動車からワゴンタイプの軽自動車に買い換えた。

c 時給額は,入社時には1000円であったが,平成13年には1020円に,平成14年には1025円に,平成15年には1035円になった。

(オ) 原告P5

a 原告P5は,平成14年9月9日に被告会社に入社した。採用当時の原告P5と被告会社との雇用契約では,試用期間が6か月とされ,その後正式採用となった場合は期間1年で契約し,継続する場合は契約を更新することとされた。

b 原告P5は,平成14年8月に被告会社担当者の採用面接を受けた際,「今いる人はどれくらいの期間働いていらっしゃるんですか。」と尋ねたところ,その担当者は,「ずっと長いことやっている。」と答えた。

c 被告会社担当者は,平成15年2月ころ,原告P5に対し,雇用契約を更新するか否かを口頭で尋ね,同原告が更新する旨答えると,ファクシミリにより雇用契約を更新するか否かの照会をし,同原告から更新する旨のファクシミリの送信を受領した後,契約書を送付し,同原告は,署名押印してこれを被告会社に返送した。

d 時給額は,入社時には950円であったが,前記更新時には980円になった。

イ ところで,前記1(4)ア(イ)で述べたとおり,MDの採用に当たっては,期間の定めのない正規従業員を採用する場合とは,採用の基準や手続が異なっていたほか,就業規則においても,非正規従業員である原告らMDについては,雇用期間満了が退職事由とされ,更新については特段規定されておらず,定年の規定が適用されないことはもとより,賃金等や福利厚生の規定も適用されず,休職制度もなく,年次有給休暇等の扱いにも差が設けられていたのであって,さらに,本件各契約では,雇用期間が1年間と明示されるとともに,契約書に本件解約条項が設けられていた上,契約を更新する際にも,原則的には更新に先立ち契約書が作成されていたことも併せ考慮すると,本件各契約が当然に更新が予定され,実質的に正規従業員と同様の期限の定めのない契約と異ならない状態で存続していたということはできない。

ウ しかし,前述したとおり,MD業務自体については,被告会社も重要な業務であることを自認し,前記1(4)イ(ア)bで認定したとおり,MD業務に関する教育・研修体制を整備するなどしているのであるから,少なくとも本件業務委託を検討するまでは,MDとしての適性を欠く者でない限り,被告会社としても,原則としてMDを継続して雇用することを想定していたものといわなければならない。

そして,本件各契約についても,①前記第2の1(1)イのとおり,一度更新したにすぎない原告P5を除き,原告P1については7回,原告P2及び原告P3についてはそれぞれ11回,原告P4については3回にわたり,契約が更新されてきたこと,②前記アの認定のとおり,契約更新の際の原告らに対する事前の意思確認は,契約書の送付や口頭により行われ,ファクシミリによる確認は近年になって行われ始めたものであり,契約書の作成が更新後になったこともあったこと,③前記アの認定のとおり,原告らのうち原告P5を含む4人の場合,入社面接の際,被告会社らの担当者が原告らに対し,MDとして勤務している者は長く勤務しているとの趣旨の発言をしたことなどの事情からすると,原告らにおいて,本件各契約が更新されるとの期待を抱くことについて,合理的な理由があったというべきである。

そうすると,被告会社が本件各契約を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては,解雇権濫用の法理を類推適用するのが相当であり,本件の具体的な事情の下で,被告会社が原告らとの雇用契約の更新を拒絶することが著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができない場合には,期間満了後においても,当事者間の従前の雇用契約が更新されたのと同様の法律関係になるというべきである。

(2)  本件雇止めが権利の濫用に当たるか(争点(2)イ)について

ア 原告らMDと正規従業員との間には,期間の定めの有無のみならず,採用の基準や手続にも相違があった上,就業規則においても,原告らMDについては,雇用期間満了が退職事由とされ,更新については特段規定されておらず,定年の規定が適用されないことはもとより,賃金等や福利厚生の規定も適用されず,休職制度もなく,年次有給休暇等の扱いにも差が設けられていたことは,前記1(4)ア(イ)で述べたとおりである。そして,本件各契約では,雇用期間が1年間と明示されるとともに,本件解約条項が設けられていた上,原則として契約更新に先立ち契約書が作成されていたことも併せ考慮すると,原告らを含むMDと正規従業員との間には,定年まで雇用を継続できるとの期待の点において何らの合理的な差異もなかったとまではいい難い。

しかし,原告らMDは,その補充が必要となった場合等に採用された者であるとはいうものの,原告らが従事するMD業務自体については,前記のとおり,被告会社も重要な業務であることを自認し,MD業務に関する教育・研修体制を整備するなどしてその充実を図っており,本件業務委託もMD業務の必要性,重要性を前提にしたものであることからすれば,原告らMD業務に従事する従業員は,期間雇用であるとはいえ,単に需給の変動に対応するための臨時的な従業員とはその性質を異にしており,被告会社としても,MDとしての適性を欠く者でない限り,MDを原則として継続して雇用することを想定していたというべきであるから,その差異は過大に強調されるべきではない。

イ そこで,以上の観点から本件雇止めについて検討するに,本件解雇に関して前記1(4)イ(ア)で述べたとおり,被告会社のMD業務が自社努力では改善が不可能で外注化が不可避であったとまではいい難く,仮に前記MD業務の改善のために外注化が望ましいとしても,被告会社が早急に従業員の人員を削減しなければならないなどの客観的事情は認めるに足りないし,本件業務委託は未だ試験的な実施の域を出ていないとも評価できることからすれば,その経営上の必要性の程度は,関西支店のMD全員につき直ちに雇止めをしてまで実施しなければならないほど高かったともいい難い。

ウ 本件雇止めをするに当たっては,前記1(4)イ(イ)bで述べたとおり,被告会社は,原告らを他の勤務場所に配転したり,別の職種の部署に配転することも可能であったのであるから,原告らにそのような事情を説明するなどして,原告らに本件雇止めを回避する機会を与えることも可能であったが,被告会社は,原告らにそのような機会を与えたとは認められないし,被告会社が原告らに斡旋した内容も,本件雇止めを回避したと同様のものとは評価することができない。

エ しかも,被告会社において,本件業務委託を直ちに行う緊急性はなかったのであるから,原告らの雇止めを避けるため,原告らに対し,十分に事情を説明した上で協議をすべきであったのに,これを経ずに本件解雇に及んだことは,前記1(4)イ(ウ)で述べたとおりである。

その後の原告らとの交渉の経緯についても,前記争いのない事実等,証拠(甲9ないし17,18の1・2,19ないし35,36の1,37の1・2,38,39ないし44の各1・2,45,46・47の各1・2,48,49,乙21,証人P6)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 被告会社は,本件解雇を行った際,関西支店の会議室で説明会を開き,被告会社がMD業務をASPに業務委託することと,あくまで本件解雇を前提として,原告らがASPに移行する場合,委託先のASPの概要,ASPに採用されるまでの手続,前記1(4)イ(イ)cで述べたとおりのASPと締結する業務委託契約の内容とそれによって得られる収入,社会保険の有無などを説明し,被告会社からの雇用契約終了の通知書や退職届のひな形を原告らに交付した。

(イ) 原告らは,本件解雇を受けて,平成15年6月2日ころ,全国一般労働組合大阪府本部(以下「組合」という。)に加入して分会を結成し,被告会社に対し,同日,労働組合公然化の通告及び2週間以内に団体交渉を行うよう申入れを行ったが,被告会社は,同月20日付け文書により,同月27日に団体交渉をする旨申し入れる一方で,団体交渉する前の同月24日付けで本件雇止めを行った。

被告会社と組合及び分会は,同月27日及び同年7月4日,団体交渉を行ったものの,被告会社は,あくまで本件解雇を前提に,原告らに対し,ASPとの委託契約の締結を要請し,組合から,同年7月17日付け及び同月18日付けで,本件解雇を撤回しなければ団体交渉を再開できない旨の申入れを受けたが,解雇の意思表示を撤回することを拒絶した。

以上によれば,被告会社は,本件雇止めをする前に,本件業務委託の実施と原告らがASPに移行した場合の内容について一応は説明しているものの,それはあくまでも本件解雇を前提としているのであって,一貫して本件解雇の撤回を拒否していることからすれば,被告会社の対応は,妥協の余地のないものであって,実質的な協議とは到底評価できないものである。

オ 以上によれば,本件雇止めについても,被告会社が本件業務委託の対象を関西支社とした点の合理性について判断するまでもなく,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することはできず,権利の濫用として無効であるというべきであるから,原告らと被告会社との間には,期間満了後においても従前の雇用契約が更新されたのと同様な法律関係が生じているものといわなければならない。

3  毎月の賃金額並びに特別手当の支払義務の存否及びその内容(争点(3))について

(1)  原告らの賃金は時給により定められていたところ,前記第2の1(2)ウのとおり,原告らの勤務時間は1日7時間であり,年間の所定勤務日数は平成14年及び平成15年においていずれも年間242日と定められていたこと,自動車の借り上げ代及びガソリン代,ファクシミリ代並びに携帯電話代は,現実に勤務したことを前提として支払われるべきものであることからすれば,原告らは,一月当たり,各原告の本件解雇時の時給額(最終の更新後の時給額)に一月の平均所定労働時間を乗じた金額を得ることができるものと推認するのが合理的であり,これを超える額については理由がない。

したがって,原告らは,それぞれ,被告会社に対し,同額の賃金の支払を求めることができるというべきであり,その金額は,別紙1の「予備的主張額」欄記載のとおりである。

(計算式)最終の更新後の時給額×7(時間)×242(日)×1/12なお,原告P4については,本件訴えにおいて,12万5580円を請求しているので,その限度で認容することとする。

(2)  証拠(甲53の1・4・5・8ないし11,原告P1本人)及び弁論の全趣旨によれば,ネスレマッキントッシュの担当者は,原告P1に対し,最初の雇用契約を締結する際,毎年6月と12月にそれぞれ1か月分の賃金額くらいの賞与が支給される旨説明したこと,実際にも,被告会社らは,本件各契約に基づき,原告らに対し,平成15年6月まで,毎年6月及び12月に,特別手当として,おおむねそれぞれの1か月分の賃金額と同程度の額を支払っており,平成14年12月10日と平成15年6月10日には下記の金額を支払ったことが認められる。

ア 原告P1に対し,平成14年12月10日に14万9000円,平成15年6月10日に15万9000円

イ 原告P2に対し,いずれも20万3000円

ウ 原告P3に対し,平成14年12月10日に16万7000円,平成15年6月10日に15万8000円

エ 原告P4に対し,平成14年12月10日に13万7000円,平成15年6月10日に13万1000円

オ 原告P5に対し,平成14年12月10日に3万円,平成15年6月10日に12万4000円

以上によれば,被告会社らは,原告らMDに対しては特段の事情のない限り賞与として毎年6月と12月に1か月分の賃金額を支給することとしていたものと認められるところ,本件において,原告らに特段の事情は認められないから,原告らは,それぞれ,少なくとも,前記(1)により請求することができる1月分の賃金相当額(平成14年12月又は平成15年6月に原告らに特別手当として支払われた金額がそれよりも低い額の場合はその金額)を特別手当として請求することができるというべきである(ただし,原告P5については,平成14年12月の特別手当は同年9月の入社から間がなく,特段の事情があるから,平成15年6月の特別手当のみを考慮の対象とする。)。

そうすると,被告会社は,原告らに対し,それぞれ,特別手当として別紙2の「認容額」欄記載の金額を支払う義務があるといわなければならない。

なお,原告P3については,15万8000円となるが,同原告は,前記第1の2(2)のとおり,本件訴えにおいて15万1797円を請求しているので,その限度で認容することとする。

4  本件解雇等の違法性,故意・過失及び損害の有無並びに損害額(争点(4))について原告らは,被告会社に対し,賃金として前記3(1)及び(2)の各賃金の請求権を有するところ,本件において,原告らに金員の支払をもって慰謝すべき精神的損害が生じたことを認めるに足りる証拠は存しない。

したがって,原告らの請求のうち慰謝料の支払を求める部分は排斥を免れない。

5  結論

以上の次第で,原告らの本件請求は,主文第1項ないし第3項の限度で理由があるが,その余は理由がない。

(裁判長裁判官 小佐田潔 裁判官 中垣内健治 裁判官 朝倉亮子)

別紙1

毎月の賃金

原告名

請求額(主位的主張額)

予備的主張額

認容額

原告P1

16万5247円

15万8106円

15万8106円

原告P2

19万2617円

17万9281円

17万9281円

原告P3

18万4167円

17万6458円

17万6458円

原告P4

12万5580円

14万6107円

12万5580円

原告P5

14万4387円

13万8343円

13万8343円

別紙2

特別手当

原告名

請求額

認容額

原告P1

14万9000円

14万9000円

原告P2

20万3000円

17万9281円

原告P3

15万1797円

15万1797円

原告P4

13万7000円

13万1000円

原告P5

12万4000円

12万4000円

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